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ドイツにおける経営罰の意義と構造(一) : 懲戒処 分法理の比較法的研究

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(1)

ドイツにおける経営罰の意義と構造(一) : 懲戒処 分法理の比較法的研究

著者 坂井 岳夫

雑誌名 同志社法學

巻 61

号 1

ページ 227‑293

発行年 2009‑05‑31

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000011731

(2)

ドイツにおける経営罰の意義と構造(一)懲戒処分法理の比較法的研究二二七同志社法学 六一巻一号

ドイツにおける経営罰の意義と構造(一) ―

懲戒処分法理の比較法的研究

坂   井   岳   夫

  (二二七)

   

    稿 

   

   

   

   

   

     

  (

(3)

ドイツにおける経営罰の意義と構造(一)懲戒処分法理の比較法的研究二二八同志社法学 六一巻一号

 

  

     

   

  

   

       

   

   

はじめに

第一節  問題の所在一  懲戒処分の意義と法的課題   労働関係は通常、複数の労働者による協働の中で展開される。そこでは一定の秩序、すなわち企業秩序の維持が求められる。使用者は、服務規律を制定し、物的施設を管理し、あるいは、企業秩序の侵害があった場合には、秩序の回復

に必要な指示や命令を発するなどの方法で、企業秩序の維持を図ることになる。このような措置の中にあって、秩序維

  (二二八)

(4)

ドイツにおける経営罰の意義と構造(一)懲戒処分法理の比較法的研究二二九同志社法学 六一巻一号 持に向けられたもっとも強力な手段が、企業秩序の侵害に対する不利益措置としての懲戒処分である。それは戒告・譴責・減給・出勤停止・降格・諭旨解雇・懲戒解雇など多様な形態で行われうる。懲戒解雇が労働者の非違行為に対する もっとも厳格な制裁であることは言うに及ばないが、懲戒処分の中では相対的に軽度の措置である戒告あるいは譴責であっても、昇給・一時金・昇格といった人事処遇に伴う不利益な評価を介するなどして

、労働者のキャリア形成に甚大 1

な不利益がもたらされることになる。

  実際的な観点から見た懲戒処分は、企業秩序の維持にとって極めて有益な措置であると同時に、労働者のキャリア形

成にとって深刻な不利益を与えるものである。そして、このような懲戒処分の特質は、その法的根拠から個別具体的な事案における処分の効力にまで至るさまざまな法律問題を提起することになる。

  その第一は、この労働契約に特徴的な不利益措置である懲戒処分がいかなる根拠に基づいて行われるものなのかという、懲戒権の根拠に関する議論である。この点に関する理解の仕方は、就業規則上の根拠(懲戒規定)を欠く懲戒処分

の可否や、懲戒処分に関する就業規則上の規定(懲戒の事由、処分の形態)の性質(限定列挙か、例示列挙か)といった問題の解決につながるものである。

  第二に、懲戒処分の法的性質が問題となる。伝統的には秩序罰あるいは制裁罰として捉えられてきた懲戒処分だが、

学説の中には労働契約上の責任追及手段の一つとしての側面を重視する見解もある。この点に関する理解は、懲戒処分の対象をいかに画するかという問題や、懲戒処分の形態に何らかの制限がかかってくるのかという問題と深く関わるも

のであるし、懲戒処分の法規制の在り方にも一定の影響を与えうるものである。

  第三に、個別の懲戒処分についての法規制の在り方が問題となる。懲戒処分が有効に行われるためにはどのような要

件を満たす必要があるのか、また、懲戒処分に対する司法審査はいかなる観点から行われるべきであるかといった問題

  (二二九)

(5)

ドイツにおける経営罰の意義と構造(一)懲戒処分法理の比較法的研究二三〇同志社法学 六一巻一号

である。

二  制定法の状況   これらの問題に関連するわが国の制定法の概要は以下のとおりである。まず、懲戒処分に関わる制定法上の規制として、﹁制裁﹂の﹁種類及び程度﹂を就業規則の相対的必要記載事項とする労働基準法八九条九号、﹁減給の制裁﹂の上限

を一回について平均賃金の一日分の半額、総額について一賃金支払期における賃金の総額の十分の一とする労働基準法九一条、いわゆる懲戒権濫用法理を明文化した労働契約法一五条が存在する。このうち、労働基準法八九条九号は、基

本的には労働条件の明確化とその行政的監督を念頭に置いた取締規定であり

2)(

にす基の制規法る対をに分処戒懲は礎成五戒戒懲該当、が懲す、﹁りあで定規条一るす法られてい。なわち、労働契約 の定規、余のそ懲はけ戒処分の規制に向 3)

係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする﹂と定めている。また、労働基準法九一

条は減給に固有の要件を定めるものである。

  このような制定法の状況に照らすと、懲戒処分に関する法理について、次のような解釈論上の課題が導かれる。まず、

懲戒権の根拠については、制定法上明文の根拠は存在せず、その探究は解釈に委ねられている。労働契約法一五条も、﹁使用者が労働者を懲戒することができる場合﹂を前提とした規定であり、いかなる場合に使用者が労働者を懲戒すること

ができるのかということについては何ら言及していない。また、懲戒処分の法的性質についても、労働契約法一五条が懲戒処分を使用者による懲戒権の行使であることを前提とした規定であるということを指摘しうるのみである。それを

超えた懲戒権の法的性質については、解釈に委ねられている。さらに、懲戒処分に対する法規制の基礎を成す懲戒権濫

  (二三〇)

(6)

ドイツにおける経営罰の意義と構造(一)懲戒処分法理の比較法的研究二三一同志社法学 六一巻一号 用法理が明文化されたものの、その内容は懲戒処分の抽象的要件(客観的合理的理由、社会的相当性)とその評価基準(労働者の行為の性質・態様、その他の事情)を示すに止まり、その運用は従来の判例法理や学説による補完と今後の

解釈論の展開に多くを依存している。そこで続いては、このような解釈論上の課題について、わが国における議論状況を概観する。

三  懲戒権の根拠   懲戒権の根拠については、これまで、契約説・法規範説・固有権説・二分説・否定説といった見解が主張され、論争が展開されてきた

見をにおいて通説の地位占学める契約説との間で説と例説在にあっても、判の。依って立つ固有権現 4

解の対立が存在する

5)

  関西電力事件

労る業の円滑な運営を図たてめに、その雇用する企っ広もいて﹁使用者は、くに企業秩序を維持し、お 6

働者の企業秩序違反行為を理由として、当該労働者に対し、一種の制裁罰である懲戒を課することができる﹂と述べる判例は、固有権説

に立つものと解されている 7)

