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認知行動療法と薬剤調整を連携させることにより回復に至った特定の恐怖症(HIV感染恐怖)を伴う遷延したうつ病の一例

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認知行動療法と薬剤調整を連携させることにより回復に至った

特定の恐怖症(

HIV

感染恐怖)を伴う遷延したうつ病の一例

宮崎 哲治

要 約 曝露反応妨害法(ERP)や認知療法と薬剤調整の連携により回復し、復職に至ったHIV感染恐怖 を伴う遷延したうつ病患者を経験したので報告する。HIV感染恐怖もうつ病の維持要因であったた め、薬剤調整を行い、体が楽になったタイミングでHIV感染恐怖に対しERPを導入した。このため、 ERPをすればHIV感染恐怖がよくなるというルールは、患者にとって確率の高い結果を記述した ルールとなり、従いやすくなったと推察される。効果を教示されたのちにERPをすることはルール 支配行動だが、できたときに、生活が楽になるまたはうれしいと直ちに感じられるホームワークを設 定することにより、ERPをすることが行動内在的強化随伴性を有することが期待できるようにもし た。このような工夫により、本来苦痛を伴う治療法であるERPを容易に導入することができたため HIV感染恐怖が回復し、同疾患の影響を受けていたうつ病も回復したと推測する。 キーワード:認知行動療法 薬物療法 うつ病 限局性恐怖症 行動内在的強化随伴性 はじめに ひところうつ病は心の風邪と言われ、うつ病 は治療すれば治ると認識している人は少なくな いかも知れない。しかしうつ病の治療成績は楽 観できるものではなく、米国におけるうつ病の 治療に関する大規模臨床試験であるSTAR*D

(Sequenced Treatment Alternatives to Relieve Depression)研究では、第1ステップである 抗うつ薬の治療での寛解率は約30%、その後、 3度の異なる抗うつ薬への切り替えや増強療 法注1)などを行っても、約30%のうつ病患者は 寛解には至らなかったことが報告されている (Rush et al., 2006)。このように薬物療法の効 果には限界があり、この状況を打開するために は精神療法の併用が必要となる。2種類の作用 機序の異なる抗うつ薬によって十分治療を行っ ても反応しないうつ病は治療抵抗性うつ病と定

義される(Thase & Rush, 1995)が、Blackburn

らは治療抵抗性うつ病に対して、薬物療法と認 知行動療法(cognitive behavior therapy;以下、

CBT)の 併 用 療 法 の 有 効 性 を 示 し て い る (Blackburn et al., 1981)。また、NICE (National

Institute for Health and Clinical Excellence)の ガイドラインでも、治療抵抗性うつ病に対して 薬 物 療 法 とCBTの 併 用 が 推 奨 さ れ て い る (Pilling et al., 2009)。加えて、脳画像研究では、 薬物療法とCBTでは作用する脳の部位に違い があることが示されており(Goldapple et al., 2004)、薬物療法とCBTの併用療法は脳科学的 にも効果があることが推測される。うつ病が治 療抵抗性となる要因は種々あるが、不安症の併 存もその要因の一つである。疫学研究では、う つ病と不安症の併存率は40∼80%であり、併 川崎医科大学精神科学教室 (2017(平成29)年4月15日受理) 注1)うつ病において増強療法とは、抗うつ薬の効果 が十分ではない場合に、気分安定薬や非定型抗 精神病薬などの薬剤を追加して抗うつ薬の効果 を増強する治療法のことを指す。 〈実践研究〉

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存した場合、症状はより重篤となり、遷延化す ることが示されている(Lamers et al., 2011)。 しかし、不安症を併存するうつ病に対しても、 ガイドラインではうつ病単独の場合と治療方針 はほぼ同様である(齋藤,2013)。 薬物療法と精神療法は精神科治療の両輪であ るが、精神療法のランダム化比較試験研究で は、通常は薬剤の増減、変更には制限がある。 しかし実臨床では、両者を単に併用するのでは なく、連携させ機能的に運用する。この連携の させ方を創意工夫することにより、治療抵抗性 であった精神疾患が改善することは少なくな い。このように、両者の連携のさせ方を研究す ることはたいへん意味があるが、症例ごとに連 携のさせ方を創意工夫する必要があり、ランダ ム化比較試験研究の対象にはなりにくい。この ため、両者の連携のさせ方の研究については、 症例を積み重ねていくことが重要となるが、本 邦ではこの分野の研究報告はあまり見られな い。

