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農業情報研究 18(4), Available online at 原著論文 日本における GAP 実施の実態と今後の問題点 栃木県における実態調査の分析 田上隆一 * 1) 日野赤彦 2) 田上隆多 1) 南石晃明 3) 1) 株

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原 著 論 文

日本における GAP 実施の実態と今後の問題点

―栃木県における実態調査の分析―

田上隆一*

1)

・日野赤彦

2)

・田上隆多

1)

・南石晃明

3) 1)株式会社AGIC 〒305-0035 茨城県つくば市松代4-9-26-203 2)栃木県農政部 〒320-8501 栃木県宇都宮市塙田1-1-20 3)九州大学農学研究院 〒812-8581 福岡市東区箱崎6-10-1 要旨 日本における GAP 実施の実態と今後の問題点を解明するため,GAP 先進県の 1 つである栃木県内の 4 農協とそ の生産部会に所属する農業者を対象に,JGAP 規準に基づく自己評価と外部審査による GAP の実態調査を行った. その結果, GAP 実施の水準は,農業者は「比較的良い」レベルであるのに対し,農協事務局は「問題あり」のレ ベルであることが明らかになった.その原因としては,農協事務局には,農場管理システムの知識が充分になかっ たことと,農協自体が GAP 実践の主体者であるという認識が無かった点が示唆された.また,農協によって事務 局の農場管理システムが質的に異なっており,質が高いほど農業者の GAP レベルが高いことが判った.さらに, 農業者の GAP レベルが高いグループほど,個人の GAP についての認識も高いことが判った.農業者の GAP レベ ルを上げ,地域農業としての GAP の精度を上げるためには,GAP 規範(GAP の意味と内容)を正しく理解し,事 務局の農場管理システムの質を向上させることと,農場管理システムの中で農業者に対する GAP のトレーニング を行うことが必要であることが指摘された.

キーワード

GAP,適正農業規範,監査,検査,農場管理システム

緒言

GAP(Good Agricultural Practice)の普及が進んでいる欧 州では,EU の共通農業政策として,農業者が一定の環境 保全を行うことを条件に農業所得を補填する直接支払い制 度(クロスコンプライアンス)が導入されている.EU の 法令である規則(Regulation)や指令(Directive)により加 盟各国に適正農業規範(GAP 規範)の作成を義務付け,「農 業者が守るべき最低限のマナー」として,環境保全・減農 薬・減化学肥料の農業を推進している.この GAP 規範の順 守を確認するために,EU 加盟国は毎年,直接支払いの給 付対象農業者の 1%以上について現地検査を行うことに なっている(石井 2007). また,1997 年に欧州小売業団体(Euro-Retailer Produce Working Group)が開発した GLOBALGAP(旧名 EUREPGAP)

をはじめ,オーストリアの AMAGAP,スペインの UNE 155000,イギリスの Produce2004,ドイツの QS-GAP,スイ スの SwissGap V. 2006 など,民間の様々な GAP 認証制度が 普及しており,農業者の GAP 実施の水準がそれぞれの規格 (GAP 規準)によって明らかになっている. 一方,日本には EU のような農業政策上明確に規定され た公的な GAP 規範の作成が遅れており,また,JGAP に代 表される民間の GAP 認証制度も EU のようには普及してい ない現状がある.農林水産省は,2007 年 4 月に食料・農 業・農村政策推進本部決定の「21 世紀新農政 2007」政策 で,「平成 23 年度までにおおむね全ての主要な産地(2,000 産地)において GAP の導入を目指す」との方針を発表して おり,都道府県が農家への研修・指導等を実施している. GAP手法の導入・推進に係る国の取組方針について周知を 図り,国全体として GAP の導入・推進を図るために,農林 水産省は,「GAP 手法導入・推進会議」を開催し,2007 年 6月 15 日の第 1 回会議で,栃木県の GAP への取組を都道 府県の代表的な事例として,取組の経過や今後の課題につ * Corresponding Author E-mail: rtagami@agic.ne.jp

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いて発表している.また,農林水産省は,2007 年 12 月末 時点における GAP 普及の調査を行い,GAP 導入済みの産 地割合が 50%以上になった都道府県が 9 県あると発表して いる.その中でも栃木県は,県と JA グループが連携し,県 独自のGAPを推進している日本を代表する事例として民間 の GAP などと比較して紹介されている(農林水産省 2008). 今後,この農業政策目標の達成に向かって GAP の導入を推 進していくためには,すでに GAP に取り組んでいる代表的 な農業者のGAPで管理されている範囲や管理内容の適否を 調査し,GAP 実施の水準や,GAP の導入における問題点を 探ることが必要である. 本稿では,GAP 推進事業を展開して日本の先進事例と なっている栃木県の「GAP 精度向上のための実態調査」に 基づき,日本における GAP 実施の実態と今後の問題点の解明 を行う.特に,農業協同組合(農協)が事務局として生産部 会などの組織で取り組むGAP推進の問題点を明らかにする. なお,本稿では GAP について,以下のような整理と定義 を行った.「GAP」は,従来「適正農業規範」と訳されて来 たが,GAP の実施とその規範や規準と区分するため,「適 正農業管理」と定義した.適正農業管理(GAP)とは,農 業生産で行われる適切な行為とその継続的な実践をいう. 英語で Code of Good Agricultural Practice といわれる「適正 農業規範(GAP 規範)」は,法令等,適切な農業生産の在 り方についての基本的な考え方をいう.その規範を実際の 農業生産の現場で守る農業者は「適正農業管理」を行って いる,つまり「GAP である」といえる.実際の農業生産現 場でGAP規範が守られているかどうかを判定するためには GAPの規準が必要である.この GAP で求められる条件の 審査基準体系として規定された管理点や順守基準などを 「適正農業規準(GAP 規準)」という.また,農協が主動し て農業者が一体となって法令順守やリスク管理を行う農場 管理体系を「農業管理システム」と定義した.「事務管理規 定」や「農場管理規定」を整備して,指導・監査を行う GAPの事業管理体制である(田上 2009a).「外部審査」に 関する用語については,GLOBALGAP 認証制度に準じて 「事務局監査」と「農場検査」を用いている.

