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HOKUGA: 整数かけ算の難易に影響する一桁たし算の難易に関する発達的研究

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Academic year: 2021

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タイトル

整数かけ算の難易に影響する一桁たし算の難易に関す

る発達的研究

著者

後藤, 聡; GOTO, So

引用

北海学園大学学園論集(172): 1-13

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整数かけ算の難易に影響する

一桁たし算の難易に関する発達的研究

Ⅰ は じ め に

かけ算を課題とした研究は一桁×一桁(以下,一桁かけ算と記す。)から始まった。例えば, Washburne & Vogel(1928)は一桁かけ算の難易順を表した。後藤(1991)は教育への関与を念頭 に置き,難易に影響している要因を検討している。 認知心理学の台頭により,モデルの設定,及びその検証を目的とした報告が見られるようになっ た。Thomas(1963)は P×Q=R の 難 し さ を モ デ ル 化 し,log(P+Q+R)に 従 う と し た。 Parkman(1972)は⚐×⚐,⚐×⚑,⚑×⚐,⚙×⚙以外の一桁かけ算 P×Q=R について,問題 提示から回答までの時間が P と Q の最小値,P と Q の最大値,P と Q の差,P と Q の和,P+ Q+R の自然対数値に関連するとしたモデルを想定し,検討を加えている。後藤(2002)は,問題 提示から回答までの時間を用いて一桁かけ算における数の表象構造を分析した。

一方,二桁以上の筆算課題では,Dansereau & Gregg(1966)が二~四桁の問題の回答時間を測 定し,一桁かけ算の難易と関係していることを指摘した。続いて Dansereau(1969)が情報処理 モデルの視点から考察を加えている。 教育実践の立場から,上岡・江川(1993・1994),後藤(1999a)は子どもに解答させた問題の 誤答分析を行い,それに基づいた指導方法を提案した。西谷(1993)は計算ストラテジーの分析 を行っている。 また,算数学習の指導においては,扱う教材をどの様に系列化し,学習者に提示していくかが 学習効果に影響を与える一要因となろう。既に,教材の系列化に関する理論がいくつか提出され ている。Gagné & Briggs(1974)の学習階層性による教材分析,Ausubel(1968),Hartley & Davies(1976)の先行オーガナイザーを用いる方法,Suppes ら(1968),Suppes & Morningstar (1972)の教材を構成している要因(彼らは構造変数とよんでいる)の難易度を予測し,それらの

組み合わせから系列化を進めるという方法などである。

本来,学習者が学習課題に取り組み,その結果から学習者に潜む何らかの心理傾向を明らかに しようとする場合,課題の方を厳密に統制する必要があると考える。さもなくば結果がたまたま 取り上げた問題に左右される可能性を有するからである。従って,一貫したより有益な示唆を得

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るためには,子どもの一過性の反応を手掛かりにするのではなく,前もって明確な基準で整備さ れた学習課題を必要とする。その点,上記の特に筆算研究では調査の際に用いた問題に明確な基 準が示されていない。そこで,後藤(1993・1994・1995・1999b)は,二桁×一桁,三桁×一桁(以 下,三桁かけ算と記す。)の整数かけ算筆算問題について,構成要素を基準として問題を類型化し, さらに難易差を配慮してそれらを系列化した教材を作成し,さらにコンピュータを利用した教授 学習支援システムの開発に至っている。 一方,後藤・河井(1990)は三桁+三桁の筆算に一桁+一桁(以下,一桁たし算と記す。)の難 易が影響することを証明した。よって整数かけ算の筆算においても,計算過程で一桁たし算が登 場するためその難易の影響は存在する可能性がある。 本研究では,以上の結果をさらに発展させ,一桁たし算の難易の違いがかけ算筆算の難易にど のように影響するかを検討する。三桁かけ算を材料として用い,反応時間(⚑問の解答に要した 時間)と正答率(解答数における正答数の百分率)を指標として,学年差を含めて発達的に明ら かにする。

