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状況を適切に把握したうえで 科学的かつ計画的な個体数管理や被害管理の方針を定める必要がある そこで本研究では 兵庫県に生息するニホンザルの個体数調査を行い 個体数とその増減の傾向を把握するとともに 地域絶滅防止と被害抑制の観点から保護管理上留意すべき点について考察した 2. 方法 図 1 兵庫県のニ

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兵庫県に生息するニホンザルの個体数とその動向

鈴木克哉1*・森光由樹1・山田一憲2・坂田宏志1・室山泰之1 1兵庫県立大学自然・環境科学研究所/兵庫県森林動物研究センター 2大阪大学大学院人間科学研究科 key words: 地域個体群 群れ 個体数 新生児保有率 有害捕獲 個体数管理

1. はじめに

兵庫県内にニホンザル(Macaca fuscata)が生息する地域は6カ所(うち2カ所は餌付け 群)あり、各地域に1~4のサルの群れが分布して地域個体群を形成しているが、各地域個 体群は互いに孤立している(図1)。一方で、すべての群れが農作物に被害を出すなど、それ ぞれの地域で地域住民との深刻な軋轢が生じている。被害対策として毎年有害捕獲が行われ ているが、無計画な捕獲が続くと地域的な絶滅が起こる可能性もあるため、個体数や被害の *連絡先:〒669-3842 兵庫県丹波市青垣町沢野 940 兵庫県森林動物研究センター e-mail: k_suzuki@wmi-hyogo.jp 要 点 ・ 兵庫県に生息するニホンザルの個体数とその増減について明らかにした。 ・ 県内の野生個体群の総個体数は、2009 年で 522 頭、2010 年で 547 頭、2011 年 で460 頭と推定され、年平均増加率は-6.1%であった。一方、餌付け個体群の総 個体数は、2008 年で 281 頭、2011 年で 386 頭と推定され、3 年間の年平均増加 率は11.2%であった。 ・ ほとんどの群れでオトナメスの新生児保有率が高いことから、農作物など栄養価 の高い食物への依存により、出産率が向上していることが推測された。 ・ 個体数の増減は群れによって大きく差があり、ここ数年の有害捕獲数が多い地域で は、高い新生児保有率にもかかわらず、個体数が減少傾向にある群れもあった。 ・ 2011 年の個体数調査結果では、美方地域個体群と豊岡地域個体群がともに1群のみ でオトナメスが11 頭であった。また篠山地域個体群は 4 群のうち 3 群がオトナメ ス10 頭前後であり、地域絶滅の防止のためには、オトナメスの捕獲数について注意 を払う必要がある。 原著論文

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69 状況を適切に把握したうえで、科学的かつ 計画的な個体数管理や被害管理の方針を 定める必要がある。そこで本研究では、兵 庫県に生息するニホンザルの個体数調査 を行い、個体数とその増減の傾向を把握す るとともに、地域絶滅防止と被害抑制の観 点から保護管理上留意すべき点について 考察した。

2. 方法

個体数カウント調査 2009 年度から 2011 年度にかけて兵庫県内に生息する野生個体群に対して個体数カウント 調査を実施した。調査は毎年9 月~12 月の秋季に、ニホンザルの性・年齢判別が可能な調査 員2~3 名で行った。各群れを原則 3 日間終日追跡し、道路や河川などのオープンスペースを 群れが横断する際に、個体数と集団構成(性・年齢)を把握した。カウント条件が整わず、 期間中に精度の高い調査結果が得られなかった場合は、必要に応じて補足的な調査を行った。 佐用・淡路の両餌付け群に関しては、2008 年度と 2011 年度に、餌付け時間帯に餌場で確認 できた個体数を、管理者に対する聞き取りまたは直接観察により性・年齢ごとに把握した。 性・年齢判別については、体サイズや性器などの形態的特徴を直接観察して行った。ニホ ンザルが性的に成熟するのは、飼育下ではメスが3 才、オスが 4 才の交尾期を迎える頃であ るが、野生下では成長が遅く、メスの初産年齢は 6 歳以降にずれこむことが多い(斉藤・大 井 2003)。したがって、年齢については、性成熟を基準に、新生児(0 歳)、幼獣(およそ 1 ~3 才)、亜成獣(およそ性成熟に達する 4~5 才)、成獣(およそ体の成長が完成し、実際に 野生下で繁殖可能な 6 才以上)の4段階に区分した。性別については、可能な限り判別を試 みたが、観察条件が特別に良い場合を除き、未成熟個体の性判別は困難なため、実際には、 「オトナオス(成獣雄)」、「オトナメス(成獣雌)」、「ワカモノオス(亜成獣雄)」、「ワカモノ メス(亜成獣雌)」、「コドモ(幼獣)」、「アカンボウ(新生児)」の6つのカテゴリーに分類し、 集計した。なお観察条件が不十分で性・年齢判別が困難だった場合は「不明」とした。 新生児保有率 個体数調査によって得られた結果により、群れごとに当該年のオトナメス数に対するアカ ンボウ数の割合を算出し、出産率の指標とした。 個体数増加率 個体数の動向を検討するため、個体数カウント結果を群れおよび地域個体群ごとに集計し、 増加率を算出した。野生個体群で 2 年連続個体数を把握できた場合には、前年個体数に対す る増加率を、2009 年と 2011 年に個体数が把握できた場合は、2 年間の年平均増加率を幾何 図 1 兵庫県のニホンザル地域個体群の分布状況

