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博士学位申請論文内容の要旨

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Academic year: 2022

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全文

(1)

後藤

ご と う

しょう

太朗

た ろ う

学 位 の 種 類

博士(薬学)

甲第 1878 号

学位授与の日付

令和 3 年 3 月 16 日

学位授与の要件

学位規則第 4 条第 1 項該当(課程博士)

学 位 論 文 題 目

皮膚送達剤を目的としたキノン型ビタミン K の光不安定性およ び光毒性を克服できる活性型ビタミン K エステル型プロドラッ グに関する研究

論 文 審 査 委 員 (主 査)

福岡大学 教授 加留部 善晴

(副 査)

福岡大学 教授 高田 二郎 福岡大学 教授 松永 和久 福岡大学 准教授 松尾 宏一

内 容 の 要 旨

[背景]

ビタミンK (VK) の皮膚適用は,EGFR阻害剤セツキシマブの副作用であるざ瘡様発疹

の予防,創傷治癒促進, レーザー治療後の色素沈着抑制などの有益な効果が期待されてい る.しかし,VKは光安定性が低く,遮光困難な皮膚への適用は強く制限される.さら に,VKの光分解過程では,VK構造中のキノンと側鎖の二重結合において, 一重項酸素 やラジカルを生成し,生体組織に対して光毒性を引き起こす可能性がある.欧州では,

VK1 (フィロキノン, PK) の化粧品への使用が禁止された経緯があり,その根拠の一つに 培養皮膚細胞に対する光毒性が示されている.

VKは細胞内で活性体であるVKヒドロキノン (VKH) へ還元され,VK依存性タンパク 質 (VKDP) を前駆体から活性体へ変換 (翻訳後修飾) するγ-グルタミルカルボキシラー ゼ (GGCX) の補因子として機能したのち, VKエポキシド (VKO) へ酸化される.VKO はさらにVKへ還元されVKサイクルを形成している.したがってVKの効率的な効果 発現には,標的部位へ十分なVKHを送達することが必要となる.しかし,上述のように VKは光安定性が低いため, 露光下では十分なVKH送達性が得られず,さらには光毒性 が懸念される.

本研究室では, PKの活性体であるフィロヒドロキノン (PKH) のエステル型誘導体, PKH-1,4-bis-N,N-dimethylglycinate hydrochloride (PKH-DMG), PKH-1,4-bis-hemi-succinate (PKH-SUC) およびVK2 (メナキノン-4, MK-4) の活性体であるメナヒドロキノン-4 (MKH) のエステル型誘導体, MKH-1, 4-bis-N,N-dimethylglycinate hydrochloride (MKH-DMG), MKH- 1,4-bis-hemi-succinate (MKH-SUC) を開発しており, キノン型VKとは異なる経路でVKH を細胞内へ送達するよう設計されている (Fig. 1). これらの化合物は, 構造中にキノンを 有しないため, 光曝露後のラジカル生成反応に発展しなければ, VKの光不安定性と光毒 性を克服できる可能性があると考えた.

(2)

そこで本研究では, VKH誘導体の皮膚外用剤としての有用性を明らかにすることを目的 に, キノン型VKとVKH誘導体の光安定性, 光毒性, および皮膚細胞へのVKH送達性を 評価した.

第一に, キノン型VKとVKH誘導体の光安定性を擬似太陽光照射装置および多波長照 射機を用いて評価し, キノン型VKと比較して, VKH誘導体が光に対して安定であること を明らかにした. 第二に, キノン型VKはUVA照射により, 一重項酸素の生成や表皮角化 細胞内での濃度依存的なROS量の増加, それに続く細胞死を引き起こすことを示した. その一方で, VKH誘導体は, UVA照射による一重項酸素の生成, 細胞内ROS量の増加お よび細胞死を示さなかった. 第三に, キノン型ビタミンKとVKH誘導体の表皮角化細胞 内に対する細胞内取り込みとVKH送達性 (再変換性) を評価し, VKH誘導体は, キノン 型VKと同等以上のVKH送達性を有するVKHプロドラッグとして機能することを明ら かとした.

