• 検索結果がありません。

小型水槽を使用したアカアマダイの種苗生産

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "小型水槽を使用したアカアマダイの種苗生産"

Copied!
13
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

小型水槽を使用したアカアマダイの種苗生産

清川智之

*1

・堀 玲子

*2

・佐藤利夫

*3

Seed Production of Red Tilefish Branchiostegus japonicus in a Small Culturing Tank

Tomoyuki K

IYOKAWA

, Reiko H

ORI

and Toshio S

ATO

Shimane Prefectural Fisheries Technology Center has been conducting seed production trials of red tilefish

Branchiostegus japonicus with small culturing tanks (3-5 kL). In 2011, the survival rate was im-

proved from 2-3% to 10% by reconsidering rearing conditions, including feed and methods of water change and aeration, although the proportion of morphological deformities was the highest ever, 75% on average.

In 2012, improvement of methods of aeration and of oil film removal led to success in swim bladder infla- tion at an early point of time of the early larval stage and resulted in not only improvement of the survival rate to 20% but also lowering of the proportion of morphological deformities to 2%, which was the lowest ever. However, death and debility probably caused by bacterial diseases were observed in the cultured fish in the latter half of the seed production trials in both years. Control of such bacterial infections is a future challenge in improving the survival rate further.

*1 島根県水産技術センター内水面浅海部浅海科

〒690-0322 島根県松江市鹿島町恵曇530-10

Senkai Branch, Shimane Prefectural Fisheries Technology Center, 530-10 Emoto, Kashima, Matsue, Shimane 690-0322, Japan [email protected]

*2 島根県松江水産事務所

*3 島根大学生物資源科学部

2013年7月9日受付,2013年10月29日受理

 アカアマダイBranchiostegus japonicasは漁獲量,生産 金額の面から島根県内沿岸漁業における位置付けが高 く,特に県東部の出雲市小伊津で水揚げされる「小伊津 のアマダイ」は高鮮度なブランド魚として京阪神を中心 に高い評価を受けている1)。しかし近年,本種の漁獲量 は年々減少し,それに伴い生産金額も減少している。こ うした状況から,本種の栽培漁業に対する強い要望が地 元から県に寄せられ,島根県では第5次栽培漁業基本計 画において新規栽培漁業対象種に選定した。2006年か らは水産技術センター内水面浅海部浅海科において,将 来の量産化を目指して,小型水槽(3~5kL)を使用し た種苗生産技術開発事業を開始した。種苗生産開始当初 はエピテリオシスチス類症,ウイルス性神経壊死症(以

下VNN)など重篤な疾病の発生がみられたが,市販の

紫外線殺菌装置(フロンライザー,千代田工販)(2011

年からは,島根大学と東芝ライテック㈱が共同開発した 高出力低圧ランプ搭載殺菌装置(GLQ)を使用,未市 販)による飼育水の殺菌により,2008年以降は重篤な 疾病の発生はみられなくなった。しかし,2010年まで,

ふ化から種苗生産終了までの約2か月間の生残率は平均 2~3%と低迷した。また種苗生産終了時の形態異常魚 の割合も2009年が3~96%,2010年が7~45%と安 定せず,比較的高く推移していた。

 本種の種苗生産技術開発に関して(独)水産総合研究 センター日本海区水産研究所資源生産部(旧日本栽培漁 業協会宮津事業場)を中心に積極的な情報交換が行われ ており,種苗生産の基本的な部分は本藤ら2)によりとり まとめがなされている。しかしながら,現在でもふ化仔 魚から取り上げまでの生残率が10%に満たないことが あり,また形態異常についても,数十パーセントにもお Journal of Fisheries Technology, 6(2), 147︲159, 2014 水産技術,6(2), 147︲159, 2014

原 著 論 文

(2)

材料及び方法

採卵とふ化 種苗生産試験には,2011年9月27~28 日,2012年10月4~5日にJFしまね平田支所管内の 延縄と一本釣りの漁業者が釣獲した漁獲物の中から,肛 門からの内臓の飛び出しや眼球突出のない300~600g の生きた雌親魚を約30尾と1kgを超える高鮮度な雄死 亡魚5尾を入手し,水産技術センター内水面浅海部浅海 科に搬入し,人工授精によって得た卵を用いた。採卵及 び人工授精については本藤ら2)の方法に従った。得られ た受精卵は,0.2kLポリカーボネート製アルテミアふ化 槽(SBF-200,田中三次郎商店)に収容し,紫外線処理 海水をかけ流しながら,微通気で一晩管理した。翌日胚 体形成に達した卵をオキシダント海水(HSE-100,㈱東 和電機製作所)で生成)と紫外線処理海水を混合し,オ キシダント濃度0.5ppmに調整した海水で30秒間消毒 した後,容量3または5kLの飼育水槽に収容した。た だし,2012年は試験に十分な受精卵が確保できなかっ たので,不足分は山口県外海栽培漁業センターで採卵 し,胚体形成後にオキシダント海水で消毒した受精卵 を,酸素封入したビニール袋に入れ,当施設まで輸送し て種苗生産試験に供した。