国のGAP推進方向と栃木県におけるGAP推進の

現状

農林水産省の「食品安全のための GAP 策定・普及マニュ アル」によれば,GAP の導入では,はじめに 1)GAP の導 入についての産地の合意形成を行い,2)農協の品目ごとの 生産部会などでチームを編成する.3)農業者の圃場や施設 の条件を確認する.4)生産工程図を作成する.5)工程ご との危害分析を行う.6)危害排除の対策を策定する.7) GAPチェックシートを作成する.8)GAP 実施の検証方法 を設定する.9)各種のドキュメントを策定し管理方法を決 める,という手順になっている(農林水産省 2005) 栃木県は,2006 年 3 月に「GAP(適正農業規範)導入指 針」を策定し,2007 年には,トマト,いちご,ほうれんそ う,なしの「GAP 実践マニュアル」を発行して全県的に GAP推進事業を開始した.GAP 導入の狙いは,科学的な根 拠に基づくリスク管理と法令を順守した合理的な生産活動 を通して,1)農産物の安全品質を高めること,2)農業従 事者の健康被害を防止すること,3)農産物の生産に伴う環 境負荷を軽減することである.GAP 推進の主体と役割は, 「行政はモデルとなる規範等を分かり易く提示し総合的な 支援を行う,農協などの団体は農業者に対する啓発,規範 の作成やリスク分析の指導・支援,産地全体のマネジメン ト,内部監査を行う,農業者は主体的に GAP に取り組み, その情報を自ら発信していく」こととしている(栃木県 2006). 栃木県では,農林水産省の「食品安全のための GAP 策 定・普及マニュアル」に規定された GAP 導入手順の 4)か ら 7)までの作業を,予め行政側が実施したうえで,2007 年に農協や農業者に対する説明会を開催した.また,導入 手順の 8)と 9)は,栃木県の指導に基づいて,2007 年度 と 2008 年度に,農協および農協と生産部会が実施した.農 業者は,2007 年度作付と 2008 年度作付に関して,「農作業 の計画を立て,実践した結果を GAP チェックシートで確認 し,記録を残す」という自己チェックの手法で行っている. このように,栃木県では,GAP 導入手順を県が主導的に 行ったために,農協としての取組が容易で,研修を通じて 生産者の GAP に対する認識も高くなっている.

調査対象および方法

全県的に GAP 推進事業を展開している栃木県は,GAP 推進事業の GAP 精度を向上させる目的で,これまでの GAP の実施状況と GAP の支援体制の効果を検証する「GAP の 実態調査」(平成 20 年度栃木県 GAP 精度向上対策)を行っ た.具体的には,栃木県農政部生産振興課,株式会社 AGIC 内 GAP 普及センター,九州大学大学院農学研究院農業経営 学研究室が共同で,調査対象の選定,調査の実施,調査結 果の分析を行った. 調査では,農協および農業者を対象として,現地調査に よる GAP 実施の外部審査(第三者による審査)を実施した (表 1).調査期間は,2008 年 11 月 1 日から 2009 年 2 月 28 日までである.現地調査の対象は,GAP 事務局監査は 4 農 協,GAP 農場検査は 8 農業者である.調査対象の農協 A, B,D は,いずれも正組合員数が 10,000 人を超える総合農 協である.その対象農業者は,専業農家としては平均的な 経営規模である.C 農協は,正組合員 500 人以下の専門農 協であり,1 農業者当たりの経営規模は,その他の農協の 生産部会より大きい.調査対象の作物は,それぞれの農協 の重点作物である(表 2).また,アンケート調査による自 己評価を実施した.対象は,4 農協の生産部会員合計 1,001 名で,回答者合計は 668 農業者である.以下,調査の概要 について述べる.

