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ジョブコーチ型就労支援に関する研究動向とその課 題 : 日米の研究動向の比較から

著者 山村 りつ

雑誌名 評論・社会科学

号 91

ページ 75‑106

発行年 2010‑03‑15

権利 同志社大学社会学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000012234

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ジョブコーチ型就労支援に関する 研究動向とその課題

──日米の研究動向の比較から──

山 村 り つ

同志社大学大学院社会学研究科・博士後期課程

は じ め に

現在,我が国の障害者福祉では就労支援が大きな注目を浴びている。これ は,「障害者自立支援法(以下,自立支援法)」の施行や「障害者の雇用の促進 等に関する法律(以下,雇用促進法)」の改正など,いくつかの政策導入を一 つのきっかけとするところが大きいが,同時にそのような単なるサービス供給 側の働きかけだけでなく,消費側である当事者たちのこれまで抑えられてきた

「働きたい」というニーズが,実践の活性化との相互作用の中で就労支援を障 害者支援のメインストリームへと押し上げている。

障害者の就労支援に関する様々な取り組みが各地で展開されている状況にあ って,精神障害のほか,知的障害・発達障害など,特に認知機能やコミュニケ ーション能力に課題のある人々への有効な就労支援方法として注目されている のが,「ジョブコーチ型支援」である(小川2008)。

1)ジョブコーチと「ジョブコーチ型支援」

現在障害者の就労支援では,多種多様な取り組みが国内のみならず世界中で なされており,その分類についてもさまざまあるが,ここで挙げる「ジョブコ

────────────

2009年10月15日受付,査読審査を経て2010年1月20日掲載決定

―75 ―

(3)

ーチ型支援」は,支援の提供において,特に「実際の職場環境内において提供 されること」を特徴とした支援を指している。

このような職場内で行われる支援は,特定のタイプの障害をもつ対象者にと って有効とされ(小川2008),筆者が2008年に行った精神障害者の就労継続 のための必要な支援に関するインタビュー調査でも,精神障害をもつ人々にと って実際に働く現場において提供される支援の必要性が導き出されている。そ してこれらの障害をもつ人々は,従来の就労支援方法では解決されない特別な ニーズをもった人々でもあり,彼らへの就労支援は障害者雇用支援施策の大き な課題でもあった。

そのため政策の上でも,1992〜2002年まで実施された職域開発援助事業を 手始めに,2002年から実施された「職場適用援助者(ジョブコーチ)支援事 業(以下,ジョブコーチ事業)」を代表として展開されており,障害者雇用支 援の方法の重点は,施設等での訓練後に就労へと移行する「train-place」か ら,まず通常の就労環境に身をおいた上で訓練を含む支援を提供する「place-

train」へと移りつつある。このことは,ジョブコーチ事業に充てられる障害者

雇用対策予算の状況などからみてもみてとれる(倉知2007)。

これまでの研究等でその有効性が示された職場内で提供される障害者の就労 支援方法について,わが国では単に「ジョブコーチ」とする用語の使用が一般 的となっている。これは,アメリカから世界に広まった「援助付き雇用(Sup-

ported Employment:以下,SE)」において実際の支援を行うスタッフの職種を

示すものであり,このSEが新たな手法として紹介されたり,それを参考とし てわが国でジョブコーチ事業が実施されたりする中で,一般に広まったもので ある。

その結果現在のわが国では,「ジョブコーチ」という用語は,狭義には法制 度としてのジョブコーチ事業およびその支援員である職場適用援助者(ジョブ コーチ)を示すものであり,広義にはジョブコーチ事業のように職場内で支援 を行うタイプの支援方法やその支援者全般を指すものとなっている。

本研究で着目する支援方法は,職場内での支援に加え,単に「職場内で」と

―76 ―

(4)

いうだけではないいくつかの重要な要素(上司や同僚との橋渡し役,雇用側へ の助言や指導,ナチュラル・サポートの形成(1)など)を含んだものして位置づ けており,モデルとしてはジョブコーチ事業で提供されているものとほぼ同等 のモデルをイメージしている。しかし,「ジョブコーチ事業」は厳密には法制 度上の「職場適用援助者(ジョブコーチ)支援事業」を示すものであるのに対 し,実践ではこの事業が適応されないところでも同様の支援が提供されてい る。また,有効な支援モデルとしてのジョブコーチにおいて,この公的な「事 業」である必要性は明示されていない。

そこで本稿では,法制度に規定される「職場適用援助者(ジョブコーチ)支 援事業」と有効な支援モデルとして示される職場内で提供されるタイプの支援 一般を指す場合を区別するために,前者については「ジョブコーチ事業」およ びその支援実施者を「ジョブコーチ」という語句で表し,後者については「ジ ョブコーチ型支援」という語句の用いるものとする。

2)「ジョブコーチ型支援」の現状

ジョブコーチ型支援を提供しうるわが国の現行制度として,現在,雇用促進 法に基づくジョブコーチ事業のほか自立支援法に基づく「就労移行支援事業」

がある(2)。またそれ以外にも,NPO団体や民間の取り組みとして同様の支援 を提供するものもあるが,それらについては公的な制度の外側で行われている ものであり,正確な状況を把握するのは難しい。

一方で,ジョブコーチ事業および就労移行支援事業に限った場合でも,実際 の支援の提供は障害者の希望に十分に応えているとは言い難い状況にある。た とえばジョブコーチ事業では,ここ4年間の実績が年間3,000人程度(3)であ る。障害者の全体数から考えれば決して多いとはいえない上,特に精神障害者 は平成20年度の実績でこのうち19.8%(609人)にとどまっており(厚生労

働省2009),これは様々な調査(田川2008;長谷川2006;浜銀総合研究所

2009)で示される就労希望する精神障害者の状況(4)から考えれば非常に少ない

といえる。あるいは就労移行支援事業でも,数の上での実績は事業所数も1,199

―77 ―

(5)

カ所(2008年6月末年現在)と増加しているものの,そのうち実際に就労に つながった利用者のあった事業所は5割弱とする報告もあり(障害者の一般就 労を支える人材の育成のあり方に関する研究会2009),こちらはジョブコーチ 事業に比べ,提供される支援の質の点で課題があることが伺える。

このように,わが国におけるジョブコーチ型支援のための実践活動は,その 提供するサービスの量および質の点において課題を抱えているといえるが,そ れに対して,その解決の糸口を得るものとして重要な役割を担っているのが研 究分野における取り組みである。量の拡大において不可欠な行政による後押し を得るために必要な実証された効果や,また質の維持のために必要な維持すべ きモデル枠組みを提示していくためには,実践によって得られた結果を整理・

