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日本語教師養成課程学生の 志望動機に関する調査研究

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〔論 文〕

日本語教師養成課程学生の 志望動機に関する調査研究

──社会的・心理的要因との関連性から──

亀 川 順 代

(文学研究科教育学専攻博士課程後期)

1.はじめに

人がある職業に就こうとする時,その過程にはさまざまな要因が働いてい る。職業選択に関わるメカニズムは,主に「非心理学的理論」「心理学的理論」

と,両者を融合させた「一般理論」という3つの枠組みで捉えられてきた(森 下,1992)。「非心理学的理論」では,偶発的な事柄,産業構造における労働力 の需要と供給,個人の社会的背景が,「心理学的理論」では,個人の心理的特 性,欲求や自我概念,人間の発達段階,社会学習,意思決定過程が,「一般理 論」では,職業的発達,パーソナリティと環境的変数などが,各人の職業選択 の決定に影響を与えるとされている。このように,ひとつの職業が選択され適 応に至るまでには外的・内的要因が大きく作用することが分かる。

そして,人間が何らかの目標を設定し,その達成に向けて行動する際に生起 する心理的エネルギーの総称として「動機(motive)」がある。類似の用語で あ る「動 機 づ け(motivation)」は,動 機 の 出 現 過 程 を さ す と い う(青 柳,

1992)。目標到達に関する行動を持続的かつ効果的に機能させるには,遂行能

力はもとより原動力となる動機が不可欠である。職業選択という目的を果たす ために人がどんな動機を持っているのかを理解することは,個人の抱いている 価値観の説明にもつながると考えられる。なぜなら,スーパー(1960)が「職

― 1 ―

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業を選択することは自分自身の生き方を選択することである」と述べるよう に,職業は自己意識を具現化する手段として存在し得るからである。また,ス ーパーは,自己概念の形成には探索の段階が重要だとしている。仕事を通じて 自身が何を求めているのか,その動因を模索することにより,「自分とは一体 何か」という自らのあり方と向き合う機会を与えられ,自己確立への一歩を踏 み出すものと思われる。

学校教育の分野では,よりよい教員養成のプログラム開発という実践的課題 のために,教職志望学生の意識を対象にした実態調査が以前から多くなされて いる。動機づけの過程は入学後の学生生活や就職を方向づけると見なされ,

数々の研究において繰り返し志望動機とそれに関する事柄が問われてきた。耳 塚他(1988)では,小・中学生など早い時期からの教職への動機づけに対して は教わる教師の影響が大きいこと,学生時代の動機づけの度合いの変化として 2年次に減退傾向があること,教育実習を契機として動機づけが高まることな どが分かっている。また,高嶋他(1993)は,教職課程に在籍する学生197名 に履修動機を尋ね,因子分析の結果,教職に対する一般的意識として「健全な る使命・職業観」「免許取得課程の魅力」「免許状希望」「職業としての魅力」

という4因子を得ている。

日本語教育では,佐々木(1976)が教師養成講座志願者119名の志望動機を 分析し,「国際交流に尽くすため」(56%)「日本語を見つめ直すため」(39%)

「日本語教授の機会がある,必要に迫られているため」(21%)「日本語教授法 を体系的に勉強する必要を感じるため」(20%)「(主婦の)社会復帰をはかる ため」(13%)にまとめている。青木(2004)は,教育実習履修大学生49名の 学習動機の変化を因子分析により,「学ぶことへの期待」「職業としての期待」

「自分自身への期待」「実益性としての期待」という4因子から「教えることへ の関心」「目標達成意識」「有益性認識」という3因子になるとしている。一般 機関の講座と大学という異なる養成機関の学生が持つ動機は異なる可能性があ ることを示唆している。

先行研究は,養成段階にある学生の志望動機に焦点を当ててはいるものの,

― 2 ―

(3)

それと関連のある要因について十分に検討されていない。職業選択は個人的諸 経験などをもとに,自己能力評価や職業興味などが学校での職業社会化経験を 通 し て 相 互 に 適 合 関 係 を 強 化 し な が ら 行 わ れ る と さ れ て い る(若 林 他,

1983)。すなわち,人をある一定の職業に向かわせると考えられる志望動機に

は,個人の社会的,心理的な要因が影響していると言える。このようなさまざ まな個人的要素と志望動機との関わりについての探求は,職業選択の規定因や 形成過程を解明する手がかりにもなると考える。

