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JR EAST Technical Review-No.36
S pecial edition paper
現在のシステム検討の課題
2.
2.1 個別システム検討の課題
現在の当社の首都圏の列車運転に関連するシステムに は、ATOSに代表される輸送管理や進路制御に関わるシス テム、D-ATCなどの列車制御に関わるシステム、TIMSと呼 ばれる車 両 制 御に関わるシステムなどがある。 さらに、
ATACSの首都圏対応を想定した開発や次世代の車両制御 システムなどの開発が進められている。
先にも述べたように、これまでは、個々のシステムは、それ ぞれが独立に検討、開発されてきた。特に、車両(車上)
のシステムと地上のシステムとの間は、情報をやり取りするた めの伝達手段の選択肢も少なく、伝送可能な情報量も少な かったことから、結びつきは限定されていた。
システムを個別に検討することの問題点(デメリット)には 以下のようなことが考えられる。
列車の運行は、車両設備、地上設備や乗務員をはじめメ ンテナンス担当も含めた多くの係員とからなる非常に大掛かり な仕組みである。とくに首都圏においては、非常に多くのお 客さまの移動を支えるため、多くの線区に膨大な数の列車を 運行させる必要がある。また、速達性や利便性を高めるた めに、快速運転など複数の列車種別の設定や、直通運転 区間の拡大などにより、運行形態は複雑になっている。この ような膨大で複雑な首都圏の列車運行を支えるために、輸 送、信号、車両といった各分野において、これまでに各種の システムが開発され、実際に運用されている。
それらのシステムは、そのときどきの必要に合わせた施策 に対応しながら、そのときどきの技術を取り入れ発達してきた。
また、システムの置換えのタイミングがそれぞれ異なることもあ り、相互の関連はもちつつも、独立して進化、発展してきた。
最近の情報通信技術の発達はめざましく、処理能力の高 速化や情報伝送の高速・大容量化などにより、システムで扱 われる情報量は増加し、システム相互でやり取りされる情報も 増えてきた。このため、次第にシステム相互の結びつきが強 くなってきている。そこで、これまでどちらかといえば個別に 議論してきたシステムを、もう少し広い範囲で検討することが 必要となってきた。本稿では、列車運行にかかわるシステム について、トータルな視点で検討するための仕組みについて これまで試みてきたことを紹介する。
次世代の首都圏鉄道 システムの取組み
●キーワード:首都圏、鉄道システム、ニーズオリエンテッド
次世代の首都圏鉄道システムの検討においては、これまで独立に開発されてきた列車運行に関わる各種システムをトータルで検 討することを進めてきた。その過程で試みたシステムの概略検討のための手順や枠組について整理し、紹介する。今回の取組み では、現在の技術水準や組織、ルールなどの制約条件にとらわれず、また従来の技術指向型のアプローチから、あるべき(作りた い)姿を出発点に進めるニーズ指向のアプローチへと軸足を移したことが最も大きな特色である。
今回提示した検討アプローチ手順や枠組は、まだ途上にあり、望むべき10年後の状態(=目標レベル)についても見直しが必要 となる場合も考えられる。開発のスケジュール、方向性、目標レベルなどと設備更新の施策との整合をとるためにも、検討プロセスを
継続的に、繰り返し実施していくことが肝要である。
1. はじめに
是此田 真由美* 川崎 博史* 田中 康裕*
*JR東日本研究開発センター 先端鉄道システム開発センター
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図1 列車運行に関連するシステムの例(首都圏)
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Special edition paper
(1)システムをトータルで見る視点が不足
① 他のシステムについては、おもに接続部分しかみないた め、全体像がわかりにくい。
②システムの特徴やねらいなどが共有されない。
③ 個別検討の場合、個々のシステムの範囲内では合理的 であっても、システム全体で見たときに、整合性がとれ ていなかったり、ムダや非効率が生じる場合がある。例 えば、同じデータを複数の箇所で生成、格納していたり、
別々のシステムでの同じような処理をしていたりなど、デー タの持ち方や処理に重複があるなどである。