本研究はVKH誘導体が, キノン型VKの欠点である光不安定性と光毒性を克服でき, 特 別な遮光をせずに皮膚細胞へVKHを送達できるVKHプロドラッグとして機能すること を世界で初めて示したものであり, VKH誘導体の皮膚外用剤としての有用性を強く支持 するものであった.

[結果]

1. キノン型VKVKH誘導体の光安定性

皮膚適用を想定した医薬品は, 光に曝される可能性が高く, 原薬の薬効を最大限に発揮

Fig. 1. キノン VKおよびVKH誘導体による皮膚表皮細胞へのVKH送達経路の概略図.

(3)

するためにも, 光に対する安定性の確保が極めて重要となる.そこで, VKH誘導体の皮膚 外用剤としての適用実現を目指す観点から, キノン型VKとVKH誘導体の擬似太陽光に 対する安定性と光分解の波長特性について評価を行なった.

エタノール溶液中のPK, MK-4, PKH-DMG, MKH-DMGの残存率は, 擬似太陽光照射下に おいて, 擬一次反応速度式に従って減少したが, 遮光下ではいずれも変化しなかった (Fig. 2A, B, D, E). 一方でsuccinate (SUC) を修飾基に有するPKH-SUCおよびMKH-SUC の残存率は遮光時においても擬一次反応速度式に従って減少し, 擬似太陽光照射により加 速された (Fig. 2C, F). PKH-DMGとPKH-SUCの半減期は, PKと比較しそれぞれ40倍, 4.5 倍長く, またMKH-DMGとMKH-SUCの半減期は, MK-4と比較しそれぞれ50倍, 3倍長 いことが明らかとなった.

また, 光分解の波長特性を評価したところ, キノン型VKの光分解の波長特性は, 紫外線 から可視光線域にあたる279-435 nmの範囲の単色光の全てにおいて分解を示し, 短波長 になるにつれ分解速度が増加した. 一方で, VKH誘導体は279 nmにおいて光分解し, キ ノン型VKと比較して光分解の影響を受ける波長域が狭いことが明らかとなった.

2. キノン型VKVKH誘導体の光毒性

化粧品や医薬品の原料の一部は, 光と反応し皮膚に毒性を引き起こす光毒性反応を示す 物質が存在する. 光毒性反応では, 光エネルギーの吸収によって励起された分子が起点と なり, 活性酸素種 (reactive oxygen species , ROS) やラジカルの生成を介して, DNAやタン パク質に損傷を与える. そのため, 光毒性を示す化合物であるかを検討する際, 生成する ROSを指標とすることができる. そこで, VKH誘導体の光に対する安全性を明らかにす

Fig. 2. 人工太陽光 (12000 lx) 照射によるVKおよびVKH誘導体 (エタノール中1 µM) の経時変化. (◆, ●) : 遮光あり,

(◇, ○) : 遮光なし.

A B C

D E F

(4)

るため, ROS生成を指標とした光毒性の評価を行った.

まず光照射による溶液中での一重項酸素の生成を評価した. PBS溶液中のキノン型VKに

15 J / cm2のUVAを照射すると, 陽性対照のケトプロフェンと同様にUVAエネルギーの

用量依存的な一重項酸素生成を示した. 対照的に, PBS溶液中のVKH誘導体は陰性対照 スリソベンゾンと同様にこの現象を示さなかった (Fig. 3).

次に, 光毒性の細胞への影響を検討するために, ヒト表皮角化細胞株であるHaCaT細胞 を用いて, UVAを照射したキノン型VKとVKH誘導体による細胞内ROS生成 (Fig.