また,学校教師の志望動機に関する研究はこれまで数多くなされてきたが,

日本語教師に関してはまだ歴史が浅い。日本語教育は,日本における「多言語

・多文化社会」の実現に向けて,「語学教師」という通念を超絶した人材の育 成が不可欠である時期に来ていると言われている(西原,2005)。どういった 日本語教師を育てるかという指し示すべき具体像を描きにくい状況にある現 在,日本語教育を学ぶ者は日本語教師をどう捉えているのか,またどのような 捉え方をしている者が日本語教師の道に進もうとするのか検討することは,日 本語教師養成の現状や展望を論じる際にも有益であろう。そして,日本語教師 のように特殊な専門的職業を対象にすることで,職業選択の内実をより明確化 する基礎研究になり得ると思われる。

そこで,本研究は,日本語教師養成課程の学生が持つ志望動機(1)を明らかに し,社会的・心理的要因がそれにどのように関わっているのか検討を加えるこ とを目的とする。さらに,志望動機やその関連要因を考察する中で得られた知 見から,日本語教育における養成指導に対する有益な方策を見出し,その具体 案について言及していくことにする。

2.調査方法

2. 1 調査対象者

平成16年度現在,日本語教員の養成等を実施している390機関・施設のう ち,一般の施設・団体は169,大学170,大学院30といった数になっている

― 3 ―

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(文化庁,2005)。そこで,本研究では,これら3機関の学生を調査対象とし た。有効回答の得られた被調査者は計223名である。その内訳は,京都・大阪 市内にある一般教育機関の420時間カリキュラムをベースにした日本語教師養 成講座に通う受講生(以下「講座受講生」)102名(回収率68%),日本語教員 課程を設置する京都の私立女子大学の日本語教育関連授業を履修する大学生

(以下「大学生」)109名(96%),日本語教育学プログラムを設置する京都の 私立大学大学院の「日本語教育学」を履修する大学院生(以下「大学院生」)12 名(100%)からなる。

属性に関して,講座受講生の年齢は10〜60代と幅があるが,20代が60%,

30代が25% と大半を占めている。性別は85% が女性で,学習期間は一定で

はない。現在の職業も,会社員,学生,フリーター,主婦などである。大学生 は日本語教育分野を専攻もしくは希望している1回生から3回生である。大学 院生は1年生で全員が日本語教育を専門としている。年齢は全員が20代であ り,性別も2名以外は女性である。

2. 2 調査内容

研究目的を果たすため,質問紙調査を実施した。志望動機に関する質問項目 を作成するにあたって,予備調査として講座受講生40名へ受講理由・目的に ついてインタビューを行った。その結果を,前述した佐々木(1976)などの先 行研究や現職日本語教師の動機が記述されたもの(2)と照らし合わせ,30項目を 選定した。回答は,「とても当てはまる」から「全く当てはまらない」までの 5段階評定で求めた。また,志望動機に関連する要因を社会的・心理的に検討 するため,以下の項目を設定した。

1998年『今後の日本語教育施策の推進について』では,日本語教師に求め られる専門性として,外国語や諸外国の文化事情に関する知識能力や理解など が挙げられている。これらは,日本語教師という仕事を志す際に大きく関わっ てくると考えられる。また,前述した先行研究(耳塚他,1988)において,実 際に教えた経験や出会った教師の存在が教職選択に影響することが報告されて

― 4 ―

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いる。そこで,「外国語能力に関する自己評価」(4段階評定),「海外在住経 験」「教授経験」「理想の教師像」の有無を問うた。

川村(2003)は,教職志望学生は非志望学生より,子どもの頃から教師役割 を習得している可能性を明らかにしている。そこで,「被教育体験」(5段階評 定)を問うた。どんな生徒だったかに対する回答は,「先生と仲が良かった」

「リーダー的存在(学級委員など)だった」「勉強が好きだった」「学校が好き だった」「優等生だった」の5項目を使用した。

前述したスーパーの理論では,自己概念は職業への関心や興味を喚起し,一 定方向に個人を導くと考えられている。そこで,「日本語教師として望まれる 資質能力の自己評価」「日本語教師に対する適性・志望度」(いずれも5段階評 定)を問うた。資質能力の自己評価に関する回答は,「言語教育者として必要 とされる実践的なコミュニケーション能力を有している」「日本語ばかりでな く広く言語に対して深い関心と鋭い言語感覚を有している」「国際的な活動を 行う教育者として豊かな国際的感覚と人間性を備えている」「自らの職業の専 門性とその意義についての自覚と情熱を有している」(日本語教員の養成に関 する調査研究協力者会議,2000)の4項目を使用した。

