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臨床助産師の経験する倫理的問題の特徴
−東海 4 県の調査結果より−
Nature of Typical Ethical Problems Encountered by Midwives in Perinatal Medical Care in the Tokai Area of Japan
鈴木 千智
2Chisato SUZUKI 2
キーワード:倫理的問題、周産期医療、助産師、分娩、倫理原則
key words:ethical problem,perinatal medical care,midwives,delivery,ethical principle
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The aim of this study is to clarify the nature of typical ethical problems that midwives experience in providing perinatal medical care. We asked 115 hospitals to participate in this study, and 814 midwives from 65 of these hospitals served as study subjects. We conducted a questionnaire survey covering 1) demographic data, 2) frequency of encountering 14 ethical problem cases that are typical for midwives, and 3) free description of the most memorable among those 14 cases. A total of 209cases were collected and analyzed qualitatively. Every procedure was carried out with the approval of an institutional ethical review board.
Ethical problems were extracted from each case and categorized into eight ethical groups. Most cases involved life and death like abortion or treatment of helpless newborns in about 30% of the total, followed by the issues of physicians’ beneficence and autonomy of patients in about 20% of them, respectively. On the other hand, there were cases with no ethical issue but rather medical problems like a difference between physicians and midwives in treatment policy. These results revealed a part of the nature of typical ethical problems experienced by midwives.
杉浦 和子
1Kazuko SUGIURA 1
太田 勝正
2Katsumasa OTA 2
1 聖隷クリストファー大学看護学部 School of nursing, Seirei Christopher University 2 名古屋大学大学院医学系研究科 Nagoya University graduate school of medical science
Σ.はじめに
近年、生殖補助技術の発展や患者のニーズの変化 や権利意識の高揚などにより、看護職者に求められ
る役割が多様化している。1
周産期における倫理的問題は、生命の始期の問題 だけではなく、生命の質、生命の死期の問題が複雑 に絡み合い、人工妊娠中絶をはじめ、出生前診断に
