音声言語医学 52:360 ─ 365,2011
原 著
人工内耳装用児に見られた聴覚過敏症について
田中 美郷1,2) 芦野 聡子1) 小山 由美3) 吉田 有子1) 針谷しげ子2) 要 約:われわれが扱った約 80 名の人工内耳(CI)装用児中,CI 装着後聴覚過敏を訴えた 子ども 9 名(5-14 歳)の聴覚過敏症の特徴を,非 CI 児 10 名(健聴児および感音難聴児各 5 名, 4-12 歳)のそれと比較した.CI 児 9 名中 6 名および非 CI 児 10 名中 6 名はいずれも自閉症ス ペクトラム障碍(ASD)ないしアスペルガー症候群を伴っていた.聴覚過敏症の原因音は電 気掃除機やヘアドライヤー,水洗トイレの音,工事現場の大きな音,大勢の集団のなかの声な どであり,これに関しては CI 児および非 CI 児間に違いはなかった.CI 児の大部分は聴覚敏 症を漸次克服していったが,ASD と重度精神遅滞を伴う 1 例は 5 歳のとき CI を装着したもの の,10 歳に達するや CI 装用を拒むようになった.その原因は聴覚過敏症と考えられた. これらの知見は,われわれの CI 児の聴覚過敏症は多くは ASD に帰属するものであり,重 症例では聴覚過敏症は CI 装用拒否の原因になりうることを示唆している. 索引用語:重度難聴児,人工内耳,聴覚過敏症,自閉症スペクトラム障碍Hyperacusis in Deaf Children Who Had Received Cochlear Implantation
Yoshisato Tanaka1,2), Satoko Ashino1), Yumi Koyama3),
Yuuko Yoshida1) and Shigeko Harigai2)
Abstract: Nine deaf children aged 5-14 years who complained of hyperacusis after
receiving cochlear implantation were selected from approximately 80 implanted children treated at our institutions. Characteristics of hyperacusis in these children were compared with those of ten non-implanted children aged 4-12 years, including five normal hearing children and five children with sensorineural hearing loss who complained of hyperacusis. Six of the nine implanted children as well as six of the ten non-implanted children were associated with autism spectrum disorder or Asperger’s syndrome. Acoustic stimuli causing hyperacusis in these children were noise produced by a vacuum cleaner, hair dryer or flush toilet, sudden noises produced during construction work, big sounds produced by crowds of people, etc. No differences concerning the types of these causal stimuli were found between the implanted children and the non-implanted children. Although the majority of the implanted children gradually overcame their hyperacusis, one case with autism spectrum 田中美郷教育研究所1):〒154-0021 東京都世田谷区豪徳寺 1-32-8
神尾記念病院2):〒101-0063 東京都千代田区神田淡路町 2-25
健貢会東京病院3):〒165-0022 東京都中野区江古田 3-15-2
1)Tanaka Yoshisato Institute of Education: 32-8, Gotokuji 1-chome, Setagaya-ku, Tokyo 154-0021, Japan 2)Kamio Memorial Hospital: 2-25, Kanda-awajicho, Chiyoda-ku, Tokyo 101-0063, Japan
3)Kenkohkai Tokyo Hospital: 15-2, Ekota 3-chome, Nakano-ku, Tokyo 165-0022, Japan
は じ め に 聴覚過敏症(hyperacusis)には明確な定義はないが, ここでは,普通の聴覚刺激が耐えられないほど強烈に 感じ,さらにはそのことを考えるだけでも不安に襲わ れたり,パニックを引き起こしてしまう状態,とする. 聴覚医学の領域では感音難聴でしばしば経験される リクルートメント現象に関連した音の大きさの異常知 覚(dysacusis)もこの範疇に入るが1),自閉症児では 感覚過敏の一つとしてしばしば恐音症(phonophobia) として現れることが知られている2).聴覚過敏症は程 度を問わなければ誰にでも生じうるものであり,われ われは人工内耳装用児(以下 CI 児と略す)において も聴覚過敏症の観察される例が少なくなく,なかには 恐音症のために CI を拒絶するにいたったと考えられ る例を経験するに及び,この問題はないがしろにでき ないとの認識から,CI 児以外で聴覚過敏症の観察さ れた例も含めて調査した結果,臨床上有意義な知見を 得たので報告する. 症 例 症例は平成22年8月末までにわれわれの臨床で扱っ た CI 児のうち聴覚過敏症を認めた 9 名と,CI を有し ない聴覚過敏症を訴えた子ども(非 CI 児)10 名であ る. CI 児群についてはその概略を表 1 に示したが,9 例 中 6 名はアスペルガー症候群(AS)ないし自閉症ス ペクトラム障碍(ASD)を有しており,残り 3 名中 2 名は ASD か注意欠陥多動性障碍(ADHD)に類似し て行動がマイペースか多動傾向が見られ,1 例は発達 および行動上問題を認めない児であった. 他方非 CI 児については表 2 にその内訳を示したが, 10 名中 5 名には難聴はなく,このうち 4 名は AS な いし ASD 児であり,1 例は言語性学習障碍(LD)児 であった.残りの 5 名は難聴(感音性)を有し,これ らのうち 2 名には ASD および精神発達遅滞(MR) を認めた.全例補聴器を活用していて,補聴器装用耳 の難聴の程度は 4 分法平均で 50〜90 dB であった.こ disorder and severe mental retardation who had received cochlear implantation at the age of
five years began to refuse to use his cochlear implant when he reached 10 years of age. In this particular case, rejection of the cochlear implant was thought to be due to hyperacusis.
