地域包括ケアにおける「自助」「互助」の課題
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(2) 地域包括ケアにおける「自助」「互助」の課題. 729. 状・進行の段階ごとに,セルフケアで十分に対応が可能な心身. 行い,送り迎えの支援をすれば,この人は地域における料理教. の状態と医療機関の受診を要する状態とに区分し,これまでに. 室の講師を務め,他の高齢者の支えとなることさえできるわけ. 前者の状況にある者が医療機関のサービスを利用してきたこと. である。. により生じた支出額の推計が重ねられてきた。算出された額. ここで重要な点は,地域の問題を解消するために,地域内に. は,いずれも「不適切」な医療資源の利用による「損失」とし. ある資源(人的資源を含む)を効果的に活用することで持続可. て認識され,セルフケアで対応できる状況と,その解決手段に. 能性を強く意識しているところであり,さらにいえば,「支援. 関する詳しい情報提供体制の整備が重点課題として取り組まれ. される立場」と「支援する立場」という固定化された 1 対 1 の. てきた。(紙幅の都合により,イギリスのセルフケア振興策の. 関係モデルからの脱却を図っているところにある。こうした取. 詳細については,別紙. り組みの背景には,従来型の「ニーズのある人=支援対象者」. 2–4). を参照されたい。). 国策の柱のひとつとしてセルフケアの振興が取り組まれてか. という固定的客体化があり,これは“deficit approach”(欠損. ら 10 年以上が経過し,その間イギリス社会では様々な議論が. を埋めるアプローチ)と呼ばれ,支援をしているように見えて. 生まれた。社会学者の Michael Bury は,セルフケアへの人々. 実際には地域を弱体化させるだけのものとして問題視されてい. のコミットメントを求める言説が,個人的側面(個人的責任,. る。反対に,上述のような新たな「マッピング」の根底には,. 個人的要因,自助努力の強調)に偏った公衆衛生施策を増強し. “asset approach”(資源最大活用アプローチ)と呼ばれる視点. たと指摘した 5)。また,整備が進められてきたセルフケアのス. があり,「支えられながらも支えることのできるよろこび」を. キル向上のための各種プログラムの有効性の評価も進められて. 重視し,これが持続可能な仕組みには欠かせないものとして捉. きたわけであるが,客観的な「健康指標」にのみ評価の主眼が. えられている。. 向けられてきたことへの批判も生まれた。つまり,プログラム の受講によって「症状の軽減」「通院頻度の減少」等があった. 結 語. のかどうかという点ばかりが注目されてきた一方で,当事者の. 街づくりに保健・医療・福祉の専門技能・専門知識を注ぎこ. 意識レベルにどのような変容が生まれたのかという点は軽視さ. むことは重要であるが,ともすると既存の支援観にからめとら. れてきた。セルフケアの意識が高まることが,その人の身体観,. れ,「支援する側・支援される側」の 1 対 1 の固定的関係を絶. 医療観,死生観に影響を及ぼす可能性,医療に対する期待水準. え間なく生みだし,はつらつとした「街づくり」とは程遠い状. や利用のあり方に質的な変化を及ぼす可能性などに目を向ける. 態を招きかねないことを留意しておく必要はあるだろう。した. 必要性が提起されたものの,これまでの「有効性の評価」の取. がって,一人ひとりの有する「資源」,たとえば残存機能,能力,. り組みの中では,そうした点に目が向けられる機会は限られて. 意欲,社会環境を広い視野から把握し,かつ,地域資源の十分. きた。このように,セルフケアの本来もつ多義性が十分に理解. な把握も伴ったうえで「マッピング」を行える人材が不可欠で. されず,医療の視点からのみ皮相的に取り扱われてきた側面が. ある。. あった。 イ ギ リ ス の 地 域 に お け る「 互 助 」 の 振 興 の 取 り 組 み に も,発想の展開を図る新しい動向を見て取れる。たとえば “Community Skills”と呼ばれる取り組みでは,地域の中にど のような人が暮らしているか,特技はなにか,どのような支援 が必要で,それによってどのようなことができるようになる か,というように,支援を要する地域住民一人ひとりの置かれ ている状況をつぶさに見ていき,最終的にニーズの「マッチン グ」を行う。たとえば,妻に先立たれたひとりの高齢男性は, 料理が得意で人に教えるほどの腕前である。しかし,男性宅を 訪問したワーカーは,冷蔵庫に期限の切れた食材がたくさんあ ることに気づく。つまり,この人の場合,亡くなった妻に長い 間,日常の買い物を依存していたために,計画的に食品を購入 することができないわけである。しかしながら,買い物支援を. 文 献 1) 地域包括ケア研究会:地域包括ケア研究会 報告書─今後の検討 のための論点整理─.厚生労働省平成 20 年度老人保健健康増進等 事業,2009. 2) 松繁卓哉:「患者中心の医療」という言説―患者の「知」の社会 学―.立教大学出版会,東京,2010. 3) 松繁卓哉:地域包括ケアシステムにおける自助・互助の課題.保 健医療科学.2012; 61(2): 113–118. 4) 松繁卓哉:イギリスにおけるセルフケア振興の取り組み.厚生労 働省平成 25 年度老人保健健康推進事業ケアマネジメントへの高齢 者の積極的な参画に関する調査研究事業報告書(第 4 章).2014, pp. 67–75. 5) Bury M,Newbould J, et al.: A rapid review of the current state of knowledge regarding lay led self-management of chronic illness. National Institute for Health and Clinical Excellence, London, 2005..
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