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70 平均にて算出した。餌付け個体群に対しては、2008 年と 2011 年の結果をもとに、3 年間の 年平均増加率を幾何平均にて算出した。 有害捕獲数の把握 兵庫県における2009 年度から 2011 年度までの 3 年間のニホンザル有害捕獲数を集計した。 ニホンザルの有害捕獲数は農林事務所単位で年度ごとに集計されているが、2010 年度までの 集計では、捕獲個体の性・年齢に関する情報や所属する群れに関する情報が記録されていな いため、群れごとの捕獲数を把握することができなかった。しかし、捕獲場所により地域個 体群の識別は可能であるので、地域個体群ごとに各年度の捕獲数の合計を集計した。

3.結果

個体数について 野生個体群に対する2009~2011 年度までの 3 年間の個体数カウント調査結果と、餌付け 個体群に対する2008 年と 2011 年の個体数カウント調査結果を表1に示した。2009 年の篠 山B 群、2010 年の篠山 D 群、2011 年の大河内 C 群については、調査期間中にカウント機会 に恵まれなかったため、当該年の個体数を把握することができなかった。淡路・佐用の両餌 付け群については、2009 年と 2010 年は調査を実施しなかった。また、淡路餌付け群に対し ては、2008 年の調査時では個体数が多く、性・年齢の把握ができずに頭数の概数を管理者に 対する聞き取りにより把握したが、その後餌場での個体識別調査が進んだことにより、2011 年は性・年齢構成を把握することができた。 豊岡地域個体群は城崎A 群が単群で分布するのみであり、群れの個体数は 3 年間とも 40 頭以 下であった。美方地域個体群は美方A 群が単群で分布しており、群れの個体数は 2009 年時には 51 頭であったが、2011 年には 35 頭に減少していた。大河内・生野地域個体群には 3 群が分布し ており、2009 年の個体数はいずれも 70 頭を超していたが、2011 年には、大河内 A 群、B 群の 両群で個体数を減少させていた。また、大河内C 群は 2009 年、2010 年時に 120 頭を超す頭数が 確認されており、県内の野生群ではもっとも個体数の大きい群れであることが確認された。篠山 地域個体群は4 群が分布しており、篠山 A 群の 3 年間の個体数は約 60 頭前後であるが、他の 3 群についていずれも30 頭前後の個体数であることが判明した。そのほか、佐用餌付け群では、2008 年の101 頭から 2011 年には 76 頭まで減少、淡路餌付け個体群では、2008 年の 180 頭から 2011 年には310 頭まで増加していた。 新生児保有率について それぞれの個体数カウント結果から、オトナメスの新生児保有率を算出した(表1)。大河 内C 群、淡路餌付け群を除くすべての群れで、新生児保有率が 50%を超える年があった。な かでも、城崎 A 群や篠山 B 群のように 2 年連続して 70%前後の新生児保有率を記録する群 れもあった。 一方で、2011 年の新生児保有率は、豊岡地域個体群、美方地域個体群、大河内・生野地域