(2)設備や車両の更新施策と開発の整合や連携が不足 地上システムと車両(システム)の更新の施策の実施時 期はまちまちで、同じ線区であっても必ずしも一致しない。地 上システムと車両システムは個別の検討のため、同一線区で みると、スケジュールのずれから、方向性、目標レベルなどに ついて整合性やシステム間の連携がみえにくく、設備更新直 後に他のシステムとの新しい連携のための改修が必要とるな どの手戻りや機能の制約、不整合などの事象が発生するお
それがある。
また、開発部門が設備更新などの施策実施時期を意識し なければ、機能開発が更新時期に間に合わない場合や、逆 に、成果が速やかに活用できないなど、タイミングがずれるこ とによるムダが生じる。
個別の検討では、このような不都合な事象の連鎖を断ち 切ることが難しい。
2.2 システムをトータルで考える場の提案
前述のようなデメリットを解消するため、「輸送管理システム」
「車両制御システム」「列車制御システム」について、統合 して検討する場(検討会)を提案した(図2)。検討会の役
割(目的)としては以下の2つである。
(1)システムをトータルで考える場
個別システムの検討ではできない、全体システムとしてのあ るべき(またはこうありたい)姿を考え、関係者間で共有す る場とする。
(2)ステアリングの場
「ステアリング」とは「かじ取り操作(装置)」のことである。
ここでは、個々のシステムの方向性、目標レベルなどについて、
全体像との整合性や連携がとれているかをチェックし、調整 するという意味で用いている。
また、システム更新のスケジュールを意識しながら、開発タ イミングの適正化をはかることも、大切な役割である。手戻り を極力排除し、相互の協調のとれた統一感のあるシステムと なるよう機能する場となることをめざしている。
ニーズ指向の検討アプローチ
3.
これまでの検討では、現状の技術水準や組織、ルールな どの制約条件を前提に考えることが多かった。現状の技術 を前提としたアプローチでは、「こんな技術がある」ので「こ んな機能が実現できる」という発想になりやすく、現行の制 約、重複、非効率などを解消しきれないことが考えられる。
また、将来への継続性に配慮しなければ、現状の身近な課 題の解消はできても、すぐに陳腐化し、技術の進展や、ニー ズが高度化してきた場合に対応できなくなることなどが想定さ れる。
そこで、これまでどちらかといえば技術主体であったアプ ローチから、継続可能な検討アプローチとして、現在の制約 条件をいったん除外し、現状にとらわれ過ぎずにシステムのあ るべき姿を検討する「ニーズ主体」のアプローチとなることを
指向した(図3)。
このアプローチを経て、あるべき姿や目標とする状態を探索 していく過程について述べる。
3.1 システムの目的と範囲
次世代の首都圏鉄道システムでは、ICTを活用し、地 上−車上システムを最適化することにより、「安全性の 向上」、「(輸送の)強靭性の向上」、「(輸送の)柔軟性の
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図3 ニーズ指向の検討アプローチ
図2 システムをトータルで検討する
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JR EAST Technical Review-No.36
巻 頭 記 事
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特 集 論 文 1
3.3 目標状態を実現するための機能抽出・配置 目標とする状態項目ごとに、機能の定義・概要と必要とな る情報(入力)、出力する情報を整理する(図8)。
次に、それらを情報ネットワーク上に配置してみる。この 際、情報の出入り(流れ)、機能の類似性、機能が展開 される場(車内、指令、区所)などに注意を払いながら 配置する。さらに、情報の流れに着目し、配置を見直し機 能の統合や分離を検討する。これにより大まかな機能の分 担をする(図9)。
次に、情報量、コスト、情報の更新周期、必要となる情報 の信頼度などを考慮し、機能配置を修正する。実現可能な 向上」、「環境負荷低減」、「ローコストオペレーション」を
めざすものである(図4)。
情報通信技術を活用した情報ネットワークを構築し、情報 の流れに着目して機能の配分を見直すことで、個別に発達 させてきたこれらのシステムについて重複や非効率を極力解 消することが必要である。
なお、システムの検討範囲としては、列車・車両の制御お よび輸送計画、運行管理、(運行に関わる)情報提供を対
