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(2) 「ルベーグ積分」 サンプルページ この本の定価・判型などは,以下の URL からご覧いただけます.. http://www.morikita.co.jp/books/mid/005431. ※このサンプルページの内容は,初版 1 刷発行時のものです..
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(4) まえがき ルベーグ(Lebesgue)積分は便利である.高い柔軟性があり,適用範囲も広い.高 い柔軟性は,たとえば,フーリエ解析における技術的困難を大幅に緩和し,理論的筋 道をより明確にする.また,適用範囲の広さは,たとえば,確率論における期待値は 積分と考えることができることに現れる. 本書では,積分の定義から各種収束定理までをできるだけコンパクトにまとめ,そ の後は計算例を多く取り上げ,読者と測度論的積分との距離感を縮めるような構成を 試みた.筆者が工夫点であると考えるところを挙げておこう.. • 第 1 章では,測度論的積分のあらましを述べるだけでなく,具体的に何ができる ようになるかを例示した.. • 第 2 章では,測度ありきとして積分を定義し,続いて収束定理だけを一巡りする. 計算実践が目的なら,この章を読んだ後に,すぐに第 4 章へ進んでもよい. • 第 4 章では,測度の構成よりも先に,1 次元ルベーグ積分のみを取り扱った.部 分積分や変数変換など応用の鍵となる手法を第 2 章に基づいて整備し,指数関数 や三角関数を含む具体的な積分に適用する.ルベーグ積分ならではの自然な流れ が計算例に見えるようにした.. • 測度の構成や一意性は,第 5 章,第 6 章に先送りした.最近はこのような方針を とる教科書もよく見かけるが,より鮮明にしてみた.とくに強調したのは,次の 点である.『ルベーグ測度 λ は任意の a < b に対して λ([a, b]) = b − a を満たす という条件で完全にコントロールできる.』. • 第 7 章でフビニ(Fubini)の定理が使えるようになった後,古典解析に現れる具 体的な積分を,計算例として数多く挙げた.とくに,積分値を表示するのに大活 躍するガンマ関数を,多く取り上げている.1 次元ルベーグ積分の手法だけでは 歯が立たない積分が魔法のように評価できるのは,きっと爽快に思うに違いない. 使う機会に思い出してもらえれば狙いどおりである.. • 付録 A.1 を設け,測度論における無限大の取り扱いなどを確認できるようにした. • 本書では,以下のような項目がある. 前提は,節が終わるまで仮定すること を述べるときに用いる.個々の定理や補題では,了解済みのものとして明示はし ない.. 記号は,本書を通じて使われる記号を導入するときに用いる(繰り返.
(5) ii. まえがき. すことはいとわない).. 約束は,誰もが了解しているとはいえないような決. めごとを述べたり,初学者には伝えたほうがよいと思われる暗黙の了解を説明し たりするときに用いる. さて,本書を読むには理工系初年度の微積分を会得していると大変よいのだが,そ の上に積み重ねるというわけではない.また,位相空間にかかわる事項はできるだけ 避けているので,負担が軽減されていると思う.それでも,実数の連続性に関する取 り扱い(イプシロン・デルタ論法を含む)や,集合と写像の抽象的取り扱いには慣れ が必要である.ここは,練習を積んで乗り越えよう.本書には,演習問題がおおよそ. 110 題収録されている.大部分の問題は,その直前に登場する定義を確認したり,定 理の適用を練習するようなものが多いので,できるだけ解くようにしよう. 自習書として読むときは,目次直後の「初めて読むときのチャート」を参考にして ほしい.* の付いた節や命題,問題は,初めて読む場合には飛ばしても構わない. 繰り返しておこう.ルベーグ積分では,いままでどおりの計算技術はそのまま使え, 面倒な手続きは大幅に省ける.しかも,視野に収まる対象が格段に広まる.とにかく ルベーグ積分を使ってみよう.慣れたらこれほど手になじむ道具はほかにないと思え るはずである. 校正を終えて改めて大元となった講義ノートと比べてみると,多くの読者を想定し た書籍との違いを強く感じずにはいられない.ここまで来るには森北出版の太田さん には大変お世話になった.また,講義ノートの改良には聴講生からの質問が役立った. とくに,赤部健人さんには早い段階での原稿を通読してもらい,有益なコメントを受 けた.皆様には謝意を表したい.. 2015 年 6 月 著者.
(6) 目. 次. まえがき. i. 初めて読むときのチャート. v. 記号について. vi. 第 1 章 ルベーグが考えた積分 1.1 複雑な関数の積分 1.2 ルベーグの視点 1.3 測度に基づく積分 1.4 何ができるようになるか 1.5 まとめ. 1. 第 2 章 積分の定義と性質 2.1 積分の定義 2.2 σ 加法族の性質と可測性 2.3 単関数の積分 2.4 可測関数の積分 2.5 単調収束定理 2.6 ルベーグの収束定理 2.7 まとめ. 6. 1 2 3 4 5. 6 9 12 15 23 29 34. 第 3 章 測度 0 の集合 3.1 ほとんどいたるところ 3.2 零集合と収束定理 3.3 L1 空間の完備性. 35. 第 4 章 1 次元ルベーグ積分 4.1 1 次元区間上の積分と原始関数 4.2 1 次元区間上の積分と部分積分 4.3 1 次元区間上の積分と変数変換 4.4 1 次元区間上の積分の活用. 49. 第 5 章 ルベーグ測度の構成 5.1 有限加法的測度と,それが誘導する外測度. 68. 35 40 44. 49 55 58 62. 68.
(7) iv 5.2 5.3 5.4 5.5. 目. 次. カラテオドリの外測度と可測集合* ルベーグ測度の存在 ルベーグ スティルチェス測度と密度関数*. 1 次元ルベーグ積分と平行移動. 76 82 86 94. 第 6 章 測度の一意性と直積測度 6.1 拡張の一意性とその応用 6.2 直積測度としての 2 次元ルベーグ測度 6.3 ディンキン族定理と直積測度 6.4 ディンキン族定理の応用*. 100. 第 7 章 フビニの定理 7.1 単調収束定理とフビニ トネリの定理 7.2 ガンマ関数とその応用 7.3 フビニの定理とその応用 7.4 ベクトル解析と調和関数*. 135. 第 8 章 フーリエ級数とフーリエ変換 8.1 フーリエ級数とアーベル総和法 8.2 フーリエ逆変換公式 8.3 局所的性質と大域的性質. 171. 第 9 章 符号付き測度と部分積分 9.1 符号付き有限加法的測度 9.2 ジョルダン ハーンの分解定理 9.3 ルベーグ ラドン ニコディムの定理 9.4 符号付き測度による積分 9.5 有界変動関数と符号付き測度 9.6 部分積分が開く世界. 190. 付 録 A.1 実数に関する補足 A.2 初等関数. 218. 問題略解. 227. 参考文献. 241. 索. 242. 引. 100 111 119 128. 135 146 155 161. 171 175 179. 190 195 199 204 209 215. 218 222.