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71 個体群で過去2 年と比較して低かった。とくに美方 A 群、大河内 A・B 群では 10%前後と顕 著に低かった。 表1 個体数カウント調査の結果 個体数の変動について 表2に個体数カウント結果に基づき地域個体群及び群れごとの個体数の変動を示した。デ ータが欠測している年については、それぞれの群れの前年または後年の個体数と年平均増加 率を用いて、当該年度の個体数を推定した。そのうえで兵庫県に生息するニホンザルの個体 数を算出すると、野生個体群では、2009 年で 522 頭、2010 年で 547 頭、2011 年で 460 頭 と推定された。最初の 1 年間の増加率は前年比 4.8%、次の1年間の増加率は前年比-15.9% であり、2 年間の年平均増加率は-6.1%であった。一方、餌付け個体群では 2008 年の個体数 は281 頭、2011 年は 386 頭と推定され、3 年間の年平均増加率は 11.2%であった。 個体数の増減は群れによって大きく差がある結果となった。淡路餌付け群については、2008 年の個体数が約 180 頭であったのに対して、2011 年は個体識別による直接観察で 310 頭を 確認しており、年平均増加率は19.9%となっていた。そのほか、篠山 C 群、篠山 A 群、篠山 D 群、大河内 C 群で年平均増加率が 17.3%、7.6%、4.6%、2.4%と個体数が増加傾向にあっ た。一方、大河内A 群、篠山 B 群、美方 A 群、大河内 B 群、佐用餌付け群、城崎 A 群につ メス オス 不明 メス オス 不明 2009 11 5 0 2 1 0 7 8 0 34 72.7% 直接観察 2010 10 8 0 1 3 0 11 7 0 40 70.0% 直接観察 2011 11 5 0 0 1 1 8 5 0 31 45.5% 直接観察 2009 19 5 0 0 1 1 15 10 0 51 52.6% 直接観察 2010 14 6 0 1 3 3 7 11 0 45 78.6% 直接観察 2011 11 5 0 3 2 1 12 1 0 35 9.1% 直接観察 2009 25 10 0 3 3 3 17 14 7 82 56.0% 直接観察 2010 30 9 0 0 0 3 21 18 0 81 60.0% 直接観察 2011 17 5 0 1 1 5 12 2 0 43 11.8% 直接観察 2009 21 11 0 2 0 2 26 9 0 71 42.9% 直接観察 2010 27 8 0 0 4 6 27 18 0 90 66.7% 直接観察 2011 21 3 0 6 2 1 21 2 0 56 9.5% 直接観察 2009 42 17 0 2 1 10 38 13 0 123 31.0% 直接観察 2010 47 9 2 6 7 6 30 17 2 126 36.2% 直接観察 2011 機会なし 2009 16 7 0 3 1 1 21 8 0 57 50.0% 直接観察 2010 18 11 0 3 1 7 17 9 0 66 50.0% 直接観察 2011 20 6 0 1 2 4 22 11 0 66 55.0% 直接観察 2009 機会なし 2010 12 5 0 0 3 0 11 8 0 39 66.7% 直接観察 2011 11 3 0 0 0 1 9 8 0 32 72.7% 直接観察 2009 8 5 0 1 1 0 5 4 0 24 50.0% 直接観察 2010 8 2 0 0 1 2 8 5 1 27 62.5% 直接観察 2011 8 6 0 2 1 1 12 3 0 33 37.5% 直接観察 2009 10 2 0 1 0 0 13 6 0 32 60.0% 直接観察 2010 機会なし 2011 9 4 0 0 0 3 13 6 0 35 66.7% 直接観察 2008 31 3 0 5 3 7 35 17 0 101 54.8% 直接観察 2009 調査未実施 2010 調査未実施 2011 20 5 0 7 3 0 36 5 0 76 25.0% 直接観察 2008 180 聞き取り 2009 調査未実施 2010 調査未実施 2011 106 14 0 13 3 13 115 46 0 310 43.4% 直接観察 野 生 個 体 群 餌 付 け 個 体 群 オトナ ワカモノ コドモ 豊岡地域個体群 城崎A 地域個体群 群れ 調査年 0歳 不明 合計 新生児 保有率 備考 美方地域個体群 美方A 大河内・生野地 域個体群 大河内 A 大河内 B 大河内 C 性・年齢構成は不明 佐用餌付け群 篠山地域個体群 篠山A 篠山B 篠山C 篠山D 淡路餌付け群

