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乳幼児を育児中の女性の月経随伴症状と子どもへの対応に関する検討

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Academic year: 2021

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原  著

乳幼児を育児中の女性の月経随伴症状と

子どもへの対応に関する検討

Study on menstruation-related symptoms among women

raising infants and their handling of children

島 田 真理恵(Marie SHIMADA)

*1

茅 島 江 子(Kimiko KAYASHIMA)

*2

鈴 木 美 和(Miwa SUZUKI)

*3 抄  録 目 的  乳幼児を育児中の女性の月経周期各期における月経随伴症状の実態と月経随伴症状タイプ別にみた月 経周期による子どもへの対応状況の変化を明らかにする。また,月経随伴症状タイプによって,睡眠状 況や健康状態,育児サポートに対する受け止め,生活に対する満足感,育児に対する感情に差があるか どうかを明らかにする。 対象と方法  乳幼児を育児中の女性192名に対し,月経周期各期(月経後,月経前,月経期)における月経随伴症状 と子どもへの対応状況について質問紙調査した。また,初回調査時には,睡眠状況や健康状態,育児サ ポートに対する受け止め,生活に対する満足度,育児に対する感情についても回答を得た。有効回答者 172名(89.6%)の結果を統計的に分析した。 結 果 1.対象(平均年齢35.6歳)を月経随伴症状のタイプ別に分類した結果,月経随伴症状が軽微な者が60名 (34.9%),月経痛症の傾向がある者が29名(16.9%),PEMSの傾向のある者が53名(30.8%),PMSの傾 向のある者が30名(17.4%)であった。 2.月経随伴症状タイプ別にみた月経周期による子どもへの対応状況の変化では,PEMSの傾向がある 群は,月経期において感情的対応,養育的対応得点がともに有意に低下した。 3.PEMSの傾向がある群は,他群と比較して,疲れやすい・体調を崩しやすいと回答した者の割合が 多かった。また,月経随伴症状が軽微な群と比較して,育児サポートに対する受け止めにおける「夫の 育児・協力」の得点が有意に低く,過去および現在の生活の満足度を示す得点も有意に低かった。 結 論  乳幼児を育児中の成熟期女性の月経随伴症状を分類した結果,PMSのみならず10∼20歳前半女性 に多いと言われるPEMSの傾向にある者が多く存在する可能性があることが明らかとなった。また, *1聖母大学(Seibo College)

*2東京慈恵会医科大学(The Jikei University, School of Nursing)

*3東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科(Graduate School of Health Sciences, Tokyo Medical and Dental University)

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Ⅰ.は じ め に

 女性にとって子どもを育てることは,様々な喜びを もたらし,自身を成長させる体験である。しかし,年 中無休で乳幼児への対応を余儀なくされることで,子 どもをきつく叱ってしまう,感情的に接してしまうと いった悩みを抱くことも多い。そして,このような悩 みには,夫との関係性の問題,育児へのサポートが不 十分である事などが大きく関連していることが明らか となっている(大原,2001;中添ら,1999;巽&小野, 2004)。  また,川瀬ら(2004)は,成熟期女性における月経 前症候群(以下PMSとする)の実態を調査した結果, 未産婦は乳房の張り,下腹痛といった身体的症状を訴 える率が有意に高く,経産婦はいらいら,怒りやすい などの精神症状が有意に高いことを明らかにした。こ のような報告から,子どもに感情的に接してしまうと いう悩みをもつ女性は,その原因が,PMSを含む月 PEMSの傾向がある者は,月経期において子どもへの対応能力が低下する,夫のサポートが十分でない と認識する,生活に対する満足感が低いという傾向がみられた。育児支援においては,対象となる女性 の月経随伴症状の把握やその軽減への援助を考慮する視点も必要である。 キーワード:月経随伴症状,女性,育児サポート,生活に対する満足感 Abstract Purpose

To examine the reality of menstruation-related symptoms among women raising infants in various stages of menstruation, and identify changes in their handling of their children through a menstruation cycle, broken down by the types of menstruation-related symptoms: To study whether the types of menstruation-related symptoms could cause variations in the mothers' sleeping status, health status, perception of parenting support, sense of satis-faction in life and feelings toward parenting.

Methods

The study distributed questionnaires to 192 women currently raising infants concerning their menstruation-re-lated symptoms and handling of the children during different stages of a menstruation cycle (follicular phase, luteal phase and menstruation period). At the time of the initial survey, the samples were also asked about their sleeping status, health status, perception of parenting support, sense of satisfaction in life and feelings toward parenting. Sta-tistical analysis was conducted on 172 valid responses (89.6%).

Results

1. According to the types of menstruation-related symptoms, the samples (with the average age of 35.6) were divided into those with minor symptoms (60 samples, 34.9%), those with the tendency of period pain (29 samples, 16.9%), those with a PEMS tendency (53 samples, 30.8%) and those with a PMS tendency (30 samples, 17.4%).

2. As for their handling of children, broken down by the types of menstruation-related symptoms, the group with a PEMS tendency returned significantly lower scores in emotional and nurturing attitudes during the men-struation period.

3. Compared to other groups, the group with the PEMS tendency had a greater proportion of samples who re-ported proneness to tiredness and health conditions. This group, compared to the group with lighter menstruation-related symptoms, returned a significantly lower score in "husband's participation/cooperation in parenting" in the question concerning their perception of parenting support. The score indicating their level of satisfaction in the past and present life was also significantly low.