These findings suggest that hyperacusis in the majority of our implanted children may be attributed to autism spectrum disorder, and in the severest case hyperacusis can cause a child to reject the use of a cochlear implant.
Key words: deaf child, cochlear implant, hyperacusis, autism spectrum disorder
表 1 人工内耳装着児に見られた聴覚過敏症(H22. 8. 31 現在) 症例 性 現年齢 装着年齢 発達特性 聴覚過敏症状 1 男 14 歳 5 歳 ASD, 重度 MR 電車の中や騒々しい処では CI を外す. 現在補聴器は常用,CI は拒否 2 女 11 5 AS トイレの水洗音,電車の音を嫌う. 3 男 9 4 ASD, 重度 MR トイレに入るとき CI を外す. 電気掃除機の音を嫌う.音楽は好き. 4 女 7 5 ASD,MR トイレの水洗音や洗濯機の終りの音を嫌う. 5 女 6 4 ASD, 軽度 MR 工事現場の音を怖がる. 6 女 5 3 ASD トイレの水洗音,電気掃除機の音,玄関の 戸を開ける音などを嫌う.音楽は大好き. 7 男 6 3 マイペース 雷の音,映画館の大きい音,ドライヤーの音, トイレの水洗音,強風の音 8 女 5 2 ノーマル ドライヤーの音,電気掃除機の音 9 男 5 4 落ち着きなし ドライヤーの音,電気掃除機の音,タイマーの ピーピー音,車内のラジオの音(音楽は良い)
れらのなかには CT 画像で前庭水管拡張症,および内 耳奇形を認めたものが各 1 名いた. なお AS および ASD に関してはすでに他機関で児 童精神科医か小児神経科医により診断を受けていたも のが若干名いたが,これらも加えて制止困難な自己中 心的行動,視線が合いにくい,コミュニケーションが できない,強いこだわり,常動性行動の目立つ子ども を ASD と診断した. 聴覚過敏症の実態 1 .原因音 本人が訴える聴覚過敏症の原因音を CI 児群および 非 CI 児群別にまとめると,表 3,4 のごとくになった. 両表を比べて共通して多く見られたのはトイレの水洗 音,電気掃除機やヘアドライヤーの音,屋内外の突然 の大きな音,衝撃音などであり,これらは Attwood2) の掲げた自閉症児に見られる聴覚過敏症の原因音と比 べてほとんど同じである. 2 .発達ないし行動特性との関係 表 1,2 を通して注目されるのは,CI 児群および非 CI 児群いずれにおいても AS ないし ASD を有するも のが過半数を占めている点である.この事実は表 1 の CI 児群における聴覚過敏症は多くは ASD に関連して いることを示唆している. 3 .CI 児における聴覚過敏症発症時期と経過 図 1 は表 1 の 9 名の出生から平成 22 年 8 月までの 経過を示したものである.手術時期がそれぞれ異なる ので観察期間はさまざまであるが,術前はすべて補聴 器を装用させ,症例 1 を除く 8 名は手指法も導入して 言語指導を進めて 2〜5 歳の時点で CI を装着させた. 図中 HA および CI の黒丸は装用時点を示し,点線の 部分は装用を拒むようになった時期である.これらの 経過を見ると,聴覚過敏症は術後半年以降,すなわち 聴能が発達し始めてから生じている.聴覚過敏症は症 例 1,3 を除く 7 例は月日の経過とともに漸次克服な いし消退していったが(その時期は明確でない), MR を伴う子どもには嫌いな音の現場に近づくと CI を外すとか,あるいはその場を避けて通るといった例 があり,特に MR の重い症例 1 は CI および補聴器の 両方が装用できていて,他覚的には図 2 の装用閾値が 示すように補聴器よりも CI のほうが効果的と思われ 表 2 聴覚過敏を訴えた非 CI 児 症例 性 年齢(歳) 診断 A 女 8 AS B 女 12 AS C 男 7 ASD D 女 5 MR,ASD E 女 12 言語性学習障碍 F 男 4 難聴(85 dB,内耳奇形),MR,ASD G 男 7 難聴(90 dB),MR,ASD H 女 7 難聴(60 dB) I 女 10 難聴(90 dB),前庭水管拡張症 J 女 5 難聴(50 dB) 註 : 難聴児は全員補聴器活用 表 3 CI 装用児(9 名)に見られた聴覚過敏症 の原因音(数字は症例数) 1.