• 検索結果がありません。

DV問題と向き合う被害女性の心理:彼女たちはなぜ暴力的環境に留まってしまうのか

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "DV問題と向き合う被害女性の心理:彼女たちはなぜ暴力的環境に留まってしまうのか"

Copied!
5
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

This document is downloaded at: 2018-12-04T02:53:07Z Title DV問題と向き合う被害女性の心理:彼女たちはなぜ暴力的環境に留まってしまうのか Author(s) 宇治, 和子 Citation 奈良女子大学博士論文, 博士(学術), 博課 甲第577号, 平成27年3月24日学位授与 Issue Date 2015-03-24 Description URL http://hdl.handle.net/10935/4013 Textversion ETD

Nara Women's University Digital Information Repository

(2)

論 文 の 内 容 の 要 旨 氏 名 宇治 和子 論文題目 DV問題と向き合う被害女性の心理 -彼女たちはなぜ暴力的環境に留まってしまうのか- 内 容 の 要 旨 DV被害女性には、家庭内において様々な暴力に苦しみながらもそこから脱出できず、ま た避難シェルターへ逃げ出してもしばらくすると元に戻ってしまい、また暴力的環境に留ま ってしまう者が少なくない。著者はこの問題を明らかにしようと、シェルター内での心理担当 という立場から行った 89 人の心理面接をローデータとして用いている。実際には 89 人のう ち、被害体験の経過を詳しく聞くことのできた 53 人の発話データについて研究目的で使用 する許可を取り詳細な分析を行ったのが本研究である。著者は、被害女性が自身の身に 起こったDV被害をどのように捉えているのか、そのDVについての認識を様々な角度から 検討している。 第1章「DV現象についての研究への視座」では、まずDV現象について海外をはじめ日 本においてどのように展開されてきたのかを、ジェンダーの視点と家族観から述べている。 次に、DVに関する心理学的研究とDV被害を抱える母親とその子どもに関する研究につい て概観している。その結果、それらの研究が、被害女性がなぜ暴力的環境から抜け出せな いのか、そのことを充分には説明できていないこと指摘している。 第2章では、被害女性が自身の身に繰り返し起こる暴力被害をどのように体験しかつ理 解していたのか、その思考の全体像を把握するために、「被害過程の語りにおいて捉えら れた被害女性のDVについての認識」に焦点を絞り研究が行われている。対象は 53 人の 被害女性である。彼女らが語った暴力の被害過程を「DV被害女性の暴力に対する反応」と 「加害男性が何度も暴力を振るう傾向をもつことの解釈」という 2 つの視点から分析が行わ れている。その結果、被害女性の語りから、暴力時の反応傾向を「反発」・「逃亡」・「我慢」・ 「順応」・「従属」と分類して、それに伴う 5 種類のDV現象におけるフィードバック・ループが 存在することを明らかにしている。彼女らは、DVを避けようとするが故に、かえって加害男 性はまた暴力を振るうかもしれないという不安を抱えるようになり、ループにはまってしまう という特殊な内面が明らかにされている。後者の視点からは、被害女性が自身の体験を振

(3)

