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なうおそれがあること,3 故意免責規定は確認的注意的規定にとどまることを理由として, 偶発性の立証責任は保険金請求者が負担するものと判断した この13 年最判に対しては, 立証責任について請求者の負担を 考慮していない 5, 故意免責規定を確認的注意的規定と解した理 由が理論的に明らかにされていない

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Academic year: 2021

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傷 害 保 険 の 偶 然 性

― ― 保 険 法 施 行 後 の 立 証 責 任 と 立 証 の 程 度 ― ―

弁 護 士 山 田 康 裕 1 . 学 説 ⑴ 傷 害 保 険 に お け る 「 偶 然 ( 偶 発 )」 は , 保 険 契 約 一 般 に 要 求 さ れ る 保 険 契 約 成 立 当 時 に お け る 保 険 事 故 発 生 の 不 確 定 性 と い う 意 味 で の「 偶 然 」と は 異 な り ,事 故 が 発 生 し た 時 点 に お け る「 偶 然 」, す な わ ち 被 保 険 者 の 故 意 に よ ら な い こ と と 同 義 で あ る と 解 さ れ て き た 1。 他 方 で , 傷 害 保 険 の 約 款 に お い て は 一 般 に ,「 被 保 険 者 の 故 意 に よ る こ と 」 が 保 険 金 を 支 払 わ な い 場 合 と し て も 規 定 さ れ て い る こ と か ら , か つ て よ り 学 説 は , 保 険 金 請 求 者 が 立 証 責 任 を 負 担 す る と い う 説 2と 保 険 者 が 立 証 責 任 を 負 担 す る と い う 説 3に 分 か れ て 対 立 し , 裁 判 例 に も 争 い が あ っ た 。 こ の 問 題 に つ い て 旧 商 法 下 ,最 判 平 13.4.20 集 民 202.161( 以 下 「 1 3 年 最 判 」 と い う ) 4は , ① 支 払 事 由 , 請 求 権 の 成 立 要 件 で あ る こ と ,② 不 正 請 求 が 容 易 と な る お そ れ が 増 大 す る 結 果 ,保 険 制 度 の 健 全 性 を 阻 害 し ,ひ い て は 誠 実 な 保 険 加 入 者 の 利 益 を 損 1 大 森 忠 夫 「 商 法 に お け る 傷 害 保 険 契 約 の 地 位 」 同 ・ 保 険 契 約 法 の 研 究 120 頁 注(三 )( 有 斐 閣 , 1969), 石 田 満 「 傷 害 保 険 契 約 に お け る 立 証 責 任 」 上 法 37 巻 3 号 29,35 頁 ( 1994), 西 島 梅 治 ・ 保 険 法 〔 第 3 版 〕 381,388 頁 ( 悠 々 社 ,1998)。 2 山 下 丈「 傷 害 保 険 契 約 に お け る 障 害 概 念 ( 二 ・ 完 )」民 商 75 巻 6 号 900 頁 (1977), 西 島 ・ 前 掲 注 1) 388 頁 , 潘 阿 憲 「 傷 害 保 険 お よ び 生 命 保 険 の 災 害 関 係 特 約 に お け る 偶 然 性 の 立 証 責 任 」 文 研 論 集 124 号 251 頁 ( 1998), 及 び 後 掲 注 38 記 載 の 文 献 な ど 。 3 中 西 正 明 ・ 傷 害 保 険 契 約 の 法 理 72 頁 ( 有 斐 閣 , 1992), 山 下 友 信 「 判 批 」 ジ ュ リ 1044 号 135 頁 ( 1994), 竹 濵 修 「 保 険 事 故 招 致 免 責 の 主 観 的 要 件 」 保 雑 誌 547 号 42,43 頁 ( 1994), 船 越 隆 司 「 実 定 法 秩 序 と 証 明 責 任 ( 三 六 ・ 完 )」 判 時 1546 号 154 頁 ( 1996), 小 林 俊 明 「 判 批 」 ジ ュ リ 1090 号 162 頁 (1996), 山 野 嘉 朗 「 判 批 」 判 時 1603 号 203 頁 ( 1997) な ど 。 4 同 日 付 の 生 命 保 険 契 約 の 災 害 割 増 特 約 に つ い て の 最 判( 民 集 55 巻 3 号 682 頁 ) も 参 照 。

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2 な う お そ れ が あ る こ と ,③ 故 意 免 責 規 定 は 確 認 的 注 意 的 規 定 に と ど ま る こ と を 理 由 と し て ,偶 発 性 の 立 証 責 任 は 保 険 金 請 求 者 が 負 担 す る も の と 判 断 し た 。 こ の 1 3 年 最 判 に 対 し て は ,立 証 責 任 に つ い て 請 求 者 の 負 担 を 考 慮 し て い な い 5,故 意 免 責 規 定 を 確 認 的 注 意 的 規 定 と 解 し た 理 由 が 理 論 的 に 明 ら か に さ れ て い な い 6,不 正 請 求 の お そ れ は 保 険 制 度 一 般 に 認 め ら れ る の に 傷 害 保 険 が な ぜ 特 別 な の か 実 質 的 な 説 明 が な い 7, 他 の 種 類 の 保 険 契 約 に お い て も 保 険 事 故 概 念 に 「 偶 然 性 」を 入 れ た 約 款 規 定 に す れ ば 立 証 責 任 の 転 換 は 認 め ら れ る の か 8,事 案 と し て 自 殺 又 は 自 殺 で あ る 疑 い が 濃 厚 と 判 断 さ れ て お り 真 偽 不 明 状 況 で は な い の で 判 旨 の 一 般 化 に は 疑 問 が あ る 9な ど と 学 説 か ら 強 く 批 判 さ れ ,ま た 立 証 の 程 度 の 問 題 が 残 さ れ て い る と い う 指 摘 が あ っ た 10 1 3 年 最 判 の 後 ,損 害 保 険 契 約 に お け る 故 意 の 立 証 責 任 を 保 険 者 が 負 う と す る 最 高 裁 の 判 断 11が 相 次 い で な さ れ , 前 後 し て , 約 款 上 偶 然 性 の 要 件 が 規 定 し て あ る こ と の 意 味 に つ い て 検 討 す る 必 要 が あ り ,偶 然 と い う 言 葉 だ け を 見 て 請 求 者 に 立 証 責 任 が あ る こ と に は な ら な い と い う 見 解 が 有 力 と な り 12, ま た そ れ ら の 5 甘 利 公 人 「 判 批 」 判 時 1773 号 200~ 201 頁 ( 2002), 福 田 弥 夫 「 判 批 」 損 保 研 究 63 巻 4 号 292 頁 ( 2002), 竹 濵 修 「 判 批 」 私 法 判 例 リ マ ー ク ス 25 号 108,109 頁 ( 2002) な ど 。 6 甘 利 ・ 前 掲 注 5) 200 頁 , 福 田 ・ 前 掲 注 5) 292 頁 な ど 。 7 遠 山 聡 「 傷 害 保 険 契 約 お よ び 生 命 保 険 災 害 関 係 特 約 に お け る 偶 然 性 の 立 証 責 任 ⑴ 」 白 鷗 法 学 18 号 64,65 頁 ( 2001), 木 下 孝 治 「 判 批 」 ジ ュ リ 1224 号 108 頁 ( 2002)。 榊 素 寛 「 判 批 」 商 事 法 務 1708 号 ( 2004 年 ) 43~ 44 頁 8 竹 濵 ・ 前 掲 注 5) 109 頁 。 9 福 田・前 掲 注 5) 293 頁 ,甘 利 公 人「 保 険 契 約 に お け る 保 険 事 故 の 立 証 責 任 」 保 険 学 雑 誌 600 号 171 頁 ( 2008) も 参 照 。 10 遠 山・前 掲 注 7) 90 頁 ,福 田・前 掲 注 5) 294 頁 ,甘 利・前 掲 注 5) 202 頁 , 木 下 ・ 前 掲 注 7) 108 頁 , 榊 ・ 前 掲 注 7) 44,45 頁 な ど 。 11 最 判 平 成 16 年 12 月 13 日 民 集 58 巻 9 号 2419 頁 , 最 判 平 成 18 年 6 月 1 日 民 集 60 巻 5 号 1887 頁 , 最 判 平 成 19 年 4 月 17 日 民 集 61 巻 3 号 1026 頁 な ど 。 12 山 下 友 信「 オ ー ル・リ ス ク 損 害 保 険 と 保 険 金 請 求 訴 訟 に お け る 立 証 責 任 の