は件ただし、判例。、フジ興産事 8)

に労るす戒懲を者働がに者用使﹁ていお 9)

は、あらかじめ就業規則において懲戒の種類及び事由を定めておくことを要する﹂とも述べている。上記の関西電力事

件の判示とこのフジ興産事件の判示とを整合的に理解するならば、懲戒権の根拠について固有権説に依拠する一方で、懲戒権を行使するための要件として就業規則の規定を要求していると読むことができよう

10

  このような固有権説の論理を批判し、懲戒を行うためには労使間の特別の合意(通常は、就業規則における懲戒規定が就業規則の契約内容規律効により労働契約の内容となることで実現される)が必要であると説くのが契約説である

11

その基礎には、懲戒処分を論じるに当たっては、﹁契約によって始めて結びつき、絶えざる利害の対抗関係におかれた

  (二三一)

(7)

ドイツにおける経営罰の意義と構造(一)懲戒処分法理の比較法的研究二三二同志社法学 六一巻一号

人間の集団が問題とされており、このような集団においては、法律上すべての権利義務は契約にもとづいてのみ発生し

うるものと見なければならないのであって、単純に制度の必要性を以て権利の法的根拠となすということはこのような対抗する利害関係を法の力で一方的に決着することとなる﹂という問題意識がある

12

  固有権説に立ちつつ就業規則による規定を懲戒権行使の要件とする判例と契約説を支持する通説とは、その限りでは実質的な対立を生じるものではない。しかし、懲戒権の根拠に関する理解は、続いて概観する懲戒処分の法的性質の把

握と一定の関連を持つことで、懲戒処分法理の在り方にも影響を与えうるものと解される。このような意味で、懲戒権の法的根拠も、いまだ重要な解釈問題と位置付けられるべきものである。

四  懲戒処分の法的性質   企業秩序維持の要請から使用者に固有の懲戒権を導き出す固有権説に依拠する場合、懲戒処分は、契約上の債務不履行責任の追及手段とは一線を画するとともに、制裁罰あるいは秩序罰としての性格付けがなされることになる。そのよ うな理解の帰結として、懲戒処分は、労働契約上の債務不履行一般を対象とするものではなく、﹁企業秩序違反行為﹂に向けられるものとなる

な拠の同意によって根付働けられるものでは者労立がた、固有権説につ。場合には、懲戒権ま 13

いところ、懲戒処分の有効性について労働者の利益保護のために懲戒制度の趣旨に立ち返った厳格な判断が求められるとの指摘もある

14

  これに対し、固有権説を前提としない場合には、懲戒処分は必然的に制裁罰あるいは秩序罰としての性格を伴うわけではない

利はの理解として、あるい懲性戒処分という特別の不質的は法しろ、学説において、。懲戒処分そのもののむ 15

益措置が法的に許容される理由の探究のために、損害賠償や契約の解約(解雇)といった契約法一般に認められる債務

  (二三二)

(8)

ドイツにおける経営罰の意義と構造(一)懲戒処分法理の比較法的研究二三三同志社法学 六一巻一号 不履行責任の追及手段との対比の中で懲戒処分の法的性質を見出そうとする試みも重ねられている。   毛塚教授は、懲戒権承認の規範的契機を使用者が有する﹁解雇の自由﹂の不合理性とその制限の必要性に求め

、懲戒 16

処分を﹁使用者の法益を侵害する労働者の行為に対する責任追及として理解﹂するとともに

外不対し解雇以きの利反益措置をとることに違でとるいてけ付義定﹂律能権る者の職場規の 働労が者用使﹁を権戒懲、 17

。そこではもっぱら労働者 18

から見た場合の解雇の不合理性に焦点が当てられており

。で雇の自由﹂が制限されるべきあ、﹁るという理解が示されている解で方 益戒により解雇に至らぬ不利措、置を課すことを許容する一懲 19

  一方、下井教授は、労働契約上の債務不履行責任の追及手段として損害賠償と解雇を挙げた上で、①損害賠償請求が一般に現実的有効性に欠けること、②労働者の義務違反に対して使用者が解雇という法的対処しか採りえない、す

なわち解雇するかしないかという二者択一の対応しか途がないということは使用者の経営合理性の観点からも労働者の生活利益の面からもおよそ適切・妥当とは言い難いことを指摘して、労働関係において懲戒処分が行われることの合理

性を指摘している

。さがき出導れている 、の配慮をもっての懲戒処分益合理性へ利開のこでは、労働契約の展に。伴う使用者・労働者双方こ 20

  懲戒処分を労働契約上の責任追及手段の中に位置付ける見解は、次の点で懲戒処分法理(その対象や形態)と結び付

く。まず、毛塚教授は、懲戒処分を企業秩序維持の必要性によって基礎付けるという見解に依拠しない以上、その対象は企業秩序違反行為に限られず、使用者の法益を侵害する行為(または、その具体的危険が高い行為)一般に向けられ

ると指摘する

をもありかつ故意・過失違伴うの反でなければならないと指摘しで 労務義の上約契働は上戒契働労が分処懲象、は授教盛、方約の。あ対のそ、上以るで合裁制くづ基に意一 21

合のるす関に分処戒懲)外以雇解戒懲、(にらさ、 22

意の法的許容性を労働契約の義務内容および履行態様の特質に求める立場から、①﹁集団的・組織的履行態様における

  (二三三)

(9)

ドイツにおける経営罰の意義と構造(一)懲戒処分法理の比較法的研究二三四同志社法学 六一巻一号

労働契約上の労務提供義務違反、またはそれと密接不可分の関係に結び付いた労働時間中ないし企業内の行動に関する

付随義務違反﹂であること、②﹁類型的に企業・経営における生産・労働過程の遂行にとって障害となる﹂こと、③﹁使用者が労働契約に基づき労働者の行為を直接規制しうる範囲内のものであり、またその必要性が客観的に認められるも

の﹂であることという限定を行っている

為手分処戒懲てしと段及捉追任責の上約契働をえる象行反違序秩業企を対るの分処戒懲、は解見労れ容許ていづ基さ 視業の持維序秩に企、は請的般一り要しをのに請要なうよそ重けわりと、。よ 23

