(安全技術報告書00-6)
2001年4月
社団法人 日本損害保険協会
建物の耐震技術に関する調査・研究報告書
はじめに 地震国日本においては、繰り返し発生する地震の教訓によって、建物の耐震技術が飛躍 的に進歩を遂げてきましたが、現在の技術水準においても地震に対して完全な予防措置を 講じることは依然困難であると言わざるを得ません。その中で近年注目され実用化されて きた技術が免震・制震構造です。これは、地震時に建物の損傷を低減するだけでなく、建 物内部の機能維持にも効果を発揮するもので、共同住宅やオフィスビルの他、病院等防災 上重要な施設を中心に適用例が増えてきています。 一方、既存の建物に目を向けますと、1995 年の兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)では、 1981 年以前の旧耐震基準で建築されたいわゆる既存不適格建築物に大きな被害が集中した ことから、これらの年代に建築された多くの建物についてなんらかの耐震改修を講じるこ とが必要となってきています。 このような背景を踏まえ、当協会では、建物の新しい耐震技術である免震・制震構造お よび既存建物の耐震診断・改修技術の現状を中心に調査を行い、広く企業の地震防災対策 に寄与することを目的に本報告書をまとめました。 少しでも多くの企業に耐震技術に関する基本的な知識を得ていただき、具体的な対策を 講じるきっかけとして本報告書を利用いただければ幸いです。 2001年4月 社団法人 日本損害保険協会 安 全 防 災 部
本調査・研究の概要 1 . 調 査 ・ 研 究 の 背 景 100 年余りといわれるわが国の耐震研究の歴史は、度々発生してきた大地震の被害経験 を教訓として発展してきた。この間、技術的にもコンピュータ技術の飛躍的な進歩によ り地震波や建物の挙動などの高度な分析が可能になったことや高強度・高靭(じん)性 材料の研究が進んだこと等により、著しく進歩してきた。 しかし、1995 年 1 月 17 日に発生した兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)は、多くの専 門家が予想をしていなかった被害を引き起こし、改めて建物の耐震性について考えさせ られる契機となった。 このような中で近年では、建物が受ける地震力を抑制したりコントロールすることに よって建物の機能維持を図ろうとする免震・制震構造が急速に普及してきた。 また、既存建物においては 1981 年以前の旧耐震基準で建築された建物に大きな被害が 集中したことから、旧耐震基準で建築された建物は十分な耐震性能を有していないもの が多いということが広く認識され、これらのは建物については耐震診断・耐震改修の必 要性が求められている。 2 . 調 査 ・ 研 究 の 目 的 上記のような背景を踏まえ、建物の新しい技術である免震・制震構造および既存建物 の耐震診断・改修技術の現状を体系的に整理するとともに、地震に対するリスクマネジ メントの基礎的な考え方を紹介することによって、企業等に対して建物の耐震対策の重 要性を啓発し、具体的な対策を講じるきっかけとして役立てることを本調査・研究の目 的とした。 3 . 調 査 ・ 研 究 方 法 お よ び 内 容 文献および大手ゼネコンへのヒアリングにより、大きく「建物の免震・制震構造」、「既 存建物の耐震診断・改修」、「地震とリスクマネジメント」の3点につき、主に以下の事 項を調査した。 (1) 建 物 の 免 震 ・ 制 震 構 造 に つ い て ・ 免震・制震構造の基本的な原理 ・ 各種免震・制震装置の機能と分類 ・ 適用実態
(2) 既 存 建 物 の 耐 震 診 断 ・ 補 強 に つ い て ・ 1995 年 12 月 25 日に施行された「建築物の耐震改修に関する法律(通称:耐震改修 促進法)」および助成制度の概要 ・ 耐震改修の現状 ・ 耐震診断の基本的な流れおよび評価方法 ・ 耐震改修の基本的な考え方および各種補強構法の概要 (3) 地 震 と リ ス ク マ ネ ジ メ ン ト に つ い て ・ 地震リスクに対するマネジメントの基本的な考え方 なお、本報告書は主に企業等の防災担当者が建物の耐震技術に関する基本的な事項を 理解することを念頭に作成しており、内容はできるだけ平易な表現に努めている。また、 本編を補完する目的で関連する知識・用語等を資料編としてまとめている。 本 文 中 の 記 号 の 意 味 「∼地震力として水平震度*1∼」 この記号がある場合は、資料7に用語の 解説あり。
調査・研究担当者 名簿
調査・研究担当者:社団法人 日本損害保険協会 安全防災部 田中 英夫 社団法人 日本損害保険協会 安全防災部 田和 淳一 社団法人 日本損害保険協会 安全防災部 田中 康夫
目 次 ○はじめに ○本調査・研究の概要 第1章 耐震基準の変遷と耐震構造の限界……… 1 1.1 耐震基準の変遷と耐震性……… 1 1.2 耐震構造の限界と新しい技術……… 3 第2章 免震・制震構造……… 5 2.1 建物の固有周期……… 5 2.2 免震構造……… 5 2.3 制震構造………12 第3章 耐震診断と改修方法………19 3.1 既存不適格建物と耐震改修………19 3.2 耐震改修促進法と助成制度………20 3.3 特定建築物の耐震改修の現状………22 3.4 耐震診断・耐震改修………23 3.5 耐震診断事例………32 第4章 地震とリスクマネジメント………36 4.1 リスクマネジメントの手法………36 第5章 まとめ………42 5.1 耐震対策の普及啓蒙活動………42 5.2 防災に活かせる罹災データの蓄積………42 参考資料 資料1 地震の基礎知識………45 資料2 耐震基準の変遷………49 資料3 明治以降の主な地震の震源と被害状況………52 資料4 建築物の耐震改修に関する法律………54 資料5 主な耐震診断ソフトの機能一覧………60 資料6 気象庁震度階級表………62 資料7 専門用語集………63 転載引用文献………66
第1章 耐震基準の変遷と耐震構造の 限界 1.1 耐 震 設 計 法 の 変 遷 と 耐 震 性 わが国では 1923 年に発生した関東大地震の翌年に市街地建築物法が大きく改正され、 世界で初めて地震力として水平震度*10.1 が法令の規定に定められた。 この規定は、戦後に市街地建築基準法にかわって 1950 年に施行された建築基準法に引 き継がれたが、建築基準法の耐震規定はその後、十勝沖地震(1968 年)や宮城県沖地震 (1978 年)などの被害地震の経験を踏まえ、1971 年と 1981 年の2度にわたって改定され た。 建築基準法の耐震設計法の変遷と各設計法に基づく建物の耐震性の特徴を図 1.1-1 に 示す。 ( 2 ) 各 設 計 法 に 基 づ く 耐 震 性 の 特 徴 (イ)着工が 1970 年 12 月以前 柱の帯筋の間隔が粗く(30cm 以下)で、柱の粘り(変形能力)が乏しい。兵庫県南部地震で は多くの大破・倒壊被害を出した。 (ロ)着工が 1971 年 1 月から 1981 年5月 柱の帯筋の間隔の規定が15cm 以下(梁の上下端から柱の小径の2倍以下の部分は 10cm 以 下となっているため一般的には10cm 以下)となったが、大地震時に建物がどの程度の抵抗 をするかの検討がなされていないため、建物の骨組みの形式によっては大きな被害が発生す る恐れがある。 (ハ)着工が 1981 年6月以降 中地震時(震度5弱∼強)では建物の継続使用が可能、大地震時(震度6強)では建物を倒 壊させない設計をしているが、大地震に対してはある程度の被害を免れない。 図 1 . 1 - 1 耐 震 設 計 法 の 変 遷 と 建 物 の 耐 震 性 ( 1 ) 耐 震 設 計 法 の 変 遷 旧耐震設計法 旧耐震設計法 新耐震設計法 限界耐力計算法の追加 1968年 十勝沖地震 1978年 宮城県沖地震 1995年 兵庫県南部地震 (イ) (ロ) (ハ) 1950年 1971年 1981年 2000年 1948年 福井地震 柱の補強規定の追加 (柱のせん断破壊の防止) 中地震と大地震の 2段階設計
