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日本看護管理学会誌15-2

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報告

The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol. 15, No. 2, PP 135-146, 2011

中堅看護師が転職前に行う予測と転職後に

遭遇する現実との相違の構造

Differences between Expectations and Experiences of Experienced Nurses Entering a New Work Environment

伊東美奈子

Minako Ito

Key words : experienced nurses, transition to new work environment, expectations, reality shock, realistic job preview

キーワード:中堅看護師,転職,期待,リアリティショック,現実的職務予告

Abstract

The purpose of this research was to identify the structure of the differences between expectations and experiences of nurses entering a new work environment using qualitative analysis. Seven experienced nurses who transferred to a different hospital for the first time and continued to work there were inter-viewed. Data analyzed using a grounded theory approach, revealed that experienced nurses joined the new organization with several expectations: “hope or a positive image for changing hospitals” and “worry about working at a new hospital”. Entering a new work environment, they encountered the real-ity of the situation and recognized “the gaps between expectations and realities” which was like realreal-ity shock for graduate nurses. Even experienced nurses could not accurately anticipate how a new organiza-tion would be or how nursing might be practiced before entering a new organizaorganiza-tion, which is similar to new nurses’ situation. To decrease the gap between expectations and realities, nursing administrators should give enough information about their organization to transferred nurses as a “realistic job preview” before they begin working. In addition, all transferred nurses probably faced this gap; therefore, they need to be supported in a different way than newly graduated nurses.

要 旨  本研究の目的は,中堅看護師が転職前に行う転職への予測と転職先の病院で遭遇した現実と の相違の構造を示すことである.臨床経験が5年以上で,1回の転職経験を持つ看護師をネッ トワークサンプリングにて募り,7名の看護師に対し半構造化面接を行った.得られたデータ は,グラウンデッド・セオリー・アプローチの手法に基づき継続比較分析を行った.その結果, 7つのカテゴリーが抽出された.中堅看護師が転職前に行う予測は,【転職の理由】【転職先の 吟味】【期待の抑制】から形成される【転職への期待や肯定的なイメージ】【転職後に起こりう ることに対する予期的な懸念】であった.転職後に遭遇する現実には【予想や期待と相違する 現実】の他に,事前の予測が及ばない【予想を超えた現実】があり,転職した看護師には新人 看護師とは異なるリアリティショックがあることが示唆された.それに対し,現実的職務予告 によって就業前に組織や職務に関する現実的情報を提供しておくこと,新人看護師とは別に, 転職看護師に特化したサポート体制を整備することが必要と考えられた. 受付日:2010年12月29日  受理日:2011年8月25日

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Ⅰ.緒言

 我が国では,20歳代後半から30歳代,経験年数に して5年から10年前後の看護職に,転職や離職後の 再就職等,就業変化の第一のピークが訪れることが 各種調査で示されている(日本看護協会,2006a, 2006b,2007).このことから,いわゆる「中堅」 の時期が看護職のキャリアにおける一つの分岐点と なっていると考えられる.中でも所属病院を替える 転職においては,転職先となる病院への職場適応の 困難さと課題が多く指摘されている(石井,2003; 片岡ら,2005;市本,2007).  組織社会化論では,個人の組織への適応を阻害す る要因として,入職前のイメージや期待と入職後の 現実との相違が引き起こすリアリティショック (Schein, 1978)や,不適合期待(Wanous, et al.,

1992)が挙げられている.それらはキャリアの節目 にはつきもので,学生から社会人への移行において はもちろん,転職の際にも考慮される必要がある (西村,2007).しかし,中堅看護師がどのようなイ メージや期待を抱きながら転職し,転職先の病院で 直面した現実との適合をどのようにとらえているの かを明らかにした研究は見当たらない.そこで本研 究は,中堅看護師が転職前に行う転職への予測と転 職先の病院で遭遇した現実との相違の構造を示すこ とを目的とし,相違が生じる原因やその問題,対応 策について考察する.

Ⅱ.用語の操作的定義

 中堅看護師:臨床経験が5年以上で,転職前後に おいて病棟に勤務する常勤の看護師.  転職:看護師が自発的に前の職場である病院を退 職し,別の病院に就職すること.同一の設置主体内 での異動や転籍は含まない.  予測:中堅看護師が転職前に転職そのものや転職 先となる病院に対して抱くイメージや期待.  現実:転職した中堅看護師が転職先の病院で直面 した経験.

Ⅲ.研究方法

 本研究は,質的記述的研究である. 1.研究協力者  転職した中堅看護師のうち転職回数が1回である 者,すなわち研究協力時点での勤務先が初めての転 職先である者とし,ネットワークサンプリングにて 募った.転職回数を1回に限定したのは,転職を重 ねるに従って,転職前に行う予測を転職後の現実に 近い形で行えるようになると考えたためである. 2.データ収集方法  インタビューガイドを用いて半構造化面接を行っ た.インタビューの平均所要時間は約80分で,その 内容は承諾を得て IC レコーダーに録音し,逐語録 を作成した.データ収集期間は2008年7月∼10月で あった. 3.分析方法  グラウンデッド・セオリー・アプローチの手法に 基づき,以下の手順で継続比較分析を行った.①逐 語録を検討し,意味のある文節を取り出しコード化 を行う.②類似した特徴を持つコードをまとめ,分 類,統合し,サブカテゴリーを抽出する.③抽出さ れたサブカテゴリーを類似性を検討しながら分類, 統合し,カテゴリーを生成する.④生成されたカテ ゴリー間相互の関連を検討する.  データ収集と分析の過程においては,看護管理学 の専門家及び質的研究法の専門家のスーパーバイズ を定期的に受け,信頼性,妥当性を確保した. 4.倫理的配慮  本研究は,聖路加看護大学研究倫理審査委員会の 承認を得て実施した.研究協力者には,研究の趣旨 や方法,協力依頼内容,研究への協力・辞退が自由 であること,プライバシーと個人情報保護の厳守に ついて,研究者が文書と口頭で説明し,紙面で同意 を得た.インタビュー内容を逐語録におこす際は, 固有名詞を記号に変換し,研究協力者とその所属組 織の匿名性を確保した.

