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fNIRS 時系列データに対する類似部分

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(1)

修士論文

fNIRS 時系列データに対する類似部分

自動抽出法の提案と検討

同志社大学大学院 生命医科学研究科 医工学・医情報学専攻 医情報学コース

博士前期課程 2012年度 1007

福島 亜梨花

指導教授 廣安知之教授 山本詩子教授

2013124

(2)

Abstract

I propose an algorithm to extract similar parts from two different time-series data sets of cerebral blood flow using functional Near-infrared Spectroscopy (fNIRS). This name is Multiple analogy Parts extracting algorithm (MaPea) . MaPea is capable of extracting not only parts that are exactly the same but also similar parts having a few differences.

And, it is able to extract similar parts having different sampling number. Since time series data of cerebral blood flow was reported to be affected by various factors and real data may therefore differ from a model system. Our proposed algorithm is also able to extract similar parts from sets of data including a time lag. In MaPea, each of the two different time-series data sets of cerebral blood flow is vectorized and the vectors from each set of data are evaluated for cosine similarities. The similar parts is found in the two sets of data are then extracted using the idea of Dynamic Programing. To confirm the effectiveness of MaPea, I had two experiments. At first, similar parts by MaPea were evaluated by visual confirmation and Dynamic Time Wapping (DTW). At visual confirmation and DTW, I found that MaPea was able to extract similar parts. I also found that a Low-pass filter was needed to process time series data of cerebral blood flow, when the data contained high-frequency noise. At second, I compared the analytical technique using t-test with that using MaPea That using MaPea was found brain activities according to neurovascular coupling comparing with that using t-test. From the above, it was suggested that MaPea is effective for fNIRS time-series data.

(3)

目 次

1 序論 1

2 functional Near-infrared Spectroscopy 2

2.1 神経血管カップリング . . . . 2

2.2 fNIRSの原理 . . . . 2

3 Multiple analogy Parts extracting algorithm 3 3.1 MaPeaの利点 . . . . 3

3.2 MaPeaのアルゴリズム . . . . 3

4 MaPeaで抽出された類似部分の評価実験 7 4.1 実験目的 . . . . 7

4.2 実験概要 . . . . 7

4.3 実験結果 . . . . 8

4.4 考察 . . . . 9

5 MaPeaによる類似部分を用いた解析手法の検討 10 5.1 実験目的 . . . . 10

5.2 実験概要 . . . . 10

5.3 実験結果 . . . . 12

5.4 考察 . . . . 12

6 結論 14

(4)

1 序論

functional Near-infrared Spectroscopy (fNIRS) 装置のような脳機能イメージング装置 の急速な進歩により,脳科学分野への関心が高まっている1)fNIRS装置は脳機能イメー ジング装置の中でも,神経活動に伴う,血流中の酸素が消費されることに起因する局所的 な脳血流変化 (神経血管カップリング) を計測する装置である2)

またfNIRS装置にはチャネル(以下,CHとする)と言われる多くの計測点が存在し,脳

活動を反映した脳血流変化の時系列データ (以下,fNIRS時系列データとする) はサンプ リングに優れている1).例えば,ETG-7100(日立メディコ製)と呼ばれるfNIRS装置では 120CHで,1CH10[Hz]のサンプリング周波数でfNIRS時系列データを取得する.この

ように,fNIRS装置は,データ量が多量であることが特徴の1つである.

fNIRS装置を用いたの研究の一例として,fNIRS時系列データの類似性に着目し,脳機

3)4)5)やノイズ除去法6)について検討する研究が報告されている.現在fNIRS時系列 データから類似部分を抽出する手法としては解析者の観察が一般的に用いられている.こ の手法では第一にfNIRS時系列データを観察し,類似部分を探索する.次にその類似部分 を観察によってfNIRS時系列データから抽出する必要がある.この手法では,類似部分の 探索・抽出に目視を用いるため,解析者に大きな負担を与える.また,類似の判断を解 析者が行っているため,類似部分の客観的基準が明確でない.以上より,複数のCHで観

測されたfNIRS時系列データから類似部分を抽出するには,類似部分を自動で探索,多量

のデータから抽出しなければならない.そこで,研究目的として複数のfNIRS時系列デー タから類似部分を自動で探索・抽出する手法の開発,検討を目指す.

本稿では,2つのfNIRS時系列データから類似部分を自動で抽出するアルゴリズムMul- tiple analogy Parts extracting algorithm (MaPea) を提案する.第二に,提案手法である MaPeafNIRS時系列データから抽出した類似部分を目視とDynamic Time Wapping

(DTW) により評価する.また,実際のfNIRS時系列データから抽出された類似部分を用

いた解析手法を検討し,従来のt検定を用いた解析手法と比較する.

