論 文
水中のワイヤレス給電に関わる幾つかの新しい現象
粟井 郁雄
†a)澤原 裕一
††山口 和也
†堀田 昌志
†††石崎 俊雄
††b)Miscellaneous Electromagnetic Phenomena in Wireless Power Transfer under Water
Ikuo AWAI
†a), Yuichi SAWAHARA
††, Kazuya YAMAGUCHI
†, Masashi HOTTA
†††, and Toshio ISHIZAKI
††b)あらまし 水中での結合共振器型ワイヤレス給電に関して新しく見出された四つの特性を紹介している.第1 に水による共振周波数の偏移が共振器電界の制御によって抑圧できること,第2に誘電媒質をうまく配置するこ とによって結合係数が増強され“WPTガイド”と呼ばれる新しいコンセプトが実現できること,第3に塩水に よる共振器損失は塩分濃度によって変化し極大極小が生ずること,第4に異物を介した給電であっても共振器特 性の把握によって非放射界としての理論が適用できることである.最後に,これらの結果を元に海水中給電の方 法について提言を行っている.
キーワード 共振器結合,磁界結合,電界結合,ワイヤレス給電,水の影響,塩水,海水
1.
ま え が き共振器が作る非放射界の結合を用いて行うワイヤレ ス電力伝送(
WPT
)は中距離向けのシステムとして広 く研究されているが,水中での給電についてはあまり 話題になることはなかった.筆者らはカプセル内視鏡 への給電や港湾での作業船また水中/
深海探査船など への給電を頭において水を介した結合共振器型WPT
について検討を行ったところ,従来あまり知られてい なかった幾つかの興味深い現象を見出した.水は磁性をもたず誘電性媒質であるから,電磁気 的特性は誘電率によって記述できる.その誘電率は実 数部と虚数部からなり,いずれも大きな値をもつので
WPT
回路に対する水の影響は興味深いものとなる.†株式会社リューテック,大津市
Ryutech Corporation, 1–5 Yokotani, Seta-oecho, Otsu-shi, 520–2194 Japan
††龍谷大学工学部,大津市
Department of Electronics and Informatics, Ryukoku Uni- versity, 1–5 Yokotani, Seta-oecho, Otsu-shi, 520–2194 Japan
†††山口大学大学院理工学研究科,宇部市
Graduate School of Science and Engineering, 2–16–1 Tokiwadai, Ube-shi, 755–8611 Japan
a) E-mail: [email protected] b) E-mail: [email protected]
前者は水素と酸素原子の分極の大きさ,後者は固体で あれば分極した原子に束縛された電子の振動に伴う摩 擦損失(古典的表現だが)であるのに対して,水の場 合は電離した酸素
/
水素イオンの導電損失から成るで あろう.しかし塩のような電解質が溶けた水は更にイ オン伝導が増大し,導電電流による大きな損失が生ず ると思われる.ただ,ミクロに見たときは固体と液体 との損失機構の差があるとはいえ,マクスウェル方程 式で記述するとrot H = J + ∂D
∂t = σE + jω(ε
r− jε
i)E
= jωε
rE + (σ + ωε
i)E (1)
となるので式中では
σ
とωε
iは同等の位置を占め,区 別できなくなる.このことが4.
で述べるように問題 をわかりにくくする.ここではE
,H
,D
,J
はそれ ぞれ電界,磁界,電束密度,電流密度であり,σ
,ω
は それぞれ導電率,角周波数を表す.又ε
r,ε
iはそれぞ れ誘電率の実数部,虚数部である.さて,まず誘電率実数部の
WPT
回路への影響は共 振周波数及び結合係数に対してであることを指摘して おかねばならない.周知のようにWPT
回路ではしば しばコイルとコンデンサで形成された共振器を2
個用 意して,それらを空間結合させることによって電力伝送する.したがって電界エネルギーを外付けコンデン サなど何らかの方法で閉じ込め,空間に分布する電界 の割合を減らすことによって共振周波数への影響を低 減できる事を
2.
で示す.つぎに結合係数への誘電率の影響はあまり良く知ら れているとは言えないので詳しく考察する必要がある.
