ダイキンメルマガ2018 年 12 月号 含フッ素金属錯体・化合物 1、 はじめに 含フッ素金属錯体・化合物についての報文の数は、相変わらず安定している。この テーマは、2010 年 11 月号、2012 年 12 月号、2014 年 9 月号とこちらも安定した執 筆を続けている。本稿では、この 2 年間に提出された報文を中心にまとめてみた。金 属としては、アルカリ・アルカリ土類金属錯体、遷移金属錯体、ランタニド金属錯体な ど多彩であり、ここでは金属により分類して述べてみる。 2、アルカリ・アルカリ土類金属錯体 H.V. Rasika らは、下図に示す[HB(3-(CF3),5-(Ph)Pz)3]を合成し、メタセシスプロ セスにより[HB(3-(CF3),5-(Ph)Pz)3] AgL(L=C6H6、CO or PPh3)錯体を合成した。1) これまで含フッ素化合物としては、3,5-ともに CF3の化合物が知られていて、その電 子吸引性により、弱供与性を示し、その金属錯体は、C-H や C-Halogen のカルベン 挿入を経由する官能基化において高い触媒活性を示した。本稿における CF3 と Ph 基を有する化合物も高い触媒活性が期待されるとしている。 3、遷移金属錯体 V. Ya. Kavun らは、K0.5–xPbxBi0.5F2+xとRb0.5–xPbxBi0.5F2+xを合成し、19FNMR と X 線回折およびインピーダンススペクトルで蛍石構造の均一固相のイオン移動度 および伝導性を調べた。2)均一固相のフルオライド副格子におけるイオン移動のタイ プが確立され、その温度範囲が 150~450K であることが分かった。350K 以上では フルオライドイオンの拡散がイオン移動を支配している。450K で 10‐3S/cm の高いイ オン伝導性が得られた。これらの固体電解質は種々の電気化学的デバイスやシステ ムにおいて固体電解質として有用であるとしている。 You-Xuan Zheng らは、下図に示す 4 種の Pt 錯体を合成し、フォトルミネセンスと エレクトロルミネセンスを調べた。3) この錯体用いた下図に示すデバイスを作製した。 CF3基置換の場合、発光色と発光強度に明確な変化をもたらした。特にPt2 の場合、 最大のルミネセンス 39196cd/m2、最大の電流効率 41.0cd/A、最大の出力密度 31.0lm/W、低ロールオフを示した。CF3置換Pt 錯体は OLED において高いポテン
シャルを持っているとしている。 ポ リ フ タ ロ シ ア ニ ン は 廃 水 処 理 に お け る 酸 化 触 媒 と し て 広 く 使 わ れ て い る 。 Wangyang Lu らは、下図に示す、酸素ブリッジ鉄パーフルオロフタロシアニン二量体 を合成し、構造解析を行い、下図の構造を確認した。4) 次いで、カルバマゼピンをモデル汚染物質として選定し、本錯体と過酸化水素が組 み合わさると効率的に酸化することができた。その場合、OH ラジカルは検出されな いので下図右に示すようにOH イオンが生成する機構であることが分かった。
Tamara V. Basova らは、パラジウムフタロシアニン錯体にフッ素を導入、構造解析 を行った。5) その結果、フッ素を導入すると結晶構造が三斜晶系になり、非フッ素系 の単斜晶系から変化した。分子電子デバイスの活性層として期待される。 有機Zr 化合物は、UV キュアコーティングの酸素阻害を克服するペルオキシラジカ ル補足剤として研究されてきた。Xiaoxuan Liu らは、含フッ素有機 Zr 化合物を合成 し(下図)、ペルオキシラジカルの補足性を向上させた。6)
UV キュア、アクリルコーティングを Zr-O8CF や Zr-05CF 存在下で行ったところ、 酸素による阻害の抑制効果は向上し、タックフリーのコーティングができた。 P. Nicholas らは、下図左に示すオキソトリアルキルタングステンフルオライド錯体を 合成し、次いでシリカのシラノール基とtBuO 基との反応でシリカ表面に W 錯体を有 する化合物を合成した。7) 表面に存在する F はプロピレンのメタセシスなどで高い触 媒作用を示した。これはF 原子が W の電気密度を低下させオレフィンに対して活性を 高めたとしている。 Marina A. Petrukhina ら は 、 溶 媒 配 位 の な い Cu(Ⅱ)L2(L=C6F5COCHCOC6F5-)(Ⅰ)を合成し、150℃の昇華-沈着法を用いて結 晶化した。8) X 線解析から、Cu(Ⅱ)を中心とする平面四辺形構造の中心対称性単核 体であることが分かった。Cu-Oav 距離は 1.9149Å。(Ⅰ)とナトリウムヘキサアセトネ ート[Na(hfac)]とを無溶媒中で反応させると[NaCu2L4(hfac)2]となった。X 線解析に よ り 初 め て の ヘ テ ロ 金 属 Na-Cu β ジ ケ ト ネ ー ト で あ る こ と を 確 認 し た 。 [NaCu2L4(hfac)2](2)は下図に示す通り、対称性単核体であり、[Na(hfac)]2 が二つ