4A,B) と細胞生存率を評価した (Fig. 4C, D). UVA照射によりキノン型VKは, 細胞内 ROS量が増加し, それに続く細胞毒性を示した一方で, VKH誘導体は細胞内ROS量の増 加および細胞毒性を示さなかった. 以上の結果, VKH誘導体は光毒性を有する可能性が低 いことが明らかとなった.

Fig. 3. UVA (0-15 J / cm2) 照射キノン型VKおよびVKH誘導体による一重項酸素の生成. (A) ○PK, ●PKH-DMG, ◇:

PKH-SUC, ■:ケトプロフェン (陽性対照) , □:スリソベンゾン (陰性対照). (B) ○:MK-4, ●:MKH-DMG,◇:MKH-SUC,

■:ケトプロフェン (陽性対照) , □:スリソベンゾン (陰性対照).

PK, PKH誘導体 B MK-4, MKH誘導体

A

(5)

3. キノン 型VKおよびVKH誘導体による皮膚角化細胞へのVKH送達性

VKH誘導体が皮膚由来細胞においてVKHプロドラッグとして機能するかを確認するた めに, HaCaT細胞へのVKH送達性を評価した. VKHは空気中で容易に酸化されやすく, 正確に測定することは困難である. そのため, 細胞内においてVKHがGGCXの補因子と して機能したのちに化学量論的に生成するVKO濃度をVKH送達性の指標として用いた.

PK, MK-4により生成するVKOをそれぞれPKエポキシド (PKO), MK-4エポキシド (MKO) として示した (Fig. 5).

PK, PKH誘導体

Fig. 4. HaCaT細胞におけるUVA照射 (5 J / cm2) キノン型VKおよびVKH誘導体による細胞内ROS生成と細胞生存率 への影響. PKおよびPKH誘導体による細胞内ROS生成 (A) と細胞生存率 (C). MK-4およびMKH誘導体による細胞内 ROS生成 (B) と細胞生存率 (D). **** p < 0. 001 vs UVA照射control by Dunnett's test.

A

B

Control 12.5 25 50 12.5 25 50 12.5 25 50

0 20 40 60 80 100 120

Cell viability (percent of control)

UVA 0 J/cm2 UVA 5 J/cm2

****

****

****

PK (µM) PKH-DMG (µM) PKH-SUC (µM)

C D

B

A

B

Control 12.5 25 50 12.5 25 50 12.5 25 50

0 200 400 600 800 1000 1200

ROS generation (percent of control)

UVA 0 J/cm2 UVA 5 J/cm2

****

****

****

PK (µM) PKH-DMG (µM) PKH-SUC (µM)

A MK-4, MKH誘導体

(6)

PKH-DMGおよびPKH-SUC添加群のAUCPKO (0-72h) は, PK添加群よりもそれぞれ0. 741 倍および22.9倍高かった (Fig. 5A). 一方, MKH-DMGおよびMKH-SUC添加群の

AUCMKO (0-72h) は, MK-4添加群よりもそれぞれ1.02倍および1.64倍高かった (Fig. 5B).

以上の結果から, VKH誘導体は, キノン型VKと同等以上のVKH送達性を有するVKH のプロドラッグとして機能することが明らかとなった.

[結論]

本研究により, VKH誘導体はキノン型VKの光不安定性および光毒性を克服し, 皮膚細 胞へVKHを十分に送達できるVKHのプロドラッグとして機能することが明らかとなっ た. VKH誘導体は, 特別な遮光管理を必要とせず, キノン型VKよりも安全にVKHを皮 膚送達できる皮膚外用剤として用途が期待できる. 3次元皮膚モデルなどの生体皮膚環境 を反映できる試験系での評価や, 病態モデルへの効果評価が次の課題である.

PK, PKH誘導体 MK-4, MKH誘導体

A

Fig. 5. HaCaT細胞におけるキノン型VKおよびVKH誘導体 (5 µM) 添加後の細胞内VKO濃度の経時変化. (A) ○:PK,●:

PKH-DMG, ◇:PKH-SUC添加後のPKO濃度. (B) ○:MK-4,●:MKH-DMG, または◇:MKH-SUC添加後のMKO濃度.