共振器間結合は一般的に電界
/
磁界結合の混合したも のであるが[1]
,電気力線は異なった誘電媒質の境界で は屈折する性質があり[2]
,それが電界結合係数を変化 させる可能性がある.一方磁力線は全く誘電率の影響 を受けないので磁界結合成分は水の存在には関係しな い.このため外付けコンデンサのある共振器は水の影 響はあまり受けないが,スパイラルコイルの自己共振 を利用する共振器などは大きな影響を受ける可能性が ある.以前我々が明らかにしたように[3]
,スパイラル コイルの巻線方向によって電界結合係数は磁界結合に 対して符号を変えるので,相対するスパイラルコイル の巻線方向を反転することによって全結合係数が変化 する.水の存在がこの現象にどう影響するかを3.
で 明らかにする.更に誘電率の虚数部は共振器の無負荷
Q
を下げて 伝送効率を低下させる元凶である.塩分の存在は誘電 率の実数部にはほとんど影響を及ぼさないが,虚数 部の大きさはほぼ塩分濃度に比例する.したがってこ こでも電界エネルギーが多く露出している共振器は,WPT
システムを構成する二つの共振器間に置いた水 の塩分濃度を上げていくと損失が増加するであろう.一方コンデンサ付きの共振器などでは塩分がふえても 損失が増えないのではないかと期待される.これらの 予測が正しいかを
4.
で確認しつつ,海水中のワイヤ レス給電システムの構築をどのように行うべきかとい う視点を6.
で提供する.最後に強調しておきたい点は,水の存在にもかかわ らず結合共振器型
WPT
回路の伝送特性はその等価回 路定数,言い換えればkQ
積で表現できるという事で ある[4]
.すなわちこのシステムは非放射界の結合に よって成立しているので,その結合の質が水の存在に よって一様な空気中とは大きく異なっても同じように 扱えるということは,非放射界の本質に由来するもの と思われる.この議論は5.
で行う.2.
共振周波数への水の影響水の電気特性は誘電率で表現されるが,実数部と虚 数部から成る.まず比誘電率の実数部(
ε
r)は低周波図1 使用する3種の共振器
Fig. 1 Three types of resonators to control electric coupling.
では約
80
であり,マイクロ波帯から次第に下がって いくという報告がある[5]
のでMHz
帯では一定と考 えて良いであろう.虚数部(ε
i)については,水自身 が電離してイオンを生成するため導電率によって表さ れ,純水の導電率は5.479 × 10
−6S/m
と言われてい る[6]
.式(1)
の関係を用いて1MHz
のtan δ
を計算 すると0.001
程度となり,テフロンなみの非常に低損 失の誘電体ということができる.しかし水は溶媒とし て各種物質を溶かすために,何をどれだけ溶かすかに よってε
iが決まる.その中でもほぼ全量が電離してイ オン化し導電電流を流す食塩(NaCl
)は最も代表的 である.例えば生理食塩水(塩分濃度0.9%
)では1.6 S/m
,海水(塩分濃度3.5%
)では4.8 S/m
とされて おり[7]
これらは極めて高損失媒質と予想される.WPT
用の共振器として図1
に示すように我々はス パイラルコイル単独(Type A
),スパイラルコイル+
外付けコンデンサ(Type B
),2
層スパイラルコイル+
外付けコンデンサ(Type C
)の3
種類を用意した.こ れらの定数は以下のとおりである.共通パラメータ;共振周波数
2.3MHz
,線径1φ
, 直径30cm
,均等巻きType A
;100
巻,両端開放Type B
;22
巻,L = 54μH
,95pF
の容量で短絡Type C
;15
巻x2
,L = 90.5μH
,10pF
の容量で短絡
Type A
は分布定数共振器であるが,B
,C
は集中定数 と分布定数の中間に位置する.どちらもまずワイヤを 巻いてスパイラルコイルを作り共振周波数が2.3MHz
になるよう試行錯誤で容量を選んで接続した.どちら も寄生容量をもつため,接続した集中定数容量と測 定したインダクタンスから共振周波数を計算しても2.3MHz
にはならない.図
1 (b)
のType B
のようにスパイラルコイルとコ ンデンサで共振器を形成すると電界エネルギーはほと図2 共振周波数,無負荷Qへの水の影響を測定するた めの実験配置
Fig. 2 Experimental setup for studying effect of wa- ter to resonant frequency and unloaded Q.