2. 3 調査手続

講座受講生に対しては,筆者もしくは調査協力者が質問紙を直接配布し,後 日回収した。このため,回答に要する時間は任意であった。大学生・大学院生 に対しては,調査協力者の担当する授業の一部において,一斉に質問紙が配布 され,その場で回収された。回答の所要時間は10〜15分程度であった。調査 はすべて無記名で行われた。

3.結果と考察

3. 1 志望動機についての分析

志望動機を構成する因子を検討するために,得られた回答を肯定的なものか

― 5 ―

(6)

ら順に5点から1点で得点化し,30項目すべてに主因子法による探索的因子 分析を行った。データの分析にはSPSS 10.0 J for Windowsを用いた。スクリ ープロットからの判断と因子解釈の可能性を考慮し,最適解を5因子とした。

全因子に対して共通性の著しく低い項目および各因子に対する負荷量 .35以下 の項目を外しながら,プロマックス回転を繰り返し施した。その結果,8項目 が削除され(3),22項目で5因子を抽出した。なお,全分散のうちこの5因子に よって説明できる割合は44.4% となる。その結果を表1に示す。

第1因子に含まれた7項目は,自身の特性が日本語教師に適すると感じてい る内容であったことから,「自己適性」と命名した。第2因子に含まれた4項 目は,外国との関わりを意図している内容であったことから,「海外志向」と 命名した。第3因子に含まれた4項目は,日本語教師という仕事の役割につい て考えている内容であったことから,「職業使命」と命名した。第4因子に含 まれた3項目は,自身の成長を望んでいる内容であったことから,「自己向上」

と命名した。第5因子に含まれた4項目は,日本語を教える機会があることを 表している内容であったことから,「教授ニーズ」と命名した。

さらに,各因子の下位尺度ごとにクロンバックのα係数を求めると,第1因 子α=.75,第2因子α=.72,第3因子α=.76,第4因子α=.69,第5因子α

=.59となり,第5因子を除く各尺度の内的一貫性が認められた。第5因子の α係数がやや低いことは否めないが,志望動機の一端を担う因子と位置づけら れると見なし,本研究ではこれを採用した。

また,第1,第2,第3,第4因子間には正の相関が,これらと第5因子と の間には負の相関があることが認められた。その中で相関係数の高いものは,

第1因子と第2因子(r=.65),第1因子と第4因子(r=.52),第2因子と第 4因子(r=.47)であった。すなわち,自身の中に適性感を高く持つ者ほど,

海外や自己向上に対する意識も高く,自身の海外志向が高い者ほど,自己向上 に対する意識も高いことが示された。

― 6 ―

(7)

3. 2 志望動機と社会的・心理的要因との関連性についての分析

養成機関に関して「講座受講生」(102名),「大学生・大学院生」(121名)

それぞれ因子得点の平均値を算出し(4),差異を見るためt検定を行った。その 結果を表2に示す。「自己適性」「海外志向」「自己向上」因子において,講座 受講生の方が大学生・大学院生より高いことが分かる。「自己適性」因子にお

1 志望動機の因子パターン

蠢 蠡 蠱 蠶 蠹 共通性 蠢 自己適性

23 自分の能力・特技が生かせると思った .79 −.11 −.11 −.01 0.3 .73 26 人にものを教えることが好きだ .73 −.22 .06 −.10 −.02 .60 22 自分の今までの経験が生かせると思った .64 .05 −.09 .02 .24 .48 24 いろいろなことを学べると思った .50 .00 −.03 .27 −.12 .35 25 いろいろな人と接するのが好きだ .46 .07 .04 −.00 −.20 .26 21 やりがいのある仕事だと思った .43 .06 −.02 .18 −.23 .28 16 自分の受けた授業・講義の影響があった .39 −.02 .12 −.10 .07 .18