MaPea2つのfNIRS時系列データから時間軸方向の伸縮を考慮することで,サンプル

数が異なる類似部分を自動で抽出する手法である.fNIRS時系列データ毎にベクトル化を

行い,2本のfNIRS時系列データが持つ各々のベクトル同士がなす角を算出することで類

似度を決定する.評価指標としてコサイン類似度を採用した.また,動的計画法(Dynamic

ProgramingDP)7)の概念を取り入れ,ベクトル同士のなす角を評価した.これにより,

類似部分の探索・抽出を高速化,サンプル数の異なる類似部分の抽出を可能にした.

(5)

2 functional Near-infrared Spectroscopy

fNIRS装置はFig. 2に示すように,近赤外光を頭皮上から照射し,その反射光の強度と

入射光の強度を計測することで大脳皮質を流れる酸素化ヘモグロビン,脱酸素化ヘモグロ ビン濃度変化量を可視化する装置である.計測に近赤外光を用いるため,人体に影響を及 ぼさない,functional Magnetic Resonance Imaging (fMRI)と比較し計測原理が単純であ るため,小型化しやすいなどの利点が挙げられる.

2.1 神経血管カップリング

神経血管カップリング(Neurovascular couplingNVC)とは,局所的脳活動の発生によ りその領域の血流が増加する現象である8)9)10)11).脳活動による局所的な血流増加がみら れる要因としては,神経活動に随伴して生じるさまざまな生化学的変化が血管拡張を引き 起こすからであると考えられている.fNIRS装置では,血流内の酸素化ヘモグロビン濃度 変化量と脱酸素化ヘモグロビン濃度変化量をfNIRS時系列データとして得ることが可能で ある.

酸素化ヘモグロビン濃度変化量のfNIRS時系列データの一例をFig. 1に示す.脳の活性 化領域では酸素化ヘモグロビン濃度変化量の増加を,脱酸素化ヘモグロビン濃度変化量の 減少を引き起こす.これは,神経活動時の酸素消費の増加を上回る,血流増加を反映して いるためと考えられている.また,その増加はFig. 1のようにfNIRS時系列データに長時 間の大きな波形の変化として表れる.

2.2 fNIRSの原理

fNIRS装置の原理は近赤外分光法 (Near-infrared SpectroscopyNIRS) を用いている

12).強度がIEの近赤外光を濃度が均一な散乱体に照射すると,物体を通過する際に散乱 や吸収が起こり,近赤外光は強度がIDに減衰する.この際,近赤外光の強度IEIDは,

(2.1)の拡張ランベルト・ベールの法則13)により定義される.ただし,ϵは散乱体のモ

ル吸光係数,∆Cは散乱体の濃度,Dは平均光路長,∆Sは散乱による影響を表す.

logID

IE =ϵ×∆C×D+ ∆S (2.1)

拡張ランベルト・ベールの法則を用いて,異なる近赤外光の波長特性を利用し,酸素化ヘ モグロビン濃度変化量と脱酸素化ヘモグロビン濃度変化量を計測する.fNIRS装置ではこ の原理を利用し,散乱体である大脳皮質内の酸素化ヘモグロビン濃度変化量と脱酸素化ヘ モグロビン濃度変化量を計測する.しかし,平均光路長DCH毎に異なるため,fNIRS 時系列データの数値は相対値であることに注意する.

(6)

3 Multiple analogy Parts extracting algorithm

Fig. 3のようにMaPea2つの時系列データに対し時間軸方向の伸縮を考慮し,同様ま

たは異なるサンプリング数の類似部分を抽出する手法である.MaPeaが抽出する類似部分 の定義として,fNIRS時系列データが成す波形形状の類似のみを考慮する.これは,fNIRS 時系列データが相対値であることに起因している.また,生体データには微小な時間軸方 向の差異も存在する.そのため,類似部分は波形の時間伸縮を考慮した,すなわち,サン プリング数が異なる類似部分も抽出する.

