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看護倫理を組織に定着させるために Establishing nursing ethics in organizations

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日本看護倫理学会誌 VOL.6 NO.1 2014 1

巻 頭 言

看護倫理を組織に定着させるために

Establishing nursing ethics in organizations

長谷川美栄子

1

Mieko HASEGAWA

2008年6月に行われた日本看護倫理学会第1回学術集会は、会場いっぱいの参加者が集まり、この学会の設立に

対する期待を強く感じたことを思い出す。シンポジウムでは、研究者、教育者、実践者による活発な討論がなさ れ、看護倫理への関心の深さが伺えた。しかし、日常的に看護者が直面している倫理的な課題や問題は、一人だけ ではあるいは看護師だけでは解決できないことが多く、倫理的行動をとることの困難さも提起された。この学会 は、他の看護系学会に比べ臨床看護師の会員が多いという特徴を持つ。臨床現場で看護師が倫理的問題と感じて も、他職種との価値観の違いやコミュニケーションがうまく取れない現実があり、解決の糸口をこの学会に求めて いるとも考えられた。倫理に関する価値観を組織全体で共有し、組織文化を創り上げていくことが重要といえる。

医療の質は、科学性と倫理性の二つの側面に支えられる。科学性とは、標準治療が行なわれること、倫理性と は、相手を人として尊重することをさす。

日本国憲法に定められている国民の権利(第11条:国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。第25 条:すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。)や看護者の倫理綱領(日本看護協会、

2003)が示すように、医療者には倫理的な感性を備えていることが求められている。すなわち、知識や技術に加え て、医療・看護行為が患者や家族にとって人間として尊重されているか、意思決定が尊重されているか、結果とし て不利益になっていないかということについて敏感であり、「おかしい」と思う感覚をいつも研ぎ澄ましておくこ とである。そして、これらを医療チーム間で共有し行動していくことで組織文化は創造されていく。

臨床現場で倫理的配慮が必要な場面としては、身体拘束について、高齢者の尊厳に関すること、医師の判断や患 者に対する対応、治療方針に関して、自己の判断能力がない場合の治療方針決定、療養場所の選択、病名告知や予 後などを伝える時、インフォームド・コンセントのあり方、セデーションの是非と時期、がん終末期患者の蘇生、

延命処置をすべきか自然に看取るべきか迷う時、配慮不足、コミュニケーション不良、患者・家族・医療チームの 意向の相違、患者・家族の暴言や暴力、などがあげられる。このような場面に遭遇した時に、倫理的な問題が生じ ていることに気づく力が重要であり、立ち止まって考えてみることから倫理的行動へと進んでいくことができる。

倫理的行動の四つの要素は、①倫理的感受性:臨床倫理問題が生じていることに気づく力②倫理的推論:倫理的に 問題である理由を説明できる力③態度表明:さまざまな障害を乗り越えて、倫理的に行動しようとする力〜看護職 としてとるべき行動の決定④実現:倫理的行動を遂行することの出来る力(Waithe, M. E. の文献をもとに高田早 苗作成)である。

倫理的問題への対応は、患者・家族・医療チーム間で充分に話し合うことが基本である。例えば東札幌病院の場 合は、患者・家族と医師との面談には、看護師と医療ソーシャルワーカーが必ず同席することにしている。看護師 は面談内容を記録し、複写を患者・家族に渡し、情報を患者・家族・医療チームで共有することにしている。その 1 医療法人東札幌病院 Higashi Sapporo Hospital

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他に同席する看護師の役割は、事前に医師の説明内容を把握し、患者・家族の不安や理解の状況を知りケアにあた ること、医療チームはこれから共に歩むことを伝えること、質問しやすい場作りなどである。日常的に多職種で行 なわれるカンファレンスでは、倫理的問題がテーマになることもある。

医療は、科学的な根拠に基づいていることと、受け手に対する倫理的配慮が行なわれてはじめて よい医療 と 言える。倫理的な側面で考えると、医療は、どんな時でもQOLの維持・向上をめざすこと、そのプロセスはイン フォームド・コンセントの繰り返しであること、そして、医療は患者・家族と医療チームの共同行為であることが 大切である。医療方針を決定する場面では、患者・家族と医療チームの各々の理解や意向が共有され、三者でよく 話し合うことによって、患者にとって最善の医療方針が決定されていく。患者・家族、医療チームが納得した結果 を導き出すために、そのプロセスの中で意向の相違や理解の不一致があり問題となっている場合は、問題を整理し 方向性を見い出していく事例検討が必要である。事例検討をすることで、倫理的な問題や課題に気づき、どのよう に対処したらよいか、あるいは、どのように対処することがよかったのかを考えることができる。職員の倫理的感 性を育成するためには、患者・家族の最善をめざした事例検討を医療チームで積み重ねることである。倫理的に気 になることが生じた場合は、タイミングよくテーブルにあげ議論する習慣が大切である。

「臨床倫理は、職種の別を越えて、医療に従事する者たちが共同で行なうことが望まれる営みです。患者・家族 は、医療機関に属して働いている人々は一体となって自分たちに医療を提供してくれるはずだと思っているはずで すし、実際にそうあるべきでもあります。〜(中略)〜臨床倫理は、医師にも、看護師にも、またMSW、薬剤師、

さまざまの技師に、そして時には事務職にも共通のものであって、医療機関として行なうべき活動です。」1

少数の職員が倫理的な問題を感じていても、患者・家族に影響を与える行動をとることは難しく、組織全体で取 り組むことが求められる。倫理的感性や行動力を高める組織文化を創造するためには、思想や哲学に基づいた理念 があり、それを組織文化として定着させる仕組み作りが重要である。仕組みの例としては、多職種によるカンファ レンス、倫理に関するセミナー、緩和ケアセミナー、看護部卒後研修、全職員対象の院内研修、朝礼や申し送り、

管理者研修、看護管理者研修、諸会議などを理念共有の場と位置づけることなどがあげられる。

実践現場の要となる看護管理者(看護師長)には、日常の医療やケアのなかで理念をさまざまな角度から言動で 示し、理念の具現化を推し進めることが課せられる。更に、倫理的な組織文化を創るためには、トップマネージメ ントの意思決定が最も重要となる。「身体拘束」を例にとってみると、施設(病院)によってその対応はまちまちで ある。患者の安全を守るためやチューブ類を自己抜去しないためという理由で身体拘束を日常的に行なっている施 設や、身体拘束は原則として行なわないという方針の施設、よく検討した上で行なう場合もある施設、現場の看護 師個々の判断に任せている施設などが見受けられる。看護の最高責任者である看護部長がどのように意思決定して いるかで、その施設のケアの質は決まっていく。医療を受ける患者が自由であるほどQOLは向上する。その人間 として本来の姿を重視しながら医療安全対策を講じなければならない。また、はずす基準も議論されなければなら ない。あまり考えず、悩まず、いつもこうしているからと漫然と身体拘束を続けることは、ケアの危機状態であ る。看護部長は、身体拘束に対する明確なポリシーを表明して病院長や経営者と共有し、組織の意思(方針)とし て示すべきである。

このような取り組みを継続することによって倫理的な組織文化は醸成されていくものと考える。

文献

1. 清水哲郎.臨床倫理の考え方と検討の実際(2009年度冬β版).東京:臨床倫理検討システム開発プロジェクト;2009.

参照

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