「経験」 をリードする家庭科の内容編成試案 : ト ピックによる内容構成の試み
著者 青木 幸子
雑誌名 東京家政大学博物館紀要
巻 10
ページ 1‑14
発行年 2005
出版者 東京家政大学博物館
URL http://id.nii.ac.jp/1653/00010259/
「経験」をリードする家庭科の内容編成試案
一トピックによる内容構成の試み一
青木 幸子
Reorganization of Subject Matters of Home Economics to Emphasize Experience −AConstructive Trial in terms of Topics of Home Economics一
Sachiko AoKI
はじめに
既報「家庭科における『知』の再構成と学びの転換」1)において、21世紀社会における学校 教育のパラダイム転換とそこで必要とされる「知」のあり方をめぐり、問題解決学習による
「経験」の意味にっいて再確認した。それは知識量の多寡を重視する従来型の学校知の限界を 理解し、学校知と生活知を統合した生きた能力の獲得と学習意欲の開発を意図するものであっ た。そこで、学校教育の「知」と学びの様式にっいて、新たな視点を得る手がかりとしてトピッ ク学習を取り上げ、一部内容項目にっいて日本と英国の家庭科の題材構成について分析・比較 を行った。これは、家庭科の「知」を顕在化させた教科内容の再構成を企図し、生きて働く力 の獲得を保障する授業づくりに向けたファースト・ステップであった。
本稿は、英国のトピックを例にとり、サブ・トピックの設定を通して内容構成とバランス、
そこで確認されるキー概念にっいて検討しようとするものである。受容的な学びから主体的な 学びへの転換の中で、「脱人称的・脱文脈的・権威的性格」をもっフォーマルな学校知から人 称的・文脈的・創造的性格をもった学校知へと、新たな知の構築に迫る家庭科の枠組みと教科 内容の再編へとっなげたい。
1 学びの転換と教育内容の構成
わが国の学校教育は、その機会・内容・方法において平等性の原則を優先した制度の下で行 われてきた。そうした教育政策は、国民の教育水準を押し上げたが、画一性もまた問題視され
ていた。
今から30余年前、中央教育審議会は「教育改革のための基本的施策」(1971)を答申し、今 日に繋がる教育観の転換と改革の方向性への先鞭を告げた。いわゆる第三の教育改革と銘打っ た答申である。なかでも初等・中等教育にっいては、教育課程の一貫性と個人の能力・適性な どの分化に応じた多様なコースを設置することが謡われ、個人の特性に応じた教育方法の改善
教職教養科 家庭科教育研究室
としてグループ別あるいは個別学習の機会の設定、学年別の固定化した指導から弾力的な指導 法の導入、習熟度別・能力別指導と進級・進学の例外的措置の承認などが「基本構想」として 掲げられた。2)
この基本構想はその後の改革にも引き継がれ、今日、初等・中等教育における習熟度別グルー プ編成、飛び級、履修科目の選択性の拡大など、学習者個人の能力・適性を強調した措置が講 じられ、構想は現実のものとなっている。そして、カリキュラムは、一人ひとりの個性を重視 した新学力観に基づく教育活動の活性化に向けて新たな領域を新設するとともに、学校週5日 制の実施に伴う総授業時数の削減により、各教科の教育内容は「基礎・基本の徹底」を重視し て精選が行われた。その結果、教育内容のレベルの低下が懸念され、学力低下論争に発展した ことは既報のとおりである。
こうした内容の精選は「消極的精選」であり、教科内容の質的見直しと構造の再編が必要で あると柴田義松は説き、教科内容精選の基本原則として次の5点を遵守事項としている。3)
①教科内容の根本的改革は、教育制度の改革と連動して行われなくてはならない
②教科内容の精選は、知育偏重を是正することではなく、知育そのものを改善し、本来の 知育たらしめること
③教科内容の精選は、従来の教科内容を間引きしたり再配分するだけの量的改善ではなく て、新しい内容を選択したり開発することを含むような教科構造の質的改造でなければ ならない