また、2度の主な改定内容は、図 1.1-2 のとおりである。 ●1 9 7 1 年改定 ( 旧 耐 震 設 計 法 ) 柱の帯筋*2の間隔をそれまでの 30cm 以下から 15cm 以下にして柱に粘りを持たせた。 (ただし、大地震時に建物がどの程度の抵抗をするのかの検討がなされていない) 1971 年 1 月着工分から ●1 9 8 1 年改定 ( 新 耐 震 設 計 法 ) 動的な配慮が取り入れられ*3、次の二段階設計が導入された。 ①比較的頻度の高い中地震に対する 1 次設計 ②きわめてまれに起こる大地震(概ね震度 6 強)での建物の崩壊防止を検討する 2 次設計 1981 年 6 月着工分から 図 1 . 1 - 2 耐 震 規 定 の 改 定 内 容
両者の大きな違いは、旧耐震設計法では中地震での設計を決められた方法で行えば材料 安全率や建物の持つ余力などから関東大震災クラスの地震に対しても耐えられるはずで あるという考え方であったが、新耐震設計法では従来の中地震に対する設計(1 次設計) に加えて、大地震に対する設計(2 次設計)も行うこととした点である。 なお、1998 年には建築基準法が改正され、従来の仕様規定から性能規定へ基準体系が 大幅に見直された。 構造関係では、限界耐力計算(仕様を前提とせず、荷重及び外力が建築物に作用してい る際の建築物に生じる力及び変形を直接算出する計算法)が追加され、現行の構造計算規 定との選択性となった。 限界耐力計算は、規定された地震動に対して建物の応答値を求め、その応答値が限界値 に至っていないことを求める方法であるため、免震構造、制震構造等の新しい構造につい ても一般建築物とほぼ同様の方法によって応答値を評価することが可能となり、従来特殊 な構造として旧法38 条に基づき大臣認定を受けなければならなかった種々の構造が建築 確認のみで建築できる道が開かれることとなった。 ※耐震基準の変遷の詳細は、参 考 資 料 2を参照。 1.2 耐 震 構 造 の 限 界 と 新 し い 技 術 これまで度々発生した大きな建物被害地震では、その都度従来の予想を超える被害をも たらし、これを教訓として建物の耐震性が少しずつ向上するという繰り返しであった。 これは地震という現象がいつ、どの程度の大きさのものが発生するか特定しにくく、建 物の被害レベルを予想しにくいということに起因すると考えられる。 また、建物構造の強度や靭(じん)性*4を高めて想定した地震力に耐えられるようにす る「耐震構造」の考え方には、建築コストの問題もあり、自ずと対策に限界があるといえ る。 これに対して、特に兵庫県南部地震後に急速に普及してきたのが免震構造・制震構造で ある。これらの構造は、建物に作用する地震力に耐えるのではなく、ダンパーなどの特殊 な装置を建物に設置することにより建物に作用する地震力を抑制したりコントロールし ようとするもので、地震時に建物の損傷を低減するだけでなく、建物内部の機能維持にも 効果を発揮する新しい技術である。図 1.2-1 に耐震・免震・制震の各構造形式等の分類を 示す。
図 1 . 2 - 1 耐震 ・ 免 震 ・ 制 震 の 分 類
第2章 免震・制震構造 2.1 建 物 の 固 有 周 期 建物の地震時の揺れの大きさは、地震力の大きさだけでなく、個々の建物が持つ揺れの 周期によって大きく左右される。 例えば、図 2.1-1 の振り子から手を離した場合に、振り子が振幅位置から反対側に行っ て、また元の振幅位置に戻ってくるまでの時間は、おもりの重さやバネのかたさによって 一定の周期を持つが、建物が揺れる場合も同様の周期がある。 図 2 . 1 - 1 振 り 子 に よ る 建 物 の 揺 れ の 原 理2 ) この周期を「固有周期*5」と呼び、建物の重量が大きいほど、あるいは剛性(かたさ) が低いほど長くなる。固有周期が長いということは、言いかえるとゆっくりとした揺れ方 をしやすい建物ということである。 一般に、同じ高さの建物であれば鉄骨造の方が鉄筋コンクリート造より、また、高層建 物の方が低層建物より固有周期が長くなる。 2.2 免 震 構 造 免震構造は、固有周期の短い建物を積層ゴム等の水平方向に柔軟な免震装置で支持し、 固有周期を2∼4 秒程度に長周期化する(注)ことによって建物に作用する地震力を低減す るとともに、ダンパーなどの減衰力を持つ装置を併用して建物の振動エネルギーを吸収 しようとするのが基本的な原理である。 図 2 . 2 - 1 は、免震装置を施した建物が地震時にどのように変形するかを簡単に表した ものである。免震装置を施した建物では地震力が免震層に集中するため、上部構造には あまりエネルギーが伝えられないので、建物に大きな変形が生じない。 一方、免震装置を施していない場合は、直接建物に地震力が伝わるため、建物や建物 内部の設備、機器等に大きなダメージが生じる可能性がある。 (注)一般的に、7∼8 階建て程度以下の中低層建物、特に鉄筋コンクリート造建物は剛性が高く、固有
免 震 装 置 を 施 し た 建 物 免 震 装 置 を 施 し て い な い 建 物 図 2 . 2 - 1 免 震 建 物 と 一 般 建 物 の 揺 れ の 比 較3 ) 2.2.1 免 震 装 置 の 機 能 と 種 類 免震装置は、建物重量を支え地震時には水平方向に柔軟に変形することのできるア イソレーターと地震力を吸収するダンパーから構成される(図 2.2-2 参照)。 図 2 . 2 - 2 免 震 装 置 の 分 類 アイソレーター ダンパー 積層ゴム系 すべり系 履歴減衰型 速度比例減衰型 鋼材ダンパー 鉛ダンパー 摩擦ダンパー オイルダンパー 粘性ダンパー 天然ゴム系積層ゴム 鉛プラグ入り積層ゴム 高減衰積層ゴム 免震装置
(1) ア イ ソ レ ー タ ー アイソレーターは、積層ゴム系とすべり系に大きく分類できる。 積層ゴムは、適度な厚さのゴムと鋼板とを交互に積み重ね、高温・高圧で接着し 一体化したものである。 図 3 . 2 - 3 のゴムブロックのように、1層の単体の場合には、水平方向には小さな 力で大きく変形するものの、鉛直方向にも柔らかいため、建物自体の荷重によって も大きく変形してしまうという問題がある。 一方、積層ゴムでは鉛直荷重に対して鋼板がゴムの横方向にはらみ出すのを抑え るため、建物を支えるのに必要な強度と剛性を実現しつつ、水平方向にはゴムブロ ックの場合と同じような柔軟性を確保することができる。 一般的な積層ゴムでは、水平方向と鉛直方向の剛性の比は 1,000∼2,000 倍にも なり、鉛直荷重を支えている。 図 2 . 2 - 3 積 層 ゴ ム の 原 理4 ) なお、積層ゴムは、機能から次の3つに分けられる。 このうち、(a)の天然ゴム系積層ゴムは減衰性能がほとんどなく他のダンパーと (a)天然ゴムを使用する天 然 ゴ ム 系 積 層 ゴ ム (b)中心部に鉛プラグを挿入した鉛 プ ラ グ 入 り 積 層 ゴ ム (c)ゴム材料自体に減衰性能を持たせた高 減 衰 積 層 ゴ ム
積 層 ゴ ム 、 高 減 衰 積 層 ゴ ム 鉛 プ ラ グ 入 積 層 ゴ ム 図 2 . 2 - 4 積 層 ゴ ム の 種 類7 ) また、すべり系アイソレーターは、すべり板を水平方向に滑らせることにより発 生する摩擦抵抗によって建物の振動エネルギーを吸収するもので、PTFE(四フ ッ化エチレン樹脂)板とステンレス板を組み合わせたものなどが実用化されている。 すべり系アイソレーターは、復元機構である水平ばね(積層ゴム等)と組み合わ せて用いられ、滑っている間は水平ばねによって固有周期が決まることから、大幅 な長周期化が可能となり、高い免震効果が得られる。 図 2 . 2 - 5 す べ り 支 承 の 概 念 図 (2) ダ ン パ ー ダンパーは、地震時に建物の振動エネルギーを吸収し、揺れを抑えるためのもの で、作動原理によって大きく履 歴 減 衰 型と 速 度 比 例 減 衰 型に分類でき、免震支承と 組み合わせて用いられる。
