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取締役・会社間の取引に関する取締役の責任-香川大学学術情報リポジトリ

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香 川 大 学 経 済 論 叢 第63巻 第 2号 1990年9月 65-123

取締役・会社聞の取引に関する

取締役の責任

田 村 詩 子

はじめに

外国法における恥締役・会社聞の取引に関する取締役の責任

H

イギリス (二) アメリカ (当西ドイツ (四) フランス 一 日本法における取締役・会柾聞の取引に関する恥締役の責任 付取締役・会社聞の取引と取締役の責任 ( 二 〉 取締役の債務不履行責任

)

判例における取締役の責任 (四) 取締役の責任の性質 四 お わ り に は じ め に 取締役が取締役会の承認を得ないで会社と取引をしたときは,商法266条l 項

5

号の法令違反による損害賠償責任を負わなければならない。しかし,たと え取締役会の承認を得て取引をしても,会社に損害を与えた場合には,取締役 の過失の有無を問わず,一種の結果責任すなわち無過失責任で、あると解し,損 害賠償責任を負う(商法266条1項4号),とされている。これに対しては,過

(2)

66- 香川大学経済論叢 264 失責任と解する見解もある。 また,この特則としての取締役への金銭の貸付の場合には,取締役会の承認 の有無にかかわらず無過失責任である(商法266条1項3号)とする見解と, この場合にも過失責任であるとする見解とがある。 取締役・会社聞の取引に関する取締役の責任につき,このように取締役に対 する金銭の貸付のみを日本では別異に取り扱っているが,比較法的にみると, 必ずしも別異に取り扱っていないようである。金銭の貸付を含めた信用供与取 引と他の財産取引とを別異に規制しているようである。 本稿では,この点に関して,比較法的に検討するとともに,取締役・会社聞 の取引に関する取締役の会社に対する責任につき,考察してみる。

外国法における取締役・会社聞の取引 に関する取締役の責任

j イギリス 1985年イギリス会社法における取締役・会社聞の取引の規制につきみると, 一般原則として,取締役が会社との取引において利害関係を有する場合には, 取締役会において利害関係を開示することが要求されている

(

3

1

7

条)。そして, 特に重要な財産取引が規制され (320条ないし322条),また,取締役に対する (1) 金銭貸付等が禁止されている (330条ないし344条)。 (i) 取締役の利害関係の開示 会社との取引において直接または間接に利害関係を有する取締役は,取締役

(1) 詳細は, ROBERI R PENNINGION, COMPANY LAW (5th ed 1985) at 609-682;M..REN. SHAL & KEITH WALMSLEY, BUTTERWORTHS COMPANY LAW GUIDE (1985) para 6 18-6

22, at180-182;

J

H.FARRAR, COMPANY LAW (1985) at 285-336参照。

なお, 742条によれば,その指図または指令に従って会社の取締役が行動するのが常で あるような者は,影の取締役(shadowdirector)として,取締役に含まれる。そして, 320

条ないし322条および330条ないし344条の取締役には,この影の取締役も取締役とし て扱われる (744条3項)。

(3)

265 取締役・会社間の取引に関する取締役の責任 -67 会において,利害関係を有することおよびその利害関係の性質を開示しなけれ ばならない (317条)。 これは,耳)l.i締役または取締役の関係者のために会社によってなされる金銭貸 付等の取引にも適用され,取引が禁止されているかどうかを間わない(317条6

利害関係につき妥当な開示をすることを僻怠した取締役は,科料の責を負う ことがある (317条7項)。しかし,取締役が利害関係を有する取引が,それに よって無効とされることもなしまた,取締役の開示の慨怠のみを原因として 取引を取り消す権利を会社が有するわけでもない,とされてい幻 (ii) 重要な財産取引 重要な財産取引とは, 5万ポンド以上または会社の純資産の 10パーセントを 超える非現金資産 (non-cashasset)の譲渡に関する会社と取締役との取引であ り,株主総会の決議による承認が要求されている (320条)。非現金資産とは, (外国通貨を含む)現金以外の財産または財産上の利益のことである (739条1 項)。 違反して締結された取引は,会社により取り消すことができる。しかし,こ の会社による取消権には制限がある。それは,付)金銭または物の返還がもはや 可能でない場合,加)恥締役またはその関係者が,生じた損失または損害を会社 に賠償をした場合,付第三者が,必要な承認が得られないことを知らず、に善意 で、かっ有償で取引上の権利を取得bた場合,または, (ニ)取引後相当な期間内に, 株主総会で承認された場合,会社は取り消すことはできないのである(322条

;

j

!

さらに,違反により,取締役,その関係者,取引を授権した取締役は,取引 が取り消されたかどうかにかかわらず (322条3項

4

項),付)取引から直接ま たは間接に得た利益を会社に返還すること(同条

3

項(a)),および伊)取決めもし (2) PENNINGTON, s.upra note1, at672-674;FARRAR, supra note1, at325-326 (3) PENNINGTON, supra note1, at673

( 4 ) PENNINGTON,宮upranote1, at675-676;F礼RRAR,supra note1, at333-336 ; WALMS LEY, SUjうranote1, para6..22

(4)

68- 香川大学経済論青空 266 くは取ヲ

I

から生じる損失もしくは損害を(連帯して)会社に賠償すること(同 条3項(b))である。 取引を締結した者と関係を有する取締役は,必要な株主総会の承認が得られ るようにあらゆる合理的な手段を講じたことを証明することによって貴を免れ ることができる。そして,取引を締結した者および他の取締役は,当事者が会 社の取締役と関係を有することを知らなかったことを証明することによって責

を免れることができる (322 条 5 項 6 項)5~

(ii)i金銭貸付,準貸付,信用取引 会社が,会社の取締役またはその持株会社の取締役に金銭を貸付けること (330条

2

項(a)),または,このような取締役に対して第三者によってなされた 貸付に関して保証をなすこと,もしくは担保を提供すること(同条

2

項(b)) は 禁止されている。 また,関連会社

S

i

,その会社もしくはその持株会社の取締役に対して準貸付 をなすことが禁じられ, そして,また,そのような取締役の関係者包対して金 (8) 銭貸付または準貸付をすることが禁じられている (330条3項)。さらに,関連 (5 ) 詳細については, PENNINGTON, S坤ranote 1, at 675-676;FARRAR, s.upranote 1, at 336,参照。 (6 ) 関連会社(relevantcompany)とは,公会社である会社,または公会社の従属会社等で ある (331条6項) (7) 関係者(connectedpersons)とは, (i)取締役の配偶者・18歳以下の子供・継子, (ii)取締 役が関係を有する会社(取締役が株主総会において議決権の5分の1を支配している会 社 ((346条4項))), (iiD信託の受託者が,取締役,その配偶者・子供・継子,または取締 役と関係を有する会社である,信託の受託者,(iv)取締役もしくはその家族または関係を有 する会社のパートナー,である (346条)。 (8 ) 準貸付(quasi-loan)とは,一方当事者(債権者)が,他方当事者(債務者)のために, 債務者が債権者に返済するという同意をしてまたは法上返済義務が生じる場合に,第三 者に対して,総額を支払うことまたは支払うことを同意することである(331条3項)。こ のような準貸付とは,取締役が物件を購入する契約を締結するに際し,取締役が返済する という条件で,会社にその価格を支払わせるかまたは支払うことを同意させるような契 約を締結する場合である,とされている(PENNINGTON,supranote 1, at 641, footnote 15)。また,同様に,他方当事者(債務者)のために,第三者が支払った額を返済すること, または,返済することに同意すること,も準貸付である(331条3項)。このような準貸付 とは,取締役が既に物またはサービスに関して債務を負っており,かつ,取締役が返済す