 なお水槽に収容する受精卵数は,0.2kLアルテミアふ 化槽に収容した卵のうち,飼育水槽収容直前に浮上して いた受精卵をネットですくい取って10Lの容器に移し,

その中の5~10mLを3回取り出して卵の個数を計測し,

よぶこともあり,本藤らの報告以後,技術が大きくは改 善されていないのが現状である。このことは,種苗生産 期間中に発生する大量死の要因や形態異常の防止に有効 な鰾への空気の取り込み(開鰾)に必要な諸条件が明確 にされてないことに起因すると考えられる。またアカア マダイの場合,成熟魚であっても雌親魚の生殖腺熟度指 数(GSI:GSI=GW(生殖腺重量)/BW(魚体重)×

100)の平均値が最大でも2.31(8月)と小さいため3), 得られる卵数が少ない。さらに大型水槽を用いて種苗生 産を行う場合,2~3日分の受精卵を同じ水槽に収容す る必要が生じるが,成長差が生じ共食いの原因になるこ とが考えられることから,容量の小さい水槽による種苗 生産技術の開発が必要である。しかし,小型水槽を用い た種苗生産試験で高い生残率が得られた報告はみあたら ない。

 本研究では2010年までの種苗生産試験状況を踏まえ,

2011年に基本的な飼育方法の見直しを,2012年に形態 異常魚の割合を低下させる種苗生産を行い,2011年に は5kL以下の小型水槽では初めて1,000尾/kL以上のア カアマダイ稚魚を生産,さらに2012年には1,500尾/kL 以上のアカアマダイ稚魚を生産し,さらに形態異常魚の 割合を平均2.2%,最低0.5%まで低下させることに成功 した。そこで本稿では小型水槽を用いた種苗生産におけ る飼育方法の概要と飼育技術上の要点を報告し,さらに 生残率を向上させる効率的な飼育条件を確立するために 解決すべき課題について考察した。

表1.2010年以前,2011年,2012年の基本的な飼育管理

4

2,000Luxになるように点灯

(3)

稼働時間30分に8~10分(2010年までは日齢3~25,

稼働時間30分に5分)の間,小型バスポンプ(minipondy KP-103,㈱工進)による飼育水の撹拌を十分に行う,

その際の飼育水の放出位置をそれまでの表層から中層に

変更(図1),④水位を落とした後,元の水位まで注水

する換水方法から流水による連続換水(注水量を安定さ せる目的で,一旦容量1トンのタンクに入れてから,落 差により注水)に変更,⑤飼育水の殺菌を,フィルター 等によるろ過が推奨されている,これまでの紫外線殺菌 装置(フロンライザー,千代田工販)から,フィルター 等による前処理なしでも殺菌が可能とされる高出力低圧 ランプ搭載殺菌装置(GLQ)に変更(2011年は一部の 試験区で使用),⑥薄暮時の低照度,斜光による蝟集,

狂奔行動を抑制する目的で日没時(16~19時),日出 時(5~8時)に5~20Lx程度の光が水面全体を照ら す よ う よ う 電 球 型 蛍 光 灯 も し く はLEDラ ン プ

(LDA9N-H20ほか,OHM電機)を点灯,⑦飼育水に添 その平均値を全体の容量で引き延ばした数とした。また

ふ化仔魚数は日齢3~5の夜間に分布が均一化した時点 で,水槽全体を反映するような塩ビ製の筒により飼育水 2Lを取り出してその中の仔魚を計数し,全体の容量で 引き延ばした個体数とした。

基本的な飼育管理 2010年以前,及び2011年,2012年 における基本的な飼育管理方法を表1に,飼育資材の配 置を図1に示した。仔稚魚の飼育管理のうち,2011年 の主な変更点は,①単位容積当たりの収容受精卵数を増 加,②通気方法を直径10mmのユニホース(フレキス トン,大和実業㈱)による中央部からの供給から直径

23mm(長さ70mm)の棒状か,直径50mmの焼成エア

ストーン(AS-5またはAS-1,田中三次郎商店)による 四方からの供給に変更し,2010年に発生した酸欠によ る減耗を防止するために通気と同じエアストーンによる 酸素供給(微通気)も併用(図1),③日齢0~30の間,

図1.3kL及び5kL円形FRP水槽を用いた種苗生産における資材の配置

上:2010年,下:2011年と2012年,網掛けの部分は仔稚魚が通過しない目合いのネット

(4)