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3 最 高 裁 の 判 断 の 射 程 と の 関 係 で 1 3 年 最 判 の 射 程 と 再 考 可 能 性 が 検 討 さ れ た 13 そ し て 平 成 2 2 年 4 月 1 日 施 行 の 保 険 法 で は ,傷 害 疾 病 定 額 保 険 契 約 の 類 型 ( 同 法 2 条 9 号 ), 被 保 険 者 等 の 故 意 に よ る 場 合 の 免 責 規 定( 同 法 8 0 条 )が 定 め ら れ た こ と か ら ,直 接 に 立 ち 返 る べ き 実 体 法 規 が 存 在 せ ず 約 款 の み に 依 拠 し た 平 成 1 3 年 当 時 と 異 な り 保 険 法 施 行 後 は 約 款 の 懐 疑 は 新 保 険 法 の 規 律 を 参 考 に し て 解 釈 す べ き 14, 故 意 免 責 規 定 を 無 意 味 と す る 判 例 が 正 し い の で あ れ ば 保 険 法 で 故 意 免 責 規 定 を 設 け る の は 背 理 で あ り ,ま た 保 険 者 の 故 意 立 証 困 難 が 傷 害 保 険 と 損 害 保 険 と で そ れ ほ ど 違 い が な い と す れ ば 損 害 保 険 契 約 に お け る 一 連 の 判 例 と の 一 貫 性 を 考 慮 す べ き 15な ど と し て 1 3 年 最 判 は 見 直 さ れ る べ き で あ る と の 主 張 が な さ れ , 現 在 は , 1 3 年 最 判 が 維 持 さ れ る と の 主 張 16 分 か れ て 対 立 し て い る 。 ⑵ 立 証 責 任 の 所 在 に つ い て の 学 説 分 配 」川 井 健 ほ か 編・転 換 期 の 取 引 法 ― 取 引 法 判 例 10 年 の 軌 跡 ― 535 頁( 商 事 法 務 ,2004), 甘 利 ・ 前 掲 注 9) 166 頁 。 13 山 野 嘉 朗「 保 険 事 故 の 偶 然 性 の 意 義 と 保 険 金 請 求 訴 訟 に お け る 立 証 責 任 の 分 配 」 生 保 論 集 154 号 30~ 31 頁 (2006)。 14 土 岐 孝 宏「 傷 害 保 険 契 約 に お け る 偶 然 性 の 立 証 責 任 分 配 に 関 す る 将 来 展 望 ― 法 制 審 議 会 保 険 部 会 ・ 保 険 法 の 見 直 し に 関 す る 中 間 試 案 を 踏 ま え て ― 」 損 保 研 究 69 巻 4 号 35~ 37 頁 ( 2008)(「 土 」 は 「 土 」 に 「 ` 」。 以 下 同 じ ), 神 谷 髙 保 「 保 険 事 故 の 偶 発 性 の 立 証 責 任 ( 二 ・ 完 )」 民 商 140 巻 2 号 185 頁 (2009)。 15 山 下 友 信 「 保 険 法 と 判 例 法 理 へ の 影 響 」 自 由 と 正 義 60 巻 1 号 34,35 頁 (2009)。 16 佐 野 誠 「 新 保 険 法 に お け る 傷 害 保 険 約 款 規 定 」 生 保 論 集 第 166 号 7,8 頁 (2009), 出 口 正 義 「 保 険 法 の 若 干 の 解 釈 問 題 に 関 す る 一 考 察 」 損 保 研 究 71 巻 3 号 45,46 頁( 2009),潘 阿 憲「 判 批 」損 保 研 究 77 巻 3 号 189 頁( 2015), 潘 阿 憲 ・ 保 険 法 概 説 〔 第 2 版 〕 311,312 頁 ( 中 央 経 済 社 , 2018), 山 下 典 孝 「 人 身 傷 害 補 償 保 険 に お け る 障 害 概 念 の 偶 然 性 の 立 証 責 任 」 イ ン シ ュ ア ラ ン ス 損 保 版 4625 号 8 頁 ( 2015) な ど 。 な お , 立 法 担 当 者 は , 1 3 年 最 判 の 立 場 を 実 質 的 に 変 更 す る も の で は な く , 解 釈 に 委 ね る こ と と し て い る ( 法 制 審 議 会 保 険 法 部 会 第 23 回 会 議 議 事 録 44 頁 , 萩 本 修 ほ か 「 保 険 法 の 解 説 ( 5 ・ 完 )」NBL888 号 39 頁 ( 2008), 萩 本 修 編 著 ・ 一 問 一 答 保 険 法 194~ 195 頁 ( 有 斐 閣 ,2009))。

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4 ア 近 時 の 立 証 責 任 を 請 求 者 が 負 う と す る 見 解( 請 求 者 負 担 説 ) に は , 一 方 で , 偶 発 性 は 外 来 性 ・ 急 激 性 の 要 件 と と も に 傷 害 事 故 の 概 念 を 構 成 す る 不 可 欠 の 要 素 で あ る 17な ど と し て ,傷 害 保 険 の 給 付 事 由 で あ る と い う 形 式 的 論 拠 を 重 視 し , 保 険 法 上 の 故 意 免 責 規 定 は 任 意 規 定 で あ る か ら , こ の よ う な 解 釈 も 許 さ れ る と す る 見 解 が あ る 。 他 方 で ,モ ラ ル リ ス ク( 保 険 金 詐 欺 )は 刑 法 上 の 犯 罪 行 為 で , こ の 防 止 は 保 険 者 に 課 さ れ た 社 会 的 責 務 で あ り ,非 故 意 性 の 立 証 責 任 規 定 も モ ラ ル リ ス ク 対 応 の 有 効 な 手 段 で あ る 18, 他 の 保 険 と 比 べ て も 相 対 的 に 不 正 請 求 の 恐 れ が 大 き い 19な ど と し て , モ ラ ル リ ス ク の 防 止 と い う 理 由 を 重 視 す る 見 解 も あ る 。 ま た ,請 求 者 が 偶 然 性 の 主 張 立 証 責 任 を 負 う の は ,傷 害 保 険 が 偶 発 的 な 事 故 に よ る 死 亡( ま た は 傷 害 )に 限 っ て 保 険 金 を 支 払 う こ と を 前 提 に 保 険 料 率 を 算 定 し て い る か ら と 思 わ れ る と 分 析 す る 見 解 20も あ り , 1 3 年 最 判 の 指 摘 す る 「 誠 実 な 保 険 加 入 者 の 利 益 を 損 な う お そ れ 」 に つ い て 「 保 険 料 の 高 騰 化 等 」 17 潘 ・ 前 掲 注 16)保 険 法 概 説 310,311 頁 。 同 311 頁 は 「 火 災 保 険 な ど 他 の 保 険 契 約 に お い て も モ ラ ル ・ リ ス ク の 問 題 が あ る か ら , こ れ を 根 拠 と す る こ と に は 説 得 力 を 欠 く 」と も 論 じ て い る 。な お ,桜 沢 隆 哉「『 偶 然 な 事 故 』の 立 証 の 程 度 ,重 大 な 過 失( 下 )」イ ン シ ュ ア ラ ン ス 損 保 版 4517 号 9 頁( 2013)も 参 照 。 18 佐 野 ・ 前 掲 注 16) 12 頁 。 19 出 口 ・ 前 掲 注 16) 41 頁 ,山 下 典 孝 ・ 前 掲 注 16) 8 頁 。な お ,1 3 年 最 判 の 調 査 官 解 説 で あ る 志 田 原 信 三 ・ 最 高 裁 判 例 解 説 民 事 篇 平 成 13 年 度( 上 )466 頁 ( 法 曹 会 ,2004) は ,「 生 命 保 険 及 び 傷 害 保 険 は , 損 害 保 険 と 異 な り , 被 保 険 利 益 に よ る 制 約 が な く , 保 険 金 額 を 自 由 に 設 定 で き る こ と か ら , モ ラ ル リ ス ク が 特 に 高 い と 言 わ れ て い る 」こ と ,「 傷 害 保 険 は ,生 命 保 険 に 比 べ て 保 険 料 が 相 対 的 に 低 い こ と か ら , 生 命 保 険 よ り も 更 に モ ラ ル リ ス ク が 高 い 保 険 分 野 で あ る 」 こ と を 指 摘 す る 。 20 横 田 尚 昌 「 傷 害 保 険 金 請 求 に お け る 事 故 の 偶 然 性 の 証 明 」 生 保 論 集 156 号 162 頁 注 3( 2006)。佐 野・前 掲 注 16) 11 頁 も 参 照 。そ の 他 ,木 下 孝 治「 判 批 」 保 険 事 例 研 究 会 レ ポ ー ト 222 号 16 頁 も , 免 責 要 件 の 立 証 失 敗 に よ り , 本 来 は 支 払 う 必 要 の な い 保 険 金 , 不 正 請 求 事 案 の 増 大 に よ り 保 険 者 が 負 担 す る 調 査 ・ 紛 争 解 決 関 係 の 費 用 に 言 及 し て い る 。

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5 に 言 及 す る 旧 商 法 下 の 裁 判 例 21も あ っ た 。 イ こ れ に 対 し て ,保 険 者 が 立 証 責 任 を 負 担 す る と す る 見 解( 保 険 者 負 担 説 ) は , 請 求 者 負 担 説 の 実 質 的 論 拠 を , 不 正 請 求 の お そ れ が 他 の 保 険 よ り も 大 き い と い う 証 拠 は な い 22, 故 意 の 証 明 責 任 が 転 換 さ れ る こ と に よ り 保 険 加 入 者 が よ り 低 廉 な 保 険 料 で サ ー ビ ス を 受 け ら れ る よ う に な っ た と い う 事 情 は 認 め ら れ な い 23等 と 批 判 す る 。 そ し て 特 に , 傷 害 疾 病 損 害 保 険 契 約 に は モ ラ ル リ ス ク と の 趣 旨 は 及 ば な い と 批 判 す る 24。 非 故 意 の 立 証 責 任 を 請 求 者 に 負 担 さ せ る こ と は 消 費 者 契 約 法 1 0 条 に 違 反 す る と す る 見 解 が あ り 25, 被 保 険 者 に 故 意 な き こ と の 証 明 責 任 を 保 険 金 請 求 者 に 負 担 せ し め る 旨 の 特 約 は 暴 利 行 為 と し て 無 効 と 解 す べ き で あ り , 故 意 免 責 規 定 は 証 明 責 任 に 関 し て は 強 行 法 規 で あ っ て こ れ に 反 す る と す る 見 解 ( た だ し 旧 商 法 下 の も の ) も あ っ た 26 保 険 者 負 担 説 の 形 式 的 論 拠 と し て は ,「 被 保 険 者 の 故 意 に よ る こ と 」が 条 文 の 体 裁 上 ,免 責 事 由 と し て の 形 で 規 定 さ れ て い る こ と 27, 約 款 規 定 の 中 に 矛 盾 が あ る と き に は , 実 定 法 体 系 21 東 京 地 判 平 成 16 年 9 月 6 日 LLI/ DB: L05933635。 22 神 谷 ・ 前 掲 注 14) 175 頁 。 遠 山 ・ 前 掲 注 7) 65 頁 も 参 照 。 23 木 下 ・ 前 掲 注 20) 17 頁 ( 2008), 山 本 哲 生 「 保 険 事 故 の 偶 然 性 に つ い て 」 生 保 論 集 160 号 13 頁 ( 2007) も 参 照 。 24 木 下 ・ 前 掲 注 20) 16,17 頁 , 土 岐 孝 宏 「 判 批 」 法 学 セ ミ ナ ー 718 号 103 頁 (2014)。 25 榊 素 寛 「 判 批 」 民 商 132 巻 6 号 227 頁 ( 2005) な ど 。 こ れ に 対 し , 請 求 者 負 担 説 か ら , 立 証 責 任 が 問 題 と な る の は 真 偽 不 明 と い う 限 界 事 例 で あ り , 一 般 的 に 消 費 者 の 利 益 を 大 き く 損 な う と は 言 え な い な ど と の 反 論 が あ る ( 佐 野 ・ 前 掲 注 16) 11,12 頁 , 山 下 典 孝 ・ 前 掲 注 16) 8 頁 , 潘 ・ 前 掲 注 16)保 険 法 概 説 311 頁 , 江 頭 憲 治 郎 「 判 批 」 別 冊 ジ ュ リ ス ト 202 号 197 頁 ( 2010), こ れ に 沿 う 裁 判 例 に 下 記 裁 判 例❶等 )。 26 船 越 ・ 前 掲 注 3) 153 頁( 1996),岡 田 豊 基「 傷 害 保 険 契 約 に お け る 偶 然 性 の 立 証 責 任 」 損 保 研 究 65 巻 1=2 号 355 頁 ( 2003)。 27 中 西 正 明 「 判 批 」 判 時 1458 号 230 頁 ( 1993), 榊 ・ 前 掲 注 7) 44 頁 , 土 岐 ・ 前 掲 注 14) 28,29 頁 。