PTFE板
積層ゴム
鋼 材 ダ ン パ ー 鉛 ダ ン パ ー 摩 擦 ダ ン パ ー 図 2 . 2 - 6 履 歴 減 衰 型 ダ ン パ ー の 種 類7 ) オ イ ル ダ ン パ ー 粘 性 体 ダ ン パ ー 図 2 . 2 - 7 速 度 比 例 減 衰 型 ダ ン パ ー の 種 類7 ) 履 歴 減 衰 型 ダンパーが地震力を受けて変形するときに描く弾塑性履歴 ループを地震力の吸収エネルギーとして利用するもので、鋼材 ダンパー、鉛ダンパー、摩擦ダンパー等がある(図 2.2-6 参照)。 これらは材料の変形により減衰効果を発揮する機構である ため、地震力がダンパーの降伏点(ダンパーが変形を始める領 域)に達しない場合(小規模の地震)では、ダンパーとしての 機能を発揮しない。 速 度 比 例 減 衰 型 オイル等の流動抵抗を利用して、建物に作用する地震力を吸 収するもので、減衰力の大きさが地震力の大きさに比例すると ころから、このように呼ばれている。 これらは、比較的小規模の地震から効果を発揮するものが多 く、オイルダンパー、粘性体ダンパー等がある(図 2.2-7 参照)。
2.2.2 免 震 構 造 の 適 用 実 態 日本における免震建物の第一号は、1984 年に千葉県八千代市に建築された鉄筋コン クリート造 2 階建て住宅が最初で、以後、共同住宅・事務所ビル・病院等を中心に適 用例が徐々に増えてきた。 飛躍的に件数が増大したのは1995年の兵庫県南部地震において免震構造の有用性が 認められてからである。 なお、参考までに日本建築センターの年度別免震建物評定件数(注)の推移を表 2.2-1 に示す。 表 2 . 2 - 1 免 震 建 物 の 評 定 件 数 の 推 移 (注)免震構造などの特殊な構造は、旧建築基準法38 条に基づき、大臣認定を受けなければ ならなかったが、そのためには建設大臣の指定機関である(財)日本建築センターで技 術的な評定を受けなければならない。 わが国の免震構造の適用例としては、共同住宅が圧倒的に多く、また、免震構造を 採用した建物は大地震後でも建物機能維持が図られることから、病院や防災上重要な 施設等への適用例も増えてきている。 その他、歴史的建築物や重要施設などの既存建築物を免震構造に改修するいわゆる 「免震レトロフィット*9」を採用する例も増えつつある。 参考までに1995 年以降の用途別棟数を表 2.2-2 に示す。
免震建物評定件数
(
2000年5月現在)
1 0 1 6 7 12 15 15 8 3 5 6 60 208 137 135 117 630
50
100
150
200
250
83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00
年度
件数
表 2 . 2 - 2 免 震 建 物 の 用 途 別 棟 数 2.2.3 免 震 建 物 の 建 築 コ ス ト 建物規模にもよるが、免震建物と一般建物の建築コストを比較すると、主に免震構 造評定を取得するための設計費と、積層ゴムなどの免震部材を含む免震層関連の費用 がかかることから、免震建物の方が数%程度高くなるのが一般的である(図 2.2-8 参 照)。 しかし、地震時に建物損傷を防ぐだけでなく、建物機能を維持し、かつ建物内の財 産を守るといった免震建物の効果を考え合わせれば、建物のコストは相対的に低くな るという見方もできる。
免震建物用途別棟数
(1995年∼2000年5月) 377 141 90 33 24 22 14 28 37 13 51 0 50 100 150 200 250 300 350 400 共同住宅 事務所 病院・医院 店舗 研究所・実験室 社宅・寮 工場・プラント 庁舎 戸建住宅 電算センター その他 棟数2.2.4 今後の動向 2.2.2 で述べたように、免震構造の適用範囲が広がってきているが、近年では高さ 100mを超えるような超高層ビルや軟弱地盤に建つ建物など従来免震構造に不向きと いわれていたものへの適用や、新築だけでなく既存建物の耐震改修への適用(詳細は 第 3 章参照)などさらに適用範囲を広げつつある。 また、用途別では病院やコンピュータセンターなど災害時にも建物の機能維持が求 められる施設への適用がさらに増加すると思われる。 この他では、建物だけでなく、人工地盤に免震装置を施し、街区まるごと免震化す るといった壮大な構想も提案・実施されている。 2.3 制 震 構 造 構造物は地震のほかに、風や交通振動などのさまざまな原因によって揺れが生じる。 これらの揺れを抑制するための技術を広く「制振構造」と呼んでいるが、その中で主に 地震による揺れを防ぐ目的のものを特に「制震構造」と呼ぶ場合もある(注)。 ここでは「制震構造」に用語を統一して話を進めていく。 (注)「制振」「制震」の用語は必ずしも明確には使い分けられていないが、「制振」の場合は、地震だけ でなく広く振動を制御する技術を指すことが多い。 制震構造は、構造物の特定の部分に設置した装置(ダンパー)に地震動のエネルギー を吸収させることによって、建物全体の地震時の揺れを低減し、建物全体の安全性を確 保するものである。 制震構造の特徴は以下のようにまとめられる。 2.3.1 制 震 装 置 の 分 類 制震構造は、パッシブ型とアクティブ型に大きく分けられる。 以下、制震装置の分類ごとに解説する。 Ø 通常の耐震構造と比べると、建物に生じる振動や変形などを大幅に低減できる。 Ø 結果として、建物や建物内の設備などの被害が少なくなるため、地震後の補修 を最小限に抑えることができる。 Ø 機器や家具等の移動、転倒による副次的な災害を防ぐことができる。 Ø 地震時ばかりでなく、風などによる振動の抑制にも効果がある。 パ ッ シ ブ 制 震 外部から力を加えることなく構造物の揺れを抑えようとするもの で、一般には構造物の振動エネルギーを吸収するためのダンパー装 置を構造物に設置するもの。 ア ク テ ィ ブ 制 震 外部からの供給エネルギーを利用して揺れを低減するもので、電気 式あるいは油圧式などのアクチュエーターを用いて構造物に力を 加えるもの。
2.3.2 パ ッ シ ブ 制 震 の 種 類 パッシブ制震は、装置の設置位置や制御方式など、その特徴によっていくつかの分類 方法があるが、ここでは装置の設置位置による分類に沿って説明していく。 パッシブ制震は、図 2.3-2 のようにダンパーの設置位置から、大きく(1)建物頂部設 置型、(2)各階設置型、(3)棟間設置型、(4)下部設置型に分類することができる。 ( 1 ) 建 物 頂 部 ( 2 ) 建 物 各 階 ( 3 ) 建 物 棟 間 ( 4 ) 建 物 下 部 図 2 . 3 - 2 設 置 位 置 に よ る パ ッ シ ブ 制 震 の 分 類5 ) (1) 建 物 頂 部 設 置 型 建物頂部設置型の方式の一つとして、TMD(チューンドマスダンパー)があり、 主に風や小地震による揺れ対策として用いられている。 これは、建物頂部付近の階に建物の固有周期とほぼ等しい固有周期を持たせた振動 系(重りとばねとダンパーからなる)を設置したもので、建物の振動エネルギーを TMDの運動エネルギーとして吸収し、そのうえでダンパーの減衰力によってエネル ギーを消散させようとするものである(図 2.3-3 参照)。 また、TMDと原理的に同じものとして、液体の揺動(スロッシング)を利用した TLD(チューンドリキッドダンパー)がある。これは容器内の液体が建物の振動に 合わせて揺動する際に、容器壁面に作用する液体の摩擦や衝突によって振動エネルギ ーを吸収するものである(図 2.3-4 参照)。