(8) 初めて読むときのチャート すべてを読んでもよいが,そうもできないという場合には,目的に応じて,章や節 を飛ばしながら読み進めることもできる..
(9) 記号について ここでは,本書でよく用いる記号をまとめる. 集合. N := 正の整数全体,Z := 整数全体,Q := 有理数全体,R := 実数全体 実数に関連する集合を表す記号を挙げる.付録 A.1 を適宜参照してほしい.. R≥0 := {x ∈ R : x ≥ 0}, R>0 := {x ∈ R : x > 0} R := R ∪ {−∞, +∞}, R≥0 := {x ∈ R : x ≥ 0} 写像・関数 関数 f, g : X → R に対して,X 上で g (x) ≤ f (x) が成り立つことを,g ≤ f と表 記する.また,X 上で 0 ≤ f (x) が成り立つこと(非負値)を,0 ≤ f と表記する. (写像 f : X → Y に対して) 像 (image): 集合 A ⊂ X に対して,f (A) := {f (x) ; x ∈ A} 値域 (range): range f := f (X ) 逆像 (inverse image): 集合 B ⊂ Y に対して,f −1 (B ) := {x ∈ X : f (x) ∈. B} (関数 f : X → R と a ∈ R に対して). {f ≤ a} := {x ∈ X : f (x) ≤ a}, {f < a} := {x ∈ X : f (x) < a} {f = a} := {x ∈ X : f (x) = a}, {f = a} := {x ∈ X : f (x) = a} (同様に,{f ≥ a},{f > a} や {a ≤ f < b} なども使う.) 集合 A ⊂ X に対して補集合 (complement) を Ac と表し,また,. . 1A (x) :=. 1 (x ∈ A ) 0 (x ∈ A c ). を,A の定義関数 (indicator function) という..
(10) 記号について. vii. べき集合 (power set) P (X ): 集合 X の部分集合全体の族 差集合 (difference): (集合 A,B に対して)A \ B := {x ∈ A : x ∈ B}. #A: 集合 A の要素の個数 ランダウの記号. x → +∞ のときの挙動を表すランダウの記号 o と O を導入しておく.p ∈ R と する.. f (x) = o(xp ) とは,limx→+∞ f (x)x−p = 0 を満たすときにいう. f (x) = O(xp ) とは,ある R ∈ R>0 に対して supx>R |f (x)|x−p < +∞ を満 たすときにいう. (一般の)二項係数. n−1 (s − k ) s (s ∈ R と n ∈ Z≥0 に対して) := k=0 n! n (n = 0 のときは 0s = 1) 符号関数. ⎧ ⎪ ⎨ 0 sgn : R → R sgn(x) = x ⎪ ⎩ |x|. (x = 0) (x = 0). その他 以下,本文中で定義が与えられる概念を表す記号を登場順にまとめておく.. B,μ:. 一般の σ 加法族と一般の測度. f 1 :. 関数 f の L1 ノルム(基礎の測度は前後関係から判断する). μ–a.e.: 測度 μ に関しほとんどいたるところ I := {(a, b] ; a, b ∈ R, a < b} ∪ {∅}: 左半開区間と空集合のなす半加法族 dv :. 関数 v が誘導する有限加法的測度またはルベーグ スティルチェス 測度. γ (m; ·): 有限加法的測度 m が誘導する外測度 M(γ ),N (γ ): カラテオドリ外測度 γ に対する可測集合族と零集合族 δa : λ,λ. a を質点とするディラック測度 (2). : 1 次元ルベーグ測度と 2 次元ルベーグ測度.
(11) viii. 記号について. σ (A):. 集合族 A で生成される σ 加法族 (全体集合は前後関係から判断する). B(R),B(R2 ): 1 次元ボレル集合族と 2 次元ボレル集合族 B1 ⊗ B2 ,μ1 ⊗ μ2 : 直積 σ 加法族と直積測度 C0r (Rd ):台が有界な C r 級関数 Rd → R の全体 γ: オイラーの定数(ただし,第 5 章ではカラテオドリ外測度を表す) f
(12) c ,f
(13) s : 関数 f のフーリエ変換. var+ (ξ ; ·),var− (ξ ; ·),var(ξ ; ·): 集合関数 ξ の正変動,負変動と変動.
(14) 1. ルベーグが考えた積分. 1.1 複雑な関数の積分 積分は,関数の値を面積などにより重みを付けて連続的に足しあわせた量と考えら れる.いま, 「連続的に」という言葉を不用意に使ったが,これがくせ者である.リー マン(Riemann)積分においては,関数の定義域を部分区間などに分割し,リーマン 和を定義して,分割を細かくする極限移行により,連続的な足しあわせを行っている. リーマン積分の完成度は高いが,不便なところもある.たとえば,ディリクレ(Dirich-. let)の関数とよばれる以下の関数は,すべての点で不連続であるため,リーマン積分 では取り扱えない.. f ( x) =. 1 (x ∈ Q ) 0 (x ∈ Q). こんなものは作為的だから相手にしないというわけにもいかない.三角関数 cos を使っ て,ディリクレの関数を次のように表現できるからである.. . lim lim (cos πm! x). m→∞ n→∞. 2n. =. 1 (x ∈ Q ) 0 (x ∈ Q). (1.1). 実際,x ∈ Q なら M x ∈ Z を満たす M ∈ N が存在するので,m ≥ M なら. (cos πm! x)2 = 1 となる.また,x ∈ Q なら任意の m に対して m! x ∈ Z より, limn→∞ (cos πm! x)2n = 0 となる.極限をとる前の関数は気心の知れた関数のはずな のに,極限 (1.1) では大暴れをし,リーマン積分可能でない関数が現れてしまった. しかし,このようなやっかいな関数でも,積分をするための手がかりはちゃんとあ る.極限 (1.1) をとる前の関数について,積分を計算してみよう.詳細は省略するが, 次が成り立つ.. 1. (cos πm! x)2n dx = 0. ここで,(2k − 1)/(2k) ≤. √. n 2k − 1 2k k=1. √ √ k/ k + 1 より, nk=1 (2k − 1)/(2k) ≤ 1/ n + 1 と. なる.したがって,積分値の極限は 0 である.これは,ディリクレの関数に対して,.
(15) 1 章 ルベーグが考えた積分. 2. その積分が首尾よく定義できたら,積分値は 0 であると示唆していると考えてはどう だろうか.Q は可算集合であるから,ディリクレの関数がとる値の大勢は 0 であり,. 1 は例外と見なすことができそうである.ちりも積もれば山となるが,山になる寸前 でことが収まればよいのである.これは,可算無限までを限度として一定の操作を許 容することで解決できる.. 1.2 ルベーグの視点 ディリクレの関数は,定義域から見て変化を追うには複雑すぎるが,とる値に関し ては,0 と 1 だけであり単純である.Lebesgue(ルベーグ)は,横軸を直接触らずに 縦軸のほうから関数を調べることにした.. 2 変数関数 f : [0, 1]×[0, 1] → R のグラフを考え,水平方向にスライスする.図 1.1 (b) のような地形図をイメージしよう.関数 f は地域 [0, 1] × [0, 1] の各点における標高を 表すものとして,標高に応じて地図を塗り分ける. 極限を考えるときに都合がよいので,図 1.2 のように標高の刻み幅を 1/2n とする. この図からわかるように,定義域 [0, 1] × [0, 1] も連動して塗り分けされて,次のよう な分割が生じる.. . (x, y ) ∈ [0, 1] × [0, 1]:. k+1 k ≤ f (x, y ) < n 2 2n. . 図 1.1 水平方向スライス. 図 1.2 標高による塗り分け. (k の範囲は Z). (1.2).