蠡 海外志向

3 外国に住む・海外で働くための手段としたい −.17 .82 .04 −.07 .02 .71 13 将来,海外に住む予定がある −.15 .77 −.22 .01 .18 .69 8 さまざまな国の人と関わり合いたい .19 .57 .13 −.09 −.08 .40 14 外国の文化に興味・関心がある .22 .46 −.16 .12 −.07 .31

蠱 職業使命

10 日本語を世界の人々が話せるようにしたい .05 −.07 .74 .01 .14 .58 11 乱れている日本語を正しくしたい −.10 −.18 .73 .17 .05 .61 9 日本の文化を世界の人々に伝えたい .16 .44 .50 −.08 −.03 .48 1 日本という国を世界の人々に知ってもらいたい .15 .26 .46 −.03 .01 .30

蠶 自己向上

5 日本語を体系的にきちんと勉強したい −.07 −.22 .17 .76 .00 .67 4 自分の知識や世界を広げたい −.02 .26 −.06 .73 .10 .61 6 一生懸命できる仕事を見つけたい .26 .04 .10 .35 −.03 .20

蠹 教授ニーズ

28 日本語を教える必要に迫られている −.09 .27 .05 .06 .62 .47 29 周りの人にすすめられた −.14 −.02 .23 .13 .53 .37 18 身近な人(親類・知人など)に日本語教師がいる .29 .06 −.11 −.08 .51 .37 20 自分にでもできる簡単な仕事だと思った .21 −.17 .18 −.04 .40 .27

因子間相関 蠡 蠱 蠶 蠹

.65 .34 .52

−.19 .35 .47

−.22 .36

−.04 −.15

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いては0.1% 水準で,「海外志向」「自己向上」因子においては5% 水準で有意 差のあることが認められた。

英語能力に対する自己評価に関して「よく,まあまあできる」と答えた者を 得意群(97名),「あまり,ぜんぜんできない」と答えた者を不得意群(124 名)とし,上記と同様の方法でt 検定を行った(表2)。「職業使命」因子以外 において,得意群の方が不得意群より高いことが分かる。「自己適性」「海外志 向」因子においては0.1% 水準で,「自己向上」因子においては5% 水準で有 意差のあることが認められた。

同様の手順により,海外在住経験が「ある」と答えた者(82名),「ない」

と答えた者(134名)それぞれの因子得点の平均値を見ると,「職業使命」因 子以外において,ある者の方がない者より高いことが分かる。「海外志向」因 子においては0.1% 水準で,「自己適性」因子においては1% 水準で有意差の あることが認められた(表2)。

2 養成機関,英語能力,海外・教授経験,理想の教師像の違いにおける因子得点 平均値(標準偏差)と差の検定結果

蠢自己適性 蠡海外志向 蠱職業使命 蠶自己向上 蠹教授ニーズ 講座受講生(n=102)

大学生・院生(n=121)

t値(df=221)

.25(0.68)

−.21(1.04)

3.96***

.17(0.72)

−.14(1.04)

2.59*

−.09(0.85)

.08(0.95)

1.39

.16(0.69)

−.14(1.02)

2.62*

−.09(0.77)

.07(0.88)

1.41 英語得意(n=97)

英語不得意(n=124)

t値(df=219)

.26(0.90)

−.21(0.88)

3.90***

.28(0.87)

−.23(0.91)

4.18***

−.02(0.96)

.01(0.87)

.28

.16(0.87)

−.14(0.9)

2.50*

.06(0.83)

−.06(0.84)

1.05 海外在住有(n=82)

海外在住無(n=134)

t値(df=214)

.25(0.91)

−.14(0.91)

3.08**

.31(0.86)

−.18(0.91)

3.92***

−.10(0.90)

.02(0.90)

.97

.05(0.90)

−.04(0.90)

.70

.02(0.81)

−.01(0.84)

.26 教授経験有(n=74)

教授経験無(n=148)

t値(df=220)

.16(0.88)

−.08(0.94)

1.86

.06(0.88)

−.02(0.94)

.61

−.15(0.91)

.09(0.88)

1.92

−.04(0.87)

.02(0.91)

.44

.02(0.78)

−.01(0.86)

.25 理想教師有(n=92)

理想教師無(n=51)

理想教師不明(n=76)

F 値(df=2,216)

.04(1.08)

−.16(0.79)

.04(0.80)

.96

.02(1.00)

−.07(0.78)

