香 川 大 学 経 済 論 叢 第68巻 第1号 1995年6月 63-99
アジア進出日系企業の経営実践
と管理会計の国際移転*
一一一NIES
とASEAN
の 比 較 を 中 心 と し て 一 一 一井
上
信
L は じ め に 一 一 研 究 の 意 図 と 限 定 わが国製造企業のグローパノレ化は, 1980年 代 後 半 以 降 何 度 に も わ た る 為 替 レ ー ト の 円 高 シ フ ト の 影 響 も あ り 急 速 に 進 展 し て き て い る 。 そ れ に 対 応 し て , 日 本 企 業 の 経 営 シ ス テ ム の 国 際 移 転 に つ い て は こ れ ま で に 膨 大 な 研 究 が 蓄 積 さ ま た わ が 国 企 業 の グ ロ ー パ ノ レ 化 の 会 計 学 的 な 側 面 か ら の 研 究 も あ る れており, 程 度 積 み 重 ね ら れ て き て い る 。 これまでに筆者も, ヨーロッパ及び、アメリカに進出した日系企業のグローパ ノレ化と管理会計の国際移転についてはある程度の考察をしてきたが, 国 に 進 出 し た 日 系 企 業 の 管 理 会 計 の 調 査 研 究 に つ い て は 検 討 課 題 と し て 残 さ れ ア ジ ア 諸 たままであった。 と り わ け ア ジ ア 諸 国 と 日 本 と の 関 係 は 地 理 的 , 歴 史 的 に も 緊 *本稿は,平成6年度文部省科学研究費補助金(一般研究C)による研究成果の一部である。 また本稿の基礎になっているシンガポールの日系企業への面接調査は1993年度の糊野村 基金の海外派遣事業によるものである。またシンガポールの日系企業への面接調査のため に,色々とご配慮下さった側日立製作所川田史郎相談役,松下電器産業側長井輝臣氏を 始め,一人一人お名前を挙げれないが,たくさんの日系企業の皆様方が現地で色々とご親切 に応対して下さった。また郵送調査に際しては,本来の業務にとりわけお忙しい中,貴重な 時間を割いて多くの日系企業の皆様からご回答を頂いた。同時にこのような調査を無事終 了出来たのも,香川大学経済学部の安藤博子助手,金津理恵子技官の手助けのお陰である。 以上の皆様に心よりお礼と感謝を申し上げます。もちろんありうべき誤謬は,筆者の責任で あることは言うまでもありません。 (1) 例えば, Bromwich&
Inoue (1994), Inoue (1993-a),井上信一 (1993-b),井上信一 (1994-a),井上信一(1994-b) などがある。-64 香川大学経済論叢 64 密な関係にあり,日本企業の海外進出はアジア(東南アジア)から始まりアジ ア(中国)に回帰してきていると思われる現在,アジア地域に進出した日系企 業の管理会計的な側面からの考察は,実務的にも解決を迫られている重要な課 題であり,また学問的にもたいへん興味をそそられる研究分野である。 そこで,本稿ではアジア諸国に進出している日系企業の経営活動と管理会計 の国際移転の現状と課題を,韓国,台湾,シンガポールそして香港などNIES諸 国と,タイやマレーシアなどASEAN諸国に分類して,比較検討しようとする ものである。 具体的には,第2節で調査の概要と回答企業の経営規模を,第 3節で経営職 能のローカ/レ化を,第
4
節で管理会計職能のローカノレ化を考察する。そのこと により,わが国企業のグローパノレ化による管理会計の国際移転の現状と課題の 一端を垣間みることを意図している。そのことにより,国際的に普遍的なもの と,日本に個別・特殊なものを明らかにし,今後の日本企業の国際展開の方向 に会計的な側面からなんらかの示唆を得ることを目的としている。 2 調査の概要と回答企業の経営規模 この節では,本稿の基礎になっている郵送調査の方法及び回答企業の概要に ついてスケッチしてみたい。 2-1 調査の概要 まず最初に,本論文のもとになっている調査対象企業について述べる。アジ ア (NIES諸国及びASEAN諸国)に進出した日系企業として,東洋経済新報 社編W'91海外進出企業総覧』により,調査対象となる母集団を確定した。母集 団としての対象企業のリストアップの基準は r製造企業(製造あるいは生産 と<事業内容欄>に記載されている)である」こと,及び「従業員数が100人 以上である」ことを基準にリストアップした。その結果, NIES諸国としてはシ ンガポール(102社),韓国(151社),台湾 (219社),香港 (42社)の合計514 社, ASEAN諸国としては,タイ (195社),マレーシア{l48社)の合計343社 がリストアップの対象になった。そのため,アジア諸国全体では,調査対象郵65 アジア進出日系企業の経営実践と管理会計の国際移転 -65-送企業の総数は
8
5
7
社になった。 まず,調査対象になったNIES
諸国へ進出している日系企業の概要は,表-1
のとおりである。 表- 1 日系企業の概要(郵送企業N
I
E
S
-
A
S
I
A
)
国 名 郵送企業数 出資比率 従業員数 (うち日本人数) 韓国 151宇土 502% 152人 2 3人 L 口:it
弓功守 219 63..6 482 4 7 香港 42 53.5 686 3..5 シンガポーJレ 102 89 8 740 6..8N
I
E
S
合計 514 64 2 515 4..3*
l
出資比率(日本の親会社の出資比率)。 また調査対象になったASEAN
諸国へ進出している日系企業の概要は,表-2
のとおりである。 表- 2 日系企業の概要(郵送企業:A
S
E
A
N
-
A
S
I
A
)
国 名 タイ 郵送企業数 出資比率 従業員数 (うち日本人数) マレーシアA
S
E
A
N
合 計 195宇土 148 343*
l
出資比率(日本の親会社)。 49 2% 65.2 57.2 560人 519 540 5 6人 4..3 5..0 次に調査期間について述べてみる。今回のアジア進出企業への郵送調査の期 間は, 1991年の8月に開始し,その後2回の督促を行い, 1992年3月末で締め 切った。 調査対象企業からの回答状況は,NIES
諸国では,シンガポーノレから3
4
社, 韓国から2
6
社,台湾から3
4
社,香港から6
社の,合計1
0
0
社から回答があっ た。(なおその外に r回答辞退J 2社 r該当せずJ 3社 r宛先不明J38社で(
2
1 なおここでは,N
I
E
S
諸国からはシンガポール,韓国,台湾,香港を,またASEAN
諸 固としてはマレーシア及びタイを,時間と経費などの関係のため,調査対象国とした。66 香川大学経済論叢 66 あった。)また, ASEAN諸国からは,タイから 43社,マレーシアから 38社の 合計 81社から回答を寄せられた。(なおその外に,-回答辞退J 3社,-該当せ ずJ 2社及び「宛先不明J24社であった。) その結果,今回の郵送調査の回答率は,次のとおりである。まず今回の調査 対象になったアジア諸国全体では, 2306%(180/(857-72) X100=23 06%), NIES諸国では 21..23%(100/ (514 -43) X 100 = 21.. 23%),そして ASEAN諸 国では 25..80% (81/ (343-29) X 100=2580%),という数字になっている。 調査票に記入して頂いた経営者の国籍は,表
-3
にあるとおり,アジア全体 では約 85..5%が日本人であり,ローカノレの人からの回答は約 14..0%に過ぎな い。また NIESと ASEANの聞では,回答者の国籍に余り差異はみられないが, NIESの場合がローカノレの経営者よりの回答が若干多くなっている。 次に回答者の職位は,表 - 4に示すとおり,アジア全体では社長 (managing 表-3 回答者の国籍 国 籍 NIES ASEAN J口" 計 日本人 82( 83 7%) 71( 877%) 153( 85..47%) ローカルズ 15 ( 15.3 ) 10 ( 12 4 ) 25 ( 13..97 ) その他 1 ( 1. 0 ) O(o
)
l( 0 56 ) 合計 98(100 0 ) 81(1000 ) 179(10000 *)ローカ/レズ (Locals)とは進出先国の国籍を持った経営者の ことを指す。 表-4 回答者の職位 職 位 NIES ASEAN メE6コh 計 社長 25( 26.6%) 35( 44 3%) 60( 34 68%) 経理部長 31 ( 33 0 ) 22( 27 9 ) 53 ( 30..64 ) 取締役以上 27 ( 28..7 ) 16( 20 1 ) 43( 24..86 ) 経営企画部長 3( 3..2 ) 2( 2.5 ) 5( 2 89 ) 管理部長 1 ( 1 1 ) 1( 1.3 ) 2( 1 16 ) 工場長 2( 2.1 ) l( 1 3 ) 3( 173 ) その他 5( 5..3 ) 2( 2 5 ) 7 ( 4..05 ) 合計 94(100 0 ) 79(100 0 173(1000067 アジア進出日系企業の経営実践と管理会計の国際移転 67
d
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からの回答が最も多く約35%,次いで経理部長から約31%,そして「取締役以上(社長以外の取締役)Jからの回答が約25%という比率になってお