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Ⅳ.結果

 研究協力者の概要を表1に示した.研究協力者は 7名で,全員30歳代の女性であった.インタビュー 時点で1名は既婚であったが,転職時点では7名と も未婚であった.データを分析した結果,中堅看護 師が転職前に行う予測と転職後に遭遇する現実との 相違の構造として,表2に示す7つのカテゴリーが 抽出された.以下,各カテゴリーについて説明する. なお,文中の【 】はカテゴリー,〔 〕はサブカ テゴリー,〈 〉はコード,「 」は研究協力者によっ て実際に語られた内容を示す. 1.転職前に行う予測  看護師が転職前に行う予測は,【転職への期待や 肯定的なイメージ】と【転職後に起こりうることに 対する予期的な懸念】から構成され,それらは【転 職の理由】【転職先の吟味】を先行要因として形成 されていた.【転職への期待や肯定的なイメージ】 は,【期待の抑制】の影響も受けていた.本項では まず,転職前に行う予測の先行因子から述べてい く. 1)【転職の理由】  看護師に他の病院に移って仕事をしよう,すなわ ち転職しようと思わせる誘引のことである.看護師 表1 研究協力者の概要 協力者 教育背景 転職前 転職までの 離職期間 転職後 配属病棟 (→は異動歴を表す) 経験年数 配属病棟 (→は異動歴を表す) 経験年数 (調査時点) A 短大卒 大学病院 脳外・耳鼻・形成外科混合 7年 なし がん専門病院 内科→呼吸器科→化学療法科 4年 B 専門学校卒 大学病院 内科→整形外科→精神科 10年 2年8カ月 総合病院 内科 2年8カ月 C 大学卒 大学病院 救急病棟 5年9カ月 3カ月 総合病院 内科外科混合 2年4カ月 D 短大卒 大学病院 精神科 5年 3カ月 大学病院 精神科 3年 E 大学卒 大学病院 小児科→ PICU 6年 なし 小児専門病院 小児外科 3年5カ月 F 大学卒 総合病院 循環器内科 8年 なし 精神科病院 精神科 1年6カ月 G 短大卒 総合病院 血液内科 5年 なし 総合病院 消化器内科→緩和ケア科 6カ月 表2 中堅看護師が転職前に行う予測と転職後に遭遇する現実との相違の構造 カテゴリー・サブカテゴリー一覧 カテゴリー サブカテゴリー 【転職の理由】 やりたい看護が見つかった 外の世界をみてみたい 本からではなく経験することから学びたい “中堅”からの逃避 【転職先の吟味】 行きたい科への配属の確実さ 病院の雰囲気のよさ 院内教育の充実 病院の規模の大きさ 【転職への期待や肯定的なイメージ】 未知未経験な看護実践を身につけることへの 期待 プロフェッショナリズムの高さに対する期待 教育体制への期待 新しい自分に出会える 【期待の抑制】 新卒の時に抱いたような期待はない 転職に期待は無用 【転職後に起こりうることに対する 予期的な懸念】 うちの病院のやり方はよそでは通用しない よそものに対する風当たりの強さ 未知の領域の看護に対する不安 1年目と同じ扱いを受ける 【予想や期待と相違する現実】 期待通り 懸念通り 期待外れ 懸念した以上のつらい現実 【予想を超えた現実】 転職前後の病院間のルールのギャップ 看護の概念が揺さぶられる