んどコンデンサ中に閉じ込められ,少量の電界エネル ギーがコイル巻線間に分布する
[3]
.コンデンサの周り にも少量の電界エネルギーが分布するが,コンデンサ を水から1cm
も離せば影響は無視できる.このよう な共振器の結合は主として磁界結合で,少量の電界結 合成分が加わる.ここで図1 (c)
のように更にコイル を2
枚に分割して重ねて接続すると電界エネルギーは2
枚のコイル間にも閉じ込められ,なお一層共振周波 数変化を減らすことができる[4]
.そこでまず図
1
の共振器Type A
について図2
に示 す配置によって水の接近による共振周波数の変化を調 べる.図示したループコイルをVNA
(ベクトルネッ トワークアナライザ)に接続してS
11を測定した.周 波数測定も4.
の無負荷Q
測定も共振器の電磁界分布 を乱さないようループコイルはスパイラル共振器から 十分離すことが必要である.図2
のペットボトルは2
リットル仕様で大体図に示した寸法である.本来水の 影響を定量的に調べるには充分大きな面積と一定の厚 さをもった平板状容器に閉じ込めた水の層を用いるべ きであるが[8]
,簡便に実験を進めるために今後もこの ようなペットボトルを適当数並べることで代用する.なお共振器は水中に直接投入せず,隔壁によって水か ら一定距離だけ離して設置することを前提としている ことも,ペットボトルを用いる理由の一つである.
測定結果は図
3
のType A
という曲線で示すとおり であり,距離が縮まるとともに急激な周波数低下が起 こっている.横軸の距離はスパイラルコイル共振器の 面とペットボトルの共振器に近い方の面との間隔を指 す.測定結果は水の比誘電率が80
もあることを考え ると理解できる.なおこのときの水は水道水であるが 海水に対応する3.5%
食塩水に対する測定結果も同じ であった.つまり周波数に対する塩分の影響は非常に 少ないということになる.これは誘電率の実数部は共 振周波数に1
次の影響を与えるが,虚数部は2
次の影図3 3種の共振器の共振周波数に対する水の影響 Fig. 3 Effect of water to resonant frequency of 3
types of resonator.
図4 Type B,C共振器の周波数への水の影響(図3の
拡大図)
Fig. 4 Effect of water to resonant frequency of Type- B and C resonators (Expanded figure of Fig. 3).
響しか与えないというマイクロ波回路の知識
[9]
に対 応するものである.更に横軸の右端にAir
とあるのは 水を除去したときの値を示し,以下同様に表示する.共振周波数の大幅な変動は
Type A
共振器が水中給 電に利用しにくいことを意味する.なぜなら水と共振 器の相対位置が固定されている場合は問題ないが,変 動する場合は周波数調整が厄介となるからである.カ プセル内視鏡への給電のように,高くて場所によって 異なる誘電率をもつ人体中を動きまわるカプセルなど が該当する.この共振器に対して電気エネルギーを閉じ込めて外 にあまり出さない
Type B
,C
共振器はどうであろう か.図2
と同じ配置で同じく共振器/
ペットボトル間 距離を変えた結果をType A
と並べて図3
に示した.この結果は
Type A
に比べて劇的な改善を示している が図4
の拡大図を見るとType B
よりもType C
がよ り安定であることも分かる.電気エネルギーが空間に 露出していなければ大きな誘電率をもった物質が近く に置かれていてもほとんど共振周波数は変化しないこ とが理解できる.なおここでは塩分の影響が図3
より更に小さいことは自明であるからその曲線は示してい ない.
3.
結合係数への水の影響LC
共振器の場合では電界または磁界の片方だけが 中心的役割を示すことが多い.しかしType A
共振器,つまりスパイラル共振器では電界エネルギーが巻線の 周囲に広がって存在しているため集中定数というより 分布定数共振器と考えたほうが良い.事実スパイラル 共振器同士の結合では磁界結合に対して電界結合が無 視できない事がある
[3]
.これを反映して図5
のよう にType A
共振器間に水入りペットボトルを置いて結 合係数を測定すると,共振器間距離を一定に保ってい ても図6
に示すように水の量によって大幅に結合係数 が変化する.なおここでも使用する水は水道水であり,今後も特に塩分濃度を断らないときはこれを用いる.
結合係数
k
の測定はVNA
の2
ポートを図5
の二 つの共振器に接続し,結合ループを共振器から十分離 して疎結合にした上で,S
21を測定することによって 二つの共振ピークの周波数を見出せば次の式で算出で きる.k = 2 |f
1− f
2|
f
1+ f
2(2)
式中の
f
1,f
2はもともと同じであった共振周波数が 結合によって分離した各周波数である.図中の
2
本の分離していく曲線は同一の相対するス パイラル共振器の巻線方向が逆になっているものに対 応しており,磁気結合を基準にすると電気結合は巻線図5 共振器の結合係数に対する水の影響を測定する実験 配置
Fig. 5 Arrangement for measuring coupling coeffi- cient versus water.