(5)

267 取締役・会社聞の取引に関する取締役の資任 -69-会社は,その会社もしくはその持株会社の取締役またはこのような取締役の関 (n~ , ._, ,~~~ ~ ,...Jl 係者に対してなす信用取引か禁止されている (330条4項) このように,取締役等に対する金銭貸付、等は,一般に,禁止されているが, 一定の取引は,この禁止から除外されており,法上J掃結することができる。例 外とされるのは,関係を有する会社が同一のグループに属する場合(子会担・ 持株会社・持株会社を同じくする他の子会社に対してなす金銭貸付等) (333 条),金銭の貸付を業とする会社および銀行 (338条)である。さらに,取締役 もしくは持株会社の取締役に対する 2,500ポンドを超えない金銭貸付 (334条 および339条1項・ 3項)または取締役もしくは持株会社の取締役に対する短 (11) 期間のかつ少額の準貸付 (332条)等である。 違反の民事責任として,違反取引は会社により取り消されうるものとなる。 しかし,当該金銭または他の資産の返還がもはや可能でない場合,または,違 反の認識なしに善意でかつ有償で取得した当事者以外の者の権利が介在してい る場合は,除かれる。また,取締役または取締役の関係者によって会社が蒙っ た損害が賠償された場合には,会社は取り消すことはできない (341条1項)。 さらに,取締役およびその関係者は,違反取引の結果として得た利益につき 会社に対して責任を負い,そして,これらの者および取引を授権した他の取締 役は,結果として生じた損失を会社に賠償する責を負う。しかし,当該取引が, 取締役の関係者と締結された場合には,その違反の防止のためのあらゆる合理 るという条件で,会社がその債務を支払うかまたは支払うことに同意する場合である,と されている (PENNINGTON,SU戸ranote 1, at 641, footnote 16)

(9 ) 信用取引とは,一方当事者(債権者)が, (i)分割払いで,かつ,分割払い金が全額 支払われそして他の条件が満たされた場合のみに,所有権が購入者に移転するという条 件で,他の者に,物を供給したりまたは土地を売却すること(これは,条件付売買および 分割払い購入の同意を対象としたものである), (ii)定期払いの条件で土地または品物を 賃貸することまたは賃借ーりすること,i(ii)その他の方法として,支払いが延期されうると いう条件で土地を売却することまたは品物もしくはサービスを供給することである (331 条7項)。

(10) PENNINGTON, supranote 1, at 641-643, W主LMSLEY,supranote 1, para [6. 22J

Farrar,宝upγanot巴1,at 326-332

(11) PENNINGTON, supranote 1, at 643-645, WALMSLEY, supranote 1,;FARIミAR,supra note 1, at 327-332

(6)

-70ー 香川大学経済論議 268 的な処置をとったことを証明することによって責を免れることができる。そし て,取締役の関係者および取引を授権した取締役は,諸事情が違反を構成する ことに気付かなかったことを証明することによって責を免れることができる (341条2項, 4項,

5 詰)2~ これらの規定から,禁止規定に違反して金銭貸付

等をなした会社は,当該取引が違法であり,したがって無効でドあるという抗弁 によらずに,取引を承認して通常の履行(たとえば,利息とともに貸付金の返 (13) 還請求訴訟をする)を強制することができる,とされている。 違反取引の刑事責任として,関連会社および取引を授権した関連会社の取締 役は,有罪であり,そして,関連会社に,違反取引を締結させるに至らしめる 者も有罪である (342条1項 3項)。しかし,これは,公会社を含む会社のグ ループに属していない私会社の場合には,違反取引を締結した場合にも,民事 (14) 責任のみが適用される,とされている。 仁j アメリカ (i) 取締役・会社聞の取引 (1) アメリカ法上も,取締役は忠実義務により会社と利益相反取引をするこ とを規制されている。初期の厳格なルールによれば,取締役の会社との利益相 反取引は,取引の公正・不公正とは関係なく,無効または取り消しうるもので あった。 これに対して,今日では,利益相反取引は,いくつかの規準を充たせば,取 締役が取引に利害関係を有することのみを理由として取消しうるものではな い,とされてい去しかし,その規準は,判例法上も制定法上も様々であるが, (12) PENNINGTON, supranote 1, at 645

(13) PENNINGTON, supranote 1, at 645…646; FARRAR, supranote 1, at 332-333; Gore -Browne on COi¥lPANIES, ~27 14

(14) PENNINGTON, s.upranote 1, at 646; F.'l,RRAR, s.upァanote 1, at 333; Gore-Browne, suρranote 13, ~27 14

(15) ABA, MODEL Bus CORP ACT ANN ~8 31 (3rd ed. 19 85);H..MARSH, Jr.., CALlFOR NlRCOPRORATlON LAW AND PRACTICE ~ ~ 10. Oi-10. 13(2ed 1981); CORPUS JURlS SECUN DUi¥Ivo.l19~ i81(1980)

(7)

269 取締役・会社聞の取引に関する取締役の責任 -71ー 一般的には主たる規準として, (a) 利害関係を有しない取締役によって構成された取締役会によって認許さ れたこと, (b) 株主総会によって承認されること, (c) 取引が会社にとって公正,適正かつ合理的であること, がとられている。また, (a)の取締役会の認許に関して,利害関係を有する取締 役を定足数へ算入するかどうか,およびその議決権を行使させるかどうか,と いう点につき規制方法は異なる。さらに, (a)の取締役会での認許または(b)の株 主総会での承認に際して,取締役の利害関係及び取引に関する重要な事実が開 (16) 示されたことが一般的な規準であり,重視されている。

(

2

)

取締役の忠実義務違反の責任は返還賠償責任であり,注意義務違反の責 任よりはるかに軽いものである。取締役が会社と適正でない取引を締結した場 合でも,その賠償責任が請求されないのが通例であり,請求される場合でも, 契約価額と公正な価額との差額である。 これに対して,取締役の注意義務違反の場合には,その違法な行為から利益 を得ていなくとも損害を支払わなければならないのである。取締役はその取締 役たる地位を利用して自己の利益を図つてはならないのであるから,取締役た る地位から得られたものは,会社のものであり,会社の計算でなされなければ ならないのであど

(16) MODEL Bus CORP ACT ANN. 3 8 31; MARSH, supranote 15, 3 3 10.08-1013; H HENN & J ALEXANDER, CORPORATIONS, 3 238 at 637-644 (3rd ed 1983); R BUXBAUM,

Conflia-of-lnterests, Statutes and the Need /or a Demand on Direaors in Derivative Aaions, 68 CAL.L RE¥'.1122(1980) 1123-1133; N Y Bus. COPR LAW 3713 (McKIN.