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は在職中の病院では成しえないまたは得られないも のが転職によって叶えられたり,得られたりすると 信じ転職を決めていた.そのため【転職の理由】は 【転職への期待や肯定的なイメージ】に直結してい た. (1)〔やりたい看護が見つかった〕  看護師は臨床経験を積んでいく過程で,在職中の 病院で提供されている治療や看護に限界を感じ,患 者にもっとよりよい医療やケアが提供できるのでは ないかとの問題意識を持つようになっていた.そし て高度な専門性を有する病院や,高名な病院には 「ほんとのケア」があり,その場に身を置く,つま り転職することが自分の「やりたい看護」を実現で きる近道と考えていた.  「やっぱりやりたい看護っていうところが一番明確に見つ かったのが,思い切って(他の病院に)行こうかなっていう きっかけになった.家族のケアとか,あとはやっぱり使う薬 のちゃんと意味を考えて,(患者さんの)痛みを軽くしてあ げたいなって.」(G) (2)〔本からではなく経験することから学びたい〕  「やりたい看護」という言葉に表されるように, 看護師には「やる」,つまり実際にその看護を経験 してみたいという気持ちが強かった.それは机上の 学びより,臨床実践を通じて得られる学びの方が価 値高いと考えているからであった.実践への価値付 けが,経験できる場の探索へとつながり,それが在 職中の病院にないと判断されることにより,転職が 志向されていた.  「勉強をしてもやっぱり限界があると思ったんです,こう いう本を読むといいよって言われたんですけど,やっぱり経 験しないと絶対無理だと思って.そこで,あ,もうずっとこ の病院にいちゃいけないな,やっぱ出ようと思って.」(A) (3)〔外の世界をみてみたい〕  看護師は同一病院での勤続を必ずしもよいことと 受け止めていなかった.それは自分が「視野が狭く」 「井の中の蛙」であることと,働き慣れた職場で過 ぎ去る日常が「ぬるい」ためであった.  「ドレーンの接続が悪くて抜けてしまったっていうインシ デントがあって,対策を話し合った時に,他の病院の経験者 の人が『うちはテープで固定してました』って言ったんです. (私は)そんなところテープで固定するんだって,結構衝撃 的だったんです.院内だったらなんとなく似たようなことを やってるけれど,病院が違うだけでシステムが違ったりだと かして,そういう面白さがあるんだなーって.」(C)  転職が刺激となり自らが活性化され,「新しい自 分」へと生まれ変わることができると看護師は考え ていた. (4)〔“中堅”からの逃避〕  職場から求められる中堅役割に応えてきた看護師 は,自分を「病院や病棟の都合で扱われる駒」と認 識していた.そのまま在職を続ければそこから逃れ るのは困難になる.しかし転職すれば,中堅の立場 を「リセット」できる.そのような考えが看護師の 転職を後押ししていた.  「チラホラ自分の同年代で主任になりそうな人達がいたか ら,あ,これはこのままいたらつぶされると思って(笑), 逃げられなくなっちゃうみたいな.」(B) 2)【転職先の吟味】  【転職の理由】が叶う可能性の高さを基準に,転 職先となる病院の精選にあたることである.後述す る【転職後に起こりうることに対する予期的な懸 念】をしてまで転職するからには,転職の意義を最 大限高められるような戦略的な転職先選びをする必 要があった.そのように転職先を選別していく過程 が【転職への期待や肯定的なイメージ】を高めるこ とに寄与していた. (1)〔行きたい科への配属の確実さ〕  看護師は「やりたい看護」と関連する領域に配属 されなければ「やりたい看護」の追求が困難になり, 転職する意義がなくなると考えていた.そのため専 門病院を志向したり,配属希望が通る可能性につい て,事前に転職先の看護管理者に確認を取ることで 関心領域への配属可能性を高めていた.その結果, 転職に対する予測も希望科への配属を前提に形成さ れていた.  「X(病院)は精神科だけじゃなくていろんな科もあるの で,もしかしたら自分が希望してる精神科に行けない可能性 があるかなーというのもあったので,そこは消して.」(F) (2)〔院内教育の充実〕  看護師は,中堅になった今でも自分にはまだまだ 伸びしろがあると考えていた.そして経験による学 びを重視する一方で,OJT だけで学びが完結する とは考えておらず,知識面の強化に組織が関与する ことを望んでいた.院内教育体制が整備されている ことを病院選別の際の基準とすることによって,転 職後の教育機会に対する期待につながっていた.

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 「病院全体でプログラムを立てて研修とかも色々工夫され てて.見学に行った時に,そういうのもしっかりしてるって いうのもあったので今の病院に決めた.」(F) (3)〔病院の雰囲気のよさ〕  看護師は転職に際し,転職後の配属や院内教育体 制等の実利を重視するものの,自分が病院見学に 行ったり,看護師の知人から聞いた話から受ける病 院全体の「印象」や「雰囲気」のような,感覚に訴 えかけてくるものを排除することはなかった.病院 の雰囲気は,転職後の働きやすさを左右する因子だ と看護師は考えていた.  「Y(病院)も魅力はあったけど,なんかこうピリピリし た感が前の病院と似てるなって思ったので,関心はあったけ ど行かなかった.やっぱ第一印象.どんなに偉い人と会って も,えっていう時あるじゃないですか.なんかそういうのと 一緒で.それだけで決めちゃいけないと思うんですけど.」 (G) (4)〔病院の規模の大きさ〕  看護師は病院の規模の大きさが医療レベルの高さ や組織の強固さ,職員をサポートする力の大きさを 決定付けると考え,病院名,病床数,職員数,病院 の設置主体,診療科の多彩さ,社会的評判から病院 の信頼性や安定性を判断しようとしていた.  「何となくやっぱある程度大きい病院の方が組織がしっか りしているのかなっていう私の勝手な思いで.大きい病院だ と思いつくのが,大学病院だとか,Z(転職先となる病院) で.」(C) 3)【転職への期待や肯定的なイメージ】  看護師が転職そのものや転職先となる病院に対し て持つ期待やよいイメージのことを指す.看護師は 在職中の病院にいたままでは実現できないことを転 職によって果たそうとし,【転職の理由】が叶う可 能性の高さを基準に【転職先の吟味】を行っていた. そのような思考の過程で【転職への期待や肯定的な イメージ】を徐々に高めていっていた. (1) 〔未知未経験な看護実践を身につけることへ の期待〕  看護師は〔本からではなく経験することから学び たい〕という,実践への価値付けから転職を志向し ていた.そのため,転職先ではこれまでに経験した ことのない新たな看護実践に触れ,それを吸収して いけるという期待をしていた.  「いわゆるがん看護ってどういうものかもわからなくて, 痛み止めの使い方一つもわからなくて,だから知りたくて飛 び込んだんです.がん看護ならではの患者さんが看れたり, そういう治療,看護ができるっていう期待で行った.」(A)  領域によって必要とされる看護が異なるとの経験 則から,初めて従事する科の看護は看護師にとって 「未知との遭遇」であった.そのため,そこで行わ れている看護が「わからない」まま期待が形成され ていた. (2)〔教育体制への期待〕  看護師は院内教育体制の整備を転職先選びの際の 基準とし,それに関する情報を事前に得ていたた め,転職先で提供される院内教育プログラムの充実 には期待を寄せていた.  「(説明会で)うちはこんなカリキュラムでやってますって いうのを見せていただいた時も,すごい受けたいカリキュラ ムがいっぱいあったので.そういうのに参加させてもらえた らっていう期待はすごいして行ったんです.」(A) (3) 〔プロフェッショナリズムの高さに対する期 待〕  看護師は,転職先で提供されている医療・看護や それを支えるスタッフ達が保有する専門性の高さに 期待を寄せていた.専門性の高さの根拠は,病院の 名称や規模の大きさから連想され,特に専門病院に 対しては顕著に期待が高まっていた.  「専門病院っていう響きで,専門性がある人達がいっぱい いて,勉強みんなしてるんだろうなーって.」(E) (4)〔新しい自分に出会える〕  転職により環境や仕事上の「人間関係のしがら み」,「中堅」という立場が一新され,看護師は「新 しい自分」を再スタートさせられると考えていた.  「自分のことを知らない人の所でやった方が新しい自分を 見つけられるというか.1回あった人間関係とか全部リセッ トされるんで.」(D) 4)【期待の抑制】  【期待の抑制】とは,転職に期待をこめないこと である.看護師は,自分が新卒時に抱いたような漠 然とした「憧れや期待」と,臨床経験を積んだ上で 抱く【転職への期待や肯定的なイメージ】は異なる ものと考え,後者は自らが明確にしている転職の目 的に沿う,より具体的で現実的なものと識別してい た.そして臨床には実際にその現場に立ってみない とわからないことが無数存在するとの経験知から, 現実とかけ離れた期待をすることの無意味さを知っ