分析していく研究が求められる。

そこで本研究では,わが国の研究の状況を確認するため,これまでに発表さ れたジョブコーチ型支援に関する文献について内容・手法・対象等のいくつか の視点から整理・分析を行った。加えてSEを世界に先駆けて制度化し,また 現在まで実践における拡大と発展を続けるアメリカの研究動向との比較によっ て,今後のわが国におけるジョブコーチ型支援の普及と発展のために,社会福 祉における研究領域に求められる課題と今後の方向性について考察をおこな う。

1.調査方法

1)対象となる文献の抽出

これまでに発表された文献の抽出については,国内文献についてはGeNii(5)

およびMAGAZINE PLUS,国外文献についてはEBSCOで利用可能な全検索

サイトを対象としたデータベース検索を用いて検索を行った。

①検索用語の選定

前述の通り,わが国において実際の職場環境において行われる就労支援は

「ジョブコーチ」という言葉を用いて表されることが多い。そこで文献検索に

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おいては,「職場内支援」とともに「ジョブコーチ」を用いることとした。ま た,わが国のジョブコーチ事業のモデルとなったアメリカのSupported Employ- mentの訳語として用いられている「援助付き雇用」,さらにSEの一形態とし てアメリカで開発された,近年日本においても注目されている「IPS(6)」,実際 に仕事をしながら訓練を受けるという点から「On-the-job Training」を加え,

対象を限定するために「就労支援」「障害者」という用語と組み合わせて検索 を行った。

アメリカの文献については,前述の「Supported Employment」に加え「Individu- al Placement and support」(7)「On-the-job Training」「support in working place」

「place-train- model」に「disabilities(disability)」「mental ill」「disorder」を組み 合わせて検索を行った。

なお,文献がどの国の文献であるかの判断は,i)出版国およびii)記述内 容によって行った。すなわち,まず得られた結果の中から,出版国が日米以外 の文献については除外した。また,日本・アメリカ双方の検索の結果とも,そ れぞれ自国以外での実践や調査研究を記述した論文が多数見られた。これらに ついては,海外の調査や事例を取り扱った上で,自国の実践や制度について考 察や示唆を提供しているものについては採用し,自国についての記述が見られ ないものについては除外した。

そのほか,年代等の限定は行わずに検索を行った結果,国内については159 件,国外では264件の文献が抽出された。

②文献の精査

GeNiiによる国内文献の検索の結果には,学術雑誌およびその他の雑誌に掲

載された論文のほか,研究紀要,学位論文,研究報告書(科研費および民間助 成など)等が含まれていた。このうち,学位論文については地理的その他の制 約のために入手困難なものが一部含まれていたため,また同時に抽出された全 件について,学位論文の内容をベースとした論文が学術雑誌論文あるいは研究 紀要に掲載されていることが確認されたため除外した。

また研究報告書については,学位論文以上に同様に入手困難なものが多数に

―79 ―

(7)

及んだため,今回の調査では参考資料としてそのタイトルと要旨のリストを参 照するにとどめ,アメリカとの比較分析においては対象外とした。その結果,

今回の調査の対象は,雑誌および紀要等に掲載された論文その他の文書となっ た。

さらに,学術論文に限定するために,①学会もしくは高等教育機関・研究機 関が発行する学術誌に掲載されたもの(学術雑誌論文および研究紀要),②職 能団体および関係する協会・団体が発行する雑誌の投稿論文,③そのほか個別 に内容から学術論文と判断されるものの3点から選別を行った。なお,アメリ カの文献については検索の段階で学術誌に限定した検索が可能であったため,

特にこの作業は行わなかった。

さらに,内容からジョブコーチ型支援やSEに関する研究が主題でないもの など,明らかに本研究の先行研究としては妥当でないものなどを除外した。

なお,対象とする障害種別については,今回は限定を行わなかった。その理 由として,当初は筆者の研究の主要な対象である精神障害者に関する論文に限 定することを予定していたが,特にアメリカの場合について,古い文献などで はMental Retardation(精神遅滞)とMentally Disorder(精神障害者)を厳密に 分けていないものや,特に発達障害に関連する障害については,日本とは異な る位置づけがされていると思われるものなどがあり,明確な線引きが難しかっ たことがある。その結果,対象を特定の障害種別(主に知的障害,精神障害,

発達障害など)のみとするもの,複数の障害種別を含むもの,特に障害種別を 限定してない「障害者全般」とするものが含まれた。

③得られた文献からの探索

最後に,②までに得られた文献において参考文献として提示されていた文献 のうちから,本研究の対象として該当するものを抽出した。この際の選別方法 としては,タイトルに検索用語と同様の語句を含むものを取り上げ,内容の確 認とともに②と同様の手順で精査を行った。その結果,国内文献85件,国外 文献154件が対象として抽出された。

―80 ―

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実験調査型

実態把握型

文献分析型

活動分析型

実践報告型 情報提供型 概念整理型

分析的論文記述的論文

2)分析:カテゴリー化

抽出の結果得られた文献について,その内容から研究の手法,文献の形態,

対象とする障害の種別および次元や主題等を確認し,整理を行った結果,いく つかの分類項目のうち手法および形態による7つのタイプに分類することがで きた。以下に,図1を参照しながらそれぞれの分類の基準とカテゴリーについ て説明する。

〈分類の基準とカテゴリー〉

まず,すべての得られた文献を,素材となるデータ・情報について分析・整 理を行い,それらの情報や知見を記述する「記述的論文」と,そこに執筆者自 身の見解を加えて考察を行っている「分析的論文」の2つに分類した(図1:

①)。この分類における基準の一つは,文献の中で述べられている論文の「目 的」であり,ここで事例や実践の「紹介」,「情報提供」,制度やシステムの

「概観」といった「情報提供」を主な目的としている場合には「記述的論文」,

それらの情報について「分析」や「考察」,新たな知見や比較対象における

「検討」などを目的としてあげている場合には「分析的論文」とした。そのほ か,本文中に「考察」欄があるか,

用いられたデータ/情報からさらに 一歩発展した執筆者自身の考察や新 たな概念・知見などがみられるかに よって分類を行っている。

次に「分析的論文」のうち,その 研究での分析を目的とした新たなデ ータ収集のための調査を行ったもの と,既に発表されているデータ/情 報を用いたものに分類した(図1:

②)。さらに前者において,調査の 目的に合うよう特定の実験的環境を

用意した上で行われたものや,調査 図1 分類体系とカテゴリー名

―81 ―

(9)

対象となる実践に対して構造化などの操作を加えた上で行われたものを「実験 調査型」,そのような操作を行わず実際の実践状況をそのまま調査対象とした

「実態把握型」に分類した(図1:③)。また後者についても,先行する調査研 究によって元々研究を目的として収集されたデータ/情報を用いているものを

「文献分析型」,実態調査などの政府統計や年次事業報告などの統計データを用 いたものを「活動分析型」とした(図1:④)。ここでは,データ/情報の出 所が「研究」領域であるか「実践」領域であるかという点を一つの基準とし た。

一方の「記述的論文」については,①部分の分類と同様に,文献中に記述さ れた「論文の目的」についての記述を参考に,データ/情報の整理とその提示 を目的としたものと,実践の報告を行う「実践報告型」に分け(図1:⑤),

最後に前者を,主に研究分野における概念および理論構造の整理を行った「概 念整理型」と,一般的な制度やマニュアル化された手法など実践での活用を意 図した「情報提供型」に分類した(図1:⑥)。こちらについては,文献内で 提示された情報が,「研究」領域と「実践」領域のどちらでの活用を意図した ものであるかという点を基準とした。

これらの分類は,すべてのどのような研究においても応用可能なものではも ちろんなく,あくまでも今回の抽出の結果,得られた文献について,その属性 や特徴を整理した結果として導き出されたものである。

以上のカテゴリーおよび年代による整理・分類を抽出された国内・海外の研 究について行い,それらの比較および各カテゴリーの特徴などについて検討を 行った。

2.結果:研究の状況と特徴

1)年代的特徴

文献の発表がされた時期をみると,ジョブコーチ型支援の源流がアメリカの SEにあるように,文献においてもアメリカが先行しており,1970年代後半に

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は最初の文献がみられる(Wehman, Hill & Koehler 1979)。その後1980年代前 半までにもいくつかの文献がみられるが,これらとそれ以降の文献には違いが ある。それは,タイトルおよびキーワードなどに「Supported Employment」と いう用語が,1980年代前半までのものには必ずしも用いられていないという 点である(Wehman et al. 1985 ; Rhodes & Valenta 1985 ; Hill & Wehman 1983 など)。これは,1986年にリハビリテーション法の改正によってSEが就労支 援として規定されたために,それ以降の研究では「Supported Employment」と いう用語が,決まった言い方として用いられるようになったためであると考え られる。

このような用語の違いはあっても,1980年代を通じてSEのモデル構造を 説明的に示したもの(Rusch & Hughes 1988)や,その有効性を論じるもの

(Hirsch, S. W., 1989),あるいは実施における指標(Wehman 1988),旧体制か らの移行の経緯や方法を記述したもの(Parent, Hill & Wehman 1989)など,

実践者がSEを実施するにあたりガイドとなることを一つの目的としたものが 多くみられる。

その後,1990年代には効果測定を目的としたものの割合が増大し,中でも 徐々に,効果的を上げるための付加的な条件(Illness ManagementやSST な ど)下での効果測定や,SEに新たな解釈を加えた改良版モデル(IPS など)

の提示がみられるようになり,よりよい実践を目指して従来のSEを発展させ ようとする姿勢がうかがえる。また,対象者が細分化した研究(たとえば発達 障害(Braddock, Rizzolo & Hemp 2004など),自閉症(Schaller & Yang 2005な ど),退役軍人(Resnick & Rosenheck 2007など)が増加する傾向もみられる が,全体の研究数の増減ではそれほど大きな変化はなく推移している。すなわ ち,SEという大きな枠組みの中での,手法や対象における視点の細分化・焦 点化がみられるようになっている。

また1993年にBackerとDrakeが新たなSEの一モデルとしてIPS モデル を提示して以降,1990年代後半から IPSの効果(Lehman et al. 2002など)や 原理,モデル構造(Drake 1998など)について一定数の研究がみられるよう

―83 ―

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0 5 10 15 20 25 30

1979 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 アメリカ

日本

になっている。そこでは,SE全体にみられたようなモデルの発展や細分化な どの傾向は未だみられない。しかしIPS自体がSEの発展形ともいえるモデル であり,また対象もSEに比べ限定的に捉えられているため,SEの場合にみ られたような変化が必ずしも起きるとはいえないだろう。

一方,わが国にでは1989年に石渡・小川によってアメリカの援助付き雇用 の紹介がされてはいるが,その後,間をおいて同様の紹介を目的とした文献が 数件続くのみで,国内の実践に関連した研究がみられるようになるのは1990 年代,それも後半になってからである。この頃の研究では,現在のように「ジ ョブコーチ」という語句の使用はあまりみられず,SEの日本語訳である「援 助付き雇用」の使用が一般的であり,その点からもアメリカの実践および研究 の影響を強く受けている状態であったといえる。

全体数および「ジョブコーチ」をキーワードとした文献がわが国で増え始め るのは,実際には2000年に入ってからである。特にジョブコーチ事業がスタ ートした2002年には,直接的に「ジョブコーチ」をキーワードとする文献自 体,数は急増している。しかしこの当時に発表された文献の多くは研究として ではなく,実践者に対する情報提供を目的としたものが多く,今回の研究では 対象となる文献を選別する作業の過程でその多くが除外されてしまい,図2に

2 日米の年次別研究論文数

―84 ―

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示されるように,本研究においてその状況は反映されていない。

しかし,実数の上でも本研究の対象となった文献の上でも,2002年よりさ らに急激な増加をみせるのが2006年である。これは,その前年に施行された 自立支援法の影響によるものと考えられる。すなわち,同法により就労支援が 強調されるとともに,就労移行支援事業の創設で職場内での支援が実現したこ とにより,同様に職場内支援を行うジョブコーチやジョブコーチ型支援に対す る関心が高まったと考えられる。さらに2002年のジョブコーチ事業開始時と 比べ,新制度の影響をうける機関・施設の数がNPOや小規模の法人,地域の 活動団体なども含め圧倒的に多く,そのような機関・施設の新たな取り組みに 対する積極的な態度が,2006年の文献数の急増の背景にはあると考えられる。

また全体的な研究の動向として,アメリカにみられたのと同様の変化もみら れる。すなわち最近になって,わが国でも特別支援学級の生徒(宇川ら2008 など)および精神障害者など,対象を限定してその技術面の特性などをテーマ に据えた研究が増加している。またアメリカでみられたIPS に関する研究

