九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
Polyaの壺モデルにおける摂動解析による自己平均性 の破れの研究
野口, 慎平
https://doi.org/10.15017/1931698
出版情報:Kyushu University, 2017, 博士(理学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
(様式6-2)
氏 名 野口 慎平
論 文 名 Study of non-self-averaging on Polya’s urn model using a perturbation analysis
(Polyaの壺モデルにおける摂動解析による自己平均性の破れの研究)
論文調査委員 主 査 九州大学 教授 福田順一 副 査 九州大学 教授 中西秀 副 査 新潟大学 教授 吉森明
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
本学位論文の主題は,「自己平均性の破れ」という現象の理解である.ここで「自己平均性が成り 立つ」とは,熱力学極限が成り立つ程度に多数の要素からなる系において,それぞれの要素が有す る確率的な物理変数の算術平均と,その算術平均の統計平均が,要素数が無限大の極限において確 率1で一致することであり,算術平均の分散が0になることと等価である.自己平均性の破れにつ いては物理学分野では乱れた系などで典型的に現れ,それに関する研究も多くなされているし,物 理学分野にとどまらず社会現象,経済現象など幅広い分野において観察,考察されている.
従来の研究では,自己平均性の破れは主に空間領域で調べられ,時間,振動数領域における振る 舞いについてはそれほど着目されていなかった.そのような時間,振動数領域における自己平均性 の破れの現れ方に,本学位論文では特に焦点を当てて研究を行った.
本学位論文で取り上げた具体的な確率模型は,Polya の壺と呼ばれるものであり,自己平均性の 破れを示すモデルとして広く知られたものである.Polya の壺にはいくつかのバリエーションがあ るが,本学位論文で調べたのは2つのパラメータa,b (a≤b)で特徴付けられるもので,壺の中にある 2 つの種類の玉(白玉と黒玉)の数をルールに基づいて確率的に増やしていくものである.より具 体的には,ある確率事象が起こった場合には白玉をa個,黒玉をb−a個増やし,もう1つの確率事 象が起こった場合には黒玉のみをb個増やすというものである.
本学位論文の前半では,上述の「ある確率事象」「もう 1 つの確率事象」を単純に「壺から 1 つ引いた玉が白玉である」「黒玉である」としたモデルを考察し,上述のパラメータ a に対して摂 動を加えることにより応答関数,緩和関数,複素感受率を計算することで,Polya の壺の時間,振 動数領域における自己平均性の破れを調べた.計算はモンテカルロシミュレーションによるものと,
連続近似を用いた解析的手法によるものの両方で行い,両者は一致を示した.また摂動により得ら れる諸関数の平均の振る舞いが,自己平均性が破れるa=bの場合と,自己平均性が保たれるa≠bの 場合では異なることが明らかになった.後者では長時間極限で摂動の影響は緩和するが,前者では その影響が長時間極限でも残り続ける.
後半では,「ある確率事象」が起こる確率が白玉を引く確率の一般的な関数である非線形Polya の壺モデルに関する摂動解析を行った.前半で議論した単純なPolyaの壺モデルと同様に連続近似 したマスター方程式を導出し,非線形壺モデルの基本的な性質を過去の研究とは異なる観点から明 らかにした.そのうえで,パラメータ a に摂動を加え,応答関数を数値的に計算した.その結果,
「自己平均性が破れていれば,応答関数などの量は長時間極限でも緩和しない」という,前半で議 論した単純なPolyaの壺の結論とは異なる結論を得た.すなわち,特殊な状況をのぞいて,自己平
均性が破れているかどうかに依存せず,応答関数は長時間極限で緩和を示す.これは非線形項によ ってアトラクターが形成され,摂動を加えられた状態がその有限個数のアトラクターに引き込まれ るためである.前半で議論した単純なPolyaの壺のa=bの場合は,アトラクターが無限個稠密に存 在することで,非線形のPolyaの壺と異なる自己平均性の破れ方を示す.
このように,自己平均性の破れ方には,強さの異なる2種類の破れ方があることが明らかになっ た.すなわち,応答関数が長時間極限において緩和するかしないかというものであり,自己平均性 の破れについて新しい分類の仕方を提案するものである.
以上の結果は,統計物理学における自己平均性の破れに関する重要な知見を与えるものである.
よって,本研究者は博士(理学)の学位を受ける資格があるものと認める.