再生農業体験からプロジェクト学習の単元開発へ
富田 英司 1) ,彼末 七海 2) ,ティモシー ジョーンズ 3)
千絵 ジョーンズ 3) ,河野 極 1) ,向 平和 1)
1)愛媛大学教育学部 2)尾道市立高須小学校 3)グラッドニー牧場
From Regenerative Farming Experience to Development of Project Learning Unit
Eiji T omida 1) , Nanami K anosue 2) , Timothy J ones 3)
Chie J ones 3) , Kiwame K ono 1) , Heiwa m uKo 1)
1)Faculty of Education, Ehime University 2)Takasu Elementary School, Onomichi 3)Gladney Farm, Kuromatsunai
1.本研究の背景
本研究は,愛媛大学教育学部で実施している国際短期交 流プログラムの実践記録とその効果に関する評価を,事例 研究として試みた実践研究である。愛媛大学教育学部では,
教員養成課程の学生を主な対象として,バラエティ豊富な 短期国際交流プログラムを用意している。本研究が関係 するのは,2012 年度より学生交流をおこなっている米国 のルイジアナ大学モンロー校(University of Louisiana at Monroe, ULM)への短期国際交流プログラムである(富田・
白松・池野・隅田・向・鴛原,2014)。本研究が検討の対 象としているのは,以下に説明するように,2016 年より ULM に滞在した後の文化視察として毎年立ち寄ることが 恒例になったグラッドニー牧場(Gladney Ranch)である。
第1筆者と第5筆者は,2014 年度,オクラホマ州とテ キサス州にまたがる土地でグラッドニー牧場を当時経営し ていた第3筆者及び第4筆者と 2014 年度より交流を開始 した。この交流は,当初は,牧場体験を中心にした文化視 察から始まりながらも,徐々に同牧場が展開する再生農業 に関する体験学習プログラムへと発展してきた。
グラッドニー牧場との交流が始まったのは,このプログ
ラム運営に携わってきた第5筆者(愛媛大学教育学部特命 准教授,当時)と第3筆者との縁によるものである。両者 の出会いは,2005 年から 2007 年までの3年間,フルブラ イトメモリアル基金のマスターティーチャープログラムへ の参加を契機としてる。当時,高等学校の教員であった両 者は,BUGS (Biodiversity Understanding Global Systems)
& Soil というプロジェクトに参加していた。両者が教える 高校は,それぞれこのプロジェクトに参加していたものの,
直接の交流校という訳ではなかった。しかしながら,スカ イプ等を通しての交流に加えて,年に1回,アメリカ側参 加校の関係教員が日本に一堂に会する機会に,第3筆者と 第5筆者は直接知り合い,個人的な繋がりができた。その 後,2011 年には,ジョン万次郎ホイットフィールド記念 国際草の根交流センター主催の 2011 年の日米草の根交流 サミット大会が高知県で開催されることになり,第3筆者 が参加することを聞きつけた第5筆者が,隣の愛媛県から 駆けつけるという出来事もあった。
同年3月は,東日本大震災が起こった年でもある。第3 筆者はマスターティーチャープログラムで交流のあった気 仙沼などを始めとして,復興支援ボランティアのために 度々来日していたことから,第5筆者も当時の勤務先の愛
媛大学附属高校の生徒らとともに遠隔で復興を応援する取 り組み等を通して交流が続いていた。
その後,第5筆者は高校教員を定年退職後,愛媛大学教 育学部の特命准教授として着任し,ULM との学生交流に 携わるようになった。愛媛大学一行が ULM へ移動するた めに利用していたのがダラス・フォートワース国際空港で あり,第3・4筆者の自宅のあったテキサス州ゲインズ ビルからは車で約1時間の距離であった。そこで,2015 年2月の学生交流実施時,愛媛大学一行が訪れたダラス・
フォートワース国際空港にて,第3・4筆者と食事をする 機会を持った。これが,グラッドニー牧場と愛媛大学教 育学部の最初の交流であった。その次の年の 2016 年より 2019 年までの毎年3月,ULM での短期交流を終えたあと,
