「 転形」なき転形問題
永 田 聖 二
Tr ans f or mat i onPr obl e m wi t hout■ Tr ans f or mat i on'
SeijiNagata
1.は じめに
『資本論
』
にお ける価値 と価格 とのあい だの関係 につ いては、ベ ーム エバ ヴェル クが第 1巻 の価値 に よる分析 と、第3巻 にお け る生産価格 の議論 とは矛盾 す る と問題提 起 して以 来 、 この論難 にたいす る ヒル フ アデ イングの回答 を情夫 と して、 さまざまな論争 がお こな われて きた1)。 その なかで、 ボル トキ ェヴ イ ソチ の回答 は、 マ ル クスの再生 産表式 が投 下 労働 表示 に よる価値 バ ラ ンス式 とみ なせ る こ とに注 目 して、 このバ ラ ンス式 を満足 す る よ うな、価値 か ら価格‑ の変換率 を求 め る とい うか たちで、価値 か ら価 格‑ の転形 を数理 的 に処理す る とい う卓越 したアイデ ィアを示 した著作 であ ったが、数十年後 に、ス ウ イージー が 、 その著書[29]にお いて、 そのエ ッセ ンス を紹 介す るか たちで、発掘 す る まで は、 さ し たる反響 もよぶ ことな く、歴史の片 隅 に忘 れ去 られていた2)。 ところが、 このス ウイー ジー に よる紹介が起爆剤 となって、 ニ ュメ レールの選択基準 と関係 す る問題 と して、価値 か らう論点 にか ん して、 また、 そ もそ も価 格 の決定 問題 に価値 のデー タが必 要 か とい う労働価 値説 の レゾ ンデー トル 自体 をただす問いか け をめ ぐって、転形論争がお こなわれた3)。
論争 の進展 とともに、 しだい に、費用価 格部分 を生産価格化 してい ないマ ル クスの転形 手続 きは不完全 であ る こ と、そ して、 その修 正 を受 け入 れ たあ とで は総計 一致2命題 の う ち1つ は成 立 しない こ と、 また、 奪移 財 産 業 の生 産条件 は利 潤 率 の決 定 には無 関係 な こ と4)、 さ らに、 そ もそ も、実体 と しての価 値 とその形態 と しての価 格 とは次元 が こ となる ため に、総計 が‑‑・致す るか否 か を検討 す る こ と自体 が ミス リーデ ィ ングであ る こ と、 な ど
1)B6hm‑BawerkandHilferding[1]参照。 この論争は、 日本 に輸入 されて、価値 と価格 をめ ぐる価値論争 を引 き 起 こした。つづいて、平均原理 としての価値 による分析 と限界原理 としての差額地代論 との方法論上の不統一や、
「虚偽の社会的価値」 に投下労働 の裏付 けがあるのか とい う論点 をめ ぐる地代論争が展開 された。価値論争 につい ては、川口[8]、向坂編[25]など参照。 また、地代論争 については、鈴木[28]、向坂編[25]など参照。なお、 レオ ンテ ィエフ体系 と価値体系 とのあいだに成立する双対性 に注 目して、線形計画法の手法 を援用 して、労働価値説 と 地代論 とを統一的に解釈する1試論 として永 田[17]がある。 また、永 田[18]では、 このアプローチ にもとづいて
「虚偽の社会的価値」 に関係する諸問題が考察 されている。
2)Bortkiewicz[2]お よびSweezy[29]第七章参照。
3)転形論争は、スウイージーの問題提起 に発 した1950年代 の第1期 と、1960年のスラソファ 『商品による商品の生 産』刊行 の洗礼 を受けたのち、『資本論』100周年 を契機 とする、いわゆるマルクス ・ルネ ッサ ンスに触発 されて展 開された、1970年代の第2期 に分けることがで きる。おのおの時期の主要な著作 は、それぞれ、伊藤 ・桜井 ・山口 編 [5]お よび[6]に邦訳が収録 されている。
4)スラツフアの用語 に翻訳すれば、利潤率 は基礎的生産物の生産条件のみか ら決定 されるoスラッフア[27]参照.
また、永 田[16]もみよ。
があ きらか になった。 けれ ども、価値 と価格 にかんす るこの ような貢献はあった とはいえ、
マル クス を擁護す るが わであれ批判す る立場 であれ、 ともに、 これ までの議論 は、ボル ト ケ ェヴ イソチが提唱 した価値表式 か ら価格へ の変換率 を求める問題 とい う共通 の土俵 の う えで展 開 された ものであ り、かれの問題設定 自体 が正 しい方法 であ ったか とい うこ と自体 には無頓着 であ った。
そ こで、本稿 では、再生産表式 デー タに もとづ いて価値 か ら価格へ の変換率 を求める と い うボル トキェヴイツチの問題設定 自体 、問題解決 のための正 しい問いか けであ ったのか どうか とい うこ とを、 レオ ンテ ィェフ体系 と価値体系 とのあいだに成立す る双対性 に注 目 して、検討す る。 そ して、かれの方法が、事実上 、 レオ ンテ ィェフ体 系 として表現 される 数量 デー タに もとづ いた価格方程式 を解 くことに帰着す ることを示す。 かれの方法 では、
は じめか ら、転形 な ど取 りあつか っていなか ったのである。
ボル トキェヴイツチの解法が不適切 な方法 である とすれば、それで は、価値 と価格 との あいだの関係 は、 どの ように解釈すれば よいのであろうか ? その解決のための1試論 とし て、本稿 で は、価値 の実体 としての投 下労働 とその形態 としての価格 とのあいだの関係 を、
レオ ンテ ィエ フ体系 と価値体系 とのあいだ に成立す る双対性 に注 目 して、マル クスの価値 形態論 の成果 を取 り入れて、数理的 に再検討す る。