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ており,それが【期待の抑制】につながっていた. (1)〔新卒の時に抱いたような期待はない〕  卒後の就職時に抱いたナースや社会人になること への憧れや理想は,既に現実とのすり合わせができ ているために,転職時には格別な期待がなかった.  「なーんにも期待はしてなかったですね,良くも悪くも. 新人だった時は今回の転職よりはもちろん憧れと期待を抱い て就職したのだけは覚えてますけど.働いて自分で稼いでい くっていう,ほんとに社会人になるっていう.」(C) (2)〔転職に期待は無用〕  看護師は,転職先の実情に関して事前に知ってお けることには限界があると考えていた.そのため 【転職先の吟味】を経て選別した転職先に対しても, 不必要で非現実的な期待を抱くことなく転職に臨ん でいた.  「自分の目的に合うかどうか行ってみないとわからないっ ていう心構えでしたから,たぶん期待も何も(ない),じゃ ないかな.もう目的が決まってて,これをやるために移るっ て決めてるから期待とかそういうのは無くて.」(F) 5) 【転職後に起こりうることに対する予期的な 懸念】  転職後に直面するであろう様々な出来事に対する 心配を,転職前に先取りして行うことである.【転 職の理由】は【転職への期待や肯定的なイメージ】 を生み出し,転職への促進因子になる一方で,新天 地での仕事や見知らぬ人々との人間関係の構築に伴 う不安を喚起していた.そして予期的悲嘆を行うこ とで「覚悟」「心構え」に代表される精神面での準 備性を高めると共に,転職先に入っていく際の自ら のふるまい方を決めたりしていた.看護師がそこま でして転職しようとするのは,転職動機が強固であ るがゆえに【転職後に起こりうることに対する予期 的な懸念】よりも【転職への期待や肯定的なイメー ジ】が勝つからであった. (1)〔うちの病院のやり方はよそでは通用しない〕  看護師は,手技の手順や方法,処置に用いる物品, ケア提供のシステムなどについて,転職前後の病院 間で互換性がなく,自分が身につけたスキルは転職 先では武器にならないだろうと考えていた.  「やっぱり5年間やってきても新たな環境に飛び込むと, 今までやってきたことが(転職先では)あんまり正しくない とか,そういうのがあるって転職した友達が言っていたの で,大丈夫かな,やっていけるのかなって.やっぱり病院の ルールとかがあるので,おむつ交換一つでも.」(G)  転職先では自らの「やり方」に固執することなく, 転職先から求められる「やり方」に自分をあわせる ことが転職先への適応をスムーズにさせると看護師 は考えていた.そのため,転職に際しては「郷に入っ ては郷に従え」の精神で臨んでいた. (2)〔未知の領域の看護に対する不安〕  看護師にとって,患者の安全安楽に配慮すること や患者への応対の方法論は,病院や科が替わっても 普遍性をもつ「基本的なこと」であった.しかし「基 本的なこと」が占める割合はごくわずかで,「違う 科に行ったら違う看護がある」と看護師は考えてい た.  「自分の中ではやっぱり精神科は全く分からないですし. どんな感じなんだろうって.結構注意しなきゃいけないこと とかあるのかな,自分のしゃべる言葉でなにかこう(患者に) 影響が出てくるんじゃないかなー,どういう風に接すればい いのかなって.そういうところが不安だったんです.」(F)  転職に伴い配属科が替わると,病院の違いに加え て科の違いも加わるため,今まで積んできた経験は 「基本的なこと」以外は無になると看護師は考えて いた.そのため転職先では「ゼロからのスタート」 となり,「プライドをかなぐり捨ててわからないこ とは全部聞く」謙虚さが必要になると考えていた. (3)〔よそものに対する風当たりの強さ〕  看護師は,前勤務先で転職してきた看護師と一緒 に働いた経験から,他院で臨床経験がある看護師は プライドが高く謙虚さや素直さに欠け,「まっさら な新人」に比べ扱いにくいと感じていた.そのこと から自分も転職先では歓迎されないだろうと予測 し,扱いにくい看護師として警戒されないようにす るためには「今までの経験を箱にしまって鍵をか け」,「猫をかぶる」ことが最善だと考えていた.  「どんなに経験があるとはいってもそこはちょっと下手に 出るというか,そうじゃないと向こうにはいい印象は与えな いし,私は今までここでこれだけやってきたのよ,っていう ような態度で逆に行ってしまうと,悪い印象っていうか,人 間関係としてやりにくくなるんじゃないかなって思ったの で.」(C) (4)〔1年目と同じ扱いを受ける〕  看護師は,自分が転職先の人々から新人の一人と みなされ,新人看護師と同等の扱いを受けると予想 していた.