(16) 1.3 測度に基づく積分. 3. Lebesgue は,各領域 (1.2) の面積が定まるものとして,積分を,加重和 ∞ k+1 k k × 領域 ≤ f < の面積 2n 2n 2n k=1. (1.3). の n → ∞ における極限と考えた.つまり,積分のしかたについて,縦割りではなく 横割りへと思考を転換させたのである. 積分では種々の形で単調性が鍵を握る(加重和 (1.3) の極限が存在するのもそうで ある).これは,面積の分割に関する加法性に由来している.. 図 1.3 加法性:複雑な形でも分割すれば面積が求められる. Lebesgue は,可算無限分割までを許容して加法性を考えることにした.その結果, 測度という概念が生まれた.測度を使って加重和 (1.3) における面積を定めると,大 変うまく機能するのである.. 1.3 測度に基づく積分 面積を測る操作を「図形に対して実数値を対応させること」と考える.例外なしに 面積が定められるとしたいところだが,残念ながらそうはいかないので,面積が定ま る図形のリストが必要となる.リストを B と書き,面積を測る操作を対応 μ : B → R と書くことにしよう.対応 μ の加法性を記述するには,リスト B の形式が定まってい ると都合がよい. 1. リスト B は,[0, 1] × [0, 1] の部分集合で構成される集合族である.. 2. ∅ ∈ B,[0, 1] × [0, 1] ∈ B.. 3. A ∈ B なら,([0, 1] × [0, 1]) \ A ∈ B となる(補集合はリスト内にとどまる). An ∈ B (n = 1, 2, . . .) なら, ∞ n=1 An ∈ B となる(可算無限合併はリスト内. 4. にとどまる). このような B を σ 加法族という.対応 μ の加法性は,集合論的に述べられる. 1. A ∈ B なら,μ(A) ≥ 0, μ(∅) = 0 となる.. 2. An ∈ B (n = 1, 2, . . .) が重ならないなら,μ ( なる.. ∞. n=1 An ). =. ∞ n=1. μ(An ) と.
(17) 4. 1 章 ルベーグが考えた積分. 箇条書きの 2 は,可算無限分割までなら加法性が成立することを述べている.このよ うな μ を測度という. とくに,面積を表すものが 2 次元ルベーグ測度であり,以下のように記述される. 長方形など重要な図形をすべて含む適切な σ 加法族 B があり,. μ(長方形) = 縦 × 横 を満たすような測度 μ が一意的に存在する. ここで,B と μ を上のもの(2 次元ルベーグ測度)としよう.関数 f : [0, 1] × [0, 1] → R に対して,そのグラフの水平方向スライスから生じる領域 {k/2n ≤ f < (k + 1)/2n } がすべてリスト B に載っている(したがって,面積が定まる)と仮定しよう.このと き,関数 f は可測であるといい,積分の対象となる.加重和 (1.3) は n → ∞ のときに 収束し, (f が非負値であるなら)極限値がまさに f の 2 次元ルベーグ積分を与える.. ∞ k+1 k k μ ≤ f < n→∞ 2n 2n 2n k=1. . f (x, y ) dxdy = lim [0,1]×[0,1]. 以上が測度論的積分のあらましであり,その詳細を述べるのが第 2 章の役割である.. 1.4 何ができるようになるか 測度論的積分は,各種の極限操作に対して極めて堅牢であるという強みをもつ.そ のため,少々手荒に扱っても大丈夫だという安心感がある.次に挙げるルベーグの収 束定理(を限定して述べたもの)は重要なポイントの一つであり,第 2.6 節で解説さ れる(定理 2.14 参照). 可積分関数列 fn が可積分関数 f に各点収束し,さらに,可積分関数 g であって,すべての n ∈ N,x ∈ R に対して |fn (x)| ≤ g (x) を満たす ものが存在するなら,. n→∞. +∞. lim. −∞. fn (x) dx =. +∞. f (x) dx −∞. が成り立つ. ここまで来れば,手応えのある使い方ができる.気が早いが,適用例を見ておこう. 例 1.1 はフーリエ(Fourier)逆変換公式(定理 8.3)を示す際に重要な役割を果たす. 図 1.4 は,例 1.1 を視覚的に理解するのに役立つだろう..
(18) 1.5 まとめ. 図 1.4. 重みの集中. 有界連続関数 f : R → R に対して,limn→∞. 例 1.1. 5. +∞ −∞. nf (x) dx = πf (0) n 2 x2 + 1. が成り立つ. 証明. 変数変換により,与えられた積分は. +∞ −∞. f (x/n)/(x2 + 1) dx に等しい.. 有界性により,正数 M が存在して各 y ∈ R で |f (y )| ≤ M を満たす.ここで,. g (x) := M/(x2 + 1) とおくと,関数 g は可積分かつ各 n ∈ N,x ∈ R に対して |f (x/n)/(x2 +1)| ≤ g (x) を満たす.さて,連続性により limn→∞ f (x/n)/(x2 +1) = f (0)/(x2 + 1)(各点収束)となる.したがって,ルベーグの収束定理より,積分は +∞ 2 □ −∞ f (0)/(x + 1) dx (= πf (0)) に収束する. 微積分学では,極限 limr→+∞. +∞ −∞. r. −r. nf (x)/(n2 x2 + 1) dx が存在するなら,その値を. 2 2. nf (x)/(n x + 1) dx と表すと習った.他方,横割りの式 (1.3) は,いきなり無. 限区間 R 上で適用してよい.これにより,測度論の意味で可積分であるなら,極限操 作 limr→+∞. r. −r · · ·. dx を経由せずに積分が定まる.したがって,例 1.1 の証明でも言. 及はなかったのである. 後回しになったが,Lebesgue が転換したのは,積分に関する視点だけではないこと に触れておこう.数学の概念は,その由来に縛られることはない.実は,確率にも加 法性が備わっている.複雑な事象でも排反事象に分けて考えると,確率が計算できる ことがある.ここにあるのはまさに加法性である.そのため,つかみ所のなさそうな 確率という対象さえも,測度を使って数学的に基礎付けされたのである.. 1.5 まとめ ここで,測度論的積分の長所をまとめておこう.. • 各種の極限操作に対して堅牢であり,積分の取り扱いに高い柔軟性をもたらす. • 積分の対象を関数の定義域の特別な構造から解放し,適用範囲を大きく広げる..