NEI'1971 & 1979 Supp); KNEPPER, LIABILITY OF CORPORATE OFFICERS AND DIRECTORS

3 33. 01-3 23(4th ed 1988); HOFFl¥IAN, ISRAELS ON CORPORATE PRACTICE 3 6. 13,

S

9. 19 (5th ed.. 1983); R JENNINGS & BUXBAUl¥I, CORPORATIONS-CASES AND MATERIALS-442 471 (5th巴d..1979) ; H.. MARSH Jr., Are Direιtors Trustee? -Conflict of lnterest and

CoゆorateMolarity-22 Bus. LAW. 35(1966), at 36-57..;L W. SOLOMON, CORPORATIONS -LAW AND POL.!CIES, MATERIALS i¥ND PROBLEMS-at 585-607(1982); ALI, Principles of

Corporate Governance and Structure: Analysis and Recommendations (Tent Draft N o. 5, 1986), 3 3 109, 1.20, 502

(17) CARY & EISENBERG, CASES AND MI¥TERIALS ON CORPORATIONS, at 571-573 (6th ed 1988) ; KNEPPER, supranote 16, 3 4.02

(8)

-72ー 香川大学経済論叢 270 このように,取締役が忠実義務に反して会社と公正でない取引を締結した場 合には得べからざる利益を返還するだけでよしそれは違法行為以前の状況に 置くものである。しかし,違法行為以前の状況より悪くなることもある。例え ば,取締役がその資産を会社に不公正な高価格で売却した後に会柾がその違法 により取り消した時のその時価が取引時の時価より低下した場合には,会社以 外の第三者に売却した場合より悪い状況におかれることにな公 (ii) 取締役への金銭貸付 (1) このような利益相反取引の第二類型として,会社がその取締役または役 (19) 員に対して金銭を貸付ける場合が規制されている。 多くの州における初期の規定は,このような金銭の貸付を違法としていた。 それは,そのような貸付は,その性質上,濫用されやすいと信じられていたか らであ公 現在,多くの州で,このような取締役と会社との聞の取引の一形態として, 取締役または役員に対する会社による金銭の貸付が,特別の規定によって規制 (18) 例えば,1985年に取締役がその資産を会社に寸分な開示をすることなく 11万ドルで売 却したが,公正な価格は10万ドルであった。 1986年に会社がその違法により取り消した 時,その時価が7万ドルに低下していた。開示義務を負っていない第三者に売却した場合 にはその第三者が取り消すことはありえなかったから,違法な取引をしなかった場合よ り3万ドル惑い状況におかれることになる。 CARY& EISENBERG, supranote 17, at 571 →582

(19) しかし, ALI, Principles of Corporate Governance and Structure: Analysis and Recommendations (Tent Draft No.3, 1984), ~ 508の会社との取引において,この問 題についての特別な規定はなされていず,~ 5..08によって,カバーされる,とされている。

at 112, 113

(20) MODEL Bus CORP Acr ANN..

S

8..32; H. MARSH, supra.note 15, at 68-69

金銭を貸付けることは,金融業を営まない会社の通常の業務には含まれない。しかし, 業務上の取引には付随的に,前金,信用の延期または手形の授受を必然的に伴う。そして, このような取引は会社の利益を増加させると考えられることから,支持されるのが通常 であろう。他方,会社が利益への公正な期待を有する取引とは,関係のない場合には,第 三者に対して貸付けをすること,または信用を延期することが授権されていないことは 明らかであり,したがって,取締役,役員および株主に対する同様の性格を有する貸付に 関して重要な問題が生じることが考えられる,とされている(MFEUER, PERSONAL LIA BILITIES01"CORPOR¥TE OHIιERS¥ND DIRECTORS ch 4 at 59(2d ed. 1974))。

(9)

271 取締役・会社聞の取引に関する取締役の責任 -73-されている。

(

2

)

一般的に,会社法が禁止しているのは,会社が取締役に対して金銭を貸 付けること,取締役の債務を保証すること,または,会社の信用を用いて他の 援助をすること,である。取締役とは,会社の取締役だけではなく,親会社の 取締役または子会社の取締役をも含めてその規制対象とされていることがあ る。 この禁止の解除は,一般的には,株主総会の承認であり,当該取締役は,そ の有する株式につき議決権を行使しではならない。 または,取締役に対する金銭の貸付や保証等が会社の利益になりうると判断 して取締役会が承認した場合には,取締役に対して金銭を貸付けたり,もしく は会社の信用を用いて援助をしてもよい,とされていどさらに,貸付が,取 締役会によって会社の利益になるとして承認された一般計画に従っている場合 (25) も,許容される。貸付または保証が違法になされたということ,または,妥当 でなかったことにより,貸付を受けた者の貸付に関する責任には影響せず,会 社により法律上強制しうる,とされている。 法によって認可された,銀行による貸付,預金および貸付,その他の貸付制 度により,営業の通常の過程で取締役に貸付ける場合は規制されず,除外され

(21) MODEL Bus CORP. ACT ANN S 8 32; E.. BROADSKY & M. P ADAMSKI, LAW OF CORPO

RAIE OFFICERS AND DIRECTORSωRIGHTS, DUTIES AND LIABILITIES-S 3・09(1984)

(22) M.. FEUER, supranote 20, at 59; H MARSH, supranote 15, S S 10 15-10.19

または,通常の業務として以外には,このような貸付を禁じる規定(イリノイ州および ウィスコン州)もある。 KNEPPERsupアanote 16, S 2 12

(23) N. Y Bus CORP LAW S 714(McKINNEY 1971 & 1979 Supp); KNEPPER, supranote 16, S 4.. 12

(24) FOLK, THE DELAYI.'l.RE GENERAL CORPORATION LAW (2d ed, 1988), S 143 ; MODEL Bus

CORP. ACT ANN S 832(a) (2)

貸付が授権されなかった場合には,法に反した取締役は法定利息にも責任を負う

(Ma-c1ary v. Pleasant Hills, In,c. 35 Del.Ch. 39, 109 A 2d 830 (1954))。

(25) MODEL Bus. CORP. ACT ANN. S 8 32(a) (2),その計画は,例えば,被傭者の利益計画, 少額の現金の貸付を授権する計画,および,取締役,役員もしくは被傭者Jの義務の遂行に 要すると合理的に予想される費用のための貸付,である。

(10)

-74-(27) る。 香川大学経済論叢 272 (3) 会社法は,会社が取締役または役員に対して金銭を貸付けることにつき (28) 議決権を行使するかまたは同意した会社の取締役に,特別な責任を課している のが一般的である。また,通常,取締役は,取締役会または委員会の決議に反 対する場合には,議事録に反対の議決権を行使した旨を記載する権限を有し, それにより,その決議に基づいてなされた行為に関して取締役に対してなされ た訴訟において責任を免れるのである,とされてい詑これに対して,取締役 会を欠席した取締役が相当な期間内に一定の行為をしないと決議に賛成したも のとみなされる,とする規定もあ

8

1

これに対して,経営に積極的に参加していず,かつ当該貸付につき知らない 役員または取締役は,たとえ,会議に出席しなかったことが任務僻怠とみなさ れるとしても,法上責任を負わない。しかし,貸付 ている場場命合の会議を故意に欠席することにより法上の責任を回避することはで きない, との見解もあ

8

1

例えば,カリフオノレニア会社法上,取締役は会社が なす行為の適法性を決定する際に法により要求されている注意を尽くすことを 怠った場合にのみ責任を負う (309柔史さらに,特別規定により,その行為を 承認した取締役のみが直接的には責任を負わされるが取締役は決議において棄 権することにより責任を免れることはできない。法上列挙されている行為に関 する取締役会または委員会に出席した取締役は,責任規定の趣旨から会社の行 (33) 為を承認したものとみなされるのである。法上列挙されている行為の一つが, 会社による取締役に対する違法な貸付または恥締役の債務の違法な保証をなす ことである。そして,この責任が取締役の通常の責任と異なっているのは,法