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 「がん看護初めてぐらいな感じなので,もう絶対8年目と しては見られないっていうのはわかってはいたんですね.た ぶん1年目と同じ扱いを受けるし,年下みたいな子にあれし ろこれしろ言われるのもそれは覚悟の上.」(A)  これまでにどれだけの看護師経験があったとして も,その病院にとって自分が「新参者」であること に違いはなく,さらに自分はゼロからスタートする 「初心者」であるため,新人看護師同様の扱いを受 けるのも仕方がないと看護師は考えていた. 2.転職後に遭遇する現実  看護師が転職後に遭遇する現実には【予想や期待 と相違する現実】と,事前の予測が及ばない【予想 を超えた現実】があった. 1)【予想や期待と相違する現実】  転職前にした予想や期待との間に相違があったと 認識された転職先の実際のことである.看護師は転 職前にできる限りの情報収集を行い,それをもとに 転職後のことについて見当をつけていたが,それは 転職先の実情とは合致することもあれば,外れるこ ともしばしばで,その一つ一つに対し感情を揺り動 かされていた.表3∼6に,転職前の予測と対比さ せながらデータを示した. (1)〔期待通り〕(表3)  転職先の現実が期待と違わなかったと感じられる ことである.〔期待通り〕と認識されたのは,院内 教育によって新たな知識が得られ,それを実践です ぐに応用できた〈院内教育の充実〉,今までの経験 の中にはなかった看護を実践してみることによって 自分の成長を実感することができた〈実践に付随す る新鮮な学び〉,患者や家族のために最善の医療を 提供しようと尽力する〈能力の高いスタッフとの出 会い〉,転職によって環境を替えたことで自分が望 ましい方向に変化した〈自分が変わった〉であった. 〔期待通り〕は,転職に意義があったと看護師に感 じさせる点で,仕事のモチベーションを上げ,職場 や仕事へのコミットメントを促進することに寄与し ていた. (2)〔期待外れ〕(表4)  転職先の現実が期待にかなっていなかったと感じ られることである.〔期待外れ〕と認識されたのは, 「やりたい看護」により近づくように〔行きたい科 への配属の確実さ〕を見込んで転職したのに,転職 先で配属希望が通らない〈配属のあてが外れた〉, 転職先に新奇性のある学びがなかった〈新しい学び がない〉,患者に対する医師や看護師の応対の実際 に失望する〈専門病院らしからぬ患者のみかた〉で あった.〔期待外れ〕な現実に直面した看護師は, 事前の情報収集の甘さや期待の根拠となっていたも のの弱さ,【期待の抑制】によって低減されていた はずの期待がそれでも過大であったことに気づくと 共に,期待と現実のギャップにショックを受けてい た. (3)〔懸念通り〕(表5)  転職先の現実が心配していた通りであったと感じ られることである.〔懸念通り〕と認識されたのは, 転職先の人々がこれまで自分が積んできた経験を活 かすことに目を向けず,まるで新人を扱うように接 してくる〈1年目扱いされる〉であった.覚悟はで きていたものの,実際にそのような扱いを受けるこ とは看護師にとって「屈辱」であった.しかし扱い 表3 サブカテゴリー〔期待通り〕データの一例 転職前の 予測 転職後の 実際 データ 〔教育体制へ の期待〕 院内教育 の充実 「最初の1週間,既卒のための研 修プログラムがあったんですね. 各1時間ずつぐらいで,専門の先 生が講義をしてくれるんですよ. それとかもすごくうれしくて,新 鮮でしたし.それはすごい期待通 りだった」(A) 〔未知未経験 な看護実践を 身につけるこ とへの期待〕 実践に付 随する新 鮮な学び 「教科書通りに行かないっていう 部分が,やっぱり実践に起こって いるので.(患者さんの)根底に, きっとそうさせる何かがあるんだ ろうけど,それをやっぱり引き出 す術っていうのは,たぶん自分が 経験していかないと獲得できない ものなのかなーって.」(F) 〔プロフェッ ショナリズム の高さに対す る期待〕 能力の高 いスタッ フとの出 会い 「転職先の先輩と言ってたんです けど,(ケアが)医師の治療のや り方にすごく左右される.でもそ の患者さんが穏やかに過ごせるよ うにっていうところでは揺るぎは ないので.」(G) 〔新しい自分 に出会える〕 自分が変 わった 「前のところは,病棟自体が結構 きびきびしてた雰囲気のところ だったんで,自分も後輩に対して 厳しかったと思うんですよね.今 のところはそういう雰囲気があま りなくて,上の人とかとかと普通 に話をしたり,そういう雰囲気な んであんまり怒るというか,厳し くなくなったのかなと.」(D)