図 2 . 3 - 3 T M D 装 置 の 概 念 図 図 2 . 3 - 4 T L D 装 置 の 概 念 図 (2) 各 階 設 置 型 建物内各階の壁やブレース部分等にダンパーを組み込む方式のもので、様々な設置 位置があり、建物が大地震の振動を受けた時にこれらのダンパーが振動エネルギーを 吸収し、周辺の柱や梁を損傷から守ることが可能となる(図 2.3-5 参照)。 図 2 . 3 - 5 架 構 へ の ダ ン パ ー の 設 置 例3 ) 以下に主なダンパーについて解説する。 (a) 鋼 材 ダ ン パ ー 鋼や鉛などの金属材料の塑性域*10におけるエネルギー吸収を利用したもので、 復元力特性を調整する方式の一つである。 これら鋼材はエネルギー吸収能力が大きく、加工性に優れており、比較的安価 であるが、一方で、素材の塑性変形により減衰効果を発揮するダンパーであるた
建物
おもり ダンパー ばね建物
液体め、小規模の地震では塑性域に達せず、ダンパーとしての効果を発揮できない場 合がある。(図 2.3-6 参照)。 図 2 . 3 - 6 鋼 材 ダ ン パ ー9 ) (b) 摩 擦 ダ ン パ ー 円形状のシリンダーの内面を合金系の素材でできた摺動子が動くときに発生す る摩擦を利用したものなどが実用化されている(図 3.3-7 参照)。 このダンパーは地震のような数十回の繰り返しに対しても安定した性能を発揮 することが期待できる。 図 2 . 3 - 7 摩 擦 ダ ン パ ー7 ) (c) オ イ ル ダ ン パ ー シリンダー内に満たされたオイルの中をピストンが動く際に発生する抵抗力を 減衰力として働かせるものである(図 2.3-8 参照)。このダンパーは、減衰力の大 きさが建物に生じる地震力のエネルギーの大きさに比例するため、風などの小さ な振幅から地震による大きな振幅まで振幅に応じた減衰力が期待できる。 しかし、油圧の調整や油漏れ、ごみ・ほこりの侵入などが減衰性能に影響を与 えるため、メンテナンスが必要となる。
図 2 . 3 - 8 オ イ ル ダ ン パ ー1 0 ) (d) 粘 性 体 ダ ン パ ー 高粘性の液体を鋼板の間に充填して用いられることが多く、この粘性体の流体 抵抗を減衰力として利用し、エネルギーを吸収するものである。このダンパーも オイルダンパーと同様に、減衰力の大きさが建物に生じる地震力のエネルギーの 大きさに比例するため、振幅に応じた減衰力が期待できる。 粘性体は耐久性が高いが、粘性体の粘度変化、ごみ・ほこりの侵入などに対す るメンテナンスが必要である。(図 2.3-9 参照)。 図 2 . 3 - 9 粘 性 体 ダ ン パ ー1 0 ) (3) 棟 間 設 置 型 棟間設置型として現在実用化されているのが、ジョイントダンパーである。これ は固有周期の異なる隣接する複数の建物の間に制震ダンパーを設置することにより、 建物に生じる地震力を吸収し、複数の建物の揺れを同時に低減させようとするもの である(図 2.3-10 参照)。 ジョイントダンパーの適用例はまだ少ないが、ビルの高層棟と低層棟を制震ダン パーで結合させ、大きな制震効果を得ている事例など徐々に適用例が増えてきてい る。
図 2 . 3 - 1 0 ジ ョ イ ン ト ダ ン パ ー の 概 念 図 (4) 建 物 下 部 設 置 型 これは、通常免震構造といわれるものであり、前節で解説したとおりである。 2.3.3 ア ク テ ィ ブ 制 震 アクティブ制震は、構造物の振動に合わせて能動的(アクティブ)に力を加えること でパッシブ制震よりも大きな制震効果を得ようとする機構で、まだ実績は少ないが高 さが100mを超える超高層建物等を中心に徐々に採用数が増えてきている。 このうち、わが国で実績が多い方式はAMD(アクティブマスダンパー)、HMD(ハ イブリッドマスダンパーなど、マスダンパー*11を利用した方式であり、一般的に強風 時や小地震時などの振動の揺れ防止を主な目的として用いられる(注)。 (注)この場合は「制震」ではなく、「制振」の呼称がふさわしい。 これらについて以下に解説する。 (1) A M D ( ア ク テ ィ ブ マ ス ダ ン パ ー ) この装置は、地震時の建物の揺れに対し、コンピューターの指令によってその反 対方向に重りを強制的に駆動させることにより、反力を利用して建物の揺れを抑え ようとするものであり、大きく次の4つのものから構成されている。 ①強風や地震による建物の揺れをキャッチするセンサー ②センサーからおくられてきた情報を分析して、以下の付加質量の駆動に必要な力 を計算するコンピュータ ③駆動力を付加質量に与えるアクチュエーター ④付加質量 図 2 . 3 - 1 1 にAMDシステムの概念図を示す。
ダンパー
建物
建物
図 2 . 3 - 1 1 A M D シ ス テ ム の 概 念 図6 ) (2) H M D ( ハ イ ブ リ ッ ド マ ス ダ ン パ ー ) 現在、アクティブ制震で最も実用化されているのがHMD(ハイブリッドマスダン パー)である。 この装置は、パッシブ制震で述べたTMD(チューンドマスダンパー)のようにパ ッシブ的に制震効果が得られる機能に加えて、さらにコンピューター制御によりアク ティブ的に駆動させることで効率的に制震効果を得ようとするもので、両機能を持ち 合わせているところから、このような名称で呼ばれている。 この方式は主に超高層ビルに採用され、パッシブ制震に比べ制震効果が高いが、コ ストが高いのが難点である。 HMDは、重りの支持方法の違いなどから、吊り方式、ゴム方式、V字型レール方 式などがあり、日本一の高さを誇る横浜のランドマークタワーに設置されている装置 は吊り方式のHMDシステムである。 2.3.4 今後の動向 制震構造は、建物規模や用途などに応じてさまざまな使い分けができ、かつ非常に 高い地震力低減効果が図れるため、免震構造と同様に建物の機能維持が特に求められ る施設などを中心に普及していくと思われる。 また、古い基準で建築された既存建物の改修に従来の補強構法よりもより高い低減 効果が得られるということで制震ダンパーが適用される事例が増えてきており、今後 も注目されるであろう。 しかし、制震構造は技術的にまだ歴史が浅いため、今後低コスト化やコンパクト化 などが推進されること等が普及への課題であると言える。
第3章 耐震診断と改修方法 第2章で解説した免震・制震構造は新築の建物を中心に実績が増えてきているが、最近 では耐震性能が不足する既存建物の耐震改修において従来の補強構法に加えて、これら構 法の適用例が増えてきている。 耐震改修を行うためには、まず当該建物がどの程度の地震に耐えられるか診断を行い、 その結果に応じて、適切な構法を選択することが必要となる。 そこで、本章では既存建物の耐震診断とそれに基づく改修方法について、その概略を述 べる。 3.1 既 存 不 適 格 建 物 と 耐 震 改 修 1995 年 1 月 17 日に発生した兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)は、全半壊建物 20 数万棟という大災害となった。 被害建物を建築年代で分類すると 1981 年の新耐震基準に基づいて建築された建物とそ れ以前の旧基準で建築された建物とでは被害率や被害の規模が大きく異なり、旧基準で建 築された建物に大破や倒壊といった被害が集中していることがその後の調査等で明らか になった(表 3.1-1 参照)。 図 3 . 1 - 1 兵 庫 県 南 部 地 震 に よ る コ ン ク リ ー ト 系 お よ び 鉄 骨 造 建 物 の 建 築 年 度 別 の 被 害 棟 数 ・ 状 況1 1 )