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6 へ の 適 合 性 を 考 慮 し て 解 釈 す べ き で あ る こ と 28, 急 激 ・ 外 来 は 客 観 的 で あ る が 偶 然 は 主 観 的 で あ る 29, 概 括 的 に 定 め ら れ た 保 険 金 支 払 事 由 に 該 当 す る 場 合 の う ち 特 定 の 場 合 を 例 外 的 に 保 険 金 支 払 い の 対 象 か ら 除 外 す る 30「 偶 然 」よ り も「 故 意 」 の 方 が 意 味 内 容 が よ り 明 確 で あ る 31こ と な ど が 指 摘 さ れ て い る 。 ま た 保 険 者 負 担 説 の 実 質 的 論 拠 と し て は ,非 故 意 と い う 事 実 の 立 証 困 難 性 や ,立 証 が で き な い 場 合 に 保 険 金 が 受 給 で き な い リ ス ク の 大 き さ が 指 摘 さ れ て い る 32。 そ し て , 保 険 者 の 立 証 困 難 に 対 し て は , 訴 訟 上 の 信 義 則 違 反 33や , 事 故 発 生 時 の 説 明 義 務 の 問 題 34と し て 対 応 す べ き と の 見 解 が あ る 。 ⑶ 立 証 の 程 度 ( 事 実 認 定 の 手 法 ) に つ い て の 学 説 等 ア 傷 害 保 険 の 偶 然 性 を 巡 っ て は ,立 証 の 程 度 や 事 実 認 定 の 手 法 に つ い て も 検 討 が な さ れ て き た 35。請 求 者 負 担 説 の 立 場 か ら , 28 船 越 ・ 前 掲 注 3) 153 頁 , 岡 田 ・ 前 掲 注 26) 352 頁 , 山 本 ・ 前 掲 注 23) 14 頁 , 桜 沢 隆 哉 「 傷 害 保 険 契 約 に お け る 保 険 事 故 と 偶 然 性 ・ 外 来 性 」 生 保 論 集 164 号 245 頁( 2008),土 岐 孝 宏「 判 批 」法 学 セ ミ ナ ー 754 号 107 頁( 2017) な ど 。 29 山 下 友 信 ・ 前 掲 注 3) 135 頁 , 岡 田 ・ 前 掲 注 26) 353 頁 。 30 中 西 ・ 前 掲 注 27) 230 頁 。 31 榊 ・ 前 掲 注 10) 44 頁 32 木 下 ・ 前 掲 注 20) 16 頁 な ど 。 前 掲 注 5 記 載 の 文 献 も 参 照 。 33 横 田 ・ 前 掲 注 20) 177 頁 , 松 本 博 之 「 保 険 金 請 求 訴 訟 に お け る 証 明 責 任 と 具 体 的 陳 述 義 務 」奥 島 孝 康 ほ か 編・昭 和 商 法 学 史 686~ 688 頁( 日 本 評 論 社 , 1996)。 34 山 野 ・ 前 掲 注 3) 203 頁 , 江 頭 憲 治 郎 「 判 批 」 別 冊 ジ ュ リ ス ト 138 号 175 頁 (1996) も 参 照 。 35 大 阪 地 方 裁 判 所 金 融 ・ 証 券 関 係 訴 訟 等 研 究 会 「 保 険 金 請 求 訴 訟 に つ い て 」 判 タ 1124 号 37 頁 以 下 ( 2003), 大 阪 民 事 実 務 研 究 会 編 ・ 保 険 金 請 求 訴 訟 の 研 究 判 タ 臨 増 1161 号 28 頁 以 下( 2004),山 野 嘉 朗「 傷 害 保 険 に お け る『 偶 然 性 』の 立 証 責 任 と 最 高 裁 判 例 ― 問 題 点 と 今 後 の 課 題 ― 」生 保 論 集 137 巻 31 頁 以 下 (2001), 横 田 ・ 前 掲 注 20) 159 頁 以 下 , 岡 本 知 浩 「 判 批 」 保 険 事 例 研 究 会 レ ポ ー ト 256 号 10 頁 以 下 ( 2011), 桜 沢 ・ 前 掲 注 17) 4 頁 以 下 , 志 田 原 信 三 ほ か 「 保 険 金 請 求 訴 訟 を め ぐ る 諸 問 題(上 )」 判 タ 1397 号 15 頁 以 下 (2014), 勝 野 義 人 「 判 批 」 共 済 と 保 険 59 巻 5 号 30 頁 以 下 ( 2017), 小 原 覚 「 判 批 」 保 険 事 例 研 究 会 レ ポ ー ト 313 号 12 頁 以 下 ( 2018) な ど を 参 照 。

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7 特 段 の 証 明 責 任 軽 減 措 置 は 不 要 で あ る と す る 見 解 36も あ る が , 請 求 者 負 担 説 に 立 つ 多 く の 見 解 は 請 求 者 の 立 証 負 担 の 軽 減 の あ り 方 を 論 じ て い る 。 そ の 一 つ は ,保 険 金 請 求 者 の 証 明 は「 一 応 の 証 明( 推 定 )」37 で 足 り る と い う 説 38で あ る 。た だ し ,こ の 考 え に 対 し て は「 人 の 意 思 決 定 に 関 し て は ,あ る 事 情 が あ れ ば 高 度 の 蓋 然 性 を も っ て 一 定 の 意 思 決 定 が な さ れ る と い う よ う な 定 型 的 事 象 経 過 を 内 容 と す る 経 験 則 は 存 在 し な い 」と し て ,高 度 の 蓋 然 性 を 内 容 と す る 経 験 則 の 適 用 に よ る 推 定 が 考 え ら れ て い る の で あ れ ば 問 題 で あ る と す る 指 摘 が あ る 39 他 の 見 解 と し て ,「 一 般 に , 人 は 自 ら を 傷 つ け る も の で は な い と い う 人 の 自 己 保 存 本 能 に 基 づ く 経 験 則 が 存 在 」 す る た め , 証 明 責 任 を 軽 減 す べ き で あ っ て ,「 保 険 契 約 者 が 外 形 上 事 故 を 想 起 さ せ る 傷 害 を 明 ら か に す る 事 実 を 主 張 し 証 明 す れ ば( 第 一 段 階 の 主 張 ・ 証 明 ), 差 し 当 り 偶 然 性 の 証 明 と し て 一 応 十 分 」 で あ り ,「 保 険 者 が 事 故 の 偶 然 性 を 争 う た め に は , 保 険 契 約 者 が 故 意 に 傷 害 事 故 を 引 き 起 こ し た 点 に つ い て の ま と も な 疑 念 を 理 由 づ け る 事 実 を 主 張・証 明 し な け れ ば な ら な い( 第 二 段 階 の 主 張 ・ 証 明 )」と し ,「 保 険 者 が 第 二 段 階 の 主 張 ・ 証 明 に 成 功 す れ ば 保 険 契 約 者( ま た は 保 険 金 請 求 者 )は ,再 び ,こ の ま と も な 疑 念 を 反 駁 し な け れ ば な ら ず ,こ れ に 失 敗 す れ ば 事 故 の 偶 36 松 田 武 司「 傷 害 保 険 契 約 に お け る 保 険 事 故 」竹 濵 修 ほ か 編・ 保 険 法 改 正 の 論 点 288 頁 ( 2009)。 37 朝 川 伸 夫 ・ 保 険 法 研 究 59 頁 以 下 ( 中 央 大 学 出 版 部 , 1967) 参 照 。 38 大 森 前 掲 注 1) 120 頁 注 3,石 田 前 掲 注 1) 32 頁 ,古 瀬 村 邦 夫 「 生 命 保 険 契 約 に お け る 傷 害 特 約 」ジ ュ リ 769 号 145 号( 1982)144 頁 ,出 口 正 義「 判 批 」 損 保 研 究 60 巻 4 号 236 頁( 1999),勝 野 義 孝「 不 慮 か 故 意 か の 決 定 さ れ な い 損 傷 」 戸 田 修 三 先 生 古 稀 記 念 図 書 刊 行 委 員 会 編 ・ 現 代 企 業 法 学 の 課 題 と 展 開 326,327 頁 ( 文 眞 堂 , 1998)。 39 加 藤 新 太 郎「 交 通 事 故 賠 償・保 険 金 の 不 当 請 求 」判 タ 619 号 7 頁( 1986), 松 本 ・ 前 掲 注 33) 675 頁 ほ か 。

