図32 大阪府海域における E. zodiacus 赤潮発生年の特徴解析例。赤潮発生年は 11~1 月の降 水量が少なく,2 月栄養塩が少ないという特徴を有すると考えられた。加えて,流入発生年は 2 月上旬の西風が強く,内部発生年は 12 月水温が高く,2 月珪藻密度が小さい。 局所 発生 発生 (流入) 発生 (内部) -0.5 0.0 0.5 1.0 1.5 H17 H23 H19 H22 12月水温平年偏差(10m層:℃) 局所 発生 発生 (流入) 発生 (内部) 4.0 1.0 2.0 3.0 H17 H23 H19 H22 2月上旬西風成分(明石:m/s) 局所 発生 発生 (流入) 発生 (内部) 200 100 150 H17 H23 H19 H22 11-12月合計降水量(大阪:mm) 局所 発生 発生 (流入) 発生 (内部) 250 100 150 200 H17 H23 H19 H22 11-1月合計降水量(大阪:mm) 局所 発生 発生 (流入) 発生 (内部) 2.0 3.0 4.0 5.0 7.0 2月DIN(底層:μM ) 6.0 H17 H23 H19 H22 局所 発生 発生 (流入) 発生 (内部) 0.25 0.30 0.35 0.40 0.45 H17 H23 H19 H22 2月DIP(底層:μM ) 局所 発生 発生 (流入) 発生 (内部) 3.0 0.0 1.0 2.0 H17 H23 H19 H22 2月競合珪藻細胞密度(104cells/mL )
図 33 大阪府海域における E. zodiacus 赤潮の発生判別(マハラノビス距離による 1 変量判 別)結果例。使用データは平成18 年度~27 年度の 11-12 月合計降水量(大阪)および 11-1 月 合計降水量(大阪)。色つきが発生年,白抜きが局所発生年を示す。この判別基準の下では, 流入赤潮と判断した平成17 年度は局所発生と判別された(△で表示) 図34 平成 11~27 年度漁期(11~2 月)の浅海定線調査時における E. zodiacus 細胞密度によ る非計量多次元尺度構成法の結果。数字は定点名。欠測点がある場合、全定点の細胞密度が0 cells/mL の場合は除いて計算している。 0 1 2 3 局所発生中心からのマハラノビス距離 発生 中心か ら のマ ハラ ノ ビ ス距 離 5 10-1 100 101 102 103 4 6 H17 0 1 2 3 10-1 100 101 102 局所発生中心からのマハラノビス距離 発生 中心か ら のマ ハラ ノ ビ ス距 離 5 4 H17 H22 11-12月合計降水量 11-1月合計降水量 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 Stress: 0.14 湾西部 湾東部
図35 粒子初期投入位置 図 36 2006 年 1 月における初期投入位置((a)笠岡沖,(b)高梁川河口,(c)赤穂沖,(d) 姫路沖,(e)加古川河口,(f)堺沖)ごとの 20 日後の粒子水平分布図および(g)観測された E. zodiacus 細胞密度分布図。(a)~(f)のカラーは粒子の分布深度,(g)のバブルの大きさ はE. zodiacus 細胞密度(cells/mL)を表す。 図37 図 36 と同じ。ただし 2006 年 2 月の結果である。
図38 図 36 と同じ。ただし 2009 年 1 月の結果である。
図39 図 36 と同じ。ただし 2009 年 2 月の結果である。
図41 図 36 と同じ。ただし 2012 年 2 月の結果である。
図42 2012 年 2 月に姫路沖に投入した粒子の 20 日後の分布。(a)沈降速度 1.0 m/day (Control),(b)沈降速度ゼロ(Case 1),(c)沈降速度 5.0 m/day(Case 2)。
②ノリ色落ち原因珪藻の生物学的諸特性の解明
ア
.ノリ色落ち原因珪藻類の物理・化学的要因に対する増殖特性,生活史応答の把握