方向によって符号が逆転するためにこのような現象が 現れる
[3]
.結合係数の測定は式(2)
のように正負の 区別ができないが,文献[1], [3]
の理論に従ってType A
の逆接続でボトル数4
の結合係数には負の値を与 えている.図6
の例では磁気結合成分k
mはペットボ トルがない場合の結合係数の平均値から0.013
であ り,電気結合成分k
eはペットボトル4
本を挿入した ときは0.025
となっている.そのために順方向巻ではk = 0.013 + 0.025 = 0.038
となり,逆方向巻ではk
eを引き算して
k = 0.013 − 0.025 = −0.012
となるは ずである(実際は−0.010
).水を挿入しないときの結合係数は図
6
の左端に対応 しており,順逆巻きの差から電界結合係数は0.001
程 度で,磁界結合に比べて1/10
程度であることが分か る.ところがペットボトル4
本を挿入すると20
倍以 上に増大し,0.025
と磁気結合より大きくなった.こ の理由は恐らく電気力線の屈折現象によるものである.図
7
のような異なった誘電媒質の境界ではn
を境 界面に垂直な単位ベクトルとして,マクスウェルの方 程式から電界E
,電束密度D
に対してn · (D
1− D
2) = 0
n × (E
1− E
2) = 0 (3)
という関係が成り立つため
図6 ペットボトル本数に対する3共振器の結合係数 Fig. 6 Coupling coefficient of 3 types of resonators
versus number of PET bottles.
図7 電界,電束密度ベクトルの屈折則 Fig. 7 Refraction law for electric field and electric
flux vectors.
tan θ
1tan θ
2= ε
1ε
2(4)
という屈折則が導かれる
[2]
.この関係とスパイラル コイルの作る電界分布から,ペットボトルの列が作る 水と空気の境界面による電気力線の収束効果が導かれ ると思われるが詳細は別の機会に譲りたい[10]
.これ は誘電体による電気エネルギーガイドということがで き,その他の材料例えば磁性体,金属も同様に利用で きる.非放射界の適切なガイドによって結合係数が増 強されるため,今後応用の道が開ける可能性がある.光信号(放射界または伝搬界)が式
(3)
に類似のスネ ルの法則に従いながら光ファイバーによって低損失で 伝送される動作と対応している.以上は
Type A
共振器に対するものであったが,外 付けコンデンサのあるType B
,C
については水の影 響はほとんどないと予想される.その理由は前章の共 振周波数への影響と同じで,これらの共振器は電界を コンデンサ等に閉じ込めているため,電界結合成分が ほとんど無視できるほど小さいからである.図6
にそ の実験結果を合わせて示したが,予想通り水の量によ らず一定であるのが特徴的である.更にType B
,C
共振器の違いを示すために図8
に縦軸を拡大した結 果を示しておく.共振周波数と同様2
重共振器であるType C
のほうが影響の少ないことが分かる.結合係数が大きいほど遠方に効率良く電力伝送が可 能であることを考えると,
Type A
共振器を正しい向 きで相対させることによって電界結合を加えれば効果 的な水中給電が可能となるかもしれない.電界結合成 分は必ずしも常に除去すべきものではない.最後に塩分が結合係数に及ばす影響についても調べ てみたが特に何も見つからなかったのは前章の共振周
図8 ペットボトル本数に対するType B,C共振器の結 合係数
Fig. 8 Coupling coefficient of Type B and C res- onators versus number of PET bottles.
波数に関する議論と同じである.すなわち塩分は誘電 率の実数部ではなく虚数部を左右するだけであるから,
式
(3)
は塩分濃度に依存しない.なお今後Type A
共 振器は結合係数の増加する順方向配置のみに限って検 討する.4.
無負荷Q
への水の影響共振器の無負荷
Q
(Q
u)は共振器損失に関する指 標であるから水の誘電率の虚数部が問題になる.2.