も,ACT-Jにおいて始まったIPS に基づく就労支援プログラムの実践報告

(大島・香田2005)から始まるなど,時系列的に概観した研究の動向は,アメ リカの後をほぼ追っているという状況がみられる。

2)研究の手法および形態による特徴

日米の研究を比較した場合の大きな特徴の一つは,アメリカの研究が実証性 を求めた研究が多いのに対し,日本の場合,今回の調査対象となった文献にお いては実践報告や情報提供が中心で,いわゆる調査研究に位置づけられるもの が少ないという点である。

ここで「今回の調査対象」と限定するのは,文献抽出の段階で対象から外さ れた研究報告書,特に科研費による研究において,タイトルや要旨からの推察 する限りでは,調査研究に当たると考えられるものがむしろ中心であったため である。

一方でアメリカでは,学術論文においても調査研究,特に実態把握型が多数

―85 ―

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を占めるが,中でも「効果」の実証やモデル構造の把握および開発を目的とし た も の が 中 心 で , 特 に 効 果 測 定 に つ い て は RCT(Randomized Controlled

Trial:無作為比較試験)によって比較対象群を設けて行った調査研究が実験調

査型および実態把握型の一部を合わせて全体の3割程度となっている。わが国 では,これは今回除外された科研費による研究の中にも,要旨等にRCTによ ることを明記したものはみられず,また該当すると推察されるものもほとんど 見られなかった。そのほかアンケートや数値データによる量的調査やインタビ ュー,参与観察,会計データによる費用対効果の調査(Tines et al. 1990な ど)なども含めると,調査による研究が全体のおよそ7割を占めている。

さらに,Fidelity尺度の開発やそれに関連した研究(Mcgrew & Griss 2005) が一定数みられる点も,アメリカの研究の特徴といえる。これにより,単にSE やIPSというだけでなく,どのような条件を満たした場合に効果が期待でき るのかにまで言及することが可能となっている。

これらの研究手法に関する動向を年代別の傾向と合わせて概観した場合,一 つの傾向がみられる。それは1990年代前半までは記述的論文,中でも概念整 理型の割合が比較的高く,近年になるにつれて分析的論文の特に実態調査型の 割合が高くなるという傾向であり。その後,アメリカの研究動向が現在のよう

1 研究タイプ別一覧

アメリカ 日本

件数 % 件数 %

分析的

実験調査型 16 10% 1 1%

実態把握型 65 42% 13 15%

文献分析型 17 11% 2 2%

活動分析型 11 7% 6 7%

記述的

実践報告型 14 9% 29 34%

概念整理型 15 10% 8 9%

情報提供型 4 3% 26 31%

不明(8) 12 8% 0 0%

計 154 100% 85 100%

―86 ―

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な割合に推移するのは2000年代に入ってからである。

それに対して日本の学術論文で多いのが実践報告型であり,その多くは特定 の団体や地域で行われる実践の状況を記述するにとどまっている。また,制度 やジョブコーチの支援モデルをその段階ごとに記述する情報提供型のもの(小

川2002 ; 2006 ; 2008など)も多く,この両者で全体の半数以上を占める。実

際,特にこの両タイプに分類された文献の多くは,学術誌への掲載であっても 特集論文や報告として掲載されたものが中心となっている。すなわち,そもそ も文献執筆の目的が調査や分析ではなく,主に実践者に向けた情報の提供とな っているものが大半である。

一方で,明確な研究としての目的意識をもって行われているものは2割程度 となっている。それらは実践上の取り組みに関する業務分析や事例検討など自 己内省的な質的研究が中心で,比較対照によって他の実践に対する自分たちの 優位性を提示しようとする傾向のあるアメリカの研究との大きな違いがみられ た。このような傾向は,それぞれの研究における実証性にも大きく影響してい ると考えられる。

3)不足している領域

わが国の研究において不足しているのは,まず実施上のコストに関するもの がある。叙述の中の一部に,費用に言及するものもわずかにみられるが(小川 2009など),それらは主に実施において行政から支援機関や協力企業に支給さ れる給付額についての言及であり,アメリカのように費用対効果や他のアプロ ーチとの比較について検証を行ったものはみられない。SEの利点の一つとさ れる「低コスト」という点(Becker & Drake 2003(大島ほか訳))について も,アメリカで行われた研究を引用した記述(石井・西尾2006)にとどまっ ている。

またSEやIPSなどの支援モデルの効果についての検証もほとんど行われて いない。これらについても,アメリカでの実証研究をあげてその支援の有効性 をあげている(大島・香田2005)ものがほとんどであるが,日本における実

―87 ―

(15)

証性については,その検討の必要性を指摘するものすらあまり見られない。

加えて,上述のような方法でジョブコーチ型支援の有効性を述べたり,ある いはその方法論を提示したりする先行研究もみられるが,そこからさらに踏み 込んで,現行の制度にそれらの理論で規定される支援をどう当てはめるかとい う点についても,あまり言及がみられない。実践報告は,あくまで対象者への 支援を行動レベルでまとめたものであり,組織および事業の運営という視点が 用いられたものは田引(2005)などの一部に限られた。

最後に,対象領域というものではないが,この研究を通してさまざまな日米 の文献に目を通す中で,当事者(この場合は支援の対象者,支援者,雇用主な ど関係する人々)調査の少なさがあった。アメリカの調査の多くは当事者,中 でもSEの支援の対象者である障害者と雇用主(あるいは上司など)を対象と したものが多くみられ,それも彼らに属する客観的事実(就労期間,病状,収 入額など)だけでなく,その主観的体験(subjective experiences : Waghorn et

al. 2008)や当事者自身によるQOLやサービスの評価などが対象(Fabian

1992 ; Gervey & Kowal 2005など)となっている。支援者が調査対象となる場 合でもそもそもの調査目的が職員のスキルや研修,あるいは就業環境等にあ り,そこに当事者性が認められる(Brooke & Sale 1990 ; Moore et al. 1991な ど)。

一方で日本の場合,調査自体の少なさがあるため,全体的な調査研究に対す る当事者調査の割合という点では比較的高い割合を示すが,絶対的な数の不足 は否めない。特にサービス利用者である障害者に対する調査については,今回 の調査で対象となった文献の内で「実験調査型」および「実態把握型」の中に はみられず,「文献分析型」の中に既に行われた当事者の意識調査を取り上げ たものとして一部みられるにとどまり,それについてサービスに関するもので はなく,SEの有効性を示す前提として就業上の困難や課題(長谷川2006)を 扱うものとなっている。

しかしながらこれら4点についての検証は,効果がきちんと実証された確か な技術とその理論を公的な福祉サービスとして具現化していくためには必要な

―88 ―

(16)

検証であるといえる。

4)スキルと人材養成

最後に挙げられる特徴として,支援する側の技術(スキル)に関する特徴が 挙げられる。これには,一つには支援に求められるスキルの明確化・構造化と いう点であり,もう一つには人材養成という点がある。そして前者が主にアメ リカで中心的であり,後者が日本に特徴的にみられたものである。

支援者のスキルに関するアメリカの文献において研究の目的となっているの は,主に支援者の専門性や知識・スキルについて,有効なものを特定あるいは 開発することであった。ここには,単に直接援助に関わる技術のみならず,管 理者によるワーカーの管理方法(Grossi et al. 1991)や労働条件(Moore et al.