り,以上で回答企業全体の約90%を占めている。
NIES諸国とASEAN諸国の聞の相違は,回答者の多い職位の順に, NIES
諸国では経理部長,取締役以上そして社長の順になっているが, ASEAN諸国 では社長,経理部長そして取締役以上の順になっている。何れの場合払社長, 経理部長及び取締役以上の3つの職位が,回答者の大部分を占めていることに 変わりはない。 2-2 回答企業の概要 この項では,アジア諸国に進出している日系企業のうち,今回の郵送調査に 有効な回答のあった企業の操業開始年,進出目的,業種構成,従業員数,製品 構成などを示す指標を分析することにより,回答企業の概要をスケッチする。 1) 回答企業の操業開始年 アジア諸国に進出している日系の製造企業の操業開始年は,表
-5
に示すと おりである。 NIESの場合は1970年代までに進出した企業が71%を占めてい る。そのうちでもとくに, 1970年代に60%近くの企業がNIES諸国に製造会社 を作り,現地生産を開始していることがわかる。それに対して, ASEANの場 合には1970年代の進出は26..3%を占めてはいるが, 1980年代後半,すなわち 1986年以降に進出した企業が47.5%と回答企業の半数近くを占めている。この ことは, 1980年代後半の円高に対応するため日本企業が国内生産を海外生産に 表-5 製造会社の操業開始年操業開始年 NIES ASEAN ASIA 1969年以前 14( 14 0%) 14( 175%) 28( 15..56%) 1970-1979年 57( 57..0 ) 21(26.3 ) 78( 43.33 ) 1980-1985年 11( 11 0 ) 7( 13..2 ) 18 ( 10.00 ) 1986年以降 18 ( 18.0 ) 38( 47 5 ) 56( 31.11 ) 合計 100(1000 ) 81(100 0 ) 180(100 00 *)表中の数字は会社数,括弧の中は構成比を示す。
68- 香川大学経済論議 68 シフトした結果,その受入先国が
ASEAN
諸国になっているケースが多いため である。 これは1970年代までは,わが国企業のアジアへの進出が,韓国,台湾,シン ガポーノレ,香港などのN
I
E
S
諸国で現地生産を積極的に展開してきたが, 1980 年代にはN
I
E
S
諸国の人件費の上昇及び1980年代後半の円高とが相まって, タイ,マレーシアを中心にしたASEAN
諸国への進出がより一層活発になって きたことを示している。 2) 海外進出の目的 日本企業の海外進出の目的としては,表-6のような理由が考えられる。そ の目的としては,製品販売のための市場の確保,現地で得られる安価な労働力 と原材料などによる良質な製品生産のための生産基地の確保などが,日系企業 の海外進出の大きな理由である。そのほかには,研究開発のグローパル化を狙っ た研究開発目的や,貿易摩擦の解消を狙った政治的あるいは経済的な理由など も考えられる。 アジア諸国への日系企業の進出目的は,表-6からわかるとおり,販売市場 の確保(販売目的)と人材(労働力)の確保など生産基地(生産目的)として 表- 6 海外進出の目的進 出 の 目 的 NIES ASEAN ASIA
1) 市場の確保 L 53(1) 1 37 (1) 146(1) 2) 人材(労働力)の確保 1 39(2) 1 33(2) 1..36(2) 3) 政府・地元のサポート 58(4) 85(4) 70(3) 4) 産業基盤の整備 74(3) .53(5) 65(4) 5) 政治的な安定 40(6) 95(3) 64(5) 6) 原材料の調達 50(5) 27(7) 40(7) 7) 貿易摩擦の解消 11 (8) 14(8) 12 (8) 8) 研究開発拠点 06(9) 0(9) 03(9) 9) そのイ也 37 (7) 57(6) 46(6) *) N
=
98 (NIES), N=
79 (ASEAN), N=
177 (ASIA),得点は 1位→3点, 2位→2点, 3位→1点として,回答企業
の合計点を出し,回答企業数で割って, 1社あたりの平均点
69 アジア進出日系企業の経営実践と管理会計の国際移転 -69ー の進出が,飛び抜けて大きな目的になっていることがわかる。それ以外には,産 業基盤の整備,政治的な安定や原材料の調達などが進出の理由になっている。 3) 業 種 構 成 アジア諸国に進出している日系製造企業の業種構成は,表
-7
のとおりであ る。アジア全体では,テレビ,ビデオなどの家電製品を中心にした電気機械器 具が42,,2%と,圧倒的に多くなっている。つぎに多い業種は,自動車及びその 部品の生産を中心にした輸送用機械器具で12,,2%を占めている。以上の2業種 に続いて多いのは,精密機械器具(約6,1%),化学工業(約56%),繊維・衣 表-7 回答企業の業種構成 業種分類 電 気 機 械 器 具 輸送用機械器具 精 密 機 械 器 具 化 学 工 業 繊維・衣服 非 鉄 金 属 一般機械器具 食料品・飲料 ゴム製品製造 窯業・土石 鉄 鋼 業 木材・木製品 プラスチック製造 パルプ・紙 石油・石炭製造 金 属 製 品 その他 N ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) )-i
-%
一 政 一 4 1 1 1 0 1 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 8 一 T A 一 バ 宮 内 i A υ P O F b 氏 υ A せ っ b η 4 1 i 1 ム T よ T よ ? ム oo-N 一 は ( 日 ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( 一 A 性 向 i n υ ︽ z b A υ P D P O d 斗 AqL つ 釘 可 i ハ υ 1 A 1 A τ ム 1 ム O D 一 O , U A 斗 ム 吋 S A A W M -) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) N一
%
冶 一 5 5 2 9 1 9 5 2 5 5 5 5 2 0 0 0 7 TE-Qzvoo--d 坐 1 ム 4 位 。 L 1 ム q L っ “ っ “ ヮ “ 1 ム F D Q U 一 つ ο 1 4 1 A ー ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( -t A 一 ワ u c u ' i A -o d A A つ G 1 ょ っ ω つ れ MnL ワ M 胃 iAυ ハ υ ハ U A 佳 一 t i q t u -一 0 0 ぷ 与 口 計 ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) % n L n , L 1 i β り ハ U ハ V 4 A 0 6 の ん つ ρ 7・
1 ょ 1 ム nhupocO 巧 t つ u ワ u 1 ょ に dnυ ハ υ A 告 ウ 4 ヮ “ つ 白 POτ ム マ ょ に d F b p b n o η J u n r u p n v F 内 υ 戸 、 υ F h J V S A 玄 内 J “ n ノ U M n ノ “ 司 E A 唱 E A 司l 晶 ハ H V ハ H V ハ H v p n v A 斗 ati ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( 一 p b ワ u y i A υ Q d Q U O D F D a a τ a 斗 aqu つ u q , “ 1 ょ T よ 1 ム ヮ “ -ハ υ 円 t つ 白 1 4 1 i 1 i 一 0 0 可 t ( 3 ) なお質問方法が不十分なため,うまく回答を引き出せていないが,面接調査などによる と,第3国への輸出基地としてもアジア諸国での生産がますます重要な役割jを果たすよ うになってきている。その理由は,アジア全体での輸出比率が618%を占め,NIESで65 2%, ASEANで574%となっている輸出比率の高さから判断すると,アジア諸国での日 系企業の生産は輸出基地としての色彩を強くもってきているといえる。70ー 香川大学経済論叢 70 服及び非鉄金属(各々50%)及び一般機械器具(約44%)であり,上述の
2
業種(電気機械器具と輸送用機械器具製造業)の数字と合わせると,回答企業 全体の約3/4を占めている。 地域別の回答企業の業種構成をみてみると,つぎのとおりになる。まずNIES
諸国における特徴は,電気機械器具製造に幾分特化しており, 44“4%を占めて いる。そのほかには,精密機械器具(10“1%),輸送用機械器具 (71%),化学 工i業及び一般機械器具(それぞれ61%)が多くなっている。ASEAN
諸国でも,電気機械器具製造が395%を占めトップにあることに変 わりはないが,それと共に自動車(組立及び部品)製造などの輸送用機械器具 も18.5%を占め,自動車関連企業(組立及び部品メーカー)の進出がASEAN
諸国では多いことを示している。そのほかでは,繊維・衣服製造業が1L1%を 占めているのが目立った特徴である。 4) 従 業 員 数 従業員数は,表-8
にあるとおり,NIES
よりもASEAN