一週間程度,グラッドニー牧場と第3・4筆者の自宅に滞 在することが恒例となった。
2.本研究のねらい
本研究は,愛媛大学教育学部が短期国際交流プログラム の文化視察としておこなっていた再生農業体験プログラム について,主に①プログラムの実践内容を記録すること,
②プログラムの効果に関する実践エビデンスを事例研究と して示すこと,という2つのねらいを持っている。
本研究では,再生農業体験プログラムをその内部だけで 評価するというよりも,その前後の経験の繋がりという観 点から,長期的にプログラムの影響を質的に評価すること を試みている。国際交流プログラムは,短期であっても,
正課の講義や演習とは質の異なる大きな影響を参加学生に 及ぼす(例えば Hamel, Chikamori, Ono & Williams, 2010;
真野, 2020)。時にその影響は,参加学生の生き方の方向 性を大きく変えてしまうこともあるだろう。ただし,その 影響の受け方は同じプログラムであっても,参加学生一人 ひとりの背景や特性によって大きく異なるし,影響の現れ るタイミングも大きく異なるものだと考えられる。そのた め,本研究が主な報告の対象とするのは,参加者全員では なく,第1筆者が卒業研究を指導していた第2筆者 1 名の 実践過程である。第2筆者は,第8節にも述べるように,
再生農業体験に参加する以前より,災害支援ボランティア の経験から,土壌を含む環境の問題に興味を持っていたこ とやプロジェクト型の教育方法に関心を持っていたことか ら,愛媛大学在学中に,再生農業体験で学んだことを,卒 業研究の一部として実践した授業づくりへと活かすことが できた。このようなことから,本研究は,わずか1名のみ ではあるが,短期国際交流で得た経験がその後の具体的な 活動にどのように繋がっていくことになったかを事例とし て残すことができた。
なお,今回の研究では検討の対象とすることができな かった他の参加者についても,それぞれ違う形で学びを次
の展開へと繋げている。ある学生はこの後米国での教職イ ンターンシップ受け入れ先を自らで探して渡米し,またあ る学生は他の国際交流プログラムに参加した。またある学 生は,ULM への短期滞在をきっかけとして,英語教育学 の副免許習得に取り組み始めた。
本論文の第6節及び第7節は,第2筆者が第1筆者の指 導を受けながら進めた卒業研究の一部を大幅に加筆修正し て紹介したものである。この箇所は,第2筆者が自らの研 究を通して発見したことを主張するために記述されたもの ではなく,むしろ第2筆者がそれに先立つ再生農業プログ ラムへの参加を通して得た刺激を活かして,卒業研究へと 発展的に繋げていったことを示す例証として記述されたも のである。
3.再生農業体験の内容
本稿が報告するプログラムは,2019 年3月にオクラホ マ州とテキサス州にまたがるグラッドニー牧場及びノーブ
ル研究所(Noble Research Institute)で実施された再生 農業と土壌に関する体験学習プログラムについて報告をお こなった。グラッドニー牧場は,第3・4筆者によって経 営される肉牛のための広大な牧場であり,近年ノーブル研 究所のコンサルティングを受けて,再生農業に取り組んで いる。このプログラムは,ルイジアナ大学モンロー校でお こなわれている教育文化視察プログラムの一部として,モ ンローでの学校訪問や大学での交流事業が終わったあとに 実施された。参加者は2回生1名と3回生3名の計4名の 教育学部生(初等教育コース小学校サブコース)であり,
全員女性であった。
再生農業は,Robert Rodale 氏が使いだした用語である と言われており(U. S. Department of Agriculture, 2017),
しばしば持続可能な農業と比較して説明される。持続可能 という概念は現在取り組んでいることがこれからも継続で きるようにしていくことに力点が置かれた概念であるのに 対し,再生という概念は動植物にとって生態学的に望まし い環境を積極的に再度生み出していくということに力点が 置かれている。具体的には,典型的な再生農業では,①農 地を耕さない,②土壌そのものを大気に露出させないでカ バークロップと呼ばれる植物の植生で覆う,③除草剤を始 めとした化学薬品を利用しない,④牧草に多様性をもたせ る,⑤計画的にローテションを組んで放牧させる,といっ た特徴を備えている(Newton, Civita, Frankel-Goldwater, Bartel & Johns, 2020)。