1991)などの「よりよい支援を提供するための支援者の環境」という視点のも のも含まれていた。

一方で,人材養成に関する文献が比較的多くみられた点が日本の特徴であっ たといえる。特にジョブコーチ事業における養成研修については,カリキュラ ムや実施状況,参加者の感想等のアンケートの結果などが示され(西尾2002 など),今後さらに人材養成に力をいれていく必要性(小川2002など)が指摘 されている。しかしこちらでも具体的な技術論やその妥当性について語られる ことはなく,一般的な情報提供としての提示か,あるいは特に今後のジョブコ ーチ事業の拡大,支援実施数の増加のために必要なものとして,ジョブコーチ の増員を指摘するにとどまっている。

3.考

1)具体的な支援モデルの提示 a.モデルと効果の実証性

ジョブコーチ型支援の提供が可能な体制であるジョブコーチ事業および就労 移行支援事業における,先述のような課題について改善していくためには,政

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府による主導が不可欠であり,そのためには政府がその必要性を認め「乗り 気」になるかどうかが鍵を握る。それは公的サービスとして提供される社会サ ービスにとって避けて通れない道でもある。

障害者への就労・雇用支援は,現在でも十分政府が積極的態度をみせる領域 ではあるが,現行制度の改革や新たなシステムや手法の導入ということになれ ば,そこに新たな動機付けが必要となる。そしてそのために求められるのは,

こちらが求めるものの具体的な「形」とその「根拠」を示すことのできる研究 である。

「根拠」を示すために必要かつ効果的なのは,やはりモデルの効果や有効性 の実証である。日本の場合,研究や調査による直接的な効果の提示だけでな く,実際の実践における民間・私的レベルでの普及や拡大が政策策定に大きく 影響する傾向があるが,そのような実践における拡大を目的とするという点で も,効果の実証されたモデルというのは魅力的であり,その実証のための研究 には大きな意義がある。

さらに効果だけでなく,その期待される効果の前提となるモデルの条件や構 造の確立も不可欠である。つまりそれが,求める「形」ということになる。こ れをより具体的に示すことにより実現可能性を高めることができる。またそれ により,効果の確実性をより高めるとともに,それを基にしたFidelity評価な どにより一定の効果を事前に予測することが可能となる。これらの条件や構造

に基づくFidelity尺度は,それ自体が政策においてサービスや提供主体の基準

として用いることも可能であり,それによって施設やサービスの質の維持や管 理も可能となる。

このモデルの構築に関して重要となる視点が,従来のモデルの検証である。

ここでいう従来のモデルとは,一つにはアメリカにおけるSEやIPSモデルで あり,また特定の集団(たとえば精神障害者,自閉症者,高次脳機能障害者な ど)を対象とした場合に,それに対する一般的なモデルでもある。いずれの場 合も,従来のモデルで一定の効果が実証されていたとしても,目的とする対象 について同様のことがいえるのかという検証は不可欠なものとなる。

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(18)

実際に,わが国でもジョブコーチ事業以前の,アメリカからの概念の紹介が 中心であった頃には,当時の状況におけるジョブコーチ型支援導入における課 題を検討した文献(安井1996)などもみられる。しかし導入後に関しては,

たとえば対象を限定した場合としては,倉知(2007)による精神障害者のため のジョブコーチの技法の整理などがみられるが,そのような研究はごく一部に 限られる。

特にアメリカで確立されたモデルの日本における有効性については,それに 疑問を唱える文献すらみられなかったが,日米間には制度・理念・障害者自身 についてさまざまな相違点がみられる。その一つとして,障害者雇用政策にお ける差別禁止方式と雇用率方式という根本的な制度の違いが両者間にはある が,労働市場に直接入り込んでいくジョブコーチ型支援において,この違いの 与える影響は無視できないものである。

また,たとえば精神障害者についていえば,未治療期間(9)などの関係から推 察した場合,日本の精神障害者は欧米と比べ重症度が高いとも考えられる。発 達障害などに関しても,幼少期からの教育システムやその内容が大きく異なる ことを考えれば,アメリカの場合で効果的なモデルがそのまま日本で同様の効 果をみせるのか,これらの違いが支援上においてどのような影響を与えるもの であるか(あるいは影響しないものなのか)は確認の必要があるといえる。

現在わが国でも,ジョブコーチ事業については高い職場定着率(84.5%:平 成20年度実績)を示しているが(厚生労働省2009),これがアメリカのSE モデルを忠実に再現した結果なのか,あるいは日本の状況に合わせた何らかの カスタマイズが行われた結果なのか,もし後者であるならそれはどのようなも のであり,その効果を就労以降支援事業所においても得るためには何が必要な のか,そのような疑問について答えていく必要があるのではないだろうか。

また日米の大きな違いの一つである研究手法においても,今後改善が必要で あると考えられる。特にRTCなどの実証性が確保される手法での研究の実施 状況が,今回対象となった日米の文献において大きく異なっていた。上述のよ うな検証が必要な領域についての研究がなされたとしても,それがどの程度実

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証性をもつかという点はその手法に大きく左右される。そのような研究は,特 に医療領域と比べて福祉領域では難しく,苦手としてきたものであるが,今後 はそのような研究にも積極的に取り組んでいく必要があるだろう。