④教科内容の精選は、科学の基本的概念や原理の指導を重視した「教科の現代化」運動の 研究成果を継承し、発展させるものでなければならない
⑤教科内容の精選は、まさに教科内容を改造することであって、これを教育方法の改善に すり替えてはならない
新学力観に基づいた教育活動は、学習の目標をはじめその活動・組織・形態・評価・環境等 にっいて従来の考え方との差異を際立たせるため、正反対の態様で捉えられることが多い。そ の結果、柴田が指摘したように方法の改善によって目的が達成されるかのような解釈に陥りや すいのである。学力の捉え方が変わるということは、単に方法論の変更をもってそのねらいが 達成されるものではなく、その前提にはそれにふさわしい教育内容が準備されていなければな
らない。
2 授業づくりへの子ども参加の背景
授業内容にっいてもっとも関心を寄せるのは子どもたちでなければならない。しかし、苅谷 らによる調査結果が示すように、子どもたちの学習への意欲や態度には二極分化が進行する傾 向にある。4)また、日本の若者は、学校を知識や技能を獲得するより、友情を育み自由な時間 を楽しむ人間的側面に対する評価が高く、教育内容に対する期待や評価が諸外国に比べて相対
的に低いという特徴がある。5)このような学校教育に対する特異な認識を授業づくりへの子ど もの参加要求の一っのメッセージとして理解し、関心や期待を寄せうる教育内容を準備する責 任が我々にはある。
また、グローバリズムの進展は、個性的でありながらしかも総合的に問題解決に取り組むこ とのできる能力の育成を求めており、個別的・創造的な能力の開発が課題とされている。
こうした諸要因は、自己・当事者からの問い直しによる新たなモノとの対話による〈世界づ くり〉を促がし、それが学習意欲の開発に繋がり、学びの協同化による〈仲間づくり〉を進め、
自己との対話による〈自分づくり〉に結実する真の自己教育力の酒養をめざすような学びとし て追求され、教育活動の計画や展開、っまり授業づくりにおける学習者の参加が具体性をもっ
てきた。
授業づくりへの子どもの参加は、学校知と生活知との相互依存的・補完的な関係を有機的に 統合する学習活動の展開に新たな局面をもたらした。わかる授業をめざして教授・学習過程の 最適化を追究してきた教授学の長年の懸案は、さらに子どもの権利条約によって後押しされる ことになった。同条約は、子どもを権利の主体者として大人と同様な権利と自由を認めている。
「子どもの人格、才能ならびに精神的および身体的能力をできるかぎり最大限に発達させるこ と」(第29条)、とりわけ「自己の意見をまとめる能力のある子どもに対して、その子どもに影 響を与えるすべての事柄にっいて、自由に自己の意見を表明する権利を保障し、かっ、子ども
の意見はその年齢および成熟の度合いに応じて、それにふさわしい考慮が払われねばならない」
(第12条)との規定は、授業づくりへの子どもの参加を高ある一因となっている。学習方法の 個別化と相侯って、学習内容編成への参加は高まりつっある。6)
Roger A. Hartは、参画の意義を次のように述べている。7)参画は民主主義のバロメーター であり、とりわけ、子どもの参画は、子どもの意見表明や表現の自由を保障するだけでなく、
他者とのかかわり合いを通して自己の能力や他者からの承認を感得し、「自己尊重」と「集団 の場で協力し合うスキル」を磨き、子どもの自己実現を助長する役割を果たす。また、現実問 題の解決をめざした参画は、問題解決の見通しに対する「批判的な考察や比較を行う技術」を 磨き、社会の民主化に貢献する。しかも、家庭こそ社会的責任や「参画」の能力を培う基本的 環境であるが、同時に最もむずかしいのも家庭である、としている。
3 家庭科と子どもの参加
(1)学習活動の特徴
家庭科の50余年にわたる学習活動の特徴は、 learning by doing を基本とした実践的・体 験的な学習にある。生活現実から問題を見っけ、その問題の解決を経て、生活に戻し生活の改 善向上を図る、という生活現実に立脚した問題解決学習を特徴とする学習活動である。頭・心・