Conclusion

The breakdown of menstruation-related symptoms among matured women raising infants has indicated the possibility that many of them have a PEMS tendency, which is considered to be more typical among women in their teens to early 20s. Those with a PEMS tendency are likely, during the menstruation period, to suffer a compromised capacity in handling children, feel that their husband do not provide sufficient support, and indicate a low level of satisfaction in life. These findings point to the need to, when formulating parenting support, identify menstruation-related symptoms of applicable women, and consider extending assistance in reducing the symptoms.

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経随伴症状によるものでないかどうかを確認し,月経 随伴症状が原因であると考えられる場合には,症状に 応じたセルフケアを行うことが問題解決策となりうる ことが推察される。しかし,これまで女性の性周期に よる子どもへの対応状況の変化を明らかにした研究は 行われていない。  さらに経産婦の月経前症状で,精神症状が強く表 れるのは,どのような理由からであろうか。川瀬ら (2004)は出産を契機としてセロトニン作動性機能の 変化が生じる女性達がいることが示唆されると述べて いる。森ら(2004)は,成熟期女性を対象とする研究 で,必要な時にサポートをしてくれる人がいる者はそ うでない者よりPMS症状(イライラ,怒りやすい,攻 撃的になる,家族や友人への暴言など)が軽度である こと,子育ては楽しいと自覚している者は,そう感じ ていない者より月経中の症状(PMSと同様の症状)が 軽度であることを明らかにしており,PMS症状は生 活の満足度の影響を受けるのではないかと考察してい る。子育て中の母親にとって,周囲からの育児に対す るサポートや育児に対する感情は,日常生活ストレス に大きく関わる因子である。及川ら(2004)は,乳幼 児を持つ母親は不眠傾向が見られ,疲れや気分が重く 感じる傾向があると報告しており,北川ら(1999)も 乳幼児をもつ母親のQOLに関する調査において,低 年齢児の母親,中でも0歳児の母親は,育児をはじめ とする現在の生活に満足感や爽快感が得られていない のではないかと報告しており,それらが月経随伴症状 を強くしていることも推察される。  また,現代においても女性は月経のみならず,男女 の性的役割意識のズレなどから,自らの性について, 不満や抵抗を持つ状況におかれ,女性の自己受容が難 しい(佐藤,2005)という指摘にみるように,女性が現 在置かれている自身の状況を十分受け入れられていな いという,問題が関連していることも考えられる。  これらのことから,本研究は,育児が生活の中心と なる乳幼児をもつ女性の月経周期各期の月経随伴症状 の実態と月経随伴症状のタイプ別にみた各周期におけ る子ども(乳幼児)への対応状況の変化を明らかにす る。加えて,月経随伴症状のタイプによって睡眠状況 や健康状態,育児サポートに対する受け止め,生活に 対する満足感,育児に対する感情に差があるのかどう かを明らかにすることを目的とした。これらを明らか にすることは,育児中の女性に対する理解を深め,育 児支援を考慮する際の新たな視点を提供する可能性を もつと考えられる。 〈用語の操作的定義〉 月経後,月経前:本研究では,対象者の月経1周期に おいて,卵胞期,黄体期,月経期と推定される各時 期に月経随伴症状と子どもへの対応に関する質問紙 を配布し,回答を得ている。しかし,その際に基礎 体温測定やホルモン値測定などによって,明らかに その時期であることを確認してはいない。そのため, 卵胞期と推定される時期は月経後,黄体期と推定さ れる時期は月経前と表現する。 月経随伴症状:月経周期に随伴して起こる症状。月経 期に現れる症状のみを指す場合もあるが,本研究で は月経後,月経前および月経時におこる症状いずれ をも含む。また,本研究では,月経随伴症状のタイ プを4つに分類[月経随伴症状が軽微な群,月経痛 症の傾向がある群,周経期症候群(以下PEMSとす る)の傾向がある群,PMSの傾向がある群]して分 析を行っていく。 周経期症候群(PEMS:Perimenstrual syndrome,以 下PEMSと略す):川瀬(2005)が提唱した概念。「月 経前期から月経期にかけて起こり,月経中に最も強 くなる精神的・社会的症状で月経痛症に起因する症 状である」。 PMSの定義では,月経が開始すれば消失する月経 前の諸症状が,月経時にも続行し増強するため,従 来のPMSでは説明できない症候群と考えられる。 通常の研究では,PEMSの者もPMSの亜型として PMSの者と同じ群のなかに入れられている場合が 多いが,本研究では,上記概念にあてはまる者は PEMSとして別の群として扱うこととする。

Ⅱ.研 究 方 法

1.研究対象者  対象者は,首都圏で生活し,乳幼児(就学前の児) を1人以上育児中(上の子が学童期の子どもを持つ者 を含む)の20歳以上,45歳未満の成熟期女性とし,① 授乳を行っていない,②月経が順調である(かつ婦 人科疾患がない),③精神的疾患や日常生活に支障を 来す(食生活や生活上制限がある)身体的疾患がない, の3条件を満たした192名であった。 2.研究期間とデータ収集方法  研究期間は平成17年2月から6月であった。

