Japanese Society for the Science of Design
NII-Electronic Library Service
Japanese Sooiety for the Soienoe of Design環境
デザ
イ
ン
と
景観
土 肥博
至筑波 大学
は じ め にそ こ を最初 に
訪
れ た の は、
1966年
のま だ 雪 が 消 え残っ ていた4
月 末の ことで、
もう
30
年近 く
も前
の ことになる。
ス トッ ク ホ ル ム郊外
の ガムラエ ン ス ケ ンデ地区
にある、通 常
た だ 「クレ マ トリウ ム」と呼
ばれ ている ス コ ッ グ ス霊
園は、
いう
までも な く グンナー・
ア ス プルン ドの傑 作
である。
しか し当 時の私の知 識 は、
学
生時代
に近代 建 築史
の教 科 書
に載
っ てい た、
1
枚
の小 さ なモ ノクロ写 真の印 象だけであっ た。有 名なス トッ ク ホ ルムのニ ュ
ー
タ ウン を調べ るこ とが 目 的で あっ た こ の時
の旅行
で、
ク レマ トリ ウム を訪 ね たこと自 体、
な か ば偶 然とい っ た感じ で、
霊
園 という名
のつ い た地下鉄の駅 が あっ たので、
も
し や と ト.
車
し て み た にす ぎ
ない のである。
こ の
時
、
こ の場所
で私
が味
わっ た感 動
は、
生 涯 忘 れ られない鮮
烈 な もの で、
他
H
、
シ ャ ル トルの大
聖 堂 との出 会いや、
三 徳 山 三 仏 寺の投 入 堂 を 仰いだ時の もの と同じ よう
に、
私の 人 生 に かけがいのない空
間体 験
の ひとつ と なっ た。
そ れ か ら8
年
たっ た1974
年
の夏 に、
もう
一
度
クレマ トリウ ムを訪
ね た。 こ の時
に は、
感 動の激 し さは以 前の時
程ではなかっ たもの の、
その分冷
静に観 察 する余
裕が で きた た め、
こ この空間の素 晴 らし さをよ り深 く知
る ことが で きた。
霊 園に
一
歩 足を鎔み人れ ると、
早 く も独 自
の雰 囲気
に包 まれ る。
緩い勾 配で前 方に 上昇 する芝
生 の オー
プンスペー
ス は、
遥 か 彼 方の松 林 まで続いてい るが、
目は こ の空 間を鋭 く
区 切っ て 前 方 に延 び る、
左 手の低く自
い塀
にひき寄
せら
れ る。 こ の塀
に 沿っ て、
これ も一
直 線の敷 石道
がある。道
を ヒっ ていく
と、
右
側に象
徴 的 な 十 字 架が 立っ て お り、
近づく
につ れ て青
空にく
っき
り とシルエ ッ トを
現わす
。
こ こまでの短
い道
のり
は、
注 意
は その十 字 架に集 中 して いる。
こ れ を通 りすぎ
る と は じ め て今 度 は左 側に建 物が現わ れ る。霊
園の心 臓 部 に あ た る 火葬場 の祭
礼 所である。
参
列 し た入々はこ こでな く なっ た人と別れ を惜 し む。
こ の建
築は全 面ピロティー
のオー
プンな 造 りで、
極めて軽 や か であ
る。大げ
さな仕掛 け
は何
もない。
数年 後
、
アスプル ン ドを 修 論のテー
マ に し た塚 田耕一
氏(
現杉野 女子 大助 教授 )
は、
この一
・
連の空間
のデ ザ インは、
生 と 死 につ いての メ タファー
であり
、
作 者
は 火 葬 場 を鉄 道 駅;
生 か ら死
へ の乗 り換
え 場 と 提え
、
死 後の存 在へ の連 続 性 を 表 現 しよう
とし た ものだ、
とい くつ かの証 左 を挙
げて解釈
し た。
こ の
解釈
が妥 当
な ものか ど う かは分 か ら ないが、
こ こでの空 間体 験の特 色は、
そ れがシー
クエ ン シ ャ ルな ものである、
という点
は確 言
できる。
空間
的に は、
入口か ら 祭 礼 所 までの僅 か な 距離
に すぎ
ないのだ が、
そこ に時
間の要素
を加
えて細 心
の シー
クエ ン ス・
デザインが な さ れ てい るのであ
る。
環境
デ ザイ ン の本質
写 真1
クレマ トリウム2
度 目 に クレ マ ト リウ ム を見に行
っ た の は、
実
は環 墳
デザ イ ンの姿
を 求め ての こ とで あっ た。
1974年という年
は、
筑 波 大
学 が 開学
した年で ある。
私 達はその2
年 程 前に、
環境
デザイン と いう 分 野をH
本で始め て この大 学でスター
ト さ せ るこ と を決め て いた。 そ して当
然のことな がら、
環境
デザ インとは何 か、
既
往
の様
々な名前
をつけ
ら れた デザイン や建 築と は どうい う 違い が ある のか、
模 索の 時 が 続いていたのである。ク レマ トリ ウムは私 に
、
環 境
デ ザ イン の本質
が どこに ある の かを極
め て明瞭
に理解
さ せてくれ た。
こ こに使 わっ れているデ ザイン の素 材は、
傾 斜 する地 形、
広々 とし た芝生、
背
景 をつ く る松 林、
艮く続 く
低い塀
、
切 石を組
み合
わ せ た道
、
大
き な 十字
架
、
祭
礼 所の建 物、
その脇や柱に取 付 け ら れた小さなモ ニ ュ メ ン ト などである。
これらは、
地 形 も含めてすべ て デザイ ンさ れ たもの であ
るが、 どの一
つをとっ て も極5
ン:っ て優れ た デ ザ イン という程
のも
の で はない 。 シ ンプルでバ ラン ス の とれた祭
礼 所 は、
さす
が に建 築家
と して の ア スプル ン ドの才 能 を示 してはい る が、
小規模
で周 囲
一
帯
に君 臨 するよ う な感 じでは全 くない。
ク レマ トリ ウムの デザ インが
、
こ こ に来 た 人々に 感 銘 を 与.