最後にそのような実証的研究のあり方として,その成果が一般に公表され,

誰もがアクセス可能な知識・情報として提供されることも重要である。そうで なければ,一部のノウハウをもつ機関だけが効果的な支援を行えるという状況 になってしまう。しかし,本来目的とされるべきなのはすべての就労を希望す る障害者の,その希望に応えられる支援であり,そのためのジョブコーチ型支 援の普及と拡大である。前回の自立支援法の改正により,今後は支援の結果に よって給付額が大幅に変わるという,実力主義的な給付制度が導入されること となったが,その目的も施設のランク付けではなく,あくまでも全体の質の底 上げとされている。そこに,個々の施設や機関の独自の努力や取り組みではな く,研究として効果の実証やモデル開発を行っていくことの意義の一つがある といえる。

b.技術と専門性の確立

日本における文献の中には,ジョブコーチ事業における「人材養成」につい ての言及がいくつかみられたが,そのほとんどは既存の研修制度を紹介するも のであった。あるいは,ジョブコーチ型支援における特定の専門職資格の優位 性を提示しようとするもの(菊池2006)などもみられたが,実際にどのよう な専門性が必要なのかについては,ジョブコーチの研修ニーズの把握としての 分析(柴田ほか2001)などがみられるほかは,十分に整理されたものはみら れない。

しかしながら,ジョブコーチ型支援における支援者の専門性については,ア メリカでもSEに携わる支援者として必ずしも特定の資格や学歴が必要とされ てはおらず(小川1994),専門性についても「専門職資格」としてではなく,

個別の理念や技術・スキルとして語られている。あるいはニュージーランドの 例の様に,ジョブコーチ型支援におけるいくつかの支援要素を,職種によって 分担している(Crothall 2001)場合もある。

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これには,ジョブコーチ型支援の特徴が大いに関係していると考えられる。

すなわち,ジョブコーチ型支援においては,特定の領域に限定されないさまざ まなスキルや知識が必要とされるのである。このことは,その支援の対象が障 害をもって働くサービス利用者だけでなく,彼らが働く企業の雇用主や上司・

同僚などにも含まれることや,サービス利用者の障害の種別や状況によって は,生活支援に当たる支援も求められるなど,ジョブコーチ型支援において求 められる支援の多様性を考えれば,当然のことともいえる。もちろん同時に,

職業リハビリテーションとして職務遂行のための技術指導なども含まれる。

わが国におけるジョブコーチ型支援に関する文献は,作業療法士を中心とす る職業リハビリテーション領域,あるいは障害者の地域生活支援に従事するソ ーシャルワーカーを中心とする社会福祉領域のいずれかの立場に依拠している 専門家によって執筆されている場合が多い(所属という点では,職リハ・福祉

・医療・教育などさまざまである)。

現在のところ,その両者の立場の統合を意図した文献はみられないが,実際 の内容においては職業リハビリテーションとソーシャルワークの双方の知識や 概念を用いている場合はある。今後はそのような両者の統合という立場を明確 にしながら,両方の立場がお互いの専門性を理解しながら,「資格」としてで はなく個別の「技術」としてジョブコーチおよびジョブコーチ型支援に求めら れるものは何なのかを捉えていく必要がある。そして,これまでの実践の蓄積 を基礎としてそれらの必要な研究を行っていくことよって,日本におけるその 技術と専門性の確立を目指すべきである。

これまで述べたモデルや技術の検証という点については,ジョブコーチ事業 に関していえば,2002年の実施以前に1年間のパイロット事業を実施した上 でのものとなっている。さらに実施以前の職域開発援助事業としての蓄積もあ ったと考えられる。これらの事前データの検証はもちろん行われ,「効果があ る」とされたからこその事業化ではあるが,しかしながらそれ以降,事業が拡 大していく中で再検証などを行う文献がみられない点については,やはり課題 とせざるをえない。

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特に,その対象者において精神障害者の利用が徐々に増加している(高齢障 害者雇用支援機構2006)など,実施における「変化」は着実にあり,今後も 変化していくであろうことを考えれば,実践の検証は最初だけでなく常に繰り 返される必要があるといえる。

2)実施コストの検証

もう一つの重要な研究は,やはりコストに関するものである。基本的人権の 保障や生存権の観点から国民への一定の社会福祉の提供が国家の義務であると しても,政府にも無尽蔵に財源があるわけではない。特に昨今の福祉国家およ び経済全般の危機の中で,社会保障・社会福祉にかかる費用をどう抑えるかは 日本に限らず各国政府の課題の一つとなっているのが現状である。そのような 中で,福祉サービスの提供にどれだけのコストがかかるのかをより具体的かつ 現実的なものとして提示することは,国の同意を得て制度としての支援の提供 を現実化していくために不可欠であるともいえる。

また運営コストの評価は,それをうまく利用することで支援の普及と拡大の ための大きな武器ともなる。すなわち,他の支援方法や事業モデルに対してコ ストそのもの,あるいは費用対効果という点での優位性を示すことは,普及と 拡大の強力な促進要因となりうるのである。

具体的なコストを提示することは,そのサービスの「feasibility:実行可能 性」を確保していくためにも非常に重要な要素であるといえる。いかに優れた モデルであり障害者の就労を実現しうる支援の枠組みが提示されたとしても,

それを現実に実施していくためにさまざまな条件や制約がある。運営にかかる 費用はその一つであり,社会福祉実践における「理論」と「現実」の間に存在 する最も大きな壁の一つでもある。

1)のような研究によって明らかになった有効なモデルの必要な人的・物的 およびその他の条件を基準として,その運営コストを具体的な数値として提示 することは,支援の具現化における阻害因子の一つを解消し,同時にその支援 モデルの有効性をさらに高めるものとして,モデルの普及や拡大における戦略

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的価値も大きいといえる。

これまで,わが国の社会福祉サービスに関する研究では事業やサービスの運 営コストに関する詳細な分析や研究はあまり行われてこなかった。今回の調査 で対象となった文献にも該当するものはみられない。しかし,今後は「どのよ うなサービスが有効か」だけでなく,そのサービスを提供するために「どれだ けの費用が必要か」についてもきちんと評価していく必要があるだろう。

3)実践の集約

1)や2)で述べたような実証を行っていくためにはある程度のデータ数を 揃える必要があるが,これまでの国内の研究は,特定の機関や施設が行った取 り組みを個別に用いて行われており,大規模なデータを元にした調査・研究 は,地域障害者職業センターのような全国的な公的な機関や,就労以降支援事 業所といった集団について政府が行った統計調査に限られている。しかもそれ らのデータは就職者数や支援対象者数などの一般的な情報にとどまっており,