プログラムは4日間に渡っておこなわれた。グラッド ニー牧場での子牛の世話(授乳と清掃)は毎日おこなわれ た。1日目は,テキサス州にあるディクソン水基金(Dixon Water Foundation)へ訪問し,植生と水の利用,計画放 牧に関する実地研修をおこなった。2日目は,オクラホマ
州のノーブル研究所へ訪問し,再生農業に関する研究所の 取り組みについて2名の研究員が講義をおこない,その聴 講後に質疑応答の時間が設けられた。その後,研究農場 にて講義で扱った植生等について現地視察した。3日目 は,ネイティブ・アメリカンであるチカソー族の文化と歴 史を紹介するチカソー文化センター(Chickasaw Cultural Center)を訪れた。4日目は,グラッドニー牧場にある 除草剤を利用した区画とそうでない区画において,土壌の 吸水性と濾過機能の比較検討をおこなった。
4.再生農業プログラムの評価
プログラムの評価は,プログラム参加の事前及び事後に おこなった自由記述によるアンケートを用いておこなわれ た。アンケートには次の質問が含まれていた。
① 「生物多様性1」には多くの意味がありますが,最も基 本的には「多様な生物が存在している状態」のことを指 します。牧場における生物多様性とはどのような状態を 指していると思いますか。
② 生物多様性が確保された牧場で育つことによって,牛 たちにはどんな影響があると思いますか。
③ 牧場の生物多様性を確保するために,農家はどのよう な工夫ができると思いますか。
④ 生物多様性を大事にしながら牧場を営むことは地球環 境にどのような影響を与えると思いますか。
⑤ 人間を含む多くの生物が生き残れる環境を確保するた めに,今後,あなたにはどのようなことができると思い ますか。
以上のアンケートによって得られた回答を集約したの が,表1である。集約にあたっては,まず個人ごとの得ら れた自由回答の内容を,まとまりごとに分割し,問いごと に表1の「回答の内容」に示したようなカテゴリーに集約 した。その後,個々の回答者がどのカテゴリーに該当する 回答をおこなっているか判断した。今回は,上記の問いの うち,①,③,⑤について表1にまとめた。なお,表1中 の A 〜 D は今回再生農業プログラムに参加した4名の学 生を示している。
以上の質問への回答の傾向から分かったことは,回答の 内容の変化には回答の内容が豊富になっていくパターン と,回答内容が新しいものに置き換わっていくパターンの 2種類があるということであった。
内容の豊富化に関する例では,①の牧場における生物の 多様性に関する定義に対する質問について,プログラムの
参加以前はそれぞれの学生が,「野生の生物がいること」,
「土壌に生物がいること」,「様々な動物や植物が育つこと」,
「有機体同士の互恵的な関係」といった要素を1つないし 2つ挙げていた。プログラム参加後,参加者の回答は,こ れらの要素を全てもしくはほとんど取り挙げたものとなっ ていた。
他方,回答内容の置き換わりの例としては,③生物の多 様性を確保するために農家ができることは何かという質問 に対して,参加学生は当初,「牛以外の動物を育てること」
「殺虫剤を使わないこと」「健康な牧草を育てること」「牛 以外の動物を殺さないこと」をそれぞれ挙げていた。それ に対して,プログラム参加後には,「自然志向の牧草地経営」
「計画放牧」「多様な植生」「自然との共生における目標設定」
等,研修の中で得た専門的な知識を取り上げており,素朴 な日常的知識が科学的な知識へと置き換わっていることが 明らかになった。
これらの回答の変化は,この取り組みによって参加学生 の生物多様性や土壌の役割,再生農業といった重要概念の 理解の深まりを示している。
以上の結果は,プログラム参加直後にみられた学びの成 果であると言える。次節では,その参加で学んだことをそ の後の学生生活での展開にどのように第2筆者が活かして いったかを記述する。
1生物多様性(biodiversity, biological diversity)は E. O. Wilson の造語であり,種,個体,生態系など,すべての生物学的レベルで見 られる多様性の総称を示す言葉として規定されている。1992 年にリオデジャネイロで採択された生物多様性条約(生物の多様性に関 する条約:Convention on Biological Diversity(CBD))では,2018 年 12 月現在,194 カ国,欧州連合(EU)及びパレスチナが締結 していることもよく取り扱われる。