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にくい看護師と思われないためにも,それに表立っ て抗議することはせず,「ひたすら従う」姿勢でそ の扱いを受け入れようとしていた. (4)〔懸念した以上のつらい現実〕(表6)  転職先の現実が心配していた以上によくなく,つ らく感じることである.〔懸念した以上のつらい現 実〕と認識されたのは,これまで身につけてきたス キルやそれを支える思想が転職先で根底から覆さ れ,予想以上にスキルが転用できない〈自分のやり 方が通用しない〉,転職先の同僚が明らかに新卒看 護師への対応とは異なる厳しい態度を既卒看護師に 向けてくる〈既卒に対する冷たい扱い〉であった. これらは「既卒ならではの苦しみ」で,転職したこ とのある者でなければ理解できないと看護師は考え ていた.そのため転職先の同僚の背景がわからない うちは誰に相談することもできず,看護師は孤独に 包まれる日々を送っていた. 2)【予想を超えた現実】  看護師が転職先で遭遇した現実のうち,転職前に 予測の対象となっていなかったもののことを指す. 【期待の抑制】で示したように,看護師は実際にそ の場に立ってみないとわからないことが臨床には無 数存在することを理解していたはずであったが,そ れでもなお事前の予測が一切及ばない【予想を超え た現実】に直面すると驚愕・動揺し,それを受け入 れることに苦慮していた. (1)〔転職前後の病院間のルールのギャップ〕  転職前の病院で「中堅」に至るまでの期間を過ご したことで,看護師は無意識にその病院のルールや 規範を内面化し,それがスタンダードであると認識 表4 サブカテゴリー〔期待外れ〕データの一例 転職前の予測 転職後の 実際 データ 〔未知未経験 な看護実践を 身につけるこ とへの期待〕 配属のあ てが外れ た 「面接で,何病棟に行きたいで すっていうことを伝えて,あなた の経験でいければ行けると思うか らっていうようなことを言ってく れてたんですけど,全然違う病棟 で.ぬるい感じなんですよ,(自 分は)呼吸の理学療法を専門的に やってたんですけど,全然そうい うのも出来てないっていうか浸透 してないし.だから移ったばかり の時は,やだっていうのがすごく 多かった気がします.」(E) 新しい学 びがない 「もうちょっと勉強したくて行っ たんですけど,あ,知ってるみた いな感じのところがあったんで す.ちょっとつまんないと思っ たっていうか,せっかく移ってき たのになーって.初めはちょっと 予想外で,期待しすぎて行って ちょっと違ったなっていう部分も あったんですけど.」(E) 〔プロフェッ ショナリズム の高さに対す る期待〕 専門病院 らしから ぬ患者の みかた 「がん患者さんの症状コントロー ルはすごくよくやってるんだろう なっていう期待を込めて行ったん ですけど,変にがんの患者さんに 慣れている人達がいて,それが ちょっと,あれって思った部分で すかね.あーもうがんだからしょ うがないね,みたいな.みんなが みんなだからマヒしちゃうのか なって.そういうショックもあっ た.」(A) 表5 サブカテゴリー〔懸念通り〕データの一例 転職前の予測 転職後の 実際 データ 〔1年目と同 じ扱いを受け る〕 1年目扱 いされる 「私がどこまで知ってて,どこま でできるのか,どこまで任せられ るのかっていうのが,向こう(転 職先)の人はよくわからないか ら,手取り足取り教えてくれるみ たいな感じで.負担を軽くしてた のかもしれないですけど,できる ことをさせないというか.なんか そんな雰囲気がありました.」(C) 表6  サブカテゴリー〔懸念した以上のつらい現実〕デー タの一例 転職前の予測 転職後の 実際 データ 〔うちの病院 のやり方はよ そでは通用し ない〕 自分のや り方が通 用しない 「前の病院でやってたようにやろ うとして,それが今の病院のやり 方ではなかった時は,ここのやり 方でやってもらわないと困る,っ ていう風に注意を受けるんですよ ね.こっちがこうやった方がいい んじゃないですかって自分の経験 をもとに提案しても,それは採り 入れてもらえない.うちの病院の やり方でって言われてしまって.」 (C) 〔よそものに 対する風当た りの強さ〕 既卒に対 する冷た い扱い 「3人そのとき既卒が入ったんで すね.もうかなりぞんざいな扱い をされて3人とも.そういう(わ からない)ことを聞いたりする と,え,8年目なのにそんなこと も知らないの,みたいな目でみら れる.既卒の子に対してほんとす ごい冷たかったんですよね病棟 が.なんか,なによよそ者,ぐら いな雰囲気だったんですよ.」(A)

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していた.そのため,転職先に違うルールが存在す ることを事前に予測できない.  「病棟で働いてるにもかかわらず,検査とか処置とかに必 ずついて行って,処置につきあって,一緒に帰ってくるって 感じでその間病棟離れなきゃいけないんです.ひどいと1時 間2時間とか病棟から離れるような処置治療,それについて いくんです.ありえない.前の病院ではそういうことはな かった.」(B) (2)〔看護の概念が揺さぶられる〕  転職前の病院でこれこそが看護とされていたもの の対極にあるような看護が存在することは,他の病 院に行ってから初めてわかることであった.  「芋洗いのようにおむつ交換とか流れ作業的なのもすごー くびっくり.ほんとに初めて見る光景っていうか,エーみた いな驚きは初日からありましたよね.なんかこう,質より量 みたいな.患者さんに対して,人っていうよりモノって見え ちゃってるんでしょうね,たぶん.患者さんにとって有利な ことなのか,あたし達にとって都合がいいのか,みたいな考 え方が根本的になんか違うなーって.」(B) 3. 中堅看護師が転職前に行う予測と転職後に遭遇 する現実との相違の構造  図1に,転職前に行う予測が【転職への期待や肯 定的なイメージ】と【転職後に起こりうることに対 する予期的な懸念】から構成され,それらに【転職 の理由】【転職先の吟味】【期待の抑制】が影響して いること,転職後に遭遇する現実として【予想や期 待と相違する現実】【予想を超えた現実】があり, 転職前に行う予測と転職後に遭遇する現実がずれる 様子を表した.  看護師の転職は【転職の理由】を起源に企図され, 【転職の理由】が叶う可能性の高さを基準に【転職 先の吟味】がなされ,結果的に【転職への期待や肯 定的なイメージ】を生み出していた.この【転職へ の期待や肯定的なイメージ】は,【期待の抑制】を 経ることによって,新人看護師が抱くような漠然と した「憧れや期待」とは一線を画したより現実的な ものと看護師に認識されていた.しかし看護師は, 実際に転職先で行われている看護を正確に把握でき ていたわけではなく,病院の名称や規模の大きさな どをもとに予測を立てていた.  【転職の理由】は,【転職への期待や肯定的なイ メージ】につながるだけでなく,新しい組織での仕 事や人間関係の構築などの【転職後に起こりうるこ とに対する予期的な懸念】を喚起していた.これは, 転職経験のある知人の話や,前勤務先で転職してき た看護師と一緒に働いた自分の経験などリアルな情 報をもとに想起され,看護師に予期的悲嘆を促す役 割をしていた.  このように,看護師は転職前に転職後のことにつ いて予測を立てていたものの,転職先には【予想や 期待と相違する現実】が存在していた.それは転職 先のことは看護師にとっては未知であるために,正 確な予測ができないからであった.仮にこれが可能 であったとしても,転職先にはこのような事前の予 測が一切及ばない【予想を超えた現実】が存在して おり,事前予測の限界が示された.