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8 然 性 の 証 明 は な い こ と に な る 」と す る 説 が あ る( 以 下 ,こ の 見 解 を 「 事 実 上 の 推 定 説 」 と い う ) 40 イ 他 方 ,保 険 者 負 担 説 か ら 立 証 の 程 度 に 触 れ る 見 解 と し て ,保 険 金 請 求 者 は 外 形 的・類 型 的 に 偶 然 な 外 来 の 事 故 が あ る こ と を 証 明 す れ ば よ く ,保 険 者 が 故 意 に よ る も の で あ る こ と を 立 証 す る 責 任 を 負 う と す る 見 解 41や , 偶 然 性 の 要 件 か ら 「 故 意 に よ ら な い 」 と い う 意 味 を 排 除 し た 解 釈 を と る べ き と し て 「 偶 然 」 を「 傷 害 原 因 的 出 来 事 の 客 観 的 不 確 定 性 」の 意 味 と 解 し ,こ れ に つ い て 保 険 金 請 求 者 が 立 証 責 任 を 負 い ,他 方 で「 偶 然 」に 含 ま れ な く な っ た「 故 意 に よ る こ と 」は 故 意 免 責 規 定 と し て 保 険 者 が 立 証 責 任 を 負 う と す る 見 解 42が あ る 。 2 . 裁 判 例 ⑴ 筆 者 の 知 り 得 た 裁 判 例 の う ち ,保 険 法 施 行 後 に 締 結 さ れ た( 始 期 日 の 到 来 す る )傷 害 保 険 に 基 づ く 保 険 金 請 求 の 事 案 に お い て , 判 決 文 の 当 事 者 の 主 張 又 は 裁 判 所 の 判 断 に お い て 保 険 法 に 言 及 し た 上 で 偶 然 性 の 立 証 責 任 に つ い て 判 断 し た も の は 5 例 あ っ た ( 下 記 裁 判 例 ❶ ❸ ❹ ❺ ❻ )43。ま た ,立 証 の 程 度 の 検 討 の た め , 40 松 本 ・ 前 掲 注 33) 673~ 674 頁 , 笹 本 幸 祐 「 人 保 険 に お け る 自 殺 免 責 条 項 と 証 明 責 任 ( 四 ・ 完 )」 文 研 論 集 131 号 145 頁 ( 2000), 志 田 原 ・ 前 掲 注 19) 468 頁 。な お こ の 見 解 に つ き ,木 下 ・ 前 掲 注 20) 18 頁 は ,モ ラ ル リ ス ク 防 止 を 請 求 者 負 担 説 の 根 拠 と す る 場 合 に は , 傷 害 保 険 に お け る 不 正 な 事 故 発 生 の リ ス ク に 対 す る 評 価 の 点 で 自 己 矛 盾 に 陥 っ て い る と 指 摘 す る 。 41 竹 濵・前 掲 注 5) 109 頁 ,鈴 木 和 彦「 傷 害 保 険 に お け る 保 険 者 の 免 責 事 由 」 塩 崎 勤 編 ・ 現 代 裁 判 法 大 系 ㉕215 頁( 新 日 本 法 規 ,1998),中 西 ・ 前 掲 注 27) 230 頁 , 大 阪 高 判 平 成 11 年 3 月 18 日 判 時 1691 号 143 頁 も 参 照 。 こ れ に 対 し 山 本 ・ 前 掲 注 23) 11 頁 は「 偶 然 の 意 味 が 故 意 に よ ら な い こ と を 含 む も の で あ る こ と を 前 提 と し て 考 え れ ば , 偶 然 の 意 味 を 外 形 上 事 故 で あ る こ と を 示 す と 解 釈 す る こ と も 技 巧 的 」 と 指 摘 す る 。 42 土 岐 ・ 前 掲 注 14) 38~ 39 頁 。 43 そ の 他 ,保 険 法 施 行 後 の 偶 然 性 の 立 証 責 任 に つ い て ,保 険 法 へ の 言 及 は な い が ,理 由 を 述 べ 判 断 し た 裁 判 例 と し て ,東 京 地 判 平 成 26 年 9 月 29 日 ウエスト ロー・ジャパン文 献 番 号 2014WLJPCA09298010,札 幌 地 判 平 成 26 年 12 月 26 日 判 時 2273 号 128 頁 , 名 古 屋 地 判 平 成 28 年 3 月 30 日 ウエストロー・ジャパン文 献 番

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9 裁 判 例 ❶ の 控 訴 審 ( 裁 判 例 ❷ ) と , 保 険 法 施 行 前 の 事 案 で あ る が 傷 害 保 険 金 請 求 と 生 命 保 険 金( 主 契 約 )請 求 で 結 論 が 分 か れ , 真 の 意 味 で 真 偽 不 明 と さ れ た 裁 判 例 ( 裁 判 例 ❼ ) に つ い て も 取 り 上 げ た ( 全 て 自 動 車 運 転 中 の 衝 突 又 は 崖 下 等 へ の 転 落 事 案 )。 な お ,モ ラ ル リ ス ク 事 案 に 係 る 保 険 金 請 求 訴 訟 に お い て ,検 討 対 象 と さ れ る 間 接 事 実 は ,(A)事 故 の 客 観 的 状 況 ,(B)被 保 険 者 等 の 動 機 ,属 性 等 ,(C)被 保 険 者 等 の 事 故 前 後 の 言 動 等 ,(D)保 険 契 約 に 関 す る 事 情 の 4 項 目 に 大 別 さ れ る と さ れ て い る の で 44, 本 稿 で は 事 実 を 可 能 な 範 囲 で こ の 4 つ の 観 点 に 並 び 替 え て 整 理 し た 。 ⑵ 裁 判 例 の 概 要 ❶ 旭 川 地 判 平 成 26 年 1 月 20 日 自 保 ジャーナル 1921 号 163 頁 【 事 案 】 自 動 車 運 転 中 , 山 道 の 対 向 車 線 を 横 切 っ た 先 に あ る 旋 回 場 ( 駐 車 帯 ) 奥 の 崖 下 に 車 両 ご と 転 落 し て 死 亡 し た こ と に よ り , 事 業 用 自 動 車 総 合 保 険 契 約 の う ち の 人 身 傷 害 保 険 と 建 設 業 総 合 保 険 建 設 業 者 災 害 補 償 特 約 に 基 づ い て 保 険 金 を 請 求 し た ( 他 に , 車 両 保 険 金 を 請 求 )。 【 立 証 責 任 】 ① 保 険 金 請 求 権 の 成 立 要 件 , ② 損 害 保 険 と 異 な り 保 険 金 額 を 自 由 に 定 め ら れ る 傷 害 保 険 に つ い て の 不 正 請 求 防 止・保 険 制 度 の 健 全 性 を 守 る た め ,③ 保 険 法 80 条 は 任 意 規 定 と し , ④ 1 3 年 最 判 を 参 照 し て , 請 求 者 に 立 証 責 任 が あ る と し た ( 消 費 者 契 約 法 1 0 条 に も 反 さ な い と し た )。 【 事 実 認 定 】 (A)ハ ン ド ル を 右 転 把 し て 対 向 車 線 を 横 切 り 駐 号 2016WLJPCA03308009 が あ り ( い ず れ も 請 求 者 負 担 と の 結 論 ), そ の 他 理 由 を 述 べ ず に 請 求 者 負 担 と す る 裁 判 例 も 多 数 存 在 し た 。 他 方 で , 自 動 車 保 険 契 約 の 人 身 傷 害 保 険 等 が 車 両 保 険 金 等 と と も に 請 求 さ れ た 事 案 で , 損 害 保 険 金 請 求 と 同 様 に 免 責 規 定 を 適 用 し て 判 断 し た 裁 判 例 と し て , 札 幌 地 判 平 成 27 年 1 月 15 日 交 民 48 巻 1 号 73 頁 , 大 阪 地 判 平 成 29 年 3 月 24 日 自 保 ジャ ーナル2002 号 151 頁 , 大 阪 地 判 平 成 29 年 9 月 5 日 ウエストロー・ジャパン文 献 番 号 2017WLJPCA09058002 が あ っ た 。 44 志 田 原 ・ 前 掲 注 35) 15 頁 。

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10 車 帯 ( 旋 回 場 ) を 72~ 81km/h の 速 度 で 突 っ 切 っ て 崖 下 に 転 落 し た ,(B1)事 故 の 翌 日 以 降 も 仕 事 の 予 定 が あ り , 遺 書 も 認 め ら れ な い こ と か ら す る と , 計 画 的 な 自 殺 と 推 認 す る に は 若 干 疑 問 が 残 る が ,(B2)300 万 円 の 手 形 貸 付 債 務 の 返 済 の 目 途 が 立 っ て お ら ず 無 謀 運 転 も 不 自 然 で は な い と し て , 偶 然 性 を 否 定 し , 故 意 推 認 の 方 が 自 然 か つ 合 理 的 で あ る と し た ( 車 両 保 険 金 請 求 に も 故 意 免 責 規 定 を 適 用 し て 請 求 棄 却 )。 ❷ 札 幌 高 判 平 成 26 年 10 月 9 日 ウ エス トロ ー・ ジ ャハ ゚ ン文 献 番 号 2014WLJPCA10096008 【 事 案 】【 立 証 責 任 】 裁 判 例 ❶ と 同 様 ( 控 訴 審 )。 【 事 実 認 定 】 (A)転 落 時 の 速 度 は 30~ 35km/h で あ り , (B) 家 族 名 義 の 預 貯 金 と し て 163 万 余 円 が あ り , 家 族 の 契 約 す る 保 険 か ら 約 518 万 円 の 借 入 れ が 可 能 で あ っ た こ と 等 か ら , 自 殺 に よ る 解 決 を 考 え る ほ ど に 深 刻 な 問 題 を 抱 え て い た と は 認 め ら れ ず , 自 殺 の 動 機 が あ っ た と は 認 め ら れ な い と し , 旋 回 場 の 縁 を 見 誤 り 落 下 し た と 認 め ら れ る と し て 偶 然 性 を 認 め , 故 意 ・ 重 過 失 免 責 を 否 定 し た ( 一 審 判 決 取 消 , 請 求 認 容 )。 ❸ 名 古 屋 地 判 平 成 26 年 11 月 13 日 ウエストロー・ジャパン文 献 番 号 2014WLJPCA11136001 【 事 案 】 自 動 車 運 転 中 , 堤 防 法 面 に 衝 突 し て 死 亡 し た こ と に よ り , 事 業 用 自 動 車 総 合 保 険 契 約 の う ち 人 身 傷 害 保 険 , 搭 乗 者 傷 害 保 険 に 基 づ い て 保 険 金 を 請 求 し た 。 【 立 証 責 任 】 ① 保 険 金 請 求 権 の 成 立 要 件 ,③ 保 険 法 80 条 は 任 意 規 定 と し , ④ 1 3 年 最 判 を 参 照 し て , 保 険 金 請 求 者 に 立 証 責 任 が あ る と し た 。 【 事 実 認 定 】 (A)シ ー ト ベ ル ト を せ ず 運 転 中 ,T 字 路 突 き 当 り の 堤 防 法 面 に , 通 常 に 走 行 し て き た 場 合 に あ り 得 る 程 度 の 速 度 で , 回 避 措 置 を 講 じ る こ と な く 正 面 衝 突 し た こ と ,(B)事