2.価値方程式 と価値利潤率
マル クスの転形手続 きの出発 点 は、価値 どお りの交換 の想定である。 は じめ に、か りに、
価値 どお りの交換がお こなわれれば、それぞれの部 門の利潤率 は どの ようになるかが検討 され、 た とえ剰余価値率がお な じであ って も、産業 ごとに資本 の有機 的構 成が こ となる と い う事情が、利 潤率の定義式 の分母 の値 を不等 にす るため、有機 的構成が高 い部 門に不利 に、それが低 い異部 門には有利 に作用す る ことを確認す る5)。 ところが、資本 は、競 って、
よ り有利 な投資機会 を求めて、
利
潤率 が低 い部 門か ら高利潤率 をあげる部 門‑移動す るた め、価値 どお りの値 の ままで は、交換比率 は安定 しない6)。 この ような資本移動 をひ きお こさないため には、費用価格 の大小 にお う じて、生産 された剰余価値が資本 間で再配分 さ れ、均等 な利潤率 をもた らす生産価格 に転形 されない といけない とい うわけである。マル クスの転形手続 きを、産業連 関分析 の川語 に翻訳す るための準備 として、は じめに、
価値 方程式 を導 入す る7)。 それぞれの商 品1単位 に、直接 的 に労働 過程 と して、 また、 間
5)そのほか、回転期間の相違 も年利潤率の不均等 をもた らす ことも指摘 されているが、本稿の論点 とはべつの話題 になるので、ここでは、この要因は考慮 しない。
6) この とき、資本移動 にともなって生産量の変動がおこるはずであるか ら、生産量が不変なまま、マルクスが転形 手続 きをすすめているのは、論理的に一貫 しないO当初、Tjobb「3]は、 この難点 を指摘 していたが、の ちに撤 回 している。マル クスの転形 を、産,11量の不変性 と両立 させ るためには、む しろ、競争のプロセスのなかで生 まれる 資本家の意識 に形成 される補償原理 としての、「同 じ大 きさの資本は同 じ期 間には同 じ大 きさの利潤 をあげなけれ ばな らない とい う観念」 (Marx[11]訳書344ページ) にもとづ く、投下資本の額 にお うじた利潤再配分 ルールと解 釈す るほうが よいのか もしれない。
7)厳密 にいえば、再生産表式の部門分割 と産業連関分析の産業分類 とは、分類基準が、その用途であるかあるいは 物理的属性であるか とい う点にかん して、相違する。そのため、マルクスの再生産表式 は、価値 と数量の双対性 を 利用するためには、不適切 な表現 になっている。そこで、本稿では、再生産衣式の用語で記述 されているマルクス の議論 を、産業連関分析の用語 に翻訳 して、紹介する。なお、再生産表式 と産業連関分析 との相違 については、価 値体系 と数量体系のあいだに成立する双対性 に注 目して、永田[20]で検討 されている。
接 的 に生産手段 の価値補 填部分 と して、直接 ・間接 に投 下 され た、価値 の実体 と しての労 働 量 を意味す る価値 (行 ) ベ ク トル を記号 V‑ lvj]で あ らわそ う。 この とき、産業jの ア
クテ ィヴ イテ ィと して、
投 入 産 出
す なわ ち、生産手段 と して各種 生産物 xL/を利 用 し、労働 を l,だ け直接 的 に投 下 して、 第j 生産物 をxl単位産 出す る生産活動 を考察す れば、間接労働 ∑EV,xIJと直接労働 ちとの合計 が、
この生産物 に体化 された労働量 と評価 され るので、
∑V〜,.x,,+I,‑ V,xJ (211) とい うバ ラ ンス式が成立す る。
あ るい は、基準 ア クテ ィヴ イテ ィ と して、第ノ生産物 1単位 を産 出す る ようなプロセ ス を採用 す れ ば、 この産業 の生産活動 は、 つ ぎの ように表現 で きる。 ただ し、記号 aE,,a.j
は、それぞれ、
ail・‑xlj/xj, aoJ=
l
j/
xjと して定義 され る、物 的投 入係 数 な らびに労働投入係数 であ る。
..ノ叫‑鞄‑旬⁝
または
・
三・]ej.
L
‑ jこの投 入係数表示 を利用す れば、 さ きの (2.1)式 は、
Evt・aljXj+aojX,= vJXj (2.4) と表現 で きる。 そ こで、 この式 の両辺 を、共通 なス カラー xjでわれば、
∑V∫,al,+aou= V,
あ るい は、記号 A‑ [a.,]、a。‑ [aoj]を、 それぞれ、物 的投 入係 数行列 な らび に労働 投 入 係 数 (行 )ベ ク トル と定義すれ ば、行列表示 で、
vA
+
a.‑ V (2.5)とい う価値方程 式 をえる。 なお、基準 ア クテ ィヴ イテ ィの表記 にあ らわれ る記号 ejは第j 成分 だけが 1での こ りの要素 はすべ て 0であ る列 ベ ク トル をあ らわ し、標準 的 (列)基底 ベ ク トル とよばれ るこ ともある。
この ような、経 済 の再生産 プロセスの投 下労働 面 か らの評価 をあ らわす価値 方程式 は、
レオ ンテ ィェフ体系 とよばれる、数量がわのバ ランス式 を表現す る産出量方程式
Ax+y‑ x (2.6)
と密接 な関連 をもっている。 この性質は、 レオンティェフ体系 と価値体系 とのあいだに成立する 双対性 とよばれ、両体系の解の存在条件がともに逆行列 (I‑A)1の存在条件 に一致すること や、純正産物価値vyが直接 的投 下労働 a。xに恒等 的に一致することを、その内容 とする8)。 ここで、記号 γは、この経済の生産活動の成果 としての純生産物 (列)ベク トルをあらわす。