Ⅱ かけ算筆算における繰り上がりがない一桁たし算の難易の影響

⚑.目的 後藤(1993・1994・1995・1999b)の難易構造において,一桁たし算の難易がかけ算筆算の難易 に影響することを指摘しつつも,細かすぎて煩雑になるため難易を基準にした類型化の条件とし て除外した。ここでは,計算過程で登場する一桁たし算の難易が三桁かけ算の難易にどのように 影響するかについて,一桁たし算の繰り上がりがない場合に限定して明らかにする。繰り上がり の有無を区別して検討することにしたのは,性質の違う問題を混在させないでより厳格な条件統 制を図るためである。 ⚒.方法 (⚑) 対象 公立小学校⚓年生 108 名,⚔年生 92 名,⚕年生 119 名,⚖年生 105 名 計 424 名 (⚒) 材料 一桁たし算に繰り上がりがない三桁かけ算問題において,問題の構成要素の違いによる難易差 が生じないように,後藤(1993)で類型化した⚘番のタイプ(一桁かけ算の繰り上がり⚒回,答 ⚔桁,被乗数に⚐含まず)の問題のみを使用した。一桁かけ算の繰り上がりが⚒回あるタイプを 使用したのは,計算過程で一桁たし算を⚒回登場させて複雑にした方が三桁かけ算の解答に難易 差が生じやすいと判断したためである。 一方,一桁たし算の難易差を区別するために,反応時間を指標として各問題に難易レベル別の ポイントを付した後藤・河井(1990)の結果を使用する。その結果が表⚑である。一桁かけ算に