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11 故 3 か 月 前 に 廃 業 し , 連 帯 保 証 人 に 迷 惑 を か け ら れ な い と い う 思 い が あ っ た 可 能 性 は 否 定 で き ず , 金 融 機 関 に 当 月 分 は 弁 済 し て い る が そ の 先 の 支 払 の 目 途 が あ っ た と は 考 え に く い こ と ,(D)保 険 料 払 込 期 日 を 2 日 徒 過 し て い る が ,直 ち に 失 効 す る と は 考 え に く く , 契 約 が 有 効 で あ る と 認 識 し て い た と 考 え ら れ る か ら 保 険 金 取 得 に よ り 債 務 額 圧 縮 を 考 え た と し て も 不 自 然 で は な い こ と 等 か ら , 意 図 的 に 惹 起 さ せ た も の で あ る 疑 念 を 払 拭 し き れ な い と し て 偶 然 性 を 否 定 し た ( 請 求 棄 却 )。 ❹ 東 京 地 判 平 成 28 年 5 月 12 日 ウ エス トロ ー・ ジ ャハ ゚ ン文 献 番 号 2016WLJPCA05128003 45 【 事 案 】 自 動 車 運 転 中 , 車 両 ご と 展 望 台 か ら 転 落 し て 死 亡 し た こ と に よ り , 個 人 総 合 自 動 車 保 険 契 約 の う ち 人 身 傷 害 条 項 及 び 搭 乗 者 傷 害 特 約 に 基 づ い て 保 険 金 を 請 求 し た ( 他 に , 車 両 保 険 金 を 請 求 )。 【 立 証 責 任 】 ① 「 急 激 か つ 偶 然 な 外 来 の 事 故 」 が 保 険 金 支 払 の 要 件 で あ る か ら ,保 険 金 請 求 者 に 立 証 責 任 が あ る と し た 。 【 事 実 認 定 】 (A)現 場 に は タ イ ヤ 痕 や 擦 過 痕 が 一 切 残 さ れ て お ら ず , 転 落 時 の ハ ン ド ル 操 作 や 走 行 経 路 , 速 度 と 言 っ た 具 体 的 な 態 様 を 一 義 的 に 認 定 す る こ と は 困 難 で あ り ( 駐 停 車 や 発 進 , 方 向 転 換 の 際 の ア ク セ ル と ブ レ ー キ の 踏 み 間 違 い や ハ ン ド ル 操 作 ミ ス の 可 能 性 も 十 分 に 考 え ら れ る ),(B1)約 3000 万 円 の 負 債 を 抱 え て お り 経 済 状 況 は 全 く 楽 観 視 で き る も の で は な か っ た も の の , 支 払 を 遅 滞 し て い た 訳 で は な く , 家 族 の も の も 併 せ れ ば 1200 万 円 を 超 え る 預 貯 金 が あ る 等 ,生 命 と 引 き 換 え に 保 険 金 を 取 得 し な け れ ば な ら な い ほ ど ひ っ 迫 し た 経 済 状 態 に 置 か れ て い た と ま で は 言 い 難 い ,(B2)心 臓 カ テ ー テ 45 控 訴 審 で あ る 東 京 高 判 平 成 28 年 12 月 21 日 ウエストロー・ジャパン文 献 番 号 2016WLJPCA12216002 は , 第 一 審 を 少 し 補 正 す る ほ か 支 持 引 用 し て い る 。

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12 ル 手 術 を 受 け た 後 の 経 過 は 安 定 し て お り 健 康 上 の 不 安 を 抱 え て い た と は 認 め ら れ な い( う つ 病 の 疑 い と の Y の 主 張 は 排 斥 ) こ と ,(C)被 保 険 者 は ,午 前 9 時 半 頃 に「 ド ラ イ ブ に 出 か け て く る 」 と 言 っ て 出 か け , 自 動 車 と フ ェ リ ー で 片 道 約 2 時 間 半 か か る 場 所 に 移 動 し て い る が , 事 故 現 場 付 近 に 観 光 名 所 が 存 在 す る こ と か ら か ら , ド ラ イ ブ 好 き な 被 保 険 者 が 訪 れ る こ と が 不 自 然 と ま で は 言 い 難 く , 自 殺 の 兆 候 は な く , む し ろ 事 故 の 日 以 後 の 通 院 や 同 窓 会 等 の 予 定 を 入 れ る な ど 自 殺 を 前 提 と し な い 行 動 を と っ て い る こ と か ら , 偶 然 性 を 認 定 し た ( 車 両 保 険 金 請 求 の 故 意 免 責 も 否 定 し , 請 求 認 容 )。 ❺ 名 古 屋 地 判 平 成 28 年 9 月 26 日 判 時 2332 号 44 頁 46 【 事 案 】 自 動 車 運 転 中 , 山 道 の 崖 下 の ダ ム 湖 に 車 両 ご と 転 落 し て 死 亡 し た こ と に よ り , 普 通 傷 害 保 険 契 約 に 基 づ い て 保 険 金 を 請 求 し た 。 【 立 証 責 任 】 ① 保 険 金 請 求 権 の 成 立 要 件 ,② 不 正 請 求 防 止 ・ 保 険 制 度 の 健 全 性 維 持 ,③ 保 険 法 80 条 1 号 は 確 認 的 な 規 定 と 解 さ ざ る を 得 な い が 任 意 規 定 で あ る か ら こ れ に 反 し な い こ と , ④ 保 険 法 制 定 前 後 で 改 定 な い こ と か ら , 保 険 金 請 求 者 に 主 張 立 証 責 任 が あ る と し た 。 【 事 実 認 定 】 (A)事 故 現 場 は 右 カ ー ブ で 左 側 が 崖 で あ る と こ ろ , 現 場 の 状 況 等 か ら , 右 に ハ ン ド ル を 転 把 し た 後 左 に ハ ン ド ル を 転 把 し ( カ ー ブ を 曲 が り き れ ず に ま っ す ぐ に 走 行 し た 等 の X の 主 張 を 排 斥 ),60~ 70km/h で 進 行 し ,タ イ ヤ 痕 や 制 動 痕 が 無 い こ と か ら 回 避 措 置 を と っ た 様 子 は う か が わ れ な い し , 何 ら か の 物 体 が 飛 び 出 し て き て 急 ハ ン ド ル を 切 っ た と い 46 判 タ 1436 号 162 頁 ,自 保 ジャーナル 1988 号 163 頁 。評 釈 と し て 山 下 典 孝「 判 批 」金 融 ・ 商 事 判 例 増 刊 1536 号 104 頁 以 下 ,土 岐 ・ 前 掲 注 28)107 頁 ,拙 稿 「 判 批 」 保 険 と 共 済 60 巻 3 号 22 頁 以 下 が あ る 。

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13 う 様 子 も 窺 わ れ な い と し , 現 場 以 外 に 転 落 す る に あ た っ て の 障 害 物 が 少 な く , 加 速 を 得 ら れ る よ う な 場 所 が な い こ と を 踏 ま え ,(B1)被 保 険 者 の 営 む 会 社 の 経 営 状 況 ( 急 を 要 す る 事 態 と は い え な い も の の , 直 近 の 利 益 状 況 が 必 ず し も 芳 し く な か っ た ),(B2)被 保 険 者 の 精 神 状 態( 心 療 内 科 等 を 断 続 的 に 受 診 し 精 神 的 な 疲 労 等 を 訴 え て い た が , 希 死 念 慮 を 述 べ た 形 跡 は な い ),(C1)遺 書 は な く ,事 故 の 日 以 後 の 予 定 も 組 ま れ て い た こ と 等 か ら , 被 保 険 者 が 自 殺 す る 意 図 を 有 し て い た と ま で は い え な い が , お よ そ 自 殺 を 考 え る よ う な 状 況 に な か っ た と も い え な い と し ,(C2)近 隣 の 温 泉 に 向 か う 渡 し 船 の 時 間 が す で に 終 わ っ て い た こ と 等 か ら , 本 件 事 故 当 時 , 本 件 道 路 を 走 行 し て い た 合 理 的 な 理 由 が 考 え 難 く , 現 場 付 近 を 偶 然 , 走 行 し て い た と い う の も 不 自 然 の 感 を 否 定 で き な い と し て , 偶 然 性 を 否 定 し た ( 請 求 棄 却 )。 ❻ 福 岡 高 判 平 成 29 年 6 月 28 日 自 保 ジャーナル 2006 号 140 頁 47 【 事 案 】 自 動 車 運 転 中 , 路 外 の 岩 に 衝 突 し て 夫 婦 で あ る 運 転 者 X1 と 同 乗 者 X2 が と も に 頚 椎 捻 挫・脳 震 盪 の 傷 害 を 負 い , 通 院 し て , 治 療 費 , 通 院 交 通 費 , 休 業 損 害 , 精 神 的 傷 害 が 発 生 し た こ と に よ り , 自 動 車 保 険 契 約 の う ち 人 身 傷 害 保 険 , 傷 害 一 時 金 給 付 保 険 , 傷 害 一 時 金 の 頚 部 捻 挫 等 追 加 給 付 特 約 に 基 づ い て 保 険 金 を 請 求 し た( 他 に ,X1X2 の 子 で あ り 自 動 車 所 有 者 で あ る X3 が 車 両 保 険 金 を 請 求 )。 【 立 証 責 任 】 ① 人 身 傷 害 保 険 金 の 発 生 要 件 ,③ 保 険 法 80 条 は 任 意 規 定 と し , 請 求 者 に 主 張 立 証 責 任 が あ る と し た 。 【 事 実 認 定 】 (A)車 両 の 損 傷 の 程 度( 小 さ さ )か ら ,15.3km/h を 大 幅 に 下 回 る 速 度 で 衝 突 し た と 認 め ら れ る こ と , 及 び 現 場 47 第 一 審 は 福 岡 地 直 方 支 判 平 成 28 年 12 月 20 日 自 保 ジャーナル 2006 号 140 頁 〈 参 考 収 録 〉( 請 求 棄 却 )。