表1 再生農業プログラム参加者の回答の変化
5.再生農業プログラムから授業づくりへ
第2筆者は,プログラム参加以前よりプロジェクト学習 の実践に興味を持っていた。その後,再生農業プログラム に参加することで,土壌を卒業研究のテーマとして扱うこ とになった。卒業研究では,児童を対象にした学習プログ ラムの設計をおこなう方向性は決まっていたものの,その ための専門的な知識が不足している状態であった。そこで,
第2筆者は,第6筆者が教える「環境教育実践演習」に参 加した。この授業ではアメリカで開発された「プロジェ クト WET」(Project Water Education Today)を取り上 げられている。「プロジェクト WET」は体験学習法で構 成された水環境について学ぶ環境教育についての教材であ り,ワークショップ型の講習会を受講することで一般指導 者の資格とともにテキストが入手できる。本テキストでは 水循環,水質,河川,流域,地下水,水の物理的性質,水 生生物,水の利用,水の管理など,多くの水に関するテー マが扱われており,水の利用や水の管理に関する内容にお いて農業に関連するアクティビティが多く存在している。
本教材も参考に実践内容について検討している。この受講 に加えて,第6筆者は断続的に第2筆者へ専門的知見の提 供をおこなった。
実践研究の場として選ばれたのは,「愛媛大学放課後学 習教室」であった。「愛媛大学放課後学習教室」は,愛媛 大学教育学部が事業主として進めている地域連携実習の1 つである。当教室は,愛媛大学城北キャンパス近隣の小学 生を対象に,放課後の時間を使って,無料の学習機会を提 供している。平成 30 年度の後半には,それぞれ 10 人程度 の児童定員を持つ算数コース,作文コース,読み物コース,
外国語コースという4つのコースが設定され,週に一度程 度それぞれ年間を通して開催された。コースは,それぞれ が5〜8人程度の教育学部生からなるグループによって運 営され,リーダー学生を中心に毎週持ち回りで学生が授業 を担当している。
再生農業プログラムで第2筆者が体験したことをそのま ま放課後学習教室のコースとして実施することは難しいた め,理科教育を専門とする第6筆者に相談しながら,植物 を育てる活動を中心にした学習環境づくりを検討すること にした。学習プログラムは,2019 年夏休みと 2019 年 2 学 期の2回にわたってプロジェクト学習として実施された。
6.2019 年夏休みの放課後学習学習
夏休みには,3年生から6年生までの 10 名の児童とと もに水耕栽培でリーフレタスを栽培した。この 10 名を3 つのグループに分け,より大きなリーフレタスを育てるた めに,条件を工夫して考え,栽培を進めた。その際,毎回 活動の内容を振り返るために,活動の最後に振り返りシー
トを記入してもらった。また,活動内で配るワークシート や振り返りシートには,児童が疑問に思ったことを自由に 書くことのできるスペースを与え,疑問やリクエストの数 に応じて,どれほど活動に興味関心を持って取り組んでい るかということを考察した。データは,ビデオや IC レコー ダーでの記録とともに,ワークシートや振り返りシートの 記述を活用した。授業展開は表2に示した通りであり,週 2回の開催で 5 週間にわたって実施した。
この活動では,支援学生が作成したセンサを使って,光 と温度のデータを取り,その結果をみながら最も植物が成 長する条件を明らかにする取り組みを進めていて,ある程 度子どもたちの興味関心を引き出すことができた。しか し,週2回のみの活動に来た時のみの観察だったことや水 換えや活動前後の野菜の移動を支援生がおこなっていたこ ともあり,児童が自分で野菜を育てているという実感を得 にくかった。育てているリーフレタスが枯れてしまったり,
育っているように感じられなかったりした時に,「先生の せいだ」という声も聞かれた。これは学びが主体的になっ ていない証左であり,改善が必要であった。そこで2学期 も引き続き植物を育てる活動をおこない,育てたい野菜を 家庭でも育てさせる,活動の初めに毎回水やりをおこなう といった改善をおこなうことにした。