なお、以下で、マル クス 自身の、 そ してその改訂版 としてのボル トキェピッチの、転形 手続 きを検討す る ときに利用す るため に、 (2.4)式 自体 も、つ ぎの ようなかたちで、行列 形式で表現 しなお してお こう。
vAx
+
a.x
‑ vx (2.7)ここで、記号xは、各産業 の産出量xjを対角成分 とす る対角行列であ り、定義か ら、 この 行列 の行和 は、産出量 (列)ベ ク トルx‑ [xJ]に等 しい。す なわち、集計 (列)ベ ク トル
を、そのすべ ての成分が1に等 しいベ ク トル
1‑[ 1
]と定義すれば、/〜
xl‑x (2.8)
が成 り立つ ことに注意す る。
マル クスは、 かれの転形手続 きの出発点 としては、双対性 が利用可能 な形式 であ る価値 方程式 (2.5)で はな く、価値 と数量 との化合物 (2.7)式 を採用 す る。 その さい、価値 か ら価格へ の転形 を解 くため には、可変資本 と しての労働 力の価値 にか んす るデー タを、
追加 的 に、必 要 とす る。 そ こで、労働 力 1単位 の再生産のため に必要 な各種生活資料 の数 量 の一覧 を、ベ ク トル形式 で、記号C‑ [cl]として表現すれば、 この必要消費 (列)ベ ク トル を労働価値 で評価 した額vcが、投 下労働 タームで表現 された、単位 あた りの労働力の 再生産費 になる。 ところが、労働力 の再生産費 も、資本家の観点か らは、生産手段 に投下 された物 的再生産費 と同様 に、一括 して、単純 に、利潤獲得 のための コス トとみ な され る ので、生産活動 の成果 か らそれ らを控 除 したの こ りを、剰余価値 として、かれは入手 し、
この ときの もうけの効率 は、獲得 された剰余価値 をそれ らの コス ト総額 でわった百分率 の かたちで計算 される。
そ うす る と、第j産業では、生産手段Ae/x)と労働力a。eJxJを投下 して、xJ単位 の第j生 産物が産出 され るので、物的 コス トと人的 コス トは、価値 タームであ らわ して、それぞれ、
不変資本vAe/xjと可変資本vca。eJxjになる。 ここで、資本家の意識では、社会的にみて じっ さい に投 下 された労働a.e'x,ではな く、その一部分 、かれが私 的 に負担 した労働 力 の価値 部分vca.eJx,だけが コス トとして計上 され るこ とに注意せ よ。 ともあれ、価値 タームに換 算す れば、かれ は、総計 でvAe/xj+vca。XJになる コス トを投f して、販売収入veJxJをあげ
るので、差 し引 き、
M,‑ve/x,‑(vAe/x/・+vca
o e j x , )‑V(「 (A+coo))e/‑xj‑V(IA 〜)eJx, (2・9) に相 当す る額 の剰余価値 を獲得す る。 ただ し、記号 Jは、行列の積 にかんす る単位元 であ る単位行列 をあ らわす。 なお、 この行列 の第j列がベ ク トル ejにほかな らない。 また、行 列A ‑ A+ca。は 、再生産のための物 的補填 のほか、労働 力の再生産 に必要 な生活資料 の
8)双対性 については、た とえば、二階堂[22]参照。 また、永 田[15]もみ よ。
かたちに擬制 したうえで労働力の補填条件 も加算 した、物 的 ・労働力両面か らみて、各生産 物 1単位 あた り、再生産 に必要 な投 入情報 を表示するもので、増補投 入行列 とよばれる9)。 こうして、資本家Jにとって、資本運用 の効率 は、価値 タームでは、不変資本 と可変資本の 総計 にたいする剰余価値の比率のかたちで、つ ぎに示す価値利潤率pjとして計算 される。
p,‑M,/vAeIxj (2・10)
ところが、 この ような資本家の観念 とはことなって、労働 過程では、 じつは、不変資本部分 vAe'xjはその価値が移転 されるだけで、価値 を形成するのは、唯一‑、可変資本vca。e/xjと引 き替えに投入 された労働力a。e/xjにか ぎられる。 じっさい、(2・7)式 をみればわかるように、
生産物 の総価値veJxjか ら、 中間生産物 の価値 移転部分vAeJx,を控 除 したあ とにのこる、 こ の産業の生産活動 の純粋 な成果 としての付加価値 γ(I‑A)ejx,は、投 下労働 タームであ らわ せば、直接労働aoe]xJにはかならない。そうすると、 この関係式 を (2・9)式 に代 入 して、
MJ‑V(ZIA)eJxj‑VCa.eJxj‑ a.e
J x
/‑VCa.e' x j
(2・ll) す なわち、付加価値 と恒等 的 に等 しい直接労働 か ら、労働 力商 品の対価 として労働者 に支 払 われた可変資本 を控 除 した残余が、資本家 の手 中 に入 る剰余価値 にはかな らない。 いい かえれ ば、労働 者 は、 この生産活動 の成果 であ る付加価値V(ZIA)eJxJを、すべ て、かれ 自身の労働 a.eJxjか ら生 みだ したに もかかわ らず、資本 主義 的生産 システムの もとで は、か れ には、 そ の一一部 分 、 労働 力 の価 値 とよばれ る必 要 生活 資料 の価 値 に相 当す る部 分 vca。e'xlLか支払 われず、の こ りはすべ て剰余価値Mjとして資本家の懐 に入 る。
そ こで、マルクスは、資本家の私 的な観点か らではな く、価値形成 ・増殖過程 か らみた、
価値増殖率 を表現す る真 の尺度 は、客観 的 にみて、価値 の源泉 とは無 関係 な不変資本部分 を (2.10)式 の分母か ら除外 した比率、