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14 の 痕 跡 の 位 置 よ り ノ ー ズ ダ イ ブ ( 自 動 車 に 急 ブ レ ー キ を か け た 場 合 に 慣 性 に よ っ て 荷 重 が 前 方 に 作 用 し 自 動 車 の 前 部 が 沈 み 込 む 現 象 ) が 発 生 し て い な か っ た と 認 め ら れ る こ と か ら , ブ レ ー キ が 効 か な い 状 態 で 岩 に 衝 突 し た と 認 め ら れ る こ と(X ら の 40km/h で 走 行 し 急 ブ レ ー キ を 踏 ん だ 直 後 に 岩 に 衝 突 し た と の 主 張 供 述 は 矛 盾 す る ),(B)生 活 保 護 を 受 給 し 保 険 料 を 滞 納 す る な ど 経 済 的 に 困 窮 し , 下 記 に よ り 受 領 し た 保 険 金 は 生 活 保 護 の 担 当 部 署 に 申 告 す る こ と な く 自 ら 費 消 し て お り , (D)約 2 年 2 か 月 の 間 の ,い ず れ も 保 険 料 を 滞 納 し て い る 時 期 に , 合 計 5 回 も の 交 通 事 故 が 発 生 し て い て 不 自 然 で あ り , 事 故 の 半 年 前 に も 現 場 近 所 で 電 柱 に 衝 突 す る 類 似 の 事 故 を 起 こ し 保 険 金 を 受 領 し て い る こ と か ら す る と 保 険 金 請 求 の 動 機 等 が あ っ た と 推 認 さ れ る こ と か ら 故 意 を 認 定 し , 偶 然 性 を 否 定 し た ( 車 両 保 険 金 請 求 に つ き 故 意 免 責 規 定 も 適 用 し て , 請 求 棄 却 )。 ❼ 高 松 高 判 平 成 16 年 6 月 25 日 生 保 判 例 集 16 巻 431 頁 48 【 事 案 】 自 動 車 運 転 中 , 車 両 ご と 路 外 の 河 川 敷 に 転 落 し , 自 動 車 か ら 投 げ 出 さ れ て 下 敷 き と な り 全 身 打 撲 に よ り 搬 入 先 病 院 で 死 亡 し た こ と に よ り ,Y1 に 対 し 生 命 保 険 契 約 の 災 害 死 亡 特 約 ,Y2 に 対 し 生 命 保 険 契 約 の 傷 害 特 約 ・ 災 害 割 増 特 約 , Y3 に 対 し 交 通 事 故 傷 害 保 険 , Y4 に 対 し 自 動 車 総 合 保 険 , Y5 に 対 し 普 通 傷 害 保 険 に 基 づ い て 保 険 金 を 請 求 し た ( 他 に ,Y1 と Y2 に 対 し 主 契 約 に 基 づ く 死 亡 保 険 金 等 を 請 求 )。 【 立 証 責 任 】 傷 害 保 険 の 偶 然 性 ( 不 慮 の 事 故 ) は 請 求 者 , 生 命 保 険 の 主 契 約 の 故 意 免 責 は 保 険 者 ( 保 険 法 施 行 前 )。 48 第 一 審 は 高 松 地 観 音 寺 支 判 平 成 15 年 10 月 30 日 生 保 判 例 集 15 巻 666 頁 ( 請 求 棄 却 )。 評 釈 と し て 榊 素 寛 「 判 批 」 保 険 事 例 研 究 会 レ ポ ー ト 199 号 13 頁 以 下 (2005) が あ る 。

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15 【 事 実 認 定 】 (A1)事 実 と し て ,50km/h 程 度 の 速 度 で ブ レ ー キ を か け る こ と な く 路 外 に 逸 脱 し て 転 落 し た こ と が 認 定 さ れ て い る 。 そ の 上 で 争 点 に つ き ,(B)被 保 険 者 経 営 の 会 社 は 多 額 の 負 債 を 抱 え て 事 故 約 4 か 月 前 に 営 業 停 止 に 至 り , そ の 後 親 族 や 知 人 ら の 連 帯 保 証 債 務 が 現 実 化 す る な か , 債 務 返 済 の 見 込 み は 全 く な く ,(D)か ね て 加 入 し て い た 本 件 各 保 険 契 約 は 維 持 継 続 さ れ , 会 社 及 び 被 保 険 者 個 人 の 負 債 額 合 計 を 上 回 る 保 険 金 額 が 見 込 ま れ て い た か ら , 保 険 金 取 得 の た め に 自 ら 死 亡 事 故 を 起 こ す 強 い 動 機 が 存 在 し て い た 。(C1)被 保 険 者 は 事 故 2 日 前 に 保 険 代 理 店 の 男 性 方 に 電 話 を か け , そ の 妻 に 自 分 の 加 入 し て い る 保 険 で は ど の よ う に す れ ば 保 険 金 が 下 り る の か と 尋 ね , 例 え ば 自 転 車 の 運 転 中 に 崖 か ら 落 ち た り 等 の 場 合 に 降 り る 旨 の 回 答 を 聞 い た こ と も 考 え 併 せ れ ば , 被 保 険 者 が 債 務 返 済 の 資 金 を 得 る た め に 自 ら 死 亡 事 故 を 惹 起 し た と も 考 え ら れ る と こ ろ で あ り ,(C2)事 故 現 場 付 近 は カ ー ブ の 連 続 す る 道 路 で あ り , 本 件 事 故 は 被 保 険 者 が 近 隣 に 住 む 知 人 Z( 破 産 経 験 が あ り , 被 保 険 者 が 相 談 を し て い た ) と 偶 然 す れ 違 い , 事 故 現 場 の 180m 手 前 で 立 ち 話 を し た 直 後 に 起 き た も の で あ る か ら , 被 保 険 者 が 脇 見 や 居 眠 り を し た も の と は 考 え 難 い 。 し か し な が ら ,(A2)自 動 車 は ガ ー ド レ ー ル の 残 存 ポ ー ル に 正 面 か ら 当 た っ て な ぎ 倒 し た う え で 河 川 敷 ま で 落 下 し た が , 意 識 的 に 道 路 外 に 出 て 自 殺 を 図 る の で あ れ ば , 残 存 ポ ー ル を 避 け て 道 路 外 に 出 る の が 自 然 で あ り ,(C3)被 保 険 者 は 考 え 事 を し て ぼ う っ と し て 赤 信 号 無 視 を し た り , 2 度 ほ ど 電 柱 に 衝 突 し た こ と が あ り , 被 保 険 者 自 身 気 遣 っ て 自 動 車 に 初 心 者 マ ー ク を つ け て 走 行 し て い た こ と ,(C4)Z は 事 故 前 日 に Z 宅 で 2 回 と 事 故 直 前 に 被 保 険 者 と 会 っ た が 変 わ っ た 様 子 は な く , 事 故 前 日 に 会 っ た 際 は 明 日 も 来 る と 述 べ て お り , 事 故 直 前 に

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16 会 っ た 際 に 被 保 険 者 の 進 行 方 向 に は Z 勤 務 先 工 場 が あ り , Z は 勤 務 先 従 業 員 を 送 り 返 す 途 中 で , 被 保 険 者 が Z 勤 務 先 工 場 に 行 っ て も し ば ら く 帰 っ て こ な い と 認 識 し て お り (Z の 勤 務 先 工 場 に 行 く か 帰 る か 等 の 考 え 事 を し て い た 可 能 性 は 十 分 に あ る ),知 り 合 い と 立 ち 話 を し た 1,2 分 後 に 自 殺 を 決 意 し て 敢 行 す る こ と は 自 殺 者 の 心 理 状 態 を 推 し 量 る と 得 心 の い く も の と は い え な い こ と 等 か ら 不 注 意 か ら 生 じ た 事 故 で あ る 可 能 性 も 考 え ら れ る と し て , 自 殺 に よ る も の と 断 定 す る こ と が で き な い が , 自 殺 で は な い と 断 定 す る こ と も で き な い と し た ( 故 意 免 責 と 偶 然 性 を と も に 否 定 。 控 訴 一 部 認 容 , 傷 害 保 険 金 請 求 棄 却 , 生 命 保 険 金 請 求 認 容 )。 3 . 主 張 立 証 責 任 に つ い て の 検 討 ⑴ 裁 判 例 の 傾 向 の 検 討 以 上 検 討 し た 保 険 法 施 行 後 の 裁 判 例 で は ,全 て ,保 険 金 請 求 者 が 偶 然 性 の 主 張 立 証 責 任 を 負 担 す る も の と 判 断 さ れ て い た 。 理 由 に つ き ,① 保 険 金 請 求 権 の 成 立 要 件( 支 払 要 件 ,発 生 要 件 ) で あ る こ と は 5 例 全 部 が 指 摘 し ,う ち 4 例( 裁 判 例 ❹ 以 外 )で は ③ 保 険 法 8 0 条 1 号 が 任 意 規 定 で あ る こ と が 指 摘 さ れ て い た か ら ,形 式 的 論 拠 は 重 視 さ れ て い る と 解 さ れ る 。他 方 ,② モ ラ ル リ ス ク 防 止・保 険 制 度 の 健 全 性 と の 実 質 的 論 拠 は 裁 判 例 ❶ と ❺ が 言 及 し て い る が ,裁 判 例 ❸ ❹ ❻ に お い て は 直 接 の 言 及 が な か っ た か ら ,実 質 的 論 拠 の 重 要 度 は ,上 記 の 形 式 的 論 拠 よ り も 低 い よ う に も 解 さ れ る 。ゆ え に 裁 判 実 務 は ,請 求 者 負 担 説 の 形 式 的 論 拠 を 重 視 す る 見 解 に 近 い 状 況 の よ う に 思 わ れ る 。 ⑵ 私 見 は , 上 記 の よ う な 裁 判 例 の 傾 向 に 賛 成 で あ る 。 形 式 的 論 拠 に つ い て , 保 険 法 と 約 款 の 故 意 免 責 規 定 の 規 定 ぶ り に 違 い は な い が ,「 傷 害 」 と い う 支 払 事 由 は , 保 険 法 で は 「 偶 然 」 の 事 故

