東京都の内湾域における窒素汚染の実態
The actual conditions of nitrogen pollution in the coastal sea area of Tokyo 風間 真理1 *・安藤 晴夫
2
Mari KAZAMA1*, Haruo ANDO2
1東京都環境局・2東京都環境科学研究所
1Tokyo Metropolitan Government Environment Division
2Tokyo Metropolitan Research Institute for Environmental Protection
摘 要
人口密集地域を背景とする東京都の地先海域(東京都内湾)の窒素による水質汚濁 の実態をとりまとめた。海域の窒素濃度(全窒素)は、2000年以降やや改善の兆しも 見えるが、依然として1~2 mg/lの範囲で推移し、しばしば環境基準値(Ⅳ類型
1.0 mg/l)を超過する状態にある。この海域には窒素濃度が概ね3~5 mg/lの河川水
に加えて、沿岸の下水処理場から海水より約10倍高濃度の処理水が1日に約400万m3 流入している。各種発生源対策により、都内における窒素の発生負荷量は過去30年 間で約2分の1の78トン/日に削減されたが、前述のように海域の窒素濃度には、
それに応じた低下傾向は認められない。その原因には、底泥からの溶出負荷や雨天時 流入負荷等の影響が考えられる。その結果、赤潮の発生状況は改善されず、夏期には 貧酸素水塊が慢性的に発生するため、底生生物の生息が困難な状況が続いている。
キーワード: 水質、窒素汚染、底質、底生生物、東京湾
Key words: water quality, nitrogen pollution, sediment, benthos, Tokyo Bay
1.はじめに
東京湾は、流域面積7,597 km2 1)、背景人口2,770 万人2)を有し、水域面積1,380 km2 1)、容積621 km3 1)、 閉鎖度指標1.783)の閉鎖性海域である(図 1)。湾内 は、富津と観音崎を結ぶ線の南北で水域が区分され、
それぞれ東京内湾、東京外湾と呼ばれている。この 東京内湾は、水域面積1 ha当たりの人口が210人4)
と世界有数の過密な湾である。東京湾でも特に人口 の多い東京都域からの流入がある都内湾は、東京内 湾の最奥部の西岸に位置し、概ね荒川と多摩川の延 長線で囲まれた面積約100 km2、最大水深約26 m の海域である。
図 2は、国内の代表的な閉鎖性水域である東京 湾、伊勢湾、大阪湾他の窒素濃度(全域平均値)の推 移(環境省資料5)より作成)で、各水域とも長期的な 低下傾向を示しており、特に東京湾でその傾向が顕 著である。しかし、2007年の時点でも東京湾の濃 度は約0.8 mg/lで、他の湾の1998年の値より約2 倍も高いレベルにある。このように現在でも東京湾 は、国内でも有数の窒素濃度の高い海域である。こ こでは、東京湾内でも特に人間活動の影響を強く受 ける都内湾の窒素に着目してその実態を報告する。
受付;2009年12月15日,受理:2010年4月10日
* 〒163-8001 東京都新宿区西新宿2-8-1,e-mail:[email protected] 東京都 隅田川
荒川
多摩川
千葉県
観音崎
富津
洲崎
東京外湾 東京内湾
東京都 内湾 鶴見川
金谷
市原 幕張
本牧
金沢
横須賀 横浜
川崎
千葉
剱崎
N 神
奈川 県
江戸川
図 1 東京都内湾.