体を使って知識と技能を習得しながら問題解決を図る学習活動は、座学より実学にウエイトが 置かれる。それは、学習者にとって、あるときは「息抜きしながら」「楽しみながら」「生活に
役立っ」ことを学習する機会となっている。
生活現実に足をっけた学習の展開は、学習者にとっても題材を身近に感じ、自分を投影しや すいものであった。実践的・体験的活動の多用は、子どもの活動体験の機会を増やしたが、問 題意識の継続的・発展的喚起に繋がったかどうかは教科軽視の傾向からは疑問符をっけざるを
えない。
(2)学習成果の生活現実への適用
家庭科の目標は、教室内で学習成果を挙げることにとどまらない。むしろ、学習成果がその 対象とする生活に生かされ、健康で快適な生活を創造していくことに最終的なねらいがある。
そうした創造的実践活動を遂行していくために、生活事象の総合的な理解と体系的な知識の習 得、技能の育成、そして価値観の形成が求められる。
創造的実践活動の遂行場面は各家庭である。この活動を奨励するための取り組みとしてホー ムプロジェクト(H.P.)がある。教室内で学んだ知識や技能を十分に活用して我が家の生活 の向上を図るのである。さらに、この趣旨を地域社会にまで拡大し、広く社会的に有用な奉仕 活動として組織されているのが学校家庭クラブ活動(F.H.J.)である。これらの二っの実践的 活動は、家庭科の最終的なねらいを達成するために不可欠な学習機会であり、かっ内容なので
ある。
事実、H.P.は、戦後家庭科が新設されて以来、高等学校の内容として学習指導要領に謳わ れ、F.H.J.も1953(昭和28)年の全国高等学校家庭クラブ連盟の設立以来、家庭生活を地域社 会との関連の中で捉え、生徒の連帯・奉仕の精神を育み、家庭科学習の広がりと深まりを認識
させ、学習効果を高める役割を果たしてきた。しかし、現在、全国連盟への加盟校は、公立学 校の約三分の一、公・私立別では公高私低の傾向にある。8)現行学習指導要領においてもH.P.、
F.H.J.ともいっそう充実するよう謳われているが、その活動体験さえも惜しむ状況9)が続いて いる。個別的・具体的に学習効果を実感する場として、小学校からの積極的導入を図りたい。
一方、家庭生活における子どもたちの家事参加は、発達段階によらず相対的に低いが、男子 に比べ女子の参加度が高く男女差がみられる。こうした傾向は、家庭内における成人男性の家 事参加率と酷似しており、生活実態からも学習成果を家庭生活に適用する機会も意識も決して
高いとはいえない。1°)
学習活動における実践・体験活動は、子どもの学習への参加や内容理解を助け、実生活への 適用を図りやすくすることが期待される。しかし、個々の生活事情、親の価値観と態度、受験 科目優先の意識とカリキュラム編成、学校週5日制と授業時数の削減、価値観や生活スタイル の多様化は、子どもの実生活への学習成果の適用を困難にし、生活自立能力の育成をも危ぶま れる状況となっている。
子どもの実体験の不足をカバーするため教育課程が見直され「総合的な学習の時間」が導入 されたが、教科指導において体験的活動ができるゆとりある授業時数の確保も併せて重要であ る。生活を対象とする総合的学習の色彩の濃い家庭科の教育的意義と価値が正当に評価される
とき、家庭科はさらにその貢献度を高めるであろう。
(3)教科内容編成への課題
家庭科の新設時、社会科との棲み分けを明白にするため、家庭生活を対象領域に、そこで培 う能力もまた家庭内での有用性に重きが置かれた。教科内容や授業実践の分析によれば11)、教 科書の編成方針や学びの力点は社会の動向とともに変化している。しかし、先の高校生の生活
と意識の実態調査にもみられるように、家庭科の目標と生活実態との間の距離が徐々に開きっ っあるのもまた事実である。その間隙を埋めるための努力も積み重ねられてきた。しかし、家 庭科という教科に冠せられた国民の期待と性差による履修内容の違いに対する慣れは、生活主 体の形成をめざす男女の参加が強調される陰で、ジェンダー・ロール形成に固執する意識もま た根強い。男女がともに学ぶ教科として家庭科は30余年ぶりに再スタートを切った。ジェンダー に固執しない生活主体の形成をめざす学びをっくり出していくための課題として、次の3点を 挙げたい。