これにより新耐震基準の有効性がある程度証明できた一方で、旧基準で建築された既存 建物(既存不適格建築物*12)の多くが十分な耐震性能を有していないということが広く認 識され、既存建物の耐震診断・補強の必要性が注目されるようになってきた。 耐震補強・診断の技術については、1975 年に発生した大分県中部地震を契機に 1977 年 に日本建築防災協会による「既存コンクリート造建築物の耐震診断・改修基準」が作成さ れたが、実際にそれを推進してきたのは東海地震が想定されている静岡県や神奈川県とい った一部の地域に過ぎなかった。 このように耐震診断・耐震改修があまり進展しなかった背景には、耐震改修の必要性が 強く認識されていなかったこともあるが、コスト的な問題や改修後の建物の使い勝手に制 約を受けるなどの理由もあったといわれている。 そこで、兵庫県南部地震の教訓を踏まえ、耐震改修を効率的かつ効果的に進めるために 1995 年 12 月に「建築物の耐震改修に関する法律(通称:耐震改修促進法)」が施行され た。 耐震改修促進法による認定を受ければ、耐震改修に伴う構造補強は建築基準法における 大規模な修繕の適用を受けないため、既存不適格はそのまま認められる。 3.2 耐 震 改 修 促 進 法 と 助 成 制 度 3.2.1 耐 震 改 修 促 進 法 耐震改修促進法は、学校・事務所・病院・百貨店など不特定多数の人が利用する公共 性の高い建築物から順次耐震改修を促進していこうとするもので、法律の主な内容は次 のとおりである。 a.学校・事務所・病院・百貨店など多数の者が利用する一定規模以上の建物(特 定建築物)の所有者は、耐震診断を行い、必要に応じて耐震改修をする努力義務 を定める。 b.耐震診断および耐震改修の指針を定め、その方法を具体的に示す。 c.所管行政官庁は、特定建築物の耐震診断および耐震改修について必要な指導お よび助言をすることができる。 d.所管行政庁は、一定規模以上の特定建築物の耐震診断および耐震改修について 必要な指示をすることができる。 e.建築物全般において耐震改修をしようとする者は、その計画について所管行政 庁に認定の申請をすることができ、認定を受けた建物については、改修終了後に 耐震関係規定以外の不適格事項が存続していてもその用件については緩和され る。
以上の耐震改修促進法の概要を図 3.2-1 で示す。 3.2.2 耐 震 改 修 工 事 に 関 す る 助 成 制 度 耐震改修を行う際に以下に示す3要件をすべて満たす建築物については、耐震改修工 事費の総額の 39.7%が「補助対象事業費」となり、そのうちの 1/3 が地方公共団体から 支払われる(つまり、総額の 39.7%×1/3=13.2%が補助される)。 なお、この 13.2%は国と地方公共団体が半分ずつ負担している(図 3.2-2 参照)。 ただし、本制度は地方公共団体が耐震型優良建築物等整備事業の補助制度を実施して いる場合、国がその 1/2 を負担するというものであり、実施していない場合は補助を受 けられないので、注意が必要である。 13.2% 補助対象事業費(39.7%) 耐震改修総事業費(100%) 一 般 の 建 築 物 住 宅 な ど = 多 数 の 者 が 利 用 す る 建 築 物 特 定 建 築 物 耐 震 診 断 耐 震 改 修 計 画 の 作 成 所 管 行 政 庁 に よ る 認 定 改 修 の 実 施 報 告 の 徴 収 耐震性の 向上の 努力義務 耐 震 診 断 ・ 改 修 の 指 針 特 定 建 築 物 の 所管行政庁による 指導・助言 不特定かつ多数の者が利用する特 定建築物に対する調査・指示 改 善 命 令 ・ 認 定 取 り 消 し ︵ 計 画 に 従っ て い な い 場 合 ︶ ■建築確認等の手続きの特例 ■建築基準法の特例 ■住宅金融公庫の金利の特例 学校、病院、集会場等 で階数3階以上、かつ 延べ面積1,000㎡以上 病院、集会場等で階数3階以上、かつ延べ面 積2,000㎡以上 特定建築物に係る措置 図 3 . 2 - 1 建 築 物 の 耐 震 改 修 の 促 進 に 関 す る 法 律 の 概 要
3.3 特 定 建 築 物 の 耐 震 改 修 の 現 状 表 3 . 3 - 1 は、耐震改修促進法の対象となる特定建築物の耐震診断・改修状況を公共建 物・民間建物別に示したものである。 この時点で公共建物では、全体の3分の1以下でしか耐震診断が行われておらず、そ のうち半数を超える建物が改修・建替え等の対策が必要と診断されている。 しかし、実際に改修や建替えが行われているのは、対策が必要とされた建物の約3分 の1に過ぎず、全体としてはあまり耐震改修が進んでいないのが現状である。 一方、民間建物の実施状況は公共建物よりも著しく遅れており、耐震診断ですら全体 の数%が実施しているに過ぎない。 以上のように耐震改修が遅々として進まない要因としては、建物所有者の認識不足や 改修コスト、改修工事に伴う建物の使用制限などが考えられるが、被災時の被害低減の ○ 助 成 制 度 適 用 の た め の 3 要 件 要件 1 以 下 の い ず れ か の 地 域 で あ る こ と ・地震防災対策強化地域内の市街地 ・地震予知連絡会が指定した特定観測地域・観測強化地域内の市街地 ・南関東地域直下の地震対策に関する大網の対象地域内の市街地 ・全国の地方公共団体の地域防災計画に位置付けられた避難地、避難路ま たは緊急輸送路に面する区域 要件 2 建 物 制 限 (1)建築時期 原則として 1981 年 5 月 31 日以前に建築確認を得て建築された建築物で あること。 (2)用途(以下のいずれか) ・災害時に重要な機能を果たす建築物(医療施設、避難所・災害時の集 合場所等として指定された施設、情報提供施設、給食提供施設等) ・災害時に多数の者に危険が及ぶおそれのある建築物(百貨店、マーケ ット、劇場、映画館、ホテル、共同住宅、学校、老人福祉施設、事務 所等) (3)面積など(以下の全条件を満たすこと) ・敷地面積がおおむね 500 ㎡以上 ・原則として地上階数 3 階以上 ・耐火建築物または準耐火建築物 ・延べ面積 1,000 ㎡以上 要件 3 耐 震 改 修 促 進 法 の 認 定 耐震診断の結果を踏まえ、「建築物の耐震改修の促進に関する法律」に基づ き、所管行政庁(都道府県知事または市町村の長)から建築物の耐震改修 計画の認定を受ける。
観点からも地方自治体などが中心になって取り組みを促進していくことが必要である。 表 3 . 3 - 1 特 定 建 築 物 の 耐 震 診 断 ・ 耐 震 改 修 の 状 況1 3 ) 3.4 耐 震 診 断 ・ 耐 震 改 修 3.1 で触れたように、兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)では、1981 年以前の旧基準 で建築されたいわゆる既存不適格建物に大きな被害が集中したことから、これら建物が 十分な耐震性能を有しているのか耐震診断を行い、耐震性能に問題がある場合には耐震 補強対策を講じることが必要となっている。 実際には、同年代に建築された建物でも地盤条件、建物形状や建物の劣化の度合いな どさまざまな条件により耐震性能に差が出てくるが、耐震性能に問題がある可能性の高 い建物は、以下のようなものが挙げられる。このような建物は大地震で大きな被害を受 ける可能性があるため、早急に耐震診断をする必要がある。 例えば、兵庫県南部地震では1階がピロティ形式の建物に被害が目立ったが、これは 建物の1階部分に壁が少ないために、1階部分に大きな変形が生じて崩壊してしまった ものである。したがって、このような場合には、1階部分に耐震壁を増設するなどの耐 震改修により、必要な強度と剛性を確保することが求められる。 公共建物(棟) 民間建物(棟) 特定建築物 約95,000 約93,000 耐震診断実施 約29,300 約3,500 結果、改修・建替が必要 約16,200 約1,200 耐震改修実施 約5,000 約510 建替・除却済 約800 約420 2000年3月31日現在 ①1981 年以前に建築された建物 ②老朽化の目立つ建物 ③形状の複雑な建物 ④ピロティや大空間のある建物 ⑤軟弱地盤や傾斜地に立地する建物 ⑥過去に増改築をした建物