今回、曝露反応妨害法(exposure and response prevention; 以下、ERP)、および認知再構成法 を主技法とする認知療法と薬剤調整の連携によ り回復に至ったHIV感染恐怖を伴う遷延した うつ病の患者(以下、Pt.)を経験したので、 若干の考察を加え報告する。報告を行うことに ついては匿名を条件にPt.より書面にて承諾を 得、その旨を診療録に記載している。 症 例 Pt. 50代後半、男性 筆者初診時診断名 うつ病、特定の恐怖症 (HIV感染恐怖) 筆者初診時主訴 気分が滅入る、HIVに感 染するのではと恐怖を感じる。 家族歴 母親がうつ病で精神科に通院中。 既往歴 うつ病の治療中に、職場の保健担当 者 よ りLOH症 候 群(late-onset hypogonadism syndrome)が併存している可能性を示唆され た。このため、近医泌尿器科を受診したところ LOH症候群と診断され、X−1年8月よりアン ドロゲン補充療法を行っている。 生育・生活歴 同胞3名中第1子。学生時代 は勉強中心の生活を送っていたが、親しい友人 はいた。大学を卒業後、公務員になった。30 歳代前半で結婚をし、1子をなした。Pt.、妻、 子どもの3人暮らし。 現病歴 もともと生真面目で、明るく社交的 で、楽観的な性格であった。X−11年、父親が 脳出血に罹患した。父親はリハビリが必要なの に寝てばかりいたため、母親が不安になり、や がて母親はうつ病に罹患した。 X−4年4月、部署Aの長に就任。100人以上 の部下がいたが、顔見知りがおらず不安になっ た。X−4年5月、母親を叔母宅に預かっても らい(その後、母親は一人暮らし)、父親は Pt.宅で暮らすようになり、X−4年7月には父 親は老人ホームへ入所した。仕事の不安、母親 の病状に対する心配、父親の介護疲れが重な り、X−4年5月頃より、抑うつ気分、倦怠感、 頭痛、胸苦感が出現するようになった。このた めX−4年6月、B精神科診療所を初診し、う つ状態と診断された。その後はB精神科診療所 に通院しparoxetineを主剤とする薬物療法が施 行された。X−2年11月、手背に軽度の創傷が あった職員がドアノブを触ったことが気になり だし、この頃からHIV感染恐怖も認めるよう になった。病状が改善しないため、X−1年10 月20日、自ら希望し、筆者が非常勤医として 勤務するC精神科病院(以下、C病院)に転院 し、D医師が主治医となった。診断名は、うつ 病、特定の恐怖症(HIV感染恐怖)であった。 その後、うつ病とHIV感染恐怖は悪化してい き、X−1年11月2日から休職となった。希死 念慮も生じてきたため、X−1年11月6日、C 病院に任意入院となった。しかし病院よりは家 のほうがHIV感染恐怖を感じなくてすむため、 Pt.の希望で、X−1年11月26日に退院した。 退院後も症状は改善せず、D医師の希望でX年 1月11日より主治医は筆者に変更となった。