よるリスクをもつ胎児の発見、体外受精などによる 多胎妊娠の増加、合併症妊娠、分娩経過中の母児の 優先度、新生児異常などの諸問題はターミナルケア とも密接に関連している2。周産期医療は、小規模 でありながらも総合医療システムのような機能を果 たさなければならず、その上で生じる倫理的問題の 現状とも向き合っていかねばならない。そのために 医療システムは、産科・小児科医不足により医療資 源を集約化したり3、助産師は医師と協働すること によってその責任を果たそうと努めている。特に、
医師だけに多くの権限が集中しがちな現行の医療シ ステムにおいて、患者の人権や尊厳を擁護し、主張 する立場としての看護師の役割が示されており4、 これは命の問題に、より多く直面する助産師にも当 然当てはまるであろう。
このように、急速に進歩する周産期医療に携わる 医療者もさることながら、患者自身も意思決定の困 難に直面している。治療をすることも自己決定であ れば、治療をやめることも自己決定である。母体の ケアと宿った命に対する両面のケアの中で患者は自 己決定していかなければならず、また、母親として の立場、家族としての立場での自己決定が求められ る場合もある。自己決定は、時間的、期間的余裕の ある場合に急かされる時とそうではない緊急性の場 合で求められる場合がある。このような場面におい て助産師は、責任をもった高い能力が求められ5、 生命の始まりに立つ専門職として倫理原則に基づく 議論を行い、守るべき境界線や生命倫理上の問題点 を常に意識していく6必要性もあるであろう。
医療は、従来のパターナリズム的な医師主導型か ら、患者中心の自己決定の尊重へと転換し、患者は 治療法を選択できるようになってきている7にもか かわらず、患者の自律性に対する問題は、患者や他 職種との関係で多くの問題があるといわれている8。 例えば患者の意思と医療者の良心が対立する場合、
モラルのない患者への対応、患者と家族の意見が相 反する時の反応、支払い能力のない患者への医療提 供、限られた資源の配分、医療技術の差、同僚のミ スなどの問題など取り上げられている9。さらに、
人工妊娠中絶においては、助産師は患者と関わる時 にはすでに患者である女性が自己決定した後であ り、介入の余地がないことにストレスを感じ、女性 の意思決定を変えることができない状況に直面して いるという報告もある10。患者個々の抱える医学上 の問題もローリスクのものからハイリスクのものも
あり、そこにおかれている助産師は極めて複雑な問 題の解決に取り組まなければならない場合がある。
助産師の専門性は、自らの責任において分娩介助 を行えることや保健指導を行えることであり、この 部分については助産師が持つべき実践能力とその責 任範囲により11、自律性はある程度保たれている。
しかしながら、臨床において様々な問題に直面し、
また、助産師の役割は医療施設において様々であ り、そのことが多くの倫理的問題を生んでいること が懸念される。
助産師は、周産期において様々な場面で問題解決 が求められることが多いと考えるが、助産師につい ての研究は明らかにされていない。そこで、周産期 医療に従事する助産師に焦点を当て、助産師の遭遇 する倫理的問題とその特徴を明らかにすることが今 後の問題解決の糸口を示唆できるのではないかと考 え、研究を行った。
Τ.研究目的
周産期医療に従事する助産師の遭遇する倫理的問 題を明らかにするために、以下の研究課題を示す。
1.助産師が経験する問題を明らかにする。
2.その中にどのような倫理的問題があるのか明 らかにする。
3.収集された倫理的問題を整理、分類し、特徴 を明らかにする。
Υ.研究方法
1.研究対象の基準(施設と対象者)
東海地区の愛知、岐阜、三重、静岡の4県の産 科、婦人科、産婦人科を開設している病院(病床数 20床以上)をWAM NETで抽出し(2009年6月15日 現在、214施設)、そのうち、分娩を取り扱っている
115施設で助産実践に従事している助産師経験2年
目以上の助産師を対象とした。
2.調査依頼の手続き
条件に該当する病院に、研究の意義、方法につい て記載した「調査協力のお願い」と調査票サンプル を添付して、調査協力を依頼した。返信用はがきに て調査協力の可否を求め、調査に協力できる病院に ついては、その施設の助産師人数分の調査票を送付 した。調査の回答の返信をもって調査の同意したも のとした。
3.調査期間
平成21年8月〜9月に実施した。
4.調査票の内容
調査票の主な内容は、以下の5項目で構成した。