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 研究対象者は,研究者および研究協力者の知人に対 象となる母親を紹介して貰う,地域の育児サークル活 動や育児相談などが行われている場に出向き,出会っ た母親らに声をかけ,協力依頼を行うといった方法で 募集した。それら対象者には,研究目的や方法,倫理 的に保証する事項を記載した協力依頼書をもとに調査 の主旨を説明し,協力依頼を行った。  協力に同意した者には,月経1周期における月経後, 月経前,月経期の各期(計3回:対象者によって回答 を開始した月経時期は異なる)の回答を得るために各 対象者の月経周期に応じて,研究者作成の自記式質問 紙を手渡すか,郵送法で配布した。質問紙の回答は, 研究者が回答期間と設定した時期に行ってもらい,郵 送法で返送するように依頼した。  なお,本来は,対象者に基礎体温を測定する,ある いはホルモン値の測定を行って,卵胞期あるいは黄体 期であることを確認して回答を得ることが望ましい。 しかし,対象者の負担が大きくなるため,月経各期の 回答期間を月経後は月経開始日から7∼10日目,月経 前は次回月経予定日より5∼2日前,月経期は月経開 始日より3日以内と指定し,できるだけ適切な時期に 回答が得られるように配慮した。 3.調査内容 1 )対象者の背景(初回調査のみ)  年齢,職業の有無(専業主婦をなしとし,なんらか の職業をもっている場合には勤務の状況にかかわらず ありと分類した),家族形態(核家族,拡大家族,夫の 単身赴任などによって母子で生活中の3つに分類した), 子どもの数と末子の年齢,睡眠の状態(睡眠時間,熟 眠感の有無,夜間に子どもに起こされるかどうかを質 問した),健康状態(健康である,疲れやすいまたは体 調を崩しやすい,日常生活に支障はないものの軽度の 持病があるまたは疾病を治療中の3つの選択肢を設定)。 2 )月経困難質問表(各時期に測定)  月経随伴症状の調査は,Moos作成のMDQ(Men-strual Distress Questionnaire)を日本語に翻訳した(秋 山&茅島,1979)MDQ翻訳版のTタイプ(その日の状 態を回答するタイプ)を用いて行った(以下MDQTと 称す)。MDQTは,性周期に関連する8愁訴群計47項 目で構成されるリッカート尺度であり,各項目につい て愁訴「なし」から「激しい」までの6段階のなかから あてはまる状況を回答してもらい,得点が高いほど自 覚が強いと判定される(なお,採点は愁訴なしを0点 とし,愁訴がある場合には自覚程度から激しいまでの 5段階を1∼5点とする)。 3 )「子どもへの対応」に関する質問表(各時期に測定) (表1)  月経各期における女性の子どもへの対応状況を知る ための質問紙を作成した(表1)。「子どもへの対応」と は,母親が乳幼児の子どもと関わる際にどのように関 わっていると自覚しているかを問うものであり,自己 の役割行動を自覚して子どもと関わっているかどうか, 自己の感情をコントロールして子どもと関わっている かどうかという2つの構成概念からなると考え,10の 質問項目で構成される4段階のリッカート尺度(自己 の役割を自覚して子どもと関わることができる,また は自己の感情をコントロールして子どもと関わること 表1 「子どもへの対応」に関する質問表(8項目):因子分析結果(n=172) 項     目 因子負荷量 因子1 因子2 「感情的対応」 1.いらいらして子どもにあたる 2.子どもに対しどなってしまう 3.子どものするささいなことでカッとなる 4.子どもがやっていることをせかしたくなる 5.子どものおしりや手,頭などをたたく .818 .770 .705 .574 .552 ­.009 ­.005 .008 .006 .171 「養育的対応」 6.子どもの主体性を大切にする 7.子どもが泣いていても冷静に対応できる 8.子どもに注意を与える場合,わかりやすいことばを選ぶ ­.007 .008 .003 .803 .662 .494 固有値 因子間相関 3.010.601 2.354 主因子法,プロマックス回転