図2.2011,2012年におけるアカアマダイの種苗生産試験時の餌料系列 図表内の数字は日齢

表2.飼育試験に用いた生物餌料の栄養強化方法

(5)

ないとされるナンノ,2012年はナンノのみとし,1日に 1~2回,開口直後の日齢3以降,10個体/mLを目安 に給餌した。アルテミアArtemia sp.については,高度 不飽和脂肪酸強化餌料(スーパーカプセルA-1,クロレ ラ工業)で栄養強化を行ったものを,1日に1回,残餌 が出ない程度に給餌した。配合飼料については日齢20

~27以降,残餌を確認しながら1日数回の頻度で適当 量給餌した。

飼育試験 2011年,2012年の飼育試験方法の概要を表 3に示した。2011年は飼育水の殺菌と加温,給餌するワ ムシの栄養強化,飼育水に添加する微細藻類の種類を変 化させた,試験区①~⑥を設定した。すなわち高出力低 圧ランプ搭載殺菌装置(以下GLQ)の効果を確認する ため,本装置を用いた試験区と既存の紫外線殺菌装置を 用いた試験区を設け,重篤な疾病の発生の有無等その効 果を確認した。また2010年の試験で水温の急低下が起 きた水槽で成長速度の低下や形態異常率の上昇がみられ たことから加温の有無と,飼育水に添加する微細藻類の 種類をこれまでのSV12からナンノに変更した試験区を 設けた。

 2012年は2011年の試験結果を基に,UV殺菌装置は GLQ,ワムシの栄養強化,飼育水への添加微細藻類に はナンノを用いて加温飼育を行った。また,2011年に 問題となった形態異常魚の出現の防止を目的とした試験 加する微細藻類を高度不飽和脂肪酸が強化された淡水ク

ロレラ(スーパー生クロレラV12,クロレラ工業,以下 SV12)から濃縮ナンノクロロプシスNannochloropsis oculata(商品名:マリンフレッシュ,マリンテック㈱,

以下ナンノ)に変更,の7点である。

 また2012年の主な変更点は,仔魚の鰾形成に必要な 水面からの空気取り込みに重要な油膜除去装置(図1)

の設置期間の短縮(2011年:日齢7以降も開鰾率が低 かったため日齢20まで使用),2012年:日齢3~10)

と装置に供給する通気量を増加(約4倍)させた点,エ アストーンによる通気量をおよそ0.5L/分(以下,弱通 気とする)から0.1~0.2L/分(以下,微通気とする,

ただし後述の間欠通気区(30分につき15分間の通気停 止を日齢4~12の間,24時間継続)については2012 年も弱通気とする)に変更した点である。

餌料系列と餌料生物への栄養強化方法 2011年と2012 年における餌料系列を図2に,また飼育に用いた生物餌 料の栄養強化方法を表2に示した。シオミズツボワムシ Brachionus plicatilis sp. complex(クロレラ工業㈱,以下 ワムシ)の培養には粗放式連続培養法4)を用い,ワムシ の通常の飼育には,淡水クロレラ(生クロレラV12,ク ロレラ工業,以下V12)を残餌が出ない程度に連続給餌 した。また仔魚に給餌前のワムシの栄養強化には,2010 年以前はSV12,2011年はSV12または油膜の発生が少

表3.2011年と2012年の飼育試験の概要

4

3

2:30分につき15分間の通気停止を日齢4~12の間24時間継続

※1

※4 ※3

※3

3 ※3

20%/日流水

(6)

で,二つの試験を組み合わせた。一つは水面の油膜の除 去,すなわち全試験区とも前項で示した給餌前のワムシ の栄養強化をナンノのみで培養し,かつ油膜除去を徹底 するため,油膜除去装置の通気量を増大させたが,さら に日齢3または4~6の間,1日20%の飼育水をオー バーフロー(写真1)により換水し水面の油膜除去を行 う試験区(オーバーフロー換水区)を設けた。もう一つ 区①~⑤を設定した。すなわち,2011年の試験におい

て日齢15で半数程度,日齢25で大半の仔魚に鰾が形成 されたにもかかわらず,種苗生産終了時の形態異常魚の 割合が平均75%にも達したことから(表4),形態異常 魚の発現は仔魚前期の早い時期に鰾に空気を取り込み開 鰾できるかどうかで決定すると考えられた。そこで,開 口後の仔魚の開鰾に効果的な飼育方法を検討する目的

表4.アカアマダイ種苗生産結果の概要

写真1.オーバーフローによる換水

(7)

はその他の要因の除去,すなわち常時通気では水流によ り仔魚が流されてしまい水面に接触できにくく,またバ スポンプの水流は横方向の流れしかないため,仔魚が水 面付近へ移動し空気を取り込み開鰾する助けにはならな いと考え,間欠的に通気を行う区(間欠通気区,30分 につき15分間の通気停止を日齢4~12の間,24時間 継続)を設けた。