の日系企業の従業 員規模が大きくなっている。それは日系企業における東アジアでの生産が,前 述のように,これまでの進出先国の市場をターゲットにするというよりもむし ろ,生産基地として第3国への輸出を目的にした(アジア進出の日系企業の輸 出比率は61リ8%に達している)進出が多く,それだけ生産規模も大きくなって いる。そのことは,ASEAN
諸国であるタイ,マレーシアへ進出している日系 企業を中心に,従業員規模が拡大傾向にあることから窺える。とりわけ1,000人 表-8 回答企業の従業員数従業員数 NIES ASEAN ASIA 100人 未 満 2( 2 0%) 4( 4 9%) 6( 3 31%) 100人一300人 未 満 38( 38..0 ) 23( 28..4 ) 61(3370 ) 300人 500人 未 満 20 ( 20 0 ) 14 ( 17 3 ) 34( 1878 ) 500人-1000人 未 満 21 ( 21 0 ) 17 ( 21 0 ) 38( 20..99 ) 1000人以上 19 ( 19 0 ) 23 ( 28.4 ) 42( 23 20 ) 合計 100(100 0 81(100 0 ) 181(10000 *)表中の数字は会社数,括弧の中は構成比を示す。
71 アジア進出日系企業の経営実践と管理会計の国際移転 -71 以上の従業員を有する企業は, ASEAN諸国では 28%を越えており,欧米諸国 に進出している日系企業の場合に比べて,経営規模がとりわけ大きくなってい る(1社平均の従業員数は,NIESで657人,ASEANで951人)ことが窺える。 5) 製品構成のマトリックス アジアに進出した日系企業が生産している製品構成マトリックスは,表-9 に示すとおりである。表からもわかるとおり,花形製品(市場占有率が業界3 位以内で,市場成長率が10%以上の製品)が全体で6316%を占めており,そ の比率はとりわけASEANの場合に高く, 66..9%に達している。この理由は, 日本企業は大量生産により最も大量販売を期待出来る製品の製造を,現在アジ ア地域に国際移転していることを示している。また同時に,国際移転された当 時は花形製品であったが,時間が経過するにつれて,その製品市場が成熟し, 金の成る木(市場占有率が業界3位以内で,市場成長率は10%以下の製品)と 呼ばれるマトリックスに,製品のポジショニングが変化してきている製品も十 数パーセントあることを示している。金の成る木という成熟製品の構成が,操 業開始年の早いNIES諸国の日系企業の場合がASEAN諸国の場合よりも 5 %程度高くなっているのも,そのことが影響していると思われる。 表- 9 製 品 のBCGマトリックス MATRIXの項目 NIES ASEAN ASIA 花形製品 60 2% 669% 63 16% 問題児製品 9 0 9..0 8..99 金の成る木 16 4 119 14 41 負け犬 145 12.1 13.39 *) n =66 (NIES), n =53 (ASEAN), n = 119 (ASIA)。 (4) 例えば欧米に進出した日系企業への筆者の調査(1990年現在)によると,ヨーロツパで は最も規模の大きい在英日系企業で1社平均で419人,在米日系企業は538人と, NIES とASEANのいずれにおいても,従業員数は英米に進出した日系企業に比べて多くなっ ており,これら諸国に1980年代後半以降に進出した日系企業は,当該国以外への輸出を も視野にいれた大規模経営が多くなっていることを数字的にも裏付けている。(例えば, Inoue, S. (1993-a),井上信一(1993時 b),井上信一(1994-a)などを参照のこと。)
沼 - 香川大学経済論叢 72 3.. 経営職能のローカノレ化 この節では,生産システム,経営者の国籍,現地で製造している製品のライ ブサイクノレ,原材料,仕掛品,製品及びその合計である棚卸資産有高の変化, 生産リードタイム,生産方式と製品の多様性などの検討により,日系企業にお ける経営職能のローカル化の一端を考察する。
3
-
1
生産システムの海外移転 製品の製造に使われる生産システムの調達を,日系企業はどこからしている のであろうか。その結果は,表-10
にあるとおり,基本的に重要な生産システ ム,例えば半導体のチップの自動挿入機(インサート・マシン)などは,大部 分日本(日本の他企業あるいは日本本社を含めて)から調達しており,生産ラ インのベルトコンベア・システムなど付属設備は現地調達(現地他社より調達 あるいは自社で制作)しているのが通例である。 地域別の特徴は,トレンドとしてはNIES
とASEAN
の間にあまり差異はみ られないが,NIES
で日本本社からの調達比率及び現地(自社及び他社を含め て)のいず、れからの調達割合も高くなっていることである。前者についての理 由はつまびやかではないが,後者(すなわちNIES
における現地調達の比率が 高い)の理由は,それだけ現地企業の技術水準などが,ASEAN
諸国に比べて 高いため,それだけ現地での生産システムの調達がより容易になっていると推 表-1日 生産システムの海外移転調 達 先 NIES ASEAN ASIA 1) 日本本社より 43(434%) 28(36 4%) 71(40 34%) 2) 日本他社より 60(60 6 ) 47(61 0 ) 107(6080 ) 3) 現地自社で 21(212 ) 13(169 ) 34(1932 ) 4) 現地他社より 40 (404 ) 26(338 ) 66(3750 ) 5) その他 6( 6.1 ) 8(10 4 ) 14( 7..95 )
*) N = 99 (NIES), N = 77 (ASEAN), N = 176 (ASIA)。複数回答 可。
73 アジア進出日系企業の経営実践と管理会計の国際移転 -73-測される。 3-2 経営者の国籍 日系企業のローカノレ化を考える場合,人事のローカル化はその要の位置を占 める重要な事柄である。そこでの経営者,そのうちでも最も重要な社長,経理 部長及び人事部長のポストを日本人が占めているか,それとも進出先国の国籍 の経営者が担当しているかを尋ねた結果が,表-11のとおりである。 まずアジア全体では,社長のポストは日本人が81ゎ8%,ローカノレの経営者が 17 1%と,日系企業では,社長ポストは8割以上を日本人が占めている。経理 部長のポストになると, 52.8%を日本人が占め,ローカノレの人は45..5%を占め ており,社長のポストに比べると,経理部長ポストのローカル化はかなり進ん できていることが理解できる。そして,人事部長のポストになると,社長のケー スとは逆に,日本人の占める比率が17..9%で,ローカルの人の占める割合が78.. 。%と,大部分はローカルの経営者に任されていることが理解できる。 このように,経営職能のローカル化は,人事部長のポストが最もローカ/レ化 されており,経理部長がそのつぎに,そして社長のポストのローカノレ化が最も 遅れていることは,アジアへ進出した日系企業の場合も他の地域と同様である が,そのローカル化のレベルには相違が見られる。その理由として,人事部長 は従業員の採用から始まり,訓練,昇進など,最も社会,文化,習慣など現地 の事情を熟知していないと,色々とトラブノレになりかねないポストである。そ のため,日系企業はまず最初に日本的経営を理解してくれるローカノレの人事部 長の採用に全力をあげ,その後は採用した人事部長に現地従業員の人事につい 表-11 経営管理職能の担当者の国籍
籍 NIES ASEAN ASIA
国
日本 当該国 その他 日本 当該国 その他 日本 当該国 その他 社 長 760% 22..0% 2 0% 88.9% 11 1% 0% 8L8% 17.1% 1 1% 経理部長 46..5 50.5 3 0 60.8 39..2
。
52.8 45.5 1 7 人事部長 14..4 78.4 7..2 22.4 77..6。
17.9 78..0 4 1一74ー 香川大学経済論叢 74 ての権限を大幅に委譲しているケースが多くみられる。 それに対して,経理部長は,会計的に日系企業全体を統括するポストであり, 日本本社との会計情報のやり取りなどで枢要な役割を果たすポストである。勿 論社長は,日系企業全体に責任を負う立場にあり,とりわけ日系企業は本社と のコミュニケーションを非常に重視しており,ビジネス・プランや月次の財務 諸表だけでなく,アドホックな情報を本社から随時求められ,それに対応出来 るキーパーソンである。そのような日本的なコミュニケーション環境の中で教 育・訓練を受けた人材を,日系企業の本社サイドからは期待されることが多い ため,日系企業では日本人社長が多い,あるいは少なくとも松長と経理部長の いずれかは日本人である場合が多い理由の大きな要因である。 地域別に人事のローカル化を検討してみると,社長,経理部長,人事部長の いずれのポストでも,
NIES
の場合がASEAN
よりも人事のローカル化が進ん でおり,とりわけ社長及び経理部長についてそのことがいえる。その理由とし ては,企業の進出時期が早ければ早い程,ローカノレ化もそれだけ進展している のでないかと推測できる。表-5
に示したとおり,NIES
への工場の進出年は,1
9
7
0
年代にすでに71%
を占めており,ASEAN
へは1
9
7
0
年代までに43%
の企 業が進出していると共に,1
9
8
6
年以降に進出した企業も4
7
.