(27) MODEL Bus CORP ACI ANN ~ 8 32(c)

(28) N. Y Bus CORP LAW S 719 (a) (4); 19C J S, ~ 771

(29) HOFFMAN, supranote 16, ~ 921 at 307 N Y Bus.CORP. LAW

S

719 (a)において,取

締役が決議を賛成したとみなされる要件を規定している。

(30) N.. Y Bus CORP. Lιw S 719(b) HOFFMAN, supranote 16, S L21参照。

(31) FEUER. sUJうranote 1, at 61

(32) H M札RSH,supra.note 1, ~ 10.. 4

(11)

273 取締役・会社聞の取引に関する取締役の責任 -75ー 上列挙されている禁止が法律による絶対的な禁止であることによる,とされて (34) いる。 取締役は,弁済されるまで,その貸付金の総額につき,会粒に対して個別に (35) または連帯して責任を負わされている。違法な貸付に賛成した取締役および役 員全員が会社に対して貸付金額に利息を加算した金額の責任を負吹また,その 利息は,貸付を受けた取締役によって同意された利率ではなく法定利息だと判 示した判点)ある。 信)西ドイツ 西ドイツ株式法による株式会社における取締役・会社聞の取引の規制として, 取締役員への信用供与が規制されている(株式法的条)。有限会社法において も,同様に,業務執行者に対する信用供与が規制されている(有限会社法

4

3

条 a)が,一人会社の業務執行者の自己取引が規制(有限会社法35条4項)され, 取引としては,信用供与に限らず,財産譲渡取引をも規制対象としている。 また,取締役員の会社に対する責任に関し,特別責任として,取締役員に対 する違法な信用供与に関する責任が規定されている。 (i) 取締役員に対する信用供与

(

1

)

西ドイツ株式法的条によれば,監査役会の決議に基づいてのみ,会社は その取締役員に対して信用を供与することができる(1項)。同様の規制は,会 社の支配人および営業全般につき権限を有する代理人に対しでも及ぶ。また, 支配会社は,その監査役会の同意を得たときに限り,従属会社の法定代理人, 支配人または営業全般につき権限を有する代理人に対して信用を供与すること (34) H.. MARSH, lbid

(35) N. Y Bus CORP LAW ~719(aX4) (McKinney 1971 & 1979 Supp.): 3A FLETCHER, Ci:CLOPEDIA OF CORPORA 1 IONS, ~ 1245(1975)

(36) Campbell v Vose, 515 F 2d 256 (10th Cir 1975); 19 C J S ~ 898; M FEUER, SU,ρm note 20, at 60.

(12)

-76ー 香川大学経済論叢 274 ができる。他方,従属会社は,支配企業の監査役会の同意を得たときに限り, 支配企業の法定代理人,支配人または営業全般につき権限を有する代理人に対 して,信用を付与することができる(2項)。 そして 2項は,取締役員,その他の法定代理人,支配人または営業全般に つき権限を有する代理人の配偶者または営業全般につき権限を有する代理人の 配偶者または未成年の子に対する信用についても,適用される(3項)。 さらに,取締役員,支配人または営業全般につき権限を有する代理人が,同 時に他の法人の法定代理人もしくは監査役会の構成員であるかまたは人的会社 の社員であるときは,会社は,監査役会の同意を得たときに限って,その法人 または人的会社に対して信用を供与することができる。しかし,法人または人 的会社が当該会社と結合している場合,または当該会社が法人または人的会社 に供給する商品の代価支払いにつき信用を供与している場合には例外とされて い る (4項)。 (2) 規制される信用取引とは,経済的な概念であり,資本(金銭またはその 他の物的手段)を期限を限って委ねることと理解されている。そして,信用の 内容は,法文上明示されていないことから,会社の保護のため取締役員に対し て信用を供与するに際しての濫用を防止するという規定の趣旨から解釈され, 広義の信用概念が形成されてい怨したがって,信用として解されているのは, 金銭の貸付だけではなく,手形信用,交互計算信用,商品信用,支払承諾,分 割払い信用等であ

8

1

また,会社の信用の利用も信用供与であるから,会社が,融通手形を引受け ること,保証すること,債務を引受けること,担保を提供すること,または, 取締役員個人の信用取引を保証することは,信用供与であ公

(38) Mertens, in: Kδ!ner Komm zum AktG, 2.. Aufl.(1988)~ 89 Anm 11 ; Meyer-Lan-drut, in: Groskomm zum AktG, 3.Aufl. (1973)~ 89 Anm 7; Hefermehl, in Ges!er/ Hefermeh!, Komm zum AktG (1973)~ 89 Anm 7

(39) Baumbach/ Hueck, Komm zum AktG, 13 Aufl.. (1968)~ 89 Rdnr 4; Hefermehl (Fn 38), ~ 89 Anm.9; Godin/ WZlhelmi, Komm zum AktG, 4. Aufl. (1971)~ 89 Anm. 2 (40) Meyer-Landrut (Fn 38), ~ 89 Anm 7; H.巳fermehl(Fn 38), ~ 89 Anm. 11

(13)

275 取締役・会社聞の取引に関する取締役の責任 -77-さらに,第三者が取締役員等に対して有する貸付金債権を会社が引受けるこ (41) とは,間接的な信用供与であり,承認を得なければならないことがある。通常 でない支払い猶予,例えば,その地方では慣例上,通常なされていないような 後払いによる賃貸料支払とか,暗黙の支払い猶予も含まれる。明文上,取締役 員の受ける所得を超える受領の許諾,特に所得の前貸しによる受領の許諾は, 信用の供与と同視されている(第1項第3文)。しかし,信用が,月給額を超え ない場合には監査役会の決議または同意を要しない(第1項第5

(

3

)

法律違反の効果に関して,第

1

項ないし第

4

項の規定に違反する信用の 供与において,その信用は,反対の合意があったかどうかを問わず,監査役会 が追認をしないときは,即時にその供与を解除しなければならない,と規定さ れている(第

5

項)。 この規定に関する有力な見解によれば,第 89条に違反して締結された信用取 引は無効ではなく有効であり,監査役会は追認をすることができる。監査役会 が追認をしない場合には,法律上,単に期限が喪失するだけであり,そして, 信用は直ちに払い戻されなくてはならない,または,株式会社の保証もしくは 担保の提供が問題である場合には,信用は直ちに返還されなくてはならない。 すなわち,会社はその債務を免除されなければならない。 第三者たる担保設定者は,無効が問題とならないので,依然として保護され, 会社と行った合意を援用することができる。また,会社が第 89条に違反して取 締役員の債権者に対して保証をした場合,債権者と締結した保証契約も有効で (43) ある。ただし,共謀が存在しない場合でなくてはならない。 (41) H,