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ついては,反応時間を指標として難易の違いを示した後藤(1991)の結果を用いて,一桁たし算 と同様の方法により難易レベルのポイントを定めたのが表⚒である。いずれもポイントが高いほ ど難しい問題である。 一桁かけ算の難易差が三桁かけ算の難易に影響することを予防するため,以下のように統制し た。三桁かけ算の解答には一桁かけ算の計算が⚓回含まれる。全ての実験問題について,表⚒の 難易レベル ポイント 問題 ⚑ ⚐+⚔ ⚐+⚒ ⚐+⚙ ⚔+⚐ ⚐+⚕ ⚙+⚐ ⚐+⚓ ⚕+⚐ ⚒+⚐ ⚒ ⚐+⚖⚖+⚐ ⚘+⚐⚐+⚗ ⚐+⚘⚐+⚐ ⚗+⚐⚕+⚕ ⚑+⚑⚑+⚐ ⚓+⚐⚒+⚒ ⚐+⚑⚙+⚑ ⚓ ⚔+⚑ ⚕+⚑ ⚑+⚙ ⚑+⚒ ⚒+⚑ ⚑+⚔ ⚓+⚓ ⚑+⚘ ⚑+⚕ ⚑+⚓ ⚓+⚑ ⚒+⚓ ⚑+⚖ ⚘+⚑ ⚑+⚗ ⚕+⚒ ⚓+⚒ ⚗+⚑ ⚖+⚑ ⚕+⚓ ⚔ ⚒+⚕ ⚔+⚔ ⚘+⚒ ⚕+⚔ ⚔+⚕ ⚒+⚘ ⚗+⚓ ⚓+⚕ ⚕ ⚙+⚒⚗+⚒ ⚓+⚗⚓+⚔ ⚔+⚒⚒+⚗ ⚒+⚔⚕+⚖ ⚙+⚓⚓+⚖ ⚖+⚔⚖+⚒ ⚒+⚙⚔+⚓ ⚒+⚖ ⚔+⚖ ⚖ ⚘+⚓ ⚖+⚕ ⚖+⚓ ⚓+⚙ ⚓+⚘ ⚙+⚕ ⚔+⚘ ⚕+⚙ ⚙+⚔ ⚔+⚙ ⚘+⚔ ⚙+⚖ ⚗+⚕ ⚕+⚘ ⚗ ⚕+⚗⚗+⚙ ⚗+⚔⚗+⚗ ⚖+⚖⚖+⚗ ⚘+⚕⚙+⚘ ⚔+⚗⚘+⚙ ⚙+⚙ ⚖+⚙ ⚘ ⚘+⚗ ⚗+⚖ ⚙+⚗ ⚘+⚘ ⚗+⚘ ⚖+⚘ ⚘+⚖ 表 1 反応時間による一桁たし算の難易レベルのポイント別問題 難易レベル ポイント 問題 ⚑ ⚐×⚙ ⚐×⚕ ⚐×⚖ ⚐×⚐ ⚐×⚗ ⚐×⚔ ⚐×⚓ ⚐×⚒ ⚐×⚘ ⚐×⚑ ⚒ ⚑×⚕ ⚑×⚑ ⚑×⚖ ⚕×⚐ ⚓×⚐ ⚒×⚐ ⚙×⚐ ⚔×⚐ ⚑×⚘ ⚘×⚐ ⚗×⚐ ⚑×⚐ ⚑×⚙ ⚖×⚐ ⚖×⚑ ⚑×⚓ ⚑×⚗ ⚓ ⚓×⚑⚕×⚒ ⚘×⚑⚓×⚓ ⚔×⚑⚑×⚒ ⚕×⚑⚓×⚒ ⚒×⚒⚙×⚑ ⚒×⚑⚓×⚕ ⚑×⚔⚗×⚑ ⚒×⚕ ⚕×⚔ ⚔ ⚘×⚕ ⚕×⚖ ⚖×⚕ ⚔×⚒ ⚒×⚔ ⚕×⚕ ⚖×⚒ ⚕×⚓ ⚓×⚔ ⚔×⚕ ⚓×⚖ ⚕×⚘ ⚘×⚒ ⚙×⚒ ⚒×⚓ ⚒×⚗ ⚔×⚔ ⚕ ⚙×⚙ ⚗×⚒ ⚔×⚓ ⚖×⚓ ⚒×⚖ ⚖×⚖ ⚕×⚙ ⚘×⚓ ⚓×⚗ ⚗×⚗ ⚙×⚕ ⚗×⚕ ⚗×⚙ ⚓×⚙ ⚘×⚘ ⚒×⚙ ⚓×⚘ ⚖×⚔ ⚙×⚖ ⚖×⚙ ⚖ ⚖×⚘ ⚒×⚘ ⚗×⚓ ⚙×⚓ ⚙×⚗ ⚕×⚗ ⚙×⚘ ⚔×⚙ ⚖×⚗ ⚘×⚙ ⚗×⚖ ⚘×⚖ ⚘×⚗ ⚙×⚔ ⚗×⚘ ⚔×⚖ ⚗×⚔ ⚔×⚘ ⚗ ⚘×⚔ ⚔×⚗ 表 2 反応時間による一桁かけ算の難易レベルのポイント別問題

