地域と歩む子育て
未来をはぐくむ
未来をはぐくむ
第 回
第4部・晩婚化の周辺(下)
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「 治 療 や 排 卵 期 に タ イ ミ ン グ を 合 わ せ る ス ト レ ス で、 夫 婦 生 活 が で き な く な っ た 」「 こ れ 以 上、 治 療 で 痛 い 思 い は し た く な い。 本音は医師から夫に『もう無理だ』と言ってもらいたい」 大 分 大 学 付 属 病 院( 由 布 市 ) に あ る 県 不 妊 専 門 相 談 セ ン タ ー。 相談者数は年間あたり、 延べ約800人を超える。 寄せられる 「声」 はどれも深刻で、切実だ。 「 不 妊 に 悩 み、 苦 し ん で い る 人 に と っ て、 電 話 を か け る だ け で もすごいエネルギーが必要なんです」 。 相談員の中島洋子さん( 43)は相談が一回きりで途切れないよ う、必ず次につながる形で締めくくる。 専 門 医 の 楢 原 久 司・ 同 大 医 学 部 教 授( 54) は「 『 不 妊 の 迷 路 』 の出口を見つける手助けをしたい」 と語る。 「不妊にまつわる不安、 情報を整理し、相談者に合った道を助言するのがわれわれの役目 だから」 2 0 1 0 年 7 月 23日 掲 載 「おいで、語ろう会」はお茶を 飲みながら気軽におしゃべり する時間。「不妊のことばかり 考えがちな心がきっと楽にな るはず」と中島さん
「迷路」抜け出す一助に
治療の当事者ら、語り合う
「おいで、語ろう会」 。センターには不妊 治療の当事者が集まって語り合い、支え合 うグループがある。 日出町の 40代主婦はセンターへの相談を 機に語ろう会に参加した。 5年に及ぶ不妊治療を 「休止」 し、 心が 「終 結」に傾いていたころ。悩んでるのは自分 だけじゃない―。そんな思いを誰かと共有 したかった。 おなかの膨満感、 吐き気、 全身の倦怠(け んたい)感…。治療の副作用に耐えながら も、 望 み を 託 し た 体 外 受 精 も 身 を 結 ば な かった。 「 こ ん な つ ら さ は も う 受 け 入 れ ら れ な い 」。 治 療 は や め、 夫 婦 で 幸 せ に 生 き て い こう―。7年ほど前、治療終結を決めた。 それでも、自分と同年代が妊娠・出産し たと聞けばいまだに心がざわつく。 「まだ妊娠できるかな」 「あの治療をやっ て お け ば 良 か っ た な 」。 語 ろ う 会 で は 妊 娠 への思いを素直に打ち明け、気持ちを整理 する。 不 妊 治 療 に は さ ま ざ ま な ハ ー ド ル が あ る。経済的に大きな負担を強いられ、社会 の理解も十分とは言えない。最先端の治療 でも妊娠が保障されるわけではない。治療 を乗り越えるにせよ、避けるにせよ、どん な一歩を踏み出すにも相応の葛藤(かっと う)が伴う。 「だからこそ、 一人で抱え込まずセンター に 相 談 し て ほ し い 」。 不 妊 の 悩 み を 吐 き 出 すことで、自分が向かう先を見つめる。 「 悩 み、 不 安、 葛 藤 を 乗 り 越 え た す べ て の人の努力を認め、これからにエールを送 り た い 」。 そ ん な 思 い か ら 語 ろ う 会 の 参 加 者 に は、 い つ も こ う 語 り 掛 け て い る。 「 本 当に頑張ったね」 【大分県不妊専門相談センター】 電話相談は毎週火~土曜の午前 10 時~午後 4 時、専門医 の面接相談は毎週金曜の午後 2 時~ 4 時(予約制)。無料。 「おいで、語ろう会」は第 1 ~第 4 火曜日に開催。第 1 週は 不妊治療を始めようとしている人や継続中の人、第 2 週は 治療後に妊娠した人など、より近い立場で語り合えるよう、 段階で週を分けている。