鰾の観察と形態異常の確認 2011年は日齢6~27の間 の2~3日おきに,2012年は日齢4~8までは毎日,

それ以降はふ化から1ヶ月経過まで数回,各試験区から 午前中に約10尾を抽出し,実体顕微鏡下で全長測定後,

鰾内のガスの有無を観察した。形態異常の確認は,種苗 生産終了時に全ての個体の数を計数しながら一尾ずつビ ーカーに入れて肉眼で観察し,脊椎骨に屈曲がみられる 個体を形態異常魚とした。なお,鰓蓋に異常のある稚魚 がわずかに確認されたが,今回の解析では形態異常魚に 含めなかった。

GLQ 装置の殺菌能力の確認 高出力低圧ランプ搭載殺 菌装置(GLQ)の殺菌能力について,装置内をクエン 酸で十分に洗浄,重曹で中和した後,マリンアガー 2216培地(Marine Agar 2216,Difco)を用いて,処理前 後の砂ろ過海水中の生菌数,及び過去に発生がみられた VNNやエピテリオシスチス症などの重篤な疾病等の発 生の有無について確認した。

結  果

種苗生産結果 2011年及び2012年における種苗生産結 果を表4に示した。2011年は5kL水槽2面,3kL水槽4 面の計6面に受精卵354,000粒を収容し,得られたふ化 仔魚304,000尾(ふ化仔魚時の飼育密度:平均13,818 尾/kL)を用いて種苗生産を行い,約2ヶ月後に28,340

尾(平均1,491尾/kL)を取り上げた。ふ化から取り上

げまでの生残率は平均で10.8%(うち一面は日齢52に 廃棄したため,生残率の算出には用いなかった),形態 異常率は平均で75.6%であった。2012年は5kL水槽2 面,3kL水槽3面の計5面に受精卵340,980粒を収容し,

得られたふ化仔魚195,500尾(ふ化仔魚時の飼育密度:

平均10,289尾/kL)を用いて種苗生産を行い,約2ヶ月 後に32,623尾(平均2,330尾/kL)を取り上げた。ふ化 から取り上げまでの生残率は平均で22.0%(うち一面は 原因不明の斃死で日齢16に全て斃死したため,生残率 の算出には用いなかった),形態異常率は平均で2.2%

であった。2011年と2012年の結果を比較すると,生残 率で2倍,形態異常率では1/35まで低下した。また 2012年の試験区のうち,間欠通気とオーバーフロー換 水を併用した飼育では,形態異常率が0.5%まで低下し た。

飼育試験結果 2011年,2012年の飼育試験とも,飼育 水の加温についてはヒーターの能力が低く,飼育水を1

℃程度上昇させる程度の能力しか得られなかったため

(図3),加温,無加温飼育水槽間において成長,生残及

び形態異常率に違いは確認できなかった。ワムシの栄養 強化については,ナンノを使用した試験区④の生残率が 最も高く(16.3%),かつ形態異常率が低かった(65.2%)。

しかし,形態異常率は平均の75.6%よりは低いものの,

過去の種苗生産結果と比較すると高かった。生残率につ いては平均で10.8(6.0-16.3)%であり,試験区により 差がみられたが,これは種苗生産後半に発生した滑走細 菌症及びそれに伴う沈降死が主な原因と推察され,種苗 生産前半は各試験区間に差はみられなかった。

 2012年の飼育試験では,オーバーフロー換水や間欠 通気の有無で試験区を設け形態異常率の推移を調べた が,両方を行わなかった試験区②では2.6%(12,884尾 中335尾),両方行った試験区③では0.5%(5,857尾中 28尾),間欠通気のみ行った試験区④では2.4%(6,869 尾中162尾),オーバーフローのみ行った試験区⑤では 2.5%(7,013尾中178尾)であった。両方行わなかった 試験区②と両方行った試験区③の間でχ2検定(有意水

準1%)を行った結果,試験区②は5kL水槽,試験区③

は3kL水槽を用いているため単純には比較できないも のの有意差があると判断された。また同じ3kL水槽を 用いた試験区③と,オーバーフロー換水または間欠通気 のどちらか一方のみを行った試験区④及び⑤との間でも 有意水準1%で有意差があった。しかし両方行わなかっ た試験区②と試験区④及び⑤の間には,有意差はなかっ た。