水産研究・教育機構 瀬戸内海区水産研究所 松原 賢,紫加田知幸,坂本節子 佐賀県有明水産振興センター 三根崇幸,吉武愛子,森川太郎,太田洋志 1 全体計画 (1)目的 我が国の養殖ノリ生産海域では,生産盛期である冬季を中心に珪藻類による赤潮が原因で 栄養塩が枯渇し,ノリの色落ち被害が頻発している。瀬戸内海域におけるノリ色落ちの原因 珪藻はSkeletonema 属,Chaetoceros 属, Thalassiosira 属,Coscinodiscus wailesii および Eucampia zodiacus であった。しかし近年,我が国有数のノリ生産海域である有明海では,それらの原 因種に加えて,新たにAsteroplanus karianus による色落ち被害が頻発するようになっている。 A. karianus については,その生物学的な知見が非常に乏しいため赤潮発生機構についても不 明な点が多く,本種赤潮によるノリ色落ち現象の原因究明は,安定なノリ生産をはかる上で 緊急の課題となっている。とりわけ,なぜ本種が一年のうちで水温および日射量が最も低い 時期に赤潮を形成するのかは全くの謎であり,そのメカニズムの解明が生産現場から強く求 められている。そこで本課題では,A. karianus を含めた新規有害珪藻の出現動態と環境要因 との関係の解析,栄養細胞の増殖特性の把握,生活環(休眠期細胞の休眠および発芽・復活 特性等)や浮上・沈降特性の把握,および形態および分子系統解析を行うことにより,A. karianus 等による赤潮の発生機構の解明と予察およびノリ色落ち被害防止対策の基盤整備に 資することを目的とする。 (2)試験等の方法 まず,有明海においてA. karianus の動態およびそれと関係し得る環境条件に関する調査を 行い,得られたプランクトンおよび海洋環境に関するデータおよび過去の情報を基に本種の 出現に関する季節的および経年的な特徴を整理するとともに,赤潮発生に関与する環境パラ メータを特定する。有明海から定期的(月1 回程度)に海底泥を採取し,MPN 法によって 復活能を持つ休眠期細胞の季節変動を定量的に調べる。また,休眠期細胞密度の高い試料か ら泥懸濁液を調整し休眠期細胞の復活及びその後の増殖に及ぼす塩分等の影響を明らかに する。さらに,A. karianus の室内培養株または野生個体群を用いて,沈降速度に及ぼす成長 段階や光環境等の影響を明らかにする。また,A. karianus の細胞サイズ変化(減少速度)を 室内および実環境中で計測し,環境条件や赤潮発生時期との関係などを明らかにする。 2 平成28 年度計画および結果 (1)目的 全体計画と同じ。 (2)試験等の方法 全体計画と同じ。ただし,休眠期細胞の調査は5 月までとした。 1)有明海における出現動態と環境要因との関係の解析2016 年 4 月から 2017 年 2 月にかけて,有明海佐賀県海域における 3 定点(図 1)におい て,4 月から 9 月までは月に 1 回(大潮期),10 月以降は月に 4 回(大潮,小潮期)の頻 度で調査を行った。採水層は表層および底層(海底上1 m)とし,表層はポリバケツで, 底層は採水器で採取した。調査項目はA. karianus,その他の珪藻類,渦鞭毛藻類の Akashiwo sanguinea,水温,塩分,溶存態無機窒素(DIN),リン酸態リン(PO4-P),ケイ酸態ケイ 素(SiO2-Si)とした。また,St. 3 では水中光強度も調査項目に加えた。植物プランクトン の細胞密度は試水100~500 μL 中の細胞数を検鏡した。水温,塩分は多項目水質計(JFE アドバンテック株式会社,RINKO-Profiler)で測定した。各種栄養塩類はオートアナライザ ー(BL TEC 社,QuAAtro 2-HR)で分析した。水中光強度は光量子計(JFE アドバンテッ ク株式会社,DEFI-L)で表層から底層まで 0.5 m ピッチで測定した。また,得られたデー タをもとに,消散係数を解析ソフト(OriginLab 社,Origin 8.6)の非線形曲線フィッティン グにより算出した。 2)有明海の底泥中における A. karianus 休眠期細胞の存在密度の経月変化の把握 有明海における休眠期細胞の動態を把握するため,4 月および 5 月に St. 3 から採取した 海底泥について,MPN 法による復活可能な休眠期細胞数の測定を実施した。MPN 法は採 泥後冷暗所で約一ヶ月保存した後に実施し,培養温度は15℃とした。復活した栄養細胞の 確認は落射蛍光顕微鏡によって行った。 3)A. karianus の野生個体群の沈降速度の短期変動 実験には2016 年 12 月の 16,28 日,2017 年 1 月の 5,11,18,25 日,2 月の 3 日に St. 3 の表層および底層からそれぞれ20 L ずつ採取した海水試料を用いた。各海水試料は採取後 速やかに,現場表層水温に室温を設定した人工気象室内に搬入した。そして,光強度約45 μmol m-2 s-1の条件下で,SETCOL 法(Bienfang 1981)により,表層および底層試料中に含