−.06(0.91)

.31

.15(0.93)

.00(0.89)

−.16(0.87)

2.39

.09(0.95)

−.10(0.89)

−.04(0.83)

.90

−.04(0.83)

.04(0.85)

.04(0.84)

.24

*p<.05, **p<.01, ***p<.001

― 8 ―

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教授経験が「ある」とした者(74名)「ない」とした者(148名)それぞれ の因子得点の平均値を見ると,「自己適性」「海外志向」「教授ニーズ」因子に おいて,ある者の方が高い傾向にはあるものの,すべての因子において有意差 は現れなかった(表2)。

理想の教師像が「ある」とした者(92名)と「ない」とした者(51名),あ るかどうか「わからない」とした者(76名)それぞれの因子得点の平均値 と,一元配置の分散分析結果を表2に示す。「教授ニーズ」因子以外におい て,ある者の方がない者やわからない者より高い傾向にあるが,すべての因子 において有意差は現れなかった。

次に,被教育体験に関して得られた回答を肯定的なものから順に5点から1 点で得点化し,志望動機の各因子得点との関係を見るため相関分析を行った。

そ の 結 果 を 表3に 示 す。「自 己 適 性」因 子 と「勉 強 好 き」だ っ た こ と(r

=.14),「職業使命」因子と「学校好き」だったこと(r=.16)との間には5%

水準で有意な正の相関が認められた。

同様の手順により,資質能力の自己評価との相関係数を求めたところ,「自 己適性」「海外志向」「自己向上」因子と資質能力の自己評価4項目との間には 1〜5% 水準で有意な正の相関が認められた。その中で相関係数の高いもの

3 被教育体験,資質能力の自己評価,適性・志望度と各因子得点との相関係数 蠢自己適性 蠡海外志向 蠱職業使命 蠶自己向上 蠹教授ニーズ 先生と仲良し

リーダー的存在 勉強好き 学校好き 優等生

−.01 .07 .14*

.05

−.01

−.07

−.02 .05

−.04 .02

.10 .01

−.00 .16*

−.02

−.04

−.04 .10

−.07

−.09

−.06

−.02 .03

−.04 .05 コミュニケーション能力

言語感覚 国際的感覚 情熱

.33**

.43**

.47**

.48**

.22**

.36**

.39**

.32**

−.01 .11 .07 .16*

.16*

.29**

.25**

.35**

.12 .02 .05

−.06 適性度

志望度

.38**

.50**

.27**

.47**

.13 .17*

.33**

.41**

.06

−.20**

*p<.05, **p<.01

― 9 ―

(10)

は,「自己適性」因子と「情熱」(r=.48),「国際 的 感 覚」(r=.47),「言 語 感 覚」(r=.43)であった(表3)。

日本語教師に対する適性・志望度との相関係数を求めると,「自己適性」「海 外志向」「自己向上」因子と適性度との間には1% 水準で,「教授ニーズ」以外 の因子と志望度との間には1〜5% 水準で有意な正の相関が認められた。相関 係数の高いものは,「志望度」と「自己適性」因子(r=.50),「海外志向」因 子(r=.47)であった(表3)。

以上の結果から,次のことが明らかにされた。まず,日本語教師養成課程の 学生が持つ志望動機として「自己適性」「海外志向」「職業使命」「自己向上」

「教授ニーズ」と名付けられる5因子が得られた。この5因子は内的一貫性も 認められていることから,ある程度の信頼性を備えていると判断できよう。5 因子間の内部相関を検討したところ,「自己適性」「海外志向」「職業使命」「自 己向上」因子間では正の相関が見られた。このことから,「自己適性」「海外志 向」「職業使命」「自己向上」因子など自律的要因によると考えられる動機はお 互いプラスに作用することが推測される。そして,「教授ニーズ」因子と他の 3因子との間では負の相関が見られた。このことは,ぞれぞれの因子における 下位尺度の内容の違いによると考える。つまり,志望度と負の相関を示すこと からも裏付けられるように,「教授ニーズ」因子は積極的ではない動機で成り 立っていると思われる。