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筆者初診時所見 表情は乏しく仮面様であった。手の振戦は 認めなかったが、動作はゆっくりしたもので、筋 固縮を認め、Pt.は「手足が固くなったように感 じます」と述べた。これらの症状はhaloperidol (以下、HPD)(筆者初診時は3 mgが投与され ていた)の副作用である薬剤性パーキンソニズ ムであると考えた。また、「イライラしてじっ としていられないことがあります」とPt.は述 べ、これもHPDの副作用であるアカシジアで ある可能性を考えた。 抑うつ気分、意欲や興味の低下、易疲労感を 認めたが、それよりもHIV感染恐怖が前景で あった。Pt.と妻に筆者が尋ねたところ、これ まで躁病エピソードや軽躁病エピソードを認め たことはないとのことであった。HIV感染恐 怖については、血液や唾液に触れるとHIVに 感染するかもしれないという恐怖があり、この ため、見た目にはきれいであっても血液や唾液 が付着したかもしれないと思う物には触れない ようにするあるいは触れることができないと いった回避行動を認めたが、過剰な手洗いなど の儀式行為は認めなかった。AIDSを発症して 死ぬとか家族にHIVを感染させることは恐れ てはおらず、自分がHIVに感染すること自体 を恐れていた。Pt.も「触れてもHIVに感染し ないことはわかります」と述べ、不合理感は十 分存在した。Pt.は、HIV感染恐怖が存在する 限り仕事をすることは不可能だと考え、将来に 対して悲観的になっていた。うつ病とHIV感 染恐怖との関係性について筆者がPt.に尋ねた。 Pt.の印象は、「うつ病が悪化したからといって HIV感染恐怖が悪化したとは思いません。頬 に血がにじんでいる人を見るとか人のかさぶた を見るとか何か出来事があったときにHIV感 染恐怖が増悪したように思うし、HIV感染恐 怖が悪化したらうつ病も悪化したような気がし ます」というものであった。 操作的診断 上述の症状のため、DSM-IV-TR(アメリカ 精神医学会,2002)に基づき、大うつ病性障害、 単一エピソード、重症、精神病性の特徴を伴わ ないものと特定の恐怖症(HIV感染恐怖)と 診断した。特定の恐怖症の鑑別疾患として、強 迫性障害と心気症を挙げた。恐怖の本質は血液 や唾液に触れるとHIVに感染するかもしれな いという特定の状況に関するものであり、回避 行動を認めるものの過剰な手洗いなどの儀式行 為は認めなかった。DSM-IV-TRの強迫性障害 の鑑別診断の箇所には、「主な心配が(病気に かかっているというより)病気がうつることに 対するものであり、儀式を伴っていない場合に は、病気に対する特定の恐怖症がより適切な診 断であるかもしれない」という記載があること から、強迫性障害は否定的であると判断した。 また、HIVに感染することを恐れているが、 HIVに感染したという恐怖にはとらわれてい なかった。DSM-IV-TRの特定の恐怖症の鑑別 診断の箇所には、「心気症をもつ人は病気にか かっているという恐怖にとらわれているが、特 定の恐怖症をもつ人は病気にかかることを恐れ ている(しかし、すでに病気にかかっていると は信じていない)」という記載があることから、 心気症も否定的であると判断した。 機能分析とうつ病を維持させている要因の検討 初診時に以下のような機能分析とうつ病を維 持させている要因の検討を行った。 HIV感染恐怖の機能分析 HIV感染恐怖につ いて、Fig. 1のように機能分析を行った。先行 刺激として、車の鍵、ソファーなど、血液や唾 液が付着したかもしれないと思う物が目に入る と、これらの物には絶対触れないぞと自分に言 い聞かすという内潜的行動が生じる。これに よって、HIVに感染するかもしれないという 恐怖が一時的に下がるため、上述の内潜的行動 が強化されるという嫌子消失による強化によ り、HIV感染恐怖が維持・増悪していると判 断した。また、先行刺激、行動、後続刺激の三 項に影響を与えている確立操作として、HIV に感染するかもしれないという恐怖(この恐怖