.
5
%
を占めている。 このような事実は,進出年が早ければ早いほど,また現地の経済基盤の整備が なされるにつれて,現地日系企業の意思決定権限がローカルの人に委譲される 傾向にあるといえる。 (5 ) なお日本の親会社からの出資比率が,日系企業のトップの人事のローカル化に関係が 深いのでないかと思われるが,現実はどうであろうか。親会社の出資比率は, NIESの場 合は82.:3%を占め, ASEANの場合には661%である。そして,表ー10からもわかると おり,またすでにこれまでに検討したとおり, NIESのケースがASEANの場合よりも ローカル化が色々な側面で進展しており,その結果ローカルの人が社長,経理部長及び人 事部長の役職を占めている企業が多くなっているのは明かな事実であった。これは,少な くとも日系企業のアジア諸国への進出と経営者ポストのローカJレ化には,単なる出資比 率よりもむしろ日本の親企業の技術,経営管理や会計情報システムの国際移転のために, 日本人から現地の経営者へのソフトウエアやノウハウの国際移転に時間が必要であり, それに時間が掛かるためである。また同時にNIES諸国とASEAN諸国の聞では,外資 系企業に対する法的規制などが異なるのも一因であると思われる。75 アジア進出日系企業の経営実践と管理会計の国際移転 75-3-3 製品のライアサイクル アジアでの日系企業が製造している製品のライフサイクルは,表
-12
にみら れるとおりである。アジア地域全体では,製品のライフサイクルは徐々に短く なり 3年未満の製品が1990年には41“9%に達している。 地域別にみると, NIES諸国の場合は, 1985年と 1990年の間では,製品のラ イフサイクノレは少しだけ短くなっているようであるが,目立つた変化はみられ ない。しかし, ASEANの場合は,この5年間に急速に3年未満の製品が多く なっており,それだけ円高に伴い日本企業が国内工場で生産していた製品を, マレーシア,タイなど ASEAN諸国へ国際移転しているケースが多くなってい る結果である。と同時に, CTV,VTRなどの家電製品を中心に製品ライフサイ クルの短い製品を多く作っている企業の海外移転がASEAN諸国に集中し,そ の受け皿としてASEAN諸国へそれら製品の国際移転が行われた結果が,この 数字にも表れている。 表-12 製品のライフサイクルNIES ASEAN ASIA 製品ライアサイクル 1985 1990 1985 1990 1985 1990 3年未満 36 8% 37 4% 349% 47.3% 360% 419% 3年一6年未満 25..0 23.4 19.4 2L2 22 9 22.4 6年以上 38 7 37..9 45 8 31 5 41 3 35..0 *) NIES: n =73(1985),ロ=87(1990),ASEAN : n =44(1985), n = 71(1990)
,
ASIA: n =117(1985),
n =158(1990)。 なお,表中の数字は,年間売上高の1社あたり平均値(構成比)を示 している。 3-4 生産リードタイムの変化 ここでは,アジアに進出した日系企業において生産リードタイムが, 1985年 と1990年の5年間に,貨幣タームと物量タームで,どのように変化してきたか を検討してみる。そのことにより,日本国内における無駄の少ない「リーン生 産方式あるいはJ
I
T
生産方式」と呼ばれる日本的生産システムが,どの程度ア ジアの日系企業で達成されているかを,棚卸資産あるいは在庫の変化により検-76- 香 川 大 学 経 済 論 議 76 討してみる。 1) 棚卸資産の有高 まず最初に貨幣ターム,すなわち年間売上高に対する棚卸資産(原材料,仕 掛品,製品及びその合計の棚卸資産)の比率でもって,生産リードタイムの変 化を表-13によりみてみる。 アジア全体では,棚卸資産の有高は1985年の32.8%から 1990年の3L2%と 若干減少傾向にあるといえる。その内訳は,製品在庫で2..0%,原材料在庫でO 8%減少しており,逆に仕掛品在庫はL2%増加している。 地域別に検討してみると,
NIES
よりもASEAN
の場合が,いずれの種類の 在庫も, 1985年と 1990年のいずれの時点をとってみても,多いことは紛れもな い事実である。また原材料在庫と製品在庫については,NIES
でもまたASEAN
でも減少傾向にあることも表-13より明らかである。ただ仕掛品在庫について は,NIES
ではその比率はこの5
年間ほぼ横ばいにあるのに対して,ASEAN
で はむしろ 2 2%も増加しているのが目立った特徴である。これは,NIES
の場合 には日本的な方式が徹底しており,その数値も現地でJ
I
T
を実施して在庫を削 減できる限界にほぽ達しているのに対して,ASEAN
では現在新しく工場ある いはラインが新設あるいは増設されており,工場あるいはラインも延長され, 内製化がより進展しているためであろう。その結果,仕掛品在庫は寧ろ増加傾 表 一13 棚卸資産の有高NIES ASEAN ASIA
棚 卸 資 産 1985 1990 1985 1990 1985 1990 原 材 料 在 庫 13 6% 12..0% 20 1% 190% 16 0% 15..2% 仕 掛 品 在 庫 68 6.9 8..2 10.4 73 8 5 製品在庫 7 7 6..8 12..5 84 9 5 7..5 棚 卸 資 産 計 28.1 25.7 40.9 37 8 32.8 31 2 *) NIES: n = 71(1985), n = 90(1990), ASEAN : n = 43(1985), n = 75(1990)
,
ASIA: n =114(1985),
n =166(1990)。
なお表中の数字は,年間売上高に対する構成比を示す。77 アジア進出臼系企業の経営実践と管理会計の国際移転 77-向にあるのでないかと推測できる。
2
)
生産のリードタイム 次に生産のリードタイムを,物量単位である原材料,仕掛品,製品の在庫日 数でもって検討してみる。表-14にあるとおり,アジア全体では,原材料,仕 掛品,製品のいずれのリードタイムもこの5
年間に減少していることは明かで ある。 地域別には,前述の貨幣タームによる場合には,原材料,製品の在庫は減少 傾向にあり,逆に仕掛品の在庫は増加傾向にあったが,物量;タームによるリー ドタイムでは,いずれの場合(仕掛品在庫も含めて)にも, 1985年から 1990年 表ー14 生産のリードタイム (単位:日) NIES ASEAN ASIA リードタイム 1985 1990 1985 1990 1985 1990 原材料 41 4 29..2 50 1 42 6 44..8 35..4 仕掛品 17 1 13..6 15 8 15.0 16..6 14..2 語侍宮H口口口 17..7 13..8 20 8 16.1 18 9 14..9 本)NIES: n =71(1985), n =90(1990), ASEAN: n =43(1985), n = 75(1990),
ASIA: n =114(1985),
n =163(1990)。
表中の数字は,平均在庫日数を示す。なお平均在庫日数の計算は,以 下の算式により求めた。原材料(仕掛品)の在庫期間=原材料(仕掛品) の在庫/1
日当たり生産台数,または生産量/1
日当たり消費量,製品 の在庫期間=製品在庫量/1
日当たり出荷(生産)台数。 (6 ) なお海外子会社の原材料在庫の大きさを考える場合,日本本社あるいは第3固からの 原材料の調達比率,及び購入する際の購入基準 (CIF基準かFOB基準か)によっても在 庫の在高が異なってくる(具体的な数字は,下記の表を参照のこと。)日本の親会社から の部品の調達は, NIES諸国が32.3%,ASEANの場合が410%となっている。また同 時に, ASEAN諸国で, FOB基準を採用している企業が多いのと相まって, ASEANの 日系企業の原材料在庫の多さにある程度影響を与えていることを考慮する必要がある。輸送中の在庫 NIES ASEAN ASIA CIF基準 19( 27 5%) 14( 22.6%) 33( 252%) FOB基準 32( 46.4 ) 34 (54..8 ) 66( 50.4 ) その他 18 ( 26..1 ) 14( 22..6 ) 32 (24..4 ) 合計 69(100 0 ) 62(1000 ) 131(100 0 )