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結果を用いて,⚓回行う一桁かけ算の難易レベルポイントの合計を 16 に統一した。 その上で,一桁たし算の難易が異なる実験問題を⚓種類用意した。表⚑の結果を用い,計算過 程で⚒回生じる一桁たし算の難易レベルポイントの合計がレベル低(ポイント⚔・⚕),中(ポイ ント⚗),高(ポイント⚙~11)と異なる⚓種の三桁かけ算問題を各 20 問ずつ抽出し,低~高別 に実験問題用紙を作成した。問題に含まれる数はできるだけ均等になるように配慮した。各レベ ルとも問題の提示順が被験者によってできるだけ異なるよう可能な限りランダムにし,計算の進 行にともなう熟達効果が均等になるようにした。 (⚓) 手続き 実験の進行は学級担任によって管理され,次の手順で行った。 ①担任の判断により,学力差がないように配慮して各学年とも学級内の児童を⚓集団に分けた。 ②⚓集団にはそれぞれ異なった難易レベルの問題用紙を配布した。即ち,同一集団内には同一 レベルの問題用紙を配布した。 ③被験者には配布された問題用紙の全 20 問を解答するように指示した。 ④担任の合図により全被験者が一斉に解答を始めた。 ⑤全問題の解答を終了した時点で被験者に挙手をさせた。 ⑥担任は解答開始から被験者が挙手をするまでの時間を測定して告知し,本人にそれを記入さ せた。 ⑦全被験者の解答が終了した時点で実験を終了した。 ⚓.結果 計算不能であった⚓・⚔・⚖年生各⚑名を除外し,421 名を分析の対象とした。学年,一桁たし 算のレベル別に,反応時間と正答率の平均値を示したものが表⚓,図⚑・⚒である。 反応時間について⚔(学年:⚓~⚖年)×⚓(レベル:低・中・高)の分散分析を行った結果, 学年の主効果(F(3,409)=34.601,p<.01),レベルの主効果(F(2,409)=3.816,p<.05),交 互作用(F(6,409)=2.249,p<.05)が有意であった。交互作用が有意だったので学年における レベルの単純主効果を検定したところ,⚓年生が 1%水準で有意であった。そこで多重比較を 行った結果,低と中,高が 1%水準で有意であった。レベルにおける学年の単純主効果を検定し たところ,全てのレベルが 1%水準で有意であった。そこで多重比較を行った結果,低では⚓年 と⚖年が 1%,⚓年と⚕年,⚔年と⚖年が 5%,中では⚓年と⚔~⚖年,⚔年と⚕・⚖年が 1%, 高では⚓年と⚔~⚖年が 1%,⚔年と⚕年が 5%水準で有意であった。 正答率について⚔(学年:⚓~⚖年)×⚓(レベル:低・中・高)の分散分析を行った結果,学 年の主効果(F(3,409)=4.040,p<.01),レベルの主効果(F(2,409)=4.101,p<.05),交互 作用(F(6,409)=2.215,p<.05)が有意であった。交互作用が有意だったので学年におけるレ ベルの単純主効果を検定したところ,⚓・⚔年が 5%水準で有意であった。そこで多重比較を行っ

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た結果,⚓年は低,中と高が 5%,⚔年は中と高が 1%,低と高が 5%水準で有意であった。レベ ルにおける学年の単純主効果を検定したところ,レベル高が 1%水準で有意であった。そこで多 重比較を行った結果,⚓年と⚕・⚖年が 1%,⚔年と⚖年が 5%水準で有意であった。 一桁たし算 のレベル RT⚓年生CR RT⚔年生CR RT⚕年生CR RT⚖年生CR 低 15.1 91.1 14.1 93.2 11.5 94.4 10.3 93.1 中 23.3 90.1 14.8 94.8 10.2 92.2 10.7 90.4 高 21.6 84.7 15.0 88.6 11.7 93.0 11.9 93.2 表 3 学年,一桁たし算レベルの違い別の反応時間(RT(sec)),正答率(CR(%))の平均値(繰 り上がりなし) 図 1 学年,一桁たし算レベルの違い別の反応時間(sec)(繰り上がりなし) 図 2 学年,一桁たし算レベルの違い別の正答率(%)(繰り上がりなし)

