PRC造床スラブの動的特性の変化に関する実験研究
大同大学 正会員 工博 ○山本 俊彦
Abstract:Partial pre-stressing has been used for concrete slabs to control their short- and long-term performance. This construction permits cracking to concrete. It is necessary to clarify t he influence of cracking on the short- and long-term performance of concrete slabs. Experimental results showed that the natural frequencies decreased rapidly in the early stage of the experiment and stabilized after about 200days. The average ratios of the measured natural frequencies at the age of 782 days to the initial values were 0.96 and 0.84 for un-cracked specimens and cracked specimens, respectively. The correction factors of cracking for estimating the natural frequency change are presented. The corrected natural frequencies using effective moment of inertia are relatively in good agreement with the measured ones.
Key words: partial pre-stressing, concrete slab, long-term performance, dynamic characteristic
1.はじめに パーシャルプレストレスは,たわみやひび割れ制御を目的に比較的大スパンスラブに用いられるが, ひび割れの発生を許容するため,長期的な剛性の低下を検討する必要がある。ひび割れによる剛性低 下は固有振動数の低下に繋がり1~3),その健全性が損なわれることがある。一般に,動的な剛性は静的 な剛性より高いと言われるが,ひび割れの発生後の剛性変化については明らかではない。このため, PRC造床スラブの短期・長期載荷実験を行い,その動的特性の変化について調べた。 2.実験概要 2.1 試験体 全12体の両端拘束および単純支持の一方向スラブ試験体を用いた。試験体を図-1および表-1に示す。 S1~S4の両端拘束試験体は上側の実験対象スラブと拘束用の下側スラブ部分は同じ厚さで同量のプレ ストレスを導入した。両端は鋼板を敷き軸方向に拘束せず移動する構造とした。S5は,反力フレーム に軸力を負担させ,かつ下部スラブを厚くし50%程度の乾燥収縮ひずみの拘束を目的とした。PRCスラ ブの板厚比は,両端固定で36および45,単純支持で25とした。S7はS6と同形状の無載荷試験体である。 2.2 プレストレスの導入と応力 PC鋼材の配置は自重をキャンセルする パラボラと,軸力のみを導入する直線の 2種類とした。終局時のプレストレス有 効率は0.85と仮定した。長期作用荷重に よる最大縁曲げ応力は0.647~3.61MPaで, 試験体種別4)は,最大縁応力を対象とし てII種,III種PCとなる。S5~S12試験体 は,曲げ応力によって初期載荷時,ある いは収縮ひずみの拘束により長期的に引 張応力が加算され,ひび割れが生じるこ とを想定した。 図-1 試験体
2.3 使用材料 表-2にコンクリートの性質を,表-3に普通およびPC 鋼材の性質を示す。試験体と同一条件においたコンク リートの4週圧縮強度は,27.9MPaであった。 PC鋼材は,7本よりアンボンド鋼材とした。 2.4 実験方法 材齢28日まで乾燥を防ぎシート養生し, 支柱撤去と同時にコンクリートブロックに よる等分布載荷を行った。固有振動数の測 定は,乾燥収縮の進行に伴い,種々の材齢 で行った。固有振動数の測定は,人体歩行 や日常生じる程度の振動を対象として,サンドバッグ(500g)をスラブ上250mmから落下させ,自由振動 を記録した。実験は,周辺の環境の温湿度の変化を受ける実験室内で行った。長期載荷実験での試験 体にかかる荷重と応力を表-4に示した。長期載荷実験終了後,試験体に3等分点2点短期載荷による強 制変位を与え,変形と動的剛性の変化について調べた。 *D.L. 自重,L.L. 積載荷重,W.L. 全荷重,UB.L. 