① 属性(年齢、勤務経験、職位など)
② 所属部署の主な業務内容の頻度(妊娠、分娩 に関わる産科・婦人科診療内容)
③ 14の倫理的問題を含む場面を経験する頻度
④ 前項の設問場面において対象者が最も印象に 残った経験事例の自由記述
⑤ 14の倫理的場面についてどの程度倫理的に問 題であると感じるかについて
5. 助産師の遭遇する可能性のある14の倫理的場面
の構築について
助産師には、看護師とは異なる業務や責任範囲が あることも考慮する必要があると考えた。そこで、
助産師にイメージしやすいように倫理上の問題を含 む場面を文献や予備調査から情報を収集するととも に、関連図書などをもとに場面を抽出、整理して14 の倫理的場面を構築した。そして、実際の臨床場面 で遭遇すると考えられる、以下の14場面を最終的に 選択した。なお、それぞれの場面の表面妥当性につ いては、看護倫理の専門家および複数の助産師経験 者と繰り返し確認作業を行った。
① 医療者側が最善だと考える医療・ケアが患者 に受け入れられないこと
② 必要だと考える医療・ケアが十分に提供でき ていないと感じること
③ 自分自身の知識・技術が不十分であると知り ながらケアを行うこと
④ 分娩の方針について医師と意見が食い違うこと
⑤ 患者の権利・尊厳についての問題を感じなが らも同僚や医師に何も言えないこと
⑥ 患者の思いが医療処置に反映されていないと 感じること
⑦ 分娩の方針についての説明が医師から十分に なされていないと感じること
⑧ 患者のプライバシーや秘密が適切に守られて いないと感じること
⑨ 経済的な理由で患者が必要な医療を受けられ ないこと
⑩ 病院が助産師の専門性を理解していないと感 じること
⑪ 助かる見込みのない児のためにもっと何かで きないかと悩むこと
⑫ 患者への家族の虐待の可能性を感じながらも 何も関与できないこと
⑬ 人工妊娠中絶・体外受精・出生前診断の適用 に疑問を感じること
⑭ 患者へのリスクが比較的大きいと感じる治験 や臨床研究が行われること
6.事例の回答方法について
前述の14の場面に経験の頻度を質問した後、対象 者の最も印象的な経験事例を一つ取り上げてもら い、その事例に関わる人物を選択肢から特定しても らった後に自由に記述してもらうようにした。
7.分析方法
1)属性や提示した14の倫理的場面の経験の頻度お よび倫理的問題の程度については、SPSS Statistics Ver. 15.0を用いて記述統計を行った。
2)書かれた事例については、すべてexcelに入力 した後に整理し、全体を注意深く読み、その中に含 まれた倫理的問題について、あらかじめ設定した分 類枠組みに従って分類した。なお、分類枠組みは、
当初、Davisら12の5つの倫理原則をそのまま適用 しようとしたが、書かれた事例に存在する倫理的問 題を抽出、分類する過程において、善行にかかわる 問題が突出して多くみられた。本研究の主目的であ る助産師の経験する倫理的問題の特徴をより明らか にするために、善行にかかわる問題として収集され た事例について、さらに助産師の経験する倫理的問 題の特徴を導き出すことのできる分類枠組みを模索 して、最終的に表1に示す8つの枠組みを構築した。
表1に示したとおり、本研究で助産師の経験する 倫理的問題を生命倫理上の問題としているのは、伊 藤ら13の看護倫理の捉え方に示される、行動指針を 示した職業倫理、生命倫理、看護独自の問題に対す る倫理の3つの基盤である。その中で、生命倫理 は、人の生(生命)をめぐる諸問題や生命の質をめ ぐる問題、死をめぐる問題などにも焦点があてられ ると捉えられている。そこで、本研究では、生命倫 理と重複する部分を捉える必要があると考え、助産 師の経験する倫理的問題を生命倫理上の問題とそう ではない問題という分類枠組みとした。
表1 分類の枠組み
<生命倫理上の問題があるもの>
1 . 患者の自律性に関する問題 2 . 医療者としての善行に関する問題
3 . 真実の告知・必要な情報の提供に関する問題 4 . 患者の信頼に関する問題
5 . 助産師・看護師としてあるべき姿に関する問題 6 . 無害性(患者・家族のリスク)に関する問題 7 . 公正(医療資源の分配)に関する問題 8 . 命をどう捉えるかに関する問題
<生命倫理上の問題がないもの>
9 . 医療上の問題 10 . 組織の問題 11 . 法律の問題 12 . その他
13 . 何の問題もないもの
表2 対象者の属性
平均値 SD
職務経験年数