2.都内湾水域の窒素濃度の概要
2.1 窒素の水質環境基準
わが国では、1993年に海域の環境基準に窒素、
りんが追加され、1995年には水域別に類型が指定 された。環境基準値は、利水目的に応じたこの類型 により決められ、全窒素については、外湾に当たる
湾口部は0.30 mg/l(類型Ⅱ)、内湾の南西部は
0.60 mg/l(類型Ⅲ)、北東部は1.0 mg/l(類型Ⅳ)で ある。各類型の利用目的の適応性は、水産生物の生 息条件等によって分けられており、都内湾がある東 京湾(ロ)[東京湾全域は、千葉港及び東京湾(イ)~
(ホ)の計6水域に区分され、各水域は、利水目的に 応じた類型(Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ)に割り当てられる。]の水 域は類型Ⅳに指定され、生物生息環境保全の視点か らは、年間を通して底生生物が生息できる限度6)と 定義されている。対象水域が窒素の環境基準を達成 しているか否かの評価は、その水域内のすべての評 価対象基準点の年平均値(上層)を平均した値で判断 する。すなわち、東京湾(ロ)水域の場合には、都内 湾の環境基準点8地点(図 6環境基準点参照)のう ち、沖合の3地点(St.22、St.25、St.35)が窒素及び りんを評価するための基準点となっており、これら の地点と、同じ水域の千葉県4地点、神奈川県の4 地点の計11地点の年平均値の平均値で達成状況が 評価される。2008年度の場合には都内湾3地点の 年平均値はそれぞれ1.22 mg/l、1.81 mg/l、0.92 mg/l で、これに千葉県、神奈川県の年間平均値を加えた 全地点の平均値は1.1 mg/lと計算され、環境基準 は達成しなかった7)。
2.2 都内湾水域の全窒素濃度の現状と推移 2.2.1 長期的変化
都内湾の8地点の環境基準点では、月1回の頻度 で全窒素および形態別窒素の採水分析が行われてい る。図 3に、隅田川河口域に位置する4地点上層 の全窒素濃度の年平均値の推移を示す7)。St.5は最 も隅田川河口に近いため、河川水の影響を最も強く 受け、隅田川の水質変化に伴って1980年代半ばに
3.5 mg/lと最も濃度が高くなった後、次第に濃度が
低下し、現在は約2 mg/lになっている。St.25、
St.35も類似の変動パターンで推移しているが、
2003年度に両地点とも濃度が低下し、それ以降は、
St.25では2 mg/lを下回る濃度、最も沖合のSt.35 ではその約2分の1の1 mg/l前後の値で横ばいの 状態が続いている。St.23は、大規模下水処理場の 直近に位置し水深も浅いために下水処理水の影響が 顕著で、他の地点に比べて水質の変動が大きく、ま たSt.5に比べてもさらに高濃度で推移し、2007年
度には4 mg/l前後の値を示している。河川水中の
下水処理水の割合が高い隅田川河口域で、沖合の地 点ほど窒素濃度が低いことや、下水処理場近傍の地 点では非常に濃度が高いことから、都内湾の窒素は、
下水処理水に由来する寄与が非常に大きいと考えら れる。
2.2.2 季節的変化
図 4、図 5は、2008年度の都内湾の各環境基準 点における全窒素濃度及びCOD(Chemical Oxygen
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007年度
全窒素(mg/l)
東京湾 伊勢湾 大阪湾 瀬戸内海 有明海
図 2 代表的湾における全窒素の濃度推移5).
0 1 2 3 4 5 6 7
年度
全窒素(mg/l)
St. 23 St.25
St. 5 St.35
1980 1985 1990 1995 2000 2005
図 3 都内湾における全窒素濃度の推移7).
0 2 4 6 8 10 12 14
16 St.5 St.6 St.8 St.11 St.22 St.23 St.25 St.35
4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3(月)
COD(mg/l)
2008年度
図 5 都内湾における COD の月変化7).
0 1 2 3 4 5 6
全窒素(mg/l)
St.5 St.6 St.8 St.11 St.22 St.23 St.25 St.35
4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3(月)
2008年度
図 4 都内湾における全窒素濃度の月変化7).