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は常に存在するが、血液や唾液が付着したかも しれないと思うものが目に入るたびに増悪す る)を考えた。 うつ病を維持させている要因の検討 うつ病 を維持させている要因の検討結果は、Fig. 2の とおりである。うつ病が悪化したからといって HIV感染恐怖が悪化したようには思わないが HIV感染恐怖が悪化したらうつ病も悪化した ような気がするというPt.の印象などから、 HIV感染恐怖はうつ病を維持あるいは増悪さ せている要因になっていると判断した。また、 復職の不安により二次的にうつ病を呈している 一面もあるが、以前からあった復職の不安は HIV感染恐怖のために増悪していると判断し た。そして、HPDのうつ病に対する影響も見 過ごすことはできないとも考えた。筆者が担当 する以前からHPDが投与されていたが、HPD の副作用でうつ状態を呈することはよく知られ たところであるし、HPDの副作用である薬剤 性パーキンソニズム、アカシジアによる身体的 不快感もうつ病に影響を及ぼしていると判断し た。なお、Pt.はLOH症候群の治療を受けてい たが、アンドロゲン補充療法により遊離テスト ステロン値は正常に保たれていた。このため、 少なくとも筆者初診時にはLOH症候群はうつ 病にもHIV感染恐怖にも影響を与えていない と判断した。 筆者初診時治療方針 うつ病やHIV感染恐怖がよくなればどのよ うな生活を送りたいかあるいはどのようなこと をしたいかということをPt.と話し合い、最終 的な治療目標を復職することに設定した。 薬 物 療 法 に つ い て は、う つ 病 に 対 し て、 paroxetine (40 mg)、mianserin (50 mg)が 使 用されていたが効果を認めなかったため、増強 療法としてaripiprazole(以下、APZ)を抗う つ薬と併用することにした。薬剤性パーキンソ ニズム、アカシジアの原因薬剤であり、うつ状 態を惹起している可能性もあるHPDは直ちに 漸減・中止することにした。 上述のHIV感染恐怖に関する機能分析の結 果、HIV感染恐怖に対してERPは適用がある と判断した。ERPの対象となる疾患のほかに うつ状態も併存している場合、ERPが苦痛を Fig. 1 HIV感染恐怖の機能分析 Fig. 2 うつ病を維持させている要因

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伴う治療法であるため、ある程度うつ状態が軽 減するまでその施行を待つのが定石である(芝 田,2012)。しかし、このPt.の治療では、待 たないことにした。HPDを漸減・中止するこ とによって薬剤性パーキンソニズム、アカシジ アが改善し、体が楽になった感覚がかなり高い 確率で出現することが予測され、うまくいけば うつ病も少しは改善するのではないかと推測 し、こういった体が楽になった感覚が出現する 時期にERPを開始すれば、ERPの導入が容易 になると考えたからである。 治療経過 治療の概略(Fig. 3) 職場復帰までの治療期間は、第I期HIV感染 恐怖に対してERPによる治療を行った時期、 第II期うつ病に対して単純活性化を行った時 期、第III期うつ病に対して認知再構成法を主 技法とする認知療法を行った時期、第IV期復 職への準備をした時期に分けられる。なお、単 純 活 性 化 と は、Lewinsohn流 の 行 動 活 性 化 (Lewinsohn et al., 1978)を指す。第I期、第II Fig. 3 治療経過