家庭ないし屋内の音 トイレの水洗音 6 電気掃除機音 4 ドライヤー音 3 電話の大きな呼び出し音 1 電気掃除機の終わりの合図音 1 タイマーのピーピー音 1 菓子袋の発する音 1 廊下を歩く靴音 1 CD ショップの雑音 1 映画館の音 1 2.交通機関ないし屋外の音 電車や車の中の音 1 電車の通過音 1 工事現場の音 1 石切り場の音 1 雷鳴 1 強風の音 1 車内で聴くラジオの音(音楽は良い) 1 3.突然の音ないし衝撃音 ドアのバタンと閉じる音 1 カスタネットの音 1 コラッ!と叱られた大声 1 表 4 非 CI 児(10 名)に見られた聴覚過敏症の原因音 1.AS ないし ASD および LD の 5 名の場合 電気掃除機の音 3 ドライヤーの音 2 トイレの水洗音 1 スピーカー音 1 父親のいびき 1 2.感音難聴の 5 名の場合 トイレの水洗音 2 食器の打ち合う音 2 突然の大きな音または声 2 電車の通過音 1 打ち上げ花火の音 1 甲高い声または音 1 オーケストラの音 1 学校でのリコーダー合奏音 1 換気扇の音 1 数字は症例数
たにもかかわらず,10 歳頃になって電車に乗ると CI を外すようになり,その後補聴器は求めるものの CI は拒絶するようになって今日にいたっている.症例 3 にも一時的 CI 装用を嫌う傾向が現れたが,本例は難 聴が非常に重くて補聴器は活用できておらず,CI の 電流を多少下げることによって今のところ再度装用で きるようになっている. 考 察 CI 児に聴覚過敏症が生じうることをわれわれに気 づかせたのは症例 1,3 である.特に症例 1 では CI を 嫌う原因は当初 CI の不具合にあるのではないかと 疑ったが,CI 装用を嫌う場面が電車に乗るときに限 られていることや,症例 3 ではトイレの水洗音,電気 掃除機や家庭用精米機の音などに限定されているこ と,加えて両例とも ASD を伴うことから,これらに 見る聴覚過敏症が ASD に関連して生じた問題と解す るにいたった.ちなみに CI 児(表 1)および非 CI 児 群(表 2)を見ると,両群とも AS ないし ASD が過 半数を占め,図 1 を見ると CI 児群における聴覚過敏 症は CI 装着後聴能が発達し始めてから出現している こと,さらに聴覚過敏症の原因音は CI 児群および非 CI 児群ともに自閉症の聴覚過敏症のそれと共通して いる事実も,われわれの推論の妥当性を支持している と考える. Attwood2)によると,感覚過敏症は自閉症児の約 40%に見られ,聴覚および触覚に関係するものが多く を占める.これらとは別の感覚過敏症を合併する例も ある.ちなみに表 1,2 では症例 2,A,D に触覚過 敏が,また症例 B には嗅覚過敏が認められた. 自閉症児における感覚過敏症は児童期の後半には減 少することが多いといわれ2),表 1 の 9 名についても 症例 1,3 を除いた残り 7 名では聴覚過敏症は消退し た.しかし生涯聴覚過敏症から逃れえない例もある. 表 1 の症例 1,3 や,表 2 の症例 A,B,E において はその可能性は否定できない.AS を有した哲学者 図 1 人工内耳装用児に見る聴覚過敏症とその発症時期 (註)HA =補聴器,CI =人工内耳 1 CI 2 HA HA CI トイレの水洗音を嫌う 3 HA CI 4 HA CI トイレの水洗音を嫌う 5 HA CI 6 HA CI 7 HA CI 8 HA CI ドライヤーの音,電気掃除機の音を嫌う 9 HA CI ドライヤー,電気掃除機の音,タイマーのピーピー音を嫌う 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 電車に乗ると CI を外す HA は着けるが CI は拒否 トイレの水洗音を嫌う 電気掃除機の音を嫌う トイレの水洗音に驚く 呼び出しブザー音を嫌う オートバイやトラックのすれちがう音を嫌う(HA) 工事現場の音を嫌う(CI) 大きな音を怖がる トイレの水洗音,電気掃除機の音,廊下を歩く靴音,玄関のブザー音を嫌う ドライヤーの音,トイレの水洗音を嫌う 強い風の音を嫌う 年齢(歳)