3.1 MaPeaの利点

MaPeaでは,以下の利点がある.

fNIRS時系列データが相対値であることを考慮し,時系列データの形状のみを捉え

た類似部分を抽出

脳血流変化量が持つ生体特有の微小な差異を考慮し,波形形状が完全一致するもの,

微小な差異があるものも類似部分として抽出

fNIRS時系列データの類似部分の時間軸方向の伸縮を考慮し,サンプリング数が異

なる類似部分も抽出

動的計画法 (Dynamic ProgramingDP) の概念を取り入れたことにより,General- Purpose Computing on Graphics Processing Units (GPGPU) を用いた高速処理 以上の4つの利点より,MaPeaは多くのCHを保有し,長時間脳活動を計測するfNIRS 置の利点を活かした解析ができる可能性がある.

3.2 MaPeaのアルゴリズム

具体的なMaPeaのアルゴリズムを以下で説明する.

MaPeaは大きく分けて3つのステップから構成される.第一に,fNIRS時系列データを

ベクトル化するステップである.次にベクトル化したfNIRS時系列データを用い動的計画 法に基づいて類似度を算出する.最後にベクトルによって算出された類似度を用い,類似 部分を抽出するステップである.

この章ではMaPeaにより比較される2つのfNIRS時系列データをAn=(xn,yn)Bm =(pm, qm)とする.ただし,nmは自然数である.

Step 1 fNIRS時系列データのベクトル化

Fig. 4のように,fNIRS時系列データのt秒のある1At(xt,yt)の脳血流変化量に 対し,その次点であるAt+1(xt+1,yt+1)との差を取り,ベクトルV ec At+1(xt+1xt, yt+1yt)を求める.これをfNIRS時系列データの全ての計測された脳血流変化量に 対して行い,ベクトル行列V ec An=(vec xn,vec yn)を求める.もう一つのfNIRS

(7)

時系列データBmに対して求めたベクトル行列をV ec Bm =(vec pn,vec qn)とする.

ベクトル化することによりfNIRS時系列データを1次微分に変換する.fNIRS時系 列データのある1点のベクトルを他方のfNIRS時系列データの持つベクトル行列の 全てのベクトルと比較する.これにより,1次微分の値が表す脳血流の単位時間変化 量,すなわち波形の形状のみを類似部分として考慮できる.

Step 2 ベクトル行列の正規化

求めたベクトル行列V ec AnV ec Bmy軸方向成分であるvec ynvec qmに対し,

今後のステップの計算時間を短縮するため正規化を行う.MaPeaではベクトル同士の成 す角を評価するため,単位円上にベクトルが存在するように1< vec yn, vec qm <1 に正規化する.なお,x軸方向成分である時間とy軸方向成分である脳血流変化量は 独立する単位であり,波形形状の情報,すなわち1次微分値であるy軸方向成分の み正規化を行う.時間t[s]におけるvec ytの正規化の式は式(3.1)のように表される.

なお,vec yn,vec qmの最大値を max,最小値をminとする.

vec Yt= 2

(vec ytmin maxmin 1

2 )

(3.1)

同様にvec qmに対し,正規化を行った結果をvec Qmとする.

Step 3 コサイン類似度を用いたスコアテーブルの算出

動的計画法では処理の高速化を図るためにFig. 5のようなスコアテーブルと呼ばれ る表を使い,表の中のセルの値を算出する.MaPeaでもと同様に,スコアテーブル を用いてベクトルのなす角の評価値を決定する.スコアテーブルでは,1つのセルに GPGPU1つのGPU (Graphics Processing Units)を宛がい,評価値を算出し,並 列処理を行う.

正規化されたベクトル行列vec Ynvec QmFig. 5のようにスコアテーブルのセ ルの順番に対応させる.次に,各セルの評価値を算出するためにスコアテーブルの1 行目と1列目に初期値0を設定する.1行目と1列目以外のi行目とj列目のスコア

S(i, j) の評価値を算出する.

i番目ベクトルのy軸成分vec Yij番目ベクトルのy軸成分vec Qのなす角の cosθi,j をコサイン類似度を用いて算出する.これはサンプル数の異なる2本の時系 列データの類似度を評価するAMSS (Angular Metrics for Shape Similarity)を参考 にした14).コサイン類似度とはベクトル空間モデルにおいて,文書同士を比較する 際に用いられる類似度計算手法である15).コサイン類似度はベクトル同士の成す角 を三角関数の1つであるコサインで表現するため,1に近ければ近い程類似してお り,-1に近ければ類似していない,方向の異なるベクトルとなる.i番目ベクトルの y軸成分とvec Yij番目ベクトルのy軸成分vec Qのなす角のcosθi,jを式(3.2) に示す.