まれるA. karianus および Skeletonema spp.の野生個体群の沈降速度を調べた(3 本立て)。 培養時間は予備試験の結果より3h とし,測定用に分取したサンプルはグルタールアルデヒ ドで固定し(終濃度1%),後日計数した。 4)底泥中の A. karianus 休眠期細胞の復活率に及ぼす塩分の影響 試験には2016 年 5 月に St. 3 において柱状採泥器で採取した表層 1 cm までの底泥を,10℃ 暗所で6 カ月以上保存した試料を用いた。3,7.5,12,16.5,21,25.5,30 の 7 段階の塩分 区において,試料中の発芽可能なA. karianus 休眠期細胞数を MPN 法により算出した。な お,培地は改変SWM3 培地(松原ほか 2014)を用い,光条件は 60 μmol m-2 s-1,12hL:12hD, 水温は15℃とした。今回は塩分 30 における発芽可能な休眠期細胞数を基準とし,以下の 式で各塩分区における休眠期細胞の発芽率(Rs)を算出した。 Rs = 100・Ms / M30 ここで,MsおよびM30は塩分s および 30 における発芽可能な休眠期細胞数(MPN g-1)を 示す。なお,試験は3 回繰り返し実施した。 5)A. karianus の沈降速度に及ぼす成長段階および光量子束密度の影響 平成27 年度までに窒素およびリンの制限下で A. karianus の沈降速度が上昇することを 明らかにした。本年度は培養株を用いて,A. karianus の沈降速度に及ぼす成長段階および 光量子束密度の影響を調べた。有明海底泥より発芽させて単離し,3~4 ヶ月間,15℃,150 μmol m-2 s-1,12hL:12hD の条件で継代した培養株を実験に供した。まず,およそ 40×104 cells
mL-1まで増殖させたA. karianus 培養液 6 mL を 3 L の改変 SWM-3 が入った 5 L 容三角フラ
スコに植え継ぎ,継代培養と同じ条件で培養した。その後,1~4 日おきに蛍光光度計(Model 10-AU; Turner Designs 製)を用いて in vivo クロロフィル蛍光値を測定するとともに,培養 開始4 日後(対数増殖前期),7 日後(対数増殖後期),13 日後(定常期)に沈降速度を 計測した。次に,およそ16×104 cells mL-1まで増殖させたA. karianus 培養液 40 mL を 700 mL の改変SWM-3 が入った 1 L 容三角フラスコに植え継ぎ,4 段階の異なる光量子束密度(0, 15, 150, 1,200 µmol m-2 s-1)下で3 日間培養後,沈降速度を計測した。すべての実験において, 沈降速度はSETCOL 法(Bienfang 1981)により,沈降速度を算出した。15℃,各条件下で 3h 培養後,in vivo クロロフィル蛍光値を計測した。 6)室内培養における A. karianus の細胞サイズ変化 珪藻類は細胞分裂に伴い,細胞サイズが減少する。また,珪藻類において,細胞サイズ は沈降速度に大きな影響を及ぼすことや現場における個体群動態と同調して変動すること から,生理生態を理解する上で重要な生物パラメーターとして認識されている。そこで, 本年度はA. karianus について,1 分裂あたりの細胞サイズの減少速度を調べた。有明海底 泥より発芽させて確立した培養株を15℃あるいは 25℃,300 μmol m-2 s-1,12hL:12hD の条 件で継代培養した。植え継ぎは原則7~10 日に 1 回行い,対数増殖を維持した。その後, およそ2 週間おきに細胞サイズと増殖速度を計測した。細胞サイズは培養をグルタールア ルデヒド(終濃度1%)で固定して 4℃で保存後,光学顕微鏡下で 30 個体以上(1 連鎖群体 を1 個体)をカメラで撮影し,1 個体からランダムに選択した 1 細胞の頂軸長を測定し, 平均値と標準偏差を算出した。