 生残率については平均で22.0(範囲:16.3-27.1)%で あり,試験区による差は比較的小さかったが,2011年 と同様に種苗生産前半よりも後半に多く斃死がみられ た。図4に試験区②~⑤における日齢30から取り上げ までの生残率の推移を示した(生残率100%は日齢3の 計測値,それ以外は取り上げ尾数から死亡尾数を減じた 数値)。疾病については,2011年及び2012年とも種苗 生産後期に滑走細菌症様の斃死及び蝟集,狂奔行動に関 係すると思われる斃死が発生した。いずれの試験区にお いても日齢30以降は毎日少量の斃死が継続し,日齢30 から取り上げまでに2/3程度の稚魚が斃死した。斃死魚 を観察すると尾鰭等にただれや欠損がみられ,その付近 を顕微鏡で観察すると滑走細菌様のコロニーや運動性の ある細菌が認められた。また斃死の多い水槽では尾が白 くなり衰弱した仔稚魚がふらふらと遊泳する様子が観察 されることもあった。しかし2011年に回収された衰弱 魚及び斃死魚には形態異常がみられたが,2012年に回 収されたそれらには形態異常がほとんど確認されなかっ た(写真2)。

 薄暮時の点灯については,水面全体を弱い光で照らす ことで狂奔行動が抑制された。また消灯,点灯時に発生

(8)

図3.各水槽の水温変化

2011年の①~⑥,2012年の①~⑤は表3,4の試験区に対応 2011年:③は日齢55,④は日齢27から加温,⑥は日齢52で廃棄 2012年:①は日齢16で廃棄

(9)

図4.2012年の試験区②~⑤(表3,4の試験区に対応)における日齢30から取り上げまでのアカアマダイ生残 率の推移

生残率100%は日齢3の計測値,それ以外は取り上げ尾数から死亡尾数を減じた数値

2011年に回収された稚魚

(ほとんどが形態異常魚)

写真2.底掃除時に回収される衰弱・斃死魚

2012年に回収された稚魚

(形態異常魚はほとんどみられない)

(10)

する狂奔行動ついては比較的短時間で終息し,斃死との 関係は認められなかった。さらに昼間の蝟集は,ナンノ を添加することにより抑制された。

開鰾率と成長 図5に2011年の各水槽及び2012年の各 試験区におけるアカアマダイ仔魚の開鰾率の推移を示し た。2011年では日齢25~30には開鰾率がほぼ100%

に達したものの,それまではおよそ50%で推移してい た。それに対し2012年ではすべての試験区で,日齢4 以降急激に開鰾が進行し,日齢7から遅くとも日齢10 には観察したすべての仔魚が開鰾していた。図6に 2011年及び2012年の各試験区における仔魚の成長を示 したが,2012年では日齢40から55の成長速度はすべ ての試験区でほぼ同等(12~13mm)であった。

GLQ 装置の殺菌能力 2011年に試験的に用いた高出力 低圧ランプ搭載殺菌装置(GLQ)と既存の紫外線殺菌 装置を用いた試験区を設けたが,過去に発生がみられた VNNやエピテリオシスチス症などの重篤な疾病は,い ずれの試験区においても発生しなかった。なお, GLQ の殺菌能力については,処理前の海水では1mL当たり 102/mLオーダーの細菌が検出されたが,処理後の海水 からは検出されなかった。

考  察

 アカアマダイの種苗生産を進めていく上での主な問題 点は大きく分けて2つ存在する。一つは形態異常の出 現,もう一つは浮上死,沈降死及び蝟集や狂奔,疾病に よる死亡である。

 形態異常については,2011年に生産した稚魚のおよ そ75%にみられたが,2012年の稚魚ではわずか2%に まで減少した(表4)。また2012年の試験区において日 齢4以降,特に日齢4~6の間に急激な開鰾率の上昇が みられ,日齢10では観察した仔魚すべてが開鰾してい

た(図5)。その後一部の試験区で開鰾していない仔魚

が確認されたものの,ほぼすべての仔魚が日齢10まで に開鰾したと推測された。北島らは,マダイにおいて摂 餌開始期から始まる空気呑み込み(開鰾)及び未開鰾と 脊柱前彎症との関連を報告し,マダイ鰾は気管が閉塞後 も開腔(開鰾)するが,これは空気呑み込みによるもの ではなく,循環系によるガス交換能の発達によるとして いる。さらにふ化後40日以降で開鰾した稚魚では高い 前彎症が発生したことを報告している5)。アカアマダイ でも,気管が機能する段階で空気を呑み込めなかった個 体は,マダイと同様な機能により,最終的には開鰾した としても大部分の個体は形態異常を発生すると想像され る。またマダイの場合,気管が機能する段階は全長3.5

~4.5mm(ふ化後3~15日)の間と,比較的長期にわ

図5.各試験区におけるアカアマダイの開鰾率の推移

2011年:点線,2012年:実線,2011年①~⑥,2012年①~⑤は表3,4の試験区に対応

(11)

た試験区よりも,両者を併用した試験区の方が形態異常 率が有意に低かった(表4)。このことは,オーバーフ ロー換水による油膜除去と間欠通気による水面波の制御 を併用することが,単に水面の流れが空気の取り込み行 動を阻害するといった要因の他に,通気をしなかったこ とでオーバーフローによる油膜除去の効果をより高めた ことが理由と推察している。しかし,今後,効果の再現 と共に仮説の検証が必要である。