助産師経験 12.5 ±7.6
年齢 38 ±9.1
n (%)
職位
スタッフ 251 (76.5)
リーダ的役割 51 (15.5)
管理職 27 (8.2)
雇用形態
常勤 300 (91.2)
看護師免許取得
専修学校 162 (49.5)
進学コース 70 (21.4)
4年制看護系大学 49 (15.0)
進学コース 42 (12.8)
その他 4 (1.2)
表3 施設の状況
平均 SD
常勤の助産師数 (n=319) 17.0人 ± 11.5 非常勤の助産師数(n=218) 1.7人 ± 1.5 年間分娩数 (n=320) 509.3件 ±281.0 3)分析の視点
事例中に、医療者として明示的に誤ったこと、な すべきことがなされていない状況ではない、医療者 としての姿勢についての問題が示されていない事例 については、医師であれ助産師であれ善行などの倫 理的な問題ではない医療の中の問題であることか ら生命倫理上の問題ではない問題に分類した。ま た、倫理的要素として自律性や善行に関わる事例で も、患者の自律性が尊重されていない、医療者とし ての善行がなされていないということなどが明示さ れていない医師と助産師の見解の違いにおける問題 は、生命倫理上の問題ではない医療上の問題とし た。このように、本研究は、書かれた事例に特に倫 理的問題を見出すことのできない医療上の問題など 生命倫理上の問題がない分類の枠組みも設けた。
(以下、倫理的問題を生命倫理上の問題とし、倫理 的問題ではない問題を生命倫理上の問題がないもの とした。)
なお、分析・分類の過程では、看護倫理学、生命 倫理学を専門とする研究者のスーパーバイズを受け ながら、繰り返し検討を重ね、分析の信頼性、妥当 性の確保に努めた。
8.倫理的配慮
本研究は、名古屋大学医学部生命倫理委員会保健 学部会の承認(承認番号9−152)を得た後に、必要な 倫理上の配慮を行いながら実施した。
Φ.結果
研究協力の得られた115施設に、助産師用調査票 を合計814部送付し、364(回収率44.7%)の回答を 得た。有効回答は332(有効回答率91.2%)であっ た。なお、本稿では、倫理的問題に関する事例の分 析結果について報告する。
1.対象者の背景
表2に示すように、対象者の平均年齢は38.0歳
(SD±9.1)、助産師経験平均年数は12.5年(SD±7.6)、
職位については、スタッフナースが76.5%を占めて いた。施設の状況としては、配置された助産師の平 均数は常勤17.0人、非常勤1.7人であり、年間分娩数 は509.3人(SD±281.0)であった。
2.事例の分析結果
本研究では、図1に示すように、全有効回答332 件のうち209件(有効回答の63.1%)に、事例が回 答されていた。209件の事例について、「Ⅲ−7 分 析方法」に基づいて倫理的問題の有無を分析した結 果、倫理的問題が抽出された事例は143事例、倫理
図1 事例の分類・問題件数
的問題が抽出されなかった事例は66事例であった。
なお、事例の中には、1つの事例に複数の倫理的問 題が抽出されるものがあり、本研究では1つの事例 に複数の倫理的問題が含まれる場合については、そ れぞれを倫理的問題として抽出し件数のカウントを 行った。その結果、143の事例から190件の倫理的問 題が抽出された。
一方、倫理的問題が抽出されなかった66事例につ いても複数の問題が抽出されるものがあり、それら を加えると73件となった。ただし、本研究において は、倫理的問題と倫理的問題ではない問題がともに 抽出される事例については、倫理的問題の抽出を主 目的としているため、そのような事例については、
倫理的問題についてのみの抽出を行い、倫理的問題 ではない問題については特に抽出しなかった。つま り、倫理的問題と倫理的問題ではない問題が混在す る事例については、倫理的問題のみを抽出し、分類 した。
以下に、記述された事例から抽出された倫理的問 題について、いくつかの例を示すとともに、各問題 の件数を示す(表4参照)。なお、事例の記載にあ たっては、文意を変えない範囲で語句の修正をした り、一部省略した部分がある。
患者の自律性に関する問題では、「患者の意思に 関わらずに分娩の方針を決めること。」など、明ら かに患者の自律性を無視した医師による方針決定の 問題を示す事例があった。その他、「患者に説明し ないで医療行為を行うこと」などインフォームドコ ンセントの問題とともに患者の自己決定を求めてい ない事例や「胎児心拍数の低下により帝王切開が必 要であるにもかかわらず拒否する患者」「夫が避妊 指導を全く受け入れられなかったこと」という患者 や家族の意思決定に問題を感じている事例など、合 わせて35件あった。