(または、その実質的危険をもたらす行為)に限ることになる

24

  さらに、懲戒処分の形態、とくに懲戒解雇の許容性について、懲戒権承認の規範的契機を解雇に対する制約的機能に 求める毛塚教授は、懲戒解雇という概念を否定する

さ、に者三第をれこしし付を称名ういと雇対て戒雇なが示表思意の解公で形なうよるす表解懲、さとして理解れる一方 00 際てれわ行上。実、合場のこるいっ懲戒解雇はもぱら解雇権の行使 25

れている限りにおいて、労働者の人格的利益を侵害するものとして解雇権濫用の評価を受けることになる

の求の利益や労働契約の特質にめっる立場においては、懲戒解雇てとるの懲戒処分に関すに意合法労方双的使を性容許 。、し対にれこ 26

否定という帰結は当然には導かれない。これらの見解は、労働契約上の責任追及手段の中にあっての懲戒解雇の顕著な不利益性に着目し、厳格な法規制の必要性を指摘することになる

れ雇さ使行てしと戒懲が権解、は授教盛、けわりと。 27

ることで労働者に対し事実上の不利益や人格的利益の侵害が加重されると指摘した上で、その対象となる労働者の行為は単なる解雇権行使の場合に比して一層重大な労働契約上の義務違反(即時解雇の要件としての﹁労働者の責に帰すべ

き事由﹂︹労働基準法二〇条一項但書︺以上に重大なもの)でなければならず、かつ、労働契約上の重大な非難に値するもの(悪意・重過失)でなければならないと述べている

28

  (二三四)

(10)

ドイツにおける経営罰の意義と構造(一)懲戒処分法理の比較法的研究二三五同志社法学 六一巻一号 五  懲戒処分に対する法規制   懲戒権の根拠に関連して指摘したとおり、判例および通説は、懲戒処分の前提として、その事由と手段についての就 業規則上の規定(懲戒規定)を要求している。そして、就業規則所定の懲戒事由が存在する場合に、当該行為に対して懲戒処分を課すか否か、さらにいかなる処分を選択するかは、第一次的には使用者の裁量に属するものと解されている

29

しかし、懲戒処分が有効と評価されるためには、①そのような判断が使用者に認められる裁量の範囲を逸脱するものであってはならず、また、②その制裁罰たる性格に基づいて一定の制約が課され、さらに、③適正な手続に則った取

扱いが求められる

30

  判例は、﹁使用者の懲戒権の行使は、当該具体的事情の下において、それが客観的に合理的理由を欠き社会通念上相 当として是認することができない場合に初めて権利の濫用として無効になる

通の、ていおに下情れ事的体具該当そがも由会社、き欠を理客な的理合に的観、て事が該当する実存在する場合であっ は就、﹁由いる規業に則所定の懲戒事﹂、あ 31

念上相当なものとして是認することができないときには、権利の濫用として無効になる

に案主張の可否について争われた事に追おいて判例は、﹁使用者が労働者加の法き用由を形成して理たまた、懲戒事。 わ述べて、い戒ゆる懲権濫﹂と 32

対して行う懲戒は、労働者の企業秩序違反行為を理由として、一種の秩序罰を課するものであるから、具体的な懲戒の

適否は、その理由とされた非違行為との関係において判断されるべきものである﹂とした上で、﹁懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情のない限り、当該懲戒の理由とされたものでないことが明らかであるから、

その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできない﹂と判示している

33

  このほか、学説においては、懲戒処分と刑罰との類似性を指摘して、懲戒事由・手段の明定、拡張適用の禁止、不遡 及の原則、一事不再理の原則、二重処分の禁止といった原則が要求されている

労付・則規業就や与の会機明弁、たま。 34

  (二三五)

(11)

ドイツにおける経営罰の意義と構造(一)懲戒処分法理の比較法的研究二三六同志社法学 六一巻一号

働協約所定の手続きの履践といった適正手続の要請についても、その重要性が指摘されている

35

  以上のように権利濫用を根拠として懲戒処分の規制を行う判例・通説に対し、学説の中には、懲戒権の行使に伴う配慮義務を措定し、これを根拠として懲戒処分の規制を試みる見解もある

懲お、は士護弁川古びよ授教口川、ちわなす。 36

戒権の行使に際して使用者は、懲戒処分を必要かつ合理的な範囲に限定するよう配慮する義務として、①労働者に対し懲戒権を行使する必要がある場合に、②客観的に合理的な結果となる懲戒権行使をなす義務を負うとともに、懲戒

処分に伴う適正手続義務として、①懲戒事由に該当する疑いのある事実が発生した後に迅速な調査を行い、②懲戒処分を決定する前に労働者に対して懲戒事由に該当する疑いのある事実を告知し、証拠を開示し、弁明機会を付与し、

③労働者の弁明聴取後に熟慮期間を置き、④労働者の防御権行使に支障が生じない相当な期間内に懲戒処分を行ない、⑤懲戒処分を決定したときにその内容と理由を労働者に告知し、⑥要請があった場合に当該懲戒処分について労

働組合・労働者集団に説明・協議する義務を負うものであるとし、このような配慮義務を懲戒権の行使要件と位置付けるべきであると主張している。

  さらに、立法論としては、﹃今後の労働契約法制の在り方に関する研究会報告書﹄(二〇〇五年)において、懲戒解雇・出勤停止・減給といった特に不利益の大きい懲戒処分ついて、対象労働者の氏名、懲戒処分の内容、対象労働者の行っ た非違行為、適用する懲戒事由(就業規則等の根拠規定)を書面で労働者に通知することとし、これを怠った場合には当該懲戒処分を無効とする立法を採用すべきとの提言がなされている

37

  懲戒処分の法規制に関しては、事例的価値を有する判例・裁判例の蓄積や学説における議論をとおして、相当に明確な規範が形成されてきていると言えよう。しかし、とりわけ懲戒処分の手続に関連して、適正手続の要請をどれだけ重

視すべきであるかという解釈論上の課題や、書面通知の要否といった立法論上の課題は、さらなる検討を要するものと

  (二三六)

(12)

ドイツにおける経営罰の意義と構造(一)懲戒処分法理の比較法的研究二三七同志社法学 六一巻一号 言うことができよう。

第二節  本稿の目的   本稿は、わが国の懲戒処分法理における以上のような課題を考察するに当たっての基礎的な研究として、ドイツにお ける経営罰法理の紹介と分析を行うものである

eis bu er w ng nu ar w G eld ß e er V V

責(告戒てし)・譴と主さ(い課で態形たっとて)(金裁制)・、しに害侵の序秩所業対

e B ß bu bs rie et

労(罰営経)でこ、働とは、。者によって惹起された事こ 38

れる不利益措置を言う。

  ドイツにおいては、経営罰の法的性質・根拠をいかに解するかについて盛んに議論が展開され、今日では自主法規説

と契約説という特徴的な学説が主張されるに至っている。特に、通説・判例の支持する自主法規説は、経営罰権限を事業所パートナー(使用者および事業所委員会)の自治権から派生する固有の権限と捉える一方で、事業所パートナーは