①家庭と社会をっなぐ学習内容
家庭科は実践的・体験的な学習活動を特徴としている。学習内容の取り扱いについては、
「学習指導要領解説 家庭編」の「内容の範囲や程度」に記されている。たとえば、「実験・
実習」を始め、福祉施設等の見学、ボランティア活動への参加、乳幼児・低学年の児童や身近 な高齢者等との「触れ合いや交流の機会をもっよう努めること」、「日常生活の介助として、食 事、着脱衣、移動などのうちから選択して実習させること」など実践的な活動が奨励される一 方、学習内容を制約する記述もみられる。「家族・家庭の意義、家族・家庭と社会とのかかわ り、男女が協力して家庭を築くことの重要性にっいて認識させる」際には「関連する法律や制 度の詳細に深入りしないこと」、「子どもの発達と保育・福祉」「高齢者の生活や福祉」にっい ての学習においては「妊娠出産の詳細にっいて深入りしないこと」、「児童福祉」や「高齢者福 祉に関する法律や制度の詳細に深入りしないこと、高齢者福祉サービスにっいては、代表的な ものを扱うこと」、「消費生活と資源・環境」にっいては「生活と資源や環境とのかかわりにっ いて具体的に理解させることに重点を置くこととし、地球環境問題に深入りしないこと」など が散見される。
もとよりこうした措置は、他教科との重複を省き、発達段階を考慮しながら家庭科の目標を 達成するための措置であろうが、教科の特色を打ち出すことにこだわるあまり、子どもの認識
の道筋を断ち、新たな気づきや感動を削ぎ、内容の全体構造を見えにくくするのではないだろ うか。子どもの自発的な学習活動を重視し、認識過程を大切にする学びを充実せずしてどうし て創造性を育み、問題解決能力を育成することができるであろうか。授業づくりにこどもが参 加するとは、そうした子どものわかり方を承認し許容することでもある。自らの問い直しによ
る新たなモノとの対話による〈世界づくり〉を促がすために。
②学習活動における参加と協働
中等学校段階の生徒たちの多くは、家庭科は好きでも嫌いでもないが、将来役に立っ教科で
あると認識している。 12)この認識が学習態度にも反映され、保育園・福祉施設への見学・観察 や調理実習など実践的活動場面への参加意欲と活動実態は高いものがある。しかし、観察・実 習以外の学習活動における参加と協働が、どれほど意図的に織り込まれているだろうか。
学びの協働化を促がす学習場面を積極的に設定する必要がある。〈仲間づくり〉を進めなが ら学習意欲の開発を図るとともに、他者評価により自分を捉えなおし、協力・連帯など人間関 係スキルを磨くために。
③学習内容に対する知的興奮の喚起
子どもたちの家庭科学習への取り組みは、「生きる力」の基本である生活自立能力の獲得さ え危ういことを認識させてくれる。それは、日常生活を対象とする学習内容に対する軽視、あ るいは生活することにより自然と身にっくものとする浅薄な理解、レディネスと教材との乖離 からもたらされるワクワクするような知的興奮の希薄さ、その結果としての実生活への適用の 低さ、これらが循環しているように思われる。
このことは、たとえば地球環境問題において、持続可能な開発へと世界の国々が経済政策と 消費生活のあり方のスイッチを切り替える必要性を謳った Think Globally, Act Locally の 方針さえも単なるお題目になりかねない危険性をはらんでいる。家庭科の学習は、生活から世 界に繋がる問題を解決する鍵を握っている。足元を見据えてその問題状況を客観的に全体的に 見渡しながら、問題解決の方略を打ち出し、実行していくことのできる実践力を養うのが家庭 科である。家庭科の学習は、循環型社会の構築にとって根本的な関心事であり、不可欠な国民 的教養として位置づけられなければならない。
受験科目であるか否かで教科の使命の軽重を論ずるのは大局を見誤ることになる。家庭科の 内容が社会的な課題とのっながりの中で捉えられ、感動や驚きなど知的興奮を伴いながら自ら の価値観と対峙し〈自分づくり〉に繋がる対話を進めるための授業づくりが必要とされている。