mJ‑ M,/vca.e'x, (2・12) であることを主張す る。 剰余価値率 と名づ け られるこの比率∽ノは、資本家が、労働力 と引 き換 えにその価値 を支払 ったのち、労働 過程 で搾 り取 る剰余労働 の倍率 を表現す る数値 と して、 しば しば、搾取率 とよばれることもあ る。 (2.12)式 に (2.ll)式 を代 入 して、分 子 ・分母 に共通 な値a。e'x,を消去すれば、搾取率mjは、 じつ は、すべ ての部 門 をつ う じて 等 しい数値、
m‑ (1‑vc)/vc (2.13)
に一致す るので10)、以下では、搾取率 として、 この記号mを使用 しよう。
なお、可変資本 の考察 に ともなって、価値体系 内 に必 要消費ベ ク トル を導入 した こ とに 対応 して、数量が わのバ ランス条件 を表現す る レオ ンテ ィェフ体系 (2.6)も、つ ぎの よ
うなかたちに書 き換 え られる。
Ax+ca.x
+
I ‑ x( 2 .1 4 )
ここで、記号
f
は、産 出量xか ら、再生産のため に使用 した物 的中間投入量Axと、労働 力再生産のための必要消費量caoxとを控 除 したの こ りの剰余生産物 をあ らわす。 したが っ て、定義か ら、純生産物yは、必要消費量ca。xと剰余生産物f
とにわかれる。9)増補投入行列 については、た とえば、塩沢[26]参照。 また、永 田[15]もみ よ。
10)この結果は、べつに驚 くべ きことではない。労働力の再生産費 として、すべ ての労働 に共通 に、生活資料 の価値 相当分が支払われるとされた想定 を、たんに、いいかえただけにす ぎない。
y= caox+I
そ うす ると、増補投入行列Aに注 目すれば、 これ らの体系 は、それぞれ、
(ZIA)x
‑I
(2.15)
(2.16) ならびに、
V(I‑A)‑(llVC)a.‑ mvca. (2.17) と表現で きるので、 これ らの体系のあいだには、数量がわの剰余生産物 ′ の存在条件 と、
価 値 面 か らみ た剰 余価 値 mvca。の そ れが 、 と もに、 増 補 投 入行 列 に関係 す る逆 行 列 (
z IA
〜)
‑1の存在条件 に一致 し、 しか も、マクロ的 にみて、価値 タームで評価すれば、剰余 生産物価値総額 vf は剰余価値総額mvcaoxに恒等的 に一致す る とい う意味で、双対性が成 立す る11)。 じっさい、vf ‑V(ZIA)x‑ mvcaox (2.18) また、搾取率mを利用すれば、搾取 データを導入 した形式、
vA+(I+m)vcao‑ V (2.19) あるいは、マルクス流 に、数量データとの混合式のかたちで、
vAx
^+
(1+m)vca.x‑ vx^ (2.20) として、価値方程式 を表現す ることがで きる。 この形式 こそ、マルクスが転形 プロセスの 初期 デー タとして利用す る表記法であ り、それぞれの産業 ごとに、不変資本vAejx,と可変 資本vca。eJxjとの総計 を、生産物価値 ve/xjか ら控 除 したの こ りが剰余価値mvca。x/になることを表現 している。
3.マルクスによる価値か ら価格への転形
それでは、前節で紹介 した数学的準備 にもとづいて、 さきに概略 を述べ ておいたマルク スの転形手続 きを、数理的 に表現 してみ よう。 は じめに、マルクスに したが って、か りに 価値 どお りの交換がお こなわれる と想定 しよう。 この とき、資本の有機的構成βノが高い産 業 ほ ど、価値利潤率 (2.10)は低 くなる。 じっさい、マルクスの定義 どお り、資本の有機 的構成 を、可変資本 にたいす る不変資本の比率
OJ‑vAe'x,/vcaox,
と定義 して、産業jの価値利潤率pjと平均価値利潤率 p とを比較すれば、
∽(♂‑♂
PJ‑P=
(0,+1)(0+1)
(3.1)
になるので、
pj≦p ⇔
O j
毒0いいかえれば、資本の有機 的構成が平均 より高い (低 い)産業の価値利潤率巧は、平均価 値利潤率 β よ り低 く (高 く) なる。 ただ し、記号 β、βは、経済全体か らみた資本 の有機
ll)ただ し、剰余価値率の定義 自体 に価値ベ ク トルの情報 を必要 とするので、増補投 入行列 にかんする双対性 は形式 的な ものであ り、それ 自体 では、存立根拠 をもたない。あ くまで、価値 方程式 (2.5) とレオ ンティエフ体系 (2.6)とのあいだに成立す る双対性が基本であ り、その基礎があって、は じめて、剰余の存在が検討で きること になる。
的構成 と価値利潤率、それぞれの平均値 を意味 し、つ ぎの ように定義 される。 0 ‑ vAx/vcaox,
p‑ mvcaox/vAx‑ m/(0+1)
定義か ら、 あ きらか に、経済全体 の投 下資本価値額 にたいす る平均利潤 は、剰余価値総額 に、 したが って、 (2.18)で示 された数量体系 とのあいだに成 り立つ双対性 を考慮すれば、
剰余生産物価値額 に恒等 的に等 しい こと、す なわち、
pvAx= mvcaox=
v f
が成立す ることに注意せ よ。
(3.4)