 本研究では2011,2012年の種苗生産において浮上死 を観察することはなかった。浮上死はふ化直後から数日 間に発生する7)。山本ら7)は油膜除去し過ぎると仔魚が 水面に張り付いて死亡するため,油膜除去には加減が必 要であると指摘している。またアカアマダイ以外の魚種 では,仔魚が通気のための気泡によって水面に運ばれ る,あるいは照度の上昇にともなって表層に移動し,粘 液の分泌と水面の表面張力によって動けなくなることに より死亡する現象が起こり,特にハタ類で顕著であると 指摘されている8)。日本海区水産研究所宮津庁舎によれ ば,水面と水中の照度と仔魚の分布状況を調査したとこ ろ,仔魚は1,000Lx以下の暗い環境では水面に蝟集しや すくなるが,2,000Lx以上の照度を保てば仔魚を水面下 に分布させることができるとしている9)。島根県では 2008年から水面に500Wレブランプや蛍光灯を設置し,

500~2000Lxの高照度を維持していることから,顕著

な浮上死が発生していないと推察される。浮上死につい ては魚の浮力が高いふ化直後には特に注意が必要である たるが,アカアマダイの場合は形態異常魚の割合の高さ

から考えて,気管が機能する期間がマダイと比較して短 いか,取り込むタイミングがマダイとは異なっており,

例えば早い時点で取り込まないと形態異常が生じるなど マダイとは異なる可能性が考えられるが,これについて は今後検討が必要である。

 さらに開鰾には水面の油膜除去が重要で,小型水槽で あっても油膜回収器の設置により鰾開鰾(開腔)率は大 きく上昇することが指摘されている6)。当所でも油膜除 去装置を設置し,積極的に油膜除去を行ったにもかかわ らず2011年の開鰾率は2012年よりも低かった(図5)。

この要因として,小型水槽ではわずかな油膜の残存のほ かエアレーション等により水面に流れが起きやすいた め,大型水槽よりも仔魚が安定的に空気を取り込むのが 難しいとの仮説を基に,対策として油膜の発生しにくい ナンノの活用や油膜の除去と同時に,通気量を少なくす ることや間欠的に通気を行う飼育方法を2012年の飼育 で試みた。なお,2012年にナンノのみとした理由は,

2011年の結果からアカアマダイ仔魚はナンノのみによ る栄養強化でも生残率は他の試験区と差がないかむしろ 高く,仔魚の栄養要求を満たしていると判断されたこ と,また2011年にナンノで栄養強化したしたワムシを 用いた水槽は油膜や水面の汚れの発生が少なく,開鰾率 の向上につながると考えられたことによる。その結果,

日齢10までに,ほぼすべての仔魚が開鰾し(図5),さ らにオーバーフローと間欠通気をそれぞれ単独で実施し

図6.各試験区におけるアカアマダイ仔稚魚の成長

2011年:点線,2012年:実線,2011年①~⑥,2012年①~⑤は表3,4の試験区に対応

(12)

DHAが不足すると活力の低下が起こるとされている15)。 ナンノにはDHAが含まれていないためアカアマダイ仔 魚の活力が低下していた可能性も考えられる。そこで,

日齢30からの斃死を防止するため,開鰾以後はDHA

等のn-3HUFAを多く含む植物プランクトンを給餌した

ワムシを供給することで,健苗性を高めることが必要で あると考えられる。

 なお日没時や日出時の自然光の差し込みにより発生す る蝟集,狂奔行動に関係すると思われる斃死が発生した 際は水面全体を弱い光で照らすことにより狂奔行動を抑 えることが可能であった。さらに,昼間に発生する蝟集 の場合はナンノの添加により,蝟集行動が抑制された が,これは照度や透明度の低下が原因と想像された。

 これらの各種取り組みにより,これまで小型水槽での 種苗生産が難しいと考えられたアカアマダイでも容量 1kL当たり一千尾以上の生産と,形態異常魚の割合を 2%まで下げることに成功した。

 始めに述べた紫外線殺菌装置等の活用やオキシダント 海水による受精卵の洗卵等の2010年までの諸点改良の ほか,2011年,2012年に試験を実施した,①通気は微 通気,もしくは間欠通気にして水槽の四方に配置し,酸 素通気を併用,②飼育水の攪拌を十分に行うため,バス ポンプの放出位置に配慮,③水位を落とした後,元の水 位まで注水する換水方法ではなく流水による連続換水,