の 最初に述べたように水の電気的損失は導電電流に基づ くものであるが,マクスウェルの方程式の中ではその 起源は問われないので通常の誘電体損失と同じ扱いが できると思われる.そうであれば誘電体共振器の例か ら考えて,虚数部の増大いいかえれば塩分濃度の増大 とともに単調に無負荷Q
は劣化するはずであるし,電 界を強く閉じ込めるType B
,C
が良好な特性を示す ものと期待できる.そこでまず淡水(水道水)の影響を調べるために図
2
と同じ配置で共振器・ペットボトル間隔を変えていっ た結果を図9
に示す.図3
の共振周波数と同じく電界 エネルギーが露出しているType A
が大きな影響を受 けていることが分かる.なお横軸の右端は水を挿入し ない場合の値を示す.Type B
,C
共振器はもともと 電界結合成分が小さいためQ
uの低下率が小さく,特 にType C
では水との隔離によるQ
uの回復はあまり 目立たない.それに対してType A
共振器は電界閉じ 込めがないためペットボトルを密着するとQ
uは10
程度まで下がってしまうが,離すに連れて着実に回復 し,距離10cm
では水のない場合と同程度まで戻る.つぎに図
2
と同じ配置で共振器・ペットボトル間 隔を1cm
と一定に保ち,塩分濃度に対して無負荷Q
(
Q
u)の測定を行った結果を図10
に示す.しかしこ の結果は次の2
点において予想外のものである.まず図9 各共振器の無負荷Qに対する淡水の影響 Fig. 9 Effect of fresh water to unloaded Q of 3 types
of resonators.
図10 Type A,B,C共振器の塩分濃度に対する無負荷
Qの変化
Fig. 10 Unloaded Q of 3 types of resonators versus salt density.
第
1
にType A
共振器は塩分濃度に対して単調に無負 荷Q
を下げるのではなく低い値からいったんかなり 高い値に回復し,再び悪化するという不可解な振る舞 いをすること,第2
には,Type B
,C
は電界エネル ギーを閉じ込めているにもかかわらず高い塩分濃度で はType A
と基本的に変わらないことである.上記の第
1
点を詳しく調べるためにまず図10
の塩 分濃度0
の点を疑うことにした.この点の測定は水 道水を用いて行ったものであるが,食塩は加えていな くても電解質は溶けているはずであるから導電率はか なり高い可能性があり,実際水道水の導電率は0.4
〜3 × 10
−2S/m
としている資料がある[11]
.そこで塩分 濃度の厳しい制御から始める事とした.水道水の代わ りにイオン交換水(公称導電率1.0 × 10
−4S/m
以下)を入手し,塩分濃度と導電率との与えられた関係
[12]
を参照しながらイオン交換水に市販の食塩を加える事 によって細かく導電率の定義された水を用意した.
導電率の影響をより明確に示すため全ての共振器に ついて測定をやりなおした
[4]
.そしてType A
の測 定値を横軸の塩分濃度をより細かくかつ対数表示と し,距離をパラメータにとって表すと図11
のように 表現される.この図によると導電率が低いときは損失 が小さいが,その増加とともに損失は増加しその後反 転して減少に転ずる.そしてしばらくして極小に達し た後再び増加するという非常に複雑な経過を辿る事が 分かった.すなわち導電電流の増加とともに単調に損 失が増加するのではなくいったん減少させる何らかの 機構が存在することになる.その説明は以下のごとく である.導電率が低いときは電界によって励振された導電電 流が流れ導電率の増大とともに損失も増大していく.
図11 Type A共振器の塩分濃度に対する無負荷Qの
変化
Fig. 11 Unloaded Q of Type A resonator versus salt density.
図12 Type A,B,C共振器の無負荷Qに対する海水
の影響
Fig. 12 Effect to unloaded Q of 3 types of resonators by salt density.
しかしそのうちに磁界による誘導電流が流れ始めると その向きは電界によるものと反対であるために損失が いったん減少してゆく.更に導電率が増大すると磁界 の誘導電流が大勢を占め後は導電率とともに損失は単 調に増大する.これは単なる作業仮説であり,何らか の方法で確認する必要があるが,電磁界シミュレータ を活用する事によって近い将来実行したい.第
2
の意 外な結果はType B
,C
の電界エネルギーがほとんど 閉じ込められていることによると思われる.そのため 磁界による誘導電流損失しか存在せず,導電率の増大 とともに単調に損失が増加するだけになる.更に,各種共振器・ボトル間距離と無負荷
Q
の関係 を海水(3.5%
食塩水)を介して測定した結果を図12
に示そう.全ての共振器は距離とともにQ
u(無負荷Q
)が増加しており,距離とともに損失媒質の影響が 低下するという当然の結果である.しかしこれは海水 中の給電において効率を向上させるために使えそうな データである.なぜなら同じ厚さの海水を介して給電 するなら共振器は海水からできるだけ離すように設置 するべきであることを示唆するからであり,6.