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ができると自覚しているほど得点が高くなるように採 点する。採点は1∼4点とする)を作成し,内容妥当性 について,研究者間で検討を行った。因子分析(主因 子法)を行った結果では,初期の固有値や因子のスク リープロットから2因子で構成されると判断すること が妥当であり,構成概念妥当性は支持されるものと考 えた。さらに因子分析(主因子法,プロマックス回転) を行い,共通性が.16以下の2項目を除外して,再分析 した結果,第1因子は5項目となり,「感情的対応」と 命名し,第2因子は3項目から構成され,「養育的対応」 と命名した。内的整合性を示すCronbachのα係数は, 質問表全体で0.81,第1因子0.79,第2因子0.71であった。 4 )周囲からの「育児サポートに対する受け止め」を調 査する質問表(初回調査のみ)(表2)  対象者が,育児に関して周囲から受けているサポー トをどのように自覚しているかを明らかにするため の質問表を作成した(表2)。「育児サポートに対する受 け止め」とは,育児に対する夫からのサポートと周囲 からのサポートという2つの構成概念をもつ女性の認 識であると考え,12の質問項目で構成される4段階の リッカート尺度(サポートを受けているという自覚が 高いほど高得点になるよう採点する。採点は1∼4点 とする。)を作成し,内容妥当性について研究者間で 検討を行った。  回答結果は高得点に分布する傾向となったが,あく までも対象者の認識を明らかにするための質問表であ るため,得点に偏りのある項目の削除はせずに初回因 子分析(主因子法)を行った結果では,初期の固有値 や因子のスクリープロットから2因子で構成されると 判断され,構成概念妥当性は支持されると考えた。さ らに,共通性が.16以下の2項目を除外し,再分析し た結果,第1因子は5項目となり,「夫の育児参加・協 力」と命名した。また,第2因子も5項目から構成さ れ,「育児援助・育児仲間の存在」と命名した。内的整 合性を示すCronbachのα係数は,質問表全体で0.76, 第1因子0.83,第2因子0.66で,第2因子に課題が残った。 5 )人生に対する満足感尺度(初回調査のみ)  女性の人生に対する全般的な自己評価に対しては, 寺崎ら(1999)が作成した人生に対する満足感尺度を 使用した。この尺度は3カテゴリー(過去満足,現在 満足,未来希望)28項目,4段階のリッカート尺度であ り,得点が高いほど現在や過去の生活に対する満足感 が高く,未来に対する期待も大きいと評価する。これ までの研究では,大学生などの比較的若い世代に用い られている。  本研究では,内的整合性を示すCronbach のα係 数は,過去満足(9項目)0.86,現在満足(8項目)0.80, 未来期待(11項目)0.83であった。 6 )育児に対する感情を問う簡易質問表(初回調査のみ)  対象者が,現在行っている育児に対して,どのよう な思いを抱いているかを明らかにするために3項目,4 段階のリッカート尺度を作成した。この簡易尺度では, 育児を行っていることを肯定的に受け止めているほど 得点が高くなる。 表2 「育児サポートに対する受け止め」に関する質問表:因子分析結果(n=172) 項     目 因子負荷量 因子1 因子2 「夫の育児参加・協力」 1.夫は育児の相談にのってくれる 2.夫はできるだけ育児に協力してくれる 3.夫は育児に無関心である 4.夫は私が育児をしていることをねぎらったり励ましてくれる 5.育児に関する責任は,私が全て担っている .828 .822 .821 .637 .476 .003 ­.006 ­.004 .004 .007 「育児援助・育児仲間の存在」 6.育児をしていくうえで頼りになる友人がいる 7.育児をしていくうえで相談できる人がいる 8.近所の人が育児を助けてくれる 9.育児をいていて孤独感を感じる 10.育児サークルなどで,一緒に育児をしていく仲間がいる ­.007 .112 ­.009 .004 .160 .846 .611 .480 .418 .400 固有値 因子間相関 2.903 .301 1.944 主因子法,プロマックス回転 註)項目3,5,9は,得点を逆転している

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 作成の際には研究者間で内的妥当性について検討を 行った。内的整合性を示すCronbachのα係数は,0.87 であった。 4.分析方法  分析は統計ソフトウエアSPSS 11.0J for Windowsを 用いた。間隔尺度のデータには,対応のあるt検定, 一元配置分散分析を用いた。有意確率は5%とした。 5.倫理的配慮  対象者に研究協力の承諾を得るにあたっては,研究 者または研究協力者が,研究協力依頼書の倫理的保証 の項目を対象者と確認しながら,研究協力するかどう かは対象者の自由な意志で決めてよいこと,および研 究途中であってもいつでも協力辞退を申し出る権利が あること,データは統計的に処理し,研究目的以外は 使用せず,個人の氏名は絶対に公表されないことを保 証した。  なお,寺崎ら(1999)が作成した人生に対する満足 感尺度使用に関しては,作成者に使用許可を得た。ま た,平成17年度東京慈恵会医科大学医学部看護学科 研究委員会に研究計画書を提出し,倫理的審査を含め た審査を受け,研究を開始した。