④蝟集,狂奔の抑制のため日没,日出時に低照度の光を 水面に照射,⑤仔魚給餌前のワムシの栄養強化と飼育水 に添加する植物プランクトンにはナンノを使用,⑥油膜 除去装置の通気量に配慮,等が飼育技術のポイントとな ると考えられる。

 形態異常については,引き起こす可能性がある要因を できる限り排除することで,形態異常率を大幅に低下さ せることができたが,実施した試験の中でどの要因が最 も効果的であったかについては特定できず,また,飼育 後期の連続した斃死の防除についても今後の課題として 残されている。本研究の結果を踏まえ,さらに最適な飼 育方法を確立させていくことがアカアマダイ種苗生産を 安定的に進めるために重要である。

 本研究において2011年に基本的な飼育方法の見直し,

すなわち通気方法,飼育水の攪拌方法,換水方法等を変 更し,2012年に形態異常魚の割合を低下させる取り組 みを行った結果,生残率と形態異常魚の割合といった観 点から,小型水槽による種苗生産で基本となる飼育技法 を開発できた。この成果は,容量の小さい水槽での種苗 生産を可能とし,さらに,各種飼育条件を明らかにする ための飼育条件への応用が期待できる。

謝  辞

 本試験をすすめるにあたり,親魚の確保にご協力いた だいたJFしまね平田支所,及び管内の漁業者の皆様,

と考えられるが,本飼育試験で浮上死が発生する時期に 仔魚の減耗が起きていないことから,光の調節,通気量 の削減,通気不足を補うための酸素供給,バスポンプの 稼働等によって,ある程度解決できているものと考えら れる。

 後期の沈降死については滑走細菌によることが知られ ているが,通常日齢7までに観察される沈降死につい て10),この間に目立った斃死は認められなかった。沈 降死については,主として仔魚が夜間に水槽底に沈降し て死亡する現象であり,仔魚が沈降する原因及び死亡要 因は明らかにされていないが,例えばクロマグロの場 合,水槽底との接触で生じる外傷や病原細菌の侵入等が 死亡の原因と推察されており11),これについては,水 中ポンプを用いて沈降死を防止する方法10)や夜間通 気11)が考案されている。また,升間らは,アカアマダ イの初期飼育時に24時間照明を行うことで1日のワム シ総摂餌数を増加させ,その結果初期の成長を早めると 共に沈降防止による初期の大量死亡を防除する効果があ ることを指摘している12)。本研究では2011年及び2012 年とも日齢10まで24時間照明及びバスポンプを用いた 飼育水の攪拌を実施し,2011年,2012年共に大量死は 発生せず,両飼育方法の併用の効果であったと推測して いる。

 疾病のうち過去に発生のみられたVNNやエピテリオ シスチス症などの重篤な疾病は両年ともみられなかっ た。このことはGLQや紫外線殺菌装置が,これらの疾 病の防除に対し有効に働いていることを示している。ま たGLQはフィルター処理を施さない砂ろ過処理のみの 海水であっても十分に殺菌できる能力を有することが確 認された。

 滑走細菌症様の斃死については,オニオコゼの事例13)

と同様に,特に細菌相や数の変化が激しいと思われる底 掃除開始後に発生したため,発生後は換水率を高くし,

底掃除の頻度を上げるなどで対応したが,少量の斃死が 長期にわたって継続した(図4)。清川ら13)はオニオコ ゼの種苗生産においてニフルスチレン酸ナトリウム製剤 による薬浴や養殖環境改善剤の添加により,ビブリオ属 細菌数を減少させて生残率を高めることができたとして いる。また,ナンノまたはナンノの培養水は飼育水の細 菌叢に影響を及ぼすとされている14)。アカアマダイ種 苗生産でも2012年の日齢30前後の斃死発生時にいくつ かの水槽においてナンノの添加量を増やすことにより,

わずかながら斃死が減少したケースがみられたことか ら,ナンノの添加により,仔稚魚に有害な細菌の増殖が 抑制されている可能性があると推察されるが,その後も 斃死は続いて発生したことから,養殖環境改善剤の添加 など,さらなる防除方法の検討が必要である。

 このように本研究において観察された,日齢30頃か ら発生する長期間継続する斃死については防除すること ができなかった。マダイ,ヒラメなどの海産仔稚魚では

(13)

シ類の培養ガイドブック,栽培漁業技術シリーズNo.6,㈳

日本栽培漁業協会,東京,80-81pp.

5) 北 島 力・ 塚 島 康 生・ 藤 田 矢 郎・ 渡 辺 武・ 米 康 夫

(1981)マダイ仔魚の空気呑み込みと鰾の開腔及び脊柱前 彎症との関連.日本水産学会誌,47(10), 1289-1294.

6) 川辺勝俊・木村ジョンソン(2008)油膜回収装置によるア カハタ仔魚の鰾開腔率改善.水産増殖,56(4),613-617.