でこの 事実を利用する.5.
非一様媒質中の結合共振器型ワイヤレ ス給電従来広く研究されてきた結合共振器型
WPT
システ ムは自由空間中に設置され,一様な環境内に存在する 共振器系として扱うことが可能であった.したがって その振る舞いは図13 (a)
のような等価回路の回路定数 を定めることによってほぼ完全に把握できた[13], [14]
. しかし図14
のように伝送空間に水入りペットボトル を置いたシステムに対しても同じ関係が適用できるか どうかは不明であるのでその確認を行っておきたい.まず図
14
のような配置で共振器は互いに40cm
離 したままで固定し,水道水入りのペットボトルを共振 器から対称的に離していったときの伝送特性を調べた.両端にあるループコイルは送信
/
受信の主共振器と結 合して整合用トランスとしての役割を果たす.一方結 合係数も同じ構成で測定するがこのときはループコイ ルと主共振器の結合は疎とし,できるだけ外部回路が 主共振器に影響しないようにする.図
15
のような測定結果が得られたが,Type A
共 振器が間隔2cm
付近で多少不自然に増加しているの は3.
で述べた電界の屈折効果によるものと考えられ る.以上の二つの結果を図13
の等価回路を用いた理 論式に代入して,伝送システムとしての透過特性が算 出できる.回路整合をきちんととった上最大伝送効率 条件[15]
を満たすように注意すると効率η
はη = f
om1 + 1 + f
om2(5)
図13 結合共振器型WPTシステムの等価回路 Fig. 13 Equivalent circuit of coupled-resonator WPT
system.
図14 伝送特性に対する水の影響を調べる共振器配置 Fig. 14 Arrangement of resonators to study effect of
water to transfer characteristic.
で表されることが知られている.ここに
f
om=
k
2Q
1Q
2(6)
であり,
k
は共振器間結合係数Q
1,Q
2は送受電共振 器の無負荷Q
である.これらの値として図9
,15
で 得られたものを用いて式(5)
によって伝送効率を計算 すると図16
を得る.そこに示すようにType A
のみ が非常に低い伝送効率から出発して,水が離れるに連 れて急激に回復するのは図9
の無負荷Q
の急速な回 復に対応している.この結果と比較するためにシステ ムの伝送特性を直接測定して図17
に示した.測定法 はマイクロ波回路測定の基本通りVNA
でS
21を求め る.結果は図16
と非常によく一致していることが分 かる.もう一つの例として,ペットボトルに海水と同じ塩 分濃度
3.5%
の水を入れて同様の測定を試みた.まずQ
uは図12
のように各共振器ともd
が小さいときは 非常に低いが,塩水から離れるに連れて回復するのは 当然である.塩分が多いときは磁界による誘導電流が 大きく,電界を閉じ込めたType B
,C
すらも大きく 損失を増したものと考えられる.一方結合係数を測定 したところほとんど塩分の影響を受けず図15
と似た 曲線を与えるが,多少は違うので図18
に示しておく.図15 淡水が結合係数に与える影響 Fig. 15 Effect of fresh water to coupling coefficient.
図16 kQ積から計算した淡水の透過特性 Fig. 16 Transfer property of fresh water calculated
bykQproduct.
図17 淡水を介した透過特性の実測値 Fig. 17 Measured result of transfer property through
fresh water.
図18 海水が結合係数に与える影響 Fig. 18 Effect of sea water to coupling coefficient.
図19 kQ積から計算した海水の透過特性 Fig. 19 Transfer property of sea water calculated by
kQproduct.
図
12
と図18
のデータを用いて式(4)
を計算すると 図19
が得られた.Type A
共振器の曲線がd = 1cm
近傍で膨らんでいるのは図18
の膨らみに対応してい る.図12
にあるようにQ
uが共振器の種類にかかわ らず似たような変化をするため図19
もそのようになっ ている.これに対応する伝送特性を前例同様に測定す ると図20
の結果が得られた.この図も図19
と非常に よく似ており,特に各共振器に対する曲線の特徴が非 常によく再現されている.以上によって次のような結論が得られる.カプセル 内視鏡給電や水中給電など電気的に非一様な環境で
図20 海水を介した透過特性の実測値 Fig. 20 Measured Transfer property through sea wa-
ter.