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⚔.考察 反応時間については,一般的にその値が大きいほど計算の処理速度が遅いため難しい問題とみ なされる。⚓年生では,レベル中・高が低と比較して反応時間は大きかったため,一桁たし算が 難しいと三桁かけ算の問題も難しいことが示された。後藤(1990・2011)で反応時間を指標とし て明らかにされた一桁たし算の難易差の存在は,⚓年生の三桁かけ算においても証明されたこと になる。⚔~⚖年生ではその傾向がみられなかった。レベル別学年の多重比較では,レベル低~ 高のいずれにおいても,学年が高いほど反応時間が小さくなる傾向があり学年差がみられた。 正答率については,その値が低いほど間違いが多いため難しい問題とみなされる。⚓・⚔年生 ではレベル高が低,中と比較して正答率は低かったため,一桁たし算が難しいと三桁かけ算の問 題も難しいことが示された。レベル別学年の多重比較では,レベル高のみ高い学年で正答率は高 く易しくなっているため学年差がみられた。 以上より,三桁かけ算において,⚓年生で一桁たし算の難しい問題の方が反応時間は大きく, ⚓・⚔年生で正答率は低く,その難易の影響を受けていることが明らかになった。よって,一桁 たし算の難易における各学年への影響については,⚓・⚔年生では一桁たし算が習熟途上にある ため影響を受けやすく,学年進行にともない熟達化と天井効果が起こり,その難易の違いの影響 がみられなくなったと考えられる。換言すれば,学校における三桁かけ算の学習後,日が浅い時 期ほど一桁たし算の影響を受けやすいといえる。 一方,一桁たし算の難易差と三桁かけ算の難易の学年差との関係については,反応時間と正答 率で異なった様相を示している。反応時間は低~高のどのレベルでも学年が高くなるにつれて小 さくなるため,一桁たし算の難易と関係なく計算は高学年になるほど速くなっている。正答率に ついては,一桁たし算のレベル低・中の三桁かけ算では学年差がなく比較的早期から天井効果が 起こっている。レベル高の問題では学年が進行するにつれて高くなっていくため依然として学年 差があり,一桁たし算の難しい問題の正答率は発達に依存していると思われる。以上のように, 反応時間はどのレベルの問題においても学年差があり,正答率ではレベル高のみ学年差があるた め,計算の処理速度と正確さは異なった速さで発達しているといえる。

Ⅲ かけ算筆算における繰り上がりがある一桁たし算の難易の影響

⚑.目的 Ⅱと同様,計算過程で登場する一桁たし算の難易が三桁かけ算の難易にどのように影響するか について,ここでは繰り上がりがある場合に限定して明らかにする。 ⚒.方法 (⚑) 対象 公立小学校⚓年生 105 名,⚔年生 107 名,⚕年生 87 名,⚖年生 120 名 計 419 名

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(⚒) 材料 一桁たし算に繰り上がりがある三桁かけ算問題の内,後藤(1993)で類型化した 20 番のタイプ (一桁かけ算と一桁たし算の繰り上がりが⚒回ずつ,答⚔桁,被乗数に⚐含まず)の問題を使用し て問題の構成要素を統一した。一桁かけ算と一桁たし算の繰り上がりが⚒回あるタイプを使用し たのは,計算過程で一桁たし算を⚒回登場させて,かつ複数回繰り上がらせて複雑にした方が三 桁かけ算の解答結果に難易差が生じやすいと判断したためである。 表⚑の結果を用い,計算過程で⚒回生じる一桁たし算の難易レベルポイントの合計がレベル低, 中,高と異なる⚓種の三桁かけ算問題を各 20 問ずつ抽出し,低~高別に実験問題用紙を作成した。 問題に含まれる数はできるだけ均等になるように配慮したこと,各レベルとも問題の提示順が被 験者によってできるだけ異なるよう可能な限りランダムにしたこと,表⚒の結果を用いて⚓回行 う一桁かけ算の難易レベルポイントの合計を同一にしたことなど,繰り上がりがない場合と同様 の条件統制を行った。 (⚓) 手続き Ⅱと同様である。 ⚓.結果 計算不能,あるいは解答用紙未完成であった⚓年生⚙名,⚔年生⚓名,⚕年生⚒名,⚖年生⚑ 名を除外し,404 名を分析の対象とした。学年,一桁たし算のレベル別に,反応時間と正答率の平 均値を示したものが表⚔,図⚓・⚔である。 反応時間について⚔(学年:⚓~⚖年)×⚓(レベル:低・中・高)の分散分析を行った結果, 学年の主効果(F(3,392)=70.997,p<.01),レベルの主効果(F(2,392)=25.357,p<.01), 交互作用(F(6,392)=7.106,p<.01)が有意であった。交互作用が有意だったので学年におけ るレベルの単純主効果を検定したところ,⚓~⚕年が 1%水準で有意であった。そこで多重比較 を行った結果,⚓年は中と高が 1%,低と高が 5%,⚔年は低と高が 1%,中と高が 5%,⚕年は 低,中と高が 1%,低と中が 5%水準で有意であった。レベルにおける学年の単純主効果を検定し たところ,全てのレベルが 1%水準で有意であった。そこで多重比較を行った結果,低では⚓年 と⚔~⚖年が 1%,⚔・⚖年と⚕年が 5%,中では⚓年と⚔~⚖年,⚔年と⚕・⚖年が 1%,高で は⚓年と⚔~⚖年,⚔・⚕年と⚖年が 1%水準で有意であった。 正答率について⚔(学年:⚓~⚖年)×⚓(レベル:低・中・高)の分散分析を行った結果,学 年の主効果(F(3,392)=5.038,p<.01),レベルの主効果(F(2,392)=3.403,p<.05)が有意 であった。学年の主効果が有意だったので多重比較を行ったところ,⚓・⚔年と⚕年が⚑%,⚓ 年と⚖年が 5%水準で有意であった。レベルの主効果が有意だったので多重比較を行ったとこ ろ,低,中と高が 5%水準で有意であった。

