卒業生の近況報告 児童養護施設 新日本学園
著者 宇津木 孝正
雑誌名 東京家政大学附属臨床相談センター紀要
巻 13
ページ 73‑75
発行年 2013‑03
出版者 東京家政大学附属臨床相談センター
URL http://id.nii.ac.jp/1653/00010081/
東京家政大学附属 臨床相談センター紀要 第13集
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卒業生の近況報告
児童養護施設 新日本学園
宇津木 孝正
私は平成 18 年 3 月に東京家政大学を卒業し、
神奈川県川崎市にある児童養護施設新日本学園 で常勤心理士として勤務を始めました。私は社会 人入試で大学院に入ったため、それまでは 10 年 以上も教育分野での仕事をしていました。そのた め、よく知らない福祉分野の仕事に就職すること に対して少し不安はあったのですが、子どもに関 連した仕事をしたいと考えていたこと、教育分野 とは違った視点での子どもとの関わりにも興味 があった等の理由で、思い切ってこの仕事を選び ました。約 5 年を経過したばかりですが、卒業生 の近況報告という貴重な機会を頂きましたので、
川崎市の児童養護の状況も踏まえながら、本施設 の現況とこれまでの心理士としての活動を報告 させていただければと思います。
現在、川崎市には 0 歳から 2 歳の乳児・幼児を 対象とした乳児院が 2 施設、3 歳から 18 歳まで の幼児・児童を対象とした児童養護施設が 2 施設 あり、そのうちの 1 つが新日本学園です。川崎市 にはこの他に小規模グループホームなどもあり ますが、現在児童養護に関する 5 カ年計画が進め られており、養護施設の増設と建て直しに併せて、
養護と医療と心理が連携できるシステム構築の 試みとして、情緒短期治療施設機能を持った新施 設も準備されています。
児童養護施設新日本学園の現在の児童定員は 88 名、職員は保育士と指導員、事務職員、調理 士を含めて 32 名です。心理士は、常勤で勤務し ている私と、私より数年先輩で非常勤勤務の心理
士の 2 名で対応しています。約 75 年の歴史を持 ち、今の建物も 40 年を超えるベテランの建造物 ですが、先の川崎市の 5 か年計画で建て替え予定 です。
施設で生活する子ども達は家庭を離れて施設 で生活をしているので、子ども達がより安心・安 定した生活を送ることが出来るように、そして 個々の子ども達にとってより良い自立を目指す ことが出来るように支援することが全職員の業 務の基本的な柱となっています。したがって、心 理士もこの指針に沿って業務を行うわけですが、
これらに加え、児童福祉分野では現在、被虐待の 問題が大きな問題となっているとともに、発達障 害児童の増加が大きな問題となっています。平成 22 年度の調査では、神奈川県の児童養護施設に 在籍する児童の 37%が発達障害を疑われるとの 結果もありますが、虐待の背景にも児童の発達障 害がうかがえます。また、保護者の側の要因とし ても、精神障害に加え、発達障害の可能性がうか がえることも多々あります。したがって、被虐待 対応と発達障害児童の対応は欠かすことのでき ない課題となっています。
新日本学園では、子どもに対する心理業務とし て個人面接とグループワークを実施しています。
個人面接は、およそ 80 人に対して 2 人の心理士 で対応するため、全児童に実施することは難しく、
子どもの日常の様子と現場の職員からのニーズ
によって、だいたい幼稚園年長児以上の子どもを
対象にして毎週 1 回程度実施しています。主に遊
児童養護施設 新日本学園
戯療法とカウンセリングを実施しており、発達障 害児童のソーシャルスキルトレーニングや、日常 生活上のストレスを軽減することを目的とした 面接が多くなっています。幼稚園の年中より年齢 の小さい子どもに対しては、まずは生活を安定さ せることを優先し、生活場面に心理士が入って、
保育士さんに心理士からの視点を伝えながら連 携してより良い養護を一緒に考えるというスタ イルをとっています。
グループワークは、既存のソーシャルスキルト レーニングプログラムを使ったり、施設を卒園し た後の生活に向けた内容を、随時検討しながら実 施しています。とくに、既存のプログラムについ ては、私も同席しながら、保育士さんに実施して もらう形をとり、日常の養護の中でもスキルを展 開してもらえるように工夫しています。また、2 人の心理士で全員の子どもに対して個人面接を することは難しいので、グループワークは内容も さることながら、多くの子ども達と接するチャン スでもあり、とても重要な活動であると思ってい ます。
施設の中で仕事をする中で、私が特に留意して いるのは、子どもにとって“適度に特別な存在と なる”ということです。前述のとおり施設は子ど も達の日常生活の場です。そこで、心理という名 のもとに何やらわからない人が何やらわからな いことをしているとなると、面接対象となる子ど もに変な噂が立ったり、バカにされたりする可能 性もあり、心理活動に対する防衛に繋がります。
しかし、その反面、私があまりに日常生活に入っ て、他の職員と同じような対応をしてしまうと、
心理に対する理解や安心感は増しますが、子ども 達の中で面接内容の全てが職員に漏れてしまう のではないかという不安や、遊びと日常生活の区 切りがつきにくくなってしまうという可能性が
出てきます。現施設では、子ども達の活動への私 の参加・不参加について、職員の皆さんが配慮し てくださるので、私のパーソナリティに頼らず、
ある程度の特別な存在として位置を確立しつつ あるのかなと感じていますが、就職してから 5 年 間を通じて生活場面に入っていると、現場の保育 士さんと同じ視点になってきているのかなと感 じてしまう瞬間もあり、自分自身で心理専門職と しての視点を忘れないように日々振り返るよう に心がけています。
子どもに直接かかわる心理業務の他に、職員へ のコンサルテーションを実施したり、毎月行われ る“より良い養護を目指すための委員会”に参加 させていただき、新入職員育成プログラムの作成 や職員研修、子ども達のためのより良い活動計画 の策定にも関わらせていただいています。また、
川崎市のもう一つの児童養護施設との間で運営 されている“川崎市児童養護におけるスタンダー ド検討委員会”にも参加させていただいてき、子 ども達がより生活しやすい住環境のための建て 替え案の検討や、川崎市全体として、他職種間で ケースを共有できるような共通のアセスメント シートの作成にも携わらせていただいています。
このように現在は、スタッフの一員として職員
の皆さんと連携を図りながら業務をしています
が、就職当初は福祉の現場がよくわからず、戸惑
うことも多々ありました。特に、 “生活の中”と
いうことが頭では分かっても感覚的に良くわか
らず、心理活動との折り合いの難しさを感じたこ
とを思い出します。施設の中では 5 月のこどもの
日やクリスマス、夏休みの転住や招待行事など
様々な行事もありますし、子どもは元家族の家に
時々帰ったり、担当の先生と誕生日などにお出か
けしたり、通院することもあるので、その度に面
接は変更になったり中止になったりします。さら
宇津木 孝正