(8)

cosθi,j = 1 +vec Yi×vec Qj

vec Yi2+ 1

vec Qj2+ 1

(3.2)

MaPeaではアルゴリズムの使用者自身がどの程度の類似を許容するかを決定できる

閾値αがパラメータとして存在する.この閾値αはコサイ類似度で考えられ,2つの ベクトル同士がなす角の大きさで指定できるので,使用者が直感的に類似を決定 できる.

実際にセルを用いた評価値の算出を以下に説明する.このセルを用いた評価値決定の 際,評価値に近隣のセルの評価値を用いることにより近隣のセルの類似度も考慮し ながら評価値を決定できる.また,類似していないという判断を行ったセルに対しペ ナルティを設けることにより,全体の類似度ではなく,類似している部分を抽出でき る.これは,DNAの配列アライメントの一種であるSmith Waterman16)17)を参 考にした.

第一に,cosθi,jと閾値αを比較する.cosθi,j > αの場合,すなわち,2つのベク トル同士を類似していると判断できる場合,式(3.3)のように計算する.この場合,

cosθi,j >0になるので,スコアS(i, j)は必ず増加する.

S(i, j) = max

S(i1, j1) + cosθi,j (cosθi,j > α)

0 (3.3)

cosθi,j < αの場合,すなわち,2つのベクトル同士が類似していないと判断できる

場合,fNIRS時系列データの時間方向の伸縮を考慮した類似ベクトルが存在するの

かを確認する.例えば,vec Ynvec Qmに対し,時間軸方向に対し縮小している と仮定する.この場合,vec Qjに対し,縮小している部分vec Yi1が対応している.

よって,類似していると判断できたベクトルはvec Qjvec Yi1であるので,この 2つのベクトルのコサイン類似度を評価値に用いる.また評価値S(i, j)S(i1, j) にコサイン類似度による評価値を加減するが,この際,時間伸縮を考慮しているため

Smith Waterman法と同様にペナルティとして減算表現をする.そのため,コサイ

ン類似度をcosθi1,j1とし,この値は必ず負数になり,ペナルティとしての減算 を可能にしている.以上より,スコアS(i, j)は式(3.4)cosθi,j < α,cosθi1,j> α の計算式になる.

S(i, j) = max

S(i1, j) + cosθi1,j1 (cosθi,j < α,cosθi1,j> α) S(i, j1) + cosθi,j11 (cosθi,j < α,cosθi,j1> α) 0

(3.4)

最後にどの条件にも当てはまらない場合,すなわち,時間伸縮を考慮しても類似して いないと判断できる場合は式(3.5)の計算式で計算する.

S(i, j) = max

S(i1, j1)1 (cosθi,j < α,cosθi1,j< α,cosθi,j1 < α) 0

(3.5)

(9)

このようにS(i, j)を算出し,スコアS(i, j)は類似度の加算で表現され,類似度が高 い程値が大きくなる.

スコアテーブル中の全てのセルにおいてS(i, j)の計算を行う.

Step 4 トレースバック

全てのセルにおいてスコアS(i, j)を計算した後,トレースバックを行う.スコアS(i, j) は算出する際に必ず近隣のセルの評価値を用いる.スコアを算出する際に用いたセ ルを辿ることによって,類似部分の軌跡を辿ることが可能になる.よって,スコア

S(i, j)の最大値を検索,その評価値算出の軌跡を辿ることにより,最も類似度が高い

部分の類似部分の抽出を可能にする.

(10)

4 MaPeaで抽出された類似部分の評価実験

実際に計測したfNIRS時系列データにMaPeaを適用し,類似部分を抽出した.その抽 出された類似部分に対して第一に目視確認により実際に類似している部分を抽出できてい るかどうか,また時間伸縮の許容を確認した.目視による確認後,客観的に抽出部分を評 価するために,時間伸縮を許容した類似度評価手法の一種であるDynamic Time Wapping により抽出部分の類似度を評価した.

4.1 実験目的

提案手法であるMaPeafNIRS時系列データに対し,自動で時間伸縮を許容して類似 部分を抽出できているかどうかを確認した.また,fNIRS時系列データから類似度の高い 類似部分を抽出できているかどうかをDynamic Time Wappingにより評価した.以上の 実験を通じて,MaPeafNIRS時系列データに対して類似部分を抽出する手法として有 効であるかどうかを検討した.

4.2 実験概要

本実験の実験概要を以下に示す.