Demand)の季節変化7)を示している。このうち下水 処理水の影響を強く受けるSt.23は、他の地点に比 べて濃度レベルが高く、5 mg/l以上にも達する。
また、月による変動も大きい。これに対してそれ以 外の地点では、夏季には、全体的に濃度が上昇する 傾向を示し、3 mg/lを超える地点も認められる。
その後、秋から冬には1~2 mg/lまで濃度が低下 する。水質測定調査は降雨の影響を強く受けない日 に実施されている。したがって、夏季に濃度が上昇 傾向を示すのは、陸域からの流入負荷の影響よりも、
植物プランクトンの増殖による二次汚濁の影響の方 が強いと考えられる。図 4で、6月のSt.22の全窒 素濃度が通常に比べて高い値を示している。一般に、
赤潮発生は、無機態窒素が有機態窒素へと変化する だけなので、全窒素濃度には影響しないと考えられ るが、実際には、赤潮発生時にプランクトンは海面 付近に集積する場合が多く、実際に当日はヘテロシ グマアカシオ(Heterosigma akashiwo)による赤潮の 発生が記録され、CODも高いことから、二次汚濁 が窒素濃度上昇の原因であることをよく示してい る。
2.2.3 川や点源との水質濃度比較
図 6に、都内湾海水(上層)、流入河川水(最下流 地点の河川水)、及び下水処理水(下水処理場からの 放流水)の窒素濃度(2008年度平均値)を示す。
海域の水質(上層)は沖合や処理場近辺を除いて 1.2~2.3 mg/lであり、流入河川河口部はそれより やや濃度の高い2.9~5.5 mg/lであるのに対し、直
接海域に放流されている下水処理場排水は、11~ 20 mg/lと10倍前後の高い水質で海に流入してい る。水量でみても、例えば森ヶ崎水再生センターは 排水量が日量120万m3であるのに対し、多摩川の 低水流量が126万m3と同程度であるように、大都 市沿岸に立地する下水処理場の排水量は河川流量に 匹敵するものであり、処理場排水の環境濃度への影 響は大きい。
2.3 発生負荷量の推移
図 7は、東京都内のCOD、窒素、りんの発生負 荷量の過去30年間の推移を示したものである9)。 この間、すべての発生負荷量が大幅に削減されたこ とが分かる。この窒素の負荷量についてみると、
1979年には1日当たりの発生量が147トンであっ たのが、25年後の2004年には78トンと約2分の1 に減少している。窒素負荷量の推移を他の項目と比 較すると、CODとりんは1980年代から明確な削減 傾向を示しているが、窒素の場合には、1980年代 末まで削減率が低く、1990年代になって負荷量削 減が進行したことを示している。このことは、都内 湾各地点における全窒素濃度の変動傾向、すなわち 1990年以降に濃度が低下し始めたこととほぼ対応 している。また、りん負荷量の推移についても、
1980年代の顕著な減少や、近年の横ばい状態が後 述する水質濃度(図 9参照)と対応している。
窒素及びりん負荷量削減が近年進まなくなった原 因としては、従来からの対策で可能な削減量にほぼ 到達したためと考えられる。したがって今後、水質 改善を一層進めていくためには、現在、他の海域に 比べて低いレベルにある下水の高度処理人口(東京 都16.4%〔2008年度末〕、大阪湾37.2%、伊勢湾 26.9%)10)の拡大や、雨天時に非常に負荷が大きいと 考えられる合流式下水道越流負荷量の削減などが必 要である。
2.4 赤潮と水質の関係
2.4.1 赤潮発生要因としての窒素
都内湾では、5月から9月頃にかけて赤潮が頻発 している。この赤潮は栄養塩類が高いことが大きな 要因とされている。図 8に、赤潮調査を開始した 1977年から約30年間の都内湾における赤潮発生状 況の推移11)を示す。年間の発生回数は約18回、日
都内湾海水
図 6 下水処理水及び流入河川水と都内湾海水の窒素 濃度8).
0 50 100 150 200
発生負荷量(トン/日) COD 全窒素 全りん×10
1979 1984 1989 1994 1999 2004 2009(年度)
*2009年度は目標値
図 7 発生負荷量の推移(東京都分)9).