(19) 2. 積分の定義と性質. 本章では,測度論的積分を導入し,積分の性質と主要な収束定理を一通り述 べる.この章で積分の基礎付けは把握できるので,計算するときや理論を展開 するときにも随時立ち戻って理解を深めていこう. 測度論においては,無限大を許容して量を取り扱う.無限大にかかわるとこ ろで違和感を覚えるときは,付録 A.1 を参照し,定義などを確認するのがよい だろう.. 2.1 積分の定義 まず,σ 加法族と測度を改めて導入し,引き続いて積分の定義を与える. 定義 2.1. B を Rd の部分集合の族とする(全体集合を一つ規定しておくことが必要. である).それが次の 3 条件を満たすとき,集合族 B は Rd 上の σ 加法族 (σ –field) であるという † . 1. ∅∈B. 2. A ∈ B なら,Ac ∈ B (Ac は全体集合 Rd に関する A の補集合を表す)と なる.. 3. 各 n ∈ N に対して,An ∈ B なら,. ∞. n=1 An. ∈ B となる.. 定義 2.1 の 3 において,合併 (union) は可算無限 (countably infinite) であり,これ が重要である. 次に,測度の定義を述べる.集合列 An が互いに素である (mutually disjoint) と は,n = m なら An ∩ Am = ∅ を満たすことをいう. 定義 2.2. Rd の部分集合の族 B と関数 μ : B → R について,次の 3 条件が成り立. つとき,(B, μ)(定義域 B を省略することも多い)は Rd 上の測度 (measure) である. † それにしても,σ 加法族とは得体の知れないものである.中身がよくわからないリストを頭ごなしに突 きつけられているのであるから,拒否感があってもそれは当然の話である.ここはリストを詮索するのに は拘らず,ゲームのルールとして割り切り,さらっと流すのがよいように思う..
(20) 2.1 積分の定義. 7. という. 1 2. B は Rd 上の σ 加法族である. A ∈ B なら,μ(A) ≥ 0(μ(A) = +∞ も許す)となる.また,μ(∅) = 0 と なる.. 3. 可算無限列 An ∈ B が互いに素なら,μ (. ∞. n=1 An ). =. ∞ n=1. μ(An ) となる.. 定義 2.2 の 3 においては,+∞ に発散する級数も許す.性質 3 を σ 加法性 (σ –. additivity) とよぶ.また,関数 μ は σ 加法的である (σ –additive) という. 以後,この章では,以下を前提とする. 前提 (B, μ) は,Rd 上の測度である. 次に導入する条件を満たす関数に対して,1 章で見たような水平方向スライスから 生じる集合 (1.2) たちは,σ 加法族 B に属する(系 2.1 参照). 定義 2.3. 関数 f : Rd → R が B 可測である (measurable) とは,条件. すべての a ∈ R に対して,{f < a} := {x ∈ Rd : f (x) < a} ∈ B が成り立つことをいう † .このとき,f を B 可測関数 (measurable function) とよ ぶ.一方,σ 加法族 B に属する集合は B 可測集合 (measurable set) とよばれる. 値域 range f := f (Rd ) が有限集合であるような関数 f で考えてみよう.図 2.1 で は,{f = a} は {x ∈ Rd : f (x) = a} の省略表記である.建物の土台に見えると. 図 2.1. 単関数. † 写像という観点から,より一般的に可測性を定義している教科書も多い.しかし,関数に限定するなら, 定義 2.3 にあるもののほうが,より積分へ直結すると考える..
(21) 2 章 積分の定義と性質. 8. ころが関数の定義域を表し,高さは関数の値を表す.関数のとる値によって定義域 が有限個の部分に分割されている.このような関数については,B 可測性は,集合. {f = a}, {f = b}, . . . が B に属することと同値となる(補題 2.3 参照). 定義 2.4. 次の条件を満たす関数 f : Rd → R を,B 単関数 (simple function) と. よぶ. 1. B 可測である.. 2. −∞,+∞ という値はとらない.. 3. range f は有限集合である.. 非負値関数 f が与えられたとする.図 2.2 にあるように,条件 0 ≤ g ≤ f を満たす. B 単関数 g を考え,加重和. . y∈range g. yμ({g = y}) を対応させ,関数 f の不足和と. よぶ(図の影を付けた部分).不足和の上限として,関数 f の積分を定めよう.. 図 2.2 条件 0 ≤ g ≤ f を満たす単関数と不足和. 定義 2.5. 関数 f : Rd → R を非負値(+∞ も許容)かつ B 可測なものとする.. 次で定義される量(+∞ も許容)を,測度 μ による関数 f の積分 (integral) とよぶ † .. . f μ := sup Rd. . . yμ({g = y}) ; g は B 単関数かつ 0 ≤ g ≤ f. y∈range g. 次に,等式 f (x) = max{f (x), 0} − max{−f (x), 0} を利用して,絶対収束級数の 和をお手本にして積分を構成する.関数 f : Rd → R が B 可測なら関数 max{f, 0}, † リーマン可積分性に関するダルブー (Darboux) の定理でいえば,右辺は関数 f の下積分に対応する.下 積分がそのまま積分の定義となるのは,関数 f の B 可測性と測度 μ の σ 加法性のおかげである..
(22) 2.2 σ 加法族の性質と可測性. 9. max{−f, 0} は非負値かつ B 可測である(補題 2.14 参照). 定義 2.6. B 可測関数 f : Rd → R が μ 可積分である (integrable) とは,. max{f, 0} μ < +∞ かつ max{−f, 0} μ < +∞. Rd. Rd. が成り立つことをいう.このとき,f を (B, μ) 可積分関数 (integrable function) と よび,測度 μ による関数 f の積分を次で定める.. f μ := Rd. Rd. max{f, 0} μ −. なお,補題 2.14 によれば,μ 可積分性は条件. Rd. max{−f, 0} μ. Rd. |f | μ < +∞ と同値である.. 2.2 ff 加法族の性質と可測性 この節では,関数の可測性を題材に,σ 加法族の取り扱いを解説する.手始めに, 定義 2.3 を言い換えてみよう.本書では,{f < a} は {x ∈ Rd : f (x) < a} の省略表 記である.同様に,{f ≥ a} なども使う. 補題 2.1. 関数 f : Rd → R について,以下の 4 条件は同値である(状況に応じて. 使いやすい形を選ぼう). 1. すべての a ∈ R に対して,{f < a} ∈ B となる.(定義 2.3 にある条件). 2. すべての a ∈ R に対して,{f ≥ a} ∈ B となる.. 3. すべての a ∈ R に対して,{f ≤ a} ∈ B となる.. 4. すべての a ∈ R に対して,{f > a} ∈ B となる.. 証明. 同値性 1 ⇔ 2 は以下の関係と定義 2.1 の性質 2 からわかる.. {f < a} と {f ≥ a} は,互いに他方の補集合である. 条件 1 が満たされるなら {f < a} は B に属し,条件 2 が満たされるなら {f ≥ a} は. B に属するからである.同値性 3 ⇔ 4 についても同様に議論できる.次に,条件 2 か ら条件 4 を導こう.鍵となる次の等式を示すのは,読者に委ねる.. {f > a} =. ∞ n=1. f ≥a+. 1 n. . (2.1). 条件 2 のもとでは,式 (2.1) 右辺の各集合は B に属する.それらの可算合併は,定.