増殖速度は,3~5 日間 in vivo クロロフィル蛍光光度計を 用いて細胞密度をモニターして算出した。 7)現場における A. karianus の細胞サイズ変化 野生個体群のサイズの測定には,平成27 年度の沈降速度測定後に固定した表層試料を用 いた。各観測日の試料に含まれるA. karianus 個体の顕微鏡写真を 1 試料当たり原則 20 個 体撮影し,長さ・面積測定ソフトlenaraf220b(http://www.vector.co.jp/download/file/win95/ art/fh553118. html)で 1 個体あたり無作為に 3 細胞の頂軸長を測定し平均値を求めた。また, 個体の連鎖数も計数し,以下の式で各観測日の細胞サイズ(L)を算出した。 L = (Na・La+Nb・Lb+…+Nt・Lt) / (Na+Nb+…+Nt) ここで,NaおよびLaはある個体‘a’の連鎖数および平均頂軸長(μm)を示す。 (3)結果および考察 1)有明海における出現動態と環境要因との関係の解析 各調査定点におけるA. karianus,その他の珪藻類および A. sanguinea の細胞密度の変動を 図2 に示す。A. karianus は 3 点全てで共通して 5 月まで確認されたのち,12 月上旬までほ とんど観察されなかった。その後,St. 1 では 1 月上旬,St. 2 では 12 月下旬,St. 3 では 12 月中旬に再度出現したが1 月中旬までは横ばいであり,1 月下旬に増殖を開始して 2 月上 旬に全ての定点で表層の細胞密度がピークに達した。なお,St. 1,2,3 において観測され た最高細胞密度はそれぞれ2,174,492,814 cells mL-1であり,海域を着色させる密度には 至らなかった。また,A. karianus が確認され始めた 12 月中旬以降,12 月下旬から 1 月上 旬および1 月下旬から 2 月中旬に Skeletonema spp.を主体とする珪藻類が赤潮を形成した。
加えて,本年度は10 月下旬から 1 月下旬までの間,A. sanguinea による赤潮が広い範囲で 発生した。 水温および塩分の各定点における変動を図3 に示す。水温および塩分の変動は全ての定 点で同様の傾向を示した。水温は表層で7.8 ~ 29.0℃,底層で 7.6 ~ 27.5℃の範囲で,塩分は 表層で8.4 ~ 30.9,底層で 12.2 ~ 30.9 の範囲で変動した。A. karianus のピークが確認された 際の表層水温はSt. 1,2,3 でそれぞれ 9.4,10.3,10.4℃であった。各定点における DIN, PO4-P,SiO2-Si の濃度の変動を図 4 に示す。DIN は St. 1 では 12 月中旬に 0.48 μM,St. 2 お
よび3 では 12 月上旬にそれぞれ 0.32,0.37 μM と低濃度になった。これは A. sanguinea が 赤潮を形成していた時期と一致しており,本種による消費であると考えられた。その後, St. 1 では 12 月下旬から 1 月中旬にいったん回復するも 1 月下旬には再び減少し,表層で 0.76 μM と低濃度になった。一方,St. 2 および 3 ではそのような回復は見られず,概ね低 濃度のまま推移した。PO4-P は,St. 1 および 3 では 12 月中旬にそれぞれ 0.74,0.67 μM と, St. 2 では 12 月上旬に 0.83 μM と低濃度になった。その後,PO4-P も DIN と同様に,St. 1 では12 月下旬から 1 月中旬にいったん回復するも 1 月下旬には再び減少し,表層で 0.38 μM と低濃度になったが,St. 2 および 3 では回復せず,低濃度のまま推移した。SiO2-Si は 3 点 全てにおいて,その他珪藻が高密度になっていた1 月下旬に低濃度になった。St. 3 におけ る消散係数の変動を図5 に示す。消散係数は 0.62 ~ 4.32 m-1の範囲で変動し,1 月下旬以降 は小潮時に低く,大潮時に高くなる周期的な変動がみられた。 本年度はA. karianus の細胞密度がピークに達した時期が例年より 1 カ月程度遅い 2 月上 旬であった。ここでは12 月以降の A. karianus の出現から細胞密度がピークに達するまで の動態と環境要因との関係について考察する。