モデルの構造や効果を実証するといったものではない。

そこで,一つには,これら多くのデータ収集が可能な枠組みを活かし,そこ でモデル構築や検証などを目的としたより分析的な研究を行うという方法が考 えられる。この場合の利点としては,やはり全国規模での情報収集が可能であ るという点のほか,その大規模なデータの情報源となっているサービスや機関 の体制・システムが統一されているという点がある。この場合,調査やその結 果の分析においてデータの条件を揃える必要性が軽減され,データの統合がよ りスムーズになることが考えられる。

一方で,このような公的な基盤による枠組みで捉えることが難しい,個々の 社会福祉法人やNPOなどによる独自の取り組みについても,やはりそこから 得られるデータを集約し,大きな枠組みで行われる研究は必要である。ここで は前述の場合とは逆に,それぞれが持つ独自性や個性をもとに分析を行うこと により比較研究が可能となり,そこから効果とモデル構造の関係における重要 な要素や条件を導き出すことができると考えられる。

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しかし当然のことながら,この場合にはデータの収集において課題が生じ る。たとえば「就労移行支援事業」といった施設体系や特定の地域など,いわ ゆる属性としての共通項はあっても,実際の活動において統一された共通基盤 をもつことが基本的に考えにくいこれらの施設・機関のデータを,研究に用い る共通した枠組みに適応する形で収集するのは,実際にはかなり難しいといわ ざるを得ない。

ただ,ここでは公的な機関のような全国的規模までの調査は必ずしも求めら れるものではない。あるいはそこまでの規模の調査は不可能であっても,少な くとも複数の施設・機関の実践上のデータを集約し,それをもとに研究を行っ ていくことに意義がある。そのためにも,一定の定式化された報告のデータベ ース化(浅野2009)が必要であるといえる。これには個人情報などの問題も あり,誰がそれを構築し管理するのかという課題も生じることは容易に想像で きるが,しかし今後,ジョブコーチ型支援がより精度を増していくためには必 要なシステムであることも事実であるといえる。

全国的な枠組みをもつ支援機構と,個別に実施されている地域の支援機関を まとめたデータベースの,この2つの基礎によって国内で提供されているさま ざまな支援の実態をデータとして収集し,それを用いて研究を行っていくこと で,より有効かつ実践に活用可能なさまざまな知見を得ていくことが可能とな る。

4)実証研究へのモチベーション

研究手法における日米の違い,特にアメリカにおいて実証的かつモデルの

「効果」を示そうとする文献が多いという点について,このような違いの背景 には,一つには日米の実践における財源基盤の違いが影響していると考えられ る。

アメリカの場合,SEを実際に提供しているのは行政機関から委託を受けた 民間団体やNPOである。彼らの運営費は,SEなどの社会サービスの委託費

(石渡・小川1989)のほか,研究を伴う実践活動に対する基金や財団などから

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の助成金および寄付によって賄われている。そのため,それらを獲得するため に自らの実践の有効性を提示することは,実践活動における重要かつ不可欠な 業務の一部となっており,大学等の研究機関との連携も盛んに行われている。

そのような事情から,アメリカではより実証性の高い研究が求められるのに 対し,日本の場合は法律で定められた施設基準を満たした機関が同じく規定さ れた範囲の支援を提供することに対して給付がされ(たとえば自立支援給付な ど),そのほか施設としての枠組みに対する補助金などが運営資金の中心をし めている。民間の助成も設備や機材などの設置・整備を目的としたものであれ ば,それまでの実績によって左右されることはなく,寄付金などはそもそも日 本人にとって馴染みがない。

このような日本の場合,運営に必要な資金を得るために必要なのは,制度の 枠組みにきちんと沿った施設として存在することと,そのために制度を熟知し ていること,その制度の規定内でできることを工夫することである。わが国に おいて実証性を求める取り組みが盛んにならないのは,このようなことが影響 しているとも考えられる。

日本でも自立支援法によって実力主義方式が導入されることは既に述べた が,この場合に判断基準となるのは,機械的に報告される就労につながった利 用者の数とその継続就業期間である。そのため支援にかかる手法は問われるこ とはなく,その点について疑問の余地はある。しかし就労率を向上させ就労を 継続させるためにどのような支援が具体的に必要なのかについて,それぞれの 機関や支援従事者たちが考えるきっかけとなることは間違いないだろう。

お わ り に

本研究では,アメリカのSEに関する研究と日本のジョブコーチ型支援に関 する研究の状況を比較し,日本の研究におけるいくつかの課題を指摘してい る。しかし,ここで一つ忘れてはならないのは,アメリカにおける研究もま た,時間の経過と共にその動向が変化していく中で,現在の状況にあるという

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(25)

点である。

たとえば研究手法において先に述べた,アメリカにおける年代的な変化は,

1986年にSEが制度化された後にアメリカ国内でさまざまな取り組みが為さ れる中で,当初は現在の日本のように,実践者に向けたSEに関する基本的情 報・知識の提供が必要だったためと考えられる。そして2000年代に入ってか ら現在のような状況に変化していることを考えれば,わが国においてはまさに これから,変化を迎える段階にあると考えることもできる。

ところで,今回の研究における最大の課題の一つは,対象となる文献の抽出 方法に関するものである。いわゆる「研究論文」を抽出したいという意図によ り,雑誌掲載論文に関するデータベースを用いたものであるが,その結果,実 際にはいくつかの重要な文献が除外される結果となった。これまでも度々触れ た科研費などの研究事業による報告書がまさにそれであり,他にもたとえば

(独)高齢・障害者雇用支援機構等によるさまざまな研究報告書やその資料な どもある。

この点が重要となるのは,ここで除外された研究や調査結果が,わが国にお ける政策方針決定において重要な役割を占めているためである。たとえば,厚 生労働省による今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会(第1回:

2008年4月11日〜第24回:2009年9月17日)では,その検討の過程におい て科研費による調査研究の結果が,議論の根拠として用いられ,また今後の精 神医療の質の向上のために精神保健医療福祉に関連する厚生労働省科学研究事 業を中心とした研究の推進が述べられている(第22回資料1より)。

このような公的な助成による調査や大規模な調査機関による調査研究につい ても,アメリカではその成果が,部分的にではあるが,一般の学術誌などに発 表され,研究や実践の成果として提示されている。しかし,わが国の場合にそ れが難しいのは,適当な学術誌の少なさや,あるいは投稿の際の字数制限など が厳しく,研究についての十分な記述ができないといった点が考えられる(10)。 これらの日米の研究における事情の違いなどがあったとはいえ,わが国の政 策動向に大きな影響を与えるこれらの研究が分析の対象から除外されているこ

―98 ―

(26)