次に,志望動機として明らかになった5因子に関わる諸要因が見出された。

講座受講生の方が大学生・大学院生より,「自己適性」「海外志向」「自己向上」

因子において高いことが分かった。その理由として,今回調査対象となった講 座受講生は大学生・大学院生に比して年齢も一様ではなく,既に職に就いてい る者も多いため,さまざまな経験と現実との吟味を通じて自己や職業に対する 理解が深まっていることがうかがえる。森下(1992)によれば,職業的発達と は,職業に対する自己概念が形成され,それが絶えず再構成されていく過程で あるという。そして,職業発達は職業選択行動においてある時点で起こるので はなく,ある期間を通して起こる過程として相互に修正され,発達していく決

―10 ―

(11)

定要因が結合しあって現れるという。特に「自己適性」因子においてその差が 大きかったことからも,講座受講生の方が職業的発達段階が進んでいる可能性 が示唆される。

英語能力を高く自己評価する者の方がそうではない者より,「自己適性」「海 外志向」「自己向上」因子において高いことが分かった。また,海外在住経験 がある者の方がそうではない者より,「自己適性」「海外志向」因子において高 いことが分かった。日本語教師は言語や外国との関わりが大きい仕事であるた め,英語などの外国語に対する自信や学習・習得経験,海外での多様な文化や 価値観と対峙する体験は,日本語教師に対する適性感や海外での活動意志につ ながる可能性を示している。英語能力には,さらに向上心も関係する。2000 年の日本語教員養成制度の改定にともない,新たに異文化コミュニケーション 教育が教育内容に加わったが,日本語教育の専門性という観点からも異文化コ ミュニケーションに関わる異文化理解能力の重要性は,今後引き続き強調され るべきである。この異文化理解能力は,外国語や海外経験を通して培われるこ とが期待できる。

一方で,教授経験の違いや理想の教師像の有無において統計的な有意差は得 られなかった。ただ単に何か人にものを教えた経験や,自分の理想とする教師 の存在は,日本語教師に対する志望動機にはそれほど影響を及ぼさないことが うかがえる。その理由を探るべく各項目の内容を詳しく分析すると,教授経験 があるとした者74名のうちの25名(養成講座受講生21名,大学生2名,大 学院生2名)がボランティアとしての日本語教授経験を,理想の教師がいると した者92名のうちの15名(養成講座受講生14名,大学生1名)が現在の担 当講師つまり日本語教師としての理想像を答えていた。つまり,志望動機に直 接結び付くような教授経験や理想の教師像を持ち合わせている者が多くないこ とが分かる。このことが結果に反映されたのかどうかは,教授形態や理想像の 違いによって分析すれば何らかの手がかりが得られると思われるが,今回は変 数が揃わず標本数も少ないためこれ以上の解釈は不可能で,明言は避け今後の 課題とする。

―11 ―

(12)

そして,日本語教師に関する資質能力を高く自己評価する者,高い適性感や 志望意識を持つ者ほど,「自己適性」「海外志向」「自己向上」因子の強まるこ とが分かった。高い自己評価や適性感は,バンデューラ(1997)の提唱する自 己効力に関連していると考えられる。職業選択と自己効力に関する研究では,

職業に対する自己効力と興味が結び付いて職業の選択を予測することが見出さ れており(バンデューラ,1997),日本語教師という職業の場合にも同様の結 果が適用される可能性が浮かび上がる。学生が現段階で判断する資質能力や適 性は,客観的な現実を捉えていないかもしれないが,人は自らの理想とする姿 に向かっていくことによって,自分を受け入れ,自信を持つようになると思わ れる。学生が適切な職業選択を行えるよう,養成教育において高い目標が少し でも現在の自己に近付けるような指導内容や方法が提供されなければならない であろう。

それに対し,被教育体験と各因子に強い相関関係は見られなかった。子ども の頃どんな生徒であったかということは,日本語教師に対する志望動機にはそ れほど影響を及ぼさないことがうかがえる。講座受講生のみから回答を得てい た日本語教師を目指した時期を見たところ,早い者で「中学校時代」と答えて いるが,数はわずか2名で,ほとんどが「大学時代」や「大学卒業以後」と答 えていた。学校教師は,誰もが子どもの頃に関わっている身近な存在であるた め,教職志望の学生が持つ動機に影響するのであろうが,日本語教師と子ども の頃から接する機会はそれ程ない。そのため,今回のような結果になったと推 測できる。