医療者としての善行に関する問題では、「強引に
医師により処置(オバタメトロなどの分娩促進)が 行われた。」など医師の強引な医療行為に関する事 例があった。また、「医師自身の予定のために分娩 を促進した。」「医師が自分の当直時間にずれこむ
(夜間に分娩になる)という理由から帝王切開をし た。」など医師の都合で決められる分娩方針に問題 を提起する事例もあった。その他、「適当ではない 病名(診断)が付き、帝王切開となること」「人工 妊娠中絶を施行した後の受胎調節指導を医師に不要 と言われ行えず、同じ人が人工妊娠中絶を繰り返す 事例。」など最善の医療の提供ができていないこと を取り上げる事例などがあり、合わせて40件あった。
真実の告知に関する問題・必要な情報の提供に関 する問題では、「高齢で卵子の状況等から体外受精 が大変難しい状況である患者に対し、そのことを言 えない難しい状況。」「胎児異常という診断にて帝王 切開の予定を組み、説明。しかし、帝王切開の当 日、正常であったが児頭未固定という違う診断名を つけて予定通りに帝王切開を行った。」という真実 の告知がなされていないという事例もあった。この 他、「誘発入院・無痛分娩目的で入院。具体的にど のようなことをするのかあまり分かっていない産婦 がいる。」「自分の説明が不足していたため、患者さ んのニーズをつかみきれなかった。」ことなど、妊 産婦に必要な情報をきちんと提供できていないこと を問題として取り上げている事例など合わせて18件 あった。
患者の信頼に関する問題では、「分娩後のスタッ フの対応に、不満を表出する患者とその家族。」「患 者の身体的・精神的支援が遅れ、患者の病院に対す る不信感につながった。」など、患者や家族の医療 に対する不満や不信を取り上げる事例などがあっ た。この他、「授乳介助などのタイミングが合わ ず、次の授乳を見ると約束していても見てあげられ なかったりする。」など、約束の遵守ができていな いことを示す事例など合わせて13件あった。
助産師・看護師としてのあるべき姿に関する問題 では、「妊娠22、3週位で出生した児に、ある看護師 が心臓マッサージは指を添えているだけで、かつ、
あえぐような呼吸をしたベビーにまだ生きとるんや と言った。」など専門職としての真摯な姿勢の欠如 を指摘する事例があった。この他、「会陰裂傷が大 きくなってしまったこと。出生直後の児の異常に早 く気付けず、医師に怒られたこと。」など一生懸命 やっているが不達成・不全感である事例や「もっと
表4 倫理的問題と倫理的問題ではない問題の分類結果
回答件数209 抽出された問題件数263
生命倫理上の問題があるもの 例示 143事例≪68.4%≫
1.患者の自律性に関する問題 ・患者の意思にかかわらずに分娩の方針を決めること。
・患者に説明しないで医療行為を行うこと。 35【18.4】
2.医療者としての善行に関する問題 ・強引に医師により処置が行われたこと。
・医師自身の予定のために促進分娩が行われること。 40【21.1】
3.真実の告知に関する問題・必要な情報 の提供に関する問題
・妊孕性の低い患者の体外受精において、妊娠の可能性が大変厳しいことを言えな いこと。
・帝王切開の予定患者に、その必要性がなくなったにも関わらず、帝王切開の適応 の病名をつけ帝王切開を行うこと。
18【9.5】
4.患者の信頼に関する問題
・スタッフの対応に、不満を表出する患者。
・授乳指導をするという約束をしていたにも関わらず、授乳を見てあげられなかっ たこと。
13【6.8】
5.助産師・看護師としてのあるべき姿に 関する問題(助産師・看護師特有の美 徳)
・重症の早期産児の蘇生場面に立ち会っている看護師が、苦痛様の呼吸をしている 児に対し、まだ生きとるんやと言ったこと。
・産婦に対しもっとでき得るケアがあるにも関わらず行っていないこと。
15【7.9】
6.無害性(患者・家族のリスク)に関す る問題
・自然経過で待てる分娩で、クリステレルで産婦の苦痛を伴う分娩。
・精神疾患で薬を頻回に服用している同僚との仕事で、その同僚が倒れ、ミスをす るのではないか怖かったこと。
10【5.3】
7.公正(医療資源の分配)に関する問題
・夜勤時のマンパワー不足により、側にいてほしいと願う産婦に寄り添えなかった こと。