数は90日前後で、この間に明確な改善傾向は認め られない。一方、季節変化については、4月頃から 発生数が増加して7月頃ピークに達し、11月には、
ほとんど発生しなくなる。赤潮発生のこうした季節 変化は、降雨による栄養塩の供給や日射量の季節変 化に関係していると考えられる。
2.4.2 窒素濃度とりん濃度
次に窒素濃度とりん濃度との関係をSt.25を例に 検討した。St.25は、東京都内湾の中心部に位置し、
湾内の流況から都内の負荷量を最もよく反映してい るとみられる地点である。
経年的には、窒素は図 9に示したように1990年 前後がピークでその後やや低下するが、りんは漸減 しているため、NP比は15前後で推移し、近年や や低めで横ばいの状況である。健全な海域生態系の 指標であるレッドフィールド比(重量比で約7)と比 べてかなり大きく、窒素が過剰な状況にある。バラ ンスのよい栄養塩の削減を考えると、窒素の一層の 削減が望まれる。
季節変化について(図 10)、全窒素濃度は8月~
10月に10 mg/l前後まで低下するが、その間に全 りんの濃度も低下するため、概ねNP比は15前後 の値で推移している。しかし、近年13程度で推移 している東京湾全域を纏めた結果12)と比較すると都 内湾では窒素の比率が高めであることを示してい る。
2.5 窒素の層別・形態別特徴 2.5.1 層別の濃度推移と濃度差
これまでは、上層の窒素濃度の推移について述べ たが、次に、上層と下層(海底上1 mで採水)の濃 度について検討する。図 11は、St.25の上層と下層 の全窒素濃度の経年変化である。上層の濃度は、概 ね1.5 mg/l~2.0 mg/lの範囲で推移しているが、下 層はそれより変動が小さく、近年は0.5 mg/l程度 まで低下している。また、上層と下層の濃度比でみ ると、30%~40%で経年的に推移している。
0 5 10 15 20 25 30 35
2005 2000
1995 1990
1985 1980
0 20 40 60 80 100 120 140
発生回数 発生日数
発生日数(日/年) 発生回数(回/年)
(年度)
図 8 都内湾における赤潮発生状況11).
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0
全窒素(mg/l)
上層 下層
1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005(年度)
図 11 全窒素の上層・下層における推移.
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0
N/P比
T-N T-P×10 (T-N/T-P)/10
4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3(月)
2008年度
図 10 NP 比の月変化.
1980 1985 1990 1995 2000 2005 0.0
0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0
N/P比
T-N T-P×10
(T-N/T-P)/10
(年度)
図 9 NP 比の経年変化.
2.5.2 形態別組成の推移と季節変化
全窒素(上層)を溶存態無機窒素(DIN:NO3-N+
NO2-N+NH4-N)と有機態窒素(ON:T-N-DIN)に 分け、その長期的推移についてSt.25を例に示した
(図 12)。
経年的には、DINが1980年頃から増加し2000 年以降は、若干減少傾向を示している。これに対し て、ONは、1980年以前は濃度が約1 mg/lで全窒 素の2分の1以上を占めていたが、その後は濃度が 約0.5 mg/lまで低下し、DIN濃度の上昇もあって、
全窒素中の割合も低下している。図 13は、2008年
度のSt.25における窒素の形態別組成の季節変化を
示したもので、この間、DINの割合は50%~88%、
平均68%であり、濃度は0.47 mg/l~2.19 mg/l、
平均1.26 mg/lであった。DINの内訳をみると、平 均組成は、NO3-Nが43%、NH4-Nが18%であった。
なお、6月のNH4-N濃度が低い原因は、調査数日前 に発生したヘテロシグマアカシオの影響によると考 えられる。
3.底層水質や底質・底生生物の応答
3.1 貧酸素水塊
東京湾では、毎年夏季になると底層付近に貧酸素 水塊が発生し、その状態が長期間続いて水生生物の 生息が困難な状況になるため、その解決が重要な課 題となっている。貧酸素水塊が発生する主な原因の 一つが、赤潮プランクトンの大増殖であり、それは 海水中に高濃度で存在する窒素・りんによって引き 起こされる。図 14は1986、1994、2002年9月の 底層DOの平面分布を示したもの13)である。3ヶ年 を比較すると、赤で示すDOが2 mg/l以下の水域 が、湾中央から湾奥部に広がる状況にはほとんど変 化がなく、今日まで改善傾向は認められない。図 15は、東京湾全域の水質の長期的変化を10年間隔 の平面分布図に表したもの13)で、赤潮による水質汚 濁を示すCODと赤潮発生原因である窒素・りん濃 度は、依然として湾奥部西岸寄りの水域で高く、特 に窒素・りんは、都内湾周辺で著しく高い状況が続 いている。
3.2 底質の窒素濃度の推移
東京湾では、海水中の窒素・りん濃度に、底質か
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0
窒素(mg/l)
DIN ON
1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005(年度)
図 12 形態別窒素の経年変化(St.25).