ψ

rmehl (Fn 38), ~ 89 Anm. 15 (42) Baumbach/ Hueck (Fn 39), S 89 Rdnr. 4 この緩和はすべての積類の信用,特に荷品信用に適用される。例えば,取締役員が会社 の商品をクレジットで購入する場合でかつ月額払いが月給額を超えない場合には,その 取り決めが通常取引でない場合にも,監査役会の決議を要せず、に,後払いの取り決めをす ることができる。 (43) これに対して,信用供与されたときに,別異に扱い,第三者に対しては,取号│を無効に するという見解(Godin/Wilhelmi (Fn 39), ~ 89 Anm. 9)と違反した信用取引または綴庇 のある信用取引の場合には信用供与は無効であるとし,全体として無効であるとする見 解(H,約rmehl(Fn 38), ~ 89 Anm 5)がある。

(14)

-78- 香川大学経済論叢 276

(

4

)

西ドイツ有限会社法における会社の業務執行者に対する信用供与規制に より,業務執行者,他の法定代理人,支配人または営業の全般に関する権限を 与えられた代理人に,基本資本の維持のために必要な会社財産から,信用を供 (44) 与することはできない(有

4

3

条a)。 他方,業務執行者の自己取引規制として,会社の持分の全部が一入社員およ び会社によって所有されており,かっその社員が同時に会社の唯一の業務執行 者である場合には,その者と会社との法律行為に,民法典の自己契約・双方代 理の禁止規定(民法181条)が適用される(有35条4

(ii) 取締役員の責任 (1) 取締役員は,機関の構成員であること及び任用関係から,会在の利益保 護義務及び信任義務が生じ,会社を害する一切のことを回避しなければならな い。取締役員は,業務執行に際し,通常のかつ誠実な業務指導者の注意を用い なければならない(株式法93条1項)。この場合の業務執行とは,企業の経営 のみであるという狭義に解するのではなく,法律上課されているすべての任務 を含む,と解されている。 (44) この規定は,債権者保護の改善を目的として新しく設けられた。すなわち,基本資本の 額まで会社財産が債権者の担保財産として維持されるように基本資本の維持のため必 要な会社財産から」という明確な規準を設けたのである。「信用」の概念,規制対象,法 律効果等に関しては,株式法における取締役員に対する信用供与規制と同様である (Ger -schjHeなetjMarschjStutz!e,GmbH-Reform 1980, Rdnr. 210; Lutter, Die GmbH Novelle und ihre Bedeutung fur die GmbH, in DB 1980, S 1322;Koφp,ensteiner,

in: Rowedder Komm zum GmbHG, 2. Aufl (1990)

S

43a; Fischer/ Lutter/ Hommel-ho/, Komm. zum GmbHG, 12.. Au日(1987)

S

43a Rdnr. 6;Schneider, in: Scholz Komm zum GmbHG, 7 Aufl. (1988)

S

43a Anm. 36; Zollneηin目 BaumbachjHueckj

Zollner, Komm zum GmbHG, 15 Aufl. (1988)

S

43a; M四yer-Landrut j Millerj Nie

-hus, Komm zum GmbHG (1988)

S

43a.. 15.. Aufl 詳細については,拙稿「耳元締役・会 社聞の取引 西ドイツにおける 1980年有限会社法の規制についてー」六甲台論集第28 巻第4号99頁以下,参照。 (45) 詳細については,Kψ,pensteiner(Fn 44), 935; Fischer/ Lutter/ Hommelho/ (Fn 44), 9 35; Schneider (Fn 44), 935; Zollner (Fn 44) 935,拙稿,注(7)掲論文101頁以下,参照。 (46) K川Schmidt,Gesellschaftsrecht, 1986, S. 620f ; H.

φ

rmeh! (Fn 38), 976 Rdnr.. 8 ; Meyer-Landrut (Fn 38), 976 Anm 9百 ;Merfens (Fn 38), 9 93 Rdnr.. 57f.;5chilliη:g,

(15)

277 取締役・会社聞の取引に関する取締役の責任 -79-取締役の義務違反の特別な場合,すなわち,会社財産を減少させる法律違反 の行為,に対する法定の賠償責任が列挙されている。その責任の一つに,法律 に違反してなされた取締役員に対する信用供与の責任が規定されている (93条 3項 8号)。 取締役員の会社に対する責任は,取締役員の信任義務的地位から生じるもの であり,法律行為を信義・誠実になす規準となる忠実義務を負うことによる, とする,見解もあど (2) 取締役員の注意義務違反の責任は,過失責任であれ業務執行の結果に (48) 対する責任,すなわち,結果責任ではない,と解されている。取締役会は,業 務執行に際しては,常に業務執行が会社にとって妥当でない結果となる可能性 を予見しなければならない。本質的に業務には危険が伴うからである。しかし, 業務執行の際に,業務が会社にとり妥当なものになるという可能性および明白 な蓋然性がある場合には,業務が冒険的であることのみを理由として,取引が 会桂に不利益であったことも,株式法93条における注意義務に反することも, 問題とはならない。冒険的な業務が,通常のかつ誠実な業務指揮者の注意義務 (49) に合っているかどうかは,常に個々の状況による。 (3) 取締役員が故意または過失により会社に対する義務に反した場合には, それにより生じた損害の賠償責任を会社に対して負う (93条 2項一文)。負って いる義務に反した多数の取締役員は,連帯債務者として責任を負う。各取締役 員は,総債務に対して責任を負い,会社に対する責任については,取締役員が 義務に反したことおよび過失が他の取締役員より大きいかどうか,は問題では ない。しかし,個々の取締役員につき,賠償義務があるかどうかが確認されな ければならない。内部関係においては,原則としては負担部分は平等である。 もっとも,原因への関与度および過失の程度に応じて負担部分を異にすること がで、きる: (47) K.幼leγ,Gesellschaftsrecht, 2. Auft. (1986), S.. 19lf

(48) Rφrmehl (Fn 38), ~ 93 Anm 2, Anm 12; Schilling (Fn 46), ~ 93 Anm. 15 (49) Schilling (Fn 46), ~ 93 Anm 15

(16)

-80← 香川大学経済論議 278 個々の過失(例えば,監視義務の僻怠により)が損失の原因としてのみ共同 した場合には,個々の過失の程度は会柾に対して問題とはならず,各取締役員 は全債務につき責任を負う。 連帯債務者として,取締役員は互いに求償権を有する。故意に損害の原因を 作った者およびその影響力により(例えば,議長として)損害を全部でも一部 でも他のものより防止できた者は,償還に際し,他の者より厳しくまたは全部, (51) 責任を負わされる。 (4) 義務違反が存在したかどうかにつき争いがある場合には,証明責任の分 配は次のようになる。すなわち,会社が主張・立証してなければならないこと は,取締役会の業務執行によって請求額の損害が生じたこと,つまり,会社機 関の行為,その行為により損害が招致されたこと,および、生じた損害の劇作為 または不作為により損害が生じたこと,損害の額,および取締役員の行為と生 じた損害との聞の因果関紛である。 これに対して,取締役員が,賠償責任を免れるために個々に主張・立証しな (54) ければならないことは,通常のかつ誠実な業務指揮者の注意義務を用いたこと, である

(

9

3

2

2

号)。 会柾機関の行為によって会社に財産上の損害が生じた場合には,取締役員が 注意義務を尽くさなかった,との推定が働く。この推定は,特に,法律または 定款の特定の規定,例えば,信用供与規定,を遵守しなかった場合に,働くの である。会社の保護を目的として定められた規定(

3

項に列挙されている各規 定)に反した場合には,義務違反による損害の結果を予見できなかった,また (51) Schilling (Fn 46), S 93 Anm. 23 (52) Schillzng (Fn 46),

