C A N C ER 6 (1997), p.19-21 19
ヨモギホンヤドカリを和白干潟で採集
三
島 伸 治
ヨモギホンヤドカリ Pag urus nigrofascia K o m ai, 1996 ( ホンヤ ドカリ科) は基産地である同館湾の 岩礁湖間帯で周年普通に 比 られるが, そのほかで は天草 (熊 本 県) と 和歌山 で冬から春にIURり, や や稀に採集されているのみであり , 海 外からは知 福 岡 市 東 区 。 奈多 牧ノ 鼻 130' 20'
玄 界
博 多 湾
130' 26 33" ,( 33" 40' 33 ,0' 」ττrJ4;
;
図 1 ヨモギホンヤドカリの採集地Shinji M I SHI M A : A ne w reco rd of a hermit crab. Pag urs nigrofascia Komai, 1996 from Wajiro-higata tideland in Fukuoka. Japan
ら れ て い な い (K om ai,1996). 今 回 , 筆 者 は 和 白干潟( 博多湾,福岡市) で本種2個体を採集し たので報告する (図 1 ) . 採集 の 状 況
①
1t
,前 叩 長
(S L) =3 . 9mm, 前 甲 幅
(S W ) =3.4mm. 1997年1 月10日,大i
朝の干潮時, 午前4 時30分頃. 和 白-T-i
P..} [Sta_ 1] (北 緯331支41分, 東 経130皮25分) . 潮間布- 上部の細砂の表面. 宿貝 はウミニナB atillaria multiformis (Li schke) .生時, 繊毛虫の群体が体表面に多数付着しており, 全く 歩行できない状態であ った.和 白干潟 は博 多
i
勾東部の最 も奥ま った位慣にあり,典型的な 内汚性 の環境であ って , ユビナガホ ンヤドカ リPag urus dubiω (Ortmann ) が 多 数 生 息している . しかしこの 日1個 体 も 見 なかった. お そ ら く 藻 場 に 移 動 (三 宅, 1978,1982) し, 越 冬しているものと思われる . ②1個体. 1997年2月23日,大潮の │一潮時, '1二 後 4時 頃 . 和 白 干 潟 [Sta_ 2 ] (北 緯33皮41分, 東 経130度26分) . 干潟には春の 日射 しがあり,多 数のユ ピナガホンヤドカ リとともに潮 間情上部の 転石の下,細砂 の 上 か ら採集. け
iW
は米liiJ
定. 現 在飼育中のため,形態、は未調査であるが,色彩の 特徴から本税と考え られる. 標 徴 本種: は 北 ア メ リカ[ Jq
海 岸 の P. s a muetis (Stimpson) や, わ が 国 岩 礁 海 岸 の 代 表 種 ホ ン ヤ ドカリ P- βlholi (de M a n) な ど 数 種 類 の Pagurus と形態的によくにている (K o m ai,1996).Sta . 1で 採 集 の 1
t
の 形 態 に つ い て調べた. (同2) た だ し 大 顎, 第1 ・2小顎, 第1 ・2顎 脚 は 未 調 査 で あ る . し か し そ れ 以 外 の 部 分 は K om ai (1996) の 記 載 の す べ て に つ い て 詳 し く 制20
ヨモギホンヤドカリを和白干潟で採集d
a - c 山 W W 1 川w
i &守 uv 、 h M E 膚 、 もミ
μ
咽 4 J M w d wh
t
fh
州 側'#
111' h ' / ' ノヘ l, -¥ _/ 1¥ ノ" ,(,. /ト f 図 2 ヨモギホ ンヤ ドカリ P a g u r u s nigrofascia K o m a i, 1996. 1997年1月10日,和 白 干潟 [Sta. 1 ] で採 集 古 SL=3.9mm スケールはすべて 1 mm. a 頭部背面 b . 右錫脚背面 C . 左鉛脚背面 d . 左 3 胸脚外面 e. 第3 胸脚の腹板前葉外面 (毛は除いて描いた )司 f. 尾節背面 祭し , それとよく 一致していることを確認した . ここでは近似種との区別の上で主姿な標徴のみを 述べたい. 前市長はその幅よりもやや長い( 長/幅 = 1.1). 傾角は鋭く突き/1'
,し,i
日IJf
りはili
化的である. が発達し, さらに副1・よi1 伽l
がある. 左右の} ! t 脚には林がよく発達している.}It
脚 の 先端は左右とも角質の爪となる. ギiiil
t
腕l長節の腹 側 基部には大きな突起 が11
阿あ る. 左右第2
,3
胸脚 の前節 ・腕uii
背Hl
i
には ー人きな 料が並ぶ. 左第3 胸胸l
の前節 . には 小突起の列があ る. 腕節目反側前総は2本 の 林 とな って尖るが,右脚 の同部分は尖らない . 第3 1J旬開lの)J反板前菜 の 前 縁 に は 2本 の 赫 が あ る.Juiii
は前後2業に分かれ,友松は中央に小さな . "1モ│引│予のi
) i みがあり ,その両側に微小な林が並ぶ. なお ,左右の針I
脚 が:長さの訓にやや太い点,ま た各部の比ヰ心中車の本数や{ 立l宵 な と に つ いて, K o m a i (19 9 6)の先模式襟本 (同 館ft.