家庭科学習における子どもの参加と家庭生活における家族員の参画を高めるために。
以上のような課題に応える一っの試みとしてトピック学習を取り上げた。既報において述べ たように、トピック学習は題材構成と学習過程の多層性において先の課題をカバーでき、学習 者の参加を促がし、主体的な学習を導く柔軟な学習活動が期待できる。このことは学校知と生 活知の相互依存的・補完的関係を強固にするものであり、生きて働く力を習得し蓄積していく ために有効であると理解できる。
まず、何よりも教材に自分を投影することができ、既習の学校知や生活知をフルに動員し、
想像しうる関連項目を拾い出し、それらを類別することにより項目間の繋がりや社会の仕組み を理解し、問題解決の方策の組み合わせを知ることができる。教材と学習者との間に往還関係 ができることにより、教材自体の位置づけとそれを取り巻く事象と学問体系を理解し、問題解 決への総合的な方策を習得することができる。
一方、この学習の短所は、個別の学習者の事実認識や問題意識など認知レベルの差により学
習内容に偏りが生じることである。学習内容には一定の水準と学問的系統性が求められる。だ からこそ、それを担保する枠組みの設定が必要なのである。
4 トピックの枠組み設定への試み
(1)枠組み設定の手順
トピック関連項目の設定に先立ち、トピック学習の歴史や特徴、英国家政教育におけるトピッ ク学習例と我が国高等学校家庭科の学習項目の比較結果にっいて現職教員13)の理解を深めた。
その後、サブ・トピックの設定に取り組んでもらった。
サブ・トピックの設定は、トピックとして取り上げられた項目にっいて、各人がどのように 事実認識をし、どのような問題意識をもっているか、既習の学校知に思いを廻らし、生活知と 生活実態をすり合わせ知や経験のネットワークに基づきながら関連項目を設定していく。そこ にはトピックに対する個別的・具体的な提案があり、自ら設定した項目に対して学習意欲の向 上や探究心の喚起が期待される。
サブ・トピックは、教員個人により、あるいは複数教員の話し合いにより設定された。個人 設定であれグループ設定であれ、項目設定をめぐる他者との意見交換や比較照合は、自己と他 者の設定項目に対する意識や視野の広がり、項目間の関係性を理解するための大切なプロセス である。設定項目は、「私」の学習課題として自覚され、そこには探求の主体としての「私」
が自覚される。同時に、新たな気づきや興味・関心を生み出し、学習活動の協同化を促がす契 機となる。
今回のサブ・トピックの設定は、トピックに対する事象認識や問題意識など教員サイドの個 別的要因に基づく設定のほか、日ごろの学習指導における児童・生徒の実態から予想される子 どもサイドの考えや意識、現行の教科内容に配慮して項目設定が行われたことも付け加えたい。
本稿では、高等学校についてのみ取り上げる。
(2)高等学校の枠組み例
トピック「効率」に関する高校教員14名のサブ・トピック例を①〜⑦(①②③は個人設定、
④⑤⑥⑦はグループ設定)に示した。
①3−A
デ,スカウ璽こ\消費生活 家庭生活∠欲
加工食品.∵Σ読 \タイルzZL:;ク瀞1謂
・コンビニ (労働)
②3−B
リサイクル法
\↑//7
法律
\
/装\ 包〆刃
伽
食品安全に関するもの リサイクル・リフォーム 洗剤
資源→食料→自給率
輸入一一一→安全性 残飯
/艦て
墓雲
廃棄一一〉環境r−〉リサイクル
\ごみ分別
》率\
④3−D
食品表示
現在の食生活←何をどれだけ食べる
地産地消一一〉輸送にかかるエネルギー 残飯一一一一〉飲食店における一年間の量 日本の消費量にっいて
コンビニー一〉保存するためのエネルギー 弁当一一〉消費期限 フアーストフード
\
/クレジットかド輸…/↑ 考轡→消費生活
食\ ノ韻生活 塵
/衣/ ↓
\住まう→快適に住まう→バリアフリー
死蔵衣料・←一一一管理 生活技術 の有効活用
@ ↓
電力の利用 ↓ 消費電力く一一電気製品 家事の省力化/
⑤3−E
リサイクル 分別
\/
↑
↓
陶_/く
ジ/ \
栄養所要量 欠食・個食・孤食・中食
ダイエット