とは,本研究の重大な限界であるといえる。

しかしながら今回の調査のテーマであったジョブコーチ型支援に関するもの については,この科研費による調査研究においても,あくまでもタイトルや要 旨のみからの推察ではあるが,コスト評価に関するものや従事者の技術や専門 性に関する部分では,学術論文と同様の傾向があると推察される。すなわち,

タイトルや要旨において示された研究の主題や目的において,コスト評価や技 術・専門性に焦点を当てたものはほとんどみられない。また,RTC による調 査という点でいえば,精神障害者に関する主に医学領域での研究はみられる が,ジョブコーチ型支援に関するものとしては,タイトルや要旨からそれと考 えられる調査はみあたらなかった。

しかしながら,これまでの述べた学術論文にみられた傾向が,今回除外され た研究報告等においてどの程度共通したものであるのかについては,今後,こ れらの除外された研究も含めた形での研究動向についての把握を改めて行い,

その実状を確認することが不可欠であると考えている。

またアメリカの文献検索の検索方法においても課題が残る。法による規定の 以前に根拠となったSE実践やそれに関する研究があったことは明らかである が,しかしリハビリテーション法によってSEが規定される以前には,必ずし

も「Supported Employment」という語句に統一はされておらず,この語句を用

いた検索では1986年以前の文献を抽出することはできなかった。抽出の手順 の③に示した方法によって一部の文献は確認できたが,適当な検索語句を見つ けることが困難であったために,最終的には十分な把握ができなかった点につ いては,何らかの対策をとる必要のあった点であるといえる。

また,論文の分類においても,その基準を明確なものとして設定することが 難しく,特に「分析の視点が含まれているかどうか」という点(分析的論文と 記述的論文の分類の基準)の判断について,筆者の主観的要素が含まれている 可能性は否定できない。手続き上,「執筆者自身の意見」や「新しい知見」の 有無などの基準は設定しているが,その判断の基準の定義そのものが不明確で あったという課題があった。

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この点に関しては,特に「文献分析型」と「概念整理型」および「活動分析 型」と「実践報告型」との区別において重要な点である。その意味で,本稿の 中心的な議論にも深く関わるものであり,十分な検討ができていない点につい ては,今後の大きな課題である。

しかしながら,日本とアメリカのジョブコーチ型支援に関する文献における 実証性 の他,いくつかの重要な違いを明らかにできたことには意義がある と考える。これらの違いは,両者の実践における違いを反映したものであり,

また今後その実践において新たな違いを生み出すものである。

これらの違いを整理・分析し,今後の研究に反映させていくことで,アメリ カと「同じようにしていく」のではなく,ジョブコーチ型支援における日本独 自の発展につなげ,当事者のニーズより応えることのできる支援体制の構築に つなげていくことができるだろう。

⑴ 「ナチュラル・サポート」とは専門家による支援ではなく,日々の生活の中で交 わされる人間関係における当たり前のサポートのように,当事者の日常的環境に おいて通常関わりをもつ他者(職場であれば上司や同僚)によるサポートであり

(松為・菊池2006),その形成と専門的支援からそれへの移行も,ジョブコーチ支 援の重要な要素の一つとして位置づけられ て い る ( 松 為 ・ 菊 池2006; 小 川 2008)。

⑵ 「職場内での支援」という点に限っていえば,上記2事業以外にもいくつかの制 度・事業が考えられるが,ジョブコーチ型支援における「職場内支援」以外の条 件について検討した結果,上記2事業のみを提示するものとした。

⑶ 厚生労働省「障害者白書 平成17年版」(2006)〜「同 平成20年版」(2009)ま でを参照。地域障害者職業センターにおける支援対象者数は3,050人(H 17),3,306 人(H 18),3,019人(H 19),3,064人(H 20)と推移している。

⑷ 例えば田川(2008)では現在仕事をしていない者の58% が「就職したい」と回 答し,また長谷川(2006)では「就職に対する関心・希望」について「かなり興 味がある」が38.2%,「少し興味がある」が35.0% と合わせて70% を超えてい る。さらに,浜銀総合研究所(2009)による調査では精神障害者の就労希望は 69.0% と他障害種別と比して最も高くなっている。

⑸ GeNiiは国立情報学研究所による学術コンテンツ・ポータルサイトであり,主に

論文の検索が可能なCiNii,書籍検索のWebcatPlus,科学研究費補助金(以下,

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(28)

科研費)データベースのKAKEN,学位論文や民間助成研究報告の検索が可能な

NII-DBR,日本の学術情報を横断的に検索するJAIROの5つのポータルサイトに

よる一斉検索が可能となっている。

⑹ IPS(Individual Placement and Support)とは,欧米においてその有効性が実証され た援助付き雇用の一形態であり,本人の好みに基づく職探し,迅速なサービス提 供,placed-trainモデル(実際の職場での訓練)などを特徴とした精神障害者への 個別就労支援モデルである(Becker & Drake 2003)。

⑺ 「Individual Placement and Support」については,文献によって語順および一部の表 記が異なる表現が用いられている場合があるため,「Individual」,「Placement」,「sup- port」と語句を区切った形での検索も行っている。

⑻ アメリカで発行された文献については,特に一部の古い文献について本文の入手 が困難なものがあり,そのうちabstractから調査方法等が判断できるものについ ては各カテゴリーへの分類を行い,判断が難しいものについては「不明」とし た。

⑼ Duration of Untreated Psychosis(DUP):精神疾患による症状が出現してから最初 の治療までの期間をいい(Larsen et al. 1996),この期間が長いほど予後(治療後 の回復の状況)が悪いとされる(山澤2009;堀口・安西2007)。日本の精神障害 者の一般的なDUPは,医療機関などによる調査では欧米の先行研究とほぼ同等 とする調査(山澤2009)もあるが,治療につながっていない例などを考えた場 合,対象者把握の方法によってはより長くなるとも考えられる。

⑽ たとえば今回の調査で抽出された文献に関して,アメリカではほぼ全ての雑誌が 一般投稿を受け付けているのに対し,日本の場合では6割程度(紀要を含む)で あり,実際の論文も投稿論文は4割程度であった。また紙幅においても,アメリ カの場合には平均して11頁程度であり,特に実験に関する論文では20頁を超え るものも見られたのに対し,日本では平均5頁程度であった。また一般的な投稿 論文の字数規定は,16,000〜20,000字程度で,12,000字というものもあった。日 本語と英語の違いから,一概に頁数だけで比較することはできないが,日本の誌 面では,実験的な研究について十分に記述することが難しいことが推察される。

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