S

93 Anm. 17 (53) H,

φ

rmehl (Fn 38),

S

93 Anm. 33 (54) H,ゆrmehl(Fn 38),

S

93 Anm. 33 義務違反につき争いのある場合には,一般原則により,会社は原告として証明:u任を 負っている。しかし,会社は証明に必要な材料を有しないがために,義務違反を基礎づけ るに必要な要件を証明することができないことがよくあった。したがって,判例により, 取締役に義務を履行したことの証明究任を負わせようとされていたのを,法文上,取締役 に負わせることにしたものである,とされている(H,ゆ円nehl(Fn 38),

S

93 Anm 32)。

(17)

2i9 取締役・会社聞の取引に関する取締役の責任 -81ー は,会社のため最善を尽くした,という坑弁は許されな災 取締役員が連帯債務者として責任を負うのは,取締役員の責任を厳しくする こと,およびそれと同時に会社の保護の強化ためである。したがって,取締役 員は,他の取締役員の過失により責任を負うことはありえないことは,明らか である。会社は,株式法93条の責任規定により,機関の任務僻怠から保護され ているだけなのであ幻 前述したように,個々の取締役員につき過失の存在が確認されなければなら ないが,それは,特に,多数決による決議に基づき業務執行がなされた場合に 問題となる。断固とした態度に出ずに他の取締役員の行為を黙認することに よって,過失が存在することもありうるからである。取締役員は,決定された ことを執行しなければならない。事情によっては,それには,外部に対して会 社を代表すること,すなわち,署名することも含まれる。その責任を他の取締 役員は絶対に免れることはできない。法律・定款に反する行為をする場合,ま たは,会社に不利益をもたらす行為をする場合には,取締役員は協力しないほ うがよい。場合によっては,署名を拒否したり,決議の執行に意義を唱えなけ ればならなし、責任を免れるためには,決議が執行されるのを阻止するために 状況に応じて行使しうる手段を講じた場合のみで、ぁ公 (5) 他方,前述したように, 93条 3項は,特に賠償につき責任を負う違反に 関して,特別の責任要件を列挙している。それは,結果として法に反する会社 財産の減少となる非常に重要な違反が問題となっている。

2

項は,義務違反の 行為から生じた会社の損害を取締役員が賠償する義務を負うという一般原則を 定めたものであり 3項も同様の賠償義務であることでは,共通している。 3 項は 2項の他の条件,つまり,義務違反,過失および行為が原因となってい ること,に基づき,一定の原因による,法文上詳細に明示された損害につき, (55) Schzlling (Fn 46), ~ 93 Anm 17 ; Merlens (Fn 38), ~ 93 Rdnr. 48

(56) Schilling(Fn 46), ~ 93 Anm 19; M.estmacker, Verwaltung, Konzerngewalt und Rechte der Aktionare, 1958, S. 213

(57) Schilling (Pn 46), ~ 93 Anm. 23; H.ゆ rmehl(Pn 38), ~ 93 Anm 23; Henn, Hand-buch des Aktienrechts, 3.. Au日(1986)~ 18, S 210f

(18)

-82- 香川大学経済論叢 280 取締役員が責任を負う,と解されるとされている。したがって,会社に損害が 発生していない場合には,有責的取締役員に対して,会社は賠償請求権を有せ ず,損害の発生が条件となっている。 3項は,個々の責任を挙げることによって 2項とは原則として異なる法定 の構成要件を定めたものではなく,立証責任をも定めたものである。 3項のすべての場合において,責任を有する者が負う義務は,会社財産を損 失せしめた額または不法に保持する額を会社に支払うものであり,会社に損害 が生じたかどうかの証明を問題にすることなしその額につき請求権が直ちに 発生する,と解されている。 法律は,違反がなされることにより,損害が生じたものとして推定している。 したがって,証明責任が転換されることになり,取締役員は,義務違反の行為 にもかかわらず,会社に損害が生じていないこと,または,損害を賠償したこ と,の証明責任をも負う,とされている。これに関しては,会社がこれまで損 害を蒙ったことがない,という証明では充分ではなく,取締役員は,会社に損 害を与えることは義務違反の結果としては決しでありえないという証明によっ (58) てのみ免れる,とされている。

(

6

)

さらに,取締役員が,この特別要件に反して責任を負う場合には,会社 は,不法に支払われた額または請求されていない額だけではなしそれにより 生じた拡大損害の賠償をも請求しなければならない。しかし,会社は,生じた 拡大損害につき証明責任を負史 (7) 他方,有限会社法においても,向様に,業務執行者に,通常の営業者 (Ges -chaftsmann)の注意義務が課されており,その義務違反により生じた損害に対 し,会社に連帯して責任を負う,と規定されている。(有

4

3

1

2

項)。

(58) Schilling (Fn 46),

S

93 Anm 27;H.

φ

rmehl (Fn 38),

S

93 Anm 33, 35, 36; Godin/ WilhelmZ (Fn 39),

S

93Anm 11; Merlens(Fn 38),

S

93Rdnr 50; Ko宮sen,Haftung

des Vorstandes und des Aufsichtsrates einer Aktiengesellschaft fur Pflichtverletzungen, D B 1988, 1785, 1788; von Gerkω1, Die Beweislastverteilung

beim Schad巴nsersatzanspruch der GmbH gegen ihren Geshaftsfuhrer, ZHR 154

(1990)シ39,43ff

(19)

281 取締役・会社関の取引に関する取締役の責任 -83--その注意義務は,株式法93条の「通常の業務指揮者の注意義務」に相応する, とされている。しかし,株式法93条 2項のように,被告である業務執行者に義 務を尽くしたことの証明責任を負わせる,証明責任の転換が法文から直接には 出てこないが,株式法とパラレノレに解する, とされてい

2

1

したがって,規定に反して供与された信用が直ちに払い戻されなければなら ないだけでなく,会社は損害賠償を請求することができる(有 43条 3項参日政 個) フランス フランス法が規制する取締役・会社聞の取引には I規制される取ヲ

I

(conven -tions reglementees) Jと「禁止された取ヲ

I

(conventions interdites)Jとがある。 規制される取引として,会社と取締役または副社長との間で締結されるすべ ての取引は,取締役会の事前の認許を得なければならない。規制される取引に は,会社と取締役もしくは副社長との聞の直接取引だけでなく,取締役もしく は副社長が間接的に利益を有する取引,または,他の者を介して締結される取 引も含まれる (101条 1項・ 2項)。また,会社と他の企業との聞で締結される 取引であっても,会社の取締役もしくは副社長が,他の企業の所有者・無限責 任社員・業務執行者・取締役・副社長,または業務執行役員会もしくは監査役 会の構成員である場合には,取締役会の事前の認許を得なければならない (101 条 3項)。 この規制にはこつの例外があり,その一つは,取引の性質上,会社にとって 特に危険で、あると立法者が判断した一定の取引が原則として禁止されているこ

(60) Roweddeァ/Koppensteiner(Fn44),

S

43Anm 3, 33; Fischer/ Lutter/ Hommelhof

(Fn 44),

S

43Anm. 1, i; 5ch目eider(Fn 44),

S

43, Anm 1仔, Anm 32, 167ff; Meyer

-La四drut/Miller/ Nzehus(Fn44), Rdnr 15

業務執行者が会社に対して損害賠償を負う場合とは,業務執行者が,作為または不作為 によって,会社に対して負っている義務に違反すること,その義務違反により会社に損害 が生じたこと,業務執行者が有質的行為をしたこと,を要件とする(5chneider(Fn44),