え
る の は、
多様
な素
材が全 体 とし てつ く りだ してい る魅 力 的 な 空 間であり、
そ れを体 験 する独 特の時 間で ある。
そう
した空 間や 時 間は どの ように してつ く り出さ れ てい る か という
と、
そ れ ら の素 材の 関 係 を 巧 み に デ ザインする こ と に よっ てい る の であ
る。
関係は 互の位 置 関 係、
大 きさ や長さ の関係
、
明 暗や色 彩の 関係、
印象
の強 弱の関 係、
そ し て体 験 する時間
の艮 短の 関係 な どか ら成っ ている。
そ してその関係
の中心
に、
場 所
を体 験 す
る 人 間 が 置 か れているので ある。
私は こ こ で見 られ る関係のデ ザイ ン こ そ が環
境
デザ イン の本
質
であ
る こと を、
こ の時 確信
で き たの であ
っ た。
こ のこ と は、
環 境デザ インという
時の環境
は、
単
にデ ザ イン の対象
とし て の 環 境ではな くて、
生 きら れ体 験さ れ る時空間と し て認 識さ れ る 環 境 を 指 すの である。
した がっ て環 境 デ ザインは、
そう
し た認
識
を基 盤とす
るデザ イン の 方 法 論である に違
い ない と考 えたu
い やむ しろ、
関係 をデザ インするた めの 明 確で体 系 化さ れ た方法 論
を構
築 す ることこそ、
新 しい分 野として歩 み 出 そう
とする環
境デザ インに課 せ ら れ た役 割 だ と思っ たので あ る。
この.
文脈4SPECIAL ISSUEOF JSSD Vol
.
2 No、
2 1994 デ ザ イ ン学研究 特 集 号Japanese Society for the Science of Design
NII-Electronic Library Service
Japanese Sooiety for the Soienoe of Design都 市 全 体
1
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一
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韆
鍔
図1
筑 波研究学園都市 の 景 観コ ン トロー
ルの シ ス テ ム か らい え ば、
ク レマ ト リウムは環 境
デザ インの優
れ た作例
と と いう
より
も、
環 境
デザ イン の方法
に よっ て デザ インされ た優
れ た霊
園 空間
とみ るの が適
切 なのであ
る。
こ の時 以 来
、
私は 折 りある毎
に、
環境
デザイ ン はヒ トとモ ノ、
モ ノとモ ノ の関係
を 問題
とす
る デザイ ン で、
環境
デザイ ン を規 定 するのは デ ザ イン の対象
に よ るので は なく、
独 自の方 法論
に よ るべ き だ、
という
ことを主張し て き た の である。景観
の概念
とそのデ
ザイ ンこ こまで
、
私
なり
の環境
デザ インの捉 え ノ∫を 述べてき た が、
つ ぎ に 本 特集 号
の テー
マ であ る 景観
につ い て、
こ のよ う な認
識 にも とつ く環
境デザ インの立場 か ら考
えてみ よ う。
80
年 代に入っ て、
景 観 が 街づ く り計 画や環 境デザ イン の最 大 のテー
マ のひ とつになっ てきた背
景に つ い て こ こで触
れる余
裕 はない が、
現 在 景 観の研 究がい かに幅 広 く、
多 くの分 野で様々 な 方 法で扱われて いるかは、
都 市 計 画 学 会や建 築 学 会で発 表さ れる論 文の種
類 や 数 を見れ ば よく分か る。
その こ と自体
は結 構
なこ と と思 う
が、
景観
が 流行 語
のよう
になり
、
行
政は何で も景
観
という
ような
ことにな
っ てく
る と、
景観
の概 念
をき
ちんと整
理 して おく
こ と が必 要になる。景
観
とは文 字
通 り、
対 象
となる空間 的環境 (
景 )
を 主体
であ る人 間が見る(
観)
ことに よっ て成
り立つ事 象
である。
し た が っ て、
景 観は主 体と対象
の 間に成ウニする特 定
の関係
の シェー
マ であ り、
同じ景でも観る 人 に よっ て 景観
は 同一
で はない、
と 考 えねばな ら ない。
す
な わち、
景観
はまさ に、
生 き られ 体 験 さ れ る環 境
の一
側 面とい うことがで きる。
と こ ろで 景
観
という
現象
は、
いう
ま で も なく
計 画や デザイ ン や 行 政の関 与とは 関 係 な く成 立 している。
今
か ら20年
程前 ま
で は、
景観
は む しろ デザ インや 行 政の外 側 に あっ た もので、
地.
