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地域包括ケアにおける「自助」「互助」の課題

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 728 42 巻第 8 号 728 ~ 729 頁(2015 年) 理学療法学 第 42 巻第 8 号. 大会シンポジウム 9. 地域包括ケアにおける「自助」「互助」の課題* ─支援者-被支援者の固定的関係性からの脱却─ 松 繁 卓 哉**. として「自助」を振興していくために事実上「公助」が拡大す. はじめに. ることになり,その度合いが強くなっていった場合には本末転. 本稿は,地域包括ケアシステムの担い手として想定されてい 1). 倒ともいえる状況が生みだされる。なぜなら,今日の社会保障. る「自助」「互助」「共助」「公助」 のうち,特に「自助」と. や地域包括ケアをめぐる議論の中で「自助」と「互助」が重視. 「互助」に焦点をあてながら,シンポジウムの主題「街づくり. されるようになったのは,有限の資源としての介護・医療の. における理学療法士の役割─自助・共助の街づくりは人づくり. サービス(すなわち「共助」「公助」)を極力抑えるために重点. ─」に関しての一提言を試みるものである。ここで一点,つけ. 配分(重度の人には厚く,軽度の人には自助努力を要請)しな. 加えておくべきは,「自助」と「公助」が比較的共通した認識. ければならない切迫した状況があるからである。しかし,これ. をもちやすいのに対して,「互助」と「共助」の定義づけのあ. までの国内における「自助」の議論において,この点に光があ. り方には一定の幅が見られる点である。厚生労働省の老人保健. てられることは稀であった。. 健康増進等事業により立ち上げられた地域包括ケア研究会の報. 「互助」についても同様のことがいえる。地域包括ケアの名. 告書. 1). では,「互助」は「インフォーマルな相互扶助」たとえ. ば「近隣の助け合いやボランティア等」として定義されており,. のもとに,現在,各地域で,単に医療と介護の統合を図るだけ でなく,地域住民のボランタリーな活動を促進し,包括ケアと. 「共助」は「社会保険のような制度化された相互扶助」と定義. の「有機的な統合」をめざす動きが活発になってきた。一部の. されている。一般的には前者の意味合いで「共助」といわれる. 地域では,自治体の施策として(つまり公費が投入されて),. こともあり,区別がはっきりしていないのであるが,言葉の用. そのような地域住民のボランタリーな行動の「有効性」の評価. い方自体は,地域包括ケアが抱える本質的な問題に比べれば,. がなされている。こうした取り組みが一層強化されていくと,. ごく些末な問題である。本稿では便宜上,上記の地域包括ケア 研究会の区分法にしたがって論じていくこととする。. 「自助」「互助」をめぐる問題. 「自助」「互助」を動員し,これを評価していくコストのかかる 仕組みが創出されてしまうことになるが,この点もまた国内の 議論において俎上に載ることは稀であった。医療や福祉の社会 保障給付費の増大に目がいく一方で,「動員」「振興」「評価」. さて,本稿において問題の所在として考えているのは,他で. 等のガバナンスのための費用は計算の外に置かれたまま議論が. もなく今日の「自助」「互助」の捉え方であり,そこから生じ. 進んでいる。. るいくつかの現実的課題である。具体的には,第一に「自助」. このように,一定レベルの抽象度を残した概念化の状況があ. 「互助」とはそもそもどのような行動を指すのか,そして,そ. る中で,具体的な施策の展開の中で様々な認識のズレを内包し. れぞれは誰が担い手となっているのかという点である。上述の. ているのが日本の現況であり,今後,日本社会における「行政. 地域包括ケア研究会のような定義の一例は存在するものの,一. と自助・互助」との関係のあり方をめぐる合意形成プロセスの. 定の抽象度を残すものとなっているため,具体的に行動に移そ. 進展は注意深く見続けていく必要があるだろう。. うとする場面になって,関与者の間に認識のズレが生じる可能 性がある。たとえば,「自助」を促進するために,医療専門職. イギリスにおける動向. 従事者が動員されることがある。住民向けの健康講座や指導的. この点を考えると,日本よりも早く医療財政の危機的状況が. 介入等である。そこになんらかの人件費が発生するとき,結果. 顕在化し,国策としてセルフケアの振興に取り組んできたイギ. *. Challenges of Self Care and Mutual Aid in Japan’s Integrated Community Care: Departure from the Stereotyped CaregiverCare Recipient Relationship ** 国立保健医療科学院 医療・福祉サービス研究部 主任研究官 (〒 351–0197 埼玉県和光市南 2–3–6) Takuya Matsushige: Department of Health and Welfare Services, National Institute of Public Health キーワード:自助,互助,地域包括ケア. リス社会の動向は様々な示唆に富む。イギリスの場合,医療は 税で賄う国営サービスであるところが,社会保険の仕組みをと る日本とは異なる。それだけに一層,逼迫した状況に対する国 の対応を求める声はイギリスにおいて大きかったものと思われ る。実際,イギリス政府は 2000 年代に入ってからセルフケア を振興する施策の充実に取り組んできた。たとえば,疾病の症.