S

43Anm 21百)。

(61) Koppensteineγ(Fn 44), S 43aAnm 9, 10; Baumbaιh/ Hueck/おill招6ア(Fn44), S 43a Rdnr 5; 5chneider(Fn44),

S

43Anm 57; Meyer-Landrut/ Miller / Niehus(Fn44) Rdnr. 11;むonGerhen(Fn58) S. 43ff

(20)

84 香川大学経済論叢 282 とても

2

i

それが,禁止された取引である。その規制対象は法人以外の取締役 であり,自然人である取締役は,その形式のいかんを間わず,会社から金銭の 貸付を受けたり,当座勘定その他の方法により無担保信用を会社に同意させた り,または第三者に対する自己の債務につき会社に保証もしくは手形保証をさ せることは,禁止され,これに違反する取引は無効で、ある (106条)。これに対 して,第二の例外は,自由な取引として,通常の条件で締結された日常取引は, 認許手続を経なくてもよい(103条)ことであど (i) 規制される取引

(

1

)

取締役・会社聞の取引の手続は,主として,取締役会の事前の認許手続 および株主総会の承認手続であるが,法は,五段階の手続を定めている。 まず、第一に,取締役会または副社長は,自己が会社と取引をすることになる ことを関知したことを示すため,取締役会に報告しなければならない。第二に, 取締役会は,認許をするときには事前のかつ特別の審議をし,また,この認許 に関する決議に,利害関係を有する取締役は加わることができない (103条 1 項)。第三に,社長は,会社法 101条の適用により認許されたすべての取引を, 取引締結後一カ月内に,会計監査役に通知しなければならない (103条 2項,令 91条)。第自に,会計監査役は,この取引に関する特別報告書を株主総会に提出 しなければならない(103条 3項)。特別報告書は,株主が事情をよく知って決 定できるように,非常に正確でなければならない。第五に,株主総会は,特別 報告書に基づいて,承認決議をする。利害関係を有する者は決議に参加するこ とはできず,かっその者の株式は定足数および多数決の計算に算入されない (問条 3項・ 4

(

2

)

取締役会の事前の認許なしに締結された取引は,会社に対して損害を与 (62) 1.Balensi, Lωιonventzons entre les societesωmmeniales et leurs dirigeants, ed Economica, 1975, nO 159, p.. 115

(63) B.. Mercadal et P Janin, Memento 1うratzque des soaetesじommenz

ales F rancis L

.

e

冷bvre,1988-1989, 19" ed.., nO l383, p.415

(64) M Juglart et B. Ippolito, Cours de droitじommenial,2e vol,. 50じieteswmmer.αals,

(21)

283 取締役・会社間の取引に関する取締役の責任 85-える結果をもたらしたときにかぎり,これを無効とすることができる005条 l 項)。 取締役会の事前の認許なくして締結された取引は,法上当然の無効で、はなく, 裁判官が無効を宣告するかどうかが自由である任意無効でbある。そして,裁判 官の無効の宣告があるまで、は,取引は有効であるとみなされなければならない, とされている。 無効は,認許の手続が行われなかった事情を開示する会計監査役の特別報告 書について行われる株主総会の決議によって,これを治癒することができる 005条3項)。 (26) (61) 無効訴権を行使することができるのは,会社の機関または株主であり,会社 (68) と取引をした第三者ではない。 このような無効の性質から,取締役会の事前の認許を得ていない場合で,か つ会社に対して損害を与える結果をもたらした場合の,規制される取引の無効 は,相対的無効であ

2

1

また,事前の認許が無かった場合には,利害関係を有する取締役または副社 (65) すなわち,日本法上の,取消による無効にあたる。

B. Mercadal et P Janin, supra, nO 1395 p 424; Com. 22 novembre 1977Bull.IV

nO 276p. 234参照。

(66) Paris 8 fεvrier 1965, l C.P 1965. II 14398, Rev trzm. dr.ωm., 1965. 858, obs R Houin; Paris 26 mars 1966, Gaz Pal 1966 1. 400 ; Com 26 Janvier 1965, D..1966 469, note A. Dalsace; Rev trim. dγwm., 1965.621, obs R. Houin; 1 Balensi,

supra, nO 178p. 129; B. Mercadal et P JaninsuρranO 1395p 424 ; G Ripert et R

Roblot, Traite elementazre de drit commenial, llced, t..I 1983, n01281p. 876; M

Juglart et B. Ippolito, T;アaztede droit commenial, 2C voLles societespar du E

Pontavice巴tl Dupichot, 20 partie, 1982, 3ced., nO 722-7, p..471

(67) Compiegne 22 dεcembre 1964, l C.P 1965 II. 14279, note N Bemard; Amiens 1 cr decembre 1966, D 1967 234, note A.Dalsace; 1. Balensi, supra, nO 178p. 129; B

Mercadal et P J anin, su戸ra,nO

1395, p.. 424; M.. Juglart et B. Ippolito, suρra, nO 722

-7, p 471

(68) Com. 23 mai 1967, D. 1968.. 179, note A. Dalsace, B Mercadal et P Janin, supra, nO

1395, P 424; M. Juglart et B..lppolito, suρ,ra, nO 722-7p. 471 ;

J

HemardF Terr

et P Mabilat, 50じietesωmmer正ial,n01031, p. 905参照。

(69) 1 Balensi, supra, n0174pp. 125-126; Paris 23 novembre 1955D. 1956 290note

F Gore, Gaz Pal.1956..1 42; Com 16 Juin 1959; Paris 13 Juin 1964, D.. 1965. 398参 日召。

(22)

-86- 香川大学経済論叢 284 長は,責任を追及されることがある (105条1項)。 これに対して,取引が,取締役会によって認許されていたならば,会計監査 役への通知の対象となっていなかった場合にも,また,会計監査役への特別報 告書の対象となっていなかった場合にも,更に,株主総会の決議事項とされて いなかった場合にも,取引の無効は宣告されることはできな山しかし,取引 が会社に損害を与える結果をもたらす場合には,取締役がその責任を負わなけ ればならない。 (3) 株主総会が取引を承認すると,その後取引が詐欺によって取り消されな い限り,取引は第三者に対して完全に有効で、ある (104条l項)。株主総会の承 認・不承認は,事前の認許を得た取引を無効にするという効果を生じさせるも のではないから,第三者トに対してではなく,場合によっては会社に対してその 効果を生じさせるものである

i

株主総会の承認を得た取引が会社に損害を与える結果をもたらしても,取締 役に,承認がない場合に負わなければならない責任を負わせることはできない。 株主総会の承認は,取引によって生じた損害の回復を妨げる,とされている

i

他方,株主総会が取引を承認しない場合でも,取引が詐欺により取り消され ないかぎり,第三者;に対してその効力を生ずる (104条1項)。すなわち,株主 総会の承認がないことは,会計監査役の報告書がないのと同様,取締役会の事 前の認許のある取引の効力に,影響を与えないのであ幻 しかし,詐欺がない場合でも,当該取引が会社に損害を与える結果をもたら したときは,利害関係を有する取締役または副社長,および場合によっては他 の取締役もまた責任を負わなければならない(104条2項)。