ところが、産業 ご との資本 の有機 的構成 の差異 に起 因す る、 この ような個別 的価値利潤 率 の相違 は、現実 には、資本 間の競争 をつ う じる価格 の調整作用 によって、解消 され なけ ればな らない。 そ こで、マル クスによれば、価値 は、投下資本額 に応 じてすべ ての資本 に 平等 に利潤額 を割 り当てる ような、生産価格へ転形 されなければな らない。マル クス 自身 による転形 手続 きは、つ ぎの ようになる。 す なわち、資本家 は、価値 どお りの販売 をつ う じて、 それぞれの産業 で生産 された剰余価値mvca。xJをその まま入手す るので はな く、価 値 か ら転形 された生産価格pに したが って交換 す る ことによ り、経済全体 で生産 された剰 余価 総 額mvca。xの なかか ら、 共通 の利 潤 率 p を もた らす ように、 それぞ れの投 下資本 vA〜ejx,にお うじて再配分 された額pvAe]xjを、利潤 とい うかたちで回収す る. この ように、
かれの転形手続 きは、価値 タームの再生産表式
vAx
+
(l+m)vcaox‑ vx (2.20) を、生産価格表示のそれ(1+p)vA〜x^‑px (3.5)
に転形す る ことを示唆す る.マル クスの転形手続 きでは、投下資本部分vA〜e]xJ・が価値 ター ムの まま計算 されてい るこ とと12)、計算 の基準 となる利潤率 β も価値 タームであたえ られ ていることに注意せ よ。
この ように、マル クスは、資本主義経済 を動 かす原動力 であ る剰余価値 の生産 を把握す るための、いちばん基底 にある重要 な分析 トウールが価値 だ と道破す る。 これ にたい して、
じっさい に、超過利潤 の獲得 をめ ざす資本 間の競争 をつ う じて出現 し、われわれが 目にす ることがで きるのは、すべ ての産業 に均等 な利潤率 を もた らす生産価格 にほか な らない。
そ うす る と、価値 が究極 的 には価格 を規定す る とい う、マル クスの主張 は、 どの ような論 拠 に もとづ いているのであろ うか ? は じめ に、かれの転形手続 きでは、均等利潤率 として 価値利潤率 pが採用 されている。 これ は、価値方程式
( 2 .7 )
と搾取条件( 2 .1 3 )
とい う 価値 タームのデー タを必要 とす る とい うわけであ る。 つ ぎに、かれは、いわゆる 「総計一 致2命題」
とよばれ るマ クロ的なバ ラ ンス条件 を論拠 として提示す る。 す なわち、 さきに 示 した双対性 か らみ ちびかれ る (3.4)式 に注 目す れば、経済全体 か らみて、再配分 され る利潤 の総額pvAxは、生産 された剰余価値総額mvca。xに恒等的 に一致す る とい う命題 と、もうひ とつ は、マ クロ的 にみて、生産物価値 は はつね にその価額pxに等 しい とい う命題
12)もっ とも、マル クス 自身、論理的一貫性 を追求す るな らば、投下資本部分 も価値 タームで はな く生産価格 に転形 され ない といけない ことを認識 してはいた。 た とえば、Marx[11]訳書275ペ ージ参照。)
である。 ところが、価値方程式 (2.20)と価格方程式 (3.5)に、 ともに、左 か ら集計 ベ ク トル1をか けて比較すればわか る ように、後者の命題 は、マル クス 自身の転形手続 きで は、前者 の命題 か ら自動 的 に成立す るので、実質上、「総計一致2命題」 は 「総利潤 ‑総剰 余価値」とい う1つの命題 に帰着す ることがわかる。
なお、数量体系 との化合物 と して表現 されている、マル クス流 の価値方程式 と価格方程 式 は、 じつ は、 どち らも、価値 あ るい は価格 のみ に依存す る体系 に分離 で きる13)。 じっさ い、両辺 に左 か ら逆行列 x^ 1をかければ、 これ ら両式 は、それぞれ、
vA
+
(I +
m)vca.‑V, (1 +
p)vA〜
‑pとい う、数量体系 との双対 な役割 を認識で きるような形式 に変形 される。
4.ボル トキ ェヴィッチの解法
前節 で検討 した、マル クス に よる価値 か ら価格へ の転形手続 きでは、価格 に転形す るの はア ウ トプ ッ ト部分 だけであ り、 イ ンプ ッ トとしての投下資本 は、転形前 の価値 タームの ままであ った。 これでは、資本家 は、他産業 には生産価格 で販売す るの にたい して、他産 業 か らの購 入 は価値 どお りにお こなわれることになる。 その結果、お な じ製品が、売 り手 か らみればすで に価格 に転形 しているに もかかわ らず、買 い手が わでは価値 の まま計算 さ れることにな り、論理的 に不整合 である。 そ うす る と、 (3.3)式か ら、あ きらか に、投下 資本部分が価値 タームの まま計算 されている価値利潤率 β も、 同様 に、計算上の誤 りをお かす ことになる。 そ こで、 ボル トキェヴイツチは、 これ らの論理 的不整合 を修正 した うえ
否 か を検討 した14)。本節 では、 は じめ に、ボル トキェヴ イツチ に よる価値 か ら価格へ の転 形 を、産業連 関分析 の用語 に翻訳 して、紹介す る。 そ して、再生産表式 を利用 して価値 か ら価格へ の変換率 を求める とい う、かれの手法 自体 が、不適切 な問題提起 であ ったため、
じつ は、価値 か ら価格‑ の転形 をす こ しも解決 していない ことを示す。
ボル トキェヴ イソチ も、マル クス と同様 に、価値表式
vAx
^+
(1+m)vcaox‑ vx^ (2.20)か ら出発す る15)。 ところが、 この表現 は、 じっさい には不要 な数量が わのデー タをふ くむ 形式 になっているので、両辺 に左 か ら逆行列
x ^
1をかけて、vA+(1+m)vcao‑ V
とい う、本来の、簡明な、価値方程式 に もどしてお こう。
(2.19)
13) (2.13)式か らわかるように、搾取率mの定義 には、数量がわの情報 は必要 ない。 これにたい して、定義式 (3.