志望動機因子と社会的・心理的要因との関連を因子側から見てみると,「自 己適性」「海外志向」「自己向上」因子にのみ関係性があった。このことは,こ れらの因子が志望動機の中でも特に個人的要素と深く関わっていることを示し ている。「職業使命」因子は,統計的に有意ではなかったものの,大学生・院 生や英語を不得意とする者,海外在住経験のない者,教授経験のない者など,

一見日本語教師の役割にそぐわないと思える者に高く評価された。このように 他因子とは全く異なる結果となったことが何を意味するのか,慎重な解釈を要

―12 ―

(13)

するため調査対象を広げ再検討する余地があるだろう。「教授ニーズ」因子 も,どの要因とも関係性は見られなかった。これは,「教授ニーズ」が個人的 要素とは関係のないところで外在的に存在しているためと説明できよう。

社会的・心理的要因側から見てみると,養成機関,英語能力,海外在住経 験,資質能力の自己評価,適性・志望度に関係性があった。要因間の関連を見 るため,養成機関,英語能力,海外在住経験,教授経験,理想の教師に対し多 重対応分析を行い相関係数を求めた。また,被教育体験,資質能力の自己評価

(いずれも下位尺度平均値),適性・志望度に対してはピアソンの積率相関係数 を求めた。その結果を表4に示す。英語能力と海外在住経験,養成機関と海外 在住経験,英語能力との間に弱いながらも相関が認められるが,それ以外では あまり高い相関が認められないことが分かる。また,資質能力の自己評価,適 性・志望度の間には中程度の相関が認められるが,それ以外ではあまり高い相 関が認められないことが分かる。すなわち,志望動機因子と関連があると考え られる要因は,要因同士においても関係がある可能性を指摘できる。

それから,養成機関,英語能力,海外在住経験,教授経験,理想の教師の違 いにおける被教育体験,資質能力の自己評価(いずれも下位尺度平均値),適 性・志望度の平均値を算出し,差異を見るためt検定と分散分析を行った

(表5)。その結果,海外在住経験の違いにおける適性度を除き,養成機関,英 語能力,海外在住経験の違いにより,資質能力の自己評価,適性・志望度も異

4 要因間の相関係数

1 2 3 4 5 6 7 8 9

1 養成機関

2 英語能力

3 海外在住

4 教授経験

5 理想教師

1 .20 .25 .06 .17

1 .35 .09 .04

1 .11 .13

1

.05 1

6 被教育体験

7 資質能力

8 適性度

9 志望度

1 .22 .14 .07

1 .48 .41

1

.55 1

―13 ―

(14)

なることが分かる。すなわち,志望動機因子と関連があると考えられる社会的

・心理的要因は,互いに関係性のあることが示された。

4.まとめと今後の課題

本研究では,日本語教師養成課程学生の志望動機を構成する5因子と,それ に関連する諸要因を明らかにした。考察より,「自己適性」「海外志向」「自己 向上」といった因子は,学生の日本語教師を志す動機として高まれば相乗効果 を生み,これらの因子は学生の職業的発達段階,外国語学習・習得経験や海外 体験,自己効力が影響している可能性を見出した。また,因子との関連が明ら かにされた要因間にも関係性のあることが分かった。よって,学生の内発的な 志望動機を高めるために,職業に対する自己概念の形成や向上を促せるような 機会を与えていくこと,第二言語習得理論や異文化トレーニングなどを積極的 に養成教育に盛り込むことは有益であると考える。職業選択において最も必要

5 要因の違いにおける平均値(標準偏差)と差の検定結果 被教育体験 資質能力 適性度 志望度 講座受講生(n=102)

大学生・院生(n=121)

t値(df=221)

3.19(0.84)

3.30(0.72)

1.07

3.22(0.69)

2.88(0.89)

3.10**

3.47(0.90)

3.13(0.97)

2.69**

4.50(0.62)

3.87(1.06)

5.35***

英語得意(n=97)

英語不得意(n=124)

t値(df=219)

3.34(0.80)

3.17(0.75)

1.62

3.38(0.71)

2.74(0.78)

6.31***

3.49(0.99)

3.11(0.88)

3.06**

4.31(0.82)

4.02(1.01)

2.27*

海外在住有(n=82)

海外在住無(n=134)

t値(df=214)

3.29(0.72)

3.21(0.82)

0.68

3.32(0.73)

2.89(0.82)

3.86***

3.32(0.90)

3.26(0.99)