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⚔.考察 反応時間と正答率に関する難易の考え方はⅡと同様である。 反応時間では,⚓・⚔年生は低,中より高の方が,⚕年生は低,中,高の順に大きくなること 一桁たし算 のレベル RT⚓年生CR RT⚔年生CR RT⚕年生CR RT⚖年生CR 低 28.6 85.0 14.1 87.6 10.5 87.6 13.2 92.8 中 24.7 86.0 16.6 88.5 12.4 88.5 11.1 90.1 高 38.2 82.3 21.6 83.6 23.7 83.6 12.6 85.6 表 4 学年,一桁たし算レベルの違い別の反応時間(RT(sec)),正答率(CR(%))の平均値(繰 り上がりあり) 図 3 学年,一桁たし算レベルの違い別の反応時間(sec)(繰り上がりあり) 図 4 学年,一桁たし算レベルの違い別の正答率(%)(繰り上がりあり)

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が明らかになった。⚓~⚕年生については計算過程で行う一桁たし算が難しいと三桁かけ算の処 理速度は遅くなり,難しくなるといえよう。後藤(1990・2011)で反応時間を指標として明らか にされた一桁たし算の難易差の存在は,⚓~⚕年生の三桁かけ算においても証明されたことにな る。⚖年生ではその傾向がみられなかった。⚖年生ではどのレベルも同程度の処理速度で解答で きるように熟達化し,天井効果が起こっていると考えられる。レベル別学年の多重比較では,レ ベル低~高のいずれにおいても,学年が高いほど反応時間が小さくなる傾向があり学年差がみら れた。 前記のように一桁たし算に繰り上がりがない三桁かけ算の場合は⚓年生のみ一桁たし算の難易 の影響を受けていた。繰り上がりがある場合は⚓~⚕年生が影響を受けていた。河井・後藤 (1987),後藤(2011)より繰り上がりのある方が一桁たし算は難しいことが明らかである。繰り 上がりがある場合は難しい問題ゆえに熟達が遅く,⚔・⚕年生でも依然として一桁たし算の難易 の影響を受けていたと考えられる。 後藤(1990)は,本研究で活用した表⚑の難易レベル別ポイントを用いて,反応時間を指標と して,三桁+三桁の筆算に一桁たし算の難易が影響することを証明した。その際の対象は小学校 ⚓年生に限定された。発展課題である一桁たし算に繰り上がりがある三桁かけ算においても,⚓ ~⚕年生で依然として一桁たし算の難易の影響は残っていることが明らかになった。 正答率では,学年に関係なくレベル高は低,中より低くなっていることが明らかになった。計 算過程で行う一桁たし算が難しいと三桁かけ算の正確さも低下し,難しくなるといえよう。この ように,学年の違いと一桁たし算の難易の影響には相互作用がなく,全学年に共通した結果が得 られた。繰り上がりがない場合は⚓・⚔年生のみ難易の影響を受けていた。この違いは,前記の 通り一桁たし算に繰り上がりのある方が難しいため,解答の正確さに対する一桁たし算の難易の 影響は,学年が進行しても異なった様相が得られにいためと考えられる。一方,学年の主効果に より,おおむね⚓・⚔年生より⚕・⚖年生の方が正答率は高く学年差がみられた。 以上のように,反応時間では学年によって一桁たし算の難易の影響に異なった様相がみられた。 正答率では,三桁かけ算の難易の発達過程に一桁たし算のレベル差の違いがみられなかった。一 桁たし算に繰り上がりがない三桁たし算と同様,計算の処理速度と正確さとは異なった発達過程 を辿るといえる。