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72 いては、個体数は減少傾向にあり、それぞれの年平均増加率は-27.6%、-17.9%、-17.2%、 -11.2%、-9.0%、-4.5%であった。 表 2 地域個体群及び各群れの個体数の変動の推定 有害捕獲数について 兵庫県における2009 年度から 2011 年度までのニホンザル有害捕獲数を地域個体群ごとに 表3 に示した。3 年間で、大河内・生野地域個体群で 108 頭、美方地域個体群で 40 頭、篠山 地域個体群で28 頭、豊岡地域個体群で 14 頭のニホンザル有害捕獲が実施されていた。捕獲 数が多かった地域個体群では、期間集中的な捕獲が実施されている傾向があり、大河内・生 野地域個体群では、2010~11 年度の 2 年間で 98 頭(全期間中の 91%)、美方地域個体群で は、2009~10 年度の 2 年間で 37 頭(同 93%)の有害捕獲が実施されていた。一方、餌付け 個体群では、有害捕獲はほとんど実施されていなかった。 表 3 地域個体群ごとの有害捕獲数の推移 2008年 2009年 2010年 2011年 2009‐10年 2010‐11年 年平均 34 40 31 17.6% -22.5% -4.5% 51 45 35 -11.8% -22.2% -17.2% 276 297 228 7.6% -23.2% -9.1% 82 81 43 -1.2% -46.9% -27.6% 71 90 56 26.8% -37.8% -11.2% 123 126 129* 2.4% 2.4% 161 165 166 2.5% 0.6% 1.5% 57 66 66 15.8% 0.0% 7.6% 48* 39 32 -17.9% -17.9% 24 27 33 12.5% 22.2% 17.3% 32 33* 35 4.6% 522 547 460 4.8% -15.9% -6.1% 101 91* 83* 76 -9.0% 180 216* 259* 310 19.9% 281 307 342 386 11.2% 829 889 846 7.2% -4.8% 1.0% *はデータ欠損年。前年または後年の個体数と年平均増加率により算出した。 増加率 (大河内A) (大河内B) (大河内C) 地域個体群(群れ名) 総数 推定個体数 野生個体群合計 餌付け 個体群 佐用餌付け個体群 淡路餌付け個体群 餌付け個体群合計 篠山地域個体群 (篠山A) (篠山B) (篠山C) (篠山D) 野生 個体群 豊岡地域個体群   (城崎A) 美方地域個体群  (美方A) 大河内・生野地域個体群 地域個体群 2009年度 2010年度 2011年度 合計 豊岡地域個体群 3 5 6 14 美方地域個体群 21 16 3 40 大河内・生野地域個体群 10 74 24 108 篠山地域個体群 12 9 7 28 佐用餌付け群 0 0 0 0 淡路餌付け群 0 1 1 2 その他 不明 0 2 0 2 46 107 41 194 野生個体 群 餌付け個 体群 総数