(23) 2 章 積分の定義と性質. 10. 義 2.1 の性質 3 により,B に属する.したがって,条件 2 から条件 4 が導かれる.同 様の議論で,次の関係. {f < a} =. ∞ . f ≤a−. n=1. 1 n. . を使って,条件 3 から条件 1 も導くことができる. 問題 2.1. □. 等式 (2.1) を証明せよ.. 約束 各 c ∈ R に対して,値 c の定数関数も同じ記号 c で表す. 関数と称するからには,その定義域を明示する必要があるのだが,定数関数につい ては前後関係から判断するのが普通である.いまの場合は,定義域は Rd ということ になる. 各 c ∈ R に対して,定数関数 c は B 可測であることを示せ.. 問題 2.2. 補題 2.2. (i) Rd ∈ B. (ii) A, B ∈ B なら,A ∪ B ,A ∩ B ,A \ B ∈ B となる. (iii) 各 n ∈ N に対して An ∈ B なら, ∞ n=1 An ∈ B となる. 証明. 定義 2.1 の性質 1,2 により,Rd = ∅c ∈ B である.(ii) で A ∪ B ∈ B を示. すため,. A1 := A, A2 := B , An := ∅ (n ≥ 3) とおくというトリックを使う.このとき,各 n ∈ N について An ∈ B が成り立ち,し たがって,定義 2.1 の性質 3 により,A ∪ B =. ∞. n=1 An. ∈ B となる.(ii) の残りと. (iii) を示すには,次に挙げる集合演算の公式を使う(証明をつけてみよ). ∞ c ∞ c c c c c c A ∩ B = (A ∪ B ) , A \ B = (A ∪ B ) , An = An n=1. n=1. ここで,定義 2.1 の性質 2 を使うと,A, B ∈ B という仮定のもと,(Ac ∪ B c )c ∈ B と (Ac ∪ B )c ∈ B が得られる.また,定義 2.1 の性質 2,3 を使うと,各 n ∈ N につ いて,An ∈ B という仮定のもと,( 系 2.1. ∞. c c n=1 An ). が B に属することが導かれる.. □. 関数 f : Rd → R が B 可測なら,a < b に対して {a ≤ f < b} ∈ B が. 成り立ち,また y ∈ R に対して {f = y} ∈ B も成り立つ..
(24) 2.2 σ 加法族の性質と可測性. 証明. 11. 等式 {a ≤ f < b} = {f < b} \ {f < a} において,右辺は補題 2.2 (ii). により B に属する.同様に,y ∈ R に対して {f = y} ∈ B も示せる.他方,{f =. +∞} =. ∞. n=1 {f. ≥ n} と表せるので,補題 2.2 (iii) により {f = +∞} ∈ B が導か. れる.. □. 問題 2.3 系 2.1 において,{f = y} ∈ B の部分を示せ. 問題 2.4 関数 f : Rd → R に対して,集合族 {f = y}(添字 y の範囲は range f )が Rd の 分割であることを示せ.. 約束 可算集合というときは,有限集合も含む. 補題 2.3. 関数 f : Rd → R の値域 range f が可算集合であるなら,関数 f の B. 可測性は,各 y ∈ range f に対して {f = y} ∈ B が成り立つことと同値である.. B 可測性から {f = y} ∈ B が導かれることは,系 2.1 で述べた.逆を示す には,{f < a} = y∈range f,y<a {f = y} を使えばよい.値域 range f は可算集合で 証明. あるから,右辺は可算合併である. 補題 2.4. □. 集合 A, B ∈ B に対して以下が成り立つ.. (i) 有限加法性 (finite additivity):A ∩ B = ∅ なら,μ(A ∪ B ) = μ(A) + μ(B ) (ii) 有限加法性と単調性:A ⊂ B なら,μ(A) + μ(B \ A) = μ(B ) かつ μ(A) ≤ μ(B ) (iii) A ⊂ B かつ μ(A) < +∞ なら,μ(B \ A) = μ(B ) − μ(A) (iv) 劣加法性 (subadditivity):μ(A ∪ B ) ≤ μ(A) + μ(B ) 証明. まず,(i) を示す.補題 2.2 (ii) の証明と同じトリックを使い,測度の σ 加. 法性と性質 μ(∅) = 0 から,結論を引き出す. 次に,(ii),(iii) を示す.A ∩ (B \ A) = ∅ なので,有限加法性が適用でき,μ(A) +. μ(B \ A) = μ(B ) を得る.ここで,μ(B \ A) ≥ 0 を使うと,μ(A) ≤ μ(B ) となる. 他方,μ(A) + μ(B \ A) = μ(B ) において,μ(A) < +∞ の場合のみ μ(A) を両辺か ら減じてよい. 問題 2.5 補題 2.4 (iv) を示せ.. 約束 測度の σ 加法性というときは,有限加法性も含む.. □.
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(26) 4. 1 次元ルベーグ積分. この章では,1 次元区間上の積分を取り扱う.ルベーグ測度 λ は,任意の a < b に対して λ([a, b]) = b − a を満たすという点さえ外さなければ,1 次元区間上 の積分に関して実用上は支障がない(例 6.2 参照) .そこで,区間 [a, b] の測度 は b − a に等しいという条件を満たす測度の存在を認めて,第 2 章の結果をい かに積分計算で適用するかを解説する.微積分の基本定理をもとにして部分積 分や変数変換など応用の鍵となる手法を整備し,具体的な積分評価を実行する.. 4.1 1 次元区間上の積分と原始関数 1 次元区間上の積分については,原始関数と定積分の関係がやはり重要である.微積 分法で慣れてきた計算手続きと同じところと違うところをしっかり把握して,ルベー グ積分の特長を引きだそう. 集合 (a, b] := {x ∈ R : a < x ≤ b} を左半開区間とよぶ.ただし,a, b ∈ R,a < b とする. 定理 4.1. R 上の測度 (B, λ) であって,任意の左半開区間 (a, b] に対して (a, b] ∈ B. かつ λ((a, b]) = b − a を満たすものが存在する(一意性については例 6.2 でふれる) . 証明. 定理 5.7 の特別な場合である.. □. 前提 B は R 上の σ 加法族であり,任意の a < b に対して (a, b] ∈ B を満たす.. λ は B を定義域とする測度であり,任意の a < b に対して λ((a, b]) = b − a を満たす. この章で積分を考えるのは,連続関数またはその極限として表せる関数(ディリク レの関数もそうである)だけであるから,肩の力を抜いて,第 2 章の結果を 1 次元区 間上の積分に適用していこう. 例 4.1. a, b, c1 , c2 ∈ R かつ a < b とする.例 2.2 により,以下が成り立つ..