A B

(7)

審査の結果の要旨

VK の皮膚適用は、様々な疾患に対して有効であることが報告されている。しかし,キノ ン構造を有する VK は光安定性が低く,光分解過程では,一重項酸素やラジカルを生成し,

生体組織に対して光毒性を示す可能性があり, 皮膚外用剤としての使用には障壁がある.

VK の効率的な効果発現には,標的部位へ十分なヒドロキノン体である VKH を送達するこ とが必要となるが, 上述のように VK は光安定性が低いため, 露光下では十分な VKH 送達 性が得られず,さらには光毒性が懸念される.

申請者は, 光分解および光毒性の原因が VK のキノン骨格にあると予想し, キノン骨格 を持たない VKH のエステル型誘導体(PKH-DMG, PKH-SUC, MKH-DMG, MKH-SUC)であれば, 光不安定性と光毒性を克服でき, 皮膚外用剤として有用であると考え、研究計画を構築し た.

まず申請者は, エタノール溶液中のキノン型 VK と VKH 誘導体の擬似太陽光に対する安定 性と光分解の波長特性について評価を行った. 擬似太陽光に対して VKH 誘導体は, キノ ン型 VK と比較して安定であり, 光分解の波長特性では, VKH 誘導体はキノン型 VK と比較 して, 光分解の影響を受ける波長域が狭いことを明らかにした.

次に申請者は, VKH 誘導体の光に対する安全性を明らかにするため, ROS 生成を指標とし た光毒性の評価を行った. まず光照射による溶液中での一重項酸素の生成の評価では, キノン型 VK は, UVA 照射エネルギーの用量依存的な一重項酸素生成を示したのに対し, VKH 誘導体は示さなかった.また表皮角化細胞株である HaCaT 細胞を用いた細胞内 ROS 量 および細胞生存率への影響の評価については, キノン型 VK は UVA 照射により濃度依存的 な細胞内 ROS 量の増加とそれに続く, 細胞生存率の低下を示したのに対し, VKH 誘導体は 細胞内 ROS 量および細胞生存率へ影響しなかった.このことから申請者は, キノン型 VK は UVA 照射により, 一重項酸素や細胞内 ROS 生成により細胞毒性を示す一方で, VKH 誘導体 は UVA 照射時においても安全に皮膚へ使用できることを明らかにした.

最後に申請者は, VKH 誘導体が皮膚由来細胞において VKH プロドラッグとして機能する かを確認するために, HaCaT 細胞への VKH 送達性を評価した. その結果, VKH 誘導体は, キノン型 VK と同等以上の VKH 送達性を有する VKH のプロドラッグとして機能することを 明らかにした.

以上, 申請者は本研究により, VKH 誘導体がキノン型 VK の光不安定性および光毒性を克 服し, 皮膚細胞へ VKH を十分に送達できる VKH のプロドラッグとして機能することを明ら かにした.

本研究では, キノン型 VK では困難であった皮膚適用実現の可能性を VKH 誘導体により見 出し,その新規性・独創性の点で高く評価できる。研究内容および公聴会審査の申請者の 質疑応答は、学位を授与するに応分の能力を証明するものであり、申請者は博士(薬学)

の学位授与に値するものと判定した。

Fig. 3. UVA (0-15 J / cm 2 )  照射キノン型 VK および VKH 誘導体による一重項酸素の生成 . (A) ○ : PK, ● : PKH-DMG, ◇:
Fig.  4.  HaCaT 細胞における UVA 照射   (5  J  /  cm 2 )  キノン型 VK および VKH 誘導体による細胞内 ROS 生成と細胞生存率 への影響
Fig.  5.  HaCaT 細胞におけるキノン型 VK および VKH 誘導体  (5  µM)  添加後の細胞内 VKO 濃度の経時変化.  (A)  ○:PK,●:

参照

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