り返って内省した際に、暴力状況に陥った原因帰属とその統制が可能か不可能かの判断 について検討している。その結果、「制御不可能」・「制御可能」という 2 種類のメタ的理解 が存在することが明らかにされている。そして 5 つのタイプのどのフィードバック・ループに おいても、「制御不可能」と考える人と「制御可能」と考える人が同数程度存在しているとい う興味深い結果が示されている。フィードバック・ループにおける「我慢」・「順応」・「従属」の 3 つの反応を被害者の語りが似ていることから、それらを「回避的対処」とまとめさらに分析 を行っている。その結果、「反発」・「逃亡」・「回避」という 3 つのループと 2 つの制御に関す るメタ的理解から、被害女性の日常におけるDVについての認識を 6 タイプに整理して議論 を行っている。 第3章では、DV問題を抱える母親が自身の被害と向き合うに当たり、子どもの存在をど のように位置づけているのかをテーマに語りの分析を行っている。著者はとりわけ子どもの ことを考えてDV加害を行う父親と別れたり離婚したりするのをためらってしまうという現象 に焦点を当てている。研究対象は、47 人のDV被害を受けてシェルターに避難した母親で ある。彼女たちが面接場面で自然と語った子どもに関する発話を、「暴力状況」と「暴力以 外での状況」に分けて細かく整理している。子どもに対する「父親側の態度」と「母親自身の 態度」について述べている項目を取り出し、クロス表によって分析している。その結果「暴力 状況」だけでなく「暴力以外の状況」でも、父親が子どもに様々な悪影響を与えていると考え る母親、夫婦の問題に子どもを巻込んではいけないと考える母親、その両方について考え 父親と別れることに問題を感じて葛藤している母親、という 3 つの異なった認識をもつ母親 が存在していることを明らかにしている。 第4章では、シェルターへ避難したにもかかわらずまた元の環境に戻ってしまうという現 象を理解するため、逃げてくる直前に体験した暴力を彼女らがどのように位置づけている のか、その語りの分析を行っている。研究対象は 53 人の内、シェルター退所後のケース情 報から加害男性と関係を絶ち切れなかったと判明した(関係持続群)14 人と、加害男性と関係 を絶ち切ったと判明した(関係切断群)18 人の被害女性である。彼女らの発話を、DV現象にお ける「フィードバック・ループの枠組み」と「制御可能性に関するメタ的理解」と「加害男性へ の想い」という、3 つの方向から分析している。その結果、3 つのタイプの被害女性が存在 することが明らかにされている。1 つは、自身の行動を振り返って自分にも悪いところがあり 相手方に執着する気持ちもあるので関係を継続させようとするタイプ(持続群 9 人:切断群 1 人) である。2 つ目は、暴力状況の原因は加害男性側にあり関係改善は期待できないと捉えつ つも、関係が継続されてしまうのではないかという不安を抱えているタイプ(持続群 4 人:切断群 7 人)である。3 つ目は、加害男性との関係改善は期待できないと捉え、関係を解消させよう としているタイプ(持続群 1 人:切断群 10 人)である。直近の暴力に対して被害女性がシェルター に避難したこと、それに対して加害男子がメール等でさまざまな応答をする。その応答また は想定される応答を加害女性がどうとらえるかが、3 つのタイプの違いを生み出すようなの である。加害男子に何らかの形で応答してしまうことが、反復するループに絡みとられてし まう危険性を高くすることが示唆されている。 終章では、展開した様々な論点をふまえて、DV問題と向き合う被害女性の心理につい て考察されている。彼女たちが自身の暴力被害体験から、2 次的に派生し抱え込むことに なるDVを内包した関係性の中に捕らわれてしまうことが問題なのである。それを「コミュニ ケーション被害」として位置づけ総合的な議論がなされている。またなぜ被害女性が暴力的 環境から抜け出すことが難しいのかについて、彼女たちに影響を与えるさまざまな社会的 な要因についても指摘されている。当事者の認識を立ち入って理解することから得られるさ らなる支援の方向性について提言がなされている。

(4)

論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨 氏 名 宇治 和子 論文題目 DV問題と向き合う被害女性の心理 -彼女たちはなぜ暴力的環境に留まってしまうのか- 要 旨 DV被害女性には、家庭内において様々な暴力に苦しみながらもそこから脱出できず、ま た避難シェルターへ逃げ出してもしばらくすると元に戻ってしまい、また暴力的環境に留ま ってしまう者が少なくない。著者はこの問題を明らかにしようと、シェルター内での心理担当 という立場から行った 89 人の心理面接をローデータとして用いている。実際には 89 人のう ち、被害体験の経過を詳しく聞くことのできた 53 人の発話データについて研究目的で使用 する許可を取り詳細な分析を行ったのが本研究である。著者は、被害女性が自身の身に 起こったDV被害をどのように捉えているのか、そのDVについての認識を様々な角度から 検討している。53 名もの被害女性の直接の聴き取りからなるDV研究は類をみないもので ある。また、なぜ被害者が元の加害男性の元に戻ってしまうのか、この問いに関する実証 的研究も類をみないものだと言えよう。 第1章「DV現象についての研究への視座」では、まずDV現象について海外をはじめ日 本においてどのように展開されてきたのかを、ジェンダーの視点と家族観から述べている。 次に、DVに関する心理学的研究とDV被害を抱える母親とその子どもに関する研究につい て概観している。その結果、それらの研究が、被害女性がなぜ暴力的環境から抜け出せな いのか、そのことを充分には説明できていないこと指摘している。この研究は奈良女子大学 「人間文化研究年報」第 27 号と 29 号に発表されている。 第2章では、被害女性が自身の身に繰り返し起こる暴力被害をどのように体験しかつ理 解していたのか、その思考の全体像を把握するために、「被害過程の語りにおいて捉えら れた被害女性のDVについての認識」に焦点を絞り研究が行われている。対象は 53 人の 被害女性である。被害女性の語りから、暴力時の反応傾向を「反発」・「逃亡」・「我慢」・「順 応」・「従属」と分類して、それに伴う 5 種類のDV現象におけるフィードバック・ループが存 在することを明らかにしている。彼女らは、DVを避けようとするが故に、かえって加害男性

(5)