事業所協定の締結によって経営罰規程を制定し、それに基づいて経営罰の賦課が行われるとの理解を提示している。同説は、経営罰を契約により基礎付けられる権限ではなく、制裁を賦課するための固有の権限として捉える点において、

わが国における固有権説との共通項を持つ見解である。しかし一方で、自主法規説は上記のとおり事業所協定に基づい

て経営罰が賦課されるとも主張しており、この点でわが国における契約説との類似性を指摘することができる。このような同説の特徴は、わが国の懲戒処分法理の検討を行うに当たっても示唆を含むものと解される。一方、契約説は、経

営罰権限を契約に基づいて使用者に付与されるところの違約罰の決定権限として把握し、債務法上の概念によってそれに対する規律を試みている。自主法規説を批判し独自の論理を展開する同説の問題意識は、自主法規説の特徴を探るた

めにも、またわが国における懲戒処分法理の基礎的研究としても、意義を持つものと思われる。

  (二三七)

(13)

ドイツにおける経営罰の意義と構造(一)懲戒処分法理の比較法的研究二三八同志社法学 六一巻一号

  一方で、ドイツにおける経営罰法理は、典型的な形態として上記の戒告・譴責・制裁金を数えるのみであり、わが国

と比べても相当に限定的である。また、経営罰権限を事業所パートナーの権限と捉える自主法規説に端的に現れているように、ドイツの経営罰法理は一定の事項について事業所委員会の共同決定を要求する労使協議制とも密接な関わりを

持っている。そこで、ドイツ法の検討に当たっては、わが国とドイツとの間にあるこれらの実際的・制度的背景の違いにも配慮しつつ、わが国の懲戒処分法理への示唆となりうる議論や視角の探究を試みたい。

  以上のような問題意識に基づき、本稿では経営罰の法的性質(第一章)、要件・効果(第二章)、形態(第三章)について、ドイツにおける経営罰法理の紹介と分析を進めていく。その際は、自主法規説に依拠する判例が構築してきた経

営罰法理を軸としながら、それに理論的基礎を提供した学説上の議論との関係や、自主法規説を批判する契約説の議論にも目を向けることで、ドイツにおける経営罰法理の特徴を描き出すとともに、日本法への示唆を得ることを目的とし

たい(第四章)。

第一章  経営罰の法的性質 第一節  問題の所在   労働者の義務違反に直面した使用者が採りうる法的対処として、ドイツ法は次のような措置を用意している。まず、 労働契約において認められる警告権(

R üg er ec ht s

)の行使により当該義務違反を非難することができ、配転あるいは解雇により人事上の対処を行うことも、それが配転あるいは解雇に向けられた法律上の要件を充足している限りで可能で

ある

違開は損害賠償請求の途がかめれているし、あらかじめにたよるた、当該義務違反にっ。て生じた損害を回復すま 39

  (二三八)

(14)

ドイツにおける経営罰の意義と構造(一)懲戒処分法理の比較法的研究二三九同志社法学 六一巻一号 約罰(

V er tr ag ss tr afe

)を約定しておくことも可能である。これらと並んで、ドイツでは、戒告・譴責あるいは制裁金といった措置が実務上行われ、判例および学説の多数はこれを経営罰なる概念によって把握することで法律上独立の位 置付けを与えている

40

  このような多様な法的対処の中にあって、経営罰は事業秩序の保持に向けられた法的措置であるという点で独自の意 義を有している。より具体的には、経営罰は次のような目的あるいは機能を持つものとされている

経る設備の破損に対して賦課され経企営罰がその例である。第二に、業、の献企業活動刻護に貢保す欠る、勤遅断無。 。、は罰営経、に一第 41

営罰は、労働者一般の保護にも貢献する。ある労働者による事業所秩序の侵害は、他の労働者の労務遂行に悪影響を及ぼす場合が少なくないためである。勤務中における名誉毀損、暴力、従業員の関係や企業共同体の重大な毀損の禁止へ

の違反に対して課される経営罰がその例である。第三に、経営罰は、事業所秩序を侵害した労働者にも利益をもたらしうる。このような労働者は、その非違行為を理由として解雇される可能性がある。このような場合、経営罰の賦課は、

より軽微な処分として当該労働者の雇用保障に貢献するものとなる。

  このように、経営罰は、それが適正に運用されている限りにおいては、﹁事業所ならびに全従業員の真に正当な利益 に資するもの

対他事者である使用者が方方当事者である労働者に当一あのいう評価が可能でる﹂。一方で、労働関係と 42

して一種の罰則である経営罰を課すことについては、感情的な嫌悪あるいは反発が生じうることは想像に難くない

関、おいて課される経営罰は国係家による裁判権の独占とのに関おのれに止まらず、使用者よび労働者という私人同士 。そ 43

係や、私人間において罰則の賦課を認めることの可否について、重大な法律問題を提起する。また、経営罰が労働者にとって重大な不利益を意味する以上、経営罰の存在自体を肯定的に捉える立場にあっても、その根拠や要件については、

法解釈上、重大な関心が向けられることになる。このように、経営罰は、その許容性に始まり、法規制に至るまで、多

  (二三九)

(15)

ドイツにおける経営罰の意義と構造(一)懲戒処分法理の比較法的研究二四〇同志社法学 六一巻一号

様な法律問題を提起する。以下ではまず、経営罰の法的性質をめぐる議論から検討を開始することとする。

第二節  立法および学説・判例の展開 一  第二次大戦前   ドイツにおいて、経営罰の法的性質および根拠を直接に定めた制定法上の規定は存在しない。そのため、その法的性

質・根拠の探究は、学説および判例により構築される経営罰法理にとっての根本的な課題となる。学説および判例は、経営罰についての解釈に影響を及ぼしうる制定法の状況を反映しながら、議論を蓄積させてきた。そこで以下では、経