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0
NH4-N NO2-N NO3-N ON
4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3(月)
窒素 (mg/l)
図 13 形態別窒素の月変化(St.25).
(2008 年度)
らの溶出の影響が大きいことが指摘されている。溶 出濃度そのものの変化は追えないが、底質中の窒素 濃度の23年間にわたる推移7)を図 16に示す。ここ での底質はスミスマキンタイヤー採泥器で採取され た表層5 cm程度の試料の分析結果である。
St.22、St.25、St.35ともに1990年代には、やや 低下の傾向が認められるが、近年は若干高くなって、
St.22は3~4 mg/g、St.25は2~3 mg/g、St.35は 4 mg/g前後で横ばいの状況にある。CODは1985 年当初から低下し、最近の4年間はさらに低めの濃
DO(mg/l)
図 14 DO の平面分布の長期的推移(9 月下層)13).
1 2 3 4 5 6
1985 1990 1995 2000 2005
St.22 St.25 St.35
0 (年度)
全窒素(mg/g)
図 16 底質における窒素濃度の推移7).
COD(mg/l)
T-N(mg/l)
T-P(µg/l)
図 15 COD,T-N,T-P の平面分布の推移13).
COD(mg/l)
T-N(mg/l)
T-P(µg/l)
COD(mg/l)
T-N(mg/l)
T-P(µg/l)
度で推移しているが、全りんや強熱減量は窒素と同 様の推移を示している。
海底に堆積したヘドロからは、底層水の貧酸素化 などにより、NH4-NやPO4-Pが海水中に溶出して新 たな赤潮の発生原因になると考えられている。図 17は、洪水時の荒川河口(St.1)から沖合(St.A:風 の塔)までの測線(図 6の一点鎖線)について水質の 鉛直分布を図にしたもの13)である。このとき河川か ら流入した淡水が海面近くに薄く広がり、高塩分の 水とはほとんど混合していない。NOx-Nも淡水と 同様な挙動を示し、主に河川水に由来することを示 唆している。一方NH4-N,とPO4-Pは、海面付近と ともに海底近くでも濃度が高くなっている。このこ とは、NH4-NやPO4-Pが、陸域からの流入水だけで なく、底泥からの溶出にも由来することを示してい る。
3.3 底生生物の出現状況
前述したように窒素・りんに関する環境基準の類 型Ⅳの適応性は、年間を通して底生生物が生息でき る限度とされている。St.25における底生生物の出 現状況の推移11)を図 18に示す。前述のように、東 京湾で貧酸素化した水域が最も拡大する9月の都内 mg/l
mg/l
mg/l
図 17 洪水時荒川河口における水質鉛直分布14).
(2002 年 10 月 3 日)
0 5 10 15 20 25 30 35
(年度)
種類数(/0.15m2)
1985 1990 1995 2000 2005
5月 9月
図 18 底生生物の出現状況の推移11).