7) 山本健也・南部智秀・安成 淳・原川泰弘(2009)新規栽 培魚種開発事業,アカアマダイの種苗生産・放流技術開発,

山口県水産研究センター事業報告,39-46pp.

8) 平田喜郎・浜崎活幸・照屋和久・虫明敬一(2009)マハタ およびクエ仔稚魚の成長にともなう体密度の変化.日本水 産学会誌,75(4),652-660.

9) 水産総合研究センター栽培漁業センター(2004).アカア マダイの初期生残率の向上~形態異常率も軽減~トピック スNo.048.http://ncse.fra.affrc.go.jp/00kenkyu/001topics/060to pics_048.html.

10)武部孝行・小林真人・浅見公雄・佐藤 琢・平井慈恵・奥 澤公一・阪倉良孝(2011)スジアラ仔魚の沈降死とその防 除方法を取り入れた種苗量産試験.水産技術,3(2), 107-114.

11)宮下 盛(2006)種苗生産における浮上および沈降死.日 本水産学会誌,72(5),947-948.

12)升間主計・町田雅春・竹内宏行・中川 享(2010).日本 海リサーチ&トピックス,7,10-11.

13)清川智之・佐々木 正(2005)オニオコゼ仔稚魚飼育にお ける大量斃死軽減のための2,3の試み.栽培技研,32

(1),5-13.

14)佐藤利夫・山本倫久・勢村 均(2000)イワガキ浮遊幼生 飼育水の細菌叢に及ぼすNannochloropsis sp.培養液の影響.

日本海水学会誌,54(2), 102-110.

15)竹内俊郎(2001)栄養要求に関する基礎理論,栽培漁業技 術体系化事業,基礎理論コース テキスト集XIV -魚介類 幼生の栄養要求と餌料の栄養強化-.㈳日本栽培漁業協会,

東京,1-32pp.

また親魚の搬入にご協力いただいた出雲市水産振興課及 び松江水産事務所の皆様,また島根大学の佐藤利夫教授 との共同研究を通して高出力低圧ランプ搭載殺菌装置

(GLQ)を長期にわたり提供頂いた東芝ライテック株式 会社,島根大学・佐藤研究室からインターンシップで来 所され,仔魚の飼育や測定など多岐にわたって積極的に ご協力いただいた土江麻代さん,尾ノ上真人さん,福井 惇さん,高橋慶行さんに心よりお礼申し上げます。

 また稿を終えるに当たり,種苗生産に協力いただい た,加藤栄子さん,形岡靖子さん,平塚寛子さん,山本 トキ子さんほか職員各位に深謝いたします。

 なお,本研究は日本海ブロック水産業関係研究開発推 進会議「アカアマダイ分科会」における飼育技術につい ての情報交換が可能であったことにより遂行できたと考 えます。終始ご指導,ご助言をいただいた近畿大学水産 研究所升間主計博士(元独立行政法人水産総合研究セン ター日本海区水産研究所資源生産部長),をはじめ,山 口県水産研究センター山本健也,南部智秀両専門研究 員,また分科会に参加されていたメンバーの皆様にこの 場を借りて厚くお礼申しあげます。

文  献

1) 石田健次(2003)しまねの魚(アカアマダイ).山陰中央 新報社,島根,16-17pp.

2) 本藤 靖・村上直人・渡辺 税・竹内宏行・藤浪祐一郎・

津崎龍雄(2001)人工授精によるアカアマダイの種苗生産.

栽培技研,28(2),73-79.

3) 河野光久・天野千絵(2008)日本海南西部海域におけるア カアマダイの産卵期・産卵場及び死魚の出現.山口県水産 研究センター研究報告,6,31-36.

4) 日野明徳(2000)新しく開発された連続培養法.海産ワム

図 3 .各水槽の水温変化

参照

関連したドキュメント

〜10cm の種苗を合計 789 尾放流した.種苗は,水 試(旧栽培漁業センター)と協会が試験放流用に 平成 20 年 12 月から種苗生産したもので,放流当 日までに全長

  (1)購入種子量:      kg

4.円錐形水槽の水時計の作製 円錐形水槽に 14ℓのバケツを使用する(図-4) 。バケツは、

Hideaki AIKAWA * はじめに 神奈川県のアユの種苗生産事業は県下の内水面漁業

14 ホンダワラの種苗生産 ゼで覆ったパイプを取り付けた。水槽は,育成中の光

2) ふ化仔魚48万尾を用い飼育試験を行った結果, 全長30mmの稚魚26.0万尾(生残率:54.2%)を 生産した。

別言語のタイトル Seed Production of the Scallop Chlamys nobilis (REEVE) II : Mixture Diet of Marine Yeast and Chlorella

養殖魚種多様化技術開発事業 (オオモンハタ) 今吉雄二,神野公広,神野芳久,池田祐介