営罰に関連する立法の変遷と、その下での学説・判例の展開を簡潔に跡付けることとする

44

  かつての営業法(

G ew er be or dn un g

)(一八九一年改正)は、その一三四b条一項四号において、制裁(

St ra fe

)が定 められる場合には、その種類と程度、金銭についてはその徴収および使途を就業規則(

A rb eit so rd nu ng

)に規定すべき旨を定めていた。営業法にはその他にも制裁に関する規定が置かれ、それは制裁金の規制(金額の上限、使途の限定、

賦課に関する記録)を中心とするものであった。なお、同法には、就業規則の内容は法律に違反しない限り使用者および労働者を拘束する旨の規定も置かれていた。営業法の規制を受ける制裁、特に制裁金の法的性質について、同法の立

法者はこれを違約金(

V er tr ag st ra fe

)と解していた。学説の中にも、同様に解する見解があった。同説は、民法典(BGB)(一九〇〇年制定)に違約罰(

V er tr ag st ra fe

)に関する規定が置かれて以降、制裁金を同法に言う違約罰として 把握することとなる。一方で、この時期には、制裁金を秩序罰(

O rd nu ng ss tr afe

)として構成する学説も存在した。   ワイマール・ドイツ期に至ると、事業所委員会法(

B et rie bs rä te ge se tz

)(一九二〇年制定)の中に、営業法に定める

制裁の決定が使用者によって事業所委員会または職員協議会と共同でなされる旨が規定された。そのような法状況の

  (二四〇)

(16)

ドイツにおける経営罰の意義と構造(一)懲戒処分法理の比較法的研究二四一同志社法学 六一巻一号 下、就業規則上の制裁については、これを違約罰として捉える契約説が通説の地位を占めるに至り、判例もこれを違約罰と解していた。これに対し、就業規則上の制裁が一般の違約罰に対して有する特質(目的や執行の違い)を強調し、

これを秩序罰として構成する見解も存在した。

  以上に対し、ナチス・ドイツ期に至ると、国民労働秩序法(

G es et z zu r O rd nu ng d er n at io na le n A rb eit

)(一九三四 年制定)は、事業所委員会法および営業法に置かれていた就業規則および制裁に関する規定を廃止した。一方で、国民労働秩序法は、制裁(

B uß e

)が定められる場合には、その種類、金額および徴収に関する定めを事業所規則

B et rie bs or dn un g

)に規定すべき旨を定め、また、制裁の賦課についての一定の規制を行っていた。また、同法は、労働関係を経営共同体として捉えるものであり、そのような理解は経営罰法理にも影響を及ぼすこととなった。すなわち、

この時期における通説は、このような経営共同体思想に依拠し、経営罰を経営共同体の自治的な罰則権限によって基礎付けることとなったのである。

二  第二次大戦後   第二次大戦後、国民労働秩序法は廃止され(一九四六年)、西ドイツは経営罰に関する法律上の規定を欠くこととな った。なお、州法の中には経営罰に関する規定を採用するものもあったが、それらの規定も旧事業所組織法(

B et rie bs ve rfa ss un gs ge se tz v om 19 52

)(一九五二年制定)によって効力を失うこととなった。ここで、旧事業所組織法

は、経営罰に直接に言及する規定を含むものではないが、その後の経営罰法理の展開に際してしばしば参照されることとなる規定を含んでいた。すなわち、同法五六条一項は、事業所委員会が一定の事項について共同決定を義務付けられ

る旨を規定し、そのf号において、共同決定事項の一つとして、﹁事業所秩序および事業所における労働者の行動に関

  (二四一)

(17)

ドイツにおける経営罰の意義と構造(一)懲戒処分法理の比較法的研究二四二同志社法学 六一巻一号

する問題﹂(

F ra ge n de r O rd nu ng d es B et rie bs u nd d es V er ha lte ns d er A rb eit ne hm er im B et rie b

)を挙げていた。現行 の事業所組織法(

B et rie bs ve rfa ss un gs ge se tz

)(一九七二年改正)も、同様の規定をその八七条一項一号に置いている。旧事業所組織法の制定以降、経営罰に係る問題は当該規定に関連付けて論じられることとなったのである。

  このような法状況の下、通説は、経営罰を自治的な罰則権限によって根拠付けるという理解を維持している。そのような見解の中には、上記の罰則権限を、労働者の経営共同体への帰属と、それに伴う事業所秩序への労働者の不可避的

な服従によって基礎付けるというように、国民労働秩序法の下における経営罰法理の影響が色濃く見受けられるものもある。しかし、通説および判例は、自治的な罰則権限の基礎付けに関して新たな論理を構築するようになる(自主法規

説)。これに対しては、そのような通説・判例を批判し、経営罰を違約罰として構成すべきとの主張を展開する学説も生じている(契約説)。以下では、制定法に関して現在と同様の法状況が生じるに至った旧事業所組織法の制定以降の

時期を対象に、学説・判例の検討を進めていく。

第三節  自主法規説一  概  要   労働者に対する罰則権限の法的性質に関し、判例・通説は自主法規説(

Sa tz un gs th eo rie

)と呼ばれる見解に立っている

e ein G sc m no to au ha ft em B d an rb ve bs rie et

体)団としての(業所事)所(説はまず、①事業を。、自治的な共同体同 45

として承認する。続いて、②そのような事業所団体が、そこに付与された法制定権能(

R ec ht ss et zu ng sm ac ht

)あるいは固有の法制定権能に基づいて、自主法規(

Sa tz un gs re ch t

)を制定しうるとの理解を導く。そして、③そのような法

制定権能の発現形態の一つとして事業所団体の罰則権限を導き、当該権限によって課される制裁として経営罰を捉える

  (二四二)

(18)

ドイツにおける経営罰の意義と構造(一)懲戒処分法理の比較法的研究二四三同志社法学 六一巻一号 のである。以上が、経営罰権限の法的性質および根拠についての、自主法規説の理解である。   罰則権限についての上記の理解を基礎とする場合、経営罰は自主法規罰として捉えられる。④その対象は、集団的 な事業所秩序の侵害であると解され、⑤その賦課には、制裁的性格が見出されることになる

。いるあで解理の説規法主自のてつに質性 的法の罰営経、が上以。 46

  以下では、経営罰権限の法的性質・根拠および経営罰の法的性質に関する自主法規説の見解を、学説および判例に沿って敷衍していく。

二  経営罰権限の法的性質・根拠

⑴  学  説   経営罰権限の法的性質および根拠については、学説において盛んに議論が展開され、通説としての自主法規説が形成 されている。ここでは、その中の代表的見解のうち、特徴的な理論構成を行う