A. karianus は St. 1 では 1 月上旬,St. 2 では 12 月下旬,St. 3 では 12 月中旬に確認されたが,いずれの定点でも 1 月中旬までは A. karianus の細胞密度はほぼ横ばいであった。この期間の水温をみると3 点全てにおいて本種休眠期 細胞の復活に好適な10~15℃(松原ほか 未発表)まで低下していたが,St. 3 の消散係数 は1.0~1.7 と比較的高かった。すなわち,水温は復活に好適であったが光条件が A. karianus の復活およびその後の増殖を抑制した可能性がある。また,Skeletonema spp.および A. sanguinea が高密度であったことも A. karianus が増殖できなかった要因として考えられた。 その後,1 月下旬に A. karianus は増殖を開始して,2 月上旬にピークが確認された。現場 におけるA. karianus の見かけの増殖速度は水温が 10℃を下回った後に高くなる傾向が確認 されている(松原ほか 2016)。本年度は例年よりも水温の低下が遅かったが,1 月下旬に は10℃を下回っていた。また,A. karianus が増殖を開始する直前とピーク直前の消散係数 が0.7~0.9 m-1と低くなっており,有光層が深くなっていたことが示唆された。つまり,増 殖に好適な水温および光環境条件が整ったため,この時期にA. karianus は増殖してピーク に達したと考えられた。なお,本年度A. karianus の細胞密度のピークが確認されたものの, 赤潮レベルには至らなかった。12 月下旬から 2 月中旬までほぼ途切れることなく海域を優 占したSkeletonema spp.や,10 月下旬から 1 月下旬という例年になく長期間発生した A. sanguinea 赤潮の影響により,A. karianus の増加が活発化する時期にはすでに DIN および PO4-P が著しく低下していたことが,A. karianus の高密度化を抑制した可能性が考えられた。
有明海における4 月 8 日および 5 月 16 日の底泥中の復活可能な休眠期細胞はそれぞれ 7,924 MPN g-1および32,906 MPN g-1であった。昨年度以前の結果と総合すると,冬季赤潮 の衰退後に形成された休眠期細胞はほぼ周年を通じて底泥中から復活し,栄養細胞として 水中に放出されるため,その密度は低下し続けるが,春季から秋季には栄養細胞からの供 給が少ないため,底泥中の休眠期細胞密度は減少の一途をたどるものと考えられた(図6)。 3)A. karianus の野生個体群の沈降速度の短期変動 12 月 16 日から 2 月 3 日までの St. 3 の表底層における A. karianus および Skeletonema spp. の野生個体群の沈降速度の変動を図7 に示す。A. karianus における表層および底層の個体 群の沈降速度はそれぞれ0.57~2.00 m day-1および0.39~3.37 m day-1の範囲で変動した。昨 年度同様,A. karianus の発達期と推察される 1 月下旬の沈降速度は表層で 0.72 m day-1,底 層で0.39 m day-1と低かった。ただし,細胞密度が全体的に低く,データのばらつきが大き かった。沈降速度と現場個体群動態の関係を明らかにするためには,今後もデータを蓄積 する必要がある。一方で,Skeletonema spp.における表層および底層の個体群の沈降速度は それぞれ0.15~1.53 m day-1および0.37~1.26 m day-1の範囲で変動し,全体的にA. karianus よりも低い傾向を示した。 4)底泥中の A. karianus 休眠期細胞の復活率に及ぼす塩分の影響 塩分30 を基準とした各塩分区における A. karianus の復活率は塩分 12 以下で低くなる傾 向が確認された(図8)。昨年度の室内試験の結果,A. karianus の復活直後の栄養細胞の 増殖は塩分21 以下で著しく低下することが分かっている。このことから,塩分 16.5 や 21 でもA. karianus は効率的に復活するが,復活直後の栄養細胞の増殖には塩分が低すぎるこ とが考えられた。以上のことを総合すると,A. karianus の復活に好適な塩分は 25.5~30 の 範囲であると結論づけられた。 