(27) 4 章 1 次元ルベーグ積分. 50. ⎧ ⎪ ⎪ ⎨ c1 (b − a). (c1 1(−∞,0] + c2 1(0,+∞) ) λ = (a,b]. (b ≤ 0). −c1 a + c2 b (a < 0 < b) ⎪ ⎪ ⎩ c (b − a) (0 ≤ a) 2. 連続関数が B 可測であることを確認しておこう.. (i) a < b なら,区間 (a, b),[a, b],[a, b) は B に属する. (ii) I を開区間とする(無限区間でもよい).任意の左連続関数 f : I → R (右連続関 補題 4.1. 数でもよい)は B 可測である. (iii) 任意の可算部分集合 A ⊂ R は B に属する. (iv) 任意の閉部分集合 A ⊂ R は B に属する.任意の開部分集合 A ⊂ R は B に属 する.. (i),(iii) の証明は,演習問題とする. (ii) 簡単のため I = (0, 1) とする.x ∈ R に対して [x] := max{n ∈ Z : n < x}. 証明. と定める.各 n ∈ N に対して関数 fn : (0, 1) → R,x → f ([nx]/n) を導入す る(f (0) = 0 と見なす).このとき,N := {k ∈ Z : 0 ≤ k < n} とおくと,. range fn = {f (k/n) ; k ∈ N } は有限集合である.また,区間は B に属するから, {fn = y} = k∈N : f (k/n)=y (k/n, (k + 1)/n] ∩ (0, 1) もそうである.よって,fn は B 単関数である.f は左連続なので fn は f に各点収束する.したがって,f も B 可測である.. (iv) ∅ ∈ B である.したがって,A を空でない閉集合として議論を進める.まず,各 x ∈ R に対して,集合 {|x − z|; z ∈ A} は空でなく,また,下に有界であることに注意 する.関数 f : R → R,x → inf {|x − z|; z ∈ A} の連続性を見ておこう.x, y ∈ R とする.任意の ε ∈ R>0 に対して,|x − z| ≤ f (x) + ε を満たすような z ∈ A が存 在する.このとき,. f (y ) ≤ |y − z| ≤ |y − x| + |x − z| ≤ |y − x| + f (x) + ε が成り立つ(三角不等式) .x,y の役割は対等なので,f (x) ≤ |x − y| + f (y ) + ε も 成り立つ.よって,すべての x, y ∈ R に対して |f (x) − f (y )| ≤ |x − y| となる.(ii) によれば,連続関数は B 可測であるから,{x ∈ R : f (x) = 0} は B に属する.他 方,A = {x ∈ R : f (x) = 0} が成り立つ(確認は問題 4.1 (2) とする)ので,閉集合は. B に属する.開集合は閉集合の補集合として表現できるので,開集合も B に属する. □ 問題 4.1. ( 1 ) 補題 4.1 (i),(iii) を示せ..
(28) 4.1 1 次元区間上の積分と原始関数. 51. ( 2 ) 空でない R の閉集合 A に対して,A = {x ∈ R: inf{|x − z|; z ∈ A} = 0} を示せ. ( 3 ) I を開区間とする(無限区間でもよい).有限個の点を除いて連続な関数 f : I → R は B 可測関数であることを示せ.. 補題 4.2. (i) 任意の可算部分集合 A ⊂ R に対して,λ(A) = 0 が成り立つ.. (ii) a, b ∈ R かつ a < b なら,λ((a, b)),λ([a, b]),λ([a, b)) はいずれも b − a に等 しい. 証明. (i) 補題 4.1 (iii) より A は B に属する.x ∈ A とする.各 n ∈ N に対して. 0 ≤ λ({x}) ≤ λ((x − 1/n, x]) = 1/n が成り立つので,λ({x}) = 0 となる.σ 加 法性により λ(A) = x∈A λ({x}) = 0 が導かれる. □ 第 1 章でふれたディリクレの関数(集合 Q の定義関数)の積分について. 例 4.2 まとめよう.. (i) 補題 4.2 (i) により λ(Q) = 0 が成り立ち,したがって,. . 1Q λ = 0 となる. (ii) m ∈ N とし A := {x ∈ R : m! x ∈ Z} とおく.A ⊂ Q により (0,1) 1A λ = 0 (0,1). となる.また,各 x ∈ R に対して limn→∞ (cos πm! x)2n = 1A (x) かつ 0 ≤. (cos πm! x)2n ≤ 1 が成り立つ.したがって,ルベーグの優収束定理により limn→∞ (0,1) (cos πm! x)2n λ(dx) = 0 となる. (iii) 各 x ∈ R に対して,limm→∞ limn→∞ (cos πm! x)2n = 1Q (x) が成り立つ.した がって,ルベーグの優収束定理により limm→∞ (0,1) limn→∞ (cos πm! x)2n λ(dx) = 0 となる. 補題 4.3. 区間 J (どんな区間でもよい)上の B 可測関数 f : J → R と互いに素. な開区間 I1 , . . . , In ⊂ J で J \. n. k=1 Ik. が有限集合であるようなものが与えられたと. する.. (i) 関数 f の J 上での λ 可積分性は,すべての Ik 上で λ 可積分であることと同値 である.. (ii) 関数 f が J 上で λ 可積分(または非負値)なら, J f λ = nk=1 Ik f λ が成り 立つ. 証明. 補題 4.2 (i) により λ (J \. n. k=1 Ik ). 定理 2.5 (ii) を適用して結論を得る.. = 0 が成り立つ.したがって,定理 2.2 と □. 補題 4.3 を踏まえた上で,開区間上の積分に集中して議論を進めよう.I を開区間 (無限区間でもよい)とする.微分可能な関数 F : I → R に対して,その導関数を F と書く.関数 f : I → R に対して,微分可能な関数 F : I → R が存在して,F = f.
(29) 4 章 1 次元ルベーグ積分. 52. を満たすなら,F を f の原始関数 (primitive function) とよぶ.. a, b ∈ R,a < b かつ関数 f : (a, b) → R は連続かつ λ 可積分とする. (i) 原始関数の存在:関数 (a, b) → R,x → (a,x) f λ は f の原始関数である. 定理 4.2. (ii) 微積分の基本定理 †:関数 f の原始関数の一つを F とする.このとき,有限な極限 limx→a F (x),limx→b F (x) が存在し, (a,b) f λ = limx→b F (x) − limx→a F (x) が成り立つ.. (i) c ∈ (a, b) における微分可能性:ε ∈ R>0 とする.連続性により,δ ∈ R>0. 証明. が存在して |y − c| < δ なら |f (y ) − f (c)| < ε が成り立つ.c ≤ x < b とする.この とき,λ((c, x)) = x − c となる(x = c のときは (c, x) = ∅ と見なす).補題 4.3 (ii) より,. fλ− (a,x). . f λ − f (c)(x − c) = (a,c). f − f ( c) λ. (c,x). が成り立つ.したがって,定理 2.4 (i) を適用して,c ≤ x < min{c + δ, b} に対して. . fλ− (a,x). (a,c). f λ − f (c)(x − c) ≤. f − f (c) λ ≤ ε|x − c| (c,x). を得る.上からの評価は,max{c − δ, a} < x ≤ c であっても有効である.よって, 関数 x →. . (a,x). f λ は c において微分可能であり,微分係数は f (c) に等しい.. (ii) 開区間上での原始関数は定数の違いを除いて一意であるから †† ,K ∈ R が存在 して,区間 (a, b) 上で F (x) = (a,x) f λ + K が成り立つ.以下,a,b ともに有限と仮 定する(a = −∞ あるいは b = +∞ である場合の証明は読者に委ねる) .定理 2.4 (i) より,. F (x) − K = . (a,x). f λ ≤. |f | λ (a,x). が成り立つ.したがって,単調性を考慮に入れて,次を得る.. lim supF (x) − K ≤ lim sup x→a. x→a. |f | λ ≤ (a,x). ∞. ここで,区間列 (a, a + 1/n) は非増加であり, 単調収束定理(系 2.6 (ii))により,積分. |f | λ (n ∈ N) (a,a+1/n). . (a,a+1/n). n=1 (a, a. + 1/n) = ∅ が成り立つ.. |f | λ は 0 に収束する(ルベーグの. † ここでは,微積分の基本定理をいささか矮小化して述べた.一般には,微分と積分との関係はそれほど直 接的ではないし,議論も厄介である.. †† 開区間上で微分可能な関数 F の導関数が 0 であれば,F は定数関数である.この事実を証明するには, 平均値の定理を使う..