0.42

4.38(0.84)

4.04(0.99)

2.67**

教授経験有(n=74)

教授経験無(n=148)

t値(df=220)

3.23(0.76)

3.24(0.78)

0.18

3.21(0.81)

2.94(0.81)

2.36*

3.50(0.78)

3.18(1.00)

2.44*

4.30(0.73)

4.08(1.03)

1.66 理想教師有(n=92)

理想教師無(n=51)

理想教師不明(n=76)

F 値(df=2,216)

3.43(0.77)

3.02(0.78)

3.19(0.75)

3.47*

3.24(0.76)

2.77(0.83)

2.98(0.84)

4.14**

3.36(0.98)

3.18(0.97)

3.33(0.83)

1.95

4.22(0.84)

3.85(1.18)

4.29(0.86)

2.47

*p<.05, **p<.01, ***p<.001

―14 ―

(15)

なのは,能力や興味,価値観などを含む自己を知ることだと言われているが,

改めてその意義を認識することができる。

そして,志望動機に関する因子として妥当性の検証を要するものがあったこ と,因子との関連が支持されなかった要因がいくつかあったことから,日本語 教師の職業選択に関わる理論的枠組みを再構築する必要が見出された。そのた め,専門性の高い他の職業研究の方法論を参考にしつつ,調査対象を拡大し,

詳細な分析を行うことが考えられる。他にも,今回は養成課程学生のみを研究 対象にしており,志望動機における形成過程の解明には至らなかったため,現 職の日本語教師も対象に加えたさらなる探究が必要であると考える。そうする ことにより,日本語教師という職業選択のメカニズムをより明確にする示唆を 得られることが期待できるであろう。

謝辞

今回の調査にご協力いただいた方々に,この場を借りて心よりお礼申し上げます。

盧 本稿の「志望動機」という用語は,必ずしも養成課程の受講理由か教師という進 路の選択理由どちらか一方を表すものではない。両者はまだ学生によって明確に 認識されていないことも十分想定でき,これらの相違を特定することは困難であ ると考えるためである。

盪 主に『月刊 日本語』(アルク)の日本語教師に関する特集などを参考にした。

蘯 省かれた項目は「2.日本語ができない人の役に立ちたい」「7.自分の語学力を 生かしたい」「12.外国で言葉ができなくて困った経験がある」「15.メディアの 影響があった」「17.周りに日本語を勉強したい人がいる」「19.日本語は美しい 言語だと思う。」「27.自分の国についてあまり知らない」「30.日本語のことを 聞かれて答えられなかった」である。

盻 各因子の内的一貫性については十分な水準であったが,他の因子にも高い負荷を 示す項目がわずかながら認められるため,分析には因子得点を用いた。

参考文献

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青柳肇(1992)「動機づけとは何か」東洋・繁多進・田島信元編『発達心理学ハンド

―15 ―

(16)

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―16 ―

(17)

The Vocational Motives of the students enrolled in Japanese Language Teacher Training Course : Relationship of Psychological and Social Aspects

Nobuyo Kamegawa

The purpose of this study is to investigate the vocational motives of the stu- dents who are enrolled in the Japanese language teacher training course, and to ex- amine the relations of psychological and social aspects. The data were collected from 223 students attending a teacher training course with a questionnaire. The results of factor analysis on the data collated revealed 5 factors as ‘aptitude’ motives, ‘over- seas’ motives, ‘mission’ motives, ‘self-improvement’ motives, and ‘teaching needs’

motives. Comparison between the students who positively evaluated their English ability and those who did not do so showed that the former had significantly higher scores for ‘aptitude’ motives and ‘overseas’ motives. Furthermore, it indicated that their self-evaluation for their basic ability to teach Japanese correlate positively with

‘aptitude’ motives, ‘overseas’ motives and ‘self-improvement’ motives. The similar results were also recognized for their aptitude and aspirations to become a teacher.

These findings suggest how educators should support these students in the teacher training course in order to develop their motives into the self-empowerment and in- tercultural competence as Japanese language teachers.

Key words : Japanese language teacher training, motivation, beliefs about teaching and teacher, factor analysis, questionnaire survey

―17 ―

参照

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6 Baker, CC and McCafferty, DB (2005) “Accident database review of human element concerns: What do the results mean for classification?” Proc. Michael Barnett, et al.,

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