3.4.1 耐震診断 (1) 耐 震 診 断 の 流 れ 図 3 . 4 - 2 は耐震診断のフローを示したものである。耐震診断は大きく、「予備調査」、 「現地調査」、「耐震診断」に分けられるが、以下にそれぞれの内容を概説する。 なお、本フローは耐震改修を行うことを前提としたものであり、そうでない場合に は、設計図書等を用いた構造計算による方法もある。 ① 予 備 調 査 耐震診断をする建物の基礎資料を得ることを目的に、建物の経歴調査として主に 以下の項目を建物所有者からヒアリング調査する。 a.建物名称、所在地・用途、竣工年・設計者・施工者 b.建物規模:階数、建築面積、延床面積、平面と立面の特徴 c.関係書類:確認申請書類、検査済証、設計図書、施工関係書類、地盤調査書 等の有無 d.使用履歴:増改築、補修・補強、用途変更 e.被災経験:地震、火災 f.建物状況:建物の変形・傾斜、敷地(埋立地、崖地等)、経年変化(雨漏り、 錆、ひび割れ、腐食) ・現地目視調査 ・建築年代と耐震基準 の確認 ・耐震診断要否の判断 ・耐震診断法の検討 ・劣化状況の把握 ・コンクリート強度、 中性化など 予備調査 構造図面、構造 計算書の有無 現地建物調査 耐震診断 耐震改修設計 判 定 補強工事 耐震診断用 図面の作成 建替え 継続使用 無 有 補強必要 補 強 困 難 補 強 不 要 図 3 . 4 - 2 耐 震 診 断 の フ ロ ー
② 現 地 調 査 現地調査は、建物の実状を把握して、診断の可否や方法を決めるために行うもの で、大きくa.設計図書等との照合、b.外観調査、c.材料調査に分けられる。 a.設計図書等との照合 建物の寸法が設計図面どおりになっているか、また、建物は竣工後に増改 築・用途変更されている場合が多いため、壁や開口部など図面からの変更がな いか等の確認をする。特に壁は耐震性に大きな影響を与える部位なので、詳細 に調査する。 b.外観調査 建物の劣化状況を概略把握するために行うもので、不同沈下*13、ひび割れ、 老朽化の程度、雨漏りの有無等、建物の劣化状況を目視やクラックゲージ、メ ジャー等の測定機器を用いて調査する。 c.材料調査 鉄筋コンクリート造建物では、コンクリートの圧縮強度をシュミットハンマ ー法*14やコアボーリング法*15などの方法により測定する。また、コンクリート は経年変化によって中性化*16し、鉄筋コンクリート部材の耐久性に影響を及ぼ すため、中性化の進行状況も測定する。 鉄骨造建物では、鉄骨接合部(溶接の種類と形状寸法、ボルトの種類・ゆる み)等を調査する。 ③ 耐 震 診 断 耐震診断を行う際の基準や指針としては、(財)日本建築防災協会の「既存鉄筋 コンクリート造(あるいは鉄筋鉄骨コンクリート造または鉄骨造)建築物の耐震診 断基準・同解説」、「建設省告示第 2089 号特定建築物の耐震診断及び耐震改修に関 する指針」及び(財)建築保全センターの「官庁施設の総合耐震診断・改修基準及 び同解説」等があり、これらを用いて既存建物の定量的な評価を行う。 ここでは、鉄筋コンクリート造の耐震診断基準の概略を以下に示す。 a.各次診断法 1次診断法から3次診断法まであり、診断次数が高くなるほど結果の信頼性 が高まる。 どの診断方法を適用するかは、各次診断法の特徴・信頼度を考慮して、適宜 判断することになる。各次診断法の特徴を簡単に示すと次頁のとおりである。
b.耐震性能評価方法 各次診断法とも各指標を用いた次式により構造耐震指標Is を算定し評点を 示す。 Is=E0×Sd×T ここで、各指標は以下のとおりである。 E0:保有性能基本指標 建物が保有する地震力に対する抵抗力を表す指標で、建物の地震に対 する強度を表す指標Cと変形性能(靭性)を表すFの積で定義 Sd:形状指標 建物の平面形、立面形、剛性分布など建物形状が耐震性に及ぼす影響 を評価 T :経年指標 建物が年月を経たことによる劣化や老朽化現象が耐震性に及ぼす影響 を評価 建物の耐震安全性は、この構造耐震指標Is を求め、この数値が構造耐震判 定指標Is0値よりも大きい場合は、想定する地震動に対して所要の耐震性を確 保していると判断される。 Is≧Is0 なお、Is0 は次式で表す。 Is0=Es×Z×G×U Es:耐震判定基本指標 Z:建築基準法に示される地域係数 G:表層地盤や地形効果による補正係数 U:建物の重要度や用途による補正係数 1 次 診 断:柱と壁の量で建物の耐震性を判定する簡便な診断法である。 壁の多い比較的低層の建物に適している。 2 次 診 断:柱や壁の強度と靭(じん)性を考慮して耐震性を判定する診 断法で、壁の少ない建物の適している。 3 次 診 断:柱・壁・梁の強度と靭(じん)性から建物の耐震性を詳細に 判定する診断法である。非常に精度が高いが複雑な計算を要 する。
● 耐 震 診 断 用 ソ フ ト RC造やSRC造の建築物の耐震診断を実施する場合には、耐震診断用のソフ トを使用して計算するのが一般的である。 なお、市販されている主なソフトについては、資 料 5「 主 な 耐 震 診 断 ソ フ ト の 機 能 一 覧 」を参照願いたい。 ただし、建築主がこれらのソフトを用いて耐震診断を行おうとする場合には、 建築に関する専門的な知識が必要である。 (2) 耐 震 診 断 の 依 頼 お よ び 費 用 施主が耐震診断を行おうとする場合は、当該建物の事情を把握し、また設計図書等 の関係書類も入手しやすいことから、建物の設計、施工を依頼した建設会社に依頼す るのが最も望ましいといえる。 また、この他には都道府県や市町村などで開設している耐震改修相談窓口を利用し、 専門機関を紹介してもらうか、一般の一級建築士事務所に依頼する方法もある。 いずれの場合にも、診断内容・レベル(1次∼3次)の説明を受けるとともに、診 断費用の見積りの提示を受けたうえで契約という流れになる。 耐震診断費用は、建物の構造・規模・形状、診断内容・レベル等の違いにより差が 出るが、一般建築物の場合は総延べ面積に対して、500 円/㎡∼2,000 円/㎡程度であ る。 3.4.2 耐震改修 耐震診断によって、改修が必要と判断された場合には、具体的な補修計画を立てるこ とになるが、補修により建物の耐震性能を向上させる基本的な考え方は、図 3.4-3 に示 すように大きく4つに分類することができる。 ①強度抵抗型改修 建物の強度を高めて耐震性能を向上させようとする考え方で、耐震壁、鉄骨ブレー ス、そで壁を増設する等の方法がある。 ②靭性抵抗型改修 建物が変形しても容易に倒壊しないようにする考え方で、柱に鉄板や炭素繊維等を 巻きつけて補強する方法が一般的である。 ③強度・靭性抵抗型改修 ①と②を組み合わせた中間的な補強方法である。 ④地震応答低減型改修 第2章で解説した免震・制震構造を既存建物に適用したものである。
3.4.3 各 種 改 修 構 法 の 詳 細 3.4.2 で述べた分類に従い、主なに改修構法について概説する。 (1) 強 度 補 強 型 改 修 a.耐震壁増設 柱や梁に囲まれたフレーム内に新たに壁を増設したり、既存耐震壁の厚さを増 すことで耐震強度を増そうとするもので、建物の水平耐力を増大するのに最も適 した方法である。しかし、壁の増設によって建物の機能や採光に影響が出る場合 があるので、配置には配慮が必要である。 図 3 . 4 - 4 耐 震 壁 増 設 に よ る 補 強1 5 ) b.ブレース増設 柱や梁のフレーム内にX型やW型等の鉄骨ブレースを増設し、耐震強度を増そ 図 3 . 4 - 3 建 物 の 耐 震 性 能 向 上 の 基 本 的 考 え 方
①強度補強型改修
②靭性補強型改修
③強度・
靭性補強型改修
④地震力低減型改修
耐震壁増設
ブレース増設
柱補強
免震・
制震化
そで壁増設