表2 夏休みの活動内容
回 活動内容
1 条件設定 2 センサの説明 3 初めての成長観察
4 間引き・観察(スケッチ)
5 観察(スケッチ)・検証実験の準備 6 観察(スケッチ)・検証実験・考察 7 間引き・観察(スケッチ)
8 収穫・試食 9 結果確認・考察 10 まとめ新聞づくり
7.2019 年度 2 学期の放課後学習教室
2学期は,継続して活動に取り組んだ2名に,新規で参 加した 2 名を加え,計4名の児童で活動を進めた。夏休み の反省点を活かし,児童がより興味を持って活動に参加で きるような手立てを考え,実行した。
10 月 16 日から 12 月 18 日までの毎週水曜日の放課後に 1時間,児童を集めて全 10 回活動をおこなった,夏休み の活動の評価をもとに,目的は,「STEAM 教育の視点を 持ったプロジェクト学習において,子どもたちが野菜作り を通して主体的に活動すること」とし,学習到達目標は以 下の3点とした。
① 自然と関わり,植物の観察や実験を通して,植物の構 造や生態を知った上で野菜を育てることができる(知識 及び技能)
② 野菜を育てる中で,データなどの分析から仮説を立て,
疑問解決のための手立てを考えることができる。そして,
そのサイクルを繰り返すことで,主体的に問題解決をし ていく力を育てる(思考力,判断力,表現力等)
③ それぞの児童が調べたり,考えたりしたことを共有し,
議論することができる(学びに向かう力,人間性等)
そして支援学生の目標として,「それぞれの児童が検証 したいテーマで,主体的に野菜を育てることができること をサポートする」ということを目指した。
表3は,2学期におこなった活動の概要である,表 2 の 内容を踏まえて,教室の野菜づくりでは,個人作業になる ことも増えるということもあり,アイスブレイクや野菜を 育てる上で必要な知識をゲームや,実験によって,協力し ながら活動できる環境を作った。そうすることで,児童同 士がお互いを知って仲を深めることができるだろうと考え た。また,活動の中で水やりをしたり,家庭でも野菜を育 てたりして,自分が育てている実感を持てることで,活動 にもより主体的に参加できることを期待した。
ビデオや IC レコーダーでの記録とともに,ワークシー トや振り返りシートを引き続きデータとして活用した。さ
らに,支援生から児童の行動の様子を見て記録する行動観 察シート,また2学期の全活動終了後に保護者アンケート を実施し,児童の変化の様子や,家庭での野菜づくりに対 する児童の様子を確認した。
表3 2学期の活動内容
回 活動内容
1 アイスブレイク・条件決め 2 種植え・土の並び替えゲーム
3 間引き・観察(スケッチ)・土の吸水実験 4 土の排水実験・どこを食べるかなゲーム・観察
(スケッチ)
5 スケッチのやり方の学習・観察(スケッチ)
6 葉のつき方の学習・観察(スケッチ)
7 観察(スケッチ)・水の通り道と葉脈学習 8 観察(スケッチ)・折れ線グラフづくり 9 収穫・試食
10 まとめ発表会
2学期に実施したプログラムの評価は,個別にどのよう な活動が内発的動機づけ2に繋がったかという観点で実施 された。内発的動機づけに繋がる取り組みを明らかにしよ うとしたのは,この活動が理科に関係するような知識・理 解をねらったものではなく,植物が育つ過程における土壌
2内発的動機づけとは,報酬によって動機づけられるのではなく,当該の活動へ参加すること自体に動機づけられている程度を示す心 理学用語である。当該の活動に参加することに対して,取り組みや成果への報酬あるいはそれに関連する別の目的があることによっ て動機づけられることを外発的動機づけという。内発的動機づけは,学習内容への理解や活動への継続的な取り組みを促進する一方,
外発的動機づけはそれらを短期的には促進することもあるが,長期的には抑制することが知られている。
図1 児童 A の内発的に動機づけられた行動と関連する手立て
の役割を始めとした,児童の身の回りの環境に興味を持っ てもらい,探究的にものごとを考え,調べることができる ようになってもらうことをねらったものだからである。
図1は,児童 A の内発的に動機づけられた行動とそれ に影響していると考えられる手立てを整理したものであ る。これまで見られなかった行動を大きな変化(◎)とし,
これまでも見られそうだが見られていなかった行動を小さ な変化(・)とした。