象とした(図5)。
3.2 目標レベルの設定
「安全性の向上」、「(輸送の)強靭性の向上」、「(輸送の)
柔軟性の向上」、「環境負荷低減」、「ローコストオペレーショ ン」の5つの項目(図6)について、目標となるレベルの設定 を検討した。
目標レベルは、数値に置き換えにくいものもあるため、数値 以外の目標設定の方法とした。「将来こうあるべきだ」という 状態(理想形・あるべき姿)と、現状の姿をそれぞれ状態(言 語表現)で記述し、現状から理想形へ至る中間の段階の 状態を到達すべき目標レベルとした。柔軟性について検討し た一部を抜粋して図7に示す。
目標レベルの状態記述の検討は、目的で取りあげた5つの 項目についてそれぞれ実施した。
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図5 システムの検討範囲 図4 次世代鉄道システムの目的
図6 目的となる5項目
図8 機能の整理 図7 目標レベルの設定例
18 JR EAST Technical Review-No.36
Special edition paper
技術レベルなどを考慮しながら、機能の実現方法の検討や技 術課題の抽出を段階的に具体化していく手順を提案している。
なお、簡単な情報の出入りのみでは、業務(処理)の順序 が必ずしも反映されていることにはならないため、ここでの検 討手順は、全体配置の概略検討のための手順として活用し、
個別システムの開発の際には、詳細な検討を要するものと考 える。
継続的な仕組みの維持
4.
ここまでに、目標レベルの設定から、機能実現のための技 術課題の抽出までの検討手順について述べてきた。このサイ クルは継続的に実施することが肝要である。
(1)あるべき姿や目標レベルの検討継続
あるべき姿(理想形)や目標レベル(状態)は、社会情 勢や経営状況の変化、技術の進展などにより変化しうるもの である。
また、この手順は、不確実な将来の姿をめざすべき姿とし て仮定し、そこへ至る道筋を目標レベルとしてプロットしていく ものであるから、そこへ踏み込んではじめて直面する現実を 見てから、必要ならば軌道修正を行うというアプローチである。
従って、状況変化をタイムリーに反映し、仮定の軌道修正 をすばやく行うために、継続的に(定期的に)検討プロセス を実施し、繰り返し見直しを行うことが必須である。目標レベ ルの検討が継続できるための何らかの仕組みを残し、取組み を続けていくことが課題である(図10)。
例えば、東日本大震災をきっかけに社会の要求水準の変 化や、新たなニーズが見出されることなども考えられるため、
目標レベルについて、今後、見直しが必要であると考えられる。
(2)ステアリングの継続
個々のシステムの方向性、目標レベルなどについて、全体 像との整合性や他システムとの連携がとれているかをチェック し調整するステアリングについても、継続的(定期的)な取
組みである必要がある。
また、システム更新などの施策のスケジュールも変化する ため、変化を反映し開発タイミングの適正化をはかるためにも、
定期的にチェック、修正する必要がある。
5. おわりに
次世代の首都圏鉄道システムを検討するプロセスや継続 的な取組みとするための仕組みを検討の手法として提案し た。従来の技術主導(テクノロジーオリエンテッド)なアプロー チから、ニーズ指向のアプローチへの変化がこの取組みの 特色である。
あるべき姿や目標レベルの「状態による記述」は、直接 的な技術ニーズの表現にはなりにくいため、コンセプトの域を 出ない。しかし、複数のシステムの集合体としての首都圏鉄 道システムについて、共通の目標をつくり、施策へのステアリ ングなどの検討を継続していくことは、システムを全体として 最適化し、あるべき姿に近付けていくために、意味があると 考える。
今後は、本アプローチを継続していきながら、検討手順の 改善も実施していきたい。
参考文献
1) 加藤保:輸送の安定性向上とお客さま指向,JR EAST R&D REPORT,No.79,pp1-2,2008,July
2) 辺田文彦,福井聡,古田良介:首都圏鉄道システムの革新 に向けて,JR EAST R&D REPORT,No.79,pp3-7,2008,
July
3) 中村泰之:首都圏鉄道システムの革新, JR EAST Technical Review, No.28, pp3-6, 2009
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図9 機能の統合・分離
図10 継続的な見直し検討