・分娩の1時間前に、看護管理者より他の業務の依頼をされ、状況説明するも理解 のない看護管理者。
8【4.2】
8.命をどう捉えるかに関する問題
・再婚した夫との間の子を同じように愛していけるかわからないという理由で人工 妊娠中絶。
・染色体異常で出生した児へのすべての治療を両親が拒否。
51【26.8】
小計190【100】
生命倫理上の問題がなかったもの 66事例≪31.6%≫
9.医療上の問題 患者が陣痛の痛みに耐えきれず、自分から医師に帝王切開を希望し、帝王切開がす
ぐ決定したこと。助産師としてずっと分娩第1期の援助をがんばっていたのに。 30【41.0】
10.組織の問題 助産師の専門性が理解されていないので他病棟へ応援に行かなければならなかった
時。 29【40.0】
11.法律の問題
未婚。15〜16歳の高校生。妊娠に気付いたが、 家族が分かった時には人工妊娠中 絶ができない時期だった。その女子高生が出産したにも関わらず、家族(母)が出 産したこととし、届け出ることとなった。。
3【4.0】
12.その他 妊娠中未受診で、未婚で、飛び込み出産、社会的背景も複雑で母子寮を利用するよ
うになったが、その後どうなったか今でも印象に深い。 3【4.0】
13.何の問題もないもの 陣痛発来より、長時間かかる分娩に対し(初産婦)一丸となって取り組めたこと。 8【11.0】
小計73【100】
注1)≪ ≫内は総事例数に対する割合
注2)【 】内は倫理的問題、倫理的ではない問題のそれぞれの総問題数に対する割合 注3)数字のみは各カテゴリーにおける問題件数
産婦に寄り添ったケアができるのにしていないこと がある時」など一生懸命に役割を果たそうとしても 果たしきれていない事例など合わせて15件あった。
無害性(患者・家族のリスク)に関する問題で は、「自然経過で待てる分娩中、クリステレルで産 婦の苦痛を伴う分娩。」など患者の直接の害になる ことや「(同僚が)うつ病の薬を頻回に内服してお り、一緒に仕事をしていてミスをするんじゃないか と恐かった。しかも仕事中に倒れた。」という患者 へのリスク回避がなされていない事例など合わせて 10件あった。
公正(医療資源の分配)に関する問題では、「分
娩第一期の産婦さんに、側にいてほしいと言われた が2人夜勤の交代の休憩中であり、自分がナース コール全てに対応しなくてはならず、離れてばかり だったこと。」というマンパワー問題を背景に適切 に対応できていない事例や「分娩が差し迫っている 1時間前に、看護管理者から他の業務をやるように 言われ、それは無理だと答えても、分娩はこれまで 2時間の間に行われていないでしょと言われ、あき れ果てた。」という管理職による不適切なスタッフ 配属・配置に関する問題の事例などが示されてい た。この他、「経済的な理由で必要な医療を患者本 人が拒否することがあった。」など支払い能力の有
無による必要な医療の適否の問題など合わせて8件 あった。
命をどう捉えるかに関する問題では、「再婚した 夫との間の子を同じように愛していけるか分からな いという理由で人工妊娠中絶」、「妊娠初期または妊 娠中期の人工妊娠中絶を何度か他院で繰り返してい る患者がさらに人工妊娠中絶目的で入院」という 宿った命の選択・尊厳を取り上げる事例や「全前置 胎盤で、外泊・外出は不可と説明していたにも関わ らず、夫がどうしても退院させろと怒鳴り、医師・
助産師で再度説明しても同意が得られず無理やり退 院していった。」という母子の命の尊厳を無視する 夫の行為などを取り上げる事例が示されていた。ま た、「助かる見込みがない児の蘇生について、産科 医からの説明で希望しない親」、「染色体異常で出生 した児へのすべての治療を両親が拒否」という児の 命の尊さと蘇生・治療に関する事例が示されてい た。この他、「妊婦が子宮頸癌であり、医師から は、今回の妊娠を諦め治療を行えば助かり、次回の 妊娠も望めると妊娠初期に説明があったが本人が拒 否し妊娠継続を望み、その後、分娩。退院後、数か 月で他の病院で亡くなられたことを聞いた。」とい う母親と児の命の優先について取り上げている事例 など合わせて51件あった。
Ψ.考察
1.倫理的問題の特徴
今回、助産師の経験する倫理的問題に関する研究 が極めて少ないことから倫理的問題と倫理的問題で はない問題の分類を行い、さらに倫理的問題の特徴 を明らかにした。倫理的問題の分類結果は、命をど う捉えるかに関する問題が3割、医療者の善行、患 者の自律性に関する問題がそれぞれ約2割を占めて いた。