Ⅲ.結   果

 研究究対象者のうち,月経周期各期の調査において 有効回答が得られた172名(89.6%)を分析の対象とし た。 1.対象の背景  対象者の平均年齢は,35.6歳(SD4.1)であり,職業 の有無では,職業なし111名(64.3%),職業あり61名 (35.7%)であった。子どもの数は,1人が72名(41.9%), 2人以上が100名(58.1%,うち学童期の子どもをも つ者43名)で,一番下の子どもの平均年齢は,3.2歳 (SD1.8)であった。家族形態は,152名(88.4%)が,核 家族,15名(8.7%)が拡大家族で,5名(2.9%)が現在 母子だけで生活中の家庭であった。  睡眠状態については,平均睡眠時間6.7時間(SD1.2) であり,熟眠できる者82名(47.7%),時に熟眠感がな い68名(39.5%),熟眠感がない22名(12.8%)であった。 また,96名(55.8%)は子どもが泣くなどで夜間に起こ されることがあると回答した。  健康状態については,健康であると回答したのが 125名(72.7%)であり,疲れやすい・体調を崩しやす いが43名(21.5%),日常生活に支障はないが持病が ある・現在疾病治療中(服薬は必要ない経過観察中の 喘息や甲状腺機能亢進症あるいはアレルギー性疾患な ど)が10名(5.8%)であった。 2.対象者の月経随伴症状  対象者のMDQT各周期の下位領域別愁訴得点結果 を表3に示す。Ⅰ(痛み)については,月経期の得点が 他の時期と比較して有意に得点が高く,肩や首のこ り,下腹部痛,腰痛,頭痛,疲れやすさを訴える者が 多かった(月経前と月経期の比較:t=4.13,p=0.000, 月経後と月経期の比較:t=5.57,p=0.000)。Ⅱ(集 中力)については,月経前が月経後と比較して有意 に得点が高く(t=2.26,p=0.025)もの忘れしやすい, 集中力が低下するといった訴えが多くなっていた。Ⅲ (行動の変化)では,月経前,月経期に眠気(居眠り をしたり布団から起き出せなくなる)を訴える者が多 かった(月経後と月経前の比較:t=1.92,p=0.051, 月経前と月経期の比較:t=2.90,p=0.004,月経後 と月経期の比較:t=4.85,p=0.000)。Ⅳ(自律神経 失調)では,月経前にめまいなどの自律神経失調症 状が生ずる者が多くなっていた(t=2.04,p=0.004)。 Ⅴ(水分貯留)では,月経前,月経期に体重増加や肌 荒れを訴える者が多かった(月経後と月経前の比較: t=4.08,p=0.000,月経後と月経期の比較:t=5.23, p=0.000)。Ⅵ(否定的感情)では,月経前,月経期に いらいらしやすいなどの否定的感情が強くなっていた (月経後と月経前の比較:t=2.94,p=0.004,月経後 と月経期の比較:t=4.50,p=0.000)。Ⅶ(気分の高揚) は,ⅠからⅥの変化とは異なり,月経期にやさしい気 持ちになる,家のなかをきちんとしていたいといった 気分が低下していた(月経前と月経期の比較:t=6.72, p=0.000,月経後と月経期の比較,t=5.23,p=0.000)。 Ⅷ(コントロール)については,月経周期各期におい て大きな変化はなかった。  本研究では,緒言で述べたように,月経随伴症状の タイプ別に各月経周期における子どもへの対応状況の 変化を明らかにすることやその他各質問紙の回答結果 を比較,検討することが研究目的に含まれるため,対 象者をMDQTの結果をもとに,月経随伴症状によっ て4つのタイプに分類し,4群における各質問表の得点 結果を示し,比較していくこととする。  月経随伴症状のタイプは,月経後〈月経前〈月経期

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と上昇していく4つの下位領域Ⅰ,Ⅲ,Ⅴ,Ⅵの得点が, 月経前,月経期ともに中央値より低いタイプをA群(月 経随伴症状が軽微な群:60名),月経期のみ中央値 より高いタイプをB群(月経痛症の傾向がある群:29 名),月経前・月経期ともに高いタイプをC群(PEMS の傾向がある群:53名),月経前のみ高いタイプをD 群(PMSの傾向がある群:30名)と分類する。なお,4 群に分類した対象者の平均年齢,末子の子の年齢,子 の数について,4群間に有意差は見られなかった。 3.月経随伴症状タイプ別(4群別)にみた月経周期各 期における子どもへの対応質問表の得点結果  各群における月経周期各期の「子どもへの対応」質 問表の結果を表4に示す。各時期の各群の下位因子得 点の間に有意差はなかった。  A群(月経随伴症状が軽微な群)とB群(月経痛症の 傾向がある群)は,下位因子得点が,ともに他の2群 と比較して高い傾向にあるとともに,月経後,月経前, 月経期と徐々に低下していく傾向はあるが,各時期の 得点に有意差はなかった。C群(PEMSの傾向がある 群)は,「感情的対応」の得点については,月経期が他 の時期と比較して有意に低下した(月経前との比較: t=2.97,p=0.004,月経後との比較:t=3.94,p= 0.000)。また,「養育的対応」の得点については,月経 期の得点が月経後と比較して有意に低かった(t=2.52, p=0.015)。D群(PMSの傾向がある群)は,各期の得 点に有意差はないものの月経前の下位因子得点が最低 であり,他の3群と異なる得点推移がみられた。 表3 MDQTの月経周期各期の得点結果 (n=172) 領域 (得点範囲)項目数 ①月経後 ②月経前 ③月経期 ①:② ②:③ ①:③ 平均値 SD 平均値 SD 平均値 SD t値 有意確率 t値 有意確率 t値 有意確率 Ⅰ.痛み (0∼30) 6.626 5.9 7.40 5.9 9.29 5.9 1.60 0.113 4.13 0.000 5.57 0.000 Ⅱ.集中力 (0∼40) 4.658 6.5 5.72 7.0 5.19 6.3 2.26 0.025 1.07 0.288 1.17 0.245 Ⅲ.行動の変化 (0∼25) 3.055 4.0 3.74 4.6 4.9 5.0 1.92 0.051 2.90 0.004 4.85 0.000 Ⅳ.自律神経失調 (0∼20) 1.094 2.1 1.50 2.8 1.4 3.2 2.04 0.043 0.46 0.647 1.84 0.067 Ⅴ.水分貯留 (0∼20) 2.184 3.2 3.26 3.7 3.57 2.4 4.08 0.000 1.23 0.222 5.23 0.000 Ⅵ.否定的感情 (0∼40) 3.928 6.2 5.40 7.4 6.07 7.2 2.94 0.004 1.26 0.208 4.50 0.000 Ⅶ.気分の高揚 (0∼25) 6.245 5.2 6.95 4.9 4.38 4.2 1.80 0.074 6.72 0.000 5.17 0.000 Ⅷ.コントロール (0∼30) 1.296 2.9 1.56 2.9 1.48 2.8 1.51 0.132 0.50 0.620 1.05 0.294   その他 (0∼5) 0.271 0.7 0.27 0.7 0.56 1.2 (検定:対応のあるT検定) 註1)MDQには,下位8領域に含まれない質問項目(食べ物の好みがかわる)がある。表中のその他はこの質問項目の得点結果 である。 表4 各群別の「子どもへの対応」質問表得点結果 (n=172) 下位因子名 群 ①月経後 ②月経前 ③月経期 ①:② ②:③ ①:③ 平均値 SD 平均値 SD 平均値 SD t値 有意確率 t値 有意確率 t値 有意確率 「感情的対応」 5項目 (得点範囲:     5〜20) A群(60名) B群(29名) C群(53名) D群(30名) 14.45 13.83 12.79 12.63 3.59 3.38 2.93 3.00 13.83 13.24 12.25 11.97 3.46 3.76 3.47 3.48 13.45 12.90 11.25 12.67 3.83 3.47 3.17 3.31 1.23 0.98 1.27 1.27 0.222 0.336 0.210 0.213 0.78 0.64 2.97 0.51 0.439 0.526 0.004 0.611 1.92 1.45 3.94 0.67 0.059 0.158 0.000 0.510 「養育的対応」 3項目 (得点範囲:     3〜12) A群(60名) B群(29名) C群(53名) D群(30名) 10.43 9.87 9.70 9.80 1.61 1.59 1.74 1.29 10.23 9.87 9.49 9.33 1.63 1.40 2.17 1.63 10.03 9.38 9.06 9.63 1.96 1.59 1.99 1.50 1.06 0.00 0.81 1.56 0.293 1.000 0.210 0.129 0.97 2.02 1.69 1.03 0.335 0.053 0.096 0.313 1.74 1.70 2.52 0.74 0.087 0.100 0.015 0.465 (検定:対応のあるT検定)