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17 と の 文 言 ( 非 故 意 性 の 限 定 ) が な い 49の に 対 し , 約 款 で は 偶 然 性 ( 非 故 意 性 ) の 限 定 が あ り , 約 款 の 規 定 は 保 険 法 の 規 定 か ら 修 正 さ れ た 特 異 な も の と な っ て い る 。 約 款 規 定 が 法 律 と 異 な る の は 当 事 者 が 特 有 の 意 味 を 与 え た か ら だ と 解 さ れ る の で , そ の 意 味 を 無 視 し な い 約 款 解 釈 が 当 事 者 の 意 思 に 沿 う と 解 さ れ , そ れ ゆ え 一 見 こ れ と 抵 触 し , 法 的 効 果 を 認 め る と 特 異 な 約 款 規 定 が 無 意 味 に な る よ う な 保 険 法 の 任 意 規 定 と 他 の 特 異 で な い 約 款 規 定 の 効 力 は 否 定 ・ 修 正 す る 意 図 が あ る と 解 さ れ る 。 ゆ え に 支 払 事 由 と し て の 偶 然 性 ( 非 故 意 性 ) 規 定 が 意 味 を 持 つ も の と 考 え る 。 さ ら に 実 質 的 論 拠 に つ い て ,特 に( 被 保 険 者 死 亡 の 事 案 で は な く )被 保 険 者 が 生 存 し て い る 入 通 院 の 事 案 で は ,保 険 の 対 象 で あ る 自 己 の 身 体 そ の も の を 負 傷 し た 被 保 険 者 本 人 が 事 故 に つ い て 説 明 す れ ば よ い の で あ る し ( 供 述 の 信 用 性 が 問 題 と な る ), 死 亡 の 事 案 と 異 な り ,入 通 院 は 繰 り 返 す こ と が 可 能 で あ る た め ,モ ラ ル リ ス ク 防 止 の 必 要 性 は 高 い よ う に 思 わ れ る 50 こ の よ う な 観 点 か ら す る と ,保 険 法 と 約 款 の 構 造 と い う 形 式 的 49 佐 野 ・ 前 掲 注 16) 7 頁 , 山 下 友 信 ほ か 編 ・ 保 険 法 解 説 - 生 命 保 険 ・ 傷 害 疾 病 定 額 保 険 444 頁〔 潘 阿 憲 〕( 有 斐 閣 ,2010)。こ れ に 対 し ,損 害 保 険 契 約 の 保 険 事 故 は「 一 定 の 偶 然 の 事 故 」( 保 険 法 2 条 6 号 )と さ れ ,保 険 法 上 に「 偶 然 」 と い う 文 言 が 「 あ る 」 の で , 約 款 に 「 偶 然 」 と の 文 言 が 規 定 さ れ て も 保 険 法 と 同 様 の た め 特 異 に は 感 じ ら れ な い ( 最 判 平 18.6.1 前 掲 注 11) 参 照 )。 最 判 平 19.4.17 前 掲 注 11)の 「 盗 難 」 に つ い て も , 保 険 金 支 払 事 由 と し て 同 格 の 「 偶 然 な 事 故 」 が 上 記 の よ う に 解 さ れ る の で , 同 じ 約 款 上 に , 保 険 者 に 故 意 の 立 証 責 任 を 負 わ せ る 手 掛 か り が あ る こ と か ら , そ の よ う な 手 掛 か り が な く 特 異 な 傷 害 保 険 の 「 偶 然 」 の 解 釈 と は 事 情 が 異 な る よ う に 思 わ れ る 。 拙 稿 ・ 前 掲 注 46) 24 頁 以 下 も 参 照 。 50 被 保 険 者 生 存 の 事 案 で は , 被 保 険 者 死 亡 の 事 案 と 比 べ て , (D)保 険 契 約 に 関 す る 事 情 が 主 張 さ れ や す い よ う に 思 わ れ る 。 本 稿 で も 被 保 険 者 死 亡 の 事 案 で は 6 事 案 の う ち 2 件 ( 裁 判 例❸❼)が 言 及 す る の み だ が ,1 件 の み の 被 保 険 者 生 存 の 事 案 ( 裁 判 例❻) で は 言 及 が あ る 。 志 田 原 ・ 前 掲 注 35) 20~ 21 頁 も 参 照 。ま た 東 京 地 判 平 成 26 年 9 月 29 日 前 掲 注 43),名 古 屋 地 判 平 成 28 年 3 月 30 日 前 掲 注 43) , 札 幌 地 判 平 成 27 年 1 月 15 日 前 掲 注 43), 大 阪 地 判 平 成 29 年 9 月 5 日 前 掲 注 43)で も 言 及 が あ る ( 但 し , 大 阪 地 判 平 成 29 年 3 月 24 日 前 掲 注 43)で は 言 及 が な い )。

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18 論 拠 を 重 視 し つ つ ,実 質 的 論 拠 に 合 理 性 が な い わ け で は な い こ と も 加 味 し て ,請 求 者 負 担 説 を 支 持 す べ き と 考 え る 。た だ し ,支 払 事 由 が 偶 然 性( 非 故 意 性 )の 限 定 を 受 け る こ と は ,保 険 加 入 者 が 明 確 に 認 識 し た 上 で 契 約 が 締 結 さ れ る よ う に 運 用 さ れ る こ と が 望 ま し い と 考 え る 。 4 . 立 証 の 程 度 ( 事 実 認 定 の 手 法 ) に つ い て の 検 討 ⑴ で は , 請 求 者 負 担 説 に 立 つ 保 険 法 施 行 後 の 裁 判 例 に お い て , 偶 然 性 の 立 証 負 担 を 軽 減 す る 考 え 方 は 受 け 入 れ ら れ て い る の で あ ろ う か 。 ま た そ れ は , 保 険 法 施 行 前 後 で 変 化 が あ る の で あ ろ う か 。 私 見 は ,人 の 自 己 保 存 本 能 に 基 づ く 経 験 則 は ,社 会 通 念 に 照 ら し て 承 認 さ れ る べ き も の と 考 え る の で ,事 実 上 の 推 定 説 の 観 点 か ら ,(A)の 事 実 ( 下 記 イ ) と , (B)(C)(D)の 事 実 ( 下 記 ウ ) に 分 け て , 立 証 負 担 の 軽 減 に つ い て 検 討 す る 。 ⑵ (A)事 故 の 客 観 的 状 況 速 度 が 速 い こ と ( 裁 判 例 ❶ ❺ ), ブ レ ー キ を か け た り 回 避 措 置 を 取 っ た り し て い な い こ と( 裁 判 例 ❸ ❺ ❻ ❼ )が 認 定 さ れ て い る 場 合 に は 偶 然 性 が 否 定( 故 意 が 認 定 )さ れ ,他 方 ,速 度 が さ ほ ど 早 く な い 場 合( 裁 判 例 ❷ )や ,具 体 的 態 様 を 一 義 的 に 認 定 す る こ と が 困 難 で 操 作 ミ ス 等 の 過 失 に よ る 可 能 性 も あ る 場 合( 裁 判 例 ❹ ) に は 偶 然 性 が 肯 定( 故 意 が 否 定 )さ れ て い た 。な お ,ブ レ ー キ を か け て い な い 場 合 で も ,避 け ら れ る は ず の 障 害 物 を 避 け て い な い な ど , 自 殺 を 意 図 し た と い う に は 不 自 然 な 走 行 経 路 で あ る こ と ( 裁 判 例 ❼ )は 故 意 を 否 定( 偶 然 性 を 肯 定 )す る 方 向 の 事 情 に な る と 思 わ れ る 。 保 険 法 施 行 前 の 裁 判 例 に お け る(A)事 故 の 客 観 的 状 況 に つ い て , 志 田 原 ・ 前 掲 注 36) 16 頁 は , 自 殺 が 疑 わ れ た 事 案 で は 「 自 殺 以