3)か ら、あ きらか に、価値利潤率 の計算 には、数量 デー タが必須 であ り、その意味 で、厳密 にいえば、価格方程 式 (3.7)は、数量体系 とまだ分離 されていない といえるか もしれない。 ところが、のちにあ きらかになるように、
マル クスが未遂の ままに放置 した、費用価格の生産価格化 を遂行すれば、利潤率 その もの も価値利潤率 とはことな る数値 として、価格方程式 自体か らみ ちびかれることがわかる。
14)Bortkiewicz[2]参照。
15)かれの本来の定式化では、単純再生産が想定 されているが、ウインターニ ッツが指摘す るように、ボル トキェピッ チの転形手続 きには、 じつは、その ような想定 は不要である。伊藤 ・桜井 ・山口編[5]26ページ参照。
ボル トキェヴイソチの手法の独創性 は、価値 か ら価格‑ の変換比率 とい う指標 を導入 し て、価値方程式 (2.19)を、実質上、価格方程式 に変換 した うえで、生産価格 を価値 デー タか ら求め る とい う発想 に兄 いだ され る。 そ こで、その手法 を、産業連 関分析 の用語 に翻 訳 して、紹介 しよう。 ボル トキェヴ イツチ に したが って、 は じめ に、体系 に、価値 にたい す る価 格 の比率 を意味す る変換 率p//vJ・を導 入 し、便宜上 、 これ を転形率 とよび、記号uノ
であ らわそ う。 そ こで、 この転形率 を、行列形式で表示すれば、
u ^‑p ^ ; 1 1
(4.1)になる。 ただ し、記号u、p、Vは、それぞれ、転形率、価格、あるいは価値 を対角成分 と す る対角行列 を意味す る。そ うす る と、集計ベ ク トル1の性質 (2.8) を考慮 すれば16)、価 値方程 式 (2.19)は、
IvA+mlvcao‑ lv (4.2)
とい うかたちで表硯 で きる。 そ こで、価値 デー タを価格 デー タに転形す るため に、上式 で 価値行 列 γにかえて、それに変換係数 をかけた行列〟γを代入すれば、
lLLVA+mluvca.‑ luv (4.3) になる。
本来 、再生産表式 デー タを利用す る とい うのな ら、価格表示 に変換 された、 この (4.3) 式 をその まま利用すれば よい ようにお もえるが、事態 はそれ ほ ど単純 で はない。 とい うの
も、(4.1)式 を代入すれば、(4.2)式 は、い っけん、価格 タームで表現 された
pA+mpca.‑p (4.4)
とい う式 に変換 されたかの ようにみえるけれ ども、 じつ は、 この方程式 の解 となる価格 は、
この式 か ら、 あ きらか に、すべ ての産業 に均等 な搾取率 を もた らす ような交換比率 で はあ るが、均等利潤率 を保証す る生産価格 ではない。 じっさい、 この式で は、
m= p(I‑A)eJ
pcaoeJ
(4.5)
が成 り立つので、価格 タームで表示 された搾取率 は均等である。 ところが、個別利潤率
rJ‑ p(ZIA)eJ
pAej+pcaoe' (4.6)
の定義式 には、分母 に不変資本部分pAeJが追加 され、 しか も、通常、生産技術 の ちがいか ら、それが産業 間で相違するため、 (4・5)式 をみたす価格 の もとでは、必然 的に、利潤率rj
は不均 等 になる。そ うす る と、 (4.3)式 は、い っけん、価格方程式 を表現 す る ようにみ え るけれ ども、 じつ は、その解 は、実質上、価値 と同一 であるか ら、変換率 (4.1)の導入そ れ 自体 は、なん ら事態 を進展 させ る ものではない ことが判明す る。 じっさい、(4.4)式 は、
p(ZIA)‑ (1+m)pca.
と変形 されるので、 この式 の両辺 に逆行列 (I‑A)1を右か らかけて、価値方程式 (2.5) に注意すれば、
p‑ (I+m)pcv
16)ここで、集計ベ ク トル1は、ベク トル γが行ベ ク トルであることに対応 して、行ベク トル として定義 されている。
したがって、lV ‑γが成 り立つ。
になるので、 け っ きょ く、 この価格 は、価値 ベ ク トル Vのス カラー (‑ (1+m)pc)倍 にす ぎな くな り、価値 どお りの交換
pi/pJ‑ V/V, を意味す るか らであ る17)。
(4.7)
この ように、 ボル トキェヴ イツチの手法 で は、転形率ujの導入 それ 自体 は、 なん ら問題 の解 明 には貢献 でず、 出発 点 の価値体系 に逆戻 りして しまう。 それで は、 かれ は、 じっ さ い は、 どの ように して転形 問題 を解 決 しようと したのであ ろ うか ?じつ は、価値 方程式 か ら生産価格‑ の転形 を装 ってい るに もかか わ らず、かれの手法 は、剰余価値 率mに代表 さ れ る再生産表式 の価値 デー タを、い っ さい、利用す る こ とな く、実質上 、 い きな り生産価 格方程式 を提 出す るこ とと同等 の手法 に終始す ることが、以下 の議論 で判 明す る。
とい うの も、(4.4)式 か ら、産 出量1単位 あた りの利潤 は、ベ ク トル表示 で は、
mpca.‑p(I‑A)
になるが、 さ きに、 (4.6)式 に関連 して述べ た ように、 この価格 の ままで は、搾取率の均 等 は保 たれて も、利潤率 は均 等化 しない。 そ こで、利潤 は再配分 されて、資本 の競 争が要 請す る利潤率均等化条件
r= p(I‑A)e'
pAeJ+pcaoeJ (4.8)
を もた らす ような価格 に転形 しない といけ ない。 ここで記号rは、 この価格 の もとでの均 等利潤率 をあ らわす。そ うす る と、 この式 を変形 して、行列形式 で表示す れば、
(1+r)p(A+ca.)‑p
あるいは、価格 タームで表示 された、労働力 の再生産費 としての賃金率 W=pc
を導入 して、
(1+r)(pA+woo)‑p
(4,9)
(4.10)
(4.ll) とい うか たちの、生産価格 方程式 をえ る。 そ うす る と、 (4.1)式 を利用 して、 (4.3)式 と同様 な表現 として、 (4.9)式 を書 き換 えれ ば、
(I+r)1uv(A+cao)‑ luv
さらに、 この式 両辺 に、右 か ら、数量 デー タJをかければ、