-78 香川大学経済論叢 78 の
5
年間に減少傾向にあることが明かである。また,NIES
とASEAN
の聞の 原材料,仕掛品,製品の在庫日数を比べてみると,原材料と製品の場合には,ASEAN
の方がNIES
の場合よりも多いのは明かであった。(なお仕掛品につ いては, 1990年の場合は逆転しており,必ずしもそうとはいえない。)その理由 としては,現在ASEAN
への工場の新設がめざましく,次々と工場が建設され ている。そのため工場を新設し,良質の製品を製造するというのが現在の日系 企業の大部分の場合の最大の眼目であり,生産リードタイムの短縮に努力して いるが,いまだ前述の理由と同様にロジスティックの問題には充分取り組めて いないきらいがある。そのためASEAN
の生産リードタイム(特に原材料と製 品の在庫)が長いためであろうか。3
-
5
生産方式と製品の多様性 この項では,アジアに進出した日系企業の製品の市場,生産工程,生産管理 など生産方式の特性,及び生産されている製品種類の多様性を検討する。 1) 製品の市場的特性 製品の市場的な特性は,大きくは市場(見込)生産と注文生産に分けられる。 ここでは,注文生産を日本の親企業あるいは同資本系列の販売会社からの注文 生産とそれ以外の注文生産に分けてその実態を考察したのが,表-15である。 それによると,アジア全体では,親会社あるいは同系列の販売会社よりの注 文に基づく生産が6
0
ド9%
と,主要な生産方式であることが解る。それに加えて, 表-15 製品の市場的特性(生産方式)市場的特性 NIES ASEAN ASIA
1) 親会社, 同系注列文の販産売 57(594%) 49(628%) 106(609%) 会社よりの 生 2) 1)以外の注文生産 38(396 ) 20 (25 6 58 (33 ..3 3) 市場見込生産 9( 9 4 ) 12(15 4 21(12 1 4) その他 O(
o
)
2 ( 2..6 2( 1 2 N 96 78 174 *)なお,複数回答があるため,縦の合計が100%を越えている場合があ る。79 アジア進出日系企業の経営実践と管理会計の国際移転 -79ー 上記以外(一般的には日系企業あるいはそれ以外の企業)からの注文生産が
3
3
.
.
3%
を占めており,いわゆる市場見込生産は1
2
.
.
1
%
に過ぎない。そのことは,園 内市場以上に色々な面でリスクの大きい海外で生産をする場合,企業は出来る だけ注文生産によりリスクを回避しようという行動をとるのは当然である。そ れと同時に,日本の生産/流通システムの特徴であった,販売会社制度をとっ ていると共に,日本企業の海外進出の歴史と現状を反映している。すなわち, 海外の日系製造企業は,製品の製造(生産目的)に専念しており,販売・アフ ターサービスなどは既にある問グループの日系企業(販売会社あるいはサ)ビ ス会社)に依存しているのが実状である。これはハイリスクな海外の経営環境 に適応するため,多くの日系企業か海外進出の際にとっている特徴である。 地域別には,ローカル化の進んでいるNIES
の場合の方が,同系列の販売会 社からの注文生産の割合が若干低く,逆に本来の注文生産の比率が十数パーセ ント高くなっている。これは,NIES
の日系企業の場合が,それだけ独立して生 産・販売に対応しているためであろうと推測される。ただASEAN
の場合の市 場見込生産が数パーセント多い理由が製品の特性によるのかどうか,その理由 は郵送調査だけではいまだ定かではない。今後の面接調査などによるより詳細 な検討に待ちたい。2
)
製品種類の多様性 ここでは,アジアに進出した日系企業が生産している製品(製品種類,機種, 仕様)がどのように変化してきているかを検討することにより,製品の多様性 の側面から日系企業のローカル化を覗いてみる。なお,ここで製品種類とは,'VTR
,テレビ,冷蔵庫,オーブン等をそれぞれ1
種類と数えた場合の製品の 多様性」をいう。機種数とは,代表的な製品種類,例えばテレビでいえば,1
4
インチ,1
9
インチ,2
1
インチ,2
5
インチなどというある製品の基本分類により その多様性を捉えた場合のバラエテイ」をいう。オプションあるいは仕様とは 「製品の仕様レベルあるいは会社の製品カタログに掲載されているレベルでの (7) 製品種類での多様性」をいう。 (7) なお調査票は,全製品種類,代表的製品の機種数及びオプションの定義は,次のように-80ー 香川大学経済論叢 80 こ の よ う な 定 義 に 基 づ い て , 日 系 企 業 の 製 品 の 多 様 性 を ア ン ケ ー ト し た 結 果 が,表 16のとおりである。アジア全体では,製品の多様性は,全製品種類レ ベ ル , 代 表 的 製 品 の 機 種 数 , 及 び オ プ シ ョ ン ( 仕 様 ) の い ず れ の レ ベ ル を と っ ても,この
5
年間に徐々に増加傾向にあることが理解できる。 地域別の特徴については,NIES
では,新しい種類の製品の生産,あるいはオ プション(仕様)レベルでの多様性がこの5
年聞に進展しており,逆にASEAN
で は , 代 表 的 な 製 品(b)レベノレ)での多様性が進展しており,新製品(a)レベ ノレ)やオプション(c
)レベル)での多様性は,余り変化がみられないといえる。 これは,NIES
ではローカル化がかなりの程度に進展しているため,新製品を新 しくローカル化するとか,また新市場へ向けて新しいオプションの製品を作る という段階にあるためでーないかと推測される。逆にASEAN
では,機種レベル 表-16 製品の種類の多様性 製品種類 a)全製品種類 b)代表的機種数 c)オプション(仕様) NIES 1985 1990 10 0 13 6 20 3 25.6 83 3 101 8 ASEAN 1985 1990 11 3 12 9 174 24.1 77 5 81 3 (アイテム数) ASIA 1985 1990 10 5 l3 3 19.2 24 9 81. 6 93 5 *)製品種類:NIES: n = 76(1985), n = 89(1990), ASEAN : n = 50 (1985), n = 78(1990),合計:n =126(1985), n =167(1990)。 機 種 数 :NIES: n =66(1985), n =74(1990), ASEAN: n = 40(1985), n =63(1990),合計:n = 106 (1985), n = 137 (1990)。 オプション:NIES : n = 58 (1985), n = 64 (1990), ASEAN : n = 24(1985), n =43(1990),合計:n = 882 (1985), n = 107 (1990)。 なお表中の数字は,全製品種類,代表的製品の機種数及びオプ ション(仕様)のいず、れの場合も,単位はアイテム数(種類,機種 数,仕様数)を示している。 なっている。 a)製品積類とは r製品の最も基本的な分類であり, VTR,テレビ,冷蔵 庫,オーブン等のレベルの相違に基づく分類」をいう。また, b)機種数とは「代表的製 品の基本特性(機穏)による分類であり,例えばテレビでは, 14インチ, 19インチ, 21 インチ,などによる機種数」をさす。 c)オプションとは r代表的な製品の仕様(オ プション)を考慮した品番別の種類をいう。例えばテレビの場合には,ステレオ,衛星放 送,カラー,材質などの付加機能の有無をも考慮にいれて区分した製品種類」をいう。81 アジア進出日系企業の経営実践と管理会計の国際移転 -81-での多様性が
NIES
よりも進行しているのは,円高などの影響もあれある製 品(例えばCTV)の日本国内から海外工場への国際移転が急速に進展してお り,シンプJレな機種から複雑・高級な機種に至るまで急速に国際移転が図られ ていることが大きな原因でないかと推測される。ただこれも,今後の面接調査 などにより,具体的にその詳細を尋ねてみる必要がある。3
)
工程管理上の特性 日本企業における製品生産における工程管理上の特徴は,多品種・少量・小 ロット生産であると言われてきた。それでは,アジアの日系企業においては, 工程管理上の特性はどのようになっているのであろうか。これには回答者の主 観的な判断が一部入るが,その傾向性を検討してみる。その結果は,表-17の とおりである。 アジア全体では,ロットサイズは,中ロット生産が4
3
.