図1によると,児童 A への動機づけに繋がったと解釈 される◎がついた出来事は,土づくりにおけるメモや挙手,
葉の付き方のモデルを用いた学習,植物の成長過程のグラ フ化,試食であった。
図2によると,児童 B への動機づけに繋がったと解釈 される出来事は,土づくりにおける行動,植物の成長過程 の観察,葉脈の観察であった。
図3によると,児童 C への動機づけに繋がったと解釈 される出来事は,土づくり,葉脈や根の生え方の観察,カ ルシウムの役割に関する調べ学習,であった。
最後に,図4によると,児童 D への動機づけに繋がっ たと解釈される出来事は,LED ライトの実験条件の設定,
葉脈等の観察,植物の成長過程のグラフ化,家庭での野菜 づくりであった。そのほか,児童については,自らの手で おこないたいという自律性への要求が特徴的であった。
児童によって,何が内発的動機づけを刺激したかは,そ れぞれ違っていたが,「土づくり」「モデルを用いた葉の付 き方の学習」「家庭での野菜づくり」「葉脈や根などの観察」
「観察結果のグラフ化やまとめ」については,それぞれ3 名以上が,内発的動機づけの高まりを示唆する言動を見せ た。
「土づくり」は,夏休みにはなかったが2学期に取り入 れられた活動である。土の特徴を知り,自分で配合を選択 してから,実際にその通りに土を作り,その土に植物を植 えたり,水はけの程度を試したりした。この活動は,おそ らく多くの場合には言われた通りの順序や量で土を作って 植物を植えることの多い児童にとって,土の種類の意味を 学び,そこから推論し,自分が考えたことが正しかったか どうかを確かめる自律的探究の特性を備えていることで,
内発的動機づけが促進されたのではないかと考えられる。
「モデルを用いた葉の付き方の学習」についても,児童 が茎と葉っぱを模したモデルを自分で操作しながら,取り 組めたことが内発的動機づけに繋がったのではないかと考 えられる。
「家庭での野菜づくり」は,夏休みの活動において児童 が植物を自分で育てている実感を持てなかった点を克服す るために,2学期の活動より,内発的動機づけを促進する ために導入された。この取り組みが効果的であった理由と して,家庭の野菜づくりに関する会話が,教室で育てるリー フレタスに目を向ける機会となり,どの児童も一度も休む ことなく全ての活動に参加してくれるきっかけにもなって いたのではないかと考えられる。
「葉脈や根などの観察」「観察結果のグラフ化やまとめ」
では,児童の観察記録のワークシートの様子から,スケッ 図2 児童 B の内発的に動機づけられた行動と関連する手立て
チの方法の学習をすることや,新たな視点の提案をできた ことが,帯活動であった「観察・スケッチ」の時間を,児 童が面倒に感じてしまうことなく,有意義に過ごすことが できたと考える。実際に観察した様子を「折れ線グラフの 作成」の過程で,グラフに表すことで,写真やスケッチだ けでなく数値的に成長の様子を確認することができる。そ こから,リーフレタスの成長の特徴を発見したり,自分の 4つのリーフレタスの葉の大きさの成長の違いを見たりす
ることができた。このような発見を促す過程が内発的動機 づけに繋がったのではないかと推察される。
以上の通り,第5節から本節までに渡って,第2筆者が 再生農業プロジェクトにて得られた土や植生に関する学び を,その参加以前から興味を持っていたプロジェクト型の 教育手法に取り込み,それを夏休みから後学期にかけて他 の学生や教員の協力を得ながら,卒業研究としてまとめて いった過程を示した。この過程は,国際交流プログラムで 図3 児童 C の内発的に動機づけられた行動と関連する手立て
図4 児童 D の内発的に動機づけられた行動と関連する手立て
の体験がその後の学びへとどのように発展したかを例証す るものであると言える。次の節では,第2筆者の在学中の 学びがその後,学校教諭として就職した後にどのようにつ ながっているか,本論文執筆時点で,振りかえる。
8.教師としての教育実践への影響