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現地調査による農協および農業者の外部審査の方法 栃木県内の 4 農協の事務局監査と,それぞれの農協の 2 農場(部会構成員農業者の圃場)の農場検査を実施した. 監査及び検査は,GLOBALGAP(EUREPGAP 2007)並びに JGAPの基準文書(日本 GAP 協会 2007a,b,c)に基づい て筆者らが作成した「事務局チェックリスト」及び「農場 チェックリスト」により,GAP 普及センターの JGAP 上級 審査員が実施し判定した. 具体的には,事務局監査では,「事務局チェックリスト」 に基づいて農協の生産部会事務局(営農部門)担当者から の聞取りを中心に,文書の確認と選果場などの現地検査を 行い,GAP 事務局の評価・判定をした.農場検査では,「農 場チェックリスト」に基づいて調査対象農場の責任者から の聞取りと現地検査を行い,GAP の評価と判定を行った. 「事務局チェックリスト」は,128 項目からなり,これら は,農協属性(1 項目),GAP 研修(10 項目),契約(5 項 目),組織構成(12 項目),マニュアル(12 項目),内部監 査(13 項目),制裁措置(1 項目),トレーサビリティ(3 項 目),クレーム・リコール(6 項目),記録管理(2 項目), 農薬指導(19 項目),残留農薬分析(6 項目),肥料指導(9 項目),種苗管理(7 項目),選果場管理(20 項目),廃棄物 管理(1 項目),外国人労働者管理(1 項目)の 17 分類から なる(資料 1). 「農場チェックリスト」は,128 項目からなり,これらは, 農業者属性(9 項目),基本事項(7 項目),農薬の使用(30 項目),農薬の保管(15 項目),農薬使用者安全(4 項目), 肥料の使用(12 項目),肥料の保管(6 項目),土壌・水・ 種苗の安全(7 項目),農産物の取扱い(19 項目),環境保 全(10 項目),作業者の安全(9 項目)の 11 分類からなる (資料 2). アンケート調査による農業者のGAP自己評価 「農場チェックリスト」を使用して,A,B,C,D の各 農協の外部審査対象農業者が所属する生産部会の農業者の GAP実施に関するアンケート調査を行った.アンケート調 査票は,対象生産部会の総会で外部審査対象農業者を除く 農業者に配布し,生産部会の役員が回収した.アンケート 調査の回答農業者数は,A が 165 人,B が 13 人,C が 13 人,D が 477 人である. 表 1 調査内容と調査対象 調査の種類 現地調査・外部審査

(GAP事務局監査) (GAP農場検査)現地調査・外部審査 アンケート調査(GAP自己評価),回答者数 調査内容 GAP支援組織体制,研修会,営農指

導の方法,GAPの実証方法等(JGAP 規準による)

モデル農場における GAP 実施状況

(JGAP規準による) モデル農場が所属する生産部会のGAP実施状況(JGAP規準による) 調査対象 A農協の営農指導部門 A農協の農業者2名 A農協の農業者165名 B農協の営農指導部門 B農協の農業者2名 B農協の農業者13名 C農協の営農指導部門 C農協の農業者2名 C農協の農業者13名 D農協の営農指導部門 D農協の農業者2名 D農協の農業者477名 合 計 4農協 8農業者 668農業者 * 現地調査の対象農協は,栃木県農政部生産振興課が選定したGAPモデル農協である. * 現地調査の対象農業者は,農協と農業振興事務所が,当該農協の組合員農業者から管内を代表する農業者として選定した. 表 2 調査対象の属性 農 協 生産部会名 部会員数(人) 指導員数(人) 農業者の年齢 (雇用:パート)従事者数(人) (品目と作付面積)経営規模 A いちご 207  7  41  家族3 いちご26 a,水稲190 a 41  家族4,雇用1 いちご41 a,水稲150 a B トマト 50  2  53  家族2,雇用3 トマト50 a 37  家族3,雇用4 トマト56 a,水稲200 a C 野 菜 43  2  51  家族2,雇用4 ほうれん草120 a,大根40a 38  家族6,雇用30 ほうれん草1,500 a D いちご 701  17  61  家族4,雇用2 いちご64 a,水稲900 a 54  家族5,雇用5 いちご66 a,水稲130 a * 各農協の生産部会に属する2名づつの調査対象生産者は,すべて農業専業である.