冷凍保存食 レトルト・インスタント食 食習慣の変化
バラエティ 輸入材料 生活習慣病 保育・高齢者介護
安全性
⑥3−F
育児用品のレンタル 食材の無駄をなくす 食物←一一〉調理時間
エネルギー節約
ごみ問題 活動効率 エネルギー 介護サービスの利用
⑦3−G
少子化 機能
女性の社会進出 死蔵品
自給率←食物 住居r−〉エネルギー 食文化 住居探し 容器包装
ごみ(エコ・食品のエネルギー)
5 サブ・トピックの分布
ここに示されたサブ・トピックの項目分布を日本家庭科教育学会の提案になる「家庭科の21 世紀プラン」と、日本家庭科教育学会北陸地区研究会によるカリキュラム案に対応させて比較・
検討する。
(1)「家庭科の21世紀プラン」14)
日本家庭科教育学会は、21世紀を展望した我が国の社会的変化・発展に応える家庭科の構築 をめざし、家庭科教育で育む「生きる力(能力)」の概念図と教科内容(ミニマム・エッセン シャルズ)の構想案を提案した。
この構想案の内容とサブ・トピックの項目を照合したのが表1である。
表1 家庭科21世紀プランとの比較
高等学校段階 3−A 3,B 3−C 3−D 3−E 3.F 3−G
◎個人の生活と生活設計
個人及び ・生活目標とライフスタイル *
・自分の将来と生活設計・ジェンダー観と生き方 *
家 ◎家族の発達
族 ・性と結婚
の発 ・乳幼児の発達と生活環境(レンタル・少子化)・親になること
(*) (*)
達と
・職業と家族 *
福祉 ◎高齢者の生活と福祉
・社会保障と社会福祉制度 * *
・ボランティア活動
◎食生活と環境
・食事計画 *
生活 ・食料の調達・購入 * * * *
・食料の安全な保存・管理 * * * * *
資
・食糧・資源問題 * * * * * *
源と暮らし ・食事と献立 * *
・応用・発展的調理技能
揶゚生活と環境・被服の計画と選択・購入
* *
の ・被服の衛生・管理 * * *
知 ・衣料資源問題とリサイクル * * *
識 ◎住生活と環境
● ・住まいと風土
技 ・ライフサイクルと住まい(住空間) * * *
術 ・住居の管理
・住まいの法律と住宅問題
〈石油・電気・木材、労働・技術、時間〉 * * * * *
◎消費生活の営み
消
・消費生活と経済的仕組み * *
費生
カ活
?ツ c・フ境・税と社会保障・消費者問題と消費者行政・生活情報の活用
i自然・地域の生活環境保全の工夫)
**
み文 ◎生活環境・文化を創る暮らし と化 ・食・衣・住の生活と地域生活文化
・日本の生活文化と世界のっながり *
総合 ◎課題研究、ホームプロジェクトなど
注)表中の()〈 〉は、設定されたサブ・トピックに準じて加筆したものである。
(2)「生活主体を育む家庭科カリキュラムの理論と実践」15)
北陸地区研究会による包括的な家庭科カリキュラム研究の成果として提案されたカリキュラ ム案は、学習者の発達課題から学習課題を設定し、育む能力を掲げ、学習課題と学習領域のマ トリクスに具体的な題材を位置づけていくという手法で開発された。その枠組みとサブ・トピッ クの項目を照合したのが表2である。
表2 生活主体の育成をめざすカリキュラムとの比較 4っの学習課題
w習領域
A生活を自 ァ的に営む
B生活に主体的に関わる
̀ 伽 冒 , , 了 R , R F 一 一 一 一 一 一 一 一 一 ■ 一 一 ■ 一 一 一 冒 一 ■ ■ 一 ■ 曽 r , 一 , 一 一 一 一 一
i環境/資源)(消費/他)
C平等な関係を築き
@ ともに生きる●一一●昌」巳巳●■■曹一冒匿冒冒■■■一響r噂,
iジェンダー) (福祉/人権・他)
D生活を楽 オみ味わい nる
人の一生 ニ発達
発達課題一一■■「曹一,曹一一幽一一一一一
「のちと
カ活
AG
齬ユ圏畠86」6■巳■巳昌■●■■■■■一■●■■■冒■匿曹冒曹■冒冒一,,■一幽.・■匿曹冒冒■冒 一一一一一一一一一一一一一一一 冒「,一一一一一一一一一一
個人・家族の発達と福祉
個人・家族と社会 AG
子供の成長と保育 G ⁝
高齢者の生活と福祉
3;
iF;食生活 CDEFG BDEG iACE 闘 E iE :
