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社会調査での回答行動に対する実験的アプローチ

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DOI: http://doi.org/10.14947/psychono.36.39

社会調査での回答行動に対する実験的アプローチ

増 田 真 也

慶應義塾大学

An experimental approach to survey response behavior

Shinya Masuda

Keio University

Response biases such as midpoint responses denigrate the validity of research conclusions. In this article, the authors’ experimental studies on midpoint responses are introduced. For example, these studies have suggested that respondents with low motivation tend to choose the middle category. This could partially explain why fewer people in Japan have reported being happy. Another study by the authors demonstrated that over responding increases mid-dle category responses in a phenomenon that is seemingly similar to habituation. In addition, the availability of re-sponse time and eye tracking data among others are discussed. With the growth of web surveys, it has become easy to experimentally investigate survey response behaviors. Therefore, collaborations between experimental psycholo-gists and survey researchers would be helpful to improve the quality of surveys.

Keywords: midpoint response, response bias, Web survey, experimental approach

1. は じ め に 質問紙調査や Web調査には,人の主観的な意見,態 度,感情等に関するデータを,短時間で大量に手に入れ ることができるといった利点がある。そのため人や社会 を対象とした多くの研究分野で,しばしばこうした調査 が行われている。しかしながら,吉村(2017)が述べる ように,「社会調査を実施するだけなら簡単だが,『あて になる社会調査』を実施するのはきわめて難しい」。す なわち,調査は多用というよりは濫用されており,その 知見に対して疑義が突きつけられている。 あてになる調査の実施が難しい理由の1つに,社会調 査の回答にしばしば反応バイアス(response bias)が見 られることがある。反応バイアスは測定の対象内容と無 関係に生じる系統的なエラーであり,データから引き出 された結果の妥当性を脅かす(Baumgartner & Steenkamp, 2001; Paulhus, 1991)。Van Vaerenbergh & Thomas (2012) には,主要な反応バイアスとして,黙従傾向(acquies-cence)などの8種類が挙げられているが,本稿ではその 中で,主として中間選択(midpoint response)に関する 筆者らの研究を紹介する。 世論調査やLikert尺度等の項目で,中立を意味する言 語ラベル(「どちらともいえない」など)が付与されて いたり,5件法での3番目のように,位置的に中間に配 置されている回答カテゴリが,よく選ばれることが知ら れている。このような中間カテゴリは,本来,項目内容 に対して肯定否定のどちらでもない,もしくはどちらで もあるなど,選好の強度において,両端に位置する回答 カテゴリから等距離であるような場合に選ばれるものと されている。しかしながら,中間カテゴリがないと「わ

からない(don’t know:)」や「意見がない(no opinion)」

の選択が増える(Kalton, Roberts, & Holt, 1980; Schuman & Presser, 1981)ことから示されるように,中立というよ りは,非回答の意味で中間カテゴリが選ばれることがあ る (Raaijmakers, van Hoof, Hart, Verbogt, & Vollebergh, 2000; Sturgis, Roberts, & Smith, 2014)。後者の意味での中 間選択が分析に含まれると,平均値が尺度の取りうる得 点範囲の中心値に不当に近くなったり,散らばりが小さ くなったりして,結果が歪むことになる。 しかしながら,回答者が中間カテゴリを中立の意味で 選んだのか,非回答の意味で選んだのかを見分けること は難しい。もちろん,社会調査法のテキストには反応バ Copyright 2018. The Japanese Psychonomic Society. All rights reserved. Correspondence address: Faculty of Nursing & Medical

Care, Keio University, Endo, Fujisawa, Kanagawa 252–0883, Japan. E-mail: masuda@keio.jp

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イアスについての注意が記されているが,慣習的な指針 や不適切とされる例が示されている程度で,反応バイア スを避けるために調査票をどう設計すれば良いのかと いった点での,実用的なアドバイスはほとんどない。こ れは質問項目への回答が,個人特性,項目内容やその ワーディング,前後の項目,回答形式,実施場面や調査 方法など,様々な要因の影響を受けていて,どのような 項目で,どのような回答者に,どのような影響が生じる のかをはっきりと捉えたり,示したりすることが難しい ためである。そのため,良い調査票や質問項目の作り方 は,長いことアートとされ,回答プロセスに関する実証 的 な 検 証 は ほ と ん ど な さ れ て こ な か っ た の で あ る (Tourangeau, Rips, & Rasinski, 2000)。