あっても共振器結合型
WPT
システムの理論は通常の 電気的に一様な環境での理論と同じで良い.異なる点 は回路定数の環境パラメータへの依存性だけであり,その情報を全て共振器特性に繰り込む事によって従来 の理論がそのまま使える.言い換えれば共振器の結合 係数と無負荷
Q
を把握しておけばkQ
積の理論が使 えるということである.6.
水中給電への指針はじめに述べた如く,水は優れた溶媒であるから各 種の物質を溶かしこむことができ,電解質もその一つ である.したがって自然界のいわゆる淡水は様々な少 量の電解質を溶かし,電気的には極めて不確定な媒質 であると考えられる.そうであれば淡水中のワイヤレ ス給電の理論を確定的に構築するのは困難であろうか ら,含有塩分が多いために却って安定な電気的特性を もつ海水や,生体の自己同一化作用によって安定な特 性をもつ人体などに視点を定めるのが良いのではない かと考える.そこで人体については別の機会に譲るこ とにして,ここでは海水に絞って考察してみよう.
海水は平均的に
3.5%
の塩分濃度をもち,その導電 率は温度依存性をもつが20
◦C
に於いては約4.8 S/m
であると言われている[7]
.さて水中給電においても電 気・電子回路は水に浸すわけではないのでスパイラル コイル部分も水からシールドされた空間に置かれると 考えて良いであろう.そこで図21
のように3.5%
食塩 水の入ったペットボトルを2
本密着して厚さ18cm
の 海水を模擬し,その両側に置いた送受共振器を離して いって透過特性を最適化できるか実験してみた.これ は図12
に示した「全ての共振器は海水から離れると無 負荷Q
が増大する」という傾向と,図22
に示す「共 振器を離すほど結合係数が減少する」傾向のトレード図21 中央に海水を挟んだシステム Fig. 21 WPT system with sea water layer at center.
図22 結合係数の共振器間隔依存性 Fig. 22 Coupling coefficient versus distance between
resonators.
図23 海水を中央に挟んだシステムの伝送効率 Fig. 23 Transfer efficiency of WPT system with lay-
ered sea water at center.
オフによる最適点がありそうだからである.結果を図
23
に示したが,全ての共振器には最適な距離があり,特に
Type A
はペットボトルからの距離2cm
で最小 損失1.2dB
を記録している.これは図22
のType A
が示す他と比べて高い結合係数が幸いした結果である.Type A
共振器と海水との距離2cm
では図3
に示し たように共振周波数のずれも大幅に小さくなる.ただ それでも6%
程度のズレが残るが共振器とエネルギー を透過させるべき海水との距離が変わらぬように設置 しておけば問題はない.このように海水に直接浸けな い利用では当初心配したType A
共振器の周波数ずれ は回避可能であり,水中での結合係数が水による電気 結合によって大幅に増大するType A
共振器が海水中 給電に最適であると思われる.7.
む す び水中の結合共振器型ワイヤレス給電,特に塩分を含 んだ水中の給電に関係する諸問題について主として実 験的な検討を行った.その中で次のような新しい知見 を得た.
(
1
)水による共振周波数の変動は電界エネルギー閉 じ込めによって抑圧することができる.(
2
)電界結合成分の大きな共振器の選択と誘電体ガ イドの設定によって共振器結合係数を大幅に増加する ことができる.(
3
)共振器の無負荷Q
は一般に水の損失によって低 下するが,塩分の適切な混入量を選ぶことによって逆 に改善することができる.(
4
)水などの異質な媒質を共振器間に挿入してもシ ステムの伝送特性は一般媒質のときと同じくk
,Q
uなどの回路定数によって記述できる.
(
5
)海水中の給電は電界結合の増強を利用しつつ,共振器の無負荷
Q
を低下させない位置取りによって高 効率を維持できる.以上の結果はペットボトルに入れた水によって得た ものであって単に基本概念を発見しただけのものであ るから,現実の応用に向けてより精細な理論や実験 データが必要である.またそうであるからこそ,逆に これらの事実は今後更に発展的に展開できる芽をもっ ていると信ずる.
文 献
[1] I. Awai, “New expressions for coupling coefficient be- tween resonators,” IEIEC Trans. Electron., vol.E88- C, no.12, pp.2295–2301, Dec. 2005.
[2] 竹山説三,電磁気学現象理論,丸善,東京,1939.