EG
住生活 C icF i DF i
衣生活 G :cFG i
1:
生活資源と暮らしの営み
生活資源 ニ生活の
o営
生活経済.匿.一..曹冒曹冒冒
カ活情報 一一冒冒一
カ活時間
D9____ B iA …… ……門 …す冒… … …
@ i …曹「………
@ i
iB i − 匿冒冒『了 「一 6畠 昌
@ i……… … 1 …
@ …
匿曹.匿..一■一.冒冒.冒■冒,
注)表中のA〜Gは、サブ・トピック例3−A〜3−Gを表わしている。
表1、2から分かるように、サブ・トピックの領域分布には偏りがみられる。すべてのトピッ ク案に共通しているのは、食生活領域を中心にサブ・トピックが設定されていることである。
これは「効率」というトピックにっいてイメージされる認識経路に基づく項目への偏りである と同時に、類似した内容にっいての見方や考え方、問題解決への取り組みを領域ごとに取り扱っ てきた教科内容構成の特徴に起因しているものと考えられる。すでに「トピックの分野別分布 の日英比較」において述べたように、わが国の教科書内容が学問的・系統的に理路整然と記述 されており、領域ごとの縦割りの理解が重視されて学習活動が行われていることと無関係では
ない。16)
6 トピックのキー概念
図表から明らかなように、「効率」には実にさまざまなサブ・トピックが設定され、蜘蛛の
巣を張り巡らしたような広がりをみせている。これらのサブ・トピックを包括的に捉えること から引き出される概念は、衣・食・住生活、家族・家庭生活、消費生活を横断して資源・エネ ルギーの有効利用と環境保全に配慮したライフスタイルを確立することにまとめられそうであ
る。
トピックがどのような領域と関連し、どのような項目と関係が深いのか、どこに力点をおい ているのか、なにが不足しているのか、トピックとサブ・トピックとの関連、さらにはトピッ ク間の関連が、教科内容全体の中でどのような位置関係にあり繋がっているのかを絶えず確認 できる見取り図のようなものが必要である。とりわけ、トピック学習は、子どもたちの肉体、
感性、欲求や行動と深く結びっいた生活知を大切にする学習である。学習集団により学習活動 や内容の偏りを防ぐためにも、学習内容の位置づけを全体講造の中で理解しておくことが必要 である。教科領域の見取り図は、家庭科カリキュラムの構造化にとっても不可欠なものである。
授業時数の削減という引き算による内容構成を余儀なくさせられている教科にあって、限られ た授業時数の中でより効果的な学習活動を行うためには、トピックによる生活事象の横断的把 握と関連する問題解決能力を育成する編成が効果的な場面もある。トピックの内容構造とそこ で育成する能力を明らかにし、トピック間の調整を図り、家庭科を通してバランスのとれた能 力を育成する。そうしたアプローチの中から教科の基礎・基本を抽出することができるのでは ないか。まずは一っひとっのトピックのサブ・トピックを設定することから始めなければなら
ない。
註
1)青木幸子:家庭科における「知」の再構成と学びの転換東京,東京家政大学博物館紀要 第9集,2004,pp.1−15
2)文部省:教育改革のための基本的施策東京,1971,pp.21−29
3)柴田義松:新学習指導要領の読みかた.東京,あゆみ出版,1999,pp.152−155 4)苅谷剛彦:階層化日本と教育危機東京,有信堂高文社,2001
5)総務庁:第6回世界青年意識調査細分析報告書.東京,1999,pp.28−31
6)学習テーマの選定や授業展開に占める個別的意思の尊重、創作・発表機会の設定など広く 学習活動全般にわたる参加が高まりつつある。
7)IYFセミナー・シリーズ「育みの海図」第4回セミナー(1999.3.9経団連会館ホール)
資料のうちの一っ、第2回セミナー資料,pp.15−26
パー一一トの「参画のはしご」では、子どもが趣旨をよく理解せずに参加するものから主導的 な役割を演ずるものまで、8段階の参画のありようが論じられている。
8)F.H.Jホームページで確認後、事務局長にインタビューし、より詳しい実態について説明 を受けた。