4.2.1 fNIRS時系列データの取得

1つ目の実験では,fNIRS時系列データとして,GO/NOGO Task18)課題実験時のデー タを用いた.GO/NOGO Task18)Fig. 6のように注意の持続性を計測する課題であ り,心理学の分野で多く用いられ,fNIRS装置を使って脳機能を計測する研究も行われて

いる.Fig. 7のようにタスクシーケンスにはfNIRS装置での実験の際一般的に用いられる

ブロックデザインを採用した.被験者1名に静止状態30秒,脳活動を計測する課題として GO/NOGO Task120秒,静止状態30秒の実験を行った.

また,fNIRS装置としてETG-7100(日立メディコ製,日本)を使用した.ETG-7100 設定パラメータをTable 1,実験風景をFig. 8に示す.

この実験で得られた24CHfNIRS時系列データに対し,考えられうる全ての2CH 組み合わせで提案手法であるMaPeaを行い,類似部分を抽出した.本実験では,MaPea

の閾値αcos15に設定した.

4.2.2 目視確認による類似度評価

まず,目視確認によりMaPeaによる抽出部分の類似を確認した.また,時間伸縮を許容 して類似部分を抽出できているかどうかを確認するため,抽出された類似部分のサンプリ ング数の差が最大であるものの確認を行った.

4.2.3 Dynamic Time Wappingによる類似度評価

類似度指標の一種であるDynamic Time Wapping(DTW) を用い,MaPeaによる抽 出部分を評価した.DTWは時間伸縮を許容した時系列データの距離測定手法であり19)20)

(11)

時系列データのある1点と他方の時系列データの全ての点との距離を計算し,その中の最 小値の和を距離とする(Fig. 9).よって,DTW距離の値が小さい程,類似度は高くなると いう性質を持つ.DTWは音声認識の分野で用いられている.例えば,ある言葉をゆっく り話した音声データと速く話した音声データがあるとする.このデータは時間軸の伸縮比 率の異なるデータだが,DTW2つの時系列データの時間軸の伸縮を許容して距離を算 出するため,2つの音声を類似として判断できる.DTWは式(4.1)の計算式で算出される.

DT W(PQ) =f(npnq)

f(ij) =|piqj|+min

f(ij1) f(i1j) f(i1j1)

f(00) = 0f(i0) =f(0j) = (i= 1. . .npj= 1. . .nq)

(4.1)

本実験では,類似部分によってサンプリング数が異なるため,DTW距離の平均を類似度 評価の指標として用いる.また,fNIRS時系列データは相対値であるため,そのまま時系 列データ間の距離を評価値とすると絶対値の類似度を見ることになる.fNIRS時系列デー タの相対値としてDTW距離を算出するために,式(4.1)|piqj|の部分にもコサイン 類似度である|1cosθi,j|を採用した.また,|1cosθi,j|とすることで,本来のDTW 同様,DTW距離の値が小さい程,時系列データが類似していると判断することが可能に なる.

4.3 実験結果

本実験の結果を以下に示す.

4.3.1 目視確認による類似度評価

本実験で得られたfNIRS時系列データに対してMaPeaを適用した結果をFig. 10に示 す.ただし,Fig. 10は比較するCHの一方をCH1にした場合の結果である.この結果か ら,CH3CH18CH23以外のCHでは目視で類似部分を抽出できたと確認できた.この は他のCHに比べ,0.05[Hz]以上の周波数成分を多く含むCHであった.

抽出された類似部分の一例としてCH1CH2の類似部分結果をFig. 11に示す.CH1 CH2の類似部分の場合,類似部分の時間長はCH178.5[s]CH278.4[s]であり,0.1[s]

の時間軸方向の伸張を検出していた.また,2つの類似部分のサンプリング数が最大となっ たのはCH2CH13の組み合わせで,4.0[s]の時間のズレを許容していた(Fig. 12) 4.3.2 Dynamic Time Wappingによる類似度評価

異なるCH同士のfNIRS時系列データ全体を用いたDTW距離の平均と,その組み合わ

せで抽出された類似部分のDTW距離の平均を比較した.なお,この際には高周波成分を 多く含むCHCH3CH18CH23を除外し検討を行った.その結果をFig. 13に示す.全 体のDTW距離平均よりも類似部分のDTW距離平均の方が小さくなっており,類似部分 の方が類似度が高いことが確認された.

(12)

4.4 考察

本実験では,MaPeafNIRS時系列データからの抽出部分が,類似しているのかの評 価を目視,DTWを用いて行った.

