香川生物(Kagawa Seibutsu)(20):7−10,1993.
香川県産カンアオイ属2種の実生個体の生活様式
久 米
修〒760 高松市番町4丁目1番10号 香川県農林水産部林務課
LifeStyleonSubterTaneanSternofHeterotrQPaSpecies
RaisedfromSeedsinKagawaPrefecture
OsamuKume,&曙α∽αP′甲/占c己弘αg5ec£よoJlq/釣reSと, 4−J⊥プロ,βα乃C′乙0,mゐαmα£ぶ弘符0,ノ(pα花 は じ め に カンアオイ属月々とero亡rノqpαの種子による繁殖 を検討する場合,実生発芽からどの程度の時間 で花を着けるのか,つまり種子生産が始まるの かを知る事は重要な事項と思われる。 人工的に栽培繁殖させた場合の事例は,播種 後3∼5年で着花すると言われるが(金野,1983;野々札1983;長友,1986;小清水,1991),自
然状態で生育しているものに関する報告は見ら れない。 筆者は先に,香川県産カソアオ・イ属2種,ナンカイアオイ且nanhaiensis(F.Maekawa)F.
MaekawaとミヤコアオイH.a甲era(F.Mae−kawa)F.Maekawaについて,地下茎の掘り取
り調査を実施し,生活様式の復元を試みた(久 米,1989・1990)。これと同様の手法を用いて, 香川県内に自生する野生のナンカイアオイとミ ヤコアオ■イについて−,実生個体の発芽から着花 までの生活様式の復元を試みた。この結果に基 づき,先に報告した実生個体以外の生活様式と の(久米,1989・1990)比較検討を行った。 本稿を草するに当たり,小清水康夫氏には, 文献の入手について,大変お世話になった。こ こに厚く御礼申し上げる。 方 法 自然条件下のカンアオイ属の着花状況は,当 然自生地の生育環境に影響されることが予想さ れる。しかし,既報の通り実生個体の生育割合 は極少数であり(久米,1989),生育環境と着 花の関係を解析するだけの資料を得る事ほ容易 でほない。従って,香川県内の自生地から出来 るだけ多くの実生個体を得る事に努め,実生個 体と目される個体を選択して−掘り取りを実施し た。 掘り取った地下茎の実生個体と実生個体以外 の判別ほ,実生個体にほ発芽時の子葉の葉柄痕 が対生しており,最古の節にこれが残る車によ り区別した。その後,実生個体以外ほ現地に植 え戻し,実生個体のみを持ち帰り,各年の菓条 の復元と伸長畳の測定に使用した。これらの実 生個体に,生活様式の復元の研究時に得られた 実生個体を追加した(表1)。 葉条の復元は,地下茎に残された鱗片菓(S), 普通菓(P),花(A)の脱落痕の1組が1年間に 形成されたものとみなして(前川,1977;日滞, 1978),年毎にこれを記録し,この1節の長さ を0.5mm単位で計測した。 節型の区分ほ既報(久米,1989)同様,1年 間の菓条が完全にそろっている節をN型とし, 菓条が1年間完全にそろっているが次年の茎が Sから側生している節をC型とし,節の一・部が 欠損して次年の主茎がSから側生している節を L型とした。 −7−OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
表1.掘り取り調査場所と調査個体数 和 名 産 地 標高m 調査年月日 個体数 白鳥町東山常政 50 1986‖1。15 山本町財田西前山下 60 1986..2.11 観音寺市来井町藤/谷菩提山 120 19862,.11 4 1 3 ナンカイアオイ 満濃町炭所西塩田奥 地田町中山蛙子鳴滝 高松市中山町棍香寺 190 1986.1‖25 720 1986.4.5 340 19871“17 ミ ヤ コ アオイ 節長の計測に.当たってほ,N型節においてほ 当年の基部から次年基部までを,C型およびL 型節においては当年の基部から次年基部が着く Sまでを年間伸長畳とした。 菓条の研究に当たっては,発芽年と翌2年目 の節を対象から除外し,3年目以降の節を対象 とした。さらに節長の研究でほ,調査当年の新 薬粂を除外した。また,節長以外の研究にほN 型節とC型節を・合わせた.ものを対象とした。 地下茎の年齢ほ.,発芽当年を1年とし,調査 年の新薬粂までを順次数えた。 1節の菓粂の内,鱗片菓と普通実について, そ・れが復数ある時は,頂芽側から下に向かって 第1,第2,第3と順次順位づけて呼んだ。 普通実の生存年数の研究でほ,新条を除いた 調査時の生薬について,調査年の節の普通菓を 1年葉とし,その前年の節の普通菓を2年菓と, 順次古い方へと番号をつらケた。 分枝している個体ほ,発芽年から調査当年の 節に接続する系統をもって主茎とし,それより 分枝するものを分枝茎とした。 結 果 実生個体における着花節の状況を図1及び図 2に示した。これによると発芽から初めて花を 着けるまでの年数は,発芽年を含めて,ナソカ イ■アオイでほ5年目,ミヤコアオイでは6年目 であった。両種とも初年花の後も連年着花する
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 年
図1.ナンカイアオイの着花節状況圏:着花節
1 2 3 4 5 ¢ 7 8 9 10 咋
図2..ミヤコアオイの着花節状況団:着花節
ー8−OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
アオイでは,1年菓のみ生存している場合が4 個体,1年葉と2年葉が生存している場合が3 個体,2年葉のみ生存している場合が1個体見 られた。ミヤコアオイでほ,1年実のみ生存し ている場合が7個体,1年菓と2年菓が生存し ている場合が2個体見られた。 普通菓の1節当たり着薬数ほ,ナンカイアオ・ イでは1枚のものが46節,2枚が4節,ミヤコ