M ey er -C or din g

および

N eu m an n

の見解を紹介し、⑵⒞において、連邦労働裁判所(

B un de sa rb eit sg er ic ht

︹BAG︺)の判例との比較を交えながら検討を行う。

⒜ 

M ey er -C or din g

の見解   社団や事業所といった団体が有する権能という観点から経営罰権限の法的性質および根拠を探究するのが

M ey er - C or din g

である。その概要は以下のとおりである。   まず、

M ey er -C or din g

は、事業所による法創造について次のように述べる

に伝者用使、はに的統、は念観の所業事。 47

帰属する財産価値の複合体として契約的に把握される。しかし、このような事業所の観念は社会学的な実態と一致して

  (二四三)

(19)

ドイツにおける経営罰の意義と構造(一)懲戒処分法理の比較法的研究二四四同志社法学 六一巻一号

おらず、むしろ、それは社会的な制度として把握されるべきである。そして、そこでは、使用者と事業所委員会が、法

律上の規制に従った協働を経て、法を創造するのである。

  続いて、

M ey er -C or din g

は、経営罰の法的根拠について次のように論じる

っ的よに所業事を拠根法のそ、は罰営経。 48

て創造された人的な法(

P er so ne n- R ec ht

)に求めるものである。一方で、経営罰を契約法の枠内で構成しようとする試み、たとえば制裁金を違約罰と解する見解は適切でない。違約罰は、債権契約の実現を担保し、債権者に損害の立証を

免除し、そして、場合によっては債権者に非財産的損害の補償を行うものである。それに対し、制裁金は、補償目的ではなく、処罰目的で賦課される。さらに、制裁金が違約罰であると解する以上は個別の労働契約においてそれが規定さ

れなければならないが、経営罰としての制裁金は規範的な事業所規則の要素として定められている。

  さらに、

M ey er -C or din g

は、事業所による法創造と経営罰との関係について、次のように指摘する

。集団によって一 49

次的に創造された拘束力を伴う行動規範は、あらゆる法がそうであるように、当該規範への抵抗に対してその貫徹のために必要とされるところの二次的な法的強制なしには存在しえない。そのような強制の手段として、特に罰則が必要と

される。それゆえ、ここでは、罰則に対していかなる態度を採るのかということよりも、集団による法制定に対していなかる態度を採るのかということが中心的な問題となるのである。

  このような

M ey er -C or din g

の主張は、次のような基本的な認識に基づくものである

問追場合によっては短期間に限って求でのがみの員成構数す少のろことる、同け体わ共はなく、具で的固有の目的をな がらゆる集団で法を創造きる。あ 50

題となる場合には、

たとえば、市民法上の組合・合名会社・合資会社のように

その当該構成員が同権的にその利益をコンセンサスの下で調整する契約的な構造が適している。しかし、集団の知的な結束が強固かつ永続的であれば

あるほど、そして協働に際して追求される目的が重要であればあるほど、むしろ、構成員の共同の思考・感性および意

  (二四四)

(20)

ドイツにおける経営罰の意義と構造(一)懲戒処分法理の比較法的研究二四五同志社法学 六一巻一号 思が、共同の傾向・見解および意思傾向に統合され、それは最終的には連帯精神としての社会的組織を形成する。その影響の下で、集団の構成員の法感情および法意識が、構成員の当初の純然たる事実上の行為規範を、規範的な規制に発

展させる。それゆえ、このような共同精神は、国家における﹁国民意識﹂としてのみならず、団体および事業所における集団意識としても、法を創造する。団体または組織がその社会規則の要素としてこのような法的な行動規則を不可欠

のものと考える場合、同時に、それは、集団法のために制裁の適用の下で服従を獲得する機関を、集団の目的の追求のために生み出している。それゆえ、罰則の出現は、団体法およびそれに付随する機関が創造されることについての単な

る副次的な兆候である。

⒝ 

N eu m an n

の見解   これに対し、労働契約や社会的自治といった労働法上の概念を基礎に経営罰についての基礎的な理解の構築を試みる のが

N eu m an n

である。その概要は以下のとおりである。  

N eu m an n

も、自主法規説の意義については経営罰を社団における団体罰に類似するものとして把握する見解と捉え、 次のように述べている

が款ものではなく、定に持よってその罰則規定つを構限団が当然にその成。員に対する罰則権社 51

根拠付けられうるのと同様、使用者は固有の罰則権限を有するものではなく、﹁規則に従って﹂のみ罰則権限の委任(

Ü be rtr ag un g

)を受けることができる。罰則権は使用者の支配権から生じるものでも、使用者または事業所の優越関係 から生じるものでもないため、特別の罰則権能が創設されることによってのみその根拠付けが可能となるのである。さらに、労働契約の締結や労務指揮権(

D ire kt io ns re ch t

)の行使によっても罰則権限が生じることはなく、それは労働契

約の枠外において根拠付けられなければならない。

  (二四五)

(21)

ドイツにおける経営罰の意義と構造(一)懲戒処分法理の比較法的研究二四六同志社法学 六一巻一号

  このような一般的な自主法規説の理解に続き、

N eu m an n

は、労働契約上の概念を用いながら自説を展開していく

52

すなわち、罰則権限なるものは労働契約当事者の対等性に反するものであるところ、契約に基づいて﹁罰則条項﹂(

St ra fs at zu ng

)を定めることはできない。それゆえ、いわゆる自主法規説の論理を一貫させるならば、罰則規定と罰則 権は、労働関係に内在するものとして把握されるものではない。経営罰は、社会的自治(

So zia la ut on om ie

)の枠内で、事業所協定によって定められるものなのである。

⒞  両者の主張と自主法規説の特徴  

M ey er -C or din g

は、社会的実体としての事業所の在り方から、そこに法創造の権能を認め、さらにそこから派生する罰則権限を導く。これに対し、

N eu m an n

は、労働関係に関する理解を基礎に、労働契約当事者の対等性との矛盾を回

避しつつ、社会的自治に基づく罰則権限の創設を認める。このように問題意識あるいは理論構成に違いはあるものの、労働者に対する罰則権限を、事業所パートナーに経営罰の賦課に関する自主法規範(事業所協定)を制定(締結)する

権限を認めることによって根拠付けるという点に、自主法規説の特徴を指摘することができる。

⑵  判  例

連邦労働裁判所一九六七年九月一二日判決

53

  経営罰の法的性質および根拠についての判例の立場を理解するために有用なのが、連邦労働裁判所一九六七年九月一

二日判決である。同判決は、事業所協定による経営罰の規律の許容性についてBAGが初めて判断を行った事案として意義を有するものである。そこでは、経営罰の根拠について詳細な検討がなされるとともに、経営罰の性質についても