女性の生殖能力が低下し始めるのは何歳ぐらいから だと思いますか―。 県が昨年度、 成人女性を対象に行っ た「 女 性 の 健 康 に 関 す る ア ン ケ ー ト 」( 回 答 数 4 7 9 人) 。不妊に対する関心、知識を問う設問の一つだ。 県 健 康 対 策 課 に よ る と、 妊 娠 の し や す さ は 20代 に ピークを迎え、徐々に下降していく。だが、アンケー トでは6割以上が「 30代後半以降」と回答。女性の体 のことを女性自身が知らない―。調査結果からは、そ んな実態が浮き彫りになる。 晩 婚 化 は、 す な わ ち 晩 産 化 を 意 味 す る。 厚 生 労 働 省 の 統 計 で は 第 1 子 出 産 年 齢 は 右 肩 上 が り が 続 き、 2009年は平均 29・7歳。生殖年齢と出産年齢の開 きは年々、広がるばかりだ。 人生でどの時期に結婚、 出産するかは個人の自由だ。 それでも、年齢に応じて妊娠は難しくなり、妊娠・出 2 0 1 0 年 7 月 24日 掲 載 「自分を大切にし、命のことで困らない人生を歩んでください」。別府市 内の中学校で行われた性教育授業
問われる不妊への意識
日常生活から予防不可欠
産のリスクは高まる。 「 現 実 に 直 面 し て 初 め て 気 付 く の で は ダメージが大きい」 。同課の担当者は 「女 性が晩産化に伴う健康面のリスクを把握 した上で、人生設計の選択を考えること が必要だ」と指摘する。 結婚・出産年齢が高齢化する一方、性 行為は低年齢化する―。人工妊娠中絶と 並び、未成年者の性病感染はいまも後を 絶たない。若い世代に広がるクラミジア 感染は未治療のままでは卵管障害を引き 起こし、不妊につながりかねない。 背 景 に あ る「 性 の 乱 れ 」 ―。 「 現 状 の 性 教 育 は 中 高 生 が 性 行 為 を す る 前 提 に 立っている」 。「性教育のあり方を考える 研 究 協 議 会 」 の 安 東 利 夫・ 代 表 世 話 人 ( 80) は「 避 妊 具 の 使 い 方 を 指 導 す る 前 に教えるべきことがあるはず」 と訴える。 「 将 来 的 な 不 妊 に つ な が る 性 感 染 症 な ど、 性 行 為 の 若 年 化 が も た ら す 問 題 は 後々まで影響を及ぼしかねない。性教育 の在り方がいま、厳しく問われている」 国内では、約140万組(推計)の夫 婦 が 不 妊 に 悩 む。 「 国 民 病 」 と い う 表 現 は決して大げさではない。晩婚化に伴う 加 齢、 喫 煙、 不 規 則 な 生 活、 性 感 染 症、 ストレスや過度なダイエットによるホル モン異常…。これらは総じて不妊リスク となりうる。予防できる不妊は未然に防 ぐ「不妊予防」の啓発が不可欠だ。 「 で き る こ と な ら、 普 段 の 生 活 か ら 不 妊 を 防 ぐ 意 識 を 持 っ て ほ し い 」。 こ れ ま で不妊当事者の悩み、苦しみを受け止め てきた「NPO法人・Fine」 (東京) の松本亜樹子代表( 46)は、不妊で悩む 人が少しでも減るよう願っている。 (企画担当=報道部・百崎浩嗣、 吉良政宣) 【不妊治療の現状と不妊予防】 日本産科婦人科学会の統計によると、年間約2万人(全出 生児の約2%)が体外受精、顕微授精で誕生。それ以外の一 般的な不妊治療(タイミング療法、人工授精)による新生児は、 その数倍とされる。不妊患者の増加を受け、県は不妊予防対 策として(1)性感染症の予防と早期発見・治療(2)過度 なダイエットの防止(3)基礎体温測定によるホルモンバラ ンス異常の早期発見―などを呼び掛けている。