基礎心理学の領域で,いわゆる調査が実施されること はまれであると思われるが,関連する要因が多くて統制 が難しいことは,調査研究が遠ざけられてきた理由の 1つであろう。しかしながら,Web上で回答を求めると きのように,コンピュータを経由して調査がなされる場 合,多数の回答者を複数の実験条件にランダムに割付け たり,回答者ごとに項目をランダムに並べたりすると いったことが容易にできるし,様々な操作を組み入れる こともできる。すなわち,回答行動に影響する要因を, 実験的に検討することが可能なのである。さらに,回答 の際に付随する,回答時間やキーストローク等のパラ データ(paradata)を取得できることも,基礎心理学と 調査研究の距離を縮めるのに役立つだろう。本稿ではこ うした観点から,調査会社に登録された Web調査モニ タを対象に,筆者らが実施した実験的研究を紹介し,社 会調査への基礎心理学の貢献可能性について考えたい。 2. 不真面目な回答者と中間選択 Web調査等の自記式調査は,回答者の自己報告を主た る情報源としている。しかし回答者は嘘をつくこともで きるし,必ずしも正確に答えられるとは限らない。Op-penheimer, Meyvis, & Davidenko (2009)は,Web調査での ある設問で,通常の選択肢ではなく,画面上の他の箇所 をクリックするよう指示をして,そもそも教示文をきち んと読んでいるかどうかを確かめた。すると,指示に従 わない回答者は14–46%もいた。すなわち,相当数の回 答者が調査票をきちんと読んでいないことが示唆され た。 また三浦・小林(2015)では,Oppenheimer et al. (2009) と同様の回答の仕方に関する教示のある設問に加えて, 「この項目は一番左(右)を選択してください」といっ た,特定の回答を指示する項目(以下指示項目)を設け た。すると,回答の仕方に関する教示に従っていない人 の方が,指示項目の指示に従っていないことが多かっ た。しかしその割合は最大でも 20%程度であり,回答 者は長い教示文は読み飛ばすが,項目自体は読んでいる ことが多かった。 では,教示や項目をきちんと読まない人は,どのよう な回答をしているのだろうか。また,こうした回答者が 分析に含まれると,結果にどのような影響が生じるのだ ろうか。増田・坂上・北岡・佐々木(2016)は,指示項 目の指示に従った遵守者と,従わなかった非遵守者の回 答を複数の心理尺度で比較した。すると,1,000名の看 護師回答者のうち,120名が3つの指示項目の中の,少 なくとも1項目で指示に従わなかった。そしてこうした 非遵守者は,(a)同一回答や中間選択が多く,そのため に(b)合計得点の平均値が得点範囲の中心値に近くな り,(c)逆転項目と通常項目の相関が正になったり,負 であっても低く,尺度の内部一貫性が低くなった。 心理尺度では,逆転項目があることで信頼性係数の推 定値が低くなったり,因子分析で想定されていなかった 因子が抽出されたりすることがある(Marsh, 1996; Motl & DiStefano, 2002; Quilty, Oakman, & Risko, 2006)。そのよ うな場合,逆転項目を除いて尺度を構成したり,別の尺 度を設けたりする。しかし,この研究はこうした問題の 原因が,逆転項目自体ではなく,回答者側にあるという 可能性を示している。 さらに,増田他(2016)の結果は,中間選択が過度に 見られるような調査結果の解釈に,留意しなければなら ないことを示唆している。例えば現在,経済学や政治学 といった社会科学領域で,人々の幸福感が注目されてい る。こうした領域での調査研究ではしばしば,「とても 不幸」を0,「とても幸せ」を10とする11段階で評定を 求め,7点以上であれば幸福感が高いとしている。する と,我が国では幸福感の高い人が,その経済水準を鑑み ると,非常に少ないという結果が得られるのである (OECD, 2010など)。しかしながら,幸福感得点の回答 分布をみると,中間カテゴリである5の選択率が突出し ていることがわかる。このことは,幸福感が中程度であ るような日本人が多いということを意味しているのだろ うか。