まず,目視確認ではほとんどのCHで類似部分を抽出できていることが確認できたが,高 周波を多く含むfNIRS時系列データでは上手く類似部分を抽出できていなかった.以上よ

り,MaPeaは高周波成分に大きく影響を受けていることが分かった.そこで,MaPeaの前

処理としてLow Pass Filter (LPF)が必要であると考えられた.しかしながら,fNIRS 系列データに表れる脳活動は大きな波形の変化,すなわち,低周波成分であるため,LPF の前処理を行ったとしても脳活動成分に影響はないと考えられた.

DTW距離の平均では,fNIRS時系列データ全体のDTW距離よりも類似部分のDTW 距離の方が小さく,類似度が高い部分を抽出できていることが確認された.このことから,

MaPeafNIRS時系列データの中から類似度の高い部分を抽出できていると考えられた.

以上より,提案手法であるMaPeafNIRS時系列データに対し類似部分を自動抽出す る手法として有用であると結論付けた.

(13)

5 MaPeaによる類似部分を用いた解析手法の検討

現在,fNIRS装置は普及してまだ新しく,結果データであるfNIRS時系列データの解析

手法が定まっていないという問題点がある.そこで本章では,MaPeaによるfNIRS時系列 データ解析手法を提案する.提案する解析手法は,脳活動時の脳血流変化量を模擬した活 性化モデルとの類似部分をMaPeabによりfNIRS時系列データから抽出する.次に,抽 出部分が脳活動が見られると考えれられる課題実行時の波形を抜き出せている場合,脳が 活性化していると解釈する手法である.

5.1 実験目的

本実験では,実際にfNIRS装置を用いて脳機能が検討されている課題である切断面実形 視テストを用いて脳機能を検討する.この際,従来のt検定を用いた解析手法と比較する ことにより,MaPeaを用いた解析手法の有効性を検討することを目的とした.

5.2 実験概要

本実験では,類似部部分自動抽出法の一種であるMaPeaを用いた解析手法と現在fNIRS 装置を用いた脳機能解析として一般的に用いられている手法を比較した.実際に,空間認 識力を測定する切断面実形視テストを行う際の脳血流変化量をfNIRS装置で計測した.そ の際得られたfNIRS時系列データをMaPeaを用いた解析手法を用い,脳機能に関して検 討を行った.また,同じfNIRS時系列データを従来一般的に用いられているt検定を用い て評価した.

本実験の実験概要を以下に示す.

5.2.1 切断面実形視テスト

本実験では,空間認識力を計測するとする切断面実形視テストを用いてfNIRS時系列 データの計測を行った.切断面実形視テスト (Mental Cutting TestMCT)Fig. 14 ように提示された立体の見取り図と切断面に対し,その断面の実形図を複数の選択肢から 選ばせる課題である.

切断面実形視テストでは脳での高度な視覚情報の処理が必要であると考えられる.視覚 情報の高度な処理には背側視覚経路 (dorsal pathway) と腹側視覚経路(ventral pathway) が必要である(Fig. 15)21).腹側視覚経路は形や色の情報を処理するwhat経路,背側視覚 経路は空間や動きの情報を処理するwhere経路と呼ばれている.本実験では,切断面の情 報を処理するため,形の情報を処理する腹側視覚経路の活性化が期待される.

5.2.2 fNIRS時系列データの取得

本実験では被験者1名に静止状態30秒,切断面実形視テスト50秒,静止状態50秒の実 験を行った.また,本実験でもブロックデザインを使用したが,タスクシーケンスはFig.

16のようにした.

(14)

fNIRS装置としてETG-7100(日立メディコ製,日本)を使用した.ETG-7100の設定パ ラメータ,および前処理(移動平均処理,LPFのパラメータをTable 2に示した.この実 験で得られた24CHfNIRS時系列データをFig. 17に示した.

5.2.3 t検定を用いた従来の解析手法

fNIRS時系列データの統計解析には,個人解析と集団解析がある22).個人レベルの解析

で最も用いられている解析手法は,個人の脳の,ある計測領域で脳血流変化量に有意な変 化があったかどうかを統計的に検証する方法である.その手法の1種として,安静状態時 (以下,レスト区間とする)fNIRS時系列データと課題実行時(以下,タスク区間とする)

fNIRS時系列データが統計的に有意な差があるか否かを検定する手法である.この際に

用いられる検定としてはt検定が多く,「タスク区間とレスト区間の脳血流変化量の平均に は差がない」という帰無仮説の成否を検定する.

本実験では,計測されたfNIRS時系列データを用い,この仮説を立てt検定を行った.