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期、第IV期の治療は、C病院外来で行ったが、 第III期は筆者が常勤医として勤務するE大学 附属病院精神科外来で行った。これは、通常の 外来枠では認知療法に必要な時間を確保できな いため、筆者が外来のない時間帯に来院しても らう必要があったからである。C病院外来で は、筆者初診時こそ診察に60分かけられたが、 それ以外の日では慌ただしい外来のため、約 10∼15分しか診察時間はとれなかった。E大学 附属病院の外来では、認知療法を行っていたた め、1セッションあたり40∼50分の時間を要し ていた。Pt.が車の運転ができるようになるま では、妻が車を運転してPt.を病院に連れて来 て、妻同席のもと診察を行っていた。 第 I 期 HIV 感染恐怖に対して ERP による治療 を行った時期 X年1月11日、筆者初診時に、上述のような 機能分析を行い、HIV感染恐怖がどのような 仕組みで維持・憎悪しているのかを理解しても らった。そして、この状況を改善するには、 ERPを行う必要があることを筆者が説明した ところ、Pt.は十分このことを理解できた。同 日は、ERP、オペラント条件づけ、セッション 内馴化、セッション間馴化、不安階層表の作成 法を説明した。不安階層表を作成してくること を次回診察までのホームワーク(以下、HW) とした。薬物療法については、APZを3 mg追 加し、HPDを3 mgから1.5 mgに減薬した。 X年1月18日、2回目の診察時にPt.は作成し た不安階層表を持参した。また、「手足の固さ は変わりませんが、イライラしなくなりまし た」とPt.は述べた。恐らくHPDの減薬により アカシジアが改善したことによる可能性が高い と思ったが、HIV感染恐怖がどのような仕組 みで維持・増悪しているかを理解でき、治療の 仕方(ERP)がわかったのでイライラしなく なったのではないかと筆者は説明した。そし て、ERPのことがわかったので、次に実際に ERPをやってみることを筆者が提案したとこ ろ、「やってみます」との返事がPt.より得られ た。最初のHWとしては、①少し頑張れば達 成できそうなもの、②達成できたときに、生活 が楽になるまたはうれしいと直ちに感じられる ようなもの、③初回は主治医の前で行ったほう がやりやすいので今この場でできるもの、が望 ましいと筆者が説明した。すると、「以前車の 中で妻が蚊を殺し、ナイロン袋に入れました。 そのナイロン袋に、車の鍵が当たりました。家 では、車の鍵も家の鍵も同じ場所に保管してい るので、汚染がすべての鍵に広がっているよう な気がします。車の鍵を触れないと車に乗れ ず、仕事にも行けないので、この先不安で仕方 がありません。車の鍵を触れるようになって、 車に乗れるようになりたいんです。だから、汚 染されているのではないかと思っている家の鍵 を今日は触ります」とPt.は述べた。このため、 妻が所持していた家の鍵を触り、手を過剰に洗 浄するといった強迫行為や手が物に触れないよ うにするという回避行動を防ぐため、そして汚 染が広がる恐怖に曝露するため、家の鍵を触っ た手で体を触ることを診察中にしてもらった。 家の鍵を触りその手で家の中のあちらこちらを 触ることをHWとし、また次回診察時には、 汚染されたと思っている車の鍵を持ってくるよ う妻に依頼した。薬物療法としてはHPDを中 止した。ERPにより誘発された不安が消退し たことを確認し、今体験したことがセッション 内馴化であることを説明したうえでその日の診 察を終了した。 X年1月25日、3回目の診察では、家の鍵を 触りその手で家の中のあちらこちらを触るとい うHWはできており、「体が軽くなった気がし ます」とPt.は述べた。家の鍵を触れるように なったので、家族が家にいないときでも玄関に 鍵をかけて外出をすることもできるようになっ た。体が軽く感じるようになったのは、HPD 中止による薬剤性パーキンソニズムあるいはう つ病の改善、薬剤性パーキンソニズム改善によ るうつ病の改善、APZによる増強療法の効果、