.
2
%
を占め,それに小 ロット生産も 25.6%を占めているので,両者を合わせると合計で68..7%と, 7 割近い企業が比較的小さいロット(小ロット及び中ロット)で製品の工程管理 を行っていることになる。なお同時に,単種大量生産も 18ド75%と, 20%近い数 字になり,普及品の大量生産基地になりつつあることも示している。 地域別には,NIES
の方が製品のバラエティが多様なため,それだけ工程管理 もより複雑で,いろいろなラインで多様な製品を比較的ロットサイズも多様に 生産している。それに対して,ASEAN
の場合は,工程管理は比較的シンプJレ 表-17 工程管理上の特性(生産方式) 工程管理 NIES ASEAN ASIA 個別生産 12(12 6%) 6( 74%) 18(10 23%) 小ロット生産 26(27ι) 19 (23 5 ) 45(2557 ) 中ロット生産 46(48 4 ) 30 (37 0 ) 76(4318 ) 大ロット生産 15 (15 8 ) 6( 7 4 ) 21(11 93 ) 単種大量ー生産 18(19 0 ) 15(185 ) 33(1875 ) そのft包 3( 3..2 ) 8( 9 9 ) 11( 6.25 ) N 95 81 176 *)複数回答あり。82ー 香 川 大 学 経 済 論 叢 82 であろうと思われる。 生産管理の方式 生産管理の方式は,伝統的な製造指図書による製番方式,.J
IT
生産方式を示す カンパン方式, そしてコンビュータをベースにしたMRP方式などに区分され る。 在アジア日系企業における生産方式は,表-18にあるとおり,全体としては 製番方式が中心で, 53.8%を占め,次にMRP方式が3353%,カンパン方式は 10%弱に過ぎない。NIES
とASEAN
との地域聞の相違は,NIES
では製番方式が58..9%と,60%近い数字を占めており,逆にカンパン方式は73%に過ぎないことである。 他方
ASEAN
では,逆に製番方式は48リ1%と, 50%を切っており,カンパン方 式は 135%と, 10社の企業が導入しているのが特徴である。 生産管理 製番方式 カンパン方式 MRP方式 その他 N 表-18 生産管理の方式 NIES 56(583%) 7( 7.3 ) 34(35 4 ) 5( 5..2 ) 96 ASEAN 37(48 1%) 10(13 0 ) 24(3L2 ) 8 (10 4 ) 77 *)複数回答あり。 4. 管理会計職能のローカノレ化 ASIA 93(53 76%) 17(983 ) 58(3353 ) 13 ( 7 51 ) 173 この節では, アジアに進出した日系企業の管理会計職能のローカノレ化の問題 を,国際振替価格,海外子会社の業績評価,意思決定権限の日本の親会社と海 外子会社間での集中・分散関係,予算編成と統制における日本の親会社と海外 子会社の役割,設備投資の経済性計算の方法,及び会計情報システムの整備と 国際移転のレベノレの考察により検討する。 4-1 国際振替価格83 アジア進出日系企業の経営実践と管理会計の国際移転 -83-わが国企業のグローパル化により生じている管理会計の中心的な課題の一つ が国際振替価格の問題であることは周知の事実である。ここでは,この国際振 替価格の問題を,日本の親企業と海外の子会社で,製品,原材料/部品などを 販売(海外子会社は,それぞれの国の会社法に基づき設立された日本の親企業 とは別法人である。そのため,日本本社から海外子会社への原材料あるいは部 品の振替は,法律的には販売という形態になる)する際の販売価格(これを国 際振替価格という。)が,どのように決定されているかは多国籍企業にとっては 勿論,各国政府にとっても徴税という面から,たいへん重要な問題である。そ こでここでは,1)日本の親企業からアジアの日系企業に原材料,部品,製品を 販売する際の販売価格の決定方法をまず検討する。次に, 2)海外の製造子会社 が作った製品を他の海外子会社(あるいは日本の親会社)に販売する場合,ど のような国際振替価格を採用しているのかを検討する。
1
)
国際振替価格の方法(
1
)
まず最初に,日本の親会社から在アジア日系企業へ原材料,部品を販売して いる場合の国際振替価格の方法を,表-19により検討してみる。 全体的には r原価+利益基準」が50%であり r市価基準」と「原価基準」 が残りの1
/
4
をそれぞれ占めているというのが,アジアの日系企業全体の傾向 である。次に
NIES
とASEAN
の聞の地域別の特徴は,NIES
においては,市価基準 が28.3%を占め,市価基準がASEAN
の189%に比べて約10%近く高くなっていることである。その理由としては,
NIES
に進出している日系企業が,表ー19 国際振替価格の方法(1)
振替価格(親→アジア) NIES ASEAN ASIA 市価基準 26(28 3%) 14(18 9%) 40(2410%) 原価基準 21 (22 8 ) 20 (27 0 ) 41(24 70 ) 原価+利益基準 44(478 ) 40 (54 1 ) 84(5060 ) その他 2( 2..2 ) 1 ( 1 4 ) 3 ( 1. 81 )
-84 香川大学経済論叢 84
ASEAN
の場合に比べてローカノレ化のレベルが高く,その結果日本の親企業か らの独立性も高くなり,両者それぞれが商品(原材料,部品,製品を含む)売 買の独立の当事者として国際振替価格の決定がなされているためと推測され る。 逆にASEAN
の場合には,日本の親企業からの原材料及び部品の調達比率が 41%と,NIES
の場合に比べて9 %近く高く,いまだ日本の親企業への依存度も それだけ高くなっている。そのことは,原価基準及び原価+利益基準の割合が,NIES
の場合に比べて,それぞれ4 %及び6 %高くなっていることにも表れて おり,いまだ日本の親企業と連携して生産あるいは親企業に依存しているレベ ルが高いようである。 2) 国際振替価格の方法(2) 次に在アジア日系企業が,日本の親会柾,あるいは同系列の国内あるいは海 外の販売会社へ製品の販売をする際の国際振替価格を,表一20により考えてみ る。 アジア全体の傾向としては,市価基準が3L37%を占め,それの変形である市 価から販売会社の経費を差し引いた市価マイナス経費基準が21..57%を占めて おり,両者を合わせると 52..94%と,何らかの意味で過半数が市価による取引を している。このように,市価基準が多くなっているのが,製品販売の場合の目 立った特徴である。同時に,原価+利益基準も 39.22%と, 40%近くの比率を占 めており,原材料(部品)販売のケースほどではないが,日本企業では重要な 表-20 国際振替価格の方法(2)振替価格(アジア→販社) NIES ASEAN ASIA 市価基準 19(34..6%) 13(27 7%) 32(31..37%) 市 価 経 費 基 準 15(273 ) 7(14 9 ) 22(21 57 ) 原価基準 4( 7.3 ) 2( 4 3 ) 6( 5..88 ) 原価+利益基準 18 (32 7 ) 22 (46 8 ) 40(3922 ) そのf也 2( 3 6 ) 4( 8..5 ) 6( 5..88 ) N 55 47 102
85 アジア進出日系企業の経営実践と管理会計の国際移転 -85-国際振替価格の方法である。また逆に,製品販売の場合には,原価基準はほと
んどのケースで用いられていない (588%)のも,目立った特徴である。
NIES
とASEAN
との聞の地域別の相違は,NIES
の場合には,市価基準と市価マイナス経費基準が両者を合わせると 61引9%も占めており, 6割以上の企 業がマーケット・プライスに基づいた指標を用いている。他方
ASEAN
諸国で は,原価十利益基準が467%と,半数近くの企業において用いられており,逆 に市価基準と市価マイナス経費基準は合わせて 426%と,NIES
の場合に比べ ると 19%余り低くなっている。これも,ASEAN
の場合が,NIES