結婚観の転換が必要 年間企画 「未来をはぐくむ」 の第4部 「晩 婚化の周辺」では少子化問題の底流にある 現代の結婚 ・ 出産事情を追った。初婚年齢、 第1子出産年齢は上昇し、不妊患者も増え ている。大分大学福祉科学研究センターの 椋野美智子教授に晩婚化社会の「いま」を 聞いた。 ―晩婚化の要因とは。 「 男 性 が 働 き、 女 性 は 家 庭 で 子 ど も を 育 てる」という結婚観がいまだに根強い。互 いに結婚を意識していても、男性が「妻子 を 養 え る だ け の 収 入 が な い 」、 女 性 が「 も うちょっと仕事を続けたい」と思えば結婚 時期は先送りするしかない。 ―打開策はあるのか。 仕事と子育ての両立、つまりワーク・ラ イ フ・ バ ラ ン ス に 尽 き る。 男 女 を 問 わ ず、 2 0 1 0 年 7 月 26日 掲 載 むくの・みちこ 日田市出身。東京大学卒。1978 年、旧厚生省に入省。少子化をテーマに厚 生白書を執筆。内閣府参事官、厚生労働省社会・援護局総務課長。2006 年から現職。 大分大学リレーインタビュー 福祉科学研究センター
椋野美智子教授
正社員では残業を含めて長時間労働を余 儀なくされ、非正規労働者では雇用・所 得が不安定。どちらを取っても結婚、子 育てをしにくい。 働き方の二極化を是正しなければなら ない。 さらに女性が出産後も仕事を続けられ るように、短時間勤務や育児休業などの 制度を実際に利用できる環境を整えるべ き。現状はキャリアと子育てのどちらを 優先するか、選択できる状況にすらなっ ていない。 大分大学もこの観点から、8月に女性 研究者のサポート室を立ち上げる。 ―収入が低くても結婚・出産できる社 会とするには何が必要だと思うか。 夫婦が共に働き、共に子育てをする家 庭への結婚観の転換と、それを支える保 育サービスや職場環境の整備がまず必要 だ。 それとともに家庭に直接お金を配るの ではなく、子どもの保育、教育、医療に できるだけお金が掛からないように支援 すること。もちろん本当に低所得の家庭 には家計を支える金銭給付も必要だ。 ―晩婚化に伴い、不妊治療の患者も増 えている。 晩婚化がもたらしている最大の問題点 が晩産化だ。妊娠には年齢が影響するの で、不妊治療の存在は大きいと思う。た だ、自分としては不妊治療に関心が集中 しすぎている感がある。 外国や、かつては日本でも一般的だっ た養子に対する理解がもっと広まっても いいのではないか。 報道部・百崎浩嗣、吉良政宣
■オオイタデジタルブックとは オオイタデジタルブックは、大分合同新聞社と学校法人別府 大学が、大分の文化振興の一助となることを願って立ち上げた インターネット活用プロジェクト「NAN-NAN(なんなん)」の一 環です。 NAN-NAN では、大分の文化と歴史を伝承していくうえで重要 な、さまざまな文書や資料をデジタル化して公開します。そして、 読者からの指摘・追加情報を受けながら逐次、改訂して充実発 展を図っていきたいと願っています。情報があれば、ぜひ NAN-NAN 事務局にお寄せください。 NAN-NAN では、この「未来をはぐくむ」以外にもデジタルブッ ク等をホームページで公開しています。インターネットに接続 のうえ下のボタンをクリックすると、ホームページが立ち上が ります。まずは、クリック!!! 別 府 大 学 ⓒ 大分合同新聞社 デジタル版「未来をはぐくむ~地域と歩む子育て~」 第 10 回 編集 大分合同新聞社 初出掲載媒体 大分合同新聞(2010 年 4 月 20 日~ 2011 年 2 月 12 日) 《デジタル版》 2011 年5月6日初版発行 編集 大分合同新聞社 制作 別府大学メディア教育・研究センター 地域連携部/川村研究室 発行 NAN-NAN 事務局 (〒 870-8605 大分市府内町 3-9-15 大分合同新聞社 企画調査部内) ⓒ 大分合同新聞社 ●デジタル版「未来をはぐくむ」について 「未来をはぐくむ」は、大分合同新聞社が 2010 年4月から 翌 2011 年 2 月まで、同紙夕刊に掲載した連載記事。今回、 デジタルブックとして再構成し、公開する。登場人物の年齢 をはじめ文中の記述内容は、新聞連載時のもの。 閲覧には Adobe Reader をご利用下さい。ほかの PDF ビュー アではリンクやボタン機能が使えない可能性があります。 2011 年3月4日 NAN-NAN 事務局 大分合同新聞社