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資料 1 事務局チェックリストの概要 項目分類 項目数 項目の主な内容 農協属性 1  部会員数や営農担当者数など GAP研修 10  開催したGAP研修の範囲や内容など 契約 5  部会と農業者との契約の有無とその内容,および販売先との売買契約書の有無など 組織構成 12  部会の組織図,および部会として把握している農業者情報など マニュアル 12  JAや部会,農業者が実施,順守すべきルールや手順に関する文書(生産管理規則や選果場の運営規則など)の 有無と内容 内部監査 13  部会の内部監査規則の有無,内部監査規則の適正度,内部監査実施記録,内部監査結果の指導・改善記録の有 無と内容 制裁措置 1  制裁措置の有無と実施記録の確認 トレーサビリティ 3  部会は,出荷商品のロットごとに生産者を特定できるか.出荷先にどのロットを出したか記録があるか.部会 は生産者の出荷量の妥当性を検証しているかなど クレーム・リコール 6  クレームの受付,内容記録,原因追及,問題点改善,改善後の確認などが規則として文書化され,適切に実施 しているかなど 記録管理 2  文書規程があり,規定どおりに運営されているかなど 農薬指導 19  IPM の指導が行われているか,使用予定農薬が決められているか,農薬の適正使用の指導を行っているか,期 限切れや禁止農薬,空容器などの適正な処分を指導・支援しているか,農薬の使用記録を正しく指導している か,また,適正使用を確認する仕組みがあるかなど 残留農薬分析 6  残留農薬分析の規則があり,実施しているか.サンプリングや検査機関は妥当か.基準値オーバーの対処は適 切かなど 肥料指導 9  環境汚染の回避や効果的な施肥の指導・助言が行われているか,有機肥料の成分を確認しているか,使用記録 を指導しているか. 種苗管理 7  統一品種の場合は適切な選択が行われているか,組織が種苗を供給する場合は法令を順守しているかなど 選果場管理 20  共同施設のリスク評価を行ったか,評価結果の対策をルールにしたか,そのルールが守られているか.農産物 を調整・保管・包装する共同施設では一般衛生管理規則が守られているか.作業者の安全対策があるか.環境 汚染はないかなど 廃棄物管理 1  供給するすべての資材の適切な処分方法を把握しているか. 外国人労働者管理 1  外国人研修生などに対して,労働安全,食品衛生,廃棄物管理,農薬管理などの教育訓練を適切に行なってい るか. 17分類 128  資料 2 農場チェックリストの概要 項目分類 項目数 項目の主な内容 農業者属性 9  年齢,経験,経営規模,作物と耕作面積,GAP研修と実践内容 基本事項 7  農場の全体が把握されているか,作業計画や記録・管理の仕組みがあるか,また,商品管理やクレーム管理が 適切かなど 農薬の使用 30  IPM を実施しているか,農薬の使用計画や選択・購入・管理が適切か,ラベルに従っているか,使用の適切さ が確認できるか,使用記録は様式と内容が適切か,収穫記録との照合で収穫前日数が守られていることが分か るか,散布機の管理は適切か,残った農薬の廃棄や農薬の空容器によって人や環境への汚染がないか,ドリフ ト対策は充分かなど 農薬の保管 15  農薬は法令に従って保管しているか,保管場所で人や環境を汚染する恐れがないか,保管庫は安全管理の要件 を満たしているか,農薬の在庫は管理されているかなど 農薬使用者安全 4  ラベルの指示に従ってゴム靴,防水服,ゴーグル,ゴム手袋,農薬マスクなどを備え,着用しているか.それ らの保管管理は万全か,農薬使用者は健康診断しているかなど 肥料の使用 12  土壌診断や培養液分析の結果に基づいて施肥の種類と量をきめているか,購入肥料は安全証明を取っているか, 製造する場合は原材料確認と充分な発酵を確認しているか,施用機械は保守点検しているか,施肥記録は正し く行っているかなど 肥料の保管 6  肥料は,人や農産物,農薬などと接触しない場所で保管しているか,在庫管理しているか,環境,特に水源を 汚染する危険性がないかなど 土壌・水・種苗の安全 7  圃場に汚染物質はないか,土壌くん蒸を減らしているか,灌漑用水は農産物に危害がないか,種苗の健全性を 確認しているか. 農産物の取扱 19  収穫および収穫後の農産物取扱の衛生規則があるか,また実施しているか.作業場所の衛生設備は万全か,ト ラックやコンテナは,定期的に清掃しているか.農産物を調整・保管・包装する施設では一般衛生管理規則が 守られているか.動物や害虫などの対策はあるか,保管場所の温湿度は管理されているか,作業者の安全対策 があるか.環境汚染はないかなど 環境保全 10  農業活動による環境破壊が最小限になるよう努力しているか,農薬や肥料で地下水や河川水を汚染していない か.塩類集積は起こっていないか,土壌中の微生物増加などで土作りしているか.農場から出る残渣や廃棄物 の処理は適切か,無駄なエネルギー利用はないかなど 作業者の安全 9  危険な場所や事柄を認識しているか,事故やケガを防止するルールがあるか,事故の際に応急処置は出来るか, 緊急連絡先などが表示されているか,作業者に対する差別はないかなど 11分類 128 

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実態調査の分析視点 実態調査の具体的な分析の視点は,以下の通りである. 第 1 に,GAP 事務局の監査結果から,農協ごとの GAP 支援体制の実態を把握する.また,GAP 農場の検査結果と の関係性を確認し,支援体制の評価を行う.第 2 に,GAP 農場の検査結果から農協ごとの GAP 実施状況を把握する. また,農場検査の結果と自己評価の結果との相違を確認し, GAP実施の問題点を明らかにし,GAP 支援の課題を検証す る.第 3 に,以上の検証結果から,GAP 支援体制の課題お よび GAP 実施農場の課題を抽出し,栃木県 GAP の精度を 向上するための方向を明らかにする.

調査結果および考察

農協事務局監査の集計結果を表 3 に,GAP 農場検査の集 計結果を表 4 に示した.また,農業者自身による自己評価 アンケート調査の集計結果を表 5 に示した. 農協事務局監査では,「事務局チェックリスト」128 項目 のうち,農協属性 1 項目を除いた 127 項目について「適合」, 「不適合」,「該当外」のいずれかに判定された.このうち, 「適合」項目数と「不適合」項目数を合わせた項目数(127 項目から「該当外」項目数を差引いた数と同じ数)を,判 定の対象項目数とし,この対象項目数に占める「適合」項 目数を農協の「適合率」とした. なお,本稿では,外部審査対象農協を,適合率の高い順 に A 農協,B 農協,C 農協,D 農協とし,遡って表 1,表 2 もそれに従った. 農協事務局監査の結果は,最も高い適合率の A 農協が 44.6%で,3 農協を約 5%から 6%上回り,B,C,D3 農協 は僅差で,それぞれ 39.7%,38.7%,38.5%であった. GAP農場検査結果の適合率の計算法は,農協事務局監査 の場合と同じである.8 農業者のうち最も適合率の高い農 業者は A 農協の 74.1%,最も低い農業者は D 農協の 46.1% で,その差は 28.0%と大きかった.農業者の適合率を農協 ごとに平均値を求めると,71.2%,69.7%,59.4%,48.9% で,A 農協,B 農協,C 農協,D 農協の順になった.農業 者の全農協平均は 62.2%となり,事務局監査の適合率の全 農協平均よりも 21.8%高かった. アンケート調査による農業者のGAP自己評価の適合率に ついては,高い順に,D 農協 79.4%,B 農協 78.9%,A 農 協 78.1%,C 農協 71.1%で,自己評価の場合は最高と最低 の差が 8.3%とわずかで,農業者の全農協平均では 78.9%と なり,外部審査に比べて自己評価の適合率が 16.7%も高く 評価がされている. GAP実施の総合評価 農協と農業者の相違 GAP事務局監査 127 項目のうち,適合と認められた項目 数の適合率は,最高得点の農協で 44.6%,最低得点は 38.5 %で,その差は 6.1%と小さく,4 農協の平均は 40.4%で 表 4 GAP 農場検査結果の集計 農協 A農協 B農協 C農協 D農協 計 農場 農場 1) 農場 2) 農場 3) 農場 4) 農場 5) 農場 6) 農場 7) 農場 8) 適合 77  86  82  79  74  65  53  61  577  不適合 36  30  34  36  43  52  62  57  350  該当外 6  3  3  4  2  2  4  1  25  判定項目 113  116  116  115  117  117  115  118  927  適合率 68.1% 74.1% 70.7% 68.7% 63.3% 55.6% 46.1% 51.7% 62.2% 農協平均 71.2% 69.7% 59.4% 48.9% 表 3 GAP 事務局監査結果の集計 A農協 B農協 C農協 D農協 合計 適合 54  48  46  47  195  不適合 67  73  73  75  288  該当外 6  6  8  5  25  判定項目 121  121  119  122  483  適合率 (適合項目数 /対象項目数) 44.6% 39.7% 38.7% 38.5% 40.4% 表 5 アンケート調査による農業者の GAP 自己評価 の集計 A農協 B農協 C農協 D農協 合計 適合 13,701  1,147  1,020  39,081  54,949  不適合 3,853  306  414  10,117  14,690  該当外 487  29  8  1,223  1,747  判定項目 17,554  1,453  1,434  49,198  69,639  適合率 78.1% 78.9% 71.1% 79.4% 78.9% * 表の数字はアンケート回答者が自己評価した項目数の合計であ る. * 自己評価で未記入の項目があったため,適合,不適合,該当外の 合計数がアンケート項目数に達していない.