BAGの理解が明らかにされている。

  (二四六)

(22)

ドイツにおける経営罰の意義と構造(一)懲戒処分法理の比較法的研究二四七同志社法学 六一巻一号 ⒜  事  実   被告の就業規則(事業所協定)一〇条(就業規則への違反)には、以下の文面が置かれている。

。約あるいは雇用関係の解を関もって、罰せられうる係

1

意司会員委所業事、りよに上同、は反違のへ則規業就の働を.得て、戒告、文書によ譴労責、制裁金、または、る

。日るうれらめ認でま額全の額

2

日酬裁金は、労働報酬のの報、働労の準標、は金裁制制は額なの半額を超えてはならいて。特に重.な事案におい大

。﹂控払いまたは給与支払いの際に除金され、社会基金に提供される支

3

文る、は課賦の罰銭金はいあ事告通の責譴はたま告戒当者書制によって通知され.。裁に金は、直近の賃に時即、る   原告は、一〇年来、トレーラーおよびクレーンの運転手として雇用されてきた。一九六三年六月に、彼は、無届の外出、度重なる欠勤、および、遅延した労働の開始を理由に、戒告を受けた。一九六四年六月には、原告に対して、被告

において招集された規律委員会の聴聞会を経て、事業所委員会の同意を得て、交替制勤務手当の額に相当する制裁金が課された後に、被告は、原告に、三五・三六DMの交替制勤務手当の支払いを中止した。一九六四年七月に、原告は、

被告を退社した。

  原告は、未払いの交替制勤務手当の支払いを求めている。訴えは棄却され、控訴は退けられている。原告による上告は、原判決の破棄を求めている。

⒝  判  旨(破棄差戻)

一⑴﹁事業所における経営罰規程の制定についての法的根拠は、︹旧︺事業所組織法五六条一項f号の定めである。こ

  (二四七)

(23)

ドイツにおける経営罰の意義と構造(一)懲戒処分法理の比較法的研究二四八同志社法学 六一巻一号

の規定は、法律上または協約上の規制が存在しない限りで、事業所委員会に、事業所秩序および事業所における労働者

の行動の問題についての共同決定権を認めている。それは、思想的に、事業所において事業所秩序および労働者の行動に関する規定が制定されうるということを前提としている。そのことの意義は、当該規定が原則として使用者によって

一方的には導入されえないというところにある。それはむしろ、関与、より詳しくは事業所委員会の共同決定の下での集団的な規制を必要とするのである。﹂

⑵﹁一般に事業所秩序および労働者の行動に関する規定が制定されうる場合、︹旧︺事業所組織法五六条一項f号およびそこから読み取れる同項の意義の広範な規制から、制定された規定に対する違反の場合についての規制も可能であ

り、すなわち、特に罰則(

B uß e

)に関する規制も可能であるということが導かれる。というのは、経営罰制度の目的は、罰則の賦課の助けによって事業所秩序を保持することに求められるからである。このことは、経営罰規程それ自体の制

定についてのみならず、個々の事案における当該規程に基づく罰則の賦課についても妥当する。常に、事業所秩序および事業所における労働者の行動の問題が、関わるのである。﹂

二⑴﹁経営罰が事業所レベルでの集団的協定(就業規則)によって有効に定められうるという解釈は、歴史的な展開によって正当化される。営業法(

G ew er be or dn un g

)⋮⋮も、一九二〇年事業所委員会法(

B et rie bs rä te ge se tz v on 19 20

⋮⋮も、経営罰制度を就業規則の領域に含めており、そこでは、さらに、経営罰制度を社会的事項に含めていた。同様のことが、就業規則法(

A rb eit so rd nu ng sg es et z

)⋮⋮および一九四五年における廃止から事業所組織法の施行までの間 について事業所組織に関する法規制を行っていた州事業所委員会法(

B et rie bs rä te ge se tz en d er L än de r

)によっても当てはまる。それが、たとえば一九四九年一月一〇日のブレーメン事業所委員会法⋮⋮および一九五〇年一〇月二五日の

バイエルン事業所委員会法⋮⋮のように経営罰についての規定を含んでいる限りで、それらの法律は経営罰制度を社会

  (二四八)

(24)

ドイツにおける経営罰の意義と構造(一)懲戒処分法理の比較法的研究二四九同志社法学 六一巻一号 的領域に分類していた。﹂⑵﹁経営罰規程を制定することの許容性についてかつて重大な疑念が抱かれていたということは、事業所組織法に経営

罰についての明確な規定が置かれていなかったということを持ち出すまでもなく、想定することができる。政府草案は、具体的には社会的領域についての規定⋮⋮の中に、そのような規定を置いていた。もっとも、それは、委員会審議の間

に削除された。しかし、そのような削除の事実から⋮⋮立法者が経営罰を廃止する意図であったという帰結を導くことは、誤りである。逆のことが、労働政策および経済政策に関する連邦議会委員会のワーキンググループの第一一回会議

についての議事録から導かれる。それによれば、委員会の委員長は、経営罰の賦課についての可能性は、場合によっては即時解雇のようなより厳しい措置の適用を妨げうるのだと指摘しているし、ワーキンググループは、全会一致で、上

記の規定の削除によって、事業所協定により経営罰の問題を規制する可能性を排除するものではないという解釈を支持している。﹂

三﹁経営罰については、事業所共同体(

B et rie bs ve rb an d

)の領域における、事業所パートナーの自治権の集積が問題となる。言い換えれば、事業所パートナーが独自の、その利益に関わる重要事項として配慮する権限を与えられている

ところの共同体の内部的な秩序の維持と保全が問題なのである。﹂

  本件における具体的判断については、第二章第一節二⑵を参照。

⒞  検  討ア  本件は、事業所協定によって経営罰の規律を行うことの許容性について、BAGが初めてその立場を明らかにした 判例として意義を有するものである

五て論的解釈によっ、目旧事業所組織法的、理は旨の要点を整す。るに、判旨一判 54

  (二四九)

(25)

ドイツにおける経営罰の意義と構造(一)懲戒処分法理の比較法的研究二五〇同志社法学 六一巻一号

六条一項f号に事業所パートナーの経営罰権限の法的根拠としての意義を見出すものである。そこでは、二つの重要な

解釈が行われている。まず、判旨一⑴は、事業所委員会の共同決定権の対象を定める同号に、その不可欠の前提として、事業所パートナーによる規則の制定を許容する趣旨を読み込んでいる。一方で、規則制定権から当然に罰則権限が導か