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4.月経随伴症状タイプと関連因子の検討 1 )睡眠状況および健康状態,職業の有無,家族形態  各群における対象者の睡眠(睡眠時間,熟眠感およ び夜間覚醒)の状況,健康状態,職業の有無,家族形 態を比較した結果を表5に示す。睡眠の状況について は,各群間に差はみられなかった。健康状態につい ては,C群(PEMSの傾向がある群)が他の3群と比較 して健康であると回答した者の比率が有意に低く,疲 れやすい・体調を崩しやすいと回答した者の比率が高 かった(χ2=23.052,p=0.000)。  また,職業の有無の比率については,4群の間に差 は見られなかった。家族形態については,D群(PMS の傾向がある群)が他の3群と比較して拡大家族の比 率が高かった(Fisher=10.556,p=0.042)。 2 )育児サポートに対する受け止めについて  各群における「育児サポートに対する受け止め」に 対する質問表の回答結果,および群間比較の結果を表 6に示す。  C群(PEMSの傾向がある群)は,A群(月経随伴症 状が軽微な群)と比較して,下位因子「夫の育児参加・ 協力」の得点が有意に低かった(F=3.278,p=0.022, Scheffe­A群とC群,p=0.045)。下位因子「育児援助・ 育児仲間の存在」については,各群の間に有意差は認 められなかった。 3 )人生に対する満足感尺度,育児に対する感情簡易 質問表について  各群における人生に対する満足感尺度の得点結果を 表7に,育児に対する感情簡易質問表の結果を表8に 示す。  人生に対する満足感尺度の得点結果については,C 群(PEMSの傾向がある群)がA群(月経随伴症状が軽 微な群)と比較して下位因子,過去満足および現在 満足の得点が有意に低く(過去満足:F=4.568,p= 0.004,Scheffe­A群とC群,p=0.006,現在満足:F 表5 各群における睡眠状況,職業,家族形態の比較 (n=172) 項目 A群(60名) B群(29名) C群(53名) D群(30名) 検定値 有意確率 睡眠時間(t) 6.8 SD1.3 6.9 SD1.1 6.7 SD1.1 6.5 SD1.4 0.671 0.571 熟眠感 あり時にない ない 37 19 4 61.7% 31.7% 6.6% 11 12 6 37.9% 41.4% 20.7% 20 24 9 37.7% 45.3% 17.0% 14 13 3 46.7% 43.3% 10.0% 9.698 0.132 夜間におこされる ないたまに 頻繁 29 15 16 48.3% 25.0% 26.7% 10 10 9 34.5% 34.5% 31.0% 24 8 21 45.3% 15.1% 39.6% 13 10 7 43.3% 33.3% 23.3% 7.042 0.317 健康状態 健康疲れやすい 疾患あり 50 6 4 83.3% 10.0% 6.7% 23 7 0 79.3% 20.7% 0.0% 26 22 5 49.1% 41.5% 9.4% 26 3 1 86.7% 10.0% 3.3% 23.052 0.000 職業 なしあり 3921 65.0%35.0% 209 31.0%69.0% 3617 67.9%32.1% 1614 53.3%46.7% 2.165 0.539 家族形態 核家族拡大家族 母子で生活 57 3 0 95.0% 5.0% 0.0% 26 1 2 89.7% 3.4% 6.9% 46 5 2 86.8% 9.4% 3.8% 23 6 1 76.7% 20.0% 2.9% 10.556 0.042 (検定:睡眠時間は一元配置分散分析,その他はχ2検定,またはFisher直接法を用いた) 表6 各群における「育児サポートに対する受け止め」に関する質問表得点結果 (n=172) 項   目 A群(60名) B群(29名) C群(53名) D群(30名) 検定値 有意確率 (Scheffeの結果)検定結果の解釈 下 位 因子名(得点範囲) 平均値項目数 標準偏差 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 援助1 (4∼20) 19.335 3.3 17.34 3.5 17.24 4 18.33 3.7 3.278 0.022 C群はA群と比較して 有意に低得点 (p=0.045) 援助2 (4∼20) 19.735 3.2 18.69 3.5 18.30 3.5 18.37 2.8 2.184 0.092 4群間に有意差なし (検定:一元配置分散分析­Scheffe) 註:下位因子名̶援助1は「夫の育児参加・協力」         援助2は「育児援助・育児仲間の存在」を略したものである