アオイでほ1枚が54節,2枚が2節と,1枚の
節が多数を占めていた。 1節当たり鱗片乗数は,ナンカイアオイでほ1枚のものが1節,2枚が43節,3枚が6節,
ミヤコアオイでほ2枚が55節,4枚が1節と, 2枚の節がほとんどを占めていた。 1節当たりの着花数ほ,両種とも全て1花で あった。 分枝茎について−ほ,ナンカイアオイだけで2 個体見られた。1個体当たりの争枝茎数ほ1枝 の個体と2枝の個体があり,1節当たり分枝茎 数は全て−1茎であった。分枝をしていたのほ, 7年目と8年目の節であり,全てが調査年の新 条であった.。 考 察 自然状態の香川県産ナンカイアオイとミヤコ アオイは,種子の発芽から5∼6年塵で初花を 着けており,人工的に播種栽培したカソアオ■イ 属の場合の3∼5年生(小清水,1991;他)よ りもやや遅い結果であった。自然条件下でほ, 人工栽培の様に施肥ほ行われない訳であるから, 初花がおよそ2年程度遅れると言うのは当然で ある。むしろ人工栽培との時間的な差ほ,思っ たよりも短いとさえ言える。また,初花を着け た後も連続して開花している場合が観察された ところを見ると,生育条件さえ良好であればこ の2種は,発芽後5∼6年で繁殖廟で成熟する ものがあると言えそうである。しかし−・方にお いて,10年以上のものでも初花を着けていない 場合があり,個体の栄養状態が着花に大きく影 響している事が考えられる。 実生個体の1年目の節の寿命がどの程度であ るのかほ,実生個体と実生個体以外の個体の関 個体が見られたが,ナソカイアオイでほ初年花 の後着花しない個体も見られた。−・方,今回の 調査で最年長の個体は,ナンカイアオイで10年, ミヤコアオイで11年であったが,両種とも発芽 から10年以上たっても花を着けない個体があっ た。 発芽翌年の2年月の菓粂の配列塑を見ると, ナンカイアオイでほSP型が4例,SSP型が4例, ミヤコアオイではSP型が6例,SSP型が2例, SPP型が1例見られた。また2年日の節長につ いてほ,ナンカイアオイで0.20∼0.60cm(平均 0.39cm)の範囲であり,ミヤコアオイで0.05∼ 0.95cm(平均0.44cm)の範囲であった。平均節 長の差について検定したが,両種の間に有意な 差があるとほ言えなかった(有意水準5%,以 下同じ)。 発芽から3年月以降の節について見ると,ナ ンカイアオイでは合計50節中48節がN型節で2 節がC型節であり ,ミヤコアオイでほ56節全て がN型節であった。L型節ほ両種とも見られな かった。N型節の節長について見ると,ナンカ イアオ・イで0.15∼1.15cm(平均0.54cm)の範囲 であり,ミヤコアオイで0.10∼1.05cm(平均 0.60cm)の範囲であった。平均値の差について ほ,両種の問に有意な差があるとほ言えなかっ た。 菓条の配列型を表2に示した。普通菓,花, 鱗片菓の1年間の配列型ほ,種々の細み・合わせ が見られたが,P,A,Sの各枚数を除外すれば, 両種とも基本構成はSPAの順序であった。 普通菓の生業状況について見ると,ナンカイ 表2一.葉粂の模式的配列型 配列型 ナンカイアオイ ミヤコアオイ 1節のみの各型 SAPPSAP,SPASP
合 計 50 56 (頭に着くSの数は省略) 一9−OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
係を検討する時重要である。今回の調査では, 実生個体の最年長のものは10∼11年であった。 これは,これ以上の年齢の実生個体が見られな かったという事であるが,逆に発芽年の節,つ まり1年月の節は10年程度は生存しているもの があると言うことでもある。実生個体以外の地 下茎の平均年齢が,ナンカイアオイで16年,ミ ヤコアオイで14年と言う先の結果(久米,1989) と比較すれば,平均年齢との差が3∼6年程度 あることに.なる。 両種とも,実生個体の2年月の節の鱗片英数 ほ1枚のものが多いが,3年目以降になると実 生個体以外の節と同様2枚が主体となってくる。 また,実生個体の2年日の節長と,3年目以降 の節長の平均値の差を検定してみたが,両種と も有意な差ほ認められなかった。実生個体の3 年目以降のN型節と,実生個体以外のN型節に ついて両種を比較してみると,節長について−は 平均値で2.5mm程度実生個体の節が有意に短か った。節長以外の菓条の特徴を比較してみると, 実生個体ではL塾節が無いという事と分枝茎が 少なく若齢であると言う以外,特に際だった相 違は見られなかった。以上の尊から推察すれば, 実生個体の地下茎は実生以外の地下茎に比べ成 長途上に.あり,実生以外の地下茎ほ,実生個体 の地下茎から発芽年の節が単に脱落したもので はないようである。 摘 要 1.香川県に自生するカンアオイ属2種の実生 個体について,掘り取った地下茎に基づき, 生活様式の復元調査を・行った。 2.発芽年から初花を着けるまでの年数ほ,ナ ンカイアオイで5年目,ミヤコアオイで6年 目が最も早いものであった。 3.今回の調査で見られた最年長の実生個体は, ナンカイアオイが10年,ミヤコアオイが11年 であった。 4.実生個体の2年目の節と3年目以降のN型 節でほ両種とも,菓条の構成に.差異が見られ たが,節長には有意な差が認められなかった。 5.3年目以降の節では両種とも,平均0.5∼ 0.6cmのN型がほとんどを占め,鱗片菓2枚 に普通葉1枚,花を着ける時は花1個の数と 順序であった。