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怖の改善によるうつ病の改善、のいずれによる ものか判別はつかなかったが、Pt.自身がHW に取り組んだ成果であることを強調した。汚染 されたと思っている車の鍵を診察中に触っても らい、その手で体を触ることをしてもらった。 誘発された不安が消退したことを確認したうえ で診察を終えた。次回診察までのHWは、車 の鍵を触りその手で家の中のあちらこちらを触 ることとした。加えて、少し体が軽くなったの で、うつ病に対する治療として単純活性化を開 始する時期と考え、散歩をすることと、マンガ を読むこともHWとした。 X年2月1日、4回目の診察では、HWであ る散歩はできマンガも読めていたが、それに加 え、テレビを見たり新聞を読んだりすることも でき、Pt.は「少しうつ病が改善した気がしま す」と述べていた。HWは同じとし、以前、血 が少し付着したため最後まで触れることができ ない物として残っていたソファーのクッション を次回診察時に持ってくるよう同伴していた妻 に依頼した。 X年2月8日、5回目の診察では、「車の鍵に ついては全く恐怖を感じなくなったし、車の運 転もできるようになりました」とPt.は述べた。 診察時にソファーのクッションに触れてもらっ たが、「恐怖感は感じません」とPt.は述べた。 ソファーに寝転ぶことをERPのHWとし、図書 館に週2回行き、1時間図書館にいて、興味のあ る本を読むことを単純活性化のHWとした。 X年3月末ごろには、HIVに感染するのでは という恐怖感が時折生ずることがあっても、回 避行動をとることは全くなくなった。部署Fの ライン職ではなくスタッフ職として復職するこ とがX年3月末に決まった。 第II期 うつ病に対して単純活性化を行った時期 その後、復職を見据えて、散歩の時間と図書 館に行く頻度・図書館にいる時間を増やして いった。単純活性化開始時(3回目診察時)に は散歩をすることも図書館に行くこともしてい なかったが、X年6月頃には、雨の日を除き毎 日45分間散歩ができ、週に5日、1回あたり 2時間図書館にいられるようになった。また、 仕事に関係する法令も読めるようになった。し かし同時期より、「他人に対して失礼なことを した、他人に悪く思われているといった考えが 生じて不安・憂うつになるし、何かあると、自 分はダメだという考えが生じて不安・憂うつに なるので、このままでは復職ができません。病 気になる前と比べて考えにくいし、理解力が落 ちていると思います」とPt.は述べるように なった。理解力の低下については、うつ病によ る影響は否定できないものの、筆者が担当する 以 前からalprazolamが2.4 mg、clonazepamが 1.5 mgと抗不安薬(clonazepamは本邦では抗 てんかん薬に分類されるが、海外では抗不安薬 にも分類される)が多量に投与されており、抗 不安薬による認知機能障害の可能性もあるので はないかと考えた。筆者の治療開始当初の計画 では、認知再構成法を施行する予定はなかった が、上述の自責的な自動思考に対して、認知再 構成法を主技法とする認知療法を行うことにし た。なお、他人に対して失礼なことをしたとい う考えについては、不合理感に乏しかったた め、加害強迫観念である可能性は否定的である と判断した。 第 III 期 うつ病に対して認知再構成法を主技 法とする認知療法を行った時期 うつ病の評価は、Beckら(1996)によって

作成されたBeck Depression Inventory-Second Edition(以下、BDI-II)の日本語版(小嶋・ 古川,2003)で評価することにした。抗不安 薬により認知機能障害をきたしている可能性が あり、このままでは復職しても仕事を遂行する ことは難しいと筆者は考えた。そこで、認知療 法の導入に連携させて、反跳現象や離脱症状の 出現に十分注意しつつalprazolam (2.4 mg)を Fig. 3のように漸減・中止した。両者を連携さ せた理由は、alprazolamを漸減・中止すること により、認知機能障害が改善され、考えやすく なっていく状況下で認知療法を開始すると、治