[3] I. Awai, Y. Zhang, T. Komori, and T. Ishizaki, “Cou- pling coefficient of spiral resonators used for wireless power transfer,” Proc. APMC 2010, pp.1328–1331, 2010.
[4] 澤原裕一,山口和也,堀田昌志,石崎俊雄,粟井郁雄,
“淡水・海水を介するワイヤレス給電の検討,”信学技報,
WPT2013-3, April 2013.
[5] 飯田週一(監訳),バークレー物理学コース2,電磁気学 下,p.424,丸善,1971.
[6] http://www.jsrae.or.jp/annai/yougo/98.html [7] http://www.delphis.co.jp/mame/mame02.html [8] 春山隆行,結城 亨,堀田昌志,羽野光夫,粟井郁雄,“共
鳴型無線給電システムへの水の影響に関する検討,”第14 回IEEE広島支部学生シンポジウム論文集,pp.326–329, 2012.
[9] 藤澤和男,改版マイクロ波回路,p.122,コロナ社,東京,
1972.
[10] 粟井郁雄,澤原裕一,山口和也,石崎俊雄,“WPTガイド による長距離ワイヤレス給電,”信学技報,MW2013-12, May 2013.
[11] http://www.authentec-at.jp/images/dl/data/
quality.pdf
[12] http://sky.geocities.jp/innovate2011/dendoudo.html [13] 粟井郁雄,小森琢也,“共振器結合型ワイヤレス給電システ ムの簡便な設計,”電学論(C),vol.130, no.12, pp.2198–
2203, Dec. 2010.
[14] 粟井郁雄,“磁気結合共振器型ワイヤレス給電システムの BPF理論による設計法,”電学論(C),vol.130, no.12, pp.2192–2197, Dec. 2010.
[15] I. Awai and T. Ishizaki, “Transferred power and ef- ficiency of a coupled-resonator WPT system,” Proc.
2012 IEEE IMWS IWPT, pp.105–108, Kyoto, May 2012.
(平成25年4月10日受付,6月15日再受付)
粟井 郁雄 (正員:フェロー)
1941年2月28日生.1963年3月京都 大学工学部電子工学科卒業.1968年3月 同大学院博士課程了,京大助手,(株)ユニ デン技師長,山口大教授,龍谷大教授をつ とめ,現在(株)リューテック代表取締役.
マイクロ波共振器,フィルタ,非接触電力 伝送の研究を行っている.電子情報通信学会マイクロ波研究 専門委員会委員長,IEEE Hiroshima Section,MTT Japan Chapter,MTT Kansai Chapter Chairを歴任.電気学会会 員,IEEE Life Fellow.
澤原 裕一 (学生員)
2013年3月龍谷大学・理工卒.同4月 より同大大学院修士課程在学中.現在,ワ イヤレス電力伝送の研究に従事.
山口 和也
2012年3月龍谷大学大学院理工学研究 科修了後,(株)リューテックにて無線電力 電送の研究開発.2013年4月から(株)イ マックに入社.FA機器,画像処理用LED 照明機器,ヘルスケアなどの研究開発に 従事.
堀田 昌志 (正員:シニア会員)
昭63愛媛大・工・電子卒.平2同大学 院修士課程了.同年愛媛大・工・電子助手.
平11山口大・工・電気電子講師を経て,平 成14同大学院理工学研究科助教授.現准 教授.平9〜10カリフォルニア大学ロサ ンゼルス校(UCLA)客員研究員.平12〜
14山口県技術アドバイザー.平12〜17山口県産業技術セン ター客員研究員.導波型光デバイス設計,マイクロ波伝送線 路,メタマテリアル,無線給電システムに関する研究に従事.
博士(工学).IEEE Senior会員.OSA,SPIE,AAAS,The Planetary Society各会員.
石崎 俊雄 (正員:シニア会員)
1981年京都大学工学部電気工学第2学 科卒.1983年同研究科修士課程了.同年 4月,松下電器産業株式会社に入社.以来,
同社研究部門にて,高周波・マイクロ波デ バイス・回路,無線通信装置,携帯電話用 フィルタなどの開発に従事.1998年,京 都大学工学博士号取得.同年,積層プレーナフィルタの開発に よりオーム技術賞を受賞.2003年,電気学会論文誌C発刊30 周年記念優秀論文賞受賞.2010年10月より,龍谷大学理工学 部教授.IEEEシニアメンバー.