現在,尾道市において教諭として勤めている第2筆者 は,再生農業体験で得られたことが現在の授業づくり等に も活かされていると感じている。第2筆者は,平成 26 年 8月に広島土砂災害の復旧に災害ボランティアとして参加 し,被害を目の当たりにして衝撃を受けたことから,現場 のフィールドワークで事実を知ることの重要さを認識して いた。また,大学3年生前期から SDGs を大学の授業で学 び始めていたことから,これからの未来を担う子どもたち に自分が経験した災害復旧のことや持続可能な社会を作っ ていくことの重要性を知った上で,それぞれができること を実践してほしいと思っていた。これらの先行経験に加わ るかたちで,その後3年生後学期の終わりにグラッドニー 牧場での再生農業体験に参加した。この体験では,地球の 危機と土壌との関係を知ることができ,誰もが学ぶべき内 容だと感じていた。そして現在は小学校教諭として,小学 校の家庭科の授業に SDGs を取り込むための計画を進めて おり,大学の研究者に企画書を送って助言を得るなど,積 極的な展開を進めている。このように時系列的に異なるポ イントで得た経験をつなぐかたちで学びが展開している中 で,再生農業体験が現在の職業にも影響を与えていること が見て取れる。言い方を変えれば,第2筆者の在学中から 現在までに至る関心の深化と職業人としての展開は,再生 農業体験やその後の大学でのプロジェクト実践によっての み引き起こされたものではないとも言える。それぞれの経 験や学びが重要なポイントとして相互に繋がり,1つの行 動展開の流れを形成していく中で,事後的に1つ1つの体 験の学びの意味が浮かび上がってくると考えられる。
9.まとめ
本研究は,愛媛大学教育学部の学生が,国際交流プログ ラムの一部として実施された再生農業体験で学んだことを 活かして,小学校児童を対象とした授業実践へと繋げてい く一連のプロセスを追ったものである。ともすると国際交 流は,学生の個人的な思い出として深い印象を残すものの,
その後の大学生活や職業人としての展開にどう繋がってい くのか評価するのが難しいが,本研究で取りあげたケース では,海外で体験したことの効果が数年間のスパンで明確 に見えていると考えられる。このようにその後の展開へと 繋がっていくことができた要因について,ここで考察して おきたい。
事前要因 第2筆者の場合には,SDGs 教育や土砂災害,
そして国際交流やプロジェクト学習に関する高い関心がも ともとあったことが挙げられる。卒業研究を指導するゼミ 選択においても,それらの興味のいくつかに関連する活動 を推進する研究室を選択している。さらに,所属研究室に とどまらず,SDGs 教育や国際交流,部活動といった自ら の興味関心に関係する大学内外の関係者に自分の関心を話 すことを通して様々な関連した機会に参加したり,人的交 流資源の幅を広げ続けていたことが1つの機会を次の機会 へと繋げていく過程を促進したと考えられる。
事後要因 教育学部主催で実施している「愛媛大学放課 後学習教室」において,再生農業体験で得たことそのまま ではないにしろ,同様の方向性で,水や土壌のことを学ぶ 探究的な学びの場を他の学生と共同で実践したことが,体 験を授業力へと繋げる力になっていると考えられる。なぜ なら,授業づくりをおこなう力量の背景には,子どもたち がどのような反応をするか,どのような取り組みをおこな うとそれにともなってどのようなことを準備し,どのよう な失敗に備えなければならないかといった膨大な実践知の 積み重ねが必要だからである。このような実践知を身につ けるためには,自らが反復的に実践して,改善を重ねてい くことが必要である。「愛媛大学放課後学習教室」はまさ にそのような反復的実践の場として適切であったと考えら れる。
教員養成課程は,現在様々な要請を受けて,徐々に多く の教員免許の習得が促され,正課教育のために費やす時間 で学生の生活時間が埋め尽くされるようになってきてい る。しかしながら,本研究で取りあげたような第2筆者の 探索的に拡がりをもった学びの過程を促進していくとすれ ば,履修すべき授業で学生生活を埋め尽くすのではなく,
学生が独自に活動を広げて,独自の知識や経験,知的刺激 を得て,それをきっかけとして仲間とともに地域で実践と して展開するための余裕の確保が必要であると考えられ る。
引用文献
Hamel, F. L., Chikamori, K., Ono, Y., & Williams, J. (2010). First contact: Initial responses to cultural disequilibrium in a short term teaching exchange program.