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療に対する期待感が高まり、認知療法の導入が 容易になると考えたからである。 X年6月19日(認知療法第1セッション。以下、 CT#1)、筆者が作成した認知療法の説明書を使 い、単純活性化、認知再構成法、スキーマなど について心理教育をした。認知療法の説明書を 読むこと、非機能的思考記録表(Dysfunctional Thought Record:以 下、DTR)の 記 載、散 歩 (毎日45分)、図書館に行くこと(週5回、1回 2時間)をHWとした。 X年6月26日(CT#2)、HWはすべて達成で きていた。図書館に3時間いることができ、図 書館の中で本や経済紙を読んだり、ペン習字を したりしていた。Pt.自身も、「自責的な自動思 考が生じても割と短時間で機能的認知を考える ことができるし、DTRを記載することによっ て気が楽になります」と述べた。DTRの記載、 散歩(45分)、図書館に行くこと(週5回、1回 5時間)をHWとした。 X年7月3日(CT#3)、HWはすべて達成で きていた。他人に対して失礼なことをした、他 人に悪く思われているといった自動思考や自責 的な自動思考は認めなくなり、物事を合理的に 考えられるようになっていた。また、「少し考 えやすくなったし、理解力もよくなってきたと 思います」とPt.は述べた。しかし、「最近は自 分の完璧主義的な傾向が気になるし、部署Fで やっていけるかなど復職に関する不安があるの が気になります」とPt.は述べた。このため、 この日のアジェンダは完璧主義に設定した。決 められた時間に散歩をきちんと終えようと時計 の秒針を見てしまうことや図書館に5時間いら れるようになったがきちんと5時間いようとす るため帰る時間が近づくとそわそわしているこ とがわかった。完璧主義的な行動が変容するこ とによって、完璧主義的な認知が変容すること を筆者は説明し、HWは同じだが、決めた時間 はだいたいでよいので、時計を持たずに散歩に 行くように、また、図書館に行った際には帰宅 1時間前からは時計を見ないように教示した。 復職の不安については、認知や行動への介入で はなく、現実的な対処、すなわち職場復帰後の 体制について職場側から説明を受け、困難な点 は修正を依頼することが大事なのではないかと 説明し、筆者が調整し、次回診察時に職場の担 当者にも来てもらうことにした。 X年7月10日(CT#4)、BDI-IIは30/63→ 12/63と大幅に改善しており、「好きな釣りに も行け、自分でも調子がよくなったと思いま す」とPt.は述べた。この日は、職場の人事担 当者と保健担当者が同席し、復職プログラム、 職場復帰後数カ月の仕事内容、勤務時間等の説 明を受けたが、Pt.は「これならやれそうだ」 と述べ、ある程度自信が持てた。X年9月20日 頃から復職プログラムを開始し、X年11月ぐ らいに職場復帰するというタイムスケジュール も決まった。この後、最終セッションまでBDI-II は10点代前半と安定した状態が続いた。 X年7月24日(CT#6)、前回のセッションで、 仕事に慣れるため、入手可能な部署Fに関する 資料を読むことをHWとしたが、達成できて いた。「うつ病はよくなったとは思いますが、 楽しい気分になれません」とのPt.の発言が あったため、単純活性化について再度説明し、 これまでのHWに加えて、1週間に1回、映画 を見ることと、釣りに行くこともHWとした。 X年7月31日(CT#7)、「映画をDVDで見て 楽しめたし、釣りは釣れなくてイライラしまし たが、イライラ感に堪える練習になりました」 と笑いながらPt.は述べた。この日は、スキー マについて話し合った。Pt.は、「自分のスキー マはいい子じゃないといけないだと思います」 と述べた。そこで、いい子じゃないといけない というスキーマがあるから、少しうまくいかな いと自分は何もできない、失格者だという自動 思考が生じるし、いい子でありたいという気持 ちが強いので、人の目を気にしすぎて、他人の ちょっとした言葉尻をとらえて被害的に解釈し たりするのではないかと筆者は説明した。HIV 感染恐怖についてはERP、うつ病については

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認知療法という枠組みで治療を進めていたが、 スキーマはその人の根底にある中核的な信念で あるので、スキーマがHIV感染恐怖にも影響 を与えている可能性は十分考えられたため、い い子じゃないといけないというスキーマと HIV感染恐怖との関係はどう思うかと筆者は Pt.に尋ねた。すると、「いい子がHIVに感染 するなんてとんでもない、だから怖くて避けま くっていたのかもしれません」とPt.は答えた。 夢見る少女じゃいられないという昔流行った曲 をもじって、夢見る少女じゃいられないし、大 人はいい子じゃいられないのではと筆者が問う と、「女性も大人になると夢見る少女じゃいら れないし、私も大人になったのだから、いつま でもいい子じゃいられませんよね」とPt.は笑 いながら述べた。 認知療法は16セッション行う予定であった が、Pt.の希望でCT#11をもって認知療法は終 了することになった。 第IV期 復職への準備をした時期 その後C病院に再度転院し、外来にて治療を 続けていた。X年10月3日から復帰プログラム が開始となった。順調にプログラムをこなして いたが、X年10月13日に外傷を負い、復職プ ログラムは中止となった。また、外傷の治療の ため、X年11月15日までC病院に来院できな かった(服薬は続けてもらった)。しかし、