そこで,Masuda, Sakagami, Kawabata, Kijima, & Hoshino (2017)は,幸福感や生活満足感に関する設問と,上述

のような特定の回答を指示する項目を含めた調査を行っ た。すると,全データでの現在の幸福感の回答分布は, 中間カテゴリの5 (19.9%)と7 (19.3%)が高く,これま での調査結果とよく似ていた。しかしこの研究では,

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4つの指示項目の少なくとも1つに従わなかった非遵守 者が約4割もいた。そして指示の遵守者と非遵守者の回 答を比較したところ,予想通り非遵守者の方がはるかに 中間選択率が高かった。そのため,幸福感の高い人は, 全データでは44.2%であったが,非遵守者を除いた遵守 者だけだと48.1%に増加した(Figure 1)。すなわち,我 が国で幸福感の高い人が少ないという調査結果が得られ る理由の1つは,真面目に回答していないことが疑われ る人が,中間選択をしがちなためであることが示された のである。 3. 継時的判断 調査票には通常,複数の質問項目が含まれている。そ のため,項目の並び順が回答に影響を与えるという文脈 効果(context effect)や,キャリーオーバー(carry over) 効果が生じることがある。例えば,結婚生活についての 満足度と全体的な生活への満足度について,「結婚→全 体」の順で尋ねるときよりも,「全体→結婚」の順で尋 ねたときの方が,両変数間の相関が高かった(Tourange-au, Rasinski, & Bradburn, 1991)。これは,結婚満足度につ いて先に尋ねられると,その後で全体満足度について回 答する際に,結婚のことを除いて考えるようになるため だとされている。 また,Knowles (1988)は1次元からなる多くの心理尺 度で,後半に配置された項目の方が,回答値の参加者内 分散が小さくなるとともに,当該項目とそれ以外の項目 の合計得点との相関が高くなることを報告している。そ してこうした結果が得られたのは,ある潜在特性に関す る項目に繰り返し回答することで,回答者が問われてい る概念を明確に理解し,記憶情報へのアクセスが活性化 され,より的確に回答できるようになるためだという。 増田・坂上・北岡(2017)では,5因子性格検査 (FFPQ) の50 項目短縮版として作成された FFPQ-50 (藤島・山 田・ ,2005)の回答を検討した。FFPQ-50はもともと, 外向性 (Ex),愛着性 (A),統制性 (C),情動性 (Em), 遊技性 (P)の5つの下位尺度を測定する項目が,Ex, A, C, Em, Pの順で提示されている。すなわち,Exに関する 項目は,1, 6, 11, …, 46番目に,Aに関する項目は2, 7, 12, …, 47番目に配置されている。この研究では,以上の ような原版と同じ項目配置のほか,回答者ごとにランダ ムに項目が並べられる(完全ランダム条件)など,異な る4条件が設けられた。そして50項目を5項目ずつ10ブ ロックに分け,ブロックごとの中間選択数を従属変数と した線形混合モデルで分析を行った。すると,参照カテ ゴリである完全ランダム条件の傾きは有意な正の値を示 したが,各条件との交互作用は有意ではなかった。 完全ランダム条件では,項目ごとの差異が相殺される ので,各回答カテゴリの選択率はどのブロックでも同じ になることが期待される。しかしながら,後半のブロッ クでは中間選択が増え,「2.ちがう」や「4.そうだ」と いった弱い選好を示す回答が減っていたのである(Fig-ure 2)。また中間選択が増大していく傾向に関して,他 の項目の並び順との差は見られなかったのである。