非釣合荷重 表-1 試験体一覧 試験体 支持条件 L t h 普通鋼材 プレストレス (mm) (mm) (mm) 形状 導入力(kN) PC 区分 S1 両端固定 9000 250 1100 5-D10 パラボラ(e=190mm) 123 II S2 〃 〃 200 1000 6-D10 パラボラ(e=140mm) 134 IIIt S3 〃 7200 200 1000 4-D10 パラボラ(e=140mm) 85.3 〃 S4 〃 〃 160 920 5-D10 パラボラ(e=100mm) 95.2 〃 S5 〃 〃 160 920 〃 〃 95.2 〃 S6 単純支持 4000 160 - 6-D10 - - RC S8 〃 〃 〃 - 〃 パラボラ(e=52mm) 111 III0.2 S9 〃 〃 〃 - 4-D10 〃 111 III0.3 S10 〃 〃 〃 - 6-D10 直線(e=0mm) 55.4 III0.2 S11 〃 〃 〃 - 〃 〃 101 〃 S12 両端固定 3600 120 - 2-D10 - - RC 表-2 コンクリートの性質(4 週) 圧縮強度 引張強度 曲げ強度 弾性係数
(MPa) (MPa) (MPa) (GPa) 27.9 27.3 3.79 24.4
表-3 鋼材の性質
普通鋼材 降伏応力 引張応力 弾性係数 伸び (MPa) (MPa) (GPa) (%) D10 356 510 206 26.7 PC 鋼材 断面積 降伏荷重 引張荷重 シース外径 (mm2) (kN) (kN) (mm) 12.7φ 98.0 156 183 15.3 15.2φ 139 212 261 17.8 表-4 試験体にかかる荷重と応力および固有振動数計算値 試験体 荷重(kN/m)* 応力(MPa) 固有周期(Hz) D.L. L.L. W.L. UB.L. 曲げ応力 軸応力 合計 D.L. W.L. S1 5.89 キャンセル 2.94 8.83 2.94 1.92 -1.27 0.647 9.29 7.59 S2 4.71 〃 〃 7.65 〃 2.98 -1.72 1.26 7.43 5.83 S3 〃 〃 〃 〃 〃 1.92 -1.11 0.814 11.6 9.10 S4 3.77 〃 〃 6.71 〃 2.98 -1.53 1.45 9.29 6.96 S5 〃 〃 〃 〃 〃 〃 0 2.98 〃 〃 S6 3.76 - 3.92 7.68 7.68 3.61 - 3.61 13.3 9.31 S8 〃 キャンセル 7.85 11.6 7.85 3.68 -0.98 2.70 〃 7.57 S9 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 S10 〃 - 3.92 7.68 7.68 3.61 -0.49 3.12 〃 9.31 S11 〃 - 〃 〃 〃 〃 -0.98 2.63 〃 〃 S12 2.83 - 2.83 5.66 5.66 2.55 - 2.55 29.7 21.0
2.5 固有振動数 各試験体の固有振動数は,下式により 求めた。
A
I
E
l
k
f
n c c n
2
22
(1) ここに,fn– 固有振動数; kn – 支持条 件による係数(両端固定-4.73,単純支持-π);l
– スパン; Ec – コンクリートの ヤング係数; Ic – スラブの断面2次モー メント(鉄筋無視); ρ– 積載荷重を含む スラブ質量; A – スラブ断面積 3. 実験結果 3.1 載荷時のスラブの特性 表-5に各試験体の材齢28日載荷時 のたわみと固有振動数を示した。ま た,図-2にスラブ応力と弾性剛性計 算値との比を示した。載荷時に曲げ ひび割れの生じなかったS1~S4で は , た わ み 計 算 値 に 比 し て 1.05 ~ 1.12と高い剛性を示した。 固有振動数もたわみと同様計算値 に対して1.09~1.13と高い値を示し た。一方曲げひび割れを生じたS5~ S11は,たわみ計算値に比して0.573 ~0.99と大きな剛性低下を示した。 ひび割れの影響を考慮したACI式に よる剛性計算値は,実測たわみ剛性 表-5 載荷時のスラブの静的および動的特性 試験体 スラブ応力 たわみ(mm) 固有振動数(Hz) 剛性比* 剛性比** (MPa) δm δc δc/δm (δc/δm) 1/2 fm fc fm/fc Dd/Ds Ie/I S1 0.647 1.71 1.88 1.10 1.05 8.06 7.56 1.07 1.02 - S2 1.26 3.26 3.66 1.12 1.06 6.35 5.83 1.09 1.03 - S3 0.814 1.43 1.50 1.05 1.02 10.3 9.09 1.13 1.10 - S4 1.45 2.68 2.93 1.09 1.05 7.57 6.90 1.10 1.05 - S5 2.98 2.96 2.93 0.990 0.995 8.30 6.90 1.20 1.21 0.914 S6 3.61 6.39 3.66 0.573 0.757 9.52 9.31 1.02 1.35 0.520 S8 2.70 4.06 3.73 0.919 0.958 6.92 7.57 0.91 0.95 0.836 S9 2.70 4.62 3.73 0.807 0.899 7.20 7.57 0.95 1.06 0.812 S10 3.12 4.22 3.66 0.867 0.931 10.3 9.31 1.10 1.18 0.693 