はまた暴力を振るうかもしれないという不安を抱えるようになり、ループにはまってしまうと いう特殊な内面が明らかにされている。後者の視点からは、被害女性が自身の体験を振り 返って内省した際に、暴力状況に陥った原因帰属とその統制が可能か不可能かの判断に ついて検討している。その結果、「制御不可能」・「制御可能」という 2 種類のメタ的理解が 存在することが明らかにされている。そして 5 つのタイプのどのフィードバック・ループにお いても、「制御不可能」と考える人と「制御可能」と考える人が同数程度存在しているという 興味深い結果が示されている。フィードバック・ループにおける「我慢」・「順応」・「従属」の 3 つの反応を被害者の語りが似ていることから、それらを「回避的対処」とまとめさらに分析を 行っている。その結果、「反発」・「逃亡」・「回避」という 3 つのループと 2 つの制御に関する メタ的理解から、被害女性の日常におけるDVについての認識を 6 タイプに整理して議論を 行っている。 第3章では、DV問題を抱える母親が自身の被害と向き合うに当たり、子どもの存在をど のように位置づけているのかをテーマに語りの分析を行っている。著者はとりわけ子どもの ことを考えてDV加害を行う父親と別れたり離婚したりするのをためらってしまうという現象 に焦点を当てている。研究対象は、47 人のDV被害を受けてシェルターに避難した母親で ある。分析の結果「暴力状況」だけでなく「暴力以外の状況」でも、父親が子どもに様々な悪 影響を与えていると考える母親、夫婦の問題に子どもを巻込んではいけないと考える母 親、その両方について考え父親と別れることに問題を感じて葛藤している母親、という 3 つ の異なった認識をもつ母親が存在していることを明らかにしている。この研究は、査読付き 学会誌「子ども社会研究」第 29 号に発表されている。 第4章では、シェルターへ避難したにもかかわらずまた元の環境に戻ってしまうという現 象を理解するため、逃げてくる直前に体験した暴力を彼女らがどのように位置づけている のか、その語りの分析を行っている。研究対象は 53 人の内、シェルター退所後のケース情 報から加害男性と関係を絶ち切れなかったと判明した 14 人と、加害男性と関係を絶ち切っ たと判明した 18 人の被害女性である。彼女らの発話を、DV現象における「フィードバック・ ループの枠組み」と「制御可能性に関するメタ的理解」と「加害男性への想い」という、3 つ の方向から分析している。その結果、3 つのタイプの被害女性が存在することが明らかにさ れている。1 つは、自身の行動を振り返って自分にも悪いところがあり相手方に執着する気 持ちもあるので関係を継続させようとするタイプである。2 つ目は、暴力状況の原因は加害 男性側にあり関係改善は期待できないと捉えつつも、関係が継続されてしまうのではない かという不安を抱えているタイプである。3 つ目は、加害男性との関係改善は期待できない と捉え、関係を解消させようとしているタイプである。直近の暴力に対して被害女性がシェ ルターに避難したこと、それに対して加害男子がメール等でさまざまな応答をする。その応 答または想定される応答を加害女性がどうとらえるかが、3 つのタイプの違いを生み出すこ とが示唆されている。この研究は、査読付き学会誌「臨床心理学研究」第 51 号に掲載され ている。 終章では、展開した様々な論点をふまえて、DV問題と向き合う被害女性の心理につい て考察されている。彼女たちが自身の暴力被害体験から、2 次的に派生し抱え込むことに なるDVを内包した関係性の中に捕らわれてしまうことが問題なのである。それを「コミュニ ケーション被害」として位置づけ総合的な議論がなされている。そして、当事者の認識を立 ち入って理解することから得られるさらなる支援の方向性について提言がなされている。 本論文の内容は、学会誌「子ども社会研究」「臨床心理学研究」に掲載された論文も含め 四編の論文として発表されており、人間行動科学講座の内規を満たしている。よって、本学 位論文は、奈良女子大学博士(学術)の学位を授与されるに十分な内容を有していると判 断した。

参照

関連したドキュメント

この 文書 はコンピューターによって 英語 から 自動的 に 翻訳 されているため、 言語 が 不明瞭 になる 可能性 があります。.. このドキュメントは、 元 のドキュメントに 比 べて

〃o''7,-種のみ’であり、‘分類に大きな問題の無い,グループとして見なされてきた二と力判った。しかし,半

また自分で育てようとした母親達にとっても、女性が働く職場が限られていた当時の

本判決が不合理だとした事実関係の︱つに原因となった暴行を裏づける診断書ないし患部写真の欠落がある︒この

となってしまうが故に︑

○安井会長 ありがとうございました。.

在宅支援事業所

真竹は約 120 年ごとに一斉に花を咲かせ、枯れてしまう そうです。昭和 40 年代にこの開花があり、必要な量の竹