(30) 4.1 1 次元区間上の積分と原始関数. 53. 優収束定理を適用してもよい) .ゆえに,極限 x → a において,F (x) は K に収束す る.他方,. . F ( x) − K − . (a,b). f λ = . fλ− (a,b). (a,x). f λ = . f λ ≤. (x,b). と評価して単調収束定理を適用すると,limx→b F (x) = K +. (a,b). |f | λ (x,b). f λ が導かれる. □. 有界開区間上の有界連続関数は,λ 可積分である. 系 4.1. a, b ∈ R,a < b とする.連続関数 f : (a, b) → R は,原始関数をもつ. 記述がすっきりするので,a = −∞,b = +∞ として示す(一般には,区. 証明. 間の両端を意識した手直しが必要である) .関数 F : R → R を,x < 0 なら F (x) :=. . −. (x,0). f λ,F (0) := 0 と定め,x > 0 なら F (x) :=. . (0,x). f λ と定める.c ∈ R と. する.補題 4.3 (ii) により,x > −|c| − 1 なら. f λ−. F ( x) = (−|c|−1,x). f λ (−|c|−1,0). が成り立つ.右辺第 1 項に定理 4.2 (i) を適用し,F (c) = f (c) を得る. 系 4.2. □. a, b ∈ R,a < b かつ関数 f : (a, b) → R は,非負値連続とする.また,. f の原始関数の一つを F とする. (i) (a,b) f λ = supx∈(a,b) F (x) − inf x∈(a,b) F (x) が成り立つ.ただし,+∞ = +∞ もあり得る.. (ii) 関数 F の有界性と関数 f の λ 可積分性は同値である. 証明. 記述が簡単になるので a = −∞,b = +∞ として示す(一般には,an ↓ a,. bn ↑ b となる数列を考えればよい).関数 f が非負値なので,関数 F は非減少である. (−n,n) f λ = F (n) − F (−n) が成り立つ.し. 定理 4.2 (ii) より,各 n ∈ N に対して. たがって,単調収束定理(系 2.6 (i))により結論を得る. 例 4.3. □. a, b ∈ R,a < b なら, (a,b) 2 max{x, 0} λ(dx) = (max{b, 0})2 −. (max{a, 0})2 となる. ルベーグ積分に慣れていない場合に忘れがちなのは,定理 4.2 における可積分条 件を確認することである.一般には,原始関数 F について有限な極限 limx→a F (x),. limx→b F (x) が存在したとしても,可積分性がいえたことにはならないので注意しよ.
(31) 4 章 1 次元ルベーグ積分. 54. う.その一方で,系 4.2 での対象は非負値関数のみであるが,可積分条件を確認する ときに大変便利である.以下で述べる具体例で使い方に慣れてほしい. 記号 limx→b F (x) と limx→a F (x) が存在し,かつ差が定義可能であるとき,. x=b b limx→b F (x) − limx→a F (x) を F (x)x=a あるいは F a と略記する.. a, b ∈ R,a < b とする.関数 f : (a, b) → R が連続かつ λ 可積分で b . (a,b) f λ = F a が成り立つ(定理 4.2) x=+∞ 系 4.2 より, (0,+∞) e−x λ(dx) = −e−x x=0 = 1 である.. 例 4.4. あるなら,その原始関数 F に対して 例 4.5 例 4.6. s > 0 とする. 1 1−s xs−1 λ(dx) = (i) − log 2 s +1 x x + 1 s (0,1) s−1 . 1 s−1 x λ(dx) = − log 2 (ii) s +1 x x + 1 s (1,+∞). . (iii) 関数 x → 証明. xs−1 1 − は,(0, +∞) 上で λ 可積分である. xs + 1 x+1. (i) 関数 x → (1/s) log(xs + 1) − log(x + 1) は,原始関数の一つである.. 0 < s < 1 のときは非負値関数 (0, 1) → R,x → xs−1/(xs + 1) − 1/(x + 1) に系 4.2 を適用する.. (ii) 0 < s < 1 のときは非負値関数 (1, +∞) → R,x → 1/(x + 1) − xs−1/(xs + 1) に系 4.2 を適用したと考えればよい.なお,limx→∞ (xs + 1)1/s/(x + 1) = 1 に注意 せよ.. □. 定理 4.2 を適用するときには,可積分性判定をすることが必要である.非負値関数 で,しかもその原始関数を制御しやすいときは,系 4.2 により原始関数の有界性で可 .優関数による判定法(系 2.5 を見よ) 積分性を確認することができる(例 A.3 参照) と協調させると,判定できる幅が大きく広がる. 例 4.7 証明 問題 4.2. 関数 R → R,x → e−x は,λ 可積分である. 2. 関数 x → e−2|x|+1 は,可積分優関数の一つである. s > 0 なら. (0,1). (1 − x2 )s−1 λ(dx) < +∞ が成り立つことを示せ.. □.