5)A. karianus の沈降速度に及ぼす成長段階および光量子束密度の影響 室内において異なる増殖段階のA. karianus の沈降速度を計測した結果,沈降速度は対数 増殖前期に高く(59 cm day-1),対数増殖後期(17 cm day-1)および定常期(16 cm day-1) に低いことが明らかとなった(図9)。一方で,異なる光量子束密度下で沈降速度を計測 した結果,増殖が制限された暗条件および高い光量子束密度(1,200 µmol m-2 s-1)下で沈降 速度は低く,ある程度活発に増殖可能な光量子束密度(15, 150 µmol m-2 s-1)下で高くなる ことが判明した(図10)。以上の結果より,栄養塩が十分に存在する条件下において,A. karianus の増殖速度と沈降速度には正の相関がある可能性が示唆された。 6)室内培養における A. karianus の細胞サイズ変化 室内において,およそ3 ヶ月間,細胞サイズおよび増殖速度を追跡した。その結果,細 胞サイズは15℃で 33 µm から 18 µm まで,25℃で 31 µm から 12 µm まで減少し(図 11), 培養日数(D)と細胞サイズ(S)の関係は以下の式で表された。 15℃: S = -0.1593D + 6771.1 (R² = 0.9919) 25℃: S = -0.2246D + 9531.7 (R² = 0.9964) また,増殖速度は 15℃および 25℃において,それぞれ試験期間中の平均で 2.05 div d-1 および2.61 div d-1であった。これらの増殖速度で上記のサイズ減少速度を割り,1 分裂あ たりの細胞減少量を計算すると,15℃および 25℃でそれぞれ 0.078 μm div-1および0.086 μm div-1となり,僅差であった。
以上の結果から,A. karianus は増殖し続ければサイズは一途に減少し,分裂速度に伴っ て減少量も大きくなることが明らかとなった。 7)現場における A. karianus の細胞サイズ変化 平成 28 年 1 月上旬から 2 月中旬における表層の A. karianus の細胞サイズは 44.0~53.9 μm の範囲で変動し,細胞密度ピーク後の 2 月 8 日および 16 日に高い値を示した(図 12)。 この原因は今のところ不明であるが,増大胞子形成などによりサイズ回復が起こった可能 性がある。一般的に細胞サイズが大きくなるほど沈降速度も大きくなることが知られてい るが,今回測定した細胞サイズと沈降速度との間に高い相関は見出されなかった。また, 個体の連鎖数は,細胞密度ピーク前は 13.5~15.4 であったが,ピーク後は 27.0~29.6 と概 ね 2 倍になった。連鎖数と沈降速度の間にも高い相関は認められなかったが,連鎖数は細 胞密度ピーク到達の指標となりうる可能性があり,今後もデータを蓄積していく予定であ る。今回,細胞サイズの測定期間は約 1 月と短かった。今後は測定期間を延長し,A. karianus の現場動態との関係解析を進め,サイズ回復のメカニズムを解明したい。 8)引用文献
Bienfang P. K. SETCOL-a technologically simple and reliable method for measuring phytoplankton sinking rates. Can. J. Fish. Aquat. Sci., 38, 1289-1294, 1981.
松原賢,横尾一成,川村嘉応.有害珪藻 Asteroplanus karianus の有明海佐賀県海域における 出現動態と各種環境要因との関係.日水誌,80,222-232,2014.
松原賢,三根崇幸,伊藤史郎.ノリの色落ち原因珪藻 Asteroplanus karianus のブルームピー ク時期の予察. 日水誌(短報), 82, 777-779, 2016.
図 5.St. 3 における消散係数の変動
図 6.St. 3 における底泥中の A. karianus の休眠期細胞の変動(2013 年 5 月~2016 年 5 月)
図 7.St. 3 における A. karianus および Skeletonema spp.野生個体群の沈降速度の短期変動 (●表層,○底層,エラーバーは標準偏差)