湾における底生生物出現種類数は、今日まで5種に 満たない状況が続き、回復の兆しがみられない。一 方、年により変動は大きいが、貧酸素化が起こりに くい5月の種類数は、概ね10種以上で推移してい るが、1990年代に比べると近年はやや出現種類数 が減っている。
4.おわりに
あまりに負荷の大きい東京湾であったため、
CODに加え、窒素・りんの削減も可能な限り実施 されてきたにもかかわらず、水質改善や生き物の復 活が遅々として進まない。負荷量の削減が表層水質 の改善に繫がる以前に底質の回復の遅れの問題があ り、底生生物が年間を通して生息できる環境となっ ていない。過去の堆積物も含めての対応に、今後も 弛まぬ努力が必要であろう。都内湾における環境水 質、底質、赤潮、水生生物などのデータを天候、発 生源などの情報と合わせて、今後とも総合的にみて いく所存である。
謝 辞
貴重なる助言をくださった中村由行先生に感謝い たします。
引 用 文 献
1) 環境省(2003)水質総量規制の指定水域における湾 灘別水域環境基礎データ集.
2) 環境省 水・大気環境局(2008)平成19年度発生負荷 量等算定調査報告書.
3) 環境省(2000)環境基準類型の指定状況(平成12年 度).
4) 磯部雅彦(2009)東京湾シンポジウム(2009年11月 7日)資料.
5) 環境省 水・大気環境局(2008)平成19年度公共用水 域水質測定結果.
6)環境庁(1971)告示第59号.
7) 東京都環境局(2010)平成20年度公共用水域及び地 下水の水質測定結果.
8)東京都下水道局HP.
http://www.gesui.metro.tokyo.jp/gijyutou/fukyu/
m8nendata/20kubun.htm
9) 環境省 水・大気環境局水環境課閉鎖性海域対策室
(2006)化学的酸素要求量,窒素含有量及びりん含 有量に係る総量削減基本方針(東京湾).7都県市首 脳会議に基づく東京湾富栄養化対策指導指針.
10) 東京湾再生会議(2009)「東京湾再生のための行動計 画」第2回中間評価報告書(案).
11) 東京都環境局(2010)平成20年度東京湾調査報告 書.
12) 東京湾岸自治体環境保全会議(2009)平成19年度東 京湾水質調査報告書.
13) 安藤晴夫・柏木宣久・二宮勝幸・小倉久子・川井 利雄(2005)1980年以降の東京湾の水質汚濁状況の 変遷について-公共用水域水質測定データによる 東京湾水質の長期変動解析.東京都環境科学研究 所年報,141-150.
14) 安藤晴夫・川井利雄・牧秀明・木幡邦男・越川海
(2005)洪水時の流入汚濁による東京湾水質への影 響について.東京都環境科学研究所年報,252-256.
東京都環境局自然環境部水環境課にて 東京湾の調査(水質、赤潮、水生生物)を 担当。水環境行政歴32年。学術博士。
技術士(環境部門)。環境カウンセラー。
日本水環境学会身近な生活環境研究委員 会にて「生き物から水環境を見る」を推進。同時に、データ の総合解析、有効利用を心がけている。『川と海』(築地書館)
分担執筆。「生活排水実験」「隅田川浄化の歴史」「東京湾は今」
を市民講座などで数多く実演、解説している。お茶の水女子 大学理学部化学科卒。
風間 真理
Mari KAZAMA
東京都出身。1973年東京都公害局に 入り、魚浮上事故や光化学被害発生等の 緊急時・事故時の初動調査に4年間従事 した後、東京都公害研究所(現・環境科 学研究所)に異動し、河川の自浄作用や 東京湾の水質汚濁、酸性雨の陸水影響、ヒートアイランド現 象等、多岐にわたる研究テーマに取り組む機会を得た。最近、
アジアや中南米等からの研修生に講義する機会が何回かあ り、過去の地方自治体の公害対策事例が注目されていること を再認識させられた。博士(海洋科学)。
安藤 晴夫
Haruo ANDO