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19 外 の 事 故 原 因( 居 眠 り 運 転 ,脇 見 運 転 ,ハ ン ド ル 操 作 の 過 誤 な ど ) の 可 能 性 を 排 除 し て い る 」と し ,偶 発 性 が 認 め ら れ た 事 案 で は「 自 殺 以 外 の 事 故 原 因( 居 眠 り 運 転 ,脇 見 運 転 ,ハ ン ド ル 操 作 の 過 誤 な ど )の 可 能 性 が 指 摘 さ れ て い る 」と 分 析 す る 。ま た 小 原 ・ 前 掲 注 41) 22 頁 も 「 請 求 者 の 不 慮 の 事 故 の 立 証 に 関 し て は 『 何 ら か の 運 転 ミ ス 』の 可 能 性 ,蓋 然 性 で 足 り る と さ れ る 反 面 ,不 慮 の 事 故 を 争 い ,或 い は 自 殺 免 責 を 主 張 す る 保 険 会 社 に は『 何 ら か の 運 転 ミ ス 』も 排 除 し う る だ け の 立 証 が 要 求 さ れ て い る 」と 分 析 す る 。 こ れ ら の 分 析 に 表 れ る 保 険 法 施 行 前 の 事 実 認 定 の 傾 向 は ,保 険 法 施 行 後 の 裁 判 例 に も 沿 う も の と 解 さ れ ,保 険 法 施 行 前 後 で 事 実 認 定 ・ 立 証 の 程 度 に つ い て の 差 異 は 生 じ て い な い と 思 わ れ る 。 こ の よ う な 裁 判 例 の 傾 向 は ,事 実 上 の 推 定 説 に い う 第 一 段 階 の 主 張・証 明 と ,第 二 段 階 の 主 張・証 明 と い う 整 理 に 沿 う も の と 解 さ れ る 。 ゆ え に ,(A)の 事 実 に 関 し て は 裁 判 例 上 , 請 求 者 の 立 証 負 担 の 軽 減 が 受 け 入 れ ら れ て い る と 解 さ れ ,相 当 で あ る と 考 え る 。 ⑶ (B)(C)(D)の 各 事 実 (B)被 保 険 者 等 の 動 機 , 属 性 等 の う ち , ⅰ 被 保 険 者 の 経 済 状 況 ( 全 裁 判 例 で 言 及 )は ,負 債 ・ 預 貯 金 の 有 無 や 額 ,仕 事 ・ 収 入 の 有 無・状 況 が 考 慮 さ れ て お り ,負 債 の 返 済 の 目 途 が 立 っ て い な い ( 裁 判 例 ❶ ❸ ),廃 業 し た( 裁 判 例 ❸ ❼ ),経 済 的 に 困 窮 し て い た ( 裁 判 例 ❻ )場 合 に は 偶 然 性 が 否 定 さ れ ,債 務 額 と の 兼 ね 合 い で あ る 程 度 の 貯 金 が あ る 場 合( 裁 判 例 ❷ ❹ )に は 偶 然 性 が 肯 定 さ れ て い た 。ⅱ 被 保 険 者 の 健 康 状 態( 裁 判 例 ❹ ❺ が 言 及 )は ,手 術 を 受 け た が 経 過 が 安 定 し て い た こ と ( 裁 判 例 ❷ ), 心 療 内 科 等 を 断 続 的 に 受 診 し 精 神 的 疲 労 等 を 訴 え て い た が 希 死 念 慮 を 述 べ た 形 跡 は な い こ と ( 裁 判 例 ❺ ) を 指 摘 す る も の が あ っ た 。 (C)被 保 険 者 等 の 事 故 前 後 の 言 動 等 に つ い て , ⅰ 事 故 当 時 事 故 現 場 に い た こ と に 合 理 性 ( 不 自 然 性 ) が あ る か ど う か ( 裁 判 例

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20 ❹ ❺ ❼ ),ⅱ 事 故 1 ~ 2 分 前 に 知 人 と 会 っ た こ と( 裁 判 例 ❼ ),ⅲ 事 故 2 日 前 に 事 故 態 様 と 符 合 す る 内 容 の 会 話 が さ れ て い た こ と ( 裁 判 例 ❼ ), ⅳ 遺 書 が 無 い こ と や 事 故 日 以 後 の 予 定 が あ っ た こ と ( 裁 判 例 ❶ ❹ ❺ ) な ど が 摘 示 さ れ て い た 。 (D)保 険 契 約 に 関 す る 事 情 に つ い て , 裁 判 例 ❸ は 払 込 期 日 を 2 日 徒 過 し て い た こ と に つ い て の 評 価 を 述 べ る 。裁 判 例 ❼ は ,被 保 険 者 死 亡 の 事 案 で ,保 険 契 約 が 維 持 継 続 さ れ て い て ,負 債 額 合 計 を 上 回 る 保 険 金 額 が 見 込 ま れ て い た こ と を 指 摘 す る も の で あ り , 裁 判 例 ❻ は ,被 保 険 者 生 存 の 事 案 で ,約 2 年 2 カ 月 の 間 の ,い ず れ も 保 険 料 を 滞 納 し て い る 時 期 に ,合 計 5 回 も の 交 通 事 故 が 発 生 し て い る こ と 等 を 指 摘 す る も の で あ る 。 保 険 法 施 行 前 の 裁 判 例 に つ い て , 志 田 原 ・ 前 掲 注 36)19~ 20 頁 は(B)(C)(D)の 事 実 を 補 完 的 な も の と 位 置 づ け , 小 原 ・ 前 掲 注 41) 21 頁 も ,(B)(C)(D)の 事 実 は (A)の 事 実 と 比 べ て 必 ず し も 重 視 さ れ て お ら ず ,「 こ れ ら は 客 観 的 事 実 に 基 づ い て 事 故 惹 起 に 関 し て 故 意 性 が 推 認 さ れ る 場 合 ,矛 盾 し な い よ う な 場 合 に は ,判 断 を 裏 付 け る 事 実 と し て 評 価 さ れ る 一 方 で ,推 認 結 果 と 相 容 れ な い 意 味 を 持 つ と 考 え ら れ る よ う な 事 実 で あ っ て も ,む し ろ 推 認 結 果 と 矛 盾 し な い か 否 か と い う 観 点 か ら 評 価 が 行 わ れ て い る 」と 分 析 す る 。こ れ ら の 分 析 に 表 れ る 保 険 法 施 行 前 の 事 実 認 定 の 傾 向 は ,保 険 法 施 行 後 の 上 記 の 裁 判 例 ❶ ~ ❻ に も ,概 ね ,沿 う よ う に 思 わ れ る 。 た だ ,(B)被 保 険 者 等 の 動 機 , 属 性 に つ い て , 裁 判 例 ❹ は 「 生 命 と 引 き 換 え に 保 険 金 を 取 得 し な け れ ば な ら な い ほ ど ひ っ 迫 し た 経 済 状 態 に 置 か れ て い た と ま で は 言 い 難 い 」( 裁 判 例 ❷ も 同 旨 ) と し て 偶 然 性 を 認 定 し ,裁 判 例 ❺ は 動 機 に つ い て「 お よ そ 自 殺 を 考 え る よ う な 状 況 に な か っ た と も い え な い 」と 論 じ て 偶 然 性 を 否

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21 定 し て い る 51か ら , 一 般 論 と し て , も し そ れ ら の 事 実 が 認 定 さ れ る な ら ,反 対 の 事 実 の 推 定 を 覆 す 可 能 性 が あ る こ と が 全 く 否 定 さ れ る 訳 で は な い と 思 わ れ る( 裁 判 例 ❼ に お い て ,(A2)の 事 実 が 認 定 さ れ て も な お 偶 然 性 が 否 定 さ れ て い る の は , か な り 強 い (B)(D)(C1)の 動 機 が 存 在 し て い た か ら と も 解 さ れ る )。 ま た(C)被 保 険 者 等 の 事 故 前 後 の 言 動 等 に つ い て , 裁 判 例 ❼ に お け る(C4)の 事 実 は「 自 殺 者 の 心 理 状 態 を 推 し 量 る と 得 心 の い く も の と は い え な い 」と し て ,請 求 を 全 部 棄 却 し た 第 一 審 の 判 決 を 一 部 取 り 消 し て 真 偽 不 明 を 導 い て い る の で ,事 故 現 場 に い た こ と の 強 い 合 理 性 , あ る い は 事 故 と 極 め て 近 接 し た 時 点 (1,2 分 前 ) に お け る 自 殺 を 強 く 否 定 す る(C)の 事 情 も , こ れ に 類 す る も の と 考 え ら れ る( 但 し ,偶 然 性 認 定 に は 至 っ て い な い 。な お ,反 対 に 裁 判 例 ❹ は ,被 保 険 者 が 事 故 現 場 に い た こ と が「 不 自 然 と ま で は 言 い 難 く 」 と し て 偶 然 性 を 肯 定 し て い る )。 こ れ を 請 求 者 の 立 証 負 担 と い う 観 点 か ら み る と , 請 求 者 に は , (B)「 お よ そ 自 殺 を 考 え る よ う な 状 況 に な か っ た 」 こ と や , (C) 事 故 と 極 め て 近 接 し た 時 点 の 自 殺 に よ ら な い こ と を 強 く 推 認 さ せ る 事 実( 裁 判 例 ❼(C4)を 超 え る ほ ど の 推 認 力 を 持 つ も の )の 立 証 が 求 め ら れ て い る と い え ,そ の 負 担 は 重 く ,(B)(C)の 事 実 に つ い て 請 求 者 の 立 証 負 担 は 軽 減 さ れ て い な い よ う に 思 わ れ る 。 事 実 上 の 推 定 説 の 観 点 か ら 分 析 す る と , 保 険 者 に よ り(A)「 何 ら か の 運 転 ミ ス 」の 可 能 性 を も 排 除 す る ,第 二 段 階 の 主 張・立 証 が な さ れ た 場 合 ,請 求 者 の こ れ に 対 す る 反 駁 に つ い て は 立 証 の 負 担 が 軽 減 さ れ て い な い , と い う こ と に な る よ う に 思 わ れ る 。 保 険 者 が 第 二 段 階 の 主 張・証 明 に よ り ,偶 然 性 の 推 定 に 対 し て ま と も な 疑 念 を 抱 か せ ,む し ろ 故 意 に よ る こ と を 推 定 さ せ る こ と 51 札 幌 地 判 平 成 26 年 12 月 26 日 前 掲 注 43 も ,「 衝 動 的 に 自 殺 し た も の で あ る 可 能 性 が な い と い う こ と は で き な い 」 と 論 じ て 偶 然 性 を 否 定 し て い る 。

(22)

22 に 成 功 し た の で あ れ ば , 保 険 金 請 求 者 の 反 駁 が , 第 一 段 階 の 主 張・証 明 と 比 べ て 厳 し い も の に な る の は や む を 得 な い と 思 わ れ る 。 し か し ,(B)「 お よ そ 自 殺 を 考 え る よ う な 状 況 に な か っ た 」 事 実 を 立 証 す る の は ,ま さ に「 無 の 証 明 」と な り ,極 め て 難 し い よ う に 思 わ れ る 。ど ん な 事 実 が 認 定 さ れ れ ば 第 二 段 階 の 主 張・証 明 に 対 す る 反 駁 と な る の か ,あ る い は 特 定 の (A)の 事 実 が 認 定 さ れ た 場 合 に は , そ れ の み を も っ て ,(B)(C)(D)の 事 情 が ど の よ う で あ ろ う と も 故 意 が 認 定 さ れ る 場 合 が あ る の か ,な ど に つ い て は ,さ ら に 検 討 を 要 す る も の と 考 え る 。 以 上

参照

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