Ⅴ.考察

1.転職前に行う予測が外れる原因とその問題  中堅看護師が転職する際に抱く期待は,新卒で何 もわからないままに就職した時の漠然とした期待と 違い,転職の理由が明確である分,より目的的・具 体的で,かつ現実とかけ離れた過大な期待ではない と看護師自身は認識していた.しかし【期待の抑制】 をしていたにも関わらず〔期待はずれ〕がある事実 は,中堅看護師が行う期待が現実に即しておらず, 過大のままである可能性を示している.このことか ら〔期待はずれ〕を中心に,なぜ転職先の実情に即 さない予測がなされるのかを考えていく.  〔期待はずれ〕が生じる原因として,看護師が転 職前に獲得できる情報の不足が挙げられ,これには 転職後に遭遇 する現実 予想を超えた 現実 予想や期待と 相違する現実 転職前に行う予測 転職後に起こり うることに対する 予期的な懸念 転職への期待や 肯定的なイメージ 転職の 理由 転職先の 吟味 期待の抑制 図1  中堅看護師が転職前に行う予測と転職後に遭遇す る現実との相違の構造

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転職に臨む看護師の情報獲得に対する姿勢と,病院 が事前に提供できる情報の質・量の不十分さが関 わっていると考えられる.  まず,転職する前の看護師は,未経験な科の看護 や他の病院のことを「未知の世界」と呼ぶ「井の中 の蛙」であった.臨床における実務が全くわからな い看護学生が,病院の雰囲気や社会的評判などの曖 昧な情報をもとにイメージや推測をすることは容易 に理解できるが,中堅と呼ばれるまでにキャリアを 積んだ看護師でさえも,それは同様であった.その ため転職に際し,ホームページやパンフレットなど から情報収集しても明らかにならない部分は,病院 の名称や規模,知人の看護師から伝え聞く話などか ら「何となく」推量・想像するしかなく,実情に近 い予測ができないのである.  病院が事前に提供する情報の質・量の不十分さに ついては,〔教育体制への期待〕について〔期待は ずれ〕がなかったことから考察すると,看護師が教 育体制と認識していた「院内教育プログラム」は明 文化された情報であり,その内容も具体的であるこ とからそれが外れる余地は少ないと考えられる.し かし,例えば転職先の病院の看護師が共有する文化 や価値,看護師の職務範囲や実務などは,転職先の 病院に入って実際に仕事をしてみないとわからない ことで,事前に得られる表面的な情報からそれを把 握するのは難しい.看護学生には近年,インターン シップの機会が提供されるケースが多く,その病院 の看護の実際に触れることが可能であるが,既卒の 看護師に対してインターンシップを受け入れている 病院は希少であり,新人よりもさらに病院の実情が 伝えられていない可能性がある.  このように,既卒の看護師は就職前に持っている 情報が少ない上に,【予想を超えた現実】で示した ように前の病院で内面化された基準を転職先に持ち 込むため,事前予測と転職先での現実のギャップが 大きくなると考えられる.看護でリアリティショッ クと言えば,これまでは新卒看護師特有の現象とさ れてきたが,これらの結果から,転職した看護師に は新人看護師とはまた違った特有のリアリティ ショックがあることが示唆される.中でも【転職へ の期待や肯定的なイメージ】に対する現実が〔期待 通り〕であるか否かは,転職の成否ひいては転職の 意義,転職先組織への信頼感に関わる重要な要素で あり,【転職先の吟味】を経て選別された転職先の 現実が〔期待外れ〕であることは,転職の失敗を意 味し,組織への失望をもたらしていた.リアリティ ショックや不適合期待が不適応につながるとの指摘 (Wanous, 1992)を鑑みても,〔期待外れ〕を最小 限にする,つまり【転職への期待や肯定的なイメー ジ】と転職先の現実の不一致を最小限にするための 対策が講じられる必要がある. 2.予測と現実のギャップを最小化するための方策  では,転職前に行う予測と,転職先の現実の不一 致を最小化するためにどのような方策が考えられる だろうか.それには,転職前に行う予測を,転職後 の現実に即したレベルにまで抑えるという方法が考 えられる.これは現実的職務予告(Realistic Job Preview)といって,組織に加入する前の個人に対 し,組織や職務に関するネガティブな情報も含めた 現実的情報を与え,過剰な期待を抑制することで現 実とのギャップを事前に埋めておこうとする方策で あり,リアリティショックや不適合期待の予防策と して有効とされている(リクルートワークス研究 所,2001).【転職後に起こりうることに対する予期 的な懸念】が,転職経験のある知人の話や,転職し てきた看護師と一緒に働いた自分の経験などリアル な情報をもとに想起され,予期的悲嘆につながって いたことは,この現実的職務予告の有効性を示唆す るものである.このことから,病院のガイダンスを 院内見学にとどめず,既卒看護師にもインターン シップの門戸を開いたり,転職を経て在職している 看護師と対面させる機会を設けるなど,事前に組織 の実情に暴露させておくことが有効と考える.また 【転職への期待や肯定的なイメージ】が【転職の理 由】【転職先の吟味】をもとに形成されることを考 慮すると,転職してくる看護師がどのような理由か ら転職を企図し,何を期待してその病院を選ぶのか を把握することが重要である.キャリアのある看護 師でも未経験な科や他の病院のことを予測すること は困難で,組織の実情に沿わない過大な期待をして いる可能性があることが本研究では示された.前 もって期待との折り合いをつけさせておくことは, イメージ先行で就職し早期に退職してしまう看護師 の雇用を未然に防ぐ効果があると考える.