さらに,Morii, Sakagami, Masuda, Okubo, & Tamari (2017) では,Web調査で大量の無意味図形や風景写真への選好 を回答者に求めた。すると,評価は一度増加した後, ゆっくりと減少し,回答軸の中央の選択が増加してい た。これらの結果は,Knowles (1988)の主張とは異な り,調査で多くの項目に回答していくと,次第に判断が 鋭敏でなくなっていくことを示していると言える。 このように回答者が選好を明確に示さなくなっていく ことは,古くから学習に関して研究されてきた馴化 (habituation)に似ていると思われる。馴化とは,同一 もしくは類似の刺激に繰り返して晒されると,反応が生 起しにくくなるという現象で,有益でも有害なわけでも ないような刺激に対して生じやすい。すなわち,回答者 Figure 1. Distributions of current happiness. The left figure was created by the current author using data from the Quality of

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にとって似ていると感じられるような項目に続けて回答 していくと,中間選択が増えていくのかもしれない。 以上のような研究はあるものの,通常,個々の調査項 目への回答は独立してなされるものとされていて,多く の項目に回答することの影響については,ほとんどわ かっていない。しかしながら,調査においては多数の項 目への回答を求めるのが普通であり,継時的な判断や回 答についての知見を蓄積していくことが必要である。 4. 回答プロセスに関する基礎的研究 回答行動を精緻に捉えることを目指して,Tourangeau et al. (2000)は,回答の際に,「設問の理解・解釈」,「関 連情報の想起」,「判断の算出」,「回答形式に合わせた判 断の編集」を経るという段階モデルを提案している。反 応バイアスは,これらの段階のいずれかで十分な努力が なされなかったり,ある段階がスキップされたりするこ とで生じると考えられ,最小限化(satisficing)と呼ばれ ている(Krosnick, 1991)。 最小限化に関する研究は多いが,従来は回答プロセス についてのデータを得ないで,どのような回答行動がな されているのかを推測していた。しかしながら近年,回 答時間や眼球運動等から,回答プロセスを捉えようとい う試みが増えてきた。以下にいくつかの研究例を挙げ る。 1)回答時間 回答者が項目をきちんと読み,検討したうえで回答す るのであれば,相応の時間がかかるだろう。すなわち, 回答時間は認知的努力を反映するとされ,回答時間の短 い人で,先に提示された選択肢が選ばれやすいという初 頭効果が見られたり(Malhotra, 2008),同じ回答カテゴリ が続けて選択されるという同一回答傾向が強く見られた りする(埴淵・村中・安藤,2015; Zhang & Conrad, 2013)。 また増田・坂上・森井(2017)では,上述したような回 答指示の非遵守者で回答時間が短く,中間選択や「あて はまる項目をすべて選ぶ」よう求める複数回答可質問で 「わからない」の選択率が高いことが報告されている。 回答時間データは容易に手に入れることができるの で,回答行動の研究に大いに活用すべきである。しかし ながら,回答時間の長短には,項目文の明確さや,個人 の認知的能力,意見や態度の結晶化の程度なども関係す る。また,回答時間が長いからといって,十分に考えて いるとは限らないし,長すぎることが問題視されること もある。さらに,上記の回答の 4段階のどこに時間を 使っているのかがわからない,といった問題がある。 2) マウスクリック(mouse click)やキーストローク (keystroke) 項目内容が同じであっても,回答形式が異なると,回 答が変わってしまうことがある。例えば,「あなたに とって音楽はどれくらい重要か」といった項目で,「1. とても重要」から「5.全く重要ではない」の選択肢が提 示されていて,その中の 1 つを選ぶ場合(Polar Point Scale)より,空欄に1∼5の数値のいずれかの記入を求 める場合 (Number Box)の方が,平均得点が高くなるこ とが多くの研究で報告されている。しかしながら,「重 要でない」の方向で,数値ラベルが大きくなるような選 択肢の並び順は,直観的に理解しづらく,特にラベルを 目にしながら回答するPolar Point Scaleよりも,Number Boxのときに誤った回答をしやすいと思われる。逆に, Figure 2. Mean percentage of respondents choosing each response categories.