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=2.990,p=0.033,Scheffe­A群 とC群,p=0.041), 未来期待も低い傾向を示した(F=2.888,p=0.037, Scheffe­A群とC群,p=0.063)。  育児に対する感情簡易質問表の得点については,各 群の間に差は認められなかった。

Ⅳ.考   察

1.乳幼児を育児中の女性の月経随伴症状  本研究の対象者において,A群(月経随伴症状の軽 微な群)は60名(31%)であり,約7割の者が月経随伴 症状を比較的強く感じていた。また,月経前になんら かの症状が比較的強く感じられる女性(PMSとPEMS 傾向の者)は,約48%であった。月経随伴症状の発症 率については,研究によって差が見られる現状ではあ るが,PMS(この場合PEMSを含む)については,症 状が重度な女性は8∼10%,中等度の女性は25∼40% (Tayler, 1999),精神症状が強くPMDD(Premenstrual Dysphoric Disorder:月経前不快気分障害)と診断 される者は2∼5%,中等度は約20∼40%(Bosarge, 2003),イライラなどの精神症状は50.3%に見られる (川瀬,2005b)などの報告からみても,概ね50%位の 成熟期女性は月経前期症状があると推測され,本研究 の対象者の有訴率も同様の結果であった。  しかし,本研究の対象において,20歳代後半から 40歳前半の者に多いと言われる,PMSの定義(月経前 の諸症状が月経開始とともに軽快する)に該当する者 (D群:PMSの傾向のある群)は30名(17.4%)に過ぎ ず,10∼20歳前半に多いと言われる(川瀬,2005a)C 群(PEMSの傾向のある群)が53名(30.8%)と多く見 られた。PEMSには4つの診断基準(川瀬,2005c)があ り,正確な診断を行った場合,この数には変動がある と考えられるが,この結果は,成熟期の育児中の女性 においてもPEMS傾向のある女性が多く存在する可能 性を示唆するものと考える。 2.月経随伴症状のタイプ別にみた睡眠状況および健 康状態  月経随伴症状のタイプ別にみた睡眠状況および健 康状態の結果では,睡眠状態(睡眠時間,熟眠感,夜 中に起こされる頻度)については,4群間に差は見られ なかった。この結果から月経随伴症状は,睡眠状況に よって大きな影響を受けないと考えられる。  健康状態の自覚においては,C群(PEMSの傾向に ある群)が,他の3群と比較して自己を健康であると 評価している者の割合が低く,疲れやすい・体調を 崩しやすいと回答する者が多かった。川瀬(2005b)は, PEMSの場合,月経期においても月経前に発現した愁 訴がさらに強くなり,月経痛としての下腹部痛,腰 痛のみならず,頭痛,眠気なども増悪する特徴を明 表7 各群における人生に対する満足感尺度得点結果 (n=172) 項   目 A群(60名) B群(29名) C群(53名) D群(30名) 検定値 (F値) 有意確率 (Scheffeの結果)検定結果の解釈 下位因子名(得点範囲) 平均値項目数 標準偏差 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 過去満足 (9∼36) 28.029 3.9 27.07 3.8 25.57 5.9 26.27 4.2 4.568 0.004 C群はA群と比較 して有意に低得点 (p=0.006) 現在満足 (8∼32) 25.47 8 3.1 24.50 3.4 22.89 4.6 23.60 4.1 2.990 0.033 して有意に低得点C群はA群と比較 (p=0.041) 未来期待 (11∼44) 35.9811 4.6 33.67 4.5 33.39 5.9 34.97 4.8 2.888 0.037 4群間に有意差なし (検定:一元配置分散分析̶Scheffe) 表8 各群における育児に対する感情簡易質問表の得点結果 (n=172) A群(60名) B群(29名) C群(53名) D群(30名) 検定値 (F値) 有意確率 (Scheffeの結果)検定結果の解釈 項  目 (得点範囲) 平均値項目数 標準偏差 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 育児に対す る感情   (3∼12)3 9.35 1.9 9.34 1.9 9.29 1.9 9.33 1.6 0.014 0.998 4群間に有意差なし (検定:一元配置分散分析̶Scheffe)