(I+r)1uv(A+coo)x‑ luvx
(4.12)
(4.13) になる。 これが、 ボル トキェヴ イツチ に よれば、価値 か ら価格‑ の転形 を解 決す る方程式 であ り18)、価値 デー タに根 拠 を もつ方程 式 を満足す る ような転形率ベ ク トル〟‑ [〟′]を求 め る とい う、かれの趣 旨を表現 したか た ちになってい る。 けれ ども、 これ までの式 の導 出
17)(4.4)式 では、搾取率mは、価値 タームで定義 された ままで、価格 に転形 していないのは不合理である とお も われるか もしれないが、 この方程式の解 自体、実 質上、価値ベ ク トルにほかな らないので、搾取率の転形 自身は、
この方程式 には無関係であるo じっさい、mにか えて、その転形m'‑ (1‑pc)/peを (4.4)式 に代 入す る と、
pA+ ao=p
になるが、 この解 p‑ a。(I‑A)1こそ、 まさに、価値方程式 (2.5)の解 としての価値ベ ク トル Vにほかならない。
18)Bortkiewicz[2]訳書232ページ参照。 なお、(4.8)式 を利用 した本稿のような説明ぬ きに、かれは、い きな り、
直接 、 この式 を提示 している。 また、かれのオ リジナルな記号 とことなって、本稿 をつ うじて、産業連 関分析の手 法 にもとづいた記号が使用 されていることに注意せ よ。
過程 か ら、 これ らの式 は、 た とえ価値 タームの デー タを装 って はいて も、その実 、 たんな る生産価格 方程 式 (4.9)をあ らわ してい る にす ぎない こ とは、 あ きらかであ ろ う。 この ように、 ボル トキェヴ イ ツチの転形手続 きは、転形 問題 の解 決 には、 まった く無意味 な手 法 であ る ことが わか る。
5.おわ りに一 転形問題への双対性 ア プ ローチー
前節 で示 した ように、 ボル トキ ェヴ イ ソチの解法 をあ らわす (4.13)式 、 あ るい は、 そ れか ら数量 デー タを消去 した (4.12)式 は、 い っけん、価値 ター ムの デー タ (2.19)に もとづ いた方程式 を利用 して、価値 か ら価格へ の転形率 〟を求め る とい う形式 を装 って は いて も、い ったん、その外皮 をは ぎとれば、実質的 な内容 は、 レオ ンテ ィェフ体系 の投 入 ・ 産 出デ ー タに もとづ いた生産価格 方程 式 (4.9)にす ぎない こ とが判 明 した。 ボル トキ ェ
ヴ イソチの方法 に したが えば、 は じめ に、価値 方程 式 (2.5)か ら、 その解 であ る価値 ベ ク トル γを求 め る必 要が あ る。 そのの ち、第2節 で紹介 した、 レイ ンテ ィェ フ体系 の基準 ア クテ ィヴ イテ ィを代 表 す る、投 入 ・産 出 デー タAお よびaoと、剰余 の決定 に関係 す る 必 要消費ベ ク トルCの情報 とを利用 して、 (4.12)ない し (4.13)式 に したが って、転形 率 ベ ク トル 〟を求 めたの ち、ふ たたび、価値 ベ ク トル γを利用 して、 (4.1)式 に したが っ
て、生産価格 に転形す る とい う手順 になる。
ところが、せ っか くの ボル トキ ェヴ イ ソチ に よる独創性 あふ れ る工夫 も、事実上 、 たん に、生産価格方程式 (4.9)を解 くこ とに帰着 す るのだか ら、価値 タームの表現 (4,12) ない し (4.13)に幻惑 されてはいけない。 かれの手法 は、 じつ は、生産価格 を決定す る方 程式 か ら出発 して、転形率 を利用 して、本 来不必 要 な価値 タームの表現 とい う迂 回路 を、
わ ざわ ざ、経 由 した うえで求 め られ た解 を、ふ たたび、転形率 デー タか ら、価格 タームへ 戻 す とい う意味 で、 た とえ、価値 タームの表現 を偽 装 して はいて も、 ほん とうは、生産価 格 の領域 か ら一歩 も踏み出 してい なか ったのであ る。 じっ さい、 ボル トキ ェヴ イツチの転 形方程式 (4.13)に、右 か ら逆行列
x
^ lv
^ 1をか ければ、(1+,)
a ; A 〜 ; ‑ 1
‑ u (5.1)になるので、転形率 〟は、増補投 入行 列
A
に相似 な行 列 ;A〜;‑1の固有 ベ ク トルで あ り、また、利潤率 ,は、 この行 列 の フロベ ニ ウス根 Aか ら、r‑ス 1‑1とい う式 に したが って 求 め られ る。 ところが 、相似 な行 列 の性 質か ら、 あ きらか に、 この根 吊 ま、増補投 入行列 のそれ と一致 す る こ とが判 明す る19)。 また、転形率 その もの も、基底 変換行 列 Vを利 用 し て、 もとの座標系 か らあ らた な座標系‑座標 変換 した生産価 格 ベ ク トル にほか な らない。
いいか えれ ば、 同一 の生産価格 ベ ク トル を、標準 的基底行 列 Jで表現 す れ ば価 格 ベ ク トル
19) プロベニウス根 とは、非負行列の最大非負固有値のことであ り、線形経済モデルでは、重要な役割 をはたす。た とえば、二階堂[22]参照。 レオンテ ィェフ体系 とその双対 としての価値体系、そ して、生産価格体 としてのスラ ッ フア体系 を、プロベニウス根の性質 を利用 して解明す る例 としては、た とえば、永 田[15]参照。 また、一般 に、行 列Aとそれに相似 な行列BAB 1とのあいだには、行列式の性質か ら、
が成 り立つので、これ らの行列 どうLは、共通の固有値 をもつ 。相似 な行列 については、線形代数学の標準的なテ キス ト、た とえば、Lang[10]などを参照。
pにな り、 い っほ う、基底 として価値行列 Vを採用 した ときには、それが転形率 uになる だけで、実質的 に、 なん ら転形 な ど遂行 されてい ない。 そ うい うわけで、 じつ は、転形率 その もの も、生産価格 にす ぎなか ったのである。
この ように、転形率 に依存す るボル トキェヴイツチの手法が棄却 された以上、それでは、
