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子どもの事故予防の視点

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Academic year: 2021

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第68巻 第1号,2009(3) 3

提 言

子どもの事故予防の視点

別所文雄(杏林大学医学部小児科)

 相変わらず子どもの事故のニュースが後を絶たない。一つ報告されて対策が取られると少し違った 別の事故が発生するといった追い駆けっこのごとくである。このことは,起こった事故の分析とそれ に基づく解決は重要であるが,それだけではすまない事故発生の原理が存在することを示唆している ように思われる。

 私事になって恐縮であるが,改めて子どもの行動の不思議さを身にしみて知ったことがあるので取 り上げてみたい。先日1歳の誕生日を迎えたばかりの孫がやってきた。来るという予告があり,どん な発達段階であるかも常々聞いていたので,それに応じた整理整頓を心がけていたつもりであった が,いざやって来るとほとんど意味がないことが分かった。整理整頓を子どもの目線でやったつもり であったが,実際には空間的な目線でやっただけでは不十分であることに気づいた。

 キョロキョロ見回していた目線が一カ所に固定すると同時に急にシャキッと緊張が走る。その目線 を辿ると決まってそこには大人の感覚では何でそんなものをと思うようなものがあり,与えられたお もちゃを放り出してそのものに向かってまっしぐらである。目線は空間的なものだけでなく,目の奥 にある脳の働きを含めて考える必要がある。また,発達の段階により危険の内容が変わってくること は当然であるが,問題は発達も決して静的なものでなく,極めて動的なものであることである。はい はいで動き回るようになったころは知っていたので,2階の階段から落ちないように注意し,階段の 下にいるようにすれば安心と思っていたところ,あっという間に2階に這い上ってしまいあわてて後 を追うような羽目にもなった。マンション生活では経験できない冒険に心をかき立てられたに違いな い。これではまだ大丈夫と思っていたことが原因でおこる事故が減らないわけである。

 こうみてくると,この発達段階だからこれこれに注意しなければならないといったやり方では追い つかないことは明らかである。子どもは高いところが好きで上ろうとするし,狭いところを通り抜け ることも大好きである。すべてが見えるものよりも物陰にあり一部が隠れているものに興味を持つ。

出来ないことをやってみることで出来るようになる,このようにして子どもは発達していくのであろ う。子どもばかりでなく,人類の発達も同じような過程でなされてきたのであろう。ただそこに山が あるから登るのではなく,困難な登山を成し遂げようとする冒険心があるからエベレストにも登ろう としたに違いない。動物も山があれば登るだろうが,エベレストの頂上にまで登ることはないであろ う。このような冒険心こそヒトと他の動物との違いの一つに違いない。そうだとすると,子どもの周 りから危険物をすべて除き去り,危険を伴う行動をすべて禁止するということは,それが可能だとし ても,望ましいことではないことは明らかである。危険に満ちたこの世界を大過なく過ごしていく術 を教え,実践していくことを補助することも事故防止のために行うべきことの一つと認識し,そのた めの方策を研究する必要があるように思われる。

 このような身の回りの危険を回避するための教育は,周囲にいてそのような危険に一緒に接する経 験者たち,その中でも特に親たちが行ってきた。たとえば,細い棒をくわえて走り回ってはいけない,

回転ドアで遊んではいけないといったことを親から言われた経験がある。しかし,親にそのような能 力が欠けてしまっている現在,誰かがその代わりをすることが必要である。小児科連絡協議会の少子 化対策プロジェクトの提言にあるように,子どもにとっての遊びの意味の再確認と遊びのリーダーの 養成等を含む地域の子育て連携の構築を進めることを提言したい。

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