れるわけではない。この点について論じるのが判旨一⑵であり、事業所パートナーの規則制定権の一内容として、罰則の規制権限を導くための論理を展開している。判旨は、罰則の担保によって事業所秩序を保持するという経営罰制度の

目的を指摘するとともに、これが旧事業所組織法五六条一項f号の意義に適った措置である旨を指摘することで、罰則の規制権限、すなわち経営罰規程を制定する権限とそれに基づいて経営罰を賦課する権限が同項の射程に収まるという

論証を行っている。

  これに対し、判旨二は、歴史的解釈によって経営罰の規制手段を明らかにするものである。まず、判旨二⑴は、経営

罰が集団的協定によって規定されることを前提に編成されていた従来の立法に言及することで、判旨一において基礎付けられた罰則の規制権限が集団的協定によって実現されるべきことを指摘する。続いて、判旨二⑵は、旧事業所組織法

の制定過程において経営罰に関する規定が削除されたことに関し、その審議経過から、事業所協定による経営罰の規制を排除する意図があったわけではないことを確認している。

  判旨三では、経営罰権限の法的性質を自主法規説によって把握するBAGの立場が明らかにされている。すなわち、BAGは、経営罰権限の帰属主体を﹁事業所共同体の領域における事業所パートナー﹂と解し、その﹁自治権の集積﹂

として経営罰権限を捉えるものである。ただし、ここでの判示は、経営罰の合憲性を検討するに当たって刑罰と経営罰との相違を指摘する文脈において述べられたものであり、経営罰の法的性質を独立に論じたものではないという点には

注意を要する。

  (二五〇)

(26)

ドイツにおける経営罰の意義と構造(一)懲戒処分法理の比較法的研究二五一同志社法学 六一巻一号 イ  以上のように、BAGは、旧事業所組織法五六条一項f号の解釈により、同号から直接に事業所パートナーの経営罰権限を導き出している。一方、BAGが自主法規説に依拠していることを端的に示す判旨三は、上記のとおり経営罰

と刑罰とを峻別する際の理由として位置付けられており、そこに言う﹁事業所パートナーの自治権﹂が独立に経営罰権限を根拠付けうるものであるとは述べられていない。このように、経営罰権限の法的性質・根拠に関するBAGの理解

の特徴は、その根拠に関する議論と法的性質に関する議論とを分離し、前者に関してもっぱら旧事業所組織法五六条一項f号を援用する一方で、後者に関して自主法規罰としての理解に依拠するという点に見出される。その結果、経営罰

の法的性質やその要件・効果に関するBAGの経営罰法理は、自主法規罰としての経営罰の性格によって規定されると同時に、その根拠である旧事業所組織法五六条一項f号の規定内容からも内在的に規律されることになるのである。

  これに対し、

の論るれらじ論に個別が質で性的法と論拠根はでこのは。とそ理論るす解理てし罰な規法主自を罰営経、くそるいけて

紹似業事るあで団集の類介団所、は説学たし社でに、付拠根を限権罰営経て帰っよに限権則罰るす属

ものが、事業所パートナーの経営罰権限を根拠付けるものとされている。学説の中には自主法規説の制定法上の根拠として旧事業所組織法五六条一項f号を援用するものもあるが(本節五参照)、それは同号を独立に経営罰権限の法的根

拠と位置付けるのではなく、むしろ自治的な罰則権限によって経営罰権限を根拠付けるという上記の主張を支持する制

定法上の規定として同号を引用しているに過ぎない。そして、このような理解を前提として経営罰の法的性質(対象や性格)を探究する場合には、経営罰法理はもっぱら自主法規罰としての経営罰の理解に規律されることになるはずであ

り、旧事業所組織法五六条一項f号等の事業所組織法上の規定は、たとえば経営罰の賦課が同号の要求する共同決定の対象に含まれるとの解釈を採る限りにおいて、経営罰の賦課を外在的に規制するに止まるのである。

ウ  経営罰の法的性質・根拠の構成についての判例と学説の違いは、第一に経営罰の決定機関に関して現れる。すなわ

  (二五一)

(27)

ドイツにおける経営罰の意義と構造(一)懲戒処分法理の比較法的研究二五二同志社法学 六一巻一号

ち、BAGは、﹁罰則に関する規制﹂も事業所パートナーの共同の規制権限の中にあり、そこには﹁経営罰規程それ自

体の制定についてのみならず、個々の事案における当該規定に基づく罰則の賦課﹂も含まれるものであると述べて、経営罰の決定に関しても事業所パートナーの共同決定権を認めている。経営罰の賦課を事業所秩序の保持に向けられた措

置を捉えた上で、経営罰権限の根拠を事業所委員会の共同決定権を保障する旧事業所組織法五六条一項f号に求めるというBAGの立場によれば、経営罰規程の制定のみならず、個々の事案における経営罰の決定についても、その主体と

して事業所パートナーが想定されることになるのである。

  これに対し、学説の中には、経営罰規程の制定権限が事業所パートナーに帰属することを前提として、経営罰の決定

機関については、経営罰規程において事業所パートナーが指定するものであると述べる見解がある。すなわち、

N eu m an n

は、使用者・独立の第三者・事業所裁判所・事業所委員会といった機関への委任の可能性を指摘してい

55

56

これらの機関による決定が、さらに事業所委員会の共同決定に服するかどうかは、経営罰の決定が﹁事業所秩序および事業所における労働者の行動に関わる問題﹂に含まれるか否かという旧事業所組織法五六条一項f号の解釈問題につい

て、肯定・否定のいずれの立場を支持するかによって決まることとなる。

  この他、経営罰の法的性質・根拠に関するBAGと学説の違い、特にBAGの論理の特徴が端的に反映される問題と して、経営罰の対象が挙げられる。この点については、本節三⑴において詳しく検討する。エ  なお、以上のBAGの見解は、現行の事業所組織法の下でも維持されている。すなわち、連邦労働裁判所一九七五

年一二月五日判決

に本で上たし用引を決判、とていつに釈解のとるれ、﹁り含の罰営経、︹が者法立︺法わ織組所業事の行現︹けまに号一 に賦の罰営経くづ基にそれと定制の程規罰営経課つは所項一条七八法織組業い事が権定決同共のて、 57

関する共同決定権についての︺このような判決を知った上で、一九七二年事業所組織法の中に八七条一項一号をもって

  (二五二)

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