補強目的 補強工法うとするものである。この構法では耐震壁の増設に比べ、補強による建物重量の 増加を抑えることができ、また、建物機能や採光への影響も最小限で済むという 利点がある。 図 3 . 4 - 5 ブ レ ー ス 増 設 に よ る 補 強1 5 ) c.そで壁増設 柱にそで壁を増設して、柱の強度を向上させようとするものである。なお、袖 壁を増設する場合には、一部の柱のみに補強を行うと、柱の剛性バランスがとれ ずに補強が逆効果になる場合もあるので、全体として補強箇所が多くなる。 図 3 . 4 - 6 そ で 壁 増 設 に よ る 補 強1 5 ) (2) 靭 性 補 強 型 改 修 壁増設補強等の補強方法を利用できない場合などに利用されるもので、柱のせん断 破壊を防ぎ、靭性(粘り)を向上させることを目的としたものである。構法としては 柱に溶接金網、鋼板および帯板等を巻きつけるのが一般的で、この他に最近では炭素 繊維が鉄の 10 倍の引張り強度を有している特性を生かし、炭素繊維シートを柱に巻き つける構法も適用例が増えてきている。
図 3 . 4 - 7 柱 の 靭 性 を 向 上 さ せ る 補 強 構 法1 4 ) (3) 地 震 力 低 減 型 改 修 これまで述べてきた各種構法はいわゆる耐震補強型の改修方法であるが、近年はこ れらに加え、免震・制震構造を用いて既存建物を改修する事例も徐々に増えてきてい る。例えば従来の耐震補強では補強前の建物機能を維持することが困難な場合や耐震 改修が難しい歴史的建築物などに利用されることが多い。 a.免震構法による改修(免震レトロフィット) 免震改修は、免震装置の設置位置により、大きく基礎免震と中間階免震に分け られる(図 3.4-8 参照)。 建物最下層の基礎部に免震装置を設置する基礎免震では、上部建物を支えなが ら同時に地下部分の掘削等を行っていくため、施工上さまざまな制約を受け、建 物と敷地境界の空きが十分でない場合などは基礎部に擁壁を設置するスペースを 確保できないことなどから採用できない場合もある。 しかし、免震化によって建物躯体に手を加えることなく建物に生じるせん断力 を大きく低減することが可能となるため、居ながら補強が必要な場合や歴史的な 建物などに有効な構法として注目されつつある。 一方、中間階免震は地下工事を伴わないため、免震装置の可動スペースが確保 できれば、建物と敷地境界の空きが狭い場合などにも採用が可能である。なお、 免震装置を設置した中間階を居室として利用する場合には、免震部材を耐火材で
被覆する必要がある。 図 3 . 4 - 8 基 礎 免 震 と 中 間 階 免 震 b.制震構法による改修(制震レトロフィット) 建物内の壁やブレース部分等に各種制震ダンパーを組み込み、各層に生じる振 動エネルギーを吸収させる方式が主流となっており、鉄骨造や鉄筋コンクリート 造を中心に適用例が増えてきている。 この構法では、振動エネルギーの集中的な吸収が可能になるため、補強箇所を 減少させることができる利点を有しているが、制震ダンパーを設置したフレーム への負荷が大きくなりがちであるため、設置位置には工夫が必要である(制震装 置の詳細については、第1章を参照)。 また、制震効果はある程度変形することで発揮されるため、特にRC造建物で は、変形を拘束する腰壁・垂れ壁などに構造スリットを設けるなどの対策が必要 となる。
3.5 耐 震 診 断 事 例 ここでは、実際の耐震診断事例を紹介する。 なお、本事例は施主へのヒアリングを行い、入手した資料をもとにまとめたものであ る。 (1) 建 物 概 要 所 在 地 :東京都 竣 工 年 :1978 年 用 途 :事務所 規 模 :階数 地上 17 階、地下 1 階 構造種別:鉄骨鉄筋コンクリート造(地下階)、鉄骨造(地上階) 基礎形式:場所打ちコンクリート杭基礎 (2) 現 状 の 耐 震 性 能 ・本建物は、1981 年の新耐震基準以前に建築された建物であるが、建物高さが 60mを 超えていたため、建築センターの高層建物評定委員会において、現行とほぼ同等の 方法で耐震性能価がされている。 ・耐用年限中に数回発生する地震(中地震:震度 5 強、250gal)に対して建物機能を 維持し、耐用年限中に一度発生するかもしれない地震(大地震:震度 6 強、400gal) に対し建築物の架構に部分的な損傷が生じても最終的に崩壊から人命の保護を図れ ることを前提に設計されている。 (3) 耐 震 診 断 を 行 う こ と と し た 理 由 本建物は、現行とほぼ同等の方法で耐震性能評価がされており、近年設計されている 高層建物と同程度の耐震性を有していると判断できるが、仮に兵庫県南部地震のように 本建物設計時の入力地震動(400gal)を超える規模の地震が発生した場合には局部的に 耐力を超えて過大な変形を生じることも予想される。 したがって、本建物が震災後にも建物機能を確実に維持するためには、耐震診断によ り耐震性能を再評価して、場合によっては耐震補強等の検討をする必要があると判断し た。 (4) 耐 震 診 断 ( 振 動 解 析 ) ①振動解析方法 振動解析(地震を受けたときの建物の応答を予測するもの)では、速度 50kine(= 510gal 程度)を対象とし、建物を 17 質点をばねで結んだばねマスモデル*17(図 3.4-1 に置き換えて、建物長辺方向・短辺方向それぞれに揺れが生じた場合の値を測定した。
判定は、震災後も補修可能な限界として、建物層間変形角(各階の変形量/各階の 階高)の最大値が 1/100 以下であることを基準とした。 図 3 . 4 - 1 解 析 モ デ ル ②解析結果 解析によって得られた各階の層間変形角(各階の変形量/各階の階高)の値を 図 3.4-2 および図 3.4-3 に示す。 なお、図中の破線は、比較のために本建物設計時の想定地震動(400gal)における 層間変形角の値である。
長辺方向の結果 層間変形角の最大値を示すのは 11 階であるが、この階の変形角も 1/100 に収ま っているため、速度 50kine 規模の地震動を受けても、建物は補修可能な範囲にあ るため、現状では特段の補強は必要ないと判断できる。 短辺方向の結果 10∼12 階で層間変形角が 1/100 以上となっているため、速度 50kine 規模の地震 動を受けた場合は、建物の補修が可能な範囲を超える可能性があると考えられる。 したがって、10∼12 階の層間変形角が 1/100 以下となるような対応策が必要で あると判断する。 ③応答低減対策 短辺方向 10∼12 階の層間変形角を 1/100 以下という耐震性の目標値を達成するため、 制震ダンパーによる補強について検討を行った結果、次の3ケースが考えられること が判明した。 長 辺 方 向 短 辺 方 向 17F 1F 短辺方向において、 層間変形角が 1/100 を超える階 図 3 . 4 - 3 建 物 の 簡 易 図
ケース 1 補強箇所が少なく、かつ制震ダンパーも小さいもので補強する方法として、10 階 から 12 階に 50t級のダンパーを 2 箇所設置する方法。 ただし、建物内部のレイアウト等に大きな影響を与える。 ケース 2 元設計に準ずる 400gal の地震を受けた時の建物の変形(ダンパーなし)と、50kine の地震を受けた時の建物の変形が、ほぼ同じになるように 10 階から 12 階に 100t級 のダンパーを 2 箇所設置する方法。 ただし、建物内部のレイアウト等に大きな影響を与える。 ケース 3 建物内部のレイアウトへの影響が少ない 2 階および 4∼6 階に 100t 級のダンパー を 2 箇所設置する方法。 この場合、50kine の地震動では 11 階でわずかに層間変形角が 1/100 を超えるが、 49kine の地震動では全層 1/100 以下になる。 ④最適案 上記3ケースを比較検討した場合、建物内部のレイアウト変更を最小限に留めたい という施主の要望および層間変形角を 1/100 以下という耐震目標値をほぼ達成できる ケース3が最適案と判断する。 (5) 対 応 費 用 図 3 . 4 - 5 ダ ン パ ー 設 置 の 最 適 例 設 置 イ メ ー ジ ダ ン パ ー 設 置 階 1F 17F