のCuL2の間でサンドイッチ構造を取っている。L 配位子は一つの酸素を通して Cu と Na との間にキレートブリッジングしている。hfc 配位子は両方の酸素を通して Cu と Na、Na(1)と Na(1A)との間でキレートブリッジング構造を取っている。5 つの主要な Na-O 結合(平均 2.4109Å)に加えて、3 つの二次的 Na-F 結合(平均 2.6006Å)が Na に対して全体的に歪んだ半四角柱形配位構造をとっている。Cu-L の距離は平均 1.922Åであり、Cu-O((hfac)の距離は 2.3021Åであった。2 の熱分解をアルゴン中 230℃で行ったところ、NaCuF3、Na2CuF4、NaF の混合物が得られた。
4、ランタニド金属錯体
Vasily A. Ilichev らは、下図に示す方法で合成された含フッ素ランタニドメルカプト ベンゾチアゾレート錯体を合成し、構造解析を行い、フォトルミネセンスを調べた。9)
mbtF の三重項エネルギーは 21500cm-1であり、Dy3+、Tb3+、Nd3+、Er3+イオンへ の共鳴エネルギー移動を可能にすることが分かった。 Andrius Laurikenas らは、下記に示す TFBDC2-イオンを配位子とした Ln: Tb3+、Eu3+錯 体 Ln2(H2O)4(TFBDC)3・DMF 、 Ln2(Phen)2(TFBDC)3・2H2O 、 Ln(TFBDC)(NO3)(DMF)2・DMF を沈殿および拡散制御沈殿法で合成した。10) 水 や極性溶媒に溶けない粉体が得られた。XRD で分析した結果非晶性であることが分 かった。 熱分解させると275-400℃では LnF3、415-600℃では LnOF が生成した。最も 強い発光は、Eu2(Phen)2(TFBDC)3・2H2O の 613nm と Tb2(H2O)4(TFBDC)3・ DMF の 542nm でλex は 300nm であった。
Hiroki Iwanaga らは、下図に示す、9 種類のジホスフィンジオキサイド Eu(Ⅲ)錯体 を数種類合成し、分子構造間の関係を調べた。11)
その結果、下表に示すように CF3CHFCHFC2F5(DHDFP)への溶解性は、6 の CF3 基がジホスフィンのフェニルグループに導入された錯体が飛びぬけた溶解性を 示した。また、比較的大きな燐光強度を示した。 6 は LED デバイスやセキュリティメディア、センサーとして有望であるとしている。 5、おわりに フッ素を含有する金属錯体の文献はこの 2 年間でも枚挙に暇がないほどである。そ の一部を紹介した。フッ素の効果としては、電子吸引性による弱供与性が触媒活性 につながること、F-イオンの拡散移動性が大きく、固体電解質としての有用であること、
ペルオキシラジカルの補足性が向上することなどがある。また、CF3基導入によりフォ トルミネセンスが向上し OLED として期待されているが、特にフッ素系ランタニド金属 錯体が期待され、数多くの研究がなされているようである。さらに、廃水処理の酸化 剤としてフッ素系金属錯体が使われている文献も紹介した。このようにフッ素系金属 錯体は多彩であり、今後多方面において応用展開されていくと考えている。 文献
1) H.V. Rasika Dias et al Polyhedron 125(2017) 68-73
2) V. Ya. Kavun et al Journal of Solid State Chemistry 249(2017) 204-209 3) You-Xuan Zheng et al Dyes and Pigments 143(2017) 33-41
4) Wangyang Lu et al Journal of Chemical Engineering 328(2017) 915-926 5) Tamara V. Basova et al Dyes and Pigments 149(2018) 348-355
6) Xiaoxuan Liu et al Progress Organic Coatings 120(2018) 228-233 7) P. Nicholas et al Journal of Organometallic Chemistry 869(2018) 11-17 8) Marina A. Petrukhina et al Polyhedron 157(2019) 33-38
9) Vasily A. Ilichev et al Journal of Molecular Structure 1148(2017) 201-205 10) Andrius Laurikenas et al Optical Materials 83(2018) 363-369
11) Hiroki Iwanaga Optical Materials 85(2018) 418-424