Wittgenstein は,宿泊したホテルの階下の騒がしいダ ンス音楽や人の話し声に耐えられなかったといわれて おり3), 動 物 感 覚 の 研 究 者 で 自 閉 症 者 で も あ る Grandin4–7)は自身の聴覚過敏症の体験に基づいて,自 閉症児には感覚情報の処理機能に欠陥があって,ある 種の刺激には過剰に反応し,別の刺激には反応不足を 引き起こす,Grandin 自身は風船の破裂音は死ぬほど 怖く,ヘアドライヤーの音はジェット機がそばを飛び 立っていくような響きであったと述べている.また自 閉症者 Sellin8)は日記の中で,車のキーキーという音 やマイクの調節が悪くて生じるピーという音(ハウリ ング)には我慢ができず,神経をすりへらすようなお しゃべりにも耐えられなかったと記している. これらはいずれも知的に高い自閉症者の供述である が,その背景には脳の知覚処理の混乱ないし自閉症者 特 有 の 恐 怖 シ ス テ ム が あ る と 考 え ら れ て い る. Grandin6)によると恐怖は外からの脅威に対する反応 であって,人間では前頭葉が発達していて恐怖を抑制 する力は動物に比べて強いと考えられるが,その抑制 方法には二通りあり,一つは恐怖を生み出す扁桃体の 働きを抑制する役割と,もう一つは言語を使って自分 自身に語り掛けて恐怖から抜け出す方法である. Grandin6)は自閉症児ではどちらも弱いのではないか と見ている.表 1 の症例 1,3 のような重い知的障碍 を合併する子どもでは,特にその感を深くする. CIに関してはCI特有の音質の問題も無視できない. 成人になって失聴し,CI を装着したオージオロジス トの杉崎9)は,CI で聴く音は全く未体験の音であり, その音質に慣れるのに壁があったと述べている.この 供述は正常な聴覚体験のない先天性重度難聴児には当 てはまらないにしても,補聴器を通して聴く音とは質 的に異なるはずで,表 1 の子どもたちの聴覚過敏症に この問題がいかほどに関与しているかは推測の域を出 ないものの,症例 1 が補聴器は活用するにもかかわら ず CI を拒否するにいたった背景には,CI の音質の問 題が関与している可能性は否定できない. Grandin7)は自閉症児で感覚過敏の強い例には優れ た作業療法士の関与が必要と述べている.われわれは CI 児の聴覚過敏症についてはマッピングの調整以外 に対策を講じてこなかった.しかし表 1 の 9 例を省り みて対策上見過ごしできない問題に気づいたので以下 に指摘しておきたい. 1 .症例 1 については,われわれは当初 CI の適応 とは考えていなかったが,保護者の強い要望で他機関 で CI 装着を受けたものの,その後その機関は CI か ら全面的に手を引いたために行き場を失って,結局わ れわれの臨床へ戻ってきたという経緯がある.した がって CI に関してはわれわれの臨床へ戻るまでの状 態は不明であるが,いずれにせよこのような継続して アフタケアを受ける機関を失うことは,子どもはもち ろん保護者にとっても不幸なことといわざるをえな い.Grandin6)は自閉症者は一般の人と比べて恐怖を 図 2 症例 1 の 10 歳時における CI および HA の装用閾値 (ピープショウテストによる) 100 90 80 70 60 50 30 10 −10 −20 140 130 120 110 40 20 0 100 90 80 70 60 50 30 10 −10 −20 140 130 120 110 40 20 0 125 250 500 1000 2000 4000 8000 dB 聴力レベル ︵ ︶ Hz 周波数( ) CI HA 10歳