(32)
(33) 索. 引. ■英数■. a.e. 37 47 a.e. に定義可能 C 集合 69 C 分割 70 L1 空間における連続関数の 稠密性 85, 134 1 L 空間の完備性 44 44 L1 ノルム Lp ノルム 46 p 乗可積分関数 46 7 σ 加法性 σ 加法族 6, 77 σ 加法族の完備化 103 7, 73, 192 σ 加法的 σ 有限 100, 194 2 次元開区間 117 ■あ 行■. 172,. アーベル総和法. 184 円の面積. 143. オイラーの定数. 可積分. 9, 19, 204 9 可積分性判定 22, 54, 156 可積分優関数 33 可測関数 7, 103 可測空間 102 可測集合 7, 76, 80, 103. 減少列連続性. 可積分関数. 項別積分. 加法公式(三角関数の). 弱微分. 225. コーシー核のフーリエ変換. 176 ■さ 行■. 76. 三角不等式. 69, 191 関数の台 84 完備測度 79 ガンマ関数 57, 150 ―1/2 公式 147 ―ガウスの公式 147, 150 ―関数等式 139, 150 ―相補公式 150 147. 197 スカラー場の勾配 161 スターリングの公式 65, 149 スタンダードマシン 137 ジョルダン分解. 正弦関数の無限乗積表示. 154 正集合. 外測度に関して可測. 102. 66. ―ワイエルシュトラスの. 76. ガウス核のフーリエ変換. 65 163 103 可算無限 C 被覆 71 可算劣加法性 21, 38, 76 可算劣加法的 72. 197. 生成される σ 加法族 生成されるディンキン族. ―微分可能性 ■か 行■. 46,. 172. ―とベータ関数の関係. 139. 215 176. シュワルツの不等式. 関数が誘導する有限加法的 測度. 166 29. 最大値原理. 収束因子. カラテオドリ外測度. 20, 196 29, 41. 標準積表示. 147. 極限と積分の順序交換. 42. 121 正変動 積. 分. 204 積分確定. 143. ガウス発散定理. 極座標. 拡張の一意性. 局所可積分. 130 局所有界変動 209 グリーンの公式 164 原始関数 52 原始関数の存在 52. 190 8, 9, 17, 19, 36, 36. 積分の σ 加法性 積分の一意性 積分の加法性 積分の線形性 積分の単調性. 22. 32 91 19 28 16, 19,.
(34) 索. 88, 202. 絶対連続. 203. 特異部分. 絶対連続測度による積分. フーリエ変換とたたみ込み. 32. 187 203 20, 192,. 絶対連続部分 増加列連続性. 196 測 度. ■な 行■. フーリエ変換の単射性. 224. 二項定理. 178 176. 熱核のラプラス変換. 6. 測度への拡張. ■は 行■. 分 割. 174,. パーセバルの等式. 185 ■た 行■. ハーン分解. 132 第 2 平均値定理. 84 179. 6. たたみ込み. 左半開区間. 52. 49. 微分と積分の順序交換 微分方程式の弱解. 125. 縦線領域の面積. 8. ファトゥの補題. 217 20, 24,. 41. 単調収束定理. 24, 40 11, 71 長方形集合 111 調和関数 161 直積 σ 加法族 115 直積測度 115 直積測度の一意性 115 定数関数 10 ディラック測度 84. 符号付き測度. 単調性. 符号付き測度の一意性. ディリクレ ジョルダンの定. フビニの定理. ―フーリエ変換 ディリクレの関数. 182 183 1. ディリクレ問題の一意性. 167 120. 203 特異集合 202. 197 195, 206, 213. フビニ トネリの定理. 136 124, 136,. ほとんどいたるところ. 55, 211. ボレル可測関数. 37. 部分積分公式. 190. 106. ボレル カンテリの補題. 21. プランシュレルの等式. 188 フーリエ級数. 122. テータ関数の関数等式 特 異. 191. 負変動. 58, 94 145 ―線形な場合 137 変 動 190 変分法の基本補題 131 ポアソン積分核 168 ポアソンの和公式 178 ホップの拡張定理 81 ―極座標. ボレル集合. フーリエ逆変換公式. ディンキン族定理. 179. ―1 次元. 符号付き有限加法的測度. 不定積分. 94, 118 平行四辺形の面積 128 ベクトル場の発散 161 ベータ関数 57 ヘルダーの不等式 46 ベルヌーイ数 149 偏 角 143 分の). 変数変換. 157. 理 ―フーリエ級数. ディンキン族. 195. 198. 負集合. 95 59, 94,. 平行移動不変性(ルベーグ積. 43 186. 平行移動の強連続性. 108, 118. 70 198. 微積分の基本定理. 台が有界な連続関数. 69. 平行移動不変性. 半加法族. 台が有界な C r 級関数. 互いに素. フーリエ余弦逆変換公式. 175 129 81. 測度の一意性. 単関数. 97. フーリエ変換. 136. トネリの定理. 243. 引. 177. 171. ボレル集合族 ボレル測度. 106, 114 106, 114 106, 114. フーリエ級数の単射性. 174 フーリエ係数. ■ま 行■. 171. フーリエ正弦逆変換公式. 177. 17 89, 195, 213. マルコフの不等式 密度関数.
(35) 244. 索. 引. ミンコフスキーの不等式. 46. ラプラス方程式 リプシッツ連続. 161 88. リーマンのゼータ関数 ■や 行■. 154. 180, 209 有限加法性 11, 68 有限加法的測度 68 有界変動. 98. 71 有限測度 23 有限分割 17 優調和関数 166. 124, 136,. 157 75, 83 83 ルベーグ可測関数 83 ルベーグ可測集合 83, 114 ルベーグ可積分. 153. ルベーグ スティルチェス外. 弱い意味で微分可能. 215. 測度. 75. ■ら 行■. 分. 106, 114. ラドン ニコディム導関数. 195. 83, 211, 214. 202. 度の一意性 ルベーグ積分. 161. 108. 変性. ルベーグ測度を保存する線 形写像. 127. ルベーグの有界収束定理. 34 ルベーグの優収束定理 ルベーグ ファトゥの補題. 33. ルベーグ スティルチェス測. ラドン ニコディムの定理 ラプラス作用素. 83. ルベーグ スティルチェス測 度. 111. 33, 41, 206. ルベーグ スティルチェス積 ラドン測度. 114. ルベーグ測度の平行移動不. ルベーグ外測度. 余接関数の部分分数表示. 83, 114. ルベーグ測度の定義域. 累次積分公式. 外測度. 137 ルベーグ測度. ルベーグ測度の一意性. リーマン ルベーグの定理. 有限加法的測度が誘導する. ルベーグ積分を保存する. 106 83. 203 37, 79. ルベーグ分解 零集合. レヴィの反転公式. 11, 71 劣調和関数 166 劣加法性. 207.
(36) 著 者 略 歴 岩田 耕一郎(いわた・こういちろう) 1982 年 東京工業大学理学部応用物理学科卒業 1989 年 東京工業大学大学院理工学研究科博士課程単位取得後退学 1998 年 広島大学大学院理学研究科助教授 2007 年 広島大学大学院理学研究科准教授 現在に至る 理学博士. 編集担当 編集責任 組 版 印 刷 製 本. 太田陽喬 (森北出版) 富井 晃 (森北出版) プレイン 中央印刷 協栄製本. ルベーグ積分 ―理論と計算方法― 2015 年 7 月 27 日 第 1 版第 1 刷発行. 著. c 岩田耕一郎 2015 !. 【本書の無断転載を禁ず】. 者 岩田耕一郎. 発 行 者 森北博巳 発 行 所 森北出版株式会社 東京都千代田区富士見 1-4-11(〒102-0071) 電話 03-3265-8341 / FAX 03-3264-8709. http://www.morikita.co.jp/ 日本書籍出版協会・自然科学書協会 会員 < (社)出版者著作権管理機構 委託出版物> 落丁・乱丁本はお取替えいたします.. Printed in Japan / ISBN978-4-627-05431-8.
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