価値 か ら価格へ の転形 は、 どの ように して解決すれば よいのであろ うか ? そ もそ も、マル クスに よる価値 か ら価格‑ の転形手続 き自体 、価値 を じっさい に成立す る交換比率 として 処理 して しまった ことが、つ まず きの石 なのであ った。 したが って、その ようなマルクス の手法 を無批判 的 に取 り入れて、い ったん、価値 を交換比率 とみ な した うえで、転形率 と い う新奇 なアイデ ィアにうったえて、価値方程式 か ら生産価格 を導 出 しようとした、ボル トキェヴ イソチの手法が、 けっ きょくは、 なん ら.転形問題 の解決 には貢献 で きなか ったの も、当然 ともいえよう
。
『資本論』 にの こる、価値 どお りの交換 とい う古典派的残淳 は、単 純商 品生産社 会 とい う虚構 の想定 をは じめ と して、 さまざまな、論理上の矛盾 を生 みだ し て きた20)。価値 どお りの交換 を初期条件 と して採用 す るか ぎ り、サ ムエル ソ ンを筆頭 に、転形 は 「最初 に書 かれた もの を消 しゴムで消 し去 り、その後 に新 たに出発 して、正 しく計 算 された もの を記入す る
」 2 1
)だけの ごまか しにす ぎない とす る、価値無用論‑ の、有効 な回 答 を提 出で きないの も、あた りまえなのか もしれない。それでは、 このアポリアか ら抜 けだす有効 な手段 はないのであろうか ? リカー ドゥを代表 とする、価値 の実体規定のみの議論 に終始す る、古典派経済学 の世界 か ら抜 けだ して、マ ルクスがあ らたに開拓 した、資本主義解明のためのカギ としては、価値形態論 とい う トゥ‑
ルが存在す る。 価値体系 を、労働過程 か らみ た経済の生産構造 の鏡像 としての実体規定 と み な し、それが、資本主義の もとで は、利潤 の獲得 をめ ぐる資本 間の競 争 をつ う じて生産 価格 とい う形態規定 で しか出現 しない もの と解釈すれば、 と くに、価値 どお りの交換 を想 定す る必 要 はないはずであ る。 す なわち、資本 主義経済 も、 ほかの社会経済 システム と同 様 に、社会の構成員 の生活 を維持す るため には、 レオ ンテ ィェフ体系 に代 表 され る、物 的 再生産の条件
Ax+y‑x (2.6)
が、みた されない といけない。 しか も、生産過程 には、かな らず、労働過程 の裏付 けが な い といけないので、物的再生産の条件 を、投下労働 の面か ら描写す る と、価値体系
vA
+
ao‑V (2.5)になる。 これ らは、 どの ような社会経 済 システムで も、その存立のため には、み た されな い といけない再生産条件 を、一方で は物 的側 面か ら、他方では投下労働 タームで、記述 し た ものであ る とい う意味 で、宇野のい う経 済原則 を表現 している。 これ らの体系 のあいだ に双対 な性質が成 り立つの も、同一の再生産条件 を、物理的単位 で表現す るか、あるいは、
投下労働 タームで評価す るかの、 ちが いがあ るにす ぎないか らである。 なお、経 済原則 と しての再生産条件 に、必 要消費 のかたちで表現 された働 き手の生存条件 を追加す れば、増 補投 入行列のかたちに変形 された レオ ンテ ィェフ体系
Ax+caox+I‑x (2.14)
20)価値 を単純商品生産社会の均 衡価格 とみ なす森嶋[12]説 の難点 については、Nagata[14]参照。
21)伊藤 ・桜毅 ・山口編 [5]114ペ ージ。
と、その双対 としての再生産表式、
vA
+
(1+m)vca.
‑V (2.19) をえる。 これ らは、 ともに、 さきの経済原則 に、生産 ・労働過程 における、支配的階層 の 被支配的階層 にたいす る搾取率 デー タを、追加 した条件 をあ らわ している。これ にたい して、経済原則 を、商品売買 のルール に したが った、資本 による利潤追求の 手段 として解決す るのが、資本主義経済の特徴 である。 そ こでは、経済原則 を体現す る、
価値 の実体 としての価値 ベ ク トルは、直接 、あ らわれ るこ とはな く、か な らず、商品価値 は、他 の商品の姿 を借 りて表現 される ことになる。 したが って、商品経 済では、 われわれ が 目にす るこ とがで きるのは、価値 その もので はな く、貨幣商 品の使用価値量で表現 され た価格 にす ぎない。 しか も、 さきに述べ た ように、資本主義経済の もとでは、資本 による 私 的な利潤追求が生産 ・労働過程 を規制す るため に、価値 の形態 としての価格 は、資本 の 要請す る利潤率均等化条件 をみたす生産価格
(1+r)p(A+cao)‑p (4.9)
として、 出現せ ざるをえない。 この ように、生産価格 は、労働力 の再生産 もふ くめて、物 的な再生産条件 (2.14)をみた した うえで、 さらに、利潤率均等化 とい う資本 の要請 をも 満足す る交換価値 として、 (4.9)式のかたちであ らわれる。 したが って、そ こでは、当然、
物 的再生産条件 (2.14)を投下労働 タームでいいか えた にす ぎない (2.19)式 や、 その 基底 にあ る (2.5)式がみた されるのは、基本 的 に、形態 は実体 としての経済原則 を侵害 す るこ とがで きない とい う性格 を もつ こ とか ら、 あ きらかであろ う22)。 また、実体 的規定 である搾取率が、究極 的 には、形態 としての利潤率 を規定す る とい う性 質 は、「マルクスの 基本定理」 として、 よ くしられてい る23)。 そ して、価値 の形態 としての価格 その もの は、
資本主義的生産 を前提 しな くて も、出現 しうるため に、た とえば、 (4.4)式 に代表 され る ような価値 どお りの交換 も、机上の空論で はあるが、思考実験 として想定で きるのである。
なお、マル クスの価値形態論 にかん しては、宇野の アイデ ィアに したが って、古典派的残 淳 としての価値 の実体規定 を、推論 か ら排 除 して、形態論 として純化す るこころみが、数 学的な 「関係」 とい うタームを使用 して、永 田
[ 1 9
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