;J;' , S L =6.0 m m ) とのf
t¥Jに新干の相迭を凡たが, それは成長に伴う 変 化 や 遺 伝 ・環境的な変異と考えられ る. 色 彩 Sta . 1で採集の1
合の色彩は以下のとおりであ った (同 3 ). 胸) ,止と胸J (第2 , 第 3 胸脚) の前節および指節は オレンジ色を呈する. 歩脚の爪は褐色を帯びる.0fi!}
旬け1の背 │自│正中線には白色線が走り,これは一 島 伸 治 2 1 図3 ヨモギホンヤドカリ . 1997年 1 月10 日,和白干潟 [Sta.1 1で採集.
t
S L=3.9mm(図2と同 一 個 体 ). 特に前lドの前半で は太く帯状にな り顕著で あ る. 左右第2,3胸脚 指節の基部約4分のlは濃色 1996) . しかし和白干潟で、も同じように周年生活 し,繁殖しているかどうか,明 らかではない. む しろ 幼生の漂着による 一時的な無効分散なのかも しれない. 今後和白での調査を 継続し,周年 にわ たって抱卵雌を含む個体群が確認できるかどうか 調べたい. また, 筆者は福岡市近郊の岩礁海岸での採集も おこなってきたが,そこではまだ本種を発比して いない. しかしホンヤドカリや色彩の類似するケ アシホンヤドカリ P.lanuginosus de H aa n とj昆同 し,見逃していた可能性もあるかもしれない. 博多湾,玄界灘各地を調査してさ らに情報を集 めてみたい. ところで和白-1
'
が建設中であり,近い将来干潟付近の海水の循環 が車;イヒすることが懸念されている. ヨモギホンヤ ドカリもその影粋を受けるかもしれないと懸念し の色素が集まり ,肉眼でもよ く確認できる. 前節 ている. 主主音1¥外側耐は やや黒味を帯びる . 長節から指節の 中程なでに赤茶色の小斑が散在する. この小政iの 位置は林となることが多く ,ま たその迷位│焼J
妾部 からは毛を生じる. 眼柄の 内側11にもIf
iJ
様の小斑が 見られる . 10 %ホルマ リンで 固定後, 70 % エタノー ルに 漬 けると全体にオレンジ色に変わ ったが,1)'1部 の組 織が溶脱したのち ,甲 および! 良部の外! 支は乳白色 とな った. 上記胸脚指針j募部の濃色素やi
司
!r
i
. 指 節の小斑は濃い赤色に変わ って残った . あとが、き ヨモギホンヤドカリのこれまでの採集地は岩礁i41M;::
で、あり ,和 白の ように内 湾の一干潟で、の採集記 録は今回が初めてと思われる. 同館i
ちて'Ij: 布 し,季 節 的 移 動 は 見 ら れ な い (Goshima et al .. 謝 辞 本杭作成にあたり,貴重な 御教示を! l 易りま した 千葉県立 中央博物館の駒井智幸博士に厚く御礼申 し上げ ます. 参考文献G oshima. S.. W ada S.. & Ohmori H‘1996. Rcproducli vc
biology of the hermit crab pα,R'IrtIS nig rofiαS Oα
(Anomura. Paguridae) Crustaccan Rcsca rch. 25: 86 92
Komai, T.. 1996. Pag u n
,
s lIigrojαscia, a nc w specics ofhermit crab (D ccapoda: Anomura: Pagurid ac) from Japan. Crustaccan Rcsearch. 25: 59-72
三宅貞祥, J 978. -l'