命をどう捉えるかに関する問題では、母子の命の 尊厳を無視する夫の行為や宿った命の尊厳や児の蘇 生・治療に関する親の意思決定などが回答された。
これは、夫婦間の問題が複雑に絡み合っている問題 や患者と胎児の両者の間で、患者の利害と胎児の利 害が対立している問題などが回答されたと考えられ る。
患者の自律性、医療者としての善行に関する問題 については、患者の意思の無視、患者の意思を十分 に確認していない、不必要な医療介入など医師主導 の方針の決定の問題が回答の大半であった。
助産師は、実践能力と責任範囲14において看護師 との違いがあり、それは保健師助産師看護師法15に より明確である。その最も大きなものは、正常分娩 における助産を行うことである。この業務において は、医師による判断とオーバーラップする部分があ り、医療行為の妥当性に、より強く疑問を抱いたり する特徴がみられた。また、誘発・促進分娩か帝王切 開かの妥当性などについて、より問題を指摘する傾 向があることや医師主導型の方針決定に患者が戸惑 うことがない症例も回答された。これらは必要な情 報提供や今日の医師の医療者としての姿勢に対する 問題が背景にある可能性が高いことが示唆された。
このように助産師は、患者の療養、親による命の 優先、患者への情報提供、患者の医療への参加など の問題を経験することや重要な役割が求められてい ることが示唆でき、横尾ら16に示される患者への医 療における情報提供、患者の医療への参加、親によ る生死の決定、患者の快適な療養環境における問題 と一部重なる結果が得られた。
倫理原則の中での医療者の善行と患者の無害性に おいては表裏一体と捉えられている。しかし、本研 究ではそれらの二つの原則だけでなく全ての倫理原 則の要素が潜んでいることを見据え、専門職として 広い視野で最善を尽くす必要性が求められることが 示唆された。
2.倫理的問題ではない問題の経験について 本研究では、結果に示されるように高い回答を求 めることができたが、提示した14の場面はどれもが 倫理的な要素を含む可能性があるものとして整理し たものであり、助産師の回答としては倫理的問題を 含む回答を期待していた。しかしながら、今回の枠 組みで分類、整理したところ、全体の約3割が医療 上の問題、組織の問題、法律の問題など倫理的問題 ではない問題を回答していた。この結果は、事例に 記載された医療処置の必要性、分娩経過の判断など について、専門性や経験が異なればそれぞれ判断が 違うのは当然のことである。また、医師との見解が 異なり納得がいかない思いや同僚に相談はできても 医師には遠慮してしまう思いは少なからず存在する と考えられる。一方で、「助産師外来開設に向け て、病院管理者は助産師が何をしているのか全く知 らなかった。例えば、保健指導。」というような組 織が助産師の専門性を理解していない事例も回答さ れていた。
これらより、医師や同僚、組織との見解の相違に よる問題を抱えている助産師も少なくないことが分 かり、組織内での専門職間の歩み寄りがより必要で あることが示唆された。
Ω.研究の限界と今後の課題
今回、助産師の倫理的問題に関する研究が極めて 少ないことから倫理的問題を分類する枠組みを設け た。分類は、まず生命倫理上における倫理的問題と 倫理的問題ではない問題とを分け、その中に様々の 問題の枠組みを設けた。従って、記述された事例、
すなわち文面上に示されている事例の事実に注目し て倫理的問題の抽出を行っており、その事例の発生 経緯や様々な判断のプロセスという問題構造までを 考慮して分析していない。あくまでも記述された内 容に残された問題だけを抽出し、分類しているが、
本研究での枠組みの妥当性については今後、検討し ていく必要がある。
また、本研究対象は、東海地区の限られた病院の 助産師である。今後、対象を拡大し、より普遍的な 傾向を調査するとともに、現時点で、本調査結果に 事例を多角的にとらえるために回答頂いた自由記述 の中の未解析のデータがあり、今後、それらを含め た包括的な分析に取り組みたい。
謝辞
本研究に際し、ご協力いただきました対象者の皆 様、並びに病院関係者の皆様に深く感謝申し上げます。
本稿は、名古屋大学大学院医学系研究科修士論文の 一部に加筆・修正をしたものであり、その一部は、
第3回日本看護倫理学会学術集会において報告した。
文献
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