Ⅳ かけ算筆算における一桁たし算の繰り上がり方の違いの影響

⚑.目的 計算過程で登場する一桁たし算の繰り上がりの有無,位置,回数が三桁かけ算の難易にどのよ うに影響するかを明らかにする。

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⚒.方法 (⚑) 対象 公立小学校⚓年生 118 名,⚔年生 114 名,⚕年生 144 名,⚖年生 133 名 計 509 名 (⚒) 材料 三桁かけ算問題の内,後藤(1993)で類型化した⚘番(計算過程で登場する一桁たし算の繰り 上がりなし),12 番(10 の位で一桁たし算が繰り上がる),16 番(100 の位で一桁たし算が繰り上 がる),20 番のタイプ(10・100 の位で一桁たし算が繰り上がる)の問題を使用した。各タイプの 問題を 20 問ずつ抽出し,別個の実験問題用紙を作成した。 問題に含まれる数はできるだけ均等になるように配慮したこと,各レベルとも問題の提示順が 被験者によってできるだけ異なるよう可能な限りランダムにしたこと,表⚑の結果を用いた⚒回 行う一桁たし算の難易レベルポイントの合計,表⚒の結果を用いた⚓回行う一桁かけ算の難易レ ベルポイントの合計,一桁かけ算の繰り上がり回数(10・100 位の⚒回),答の桁(⚔桁),部分積 の型,被乗数や答における⚐の含まれ方など,三桁かけ算の難易を左右する条件を均一にして統 制を図った。以上は一桁かけ算の繰り上がりが⚒回あるタイプであり,計算過程で複数回繰り上 がらせて複雑にした方が三桁かけ算の解答結果に難易差が生じやすいと判断したためである。 (⚓) 手続き 学級内の児童を⚔集団に分けたこと以外はⅡと同様である。 ⚓.結果 計算不能であった⚓~⚕年生各⚒名,⚖年生⚕名を除外し,498 名を分析の対象とした。学年, 繰り上がり方の違い別に,反応時間と正答率の平均値を示したものが表⚕,図⚕・⚖である。 反応時間について,⚔(学年:⚓~⚖年)×⚔(繰り上がり:なし,10 位,100 位,10・100 位) の分散分析を行った結果,学年の主効果(F(3,494)=38.788,p<.01),繰り上がりの主効果(F (3,494)=9.481,p<.01)が有意であった。学年の主効果が有意だったので多重比較を行ったと ころ,⚓年と⚔~⚖年,⚔年と⚕・⚖年が 1%水準で有意であった。繰り上がりの主効果が有意 だったので多重比較を行ったところ,なしと 100 位,10・100 位,10 位と 10・100 位が 1%,100 位と 10・100 位が 5%水準で有意であった。 繰り上がり ⚓年生 ⚔年生 ⚕年生 ⚖年生 RT CR RT CR RT CR RT CR なし 21.6 84.7 15.0 92.6 11.7 93.0 11.9 93.2 10 位 24.1 83.2 14.8 88.1 13.4 84.6 11.8 86.8 100 位 21.0 76.5 17.7 87.9 16.5 87.0 13.2 85.3 10・100 位 28.3 69.0 18.2 72.5 17.5 82.5 15.0 79.1 表 5 学年,一桁たし算レベルの違い別の反応時間(RT(sec)),正答率(CR(%))の平均値