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数値の大小と重要性の評価の方向が一致しているときに は,どちらの回答形式でもミスが少ないだろう。実際, Heerwegh (2011)が,選択肢の言語ラベルと数値ラベル を入れ替えて,「1. 全く重要ではない」–「5. とても重要」 としたところ,回答形式による平均得点の差は見られな くなったのである。 また,マウスクリックに関するデータから,回答者が 回答値を真逆に変更(例えば,5を1に変える)した回 数について検討したところ,直観的な並び方(「1. 全く 重要でない」–「5. とても重要である」)のときの方がそ うでないとき(「1. とても重要」–「5. 全く重要ではない」) よりも少なかった。すなわち,非直観的な並び方のとき の方が,誤って回答しやすいことが推測された。このよ うな,回答の変更や回答の順序といった情報は,回答プ ロセスについて調べるうえで有益であると思われる。 3)眼球運動

目の動きは,選択と関係があるとされる(Kuo, Hsu, & Day, 2009)。したがって,調査票のどの部分を見ているか を捉えることで,回答プロセスについて知ることができ るものと思われる。例えば,Galesic, Tourangeau, Couper, & Conrad (2008)では,複数回答可質問で,前半に配置 された選択肢の方が凝視時間や回数が長く,また凝視時 間の長い選択肢が最終的に選ばれるという結果を得た。 さらに,複数回答可質問で回答順序効果が見られる説明 として,「回答者は最初の受け入れ可能な回答を選ぶだ けで,後半の選択肢をわざわざ読まない」と,「回答者 は全ての選択肢を読むが,後半の選択肢には認知資源を ほとんど使わない」の2つがあることに対し,たいてい の回答者は全部の選択肢を見るが,前半の方がよく見る し,後半をスキップしがちであることを見出した。この ように,眼球運動は回答プロセスの把握に有効であると 思われるが,実験室外での測定が難しいといった欠点が ある。 5. お わ り に 社会調査では,項目の内容から回答の理由を推測する のが普通である。しかし,回答者は調査票・画面に含ま れる様々な情報から回答を構成する。例えば,Tourangeau, Couper, & Conrad (2004)では,「女性の就業機会を男性 と同等にするために,政府がどれくらい取り組んでいる と思うか」といった項目で,「非常に少ない」から「非 常に多い」までの 5件法に,「わからない」と「意見が ない」という選択肢を加えて回答を求めた。ただし,あ る回答フォーマットでは,計7つの選択肢が等間隔で並 べられていたが,別のフォーマットでは,5つの回答カ テゴリと「わからない」,「意見がない」の間に線が引か れていたり,広いスペースがあったりして,見かけ上の 中央に位置する選択肢が異なっていた。結果は,同じ選 択肢であっても,中央にあるように見えるときの方が, そうでないときよりも多く選ばれていた。

またCouper, Conrad, & Tourangeau (2007)では,Web での調査画面に病人の写真があるときよりも,健康な人 の写真が添えられているときのほうが,自分の健康度を 低く見積もるという結果が得られた。特に Web調査に おいては,調査画面のビジュアル,ロゴ,イラスト, 色,スペース等を様々に設定することが可能であるが, こうした要因が回答に与える影響も,基礎心理学の研究 対象になるだろう。 社会調査があてになるものになるためには,設問内容 や社会的文脈と独立した,回答行動の基礎的なメカニズ ムを把握することが必要である。しかしながら,このこ とはそもそも基礎心理学が関心とするところであると思 われる。したがって,回答行動に関して基礎心理学の立 場からの研究を進めることは可能であるし,その知見は 社会調査の質の向上の役に立つであろう。また逆に見れ ば,Web調査等を利用して基礎心理学的な研究をするこ ともでき,実験室に来るのが難しいような研究対象者の データを得ることで,外的な妥当性を検証したり,応用 研究に結びつく契機とすることもできよう。基礎心理学 者と調査研究者との協働によって,双方の利益になるよ うな研究が進展していくことが期待される。 引用文献

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Figure 2. Mean percentage of respondents choosing each response categories.

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