強く感じ,その記憶はいつまでも続くという.この状 態は強迫神経症に見る不安障碍と共通するところがあ るが,症例 1,3 のような重い知的障碍のある例では, このような状態からの脱却は一層困難であろう.子ど もはいうまでもなく,われわれに比べて余命が長い. それだけにわれわれは子どもを生涯にわたってケアす ることはできない.症例 1 に見るような事態を生まな いためには,恒久的な CI に対するアフターケアので きる社会システムの実現が切望される. 2 .表 3,4 に見る聴覚過敏症の原因音は AS 児や ASD 児に限らず,われわれにとっても不快な音であ る.筆者が子どもの頃にはこの種の音の大部分は生活 環境に存在しなかった.したがって往時であれば,表 1,2 の子どもは表 3,4 のような音で聴覚過敏症に悩 む こ と は な か っ た は ず で あ る. こ の 問 題 に 関 し Grandin7)は,われわれの社会は技術に依存するよう になって騒々しく忙しくなり,われわれの感覚系にか かわる負担が非常に大きくなってきたと述べている が,社会医学的に見てこの指摘は重要である.かかる 観点に立つと,表 1,2 の子どもたちの呈する聴覚過 敏症は,不快音に満ちた現代社会に対する防御反応で あり,換言すれば社会がややもすればこの問題を等閑 に付してきたことへの告発とも受け止めえよう. 結 語 われわれの臨床で扱った CI 装用児 9 名に見られた 聴覚過敏症を非 CI 児 10 名で観察されたそれと比較 して次の知見を得た. 1 .CI 児 9 名中 6 名は AS または ASD を有し,こ れらのうち 2 名は重度 MR も伴っていた.非 CI 児 10 名中 5 名は感音難聴を有し,そのうち 2 名には ASD と MR があり,難聴のない 5 名中 2 名は AS または ASD を有し,残り 1 名は言語性学習障碍であった. すなわち両群とも症例の過半数は AS または ASD を 伴っていた. 2 .聴覚過敏症の原因音は CI 児および非 CI 児の 両群に共通しており,文献に見る自閉症児における聴 覚過敏症のそれとも共通している.CI 児においては CI 装着後聴能が発達することによって聴覚過敏が出 現していたが,これらの事実を総合すると,CI 児に おける聴覚過敏症は多くは ASD が背景にあって生じ たものと推測される. 3 .CI 児における聴覚過敏症は 9 名中 7 名では時 間の経過とともに消失したが,重度 MR を伴う 1 例 は 10 歳頃より補聴器は装用するものの CI は拒絶す るようになり,その原因は CI の音質に関係があると 推測された. 4 .これらの知見を総合すると,CI 児で ASD を有 する例では聴覚過敏症を呈する場合がありうること, また症例によってはこれが CI 拒否の原因になりうる ことが示唆された. 文 献
1)Moeller AR: Hearing. Its Physiology and Pathophysiology, Academic Press, San Diego, pp 473-483, 2000.
2)Attwood T:ガイドブック アスペルガー症候群(冨田真紀, 内山登紀夫,鈴木正子訳),東京書籍,東京,1999. 3)Fitzgerald M:アスペルガー症候群の天才たち―自閉症と
創造性(石井好樹,花島綾子,太田多紀訳),星和書店, 東京,182-183 頁,2008.
4)Grandin T and Margaret MS:我,自閉症に生まれて(カ ニングハム久子訳),学習研究社,東京,1994.
5)Grandin T:自閉症の才能開発―自閉症と天才をつなぐ環 ―(カニングハム久子訳),学習研究社,東京,1997. 6)Grandin T and Gatherine J:動物感覚 アニアル・マイン
ドを読み解く(中川ゆかり訳),NHK 出版,東京,2006. 7)Grandin T:自閉症感覚(中川ゆかり訳),NHK 出版,東京, 2010. 8)Sellin B:もう闇のなかにはいたくない(平野卿子訳),草 思社,東京,1999. 9)杉崎きみの:聴こえるって そういうことなのだ! ベル No. 146(通巻 1739 号):1-23,2009. 別刷請求先:〒154-0021 東京都世田谷区豪徳寺 1-32-8 田中美郷教育研究所 田中美郷