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あった.また,農業者の農場検査結果では,農業者の適合 率を農協単位で見ると,最高得点の農協が 71.2%,最低得 点が 48.9%で,4 農協の平均は 62.2%であり,その差は 22.3 %とかなり大きかった.同一農協における事務局監査結果 と農場検査結果の差は,A 農協 22.6%,B 農協 30.0%,C 農協 20.7%,D 農協 10.4%と,いずれの農協でも事務局よ りも農業者の方が高い適合率であった. GAPの精度を評価するために,筆者らは,一般に「一通 り出来た」と言われる「八分」(80%)と,「物事が進んで いる途中」を表す「半ば」(50%)を目安とすることを決め た.適合率 80%を超えたら「良い」,80%以下 50%以上を 「比較的良い」,50%未満を「問題あり」と表現(以下同じ) すると,全ての農協が「問題あり」で,反対に農業者の評 価は,3 農協が「比較的良い」,1 農協が「問題あり」,平均 すると「比較的良い」という判定になる. 農協と農業者の共通 農協事務局監査の適合率が最も高かった A 農協は,農場 検査の適合率でも最も高く,反対に,農協事務局監査の適 合率が最も低かった D 農協は,農場検査の適合率でも最も 低かった.農協事務局監査の適合率の格差は僅差であるが, 農協間の順位(図 1 の①))は,農場検査適合率の順位(図 1の②))に一致していた. 一方,農業者の自己評価は,適合率が一様に高く,農協 による差は少ない.自己評価の適合率の平均は,A 農協 78.1 %,B 農協 78.9%,C 農協 71.1%,D 農協 79.4%とその差 は僅かであるが,農場検査の適合率の平均,A 農協 71.2%, B農協 69.7%,C 農協 59.4%,D 農協 48.9%との差は,A 農協 6.9%,B 農協 9.2%,C 農協 11.7%,D 農協 30.5%と なっている.農場検査の適合率が最も高い A 農協で自己評 価との差(自己評価率)が最も小さく,農場検査の適合率 が低くなるほど自己評価率は大きくなっている(図1の④). 農協の評価結果と考察 農協事務局の外部監査の結果と共に,農協職員へのイン タビューの結果を踏まえて,GAP 実施において農協が抱え る問題点について考察した. 農協の当事者意識 農協の適合率の平均が 40.4%で「問題あり」となってい る理由の一つとしては,農協の営農指導部門の担当者のヒ アリング結果から,いずれの農協でも,GAP を推進する関 係者が,「GAP は個々の農業者が実施すべきもの」であり, 「農協は農業者の GAP を支援するもの」と考えていること が挙げられる.つまり,GAP 実施にあたっての農協の当事 者意識が低いことが指摘できる. GAPへの組織的な取組 4農協の適合率の格差は小さいが,実施内容に農協の特 徴が見られる.A 農協は,組織的に GAP の認識を高めるた めに,経営トップ層や営農部門以外の職員も全て GAP 研修 を受けている.また,履歴記帳と GAP のチェックに関して 定期的に内部監査を実施し,農薬の適正使用を重点的に指 導している.A 農協の農場検査結果の適合率は 4 農協中で 最も高かった.B 農協は,生産部会が組織的に GAP 実施に 取り組んでおり,農場管理規則(農薬・肥料・土・水・種 苗の取扱,食品衛生,環境保全,作業安全に関する規則) を定めており,選果場などには GAP の標語を掲示するなど して,農産物の衛生的取扱い規則の順守に努めている.B 農協の農場検査結果の適合率は 2 番目に高かった.A,B, C,D いずれの農協も,農業者の農薬使用記録からその適 正使用について確認はしているが,D 農協だけは使用記録 が圃場ごとになっていないために,使用回数や収穫前日数 の正確な確認ができないなど,管理への取組がされていな い.その D 農協の農場検査結果の適合率は最も低かった. これらから,GAP 研修会の開催で GAP の認識を高く持っ て内部監査を実施する A 農協の適合率が最も高く,生産部 会の農場管理規則に組織的に取り組んでいる B 農協の適合 率が 2 番目に高いなど,営農指導のあり方や管理方式の違い などに表れる農協事務局の GAP への取組の努力が,農業者 の GAP 実施の結果となって表れているものと考えられる. 不適合では特に,「生産部会の組織管理に関する不備」お よび「選果場等農産物取扱施設の運営管理の不備」は,4 農協に共通する重要な不適合項目であった. 生産部会の組織管理に関する不備 栽培基準のような生産管理に関する規則(農場管理規定) は,2 農協にはあるが,他の農協にはなかった.内部監査 制度や諸規則の順守に関する規定,規定違反者に対する制 裁処置などは,いずれの農協にもなかった.また,生産部 会として販売した農産物商品のトレーサビリティ,商品ク レームへの対応手順,それらに関する組織としての責任体 制などが整備されておらず,これらに関する文書規程(事 務管理規定)も整備されていなかった.1 農協で内部監査 が実施されている形跡はあるが,監査の規則やその実施体 制は充分であるとは評価できなかった. 図 1 農協事務局と農家農場の GAP 外部審査と農場 の自己評価

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生産現場における GAP を確実なものにするためには,農 業者と農協とが一体となって法令順守ならびに積極的なリ スク管理を可能にする事業体制(農場管理システム)を確 立することが必要である. 選果場等農産物取扱施設の運営管理の不備 全ての農協で,選果場等の農産物取扱施設のリスクアセ スメントが行われていなかった.そのために実施(順守) すべき管理規則がなく,農産物取扱施設として多くの不備 が見受けられた.農協と農業者の「農産物取扱とその施設 の管理点」の適合率の比較を表 6 に示した.農業者の農産 物取扱に関する GAP は高い水準であるのに,農協の農産物 取扱に関する GAP は非常に低い水準であった. GAPの実施において,「農協は農業者の GAP を支援する」 ものではなく,「自らが GAP の実践者である」ことを認識 し,GAP の目的である「食品の安全性確保」と「持続的農 業生産システムの確立」に関して,農協自身が行う事柄を 整理して,事務局としての GAP を実現することが必要であ る(田上 2008).農業者が適切な農場管理を行って信頼さ れる農業経営者になるためには,生産部会が GAP を実施す る組織全体の問題として取り組み,統一ある生産部会管理 を行うことが必要であり,農協は,団体として GAP 管理を 行うために必要な「事務管理規定」と農業者が GAP を実践 するために必要な実施規則としての「農場管理規定」を整 備し,内部監査を含めた管理体制の強化を図る必要がある (田上 2009b).しかし,今回の実態調査の結果から,こう した点に対する農協の理解が必ずしも十分では無いことが 明らかになった. 農場の評価結果と考察 農場(農業者)に対する外部検査および自己評価の結果 と共に,農業者へのインタビューの結果を踏まえて,GAP 実施において農場が抱える問題点について考察した. 農協によって異なる農場のGAP実態 「農場チェックリスト」のうち,化学物質や病原細菌など による汚染に関するリスク管理上の重要度が高く,項目数 が 10 以上ある管理の重点項目「農薬の取扱,農薬の保管, 農産物の取扱,環境負荷の低減」の農場検査適合率を表 7 に集計した. 同一農協の 2 農場間の適合数の格差は比較的小さく,2 農場を合計した農協の間の格差は,適合率の農協の平均で, 71.2%,69.7%,59.4%,48.9%と大きい. 農薬の適正使用を重点的に指導している A 農協の農業者 は,重点項目とされる上記の各項目で,農場全体の 120 項 目の平均適合率を上回っている.農産物の衛生的取扱に力 を入れている B 農協の農業者は,「農産物の取扱,環境負 荷の低減」は A 農協と同じく高い適合率であるが,「農薬 の取扱,農薬の保管」の農薬の項目は A 農協より下回って いる.C 農協でも,「農薬の取扱,農薬の保管」で低く,「農 産物の取扱,環境負荷の低減」で高いという傾向は B 農協 と同じであるが,全体で適合率が低い.D 農協は全ての項 表 6 農協と農業者の農産物取扱とその施設の管理点の適合比率の比較 チェックリストの項目分類 項目数 判定項目数 適合項目数 適合率 事務局チェックリスト共同選果場 20項目中,2項目が該当外 18項目×4農協=72 19  26.4% 農場チェックリスト農産物の取扱い 19項目中,1項目が該当外 18項目×8農場=144 109  75.7% 較差49.3% 表 7 項目数の多い管理点の農場検査適合率 農場チェックリストの 項目分類 A農協の 2 農場と 合計 B農協の 2 農場と 合計 C農協の 2 農場と 合計 D農協の 2 農場と 合計 適合の合計 ア)農薬の使用30項目 22 + 22  44  21 + 19  40  17 + 14  31  16 + 11  27  142  適合率 73.3% 66.6% 51.7% 45.0% 59.2% イ)農薬の保管15項目 12 + 10  22  8 + 6  14  9 + 6  15  8 + 8  16  67  適合率 73.3% 46.7% 50.0% 53.3% 55.8% ウ)農産物の取扱18項目 16 + 17  33  16 + 16  32  15 + 9  24  8 + 13  21  110  適合率 91.7% 88.9% 66.7% 58.3% 76.4% エ)環境負荷低減10項目 7 + 9  16  8 + 9  17  8 + 9  17  5 + 7  12  46  適合率 80.0% 85.0% 85.0% 60.0% 77.5% オ)全120項目の適合率 71.2% 69.7% 59.4% 48.9% 62.2% * 正数は項目数,%は適合率である.

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目で,4 農協の平均適合率を下回っている. 環境負荷の低減に関して,「栃木県 GAP 導入指針」に「環 境への負荷軽減」の方針が示されているが,GAP 推進事業 で農協や農業者に提示した「GAP 実施マニュアル」および 「GAP チェックリスト」には環境負荷低減の記述がない.し たがって農業者は,「環境負荷の低減」を GAP 実施の管理 項目としては意識していなかったと思われるが,GAP 農場 検査の結果では,2 農協が「良い」,2 農協が「比較的良い」 という判定結果であった. 共通した不適合事項 所属する農協とは関係なく,全ての農業者が不適合と なっている事項,すなわち,農場検査の結果の適合率が 0/ 8の項目は,次のような項目であった. 生産計画に関しては,栽培計画書の作成(0%),商品に 問題が発生した際の対応手順(0%),農薬の使用記録に関 しては,全ての使用農薬の記録(0%),作業者名の記録(0 %),農薬の取扱に関しては,散布機の修理記録(0%),農 薬がこぼれた場合の対応(0%),農薬の在庫管理(0%), 農薬使用者の防護器具(0%),肥料の取扱に関しては,肥 料成分の記録(0%),散布機などの修理記録(0%),肥料 の在庫管理(0%),作業者の安全に関しては,事故防止の 対策(0%)である. 以上のような全ての農業者が不適合となった項目は,判 定結果表だけ見れば,農業者に共通する問題点のように見 えるが,そのほとんどは農協事務局の農場管理システムと 連動している.事務局の監査結果によれば,生産部会の構 成員の把握に関して,ほとんどの農協で,農業者の氏名, 住所,作物名,栽培面積までは把握するが,圃場の所在地 や圃場ごとの作付け計画,生育ステージ,出荷計画などは, どこの農協でも要求していない.そのため,農業者の農場 検査結果では,農場の地図や一覧表がない,栽培計画書が ない,商品に問題が発生した際の対応手順がない,などの 項目が不適合になっている. 栽培計画書やトレーサビリティ,クレーム対応に関する 記録書類など,農業者が対応すべき規則や書式が存在しな いため,農業者が実施していないのは当然と考えられる. 農薬や肥料の取扱に関しても同様と考えられる.ほとん どの農協の農場管理システムでは,農薬はラベルを読んで 処理すること,ドリフトの注意,作物に使用した農薬の記 録のみを求めている.したがって農業者は,農薬であって も除草剤や殺鼠剤などの使用は記録していない.肥料・農 薬も,記録用紙は農協で統一されているが,その中に作業 者の名前や使用した散布機などの記入欄がないため,農業 者は当然記入していない. 農薬の保管に関しては,法令で規定されている鍵のかか る保管庫を持たないか,持ってはいるが農薬保管庫として の要件を満たしていないものが多く,それらを加えると, 全ての農業者に共通の不適合事項であった.農薬の空容器 の適切な保管(12.5%)や,液剤と粉剤の別保管(12.5%) なども,農薬がこぼれた場合の対応(0%)や作業者の安全 対策(0%)などとともに,共通した不適合事項といえる. これらは,農協事務局の農場管理システムと直接連動した 管理事項ではないが,法令違反になりかねない事柄や,生 産部会の構成員の健康被害に直結しかねない事項なので, 事務局としては,リスク評価の現地研修会などの実践的指 導を行うなどの GAP 支援体制を強化して取り組むべき「農 協の問題点」であるとも言える. 農協の違いによる不適合事項 同じ農協の農業者が共通して不適合になっている管理項 目がある.肥料・農薬の使用記録内容の不適合は,その傾 向が強い.記録用紙の様式が必要事項を満たしていなけれ ば,農業者はその様式を使うことで結果として管理不適合 となるのである.また,農薬の空容器を焼却処分している ために不適合と判定された農場が多い中で,同じ農協の 2 農業者は,「JA の回収制度を利用している」ということで 適合になっている.農協の農場管理システムによって,農 場が GAP になる(適正な農場管理)か,GAP にならない (不適正な農場管理)かが決まる事例である. 農産物の取扱に関しては,同じ農協の農業者が共通して 不適合になっている管理項目が見受けられる.特に農産物 の調製施設に関しては,農協ごとの適合と不適合に較差が ある.不適合のコメントで,「農産物予冷庫のドアの直前に 農薬保管庫がある」,「予冷庫の上に家庭用殺虫スプレーが ある」,「予冷庫内に植物成長調整剤が保管されている」,「作 業所周辺に生活用品や掃除用具が置かれている」,「掃除用 具が調製作業台の近くに置かれている」,「作業所で休憩・ 飲食が行われている」などと指摘されている.管理項目の 多くが適合になっている農場の調製施設には,「農薬の取扱 注意」や,「作業場の整理・整頓・清掃」などの具体的な注 意事項が書かれた,農業者が守るべきルールとして農協が 作製したポスターなどが貼られており,一見して農協の指 導による GAP 水準の相違と分かる. GAPの指導内容とGAP実施の精度 GAP実施の精度,つまり適正農業管理の水準や農業者に よるバラツキの程度などは,「GAP 導入を推進する者が,ど のような規準を作ったのか」,「GAP 導入の主体者が,どの ような農場管理システムを構築したのか」,「生産現場の当 事者が,どれだけの認識で実施したのか」によって決まる ものと考えられる. また,GAP を実施している農業者の「認識の水準」は, 農業者が所属する農協の「GAP の水準」と正比例の関係に なり(図 1),「GAP の水準が高いグループほど GAP の認識 が高い」と考えられる.農場検査の判定順位は,事務局監 査の判定順位と良く一致しており,以下のような傾向が示 唆される. それらは,「事務局の農場管理システムの水準が高いほ ど,農業者グループの GAP の水準が高い」,「農業者グルー プの GAP の水準が高いグループほど,GAP についての認

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識が高い」,「事務局の指導や適切な農場管理システムに よって農業者の GAP 水準が向上する」などである. 以上のようなことから,「地域の GAP の精度は,農協事 務局による GAP の適切な指導によって大きく向上する」と 考えられる.

結語

本研究では,GAP を導入する組織の主体である農協と, GAPを実施する当事者である農業者の取組の実態を確認 し,GAP 普及の問題点を明らかにした. 具体的には,GAP 先進県の 1 つであると評価されていた栃木県内の 4 農協と その生産部会に所属する農業者を対象に,JGAP 規準に基 づく自己評価と外部審査による GAP の実態調査を行った. その結果, GAP 実施の水準は,農業者は「比較的良い」レ ベルであるのに対し,農協事務局は「問題あり」のレベル であることが明らかになった.その原因としては,農協事 務局には,農場管理システムの知識が充分になかったこと と,農協自体が GAP 実践の主体者であるという認識が無 かった点が示唆された.また,農協によって事務局の農場 管理システムが質的に異なっており,質が高いほど農業者 の GAP レベルが高いことが判った.さらに,農業者の GAP レベルが高いグループほど,個人の GAP についての認識も 高いことが判った. その結果,次のような諸点が指摘できる.複数の農業者 で運営され,農業経営を完結する農協のような経営体では, 事務局が主体となって組織の構成員全体の農場管理システ ムを構築することが必要である.この場合の事務局は,農 場管理システムに基づいて組織の構成員である農業者に GAPのトレーニングを実施することが必要である.農業者 は,「農業者が守るべき最低限のマナー」として,環境保 全・減農薬・減化学肥料の農業により,環境に配慮した持 続的農業生産に努めることが必要である. GAP農場の外部検査の適合率が 71.18%と高い水準の A 農協では,営農担当者だけではなく,経営のトップ層から 営農以外の管理職,販売部門担当者,購買担当者に至るま で,GAP の研修会に参加している.GAP を農業者が個人的 に行うべき営農技術であるとして,営農担当者に任せてい る組織ほど,事務局も農場も GAP の水準が低いといえる. GAPを単なる営農管理手法としてみるのではなく,求めら れる農業のための「新たな姿勢」であると捉えて取り組む べきである. これらは,4 農協とそれぞれに属する農業者の調査結果 から得られた結論であるが,日本の農業は,大多数が同じ ような経営規模と組織形態で運営されている.従って,こ れらの諸点は日本の他の多くの地域にも適用することがで きる. なお,本稿は,調査データの 1 次集計結果から見える概 要を分析したものであり,その他の様々な視点からの分析 が必要である.今後さらに分析を進め,GAP の精度向上に 向けた詳細な情報を得ることが必要であると考えている. また,外部監査を行った農協事務局および農業者(農場) の数は,必ずしも多いとはいえず,上記の結論を一般化す るためには,自然的環境条件の異なる地域や,都市型農業 と過疎地農業地域などでも同様の調査を実施する必要があ る.これらは,今後の課題である. 引用文献

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Agricultural Information Research 18(4) 2009. 199-208

Current Status and Future Challenges of GAP Operation in Japan:

Analysis of a Field Investigation in Tochigi Prefecture

Ryuichi Tagami*

1)

, Akahiko Hino

2)

, Ryuta Tagami

1)

and Teruaki Nanseki

3)

1) AGIC Co. Ltd., Matsushiro 4-9-26-203, Tsukubashi, Ibaraki 305-0035, Japan 2) Tochigi Prefecture, Hanawada 1-1-20, Utsunomiyashi, Tochigi 320-8501, Japan 3) Kyushu University, Hakozaki 6-10-1, Fukuoka 812-8581, Japan

Abstract

We examined the current status and future challenges of good agricultural practice (GAP) operation in Japan. The status of four JAs (Japan Agricultural Cooperatives) and their 668 member farmers in Tochigi Prefecture, where GAP operation is most advanced, was surveyed by self-evaluation questionnaire and investigation of outsiders on the basis of the Japan GAP standard. The survey results indicated that (1) levels of achievement in GAP operation by farmers was good, whereas those of JA staff were poor; (2) these poor achievement levels resulted from the fact that JA staff did not have sufficient knowledge of the GAP management system and were not aware that the JAs themselves had to take the initiative; (3) GAP management systems differed qualitatively among JAs, and an increased level of GAP management in a JA resulted in an increased level of GAP operation by its farmers; and (4) an increased level of GAP understanding by farmers resulted in an increased level of GAP operation.

We conclude that, in order to improve understanding of GAP and the quality of GAP operation in regional agriculture, JAs need to improve the quality of their GAP management systems by understanding the meaning and content of GAP and to conduct GAP training of their farmers under the GAP management systems.

Key words

GAP, good agricultural practice, audit, inspection, farm management system

* Corresponding Author E-mail: rtagami@agic.ne.jp

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