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正答率について,⚔(学年:⚓~⚖年)×⚔(繰り上がり:なし,10 位,100 位,10・100 位) の分散分析を行った結果,学年の主効果(F(3,494)=7.733,p<.01),繰り上がりの主効果(F (3,494)=19.527,p<.01)が有意であった。学年の主効果が有意だったので多重比較を行った ところ,⚓年と⚔~⚖年が 1%水準で有意であった。繰り上がりの主効果が有意だったので多重 比較を行ったところ,なしと 10 位,100 位,10・100 位,10 位と 10・100 位,100 位と 10・100 位 が 1%水準で有意であった。 ⚔.考察 反応時間と正答率に関する難易の考え方はⅡと同様である。 図 5 学年,繰り上がり方の違い別の反応時間(sec) 図 6 学年,繰り上がり方の違い別の正答率(%)

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反応時間では,一桁たし算の繰り上がりなしが 100 位,10・100 位より,10 位と 100 位が 10・ 100 位より反応時間は小さいことが示された。繰り上がりなし,10 位または 100 位が繰り上がる (繰り上がり⚑回),10・100 位が繰り上がる(繰り上がり⚒回)の順に反応時間が大きくなり,難 しくなった。Suppes ら(1968)は,たし算問題の難易度に影響する構造変数を予測変量とし,正 答率を基準変量として重回帰方程式を計算した結果,正しい答を導くまでに要するステップ数の 変数の寄与率が高いことを推測した。たし算の繰り上がりが多い三桁かけ算ほど解答過程におけ るステップ数が多く,より大きな作業記憶の容量を必要とするためと思われる。一方,⚓年生は ⚔~⚖年生より,⚔年生は⚕,⚖年生より反応時間は大きいことが示された。学年が進行するに つれておおむね反応時間も小さくなるため学年差がみられ,発達していくことが示された。 正答率では,繰り上がりなしが 10 位,100 位,10・100 位より,10 位と 100 位が 10・100 位よ り正答率は高いことが示された。繰り上がりなし,10 位または 100 位が繰り上がる(繰り上がり ⚑回),10・100 位が繰り上がる(繰り上がり⚒回)の順に低くなるため,一桁たし算の繰り上が りが多くなると三桁かけ算の正確さも低下し,難しくなるといえよう。一方,⚓年生よりも⚔~ ⚖年生の方が正答率は高く学年差がみられ,計算の正確さは発達するが,⚔年生で天井効果が生 じることも示された。 以上より,反応時間,正答率の何れにおいても,一桁たし算の繰り上がりがない場合よりもあ る方が,その数は多い方が三桁かけ算は難しくなることが明らかになった。これは,反応時間, 正答率の両指標に共通して,繰り上がりの位置には関係なく,三桁かけ算の難易が一桁たし算の 繰り上がりの有無と回数により影響されていることを示している。河井・後藤(1987),後藤(2011) では,一桁たし算の難易を左右する条件として繰り上がりの有無を示した。後藤・河井(1990) は三桁+三桁の難易における繰り上がりの有無と回数の影響を証明した。三桁かけ算において も,依然として一桁たし算の繰り上がりは難易に影響していることが明らかになった。

引用・参考文献

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参照

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