まず,1つのCHにつき,最初のレスト区間のfNIRS時系列データ300個とタスク区間の fNIRS時系列データ500個を1秒毎にリサンプリングし,レスト区間30個,タスク区間50 個のデータとした.Fig. 18の領域のデータをt検定に用いる.なお,神経活動が起こって から脳血流変化量の増加が始まるまで約0.5[s]以内とされており22)1秒毎にリサンプリ ングすることによりデータを離散値として捉え,レスト区間とタスク区間で独立している と仮定する.その後,同じCH内のレスト区間とタスク区間のデータでF検定を行い,等 分散性を検定した.t検定では,F検定の結果を考慮し,等分散のt検定,不等分散のt 定を有意水準5[%]で行い,有意差があったCHを脳の賦活があったとした.

5.2.4 MaPeaによる解析手法

MaPeaを用いた新たな解析手法では,あらかじめ用意された活性化モデルとの類似部分

MaPeaを用いて抽出しする.fNIRS時系列データから抽出された類似部分の大部分が

脳が活性化していると考えられる課題実行時,すなわちタスク区間から抜き出されている CHを活性化CHとした.ここで,MaPeaを類似部分自動抽出法として使用する理由は,

生体特有の微小な差異を波形の振幅,サンプリング共に考慮して抽出できる利点があるた めである.

1)活性化モデルの作成

脳活動時の血流変化の波形パターンのモデルとして,血流動態関数 (Hemodynamic Response FunctionHRF) が存在する.この血流動態関数はfMRI (functional Mag- netic Resonance)を用いた有用な解析であるSPM(Statistical Parametric Mapping) の分野で一般的に用いられている.fNIRS装置に関しても同様に,脳の活性化によ り引き起こされる脳血流変化のパターンが複数存在すると報告されている23).ま た,fNIRS装置に関してもNIRS-SPMが発表されている24).しかし,血流動態関

数,NIRS-SPMはまだ研究段階であり,今後も検討が必要であるとされている.

そこで,本実験では神経血管カップリングを考慮し,実験で得られたfNIRS時系列

(15)

データから活性化モデルを作成した.本実験のfNIRS時系列データの結果では,Fig.

17のように目視確認では活性化が期待される腹側視覚経路の脳血流変化量の増加が 観測された.そこで,課題実行時の脳血流変化量に関して各CH毎に最小二乗法によ り近似曲線を求め,傾きを算出した.その結果をFig. 19に示し,脳血流変化量の傾

きが0.005[mM mm/s]CHの課題実行時の脳血流変化量を合成し,活性化モデ

ルを作成した.作成した活性化モデルをFig. 20に示す.

2MaPeaによる類似部分抽出

作成した活性化モデルと本実験で計測された24CHfNIRS時系列データとの類似 部分をMaPeaにより求めた.類似部分の抽出結果をFig. 21に示す.24CHの中か

MaPeaにより抽出された類似部分が課題実行時の75[%]以上のものを活性化CH

として抽出した.

5.3 実験結果

Fig. 17から目視確認でも活性化が期待されていた腹側視覚経路にあたるCHで,課題実

行時の脳血流変化量の増加が見られた.

t検定を用いた従来の解析手法により抽出した脳活動があったと思われる活性化CH Fig. 22に示す.また,MaPeaを用いた解析手法により抽出した活性化CHFig. 23 示す.t検定を用いた解析手法では,Fig. 22のように側頭部の全領域に渡り活性化が見ら れ,腹側視覚経路では活性化していないと考えられるCHの活性化も見られた.しかし,

MaPeaを用いた解析では,Fig. 23に見られるように活性化が期待された腹側視覚経路の

活性が確認された.

次に,t検定を用いた解析手法とMaPeaを用いた解析手法の結果が異なるCH3CH22 に注目した.t検定による解析手法では,CH22は活性化CHとして抽出されたがCH3 抽出されなかった.しかし,MaPeaによる解析手法では,CH22は活性化CHとして抽出 されず,CH3は活性化CHとして抽出した.CH3CH22fNIRS時系列データをFig.

24に示す.神経血管カップリングの理論に基づき,それぞれの解析手法において,課題実 行時の脳血流変化量が上昇しているかどうかを確認した.目視,t検定,MaPeaによる脳 の活性化判断の結果をTable 3に示す.その結果,CH3では課題実行時の脳血流の増加が 見られたが,CH22ではレスト区間に比べ大きな脳血流変化量の増加は見られなかった.

5.4 考察

本実験では,実際にfNIRS装置を使用し研究されている切断面実形視テストを用いて,

t検定を用いた従来の方法とMaPeaによる解析手法を比較した.