S11 2.63 3.97 3.66 0.922 0.960 10.3 9.31 1.10 1.15 0.869 δm: たわみ実測値,δc: たわみ計算値,fm: 固有振動数実測値,fc: 固有振動数計算値 *Dd: 動的剛性, Ds: たわみから求めた動的剛性,** Ie: ひび割れ断面剛性 (ACI, 2005), I: 断面剛性 0.50 0.75 1.00 1.25 0.00 1.00 2.00 3.00 4.00 剛性比 スラブ応力(MPa) δc/δm (δc/δm)1/2 fm/fc 図-2 スラブ応力と載荷時の剛性比 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 10.0 11.0 0 200 400 600 800 fm (H z) 材齢 (日) S1 S2 S3 S4 S5 図-3 固有振動数の変化(S1~S5)をやや上回る値を示した。計算値では PC鋼材は剛性に寄与するとした。固有 振動数は,計算値に対しそれほど大き な低下を示さず,たわみから求められ る剛性との違いが見られた。 3.2 固有振動数の長期的変化 表-6に材齢782日での積載荷重およ び自重での固有振動数の実験開始時お よび計算値との比を示す。また,図-3, 図-4に各試験体の固有振動数の変化を 示す。S1~S4試験体は,長期載荷後の 固有振動数の低下はほとんど 無かった。S5試験体は,除荷 時の固有振動数の低下が見ら れた。S6~S11の単純支持ス ラブは,ひび割れの発生によ り初期に固有振動数の低下が 見られた。 3.3 ひび割れ状況 図-5に試験体S5,図-6に試験体S6-S11の長期載 荷終了時(材齢782日)のひび割れ発生状況を示 す。S1~S4試験体は,固定端部にわずかなひび割 れ発生が見られた。S5試験体は,やや多くのひび 割れ発生が見られた。一方,単純支持スラブは, RCのS6試験体およびPC鋼線直線配置のS10,S11試験体に多くのひび割れ発生が見られた。 3.4 曲げ応力と固有振動数の変化 図-7に曲げ応力と固有振動数の変化を示した。曲げ応力がひび割れを生じるうる2.5MPaを超える試 験体は,固有振動数の低下が大きく,曲げ応力の増大に伴って低下の割合が大きくなっている。RC, PRCとも同様の傾向を示している。 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 10.0 11.0 0 200 400 600 800 fm (H z) 材齢 (日) S6 S8 S9 S10 S11 図-4 固有振動数の変化(S6~S11) 表-6 固有振動数の変化 試験体 固有振動数(Hz) 比 f28,DL f28,WL f782,WL f782,DL f782,DL/f28,DL f782,WL/f28,TL f782,DL/fcal f782,WL/fcal S1 10.1 8.24 7.83 9.76 0.966 0.950 1.05 1.04 S2 8.06 6.35 6.08 7.85 0.974 0.957 1.06 1.04 S3 12.5 10.3 9.63 12.1 0.970 0.940 1.04 1.06 S4 10.3 7.81 7.54 10.1 0.988 0.965 1.09 1.09 S5 10.5 8.30 7.77 9.08 0.865 0.936 0.977 1.13 S6 14.9 9.52 7.67 11.0 0.739 0.806 0.827 0.824 S8 15.4 7.84 6.81 13.1 0.852 0.869 0.985 0.900 S9 14.9 7.32 6.38 13.3 0.890 0.872 0.996 0.843 S10 15.4 10.3 8.54 12.4 0.805 0.833 0.931 0.917 S11 15.1 10.3 8.43 12.6 0.830 0.822 0.944 0.905 図-5 ひび割れ状況(S5) 図-6 ひび割れ状況(S6~S11)
3.5 短期載荷実験 材齢782日までの長期載荷実験終了後,3 等分点2点載荷による,変形制御による1方向 繰り返し載荷を行った。固有振動数は,各載 荷サイクルにおいて荷重除荷後の自重時の測 定を行った。図-8に変形と固有振動数の低下 率を示した。実際の変形では長期たわみが加 算される。両端固定スラブ試験体では,プレ ストレスによる軸力を反力フレームで支持し 試験体に圧縮力が作用していないS5で初期か ら低下が大きい。その他の試験体も,端部普 通鉄筋の降伏後R=1/100以降低下が大きく なった。 1方向試験体では,無載荷試験体S7は変 形の増大と共に固有振動数が低下するが, そ の 他 の試 験 体も 普 通鉄 筋 の 降伏 後 R = 1/100以降低下が大きくなった。 4. 長期・短期の動的特性の変化予測 各種の構造計算規 定4 ~ 7)では,ク リー プ・乾燥収縮やひび割れ発生による影響 を考慮し,長期変形の予測手法が述べら れているが,動的な特性については明確 に示されてはいない。このため,無ひび 割れの場合の(2)式に対し,ひび割れの発 生による影響を(3)式により検討する。 c