ヒ におけ
る人類
の様
々 な営
みの結
果 と見
做 さ れてい たの であ る。
し かし、
これがデザ イン の課 題となっ た 以上、
景 観と デザイン の関係 を どう
捉え
るか が 問 題になっ てく
る。
上 述 したように、
景 観は 主体と対 象の 聞の現 象である か ら、
デ ザ インを 考え
た時、
その両 者ば か りで なく
両者
の関 係 もデ ザ イン の対象
に な る 可 能 性 が ある。
この点を検 討し て み よう
。
ま
ず
、
景 (
対象)
のデザ イン の方は、
ごく普 通の、
建 物や緑 地や道路
や広 告物
な どの デザ イン であ
る か ら、
とり
た て て景 観
デザ イン と呼
ぶ必 要
はない であ
ろう
。 こ れ に比
べ る と 主体
(
観 )
の デザ インを どう考
える か は簡 甲
.
で は ない。
通常
こ れ は視 点
場の問 題 と解さ れ てい る。
し か し、
視
点 場だけの デ ザ イン な どあ り得
ない ことで、
景があっ て そ れを手
に人れ る た め に視
点 場は デ ザ インさ れて い るの である。
し た がっ て、
こ れ は関係 の デザインの方に 入 る とい わざるを得ない。
よ
り本質 的
な観
の問 題
は、
人 間
の空間認 識
の方 法
や能力
に関 わ るも
の で、
つき
つ め れば1
人1
入違
っ てく
る か ら、
デザ
イン の手
に負
えるもの で はな くなっ て しまう
。
し か し、
人 間の空 間 認 識 には、
共 通 性 や普
遍 性 が あ るのも 事 実で、
時 代とか 民 族と か 地 域とか 年 齢 層 などを 限 定 す るこ とに よっ て 共 通 生 は よ り明 瞭になる。 観の デザインはこ の共 逓 性や普 遍 性 を手 掛 か りに し て、
限定
的になさ れ るべき
である。
とこ ろで、
観
は景の存
在を
前 提とするか ら、
観の デザ インは景と観の関 係の デザ インと同義
に な る。このよ
う
に、
景観
でザインの特
色は、
景だけの デザイ ン で は な くて、
景と観
の関係 をどう操
作 する か という
点に帰
するのであ
る。 しかる に上述
し たよう
に、
関係
の デザ インは環境
デザ イ ンの本 質
なの であ
るか ら、
景観
の デザ イン に は、
環 境
デザ イン の方 法 論 が 欠 かせない 筈 なのであ る。
お わ り に 以 上、
多 少 堅 苦 し くなっ たが、
環 境デ ザ イン と景 観、
景 観 デ ザイン の概 念、
それ らの 関 係につ い て、
原 理 的 な話
を し て き た。
とくに後 半部 分では、
私 自身ま だ 十分に整理 が で き てい な い た め、
論
旨に 明快
さを欠い てい るこ とは否
めない。
一
方
、
現実
に は多 く
の景観 計画
、
景観
でザ イン、
景観 保全
、
景 観コ ントロー
ルなどが、
景観行
政 という
名のも
とに 進めら れ ている。 しかし それ らの内 容は、
ほとんどの事
例が景の み につ い て デザイン・
コ ン トロー
ルし よう
とす
るもので、
主体
の存 在
を介 在
さ せ たもの は極
め て少
ない 。 その理山
と して、
行
政 が扱
う
場 合は どう
し て もコ ン トロー
ル し易い 対象
の方に引 きず
ら れ る ことが挙
げ ら れるが、
関 係の デザ イン としての環 境デザ イン が、
ま だ十分
に有効
な方 法論
を構 築
できてい ない ことにも一
因
がある とい わ なけれ ば な ら ない の である。デ ザ イ ン学研究 特 集 号 SPECIAL ISSUE QF JSSD Vol