第4章 地震とリスクマネジメント 前章までは、建物の地震対策について技術的な側面から概観してきたが、実際に企業等 が何らかの対策を行う場合は、地震というリスクの大きさを的確に評価し、それに基づい た対策を講じることが必要となる。 一般に、企業等が直面するリスクによる不利益な結果を合理的で経済的な方法とコスト で最小化することを目的とする経営管理手法をリスクマネジメントという。 そこで本章では、地震に対するリスクマネジメントの基本的な考え方について述べるこ ととする。 4.1 リ ス ク マ ネ ジ メ ン ト の 手 法 リスクマネジメントの基本的な流れは図 4.1-1 に示すとおりである。 図 4 . 1 - 1 リ ス ク マ ネ ジ メ ン ト プ ロ セ ス (1) リ ス ク の 発 見・ 確 認 損失発生要因の発見と確認 (企業活動のどこにどのような リスクがどんな形で存在してい るかを把握) (2) リ ス ク の 分 析・ 評 価 リスクの発生頻度、損失の規模、 形態を検討(リスクの性格、大き さを検討し、そのリスクによる損 失の大きさを推測) (3) リ ス ク の 処 理 ま た は 制 御 リスクの企業経営に及ぼす影響を 制御するための最適の方法を選 択、実施 ・軽減<回避、分散、改善> ・転嫁<保険> ・自己負担 予想外の損失として企業が自己負担 発見・確認できなかった リスク 過小評価されたリスク 処理または 制御方法を誤ったリスク (4) 再 評 価 、 実 施 ・リスクの把握、評価、制御の各 手順に見落とし、誤りはないか のチェック ・全体的な総合調整 ・実施ならびにフォロー ︵ フ ィ ー ド バ ッ ク ︶
(1) リ ス ク の 発 見 ・ 確 認 地震被害をリスクとしてとらえる場合、地震による被害がどのような範囲に及ぶかを洗 い出すことがリスクの発見・確認である。 直接的なリスクとしては人的被害や建物・設備等の物的被害が生じるということである が、例えば製造ラインの停止による売上の減少や販売・営業活動への影響などといった間 接的なリスクも企業にとって大きなダメージを与える可能性がある。 こういったリスクをすべて洗い出すことがこの段階において最も重要な点である。 なお、参考までに兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)で企業がどのような被害・影響 を受けたかを表4 .1-1 に示す。 表 4 . 1 - 1 阪神 ・ 淡 路 大 震 災 に よ る 企 業 の 被 害 ・ 影 響1 9 ) 31.8 33.2 44.9 75.9
0
2 0
4 0
6 0
8 0
1 0 0
企 業 活 動 に 影 響 を 与 え た 被 害
% 従 業 員 や そ の 家 族 の 被 害 本 社 、 支 社 な ど 業 務 、 営 業 の 拠 点 の 被 害 ライフライン(電気、ガス 水 道 )の 被 害 社 宅 や 寮 の 被 害 5 6 . 9 4 1 . 9 7 1 . 9 3 1 . 1 2 3 3 7 . 20
2 0
4 0
6 0
8 0
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震 災 の 影 響 を 受 け た 業 務 内 容
% 原 料 や 部 品 の 調 達 製 品 ・部 品 の 製 造 商 品 の 仕 入 れ 販 売 ・営 業 活 動 情 報 通 信 シ ス テ ム の 維 持 ・稼 動 製 品 ・商 品 の 配 送(2) リ ス ク の 分 析 ・ 評 価 把握したリスクについて、そのリスクによる損失の発生頻度と規模および影響範囲を推 定するのがリスクの分析・評価である。 一般に損害の発生頻度と強度との間には、「発生頻度の大きい損害は強度(規模)が小 さく、また強度(規模)が大きい損害は発生頻度が小さい」という相関関係がある。例え ば、火災や交通事故などはこの典型であり、したがって過去の事故の発生頻度と規模を統 計的に把握していれば、リスクを定量的に分析・評価することが可能となる。 しかし、地震などの自然災害においては、発生頻度や規模が年によって大きくバラツキ があり、また一度発生した場合に大きな災害につながるおそれがあるため、統計的手法だ けでは正確な予測が難しい側面を持っており、したがって、企業等が地震リスクに対する 対策を考える場合にどの程度の対策をするのが最も効果的であるのかが定量的に見えに くい。 そこで、リスク評価にあたっては特に次のような点に注意し、リスクを過小に評価しな いことが肝要である。 以上述べたような評価・分析は、相応の解析技術や統計データが必要となるため、実際 にはリスクマネジメント専門会社や損害保険会社に依頼するか市販されているソフト等 ① 当 該 地 域 の 地 震 危 険 度 を 的 確 に 評 価 す る 当該地域における地震危険度を評価するときには、過去の歴史地震データや 活断層データ等に基づくだけでなく、当該地域の地盤特性(液状化地盤、軟 弱地盤など)を的確に評価する。 ② 頻 度 だ け で な く 規 模 に 注 意 す る ある地点における地震の発生頻度は総じて小さくなるため、企業がリスクを 問題にするときは、発生した場合の損失の大きさに注意する。 ③ ひ と つ の 災 害 に よ っ て 多 様 な 損 失 が も た ら さ れ る こ と に 注 意 す る 単に建物や設備の被害だけでなく、そこから波及して発生する損失(火災の 発生、操業停止等)までを的確に評価する。 ④ 他 企 業 へ の 影 響 を 考 慮 す る 企業間の相互依存度が高い場合、ひとつの企業が事故を起こすと関連企業の 操業率ダウンなどに発展する場合があるので、そこまでの影響を考慮する。
を利用するのが効率的であるが、企業などがこういったリスクの問題を整理するのに役立 つ手法としてイベントツリー法がある。 これは、あるイベント(例えば地震)が発生した結果、次にどのようなイベント(被害) に発展していくのかという連鎖を示すもので、連鎖の過程で次のイベントの発生確率を入 れて順次展開していけば、あるイベントの最悪の結果がどういう状況になるのか、またそ の発生確率はどれくらいになるのか求めることができるというものである。 図 4 . 1 - 2 は、イベントツリーの単純な例を示したものである。 ここではある規模の想定地震が発生した場合に起こりうるイベントを「建物被害」、「設 備被害」、「火災」の3つとし、ツリーを展開していった結果、最終的に4つの被害形態に 至っていることが分かる。 各シナリオの発生確率は、各イベントの発生確率の掛け算によって求められ、例えば最 悪のシナリオである「建物被害」、「設備被害」、「火災」のすべてが発生する確率は 0.3× 0.3×0.2=0.02 となる。 この発生確率にその時の損害額を乗じれば、リスクの大きさが数値で表せることになる。 図 4 . 1 - 2 イ ベ ン ト ツ リ ー の 例 リスクマネジメント専門会社などが提案している地震リスクの定量的評価手法もこの 考え方がベースになっており、最近では費用対効果の面からのより合理的な地震対策の検 討が可能となってきている。 (3) リ ス ク の 処 理 ま た は 制 御 リスクによる影響を経済的、効果的に処理するプロセスをリスクの処理または制御とい い、大きくリスクコントロールとリスクファイナンスに分けることができる。 なお、企業がリスクへの対処策を検討していく場合には、次の 2 点が基本となる。 想定地震 建物被害 設備被害 火 災 発生確率 0.21 0.07 0.02 建物被害と設備被害 と火災 建物被害と設備被害 無被害 建物被害 0.7 0.7 発生する 発生しない 発生しない 発生しない 発生する 発生する 0.3 0.7 0.3 0.8 0.2