9)下降線を描いた背景には、教員の負担増、生徒の意欲の低下、学習成果に対するギャップ、
男女共学への対応、授業時数削減による基礎・基本への移行などの複合要因がある。
青木幸子:家庭科教育の現状と課題.村山淑子・武井洋子編著:家庭科教育概説.東京,
一ッ橋書店,1985,pp.255−257
青木幸子:家庭科の実践的教育を実現するための方法論的課題 日本家庭科教育学会編:
家庭科の21世紀プラン.東京,家政教育社,1997,p.30 10)内閣府:日本の青少年の生活と意識東京,2001,pp.58−59 内閣府:平成13年度国民生活白書東京,2002,p.63
日本家庭科教育学会編:児童・生徒の家庭生活の意識・実態と家庭科カリキュラムの構築 一家庭生活に関する全国調査の結果一.東京,2002.pp.77−78
日本家庭科教育学会編:児童・生徒の家庭生活の意識・実態と家庭科カリキュラムの構築 一「家庭生活にっいての全国調査」の質的分析とクロス集計結果一.東京,2003,pp.81−82 家事参加の減少要因として、無気力・無関心、親の意識、家事の質の変化、協働行為へ の非参加的態度、家庭生活へ認識不足などが質的分析により明らかになった。
NHK放送文化研究所:日本人の生活時間2000.東京,NHK出版,2002,pp.62−74 食品流通情報センター:若者ライフスタイル資料集2001.東京,食品流通センター,2001 清水一彦他編:最新教育データブック第9版.東京,時事通信社,2002,pp.112−113 11)日本家庭科教育学会編:家庭科教育50年一新たなる軌跡に向けて一.東京,建吊社,2000,
pp.59−94,pp.115−166
12)村山士郎編:子どもデータバンク 激変する日本の子ども.東京,桐書房2000,pp.70−77 「家庭科教育法IV」における課題研究の調査結果もこれを実証している。
13)平成16年度現職教員研修会に参加した教員を対象とし、研修内容の一環として行われたも のである。
14)日本家庭科教育学会編:家庭科の21世紀プラン.東京,家政教育社,1997
15)日本家庭科教育学会北陸地区家庭科カリキュラム研究会:生活主体を育む家庭科カリキュ ラムの理論と実践.福井,北陸地区家庭科カリキュラム研究会,2003
16)青木幸子:家庭科における「知」の再構成と学びの転換.東京,東京家政大学博物館紀要 第9集,2004,p.14
参考文献
1)佐伯絆他編:学びへの誘い.東京,東京大学出版会,1995 2)苅谷剛彦:教育改革の幻想.東京,筑摩書房2002
3)教育科学研究会編:子どもの権利条約 学校は変わるか.東京,国土社,1991
4)青木幸子:問題(課題)解決能力を育てる授業,高部和子他編:家庭科教育実践講座 第1巻 21世紀を生きる子どもを育てる新しい時代の家庭科教育.東京,ニチブン,1998
5)文部省:高等学校学習指導要領解説 家庭編東京,開隆堂出版,2000
Summary
The characteristics of Home Economics learning lie in the problem solving study to
improve daily lives through pointing out problems in real lives alld solving them.
Experiences in the learning activities influence the quality of the problem solviIlg study .
To create the learning activities emphasizing studentls independence,1 take aim at re−
organizing subject matters with a clue to topic study.
To achieve my purpose I have tried to find out key concepts of the topics after present−
illg and analyzing them.