(iO) B.Mercadal et P Janin, supra, nO 1396p 425; Ca comsoc.. 16 avril 1969Rev

trim. dr. (om 1969. 1021 obs R Houin; M.. Juglart et B..lppolito, supra, nO 722.7 p. 471; Cass com 17 octobre 1967 (2 arrets), J C P 1968. II 15482 et la note, Bull. av 1967, III. nO 328pp 313 et 314Gaz Pa.l1968 L 6Rev.. trim 川drωm.196890 obs.. R Houin参照。 (71) B.Mercadal et P Janin, supra, nO 1396p.425. (72) 1.Balensi, supra, nO 229p 168 (73) 1 Balensi, supra, nO 232p 170;B.Mercadal et P JaninsranO 1393p 423 (74) L Balensi, supranO 222p 164

(23)

285 取締役・会社聞の取引に関する取締役の責任 -87 このように,取締役会の事前の認許がない場合,または取引契約締結の際に なされる詐欺のみが取引の無効を生起させるだけである。すなわち,詐欺の場合 を除いて,取締役会の事前の認許があれば,株主総会によって承認されない場 合でも,取引は有効であり,攻撃されえないものとなるという法的効果があ公 (ii) 禁止された取引 (1) 会社にとって特に危険だと考えられる取引を,会社がその恥締役と締結 することは,禁止されている。その取引とは,取締役の利益になると特に考え られているような取引である。 取締役に対して禁止されている取引とは, いかなる形式であるかを問わず,会社から金銭の貸付を受ける取引をす ること, 当座勘定その他の方法により無担保信用を受けることを会社に同意させ ること, 第三者に対する自己の債務について会社に保証または手形保証をさせる こと, で あ る ( 法 附 条

1

j

(

2

)

この禁止は,取締役に対してだけではなく,副社長(取締役であると否 とを問わない)・法人取締役の常任代表者・取締役,副社長および法人取締役の (77) 常任代表者の配偶者,尊属および卑属・すべての介在者,に対して,適用される (法106条 3項)。しかし,この禁止は,取締役が法人である場合(法 106条 1 項),会社が銀行業またはその他の金融業を営む場合一通常の条件で締結された 営業のためにする日常取引であるという条件のもとで一(法106条 2項),保険 企業において一通常の条件で締結された日常取引であることを条件とする,保 険契約に関する抵当権付金銭貸付または保険契約の前払いに対して一(保険法 (7'5) B.. Mercadal et P Janin, s.upra, nO l396p. 425; 1. BalensisupranO 157p.. 114; Cass.. com. 22 mai 1970W' arr色t),Bull, dv.1970 IV, nO 165p. 147'参照。 (6) 1. Balensi, supγa, nO 120, p 82; G Ripert et R Roblot, supra, nO 1284p.. 878. (77) B Mercadal et P Janin, supra, nO 1382p 414

(24)

-88← 香川大学経済論叢 286 322-4条),には適用が除外され公

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)

この禁止に反して違法に締結された金銭貸付,無担保信用,保証または 手形保証は無効である(法106条1項)。この無効の性質は,学説・判例上,絶 対的無効であるとされているが,相対的無効であるとする判決もあ公 禁止された取引である貸付がなされた場合,貸付を受けた者は,その貸付を 受けた総額を会社に返還しなければならな

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また,取締役または副社長のために,貸付または他の禁止された取引がなさ れた場合,無効な貸付または無効な保証に同意した柾長は,民事責任を負わな ければならないことがあ

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他方,禁止された取引が同時に会社財産の濫用に なる場合,すなわち,社長,取締役または副松長が,自己のため,または自己 が直接もしくは間接に利害関係を有する他の会社もしくは企業の利益をはかる ために,会担の利益に反することを知りながら,会社の財産または信用を悪意 で利用した場合,取締役等は, 1年以上5年以下の禁固および200フラン以上, 250万フラン以下の罰金,またはそのいずれか一方に処せられ

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2

i

法437条 3

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i

一 日本法における取締役・会社聞の取引 に関する取締役の責任 付取締役・会社間の取ヲ│と取締役の責任

(78) B Mercadal et P Janin, supra, nO 1382p. 414; G. Ripert et R Roblotsupra, nO

1284, p. 878; M Juglart et B Ippolito, suρr,a, nO 722-2p.. 457; 1. Balensis.upra, nO

137, p 97

(79) B Mercadal et P J anin, supra, nO 1382p 390; G. Ripert etR. Roblotsupra, nO

1284, pp 878-879; M. Juglart et B Ippolito, supra, nO 722-2p..458,参照。

(80) 1. Balensi, supra, nO 185p. 134; B Mercadal etP Janinsupra, nO 1382p. 415 ;

M. Juglart et B Ippolito, su,

ρ

ra, nO 722-2p. 457,参照。

(81) M Juglart et B. Ippolito, supra, nO 722-2p 458

(82) M Juglart et B..lppolito, s.upra, nO 722-2p.. 458;B.. Mercadal etP Janinsψra,

nO 1382p 415; 1. Balensis.upra, nO 186p. 135; Cass. crim. 19 octobre 1978D. 1979

153 notel C

(83) 以上の詳細については,拙稿「フランスにおける取締役・会社間の取引」香川大学経済 論叢第57巻3号174頁以下参照。

(25)

287 取締役・会社間の取引に関する取締役の立任 ← 89 このように,外国法は,取締役・会社間の取引の規制において,会社による 取締役に対する信用供与を,特別に規定を設けて別異に規制している。その上, イギリスやフランス、では,信用供与取引違反の場合,刑事罰が科されることす らある。 これに対し,日本では,会社による取締役会に対する信用供与取引も,そう でない他の取引い同様に取締役・会社聞の取引として商法265条によって規 制されている。 しかし,取締役の責任に関し,商法266条1項は r他ノ取締役ニ対シ金銭ノ 貸付ヲ為シタノレトキJ (3号)と「前条第 1項ノ取引ヲ為シタルトキJ (4号) とを分けて規定している。したがって,取締役に対する金銭の貸付に関する取 締役の責任,および,その他の取締役・会社聞の取引に関する取締役の責任の 性質については,見解が分かれている。 ところで,昭和56年改正法の試案 (r株式会社の機関に関する改正試案J)に よれば,取締役が会世に対する責任を負う場合を列挙せずに,法令・定款違反 と取締役に対する金銭の貸付に関する責任の二つに限定して規定し,また,法 令・定款違反の場合を過失責任であるとするとともに,取締役に注意を怠らな かったことの証明責任を負わせようとしていた(試案第二・六

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a)。さらに, 取締役・会社聞の取引に基づく責任の免除も他の責任と同様,総株主の同意を 要件とすることにより厳格化されていた(試案第二・六3e)。しかしながら, 改正法は,大きな変更をせずに責任原因を個別具体的に列挙した。 したがって,取締役の会社に対する責任を,過失責任と解するか,無過失責 任と解するかの解釈問題は,依然残存しているのである。 (i) 取締役に対する金銭の貸付に関する取締役の責任 取締役が会社を代表して他の取締役に対して金銭の貸付をする場合には,取 締役・会社聞の取引として取締役会の承認を得ることを要し,承認なしに会社 が貸付をすることは法令違反であるから,取締役は会社に対して損害賠償責任 を負わなければならない(商法266条1項5号)。しかし,法は,取締役・会社

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