の場合と比 べると,それだ、け親企業への依存性の高い企業が多くなっていることを立証し ているようである。 4-2 海外子会社の業績評価 海外子会社の業績評価を行なっているかどうか,また行っている際には,ど のような業績評価の方法を用いているかは,日本の親会社の海外子会社l管理に 対する考え方に大きく依存している。ここでは,日本の親企業がアジアに進出 した「海外子会社それ自体」及び「子会社の経営者」の業績評価をどのように 行っているか,海外子会社サイドから明らかにする。 1) 海外子会社の業績評価の有無 まず日本企業が,海外子会社そのもの及びそこの経営者の業績評価を行って いるかは,表-21のとおりである。 アジアに進出している日系企業全体では,子会社の業績評価は81.25%と, 8 割以上の企業が業績評価を行っており,経営者の業績評価になると, 6847%と 表ー21 海外子会社の業績評価制度 業綴評価 NIES 子会社 経営者 ASIA 子会社 経営者 ASEAN 子会社 経営者 有り 77(78.696) 61(62.996) 66(84696) 59(75.696) 143(81川2596) 120 (68 4796) 無し 6( 6.1 ) 11(113 ) 4( 5..1 ) 7( 9..0 ) 10( 5..68 ) 18(1029 ) 知らない 15(153 ) 25(25.8 ) 8(10 3 ) 12(15.4 ) 23(13.07 ) 37(21.14 ) N 98 97 78 78 176 175 *)i知らない」は,調査票の中では i知らされていない」となっていた。86 香川大学経済論叢 86 7割近くの企業で業績評価が行なわれている。ただ子会社そのものの業績評価 と子会社の経営者の業績評価の実施水準を比べてみると,経営者の業績評価を 行 っ て い る 企 業 が
13%
近く少なくなっており,その相違は,海外子会社の経営 者は自分の業績評価が行われているかどうかについては「何ら知らされていな い」ケースが80%
と,業績評価が行なわれていないケースが5%
である。NIES
とASEAN
の場合を比べてみると,ASEAN
の士易合が子会社及び経営 者の業績評価の何れの場合にも,業績評価を行っている比率が6
%~13% 高く なっており,逆にNIES
では「知らされていない」という比率が5
%~10% 高 くなっている。これは日本企業の場合,親会社が子会社の業績評価の基準を明 らかにし,欧米企業の場合のようにマニュアル化したり,また経営者を海外に 派遣する際に,日本の親会社と派遣される海外子会社の経営者の間で文書など による契約として取り決めているケースが少ないことも影響している。また同 時に,NIES
の場合がASEAN
の場合に比べて業績評価について「知らされて いない」ケースが多いのは,NIES
の場合がそれだけ独立性が高く,あるいは日 本 企 業 の 出 資 比 率 がNIES
の 場 合 が 高 く な っ て い る こ と も 影 響 し て い る の で ないかとも思われるが,定かで件ない。今後の面接調査などによるフォローアッ プ調査を待ちたい。 2) 海外子会社の業績評価指標 次に,海外子会社の業績評価を実施している場合,業績評価の指標としてど のような基準が重視されているか,その結果は表一22に示すとおりである。 (8 ) これは間接調査などで海外子会社の業績評価について聞いてみると,日本本社から海 外子会社に社長あるいは経理部長等として派遣される場合に,何等具体的な指標は与え られていないため,解らないという返答が多く見られたことにも反映されている。ただそ の場合でも,日本の親企業における場合と同様に,ローカルの子会社の経営者(特に日本 人の場合)の人事考課は,日本の親会社と同じ方法で現地の社長により評価され,日本本 社に送られているケースが多い。ただ現地の社長の人事考諜については現地ではそれを 行う人がいなし従ってそれを現地の社長に聞いても業績評価されているかどうか分か らないという返答が多くみられた。現地子会社の経営者(特に日本から派遣された人事) の業績評価は,長期的には関係してくると思われるが,少なくとも短期的にはどうなって いるか本人にはわからないという回答が多くみられた。これは,日本企業のいわゆる「長 期的な昇進(評価)jなどにも関係していると思われる。87 アジア進出日系企業の経営実践と管理会計の悶際移転 -87ー まずアジア全体では,利益額(絶対額)に関する指標が第
1
位になっており, まず企業の予算・実績比較による利益額(予算・実績比較)を業績評価の指標 にしている企業が58..52%と,6
割近い企業で最も重要な指標として用いられ ている。それと同時に,年度の利益額も 4074%の企業で利用されている重要な 指標である。 表-22 海外子会社の業績評価指標業績評価指標 NIES ASEAN ASIA
1)利益額(予算・実績比数) 41(55 4%) 38(62 3%) 79(5852%) 2)利益額(年度の) 26(351 ) 29(47 5 ) 55(40 74 ) 3)売上高(予算・実績比較) 23(31 1 ) 23(377 ) 46(34 07 ) 4)製品品質 14(18 9 ) 20(328 ) 34(2519 ) 5)投資利益率 (ROI) 19(257 ) 9(148 ) 28(2074 ) 6)市場占有率 9 (12 1 ) 15 (24 6 ) 24(17 78 ) 7)生産性(予算・実績比較) 11(14 9 ) 10(164 ) 21(15 56 ) 8) ROI (予算・実績比較) 6( 8 1 ) 7(11 5 ) 13( 9.63 ) 9)地域社会への貢献 3( 4.1 ) 8(13“1 ) 11( 8..15 ) 10)従業員の定着率 2( 2..7 ) 3 ( 4 9 ) 5( 3 70 ) 11)その他 4( 5..4 ) 5( 8 2 ) 9( 6.67 ) *) N = 74 (NIES), N = 6ICASEAN), N = 135 (ASIA)。複数回答あり。 利益額のつぎに重視されている業績評価の指標は,予算・実績比較による売 上高であり, 34 07%の企業で利用され,アジア全体では第3位である。 第4位は,製品品質であり, 25..19%の企業がそれを業績評価の指標に挙げて いる。欧米企業では中心的な指標であり投資利益率(ROI)は,日系企業では第 5位 (20ド74%) と低くなっている。 第6位には,市場占有率が17..78%を占めており,売上高関連の指標として重 要である。以上のことより理解できるように,日系企業でも日本の親企業と同 様に,利益額と売上高に関連する指標が海外子会社の業績評価指標の中心であ ることがわかる。 3) 経営者の業績評価指標 海外子会社の経営者の業績評価については,表-23に示すとおりである。ア
88- 香川大学経済論叢 88 ジア全体の傾向としては,予算と実績比較による利益額が第
1
位であり, 55% の日系企業で経営者の業績評価の指標として用いられている。つぎに年度の利 益額が38 32%を占め, 2位になっている。上位の1
位及び2位は,いずれも利 益に関する指標である。第3位は,予算・実績比較による売上高が37,38%を占 めている。 以上3つに続く指標は,若干採用している企業数は少なくなるが,製品品質 が4位(24 30%),第5位は予算・実績比較による生産性であり, 20,,56%になっ ている。とりわけ生産性の指標が海外子会社そのものの業績評価の場合に比べ て,重要性を増大させていることが目立つている。これは経営者の業績評価の 指標として,現地トップの経営者に期待している指標であることが理解できる。 地域別の特徴としては,ASEAN
の場合がNIES
の場合よりも経営者の業績 評価の指標として複数の指標を用いているケースが多いようである。またASEAN
では経営者の業績評価のために製品品質や生産性の指標を用いてお り,現時点ではそれだけ品質の安定と生産性の向上が重要な課題であることが 理解できる。それに対して,NIES
の場合には,利益額(予算・実績比較),年 度の利益額及び投資利益率,及び売上高(予算・実績比較)という会計情報の 表-23 経営者の業績評価指標業績評価指標 NIES ASEAN ASIA
1)利益額(予算・実績比較) 30(51 7%) 29(592%) 59(5514%) 2)利益額(年度の) 20 (34 5 ) 21(42 9 ) 41(38 32 ) 3)売上高(予算・実績比較) 21(36 2 ) 19(388 ) 40(3738 ) 4)製品品質 11(19,0 ) 15 (30 6 ) 26(24 30 ) 5)生産性(予算・実績比較) 9(15 5 ) 13 (26 5 ) 22(20 56 ) 6)投資利益率 (ROI) 12 (20 7 ) 5(10 2 ) 17(1589 ) 7)市場占有率 4( 6 9 ) 7(14 3 ) 11(1028 ) 8)地域社会への貢献 3( 5,,2 ) 5(10,,2 ) 8( 7..48 ) 9) ROI (予算・実綴比較) 4 (6,,9 ) 3( 6 1 ) 7( 6,,54 ) 10)従業員の定着率 3( 5 2 ) 3 ( 6,1 ) 6( 5,,61 ) 11)その他 6 (10 3 ) 8(16,,3 ) 14(1308 ) *)N