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3.転職してきた看護師をどのようにサポートするか  看護師が「行ってみないとわからない」と述べた ように,現実的職務予告によって入職前に十分な情 報を与えたとしても,その組織の実情を全て正確に 予測することは不可能であり,そもそも事前の予測 が一切及ばない【予想を超えた現実】も転職先には 存在する.したがって予測と現実のギャップは当然 あるものと考え,入職後のサポートを強化すること を 並 行 し て 検 討 し て い く 必 要 が あ る( 勝 原 ら, 2005).具体的には,転職前から看護師が課題とし, 転職後も困難の対象となっていた組織への適応や, その職場から求められる特有の技術を早期に会得で きるような働きかけである.経験を積んだ看護師で も,異なる環境下に置かれることで臨床実践能力が 低下し(Benner, 1984),エキスパートとして機能 できない“new novice”となる(Thomes, 2003). 本研究でも,転職先で自分が身につけてきたスキル が転用できず,これまでの経験を生かすどころか 「ゼロからのスタート」となってしまい,さらに転 職先の人々からも1年目扱いを受け,中堅看護師は 自他共に認める“初心者”になってしまっていた. 他院でどれだけ長い経験があったとしても,転職先 でいきなり即戦力となれるわけではなく,その点に おいては,新人看護師と同様にプリセプターをおく 等して技術の習得を早期に促す必要がある.しか し,“初心者”といっても一時的にそうであるだけ で,新人看護師と同様に扱うべきではない.転職先 で1年目扱いされることを覚悟し,「プライドをか なぐり捨てて」でも謙虚でいなければならないと心 に決めていたにもかかわらず,実際にそのような扱 いを受けると屈辱に感じる中堅看護師の姿は,それ までの経験をなかったものとして扱わずに,自尊心 に配慮した関わりが必要であることを示している. プリセプターは技術を教えるだけでなく,転職して きた看護師のこのような“難しい状況”を理解し, 彼らが仕事や組織への期待を持ち続けられるように 励ましていくことが重要である(Thomes, 2003). 転職した看護師の苦悩は,転職を経験したものでな ければ理解できないと看護師が考えていることとあ わせると,転職経験のある看護師をプリセプターと して育成し,転職してきた看護師に伴走させること でより効果が上がることが期待できる.  本研究では,転職看護師には特有のリアリティ ショックが生じている可能性が示唆された.そのこ とから,新人看護師と一括し新規採用者として扱う のではなく,転職看護師に特化したサポートが求め られる.「今までの経験を箱にしまって鍵をかけ」 ている転職看護師に早期に「経験の箱」の鍵を開け させ,本来保持している能力を発揮させることは, 看護師本人の転職の意義を高めるだけでなく,転職 看護師を迎え入れた病院組織にとっても人的資源の 有効活用という点において重要である.

Ⅵ.研究の限界と今後の課題

 本研究は,ネットワークサンプリングという手法 を用い,協力者の条件を正規雇用されている者と設 定したため,協力者の属性に偏りが生じたことが考 えられる.また,本研究に参加した協力者は,イン タビューの時点で転職先での就労を継続している者 である.従って,既に転職先を退職している看護師 を対象としていない.今後はそれらを視野に入れた 継続比較を行うことで,転職する看護師の予測と現 実の相違の構造がより明らかになると考える.  本研究は,2008年度聖路加看護大学大学院修士論 文および第13回日本看護管理学会年次大会にて発表 した内容の一部を加筆・修正したものである. ■引用文献 Benner, P.(1984)/井部俊子監訳(2005).ベナー看護論 新訳 版 初心者から達人へ:医学書院,東京. 勝原裕美子,ウィリアムソン彰子,尾形真実哉(2005).新人看 護師のリアリティ・ショックの実態と類型化の試み─看護 学生から看護師への移行プロセスにおける二時点調査から ─:日本看護管理学会誌,9(1),30-37 市本裕美(2007).看護師が二つ目の組織に社会化していく過程 の研究─文化的課題を中心にして─:第11回 日本看護管 理学会年次大会講演抄録集,165. 石井由紀(2003).転職者の入職時のストレスと克服・解決方 法:.神奈川県立看護教育大学校看護教育研究集録,28, 260-267. 片岡則子,寺島泰子,岡本幸子,他(2005).転職経験者と継続 勤務者の職務満足度に関する一考察:日本看護学会論文集 看護管理,36,45-47. 日本看護協会(2006a).2005年 看護職員実態調査結果概要(速 報) 日本看護協会(2006b).平成17年度版 潜在看護職員の就業に 関する報告書─ナースセンター登録に基づく分析─:日本

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看護協会 日本看護協会(2007).潜在ならびに定年退職看護職員の就業に 関する意向調査報告書:日本看護協会 西村孝史(2007).離職研究と社会化研究の統合を目指して─ X 事業部の事例から─:組織科学,41(2),69-81 リクルートワークス研究所(2001).日本に RJP という採用理論 が浸透する日:Works,48,26-37 Schein, E. H. (1978)/二村敏子,三善勝代(1991).キャリアダ イナミクス:白桃書房,東京.

Thomes, J. (2003). Changing Career Path: From Expert to Nov-ice: Orthopaedic Nursing, 22(5), 332-334

Wanous, J. P., Poland, T. D., Premac, S. L., et al. (1992). The effect of met expectations on newcomer attitudes and

behaviors: A review and meta-analysis: Journal of Applied Psychology, 77(3), 288-299

責任著者 伊東美奈子 聖路加看護大学

〒104−0044 東京都中央区明石町10−1 E-mail [email protected]

Correspondence: Minako Ito St. Luke’s College of Nursing

10-1, Akashi-cho, Chuo-ku, Tokyo 104-0044, Japan [email protected]

参照

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