International Journal of Intercultural Relations, 34(6), 600-614.
真野毅.(2020).全員参加の短期海外研修の教育的効果:修正 版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を活 用して グローバルマネジメント, 3, 45-63.
Newton, P., Civita, N., Frankel-Goldwater, L., Bartel, K., &
Johns, C. (2020). What Is Regenerative Agriculture? A Review of Scholar and Practitioner Definitions Based on Processes and Outcomes. Frontiers in Sustainable Food Systems, 4:577723. doi: 10.3389/fsufs.2020.577723
富田英司,白松賢,池野修,隅田学,向平和,& 鴛原進 .(2014).
ルイジアナ大学モンロー校と愛媛大学の相互国際交流を通し た教員養成の実践.大学教育実践ジャーナル,12, 41-46.
U. S. Department of Agriculture (2017) AFSIC History Timeline (https://www.nal.usda.gov/afsic/afsic-history-timeline) Retrieved 2017-03-09.
謝 辞
グラッドニー牧場での再生農業体験では,グラッド ニー牧場の試みを支援しているノーブル研究所(Noble Research Institute)とディクソン水基金(Dixon Water Foundation)のご厚意により,長時間に渡る講義と実地視 察をおこなうことができた。改めてここに謝意を表します。
愛媛大学放課後学習教室の実施については,愛媛大学教 育学部・学部長をはじめ,国際交流を支えてくださってい る皆様,夏休みからの野菜づくりコースの活動に協力して くださった支援学生の原田成太郎さん,玉井雄太さん,松 岡健太郎さん,田中瑛美さん,畠田彩美さん,吉田希さん,
山口萌さん,栗原美歩さん,里見尚さんのご理解ご協力に 心より感謝致します。
付 記
本研究の各筆者の主な役割は次の通りである。第1筆者 は,本研究に関わる各種プログラム運営及び執筆の取りま とめ,第2筆者は愛媛大学放課後学習教室における実践研 究とその結果の集約,第3及び第4筆者はグラッドニー牧 場における体験プログラムの作成とその評価,第5筆者は 国際交流プログラムの設計と学生指導,第6筆者は愛媛大 学放課後学習教室における授業設計における助言と理科教 育学の観点からの本文への加筆をそれぞれ担当した。
現在,第 3 及び第 4 筆者は,北海道寿都郡黒松内町に拠 点を移し,グラッドニー牧場(Gladney Farm)として再 生農業に取り組んでいる。
本研究の一部は,香港でおこなわれた国際学会 The First Ocean Park International STEAM Education Conference 2019(2019 年 6 月 21–22 日)及び第2筆者の 卒業研究(野菜づくりのプロジェクト学習における動機づ けのアセスメント)として発表された。この学会参加につ いては,愛媛大学教育学部の学部長裁量経費による支援を 受けた。
また本研究の一部は,平成 28–31 年度科研費・基盤研 究 C「大学生のコミュニケーション力を向上させる省察の デザイン」(16K04303,代表 : 富田英司)の支援を受けて 実施された。