=
58 (NIES), N=
49 (ASEAN), N=
107 (ASIA)。複数回答あり。8
9
アジア進出日系企業の経営実践と管理会計の国際移転 -89ー 基準が重視されている。それだけNIESではローカノレ化が進展しており,独立 した子会社として会計数値でもって海外子会社の経営者の業績評価ができる体f
制になっているといえる。4
-
3
意志決定の役割分担 日本の親企業とアジアに進出した日系企業の間で,海外子会社が1)新製品の 価格決定, 2)新しい設備投資, 3)予算編成と統制などという重要な経営活動の 意思決定の権限(あるいは影響力)がどのように分担されているかを吟味する ことは,経営活動のグローパノレ化及び、ローカノレ化を考察する際に,たいへん重 要なことである。その結果が表-24に示したとおりである。 まずアジア全体では, 3つの経営活動のうちでは,予算編成と統制が最もロー カノレ化,すなわち現地子会社に委譲されているレベルが高く, 4..40点となって いる。この数字は,日本本社の利益計画(或いはビジネス・プラン)には大枠 では縛られるが,そのほかは現地子会社に予算管理の大部分の権限が委譲され ているということを,現地日系企業へのインタビュー調査の際に何度か聞いた 事実とも符合する。 表-24 意志決定の役割分担 項 目N
I
E
S
ASEAN ASIA
1) 新製品の価格決定 2) 新しい設備投資 3) 予算編成と統制 3 45 3..45 4 38。
O A U。 ,
u nxud4AA42 q t υ 内 ぺ υ 凋 A 宮 3 64 3..43 4 40 *)n=
9
8
(
N
I
E
S
)
, n=
7
8
(
A
S
E
A
N
)
, n=
1
7
5
(
A
S
I
A
)
。
なお,表中の数字は,主に親会社が決定→1点, 両者の中間→3点"''''',主に現地子会社が決定→5 点、とし,各項目の総得点を合計し,それを回答企業数 で割ってl社平均の得点を算出した。 予算編成と統制の場合と反対の極にあるのが,新しい設備投資の場合で,海 外子会社が行うビジネス・プランや予算編成には新しい設備投資は必ず組み込 まれている。同時に新規の設備投資の資金調達の問題もあり,必ず日本本社の 承認が必要であり,最も本社の意向が反映されるケースである。そのため得点90ー 香川大学経済論議 90 も,
3
..43
と最も点数が低くなっており,それだけ日本の親会社に意思決定権限 (影響力)が保持されている。 また新規の設備投資の場合のケースに得点は近いが,意思決定権限が両者の 中間にあるのが,新製品の価格決定の場合であり, 3..64点になっている。新製 品の価格決定には, 日本に販売(輸出) される場合など日本が主導的に販売す る際には, 日本の親企業の意向が強く反映されるが,逆に現地販売あるいは現 地が主導権をもって販売活動がなされる場合には,現地子会社の意向が強く反 映される場合が多い。 つぎに地域別にその特徴を検討してみると,予算編成と統制については, NIESとASEANの何れの地域でも変わりがなく, 4..40点前後である。また新 しい設備投資の場合も同様であり,何れの地域も 3..40点位である。しかし,新 製品の価格決定の場合は,ASEANの方が NIESの場合よりも 0..43点高く, 3..8
8
点になっている。その理由及び新製品の価格決定のプロセスの詳細について は, インタビューによるフォローアップ調査が必要である。 4-4 予算編成,統制及び評価 ここでは,海外子会社の予算編成,統制,及び評価が, 日本本社とアジアの 海外子会社との間でどのうように役割分担されているかをみてみる。予算編成, 統制及び評価のプロセス及びその権限に焦点を当て検討した結果が,表-24
の とおりである。 調査票の質問内容をもう一度列記してみる。まず第1
レベルとは r予算管理 の権限は,現地に大部分委譲されており, ほとんど現地子会社が単独で編成・ 実施・評価する体制である。」つぎに第2
レベルとは r予算管理の基本方針は, 本国の親会社が決定し, その枠内で現地子会社が編成し,親会社が承認・評価 する体制である。」第3レベルとは r予算管理は, 日本の親会社が中心に決定 しており,基本方針,具体的な予算編成とも日本の親会社が作成し, それに基 づいて現地子会社は予算執行だけを行い, その結果を親会社が評価する体制で ある。」そして以上の3つ以外を「その他」 として分類した。 このような説明に基づいて回答頂いた結果が,表一2
5
のとおりである。まず91 アジア進出日系企業の経営実践と管理会計の国際移転 -91-アジア全体では,第1レベルにあるのは120社と, 70%近くの企業がほぽ現地 子会担が単独で編成,実施,評価する体制にある。 次に,第2レベノレ,すなわち「予算管理の基本方針を日本の親会社が決定し, その枠内で現地子会社が編成し,親会社が承認・評価する体制」にある企業は, アジア全体で46社, 26..44%と1/4強になっている。第1レベルと第2レベル を合わせると, 9 5%を越える数字になっており,アジアの日系企業の予算管 理は,上述の二つのいずれかの形態になっている。 表-25 予算編成,統制及び評価 権限委譲のレベル
N
I
E
S
ASEAN
ASIA
1) 第1レベル 70(72 2%) 50(64 9%) 120 (68..97%) 2) 第2レベル 22 (22 7 ) 24(31 2 ) 46 (26.44 ) 3) 第3レベノレ 3( 3 1 ) l(1 3 ) 4 (2..30 ) 4) その{也 2( 2 1 ) 28( 2 6 ) 4 ( 2 30 )N
97 53 174 *)なお,表中の第1レベル,第2レベノレ,第3レベル及び その他の説明については,本文中の解説を参照のこと。 ただ郵送調査による数字だけから見ると,日系企業における予算編成のロー カノレ化のレベルは非常に高いと言えるが,日系企業への面接調査などから判断 すると,予算管理の権限のローカノレ化のレベルが,郵送調査ほどに高いとは必 ずしも言えないようである。というのは,まず半年あるいは1
年ごとに作成さ れる海外子会社のビジネス・プランと予算編成の承認と,前期の予算の評価は 日本本社の経営会議において承認される場合が大部分である。ただし,日本の 親会社からは,経理情報が黒字で推移している限りは,日本の親企業は海外子 会社の予算をそのまま承認するケースが大部分のようでもある。 また同時に,日系企業と日本の親会社聞の経理情報のコミュニケーションは, 非常に緊密であり,月次による損益計算書,貸借対照表は勿論,それ以外の情 報も日本の親会社からのリクエストに応じて,海外子会社から日本の親会社へ 頻繁に情報が送られ,その分析が親会社でなされ,その結果に応じてこまめに92- 香川大学経済論叢 92 助言,指示がなされるケースが多いようである。また本社のそれぞれの地域担 当者(例えばアジア担当)が,必要に応じて現地を訪問し,指導・助言する体 制も取られているようである。 欧米系の海外子会社では,海外子会社の予算が一度承認されると,後は海外 子会社の経営者にその経営権限はほとんど任され,その活動の結果(特にいわ ゆる利益, ROIなどの予算・実績の比較)でもって海外子会社の評価がなされ るのが,その特徴であると言われている。それと比べると海外の日系企業は非 常に多様な種類の会計情報及びその他の情報を,日本の親会社より頻繁に要求 され,それらの要求に日常的に丁寧に対応しているのが日系企業の実態である。 そのため,日本から派遣された経営者には,このような実態が当然のことにな り,逆に海外の日系子会社の現地経営者にとっては,それだけたくさんの詳細 な情報を,日本本社は経営意思決定のためにどの程度必要なのかという疑問が 出てくるようである。 このように,日系企業と日本本社との聞では頻繁なコミュニケーションが通 例であるため,海外子会社の日本人経営者は日本本社からそれほど管理されて いるとは思わず,むしろ予算編成から統制のプロセスのほとんどの経営活動を 委譲されていると理解している場合が多いようである。 次に地域別に予算編成,統制及び評価の権限の委譲のレベルを考察すると, やはり“