切断面実形視テストを行った際の脳活動は,Fig. 17において目視により腹側視覚経路 が活性化されていることが確認できた.腹側視覚経路は形の情報を処理するとされており,

活性化が期待された部位であった.これは,神経活動時,脳血流変化量が上昇するという 神経血管カップリングの理論に裏打ちされる結果となった.

(16)

腹側視覚経路のにおいては,t検定を用いた解析手法では活性化領域が狭く,脳活動を抽 出できないCHもあった.一方,MaPeaによる解析手法ではFig. 23より腹側視覚経路全 体の活性を抽出できたと考えられた.

そこで,t検定を用いた解析手法とMaPeaによる解析手法で結果が異なったCHを詳し く分析した.CH3CH22ではTable 3のように解析結果が異なった.Fig. 24のように CH3は脳血流量の上昇が見られたが,CH22では見られなかった.その結果,MaPeaによ る解析手法が神経血管カップリングから導き出される結果と同様になることがわかった.t 検定を用いた解析で活性化を抽出できなかった理由として,課題実行時の脳血流変化量と 比較する安静状態の脳血流変化量の変動が起因しているためと考えられる.

以上より,MaPeaによる活性化モデルを用いた類似部分抽出法がfNIRS装置を用いた脳 機能の研究に有効である可能性が示唆された.

(17)

6 結論

fNIRS装置の研究において,複数のCHで検出された時系列データの脳血流量変化の活

性パターンを見る研究がある.現在,目視確認により同じ活性化パターンを持つ時系列デー タを抽出しているが,複数の時系列データを持つfNIRS装置では解析者の負担となってい る.そこで本稿では,2つのfNIRS時系列データから類似部分を自動で探索,大量のデー タを高速に抽出する手法であるMaPeaの提案,検討を行った.

提案手法であるMaPeaでは,fNIRS時系列データをベクトル化することにより,fNIRS 時系列データが相対値であることを考慮,類似部分を波形の形のみとして捉えることがで きた.また,動的計画法の概念を用いて,ベクトル化した2つのfNIRS時系列データを比 較したことにより,生体特有の時間軸方向の微小な差異を考慮しサンプル数の異なる類似 部分を抽出することも可能した.

本稿では,提案手法であるMaPeafNIRS時系列データに対しての有効性を検討する ために2つの実験を行った.

第一の実験では,MaPeafNIRS時系列データから類似部分を抽出できているのかどう かを目視確認,および,類似度評価指標の一種であるDTWを用いて検討した.目視確認 では,高周波成分が含まれる波形以外では,類似部分の抽出ができていることが確認され た.そこでMaPeaでは前処理としてがLPFが必要であることが分かったが,fNIRS時系 列データに表れる脳の活性化パターンは低周波成分であるため,問題はないと考えられる.

また,サンプル数の異なる類似部分も抽出可能であることが確認できた.DTWを用いて の検討では,fNIRS時系列データ全体のDTW距離平均よりも類似部分のDTW距離平均 の方が小さく,全体の中から類似度の高い類似部分を抽出できていることが確認された.

第二の実験では,実際にfNIRS装置の研究で用いられているfNIRS時系列データを用 い,従来のt検定を用いた解析手法とMaPeaによる解析手法を比較した.この実験では,

切断面実形視テストを用い,物体の形の情報を処理する腹側視覚経路の活性化を検討した.

t検定を用いた解析手法では,安静状態時の脳血流変化の影響により脳血流変化量の上昇 が見られないfNIRS時系列データでも活性を示していた.しかし,MaPeaによる解析手法 では,期待通り腹側視覚経路の活性が,脳血流変化量が上昇しているCHで確認できた.

以上より,提案手法であるMaPeafNIRS時系列データから類似部分を自動で抽出する のに有効であると示唆された.また,新たなfNIRS時系列データの解析手法としてMaPea を用いた解析手法が有効である可能性も示唆できた.

参考文献

1) S.C.Bunce, M.T.Izzetoglu, K.Izztogle, B.Onaral, and K.Pourrezaei. Functional near- infrared spectroscopy.Engineering in Medicine and Biology Magazine, Vol. 25, No. 4, pp. 52–62, 2006.

Fig. 2 fNIRS の原理
Fig. 6 GO/NOGO task
Fig. 10 CH1 と他の CH の類似部分
Fig. 11 CH1 と CH2 の類似部分 Oxy-Hb[mM*mm]Oxy-Hb[mM*mm] time[s] time[s] : Ch2 : Ch13 : Similar part of CH2 : Similar part of CH13 Fig
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参照

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