f
f
for Md < M’r (2) cf
f
for Md > M’r (3) ここに,fc– コンクリートのヤング係数 Ec と スラブの断面2次モーメントIc(鉄筋 無視)から求められる固有振動数,ν; ひ び割れによる修正係数 表-7,図-9に,ACI5)式によるひび割れ 剛性を考慮した計算値:fcor,A,とスラブ の全せいhの代わりに有効せいdを用いた 計算値:f'cal と実測値との比較を示す。 材齢28日の載荷時にひび割れを生じた試験体に対する計算値:fcor,Aは,0.95~0.98と比較的良い適応 を示す。また,載荷時無ひび割れ試験体の材齢782日での値も同程度を示している。一方,計算値: 0.70 0.80 0.90 1.00 0.00 1.00 2.00 3.00 4.00 比 ( f782 / f28 ) スラブ応力(MPa) W.L. D.L. 図-7 スラブ応力と固有振動数の低下 0.60 0.70 0.80 0.90 1.00 0.00 2.00 4.00 6.00 固有振動数低下 率 変形角 R(1/100) S1 S2 S3 S4 S5 0.50 0.60 0.70 0.80 0.90 1.00 0.00 2.00 4.00 6.00 8.00 10.00 固有振動数低下 率 変形角 R(1/100) S6 S8 S9 S10 S11 S7 図-8 変形角と固有振動数の低下率f'cal に対してはRCスラブは良い 適合を示すが,PRC造スラブでは 計算値は10%程度の過小評価とな る。 長期載荷後の変形を与えた場合 の固有振動数は,降伏変形経過後 R=1/100 にお いて計 算値: f'cal 程 度まで低下する。RCの長期載荷試 験体S6は,当初からこれより低い 値を示した。 5. まとめ PRC造床スラブの長期載荷実験およ びその後の短期載荷実験から,PRC造 床スラブの動的特性の変化について以 下の結果が得られた。 1)ひび割れを生じた試験体では,試 験体の固有振動数は載荷開始後早 期に低下し,材齢200日前後で安定 した。 2)材齢782日での固有振動数は,無ひ び 割 れ 試 験 体 で は 載 荷 時 に 比 し 0.94~0.99,ひび割れ 試験体では 0.74~0.94と大きく低下した。 3)ひび割れを生じるPRC造床スラブの 長期的な固有振動数は,ひび割れ による剛性低下を考慮することにより,比較的よく推定できる。 4)全せいhの代わりに有効せいdを用いて修正すると,短期・長期を含めて降伏変形程度までのPRC造 床スラブの振動数を,安全側に予測できる。 参考文献 1) 井野 智他:大たわみの発生した鉄筋コンクリート床スラブの1次固有周期,日本建築学会学術講 演会梗概集構造系,pp.1557-1558,1979
2) Yamamoto, T.: Change in Dynamic Properties of Reinforced Concrete Slabs, Transactions of JCI, pp.581 -588, 1984
3) 山本俊彦:曲げおよび乾燥収縮ひび割れを生じる鉄筋コンクリート造床スラブの動的特性の変化に 関する実験研究,コンクリート工学年次論文集,2010
4) 日本建築学会:プレストレスト鉄筋コンクリート(III種PC)構造設計・施工指針・同解説,2003, 332p.
5) ACI 318-05: Building Code Requirements for Structural Concrete and Commentary, 2005 6) CEB-FIP: Model Code1990, London, Thomas Telford, 1990
表-7 固有振動数の推定値に対する比
試験体 ν 比
(Ie/I)0.5 (d/t)3/2 fDL/fcor,A fWL/fcor,A fDL/f'cal fWL/f'cal
S1 1.00 1.00 0.966 0.95 0.966 0.95 S2 1.00 1.00 0.974 0.957 0.974 0.957 S3 1.00 1.00 0.97 0.94 0.97 0.94 S4 1.00 1.00 0.988 0.965 0.988 0.965 S5 0.956 0.775 0.905 0.979 1.12 1.21 S6 0.721 0.775 1.02 1.12 0.953 1.04 S8 0.914 0.775 0.932 0.95 1.10 1.12 S9 0.901 0.775 0.987 0.967 1.15 1.12 S10 0.833 0.775 0.967 1.00 1.04 1.08 S11 0.932 0.775 0.89 0.882 1.07 1.06 Av. S5-S11 - - 0.951 0.983 1.07 1.10 Av. S1-S11 - - 0.96 0.971 1.03 1.04 0.80 0.90 1.00 1.10 1.20 1.30 0.00 1.00 2.00 3.00 4.00 比 スラブ応力(MPa) fDL/fcor,A fWL/fcor,A fDL/f'cal fWL/f'cal 図-9 スラブ応力と修正固有振動数と実測値の比