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らかにしており,この持続する体調不全状態が,自己 の健康状態を低く評価する原因となっていると思われ る。また,森ら(2004)はPEMSの女性は主婦や仕事 にやりがいを感じる度合いが高く,役割遂行の動機づ けの高さが負荷を高めていると想定できると述べてお り,そのような身体的負担の高さが健康の自覚を低め ている可能性もある。 3.月経随伴症状タイプ別にみた月経周期による子ど もへの対応の変化  月経随伴症状タイプ別にみた月経周期による子ども への対応の変化では,C群(PEMSの傾向がある群)の みが,月経期の対応得点が有意に低下した。研究開始 時,月経前の対応得点が有意に低下するのではないか と予測していたD群(PMSの傾向がある群)については, 月経前の下位因子得点が最低ではあるものの他の時期 との有意差は認められなかった。月経随伴症状は個々 の女性において差があり,従来から問題視されている PMS症状が顕著な女性については,月経前の子どもへ の対応力が著しく低下することが考えられる。しかし, 本研究結果では,PEMSの傾向がある女性の月経期に おける子どもへの対応力の低下にも注目すべきことが 明らかとなった。月経前のみならず月経時も持続ある いはさらに増悪する様々な愁訴が,女性の子どもへの 対応力を低める原因となっていると考えられる。 4.PEMS傾向と育児サポートに対する受け止め,人 生に対する満足感について  C群(PEMSの傾向がある群)は,月経随伴症状が軽 微な群と比較して周囲からの「育児サポートに対する 受け止め」を調査する質問表において,下位因子「夫 の育児参加・協力」の得点が有意に低かった。また, 人生に対する満足感尺度の得点結果についても,月経 随伴症状が軽微な群と比較すると,過去満足,現在満 足が有意に低く,未来期待も低い傾向を示した。  加藤(2008)は,幼児を子育て中の母親の主観的幸 福感は,頻繁に関わる人(多くは夫)からのサポート (に対する受け止め),特に情緒的サポートが影響して いると述べており,森ら(2004)は生活に対する満足 感が,月経随伴症状に影響を与えるのではないかと推 察している。本研究結果は,PEMSの傾向にある女性 は月経前,月経中と持続あるいは増悪する月経随伴症 状を我慢しながら育児しているなか,夫からのサポー トを十分受けていないと感じ,さらにそことは,生活 への満足感も低下させる一因となりうることを示して いると思われる。 5.看護上の援助について  以上のことから,看護者が育児支援を検討する場合, 母親の月経周期による心身の変化が育児に影響するこ とがあることを認識すべきである。  日本においては,PMS,PEMSなど月経随伴症状に 関わる問題が社会に広く認知されておらず,様々な愁 訴についても女性自身が月経と関係していることに気 づかない状況も多いことが推測される。そのため,ま ず,母親が月経随伴症状をセルフモニタリングし,自 己の状況を自覚することが,ストレスの少ない育児実 践の一助になることを情報提供していく必要があるだ ろう。  また,小林(2008)は,女性が夫へサポートを要請 するほど実際の夫のサポートを得ることができること を明らかにしている。看護者は,PEMSの傾向がある 女性に対して,体調不全状態にあるときは,夫あるい は周囲の重要他者に対して積極的にサポートを要請す るよう促す,体調に応じた休息や気分転換をする工夫, 症状を緩和する食生活の改善などによって,自己の体 調管理を行っていけるよう,援助していくことも必要 であると考える。 6.研究の限界と今後の課題  本研究における対象者の多くは,地域の育児サーク ル活動に参加する,育児相談に出向くなど,自らが積 極的に育児のサポートを求めることのできる母親であ ると考えられる。また,乳幼児の世話だけでなく,学 童期の子どもを持つ母親も対象者に含めているため, 母親を取り巻く様々な事柄が月経随伴症状に影響して いることが考えられる。このため得られた結果には選 択バイアスが生じているおそれがある。また,月経随 伴症状のタイプの分類は,質問表の回答によって行っ たものであり,女性各人の愁訴やその程度を正確に把 握し,診断したわけではないため分類が実際とは異 なっている場合もあることが推測される。  さらには,調査開始を月経後とするといった取り決 めをしなかったため初回調査の時期が対象者によって 異なる。このため,初回調査で行った健康状態,育児 サポートに対する受け止め,人生に対する満足感,育 児に対する感情については,月経周期による影響を受 けた恐れがある。

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 今後は,より正確な月経随伴症状の把握を行い,実 態を明らかにするとともに,子育て中の女性が月経随 伴症状を緩和するためのセルフケアについて検討する 研究へと発展させていくことが必要であろう。

Ⅴ.結   論

 乳幼児を育児中の女性の月経周期各期における月経 随伴症状の実態と月経随伴症状タイプ別にみた周期に よる子どもへの対応状況の変化を明らかにすること, 月経随伴症状のタイプによって,睡眠状況や健康状態, 育児のサポートに対する受け止め,生活に対する満足 感,育児に対する感情に差があるかどうかを明らかに することを目的に質問紙調査を行った。  その結果,対象172名のうち,10∼20歳前半に多い と言われるPEMSの傾向のある者が53名(30.8%)と多 く見られた。また,月経随伴症状のタイプによって睡 眠状況に差はなかったが,PEMSの傾向にある女性は, そうでない女性と比較して,健康状態が良好であると 評価する者の割合が低く,月経時において子どもへの 対応力が低下した。さらに,月経随伴症状が軽微な女 性と比較して,夫からの育児サポートが十分ではない と認識し,生活の満足感も低いことが明らかとなった。  看護者が育児支援を検討する場合,母親の月経周期 による心身の変化が育児に影響することがあることや 月経随伴症状の改善のための援助についても考慮する 必要があることが示唆された。 謝 辞  ご協力いただきました対象者の方々,データ収集に ご協力いただきました関係施設の皆様に深く感謝いた します。  なお,本研究の一部を第20回日本助産学会学術集 会において発表した。 引用文献

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参照

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