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4. 考察

2009 年から 2011 年の期間中、兵庫県に生息するニホンザルの個体数は県下全体では大き な変化は見られないが、動向は群れにより大きく異なっていた(表2)。ニホンザルは通常 2~ 3 年に 1 回の間隔で出産するが、餌付け個体群や農作物加害群など、栄養状態がよい条件下 では出産間隔が短くなることが知られている(室山 2008)。ニホンザルは春から初夏にかけ て出産するため、秋のカウント調査時の新生児保有率は、実際の出産率に対して過小評価と なっている可能性もあるが、それでも兵庫県下では、大河内C 群を除くすべての群れで、新 生児保有率が50 %を超える年があることが確認された。なかには連続して 70 %前後の新生 児保有率を記録する群れ(城崎A 群、篠山 B 群)もあり、これは一般的な餌付け群の出産率 50-62 %(室山 2008)よりも高い値を示していた。このように、ほとんどの群れでオトナメ スの新生児保有率が高いことから(表1)、農作物など栄養価の高い食物への依存により、出産 率が向上していることが推測される。一方で、地域個体群として増加傾向にあるのは、淡路 餌付け個体群と篠山地域個体群だけであった。 兵庫県では、2009 年度から 2011 年度までの 3 年間で、合計 194 頭の有害捕獲が実施され ていた(表3)。今回の有害捕獲数の集計値では、捕獲個体の所属する群れの把握がされておら ず、また、個体数カウント調査の実施時期が年度途中であるため、今後慎重に検討する必要 があるが、本研究の結果より、高い新生児保有率にもかかわらず、群れの個体数の増加率が 低く保たれているのは、有害捕獲による影響が大きいと推測された。とくにここ数年、重点 的に有害捕獲を実施している美方地域個体群や大河内・生野地域個体群では、個体数が大き く減少している傾向にあった(表2)。このうち大河内・生野地域個体群は 3 群あり、現状で はいずれの群れも比較的規模が大きいが、美方地域個体群には 1 群が生息するのみであり、 オトナメス頭数も2011 年時点で 11 頭にまで減少していた(表1)。 兵庫県のデータを用いたニホンザル存続確率のシミュレーション結果によると、群れのオ トナメスの個体数が10 頭を下回ると 20 年後の存続確率が急激に減少することが指摘されて いる(坂田・鈴木 2013)。2011 年の個体数カウント調査結果では、美方地域個体群のほか、 豊岡地域個体群が1群のみでオトナメスが 11 頭、篠山地域個体群は 4 群生息しているが、 そのうち3 群がオトナメス 10 頭前後であった。地域絶滅の防止のためには、各群れのオトナ メスの個体数を注意深くモニタリングしてゆくとともに、オトナメスが10 頭を下回るリスク のある群れに関しては、オトナメスの捕獲を必要最小限にしつつ、加害度の高い問題個体を 選択的に除去する個体数管理手法や、住民が主体となって行う効率的な被害管理手法を提案 していく必要がある。 一方、農作物や餌場に依存し出産率が高い状態では、個体数増加による被害地域の拡大や 群れの分裂への注意も必要である。たとえば、佐用餌付け群については、有害捕獲は行われ ていないのも関わらず、個体数が減少しているが、最近、餌場に居る群れ以外に、周辺集落 に出没する集団の目撃情報もあることから、群れが分裂もしくは分派している可能性がある。 十分な情報が蓄積されているわけではないが、例えば、同様に絶滅が危惧される状態から、 ここ 50 年ほどで群れ数や個体数を大きく拡大させた下北半島のニホンザル地域個体群の加

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74 害群における観察では、約70 頭(オトナメス 20 頭)前後で分派行動や分裂行動が確認され ている(鈴木、未発表)。個体数が多く、農作物依存が大きい群れの場合、群れの分裂や出没 地域の拡大を防止するために、計画的な捕獲について検討する必要がある。 3 年間の個体数カウント調査により、兵庫県に生息するニホンザルの個体数とその増減に ついての基礎資料を蓄積することができた。しかし、全国各地の調査結果によると、出産率 や死亡率については、森林内の食物条件や気象条件等によって年変動があることが推測され る(大井・増井 2002)。兵庫県下でも、2011 年の新生児保有率は、豊岡地域個体群、美方地 域個体群、大河内・生野地域個体群で過去2 年と比較して低かった。とくに美方 A 群、大河 内A・B 群では 10 %前後と非常に低い値を示しており、出産率に大きな年変動があることを 示唆するデータが得られた。今後は、性・年齢構成についてより精度の高いデータを蓄積し てゆくことによって、出産率だけでなく有害捕獲以外の自然死亡率の変動を明らかにしてゆ くことも必要である。また、被害対策が進展すれば、農作物への依存が少なくなることによ って出産率の低下や自然死亡率の増加が起こる可能性もある。被害防止や地域個体群保全の ためには、今後も、兵庫県内のニホンザルの個体数を注意深くモニタリングしながら、群れ の出産率や死亡率とその変動の大きさ、変動の要因を明らかにするとともに、新しく得られ た知見を適切に兵庫県が策定するニホンザル保護管理計画にフィードバックさせてゆくこと が重要である。

引用文献

室山泰之(2008)里山保全と被害管理-ニホンザル.「日本の哺乳類学 第2巻 中大型哺乳 類・霊長類」, 高槻成紀・山極寿一編著, pp. 427-452. 東京大学出版会. 東京. 大井徹・増井憲一 (2002)ニホンザルの自然誌-その生態的多様性と保全. 東海大学出版会, 東京,367pp. 斉藤千映美・大井徹(2003)2-4 繁殖生理(サルの被害対策のための基礎知識). 「農林業 における野生獣類の被害対策基礎知識-シカ、サル、そしてイノシシ-」,農林水産技術会 議事務局・森林総合研究所・農業・生物系特定産業技術研究機構, p.27. 坂田宏志・鈴木克哉(2013)モンテカルロシミュレーションによるニホンザル群の存続確率 の推定. 兵庫ワイルドライフレポート 1: 75-79.

参照

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