(2) 地域包括ケアにおける「自助」「互助」の課題. 729. 状・進行の段階ごとに,セルフケアで十分に対応が可能な心身. 行い,送り迎えの支援をすれば,この人は地域における料理教. の状態と医療機関の受診を要する状態とに区分し,これまでに. 室の講師を務め,他の高齢者の支えとなることさえできるわけ. 前者の状況にある者が医療機関のサービスを利用してきたこと. である。. により生じた支出額の推計が重ねられてきた。算出された額. ここで重要な点は,地域の問題を解消するために,地域内に. は,いずれも「不適切」な医療資源の利用による「損失」とし. ある資源(人的資源を含む)を効果的に活用することで持続可. て認識され,セルフケアで対応できる状況と,その解決手段に. 能性を強く意識しているところであり,さらにいえば,「支援. 関する詳しい情報提供体制の整備が重点課題として取り組まれ. される立場」と「支援する立場」という固定化された 1 対 1 の. てきた。(紙幅の都合により,イギリスのセルフケア振興策の. 関係モデルからの脱却を図っているところにある。こうした取. 詳細については,別紙. り組みの背景には,従来型の「ニーズのある人=支援対象者」. 2–4). を参照されたい。). 国策の柱のひとつとしてセルフケアの振興が取り組まれてか. という固定的客体化があり,これは“deficit approach”(欠損. ら 10 年以上が経過し,その間イギリス社会では様々な議論が. を埋めるアプローチ)と呼ばれ,支援をしているように見えて. 生まれた。社会学者の Michael Bury は,セルフケアへの人々. 実際には地域を弱体化させるだけのものとして問題視されてい. のコミットメントを求める言説が,個人的側面(個人的責任,. る。反対に,上述のような新たな「マッピング」の根底には,. 個人的要因,自助努力の強調)に偏った公衆衛生施策を増強し. “asset approach”(資源最大活用アプローチ)と呼ばれる視点. たと指摘した 5)。また,整備が進められてきたセルフケアのス. があり,「支えられながらも支えることのできるよろこび」を. キル向上のための各種プログラムの有効性の評価も進められて. 重視し,これが持続可能な仕組みには欠かせないものとして捉. きたわけであるが,客観的な「健康指標」にのみ評価の主眼が. えられている。. 向けられてきたことへの批判も生まれた。つまり,プログラム の受講によって「症状の軽減」「通院頻度の減少」等があった. 結 語. のかどうかという点ばかりが注目されてきた一方で,当事者の. 街づくりに保健・医療・福祉の専門技能・専門知識を注ぎこ. 意識レベルにどのような変容が生まれたのかという点は軽視さ. むことは重要であるが,ともすると既存の支援観にからめとら. れてきた。セルフケアの意識が高まることが,その人の身体観,. れ,「支援する側・支援される側」の 1 対 1 の固定的関係を絶. 医療観,死生観に影響を及ぼす可能性,医療に対する期待水準. え間なく生みだし,はつらつとした「街づくり」とは程遠い状. や利用のあり方に質的な変化を及ぼす可能性などに目を向ける. 態を招きかねないことを留意しておく必要はあるだろう。した. 必要性が提起されたものの,これまでの「有効性の評価」の取. がって,一人ひとりの有する「資源」,たとえば残存機能,能力,. り組みの中では,そうした点に目が向けられる機会は限られて. 意欲,社会環境を広い視野から把握し,かつ,地域資源の十分. きた。このように,セルフケアの本来もつ多義性が十分に理解. な把握も伴ったうえで「マッピング」を行える人材が不可欠で. されず,医療の視点からのみ皮相的に取り扱われてきた側面が. ある。. あった。 イ ギ リ ス の 地 域 に お け る「 互 助 」 の 振 興 の 取 り 組 み に も,発想の展開を図る新しい動向を見て取れる。たとえば “Community Skills”と呼ばれる取り組みでは,地域の中にど のような人が暮らしているか,特技はなにか,どのような支援 が必要で,それによってどのようなことができるようになる か,というように,支援を要する地域住民一人ひとりの置かれ ている状況をつぶさに見ていき,最終的にニーズの「マッチン グ」を行う。たとえば,妻に先立たれたひとりの高齢男性は, 料理が得意で人に教えるほどの腕前である。しかし,男性宅を 訪問したワーカーは,冷蔵庫に期限の切れた食材がたくさんあ ることに気づく。つまり,この人の場合,亡くなった妻に長い 間,日常の買い物を依存していたために,計画的に食品を購入 することができないわけである。しかしながら,買い物支援を. 文 献 1) 地域包括ケア研究会:地域包括ケア研究会 報告書─今後の検討 のための論点整理─.厚生労働省平成 20 年度老人保健健康増進等 事業,2009. 2) 松繁卓哉:「患者中心の医療」という言説―患者の「知」の社会 学―.立教大学出版会,東京,2010. 3) 松繁卓哉:地域包括ケアシステムにおける自助・互助の課題.保 健医療科学.2012; 61(2): 113–118. 4) 松繁卓哉:イギリスにおけるセルフケア振興の取り組み.厚生労 働省平成 25 年度老人保健健康推進事業ケアマネジメントへの高齢 者の積極的な参画に関する調査研究事業報告書(第 4 章).2014, pp. 67–75. 5) Bury M,Newbould J, et al.: A rapid review of the current state of knowledge regarding lay led self-management of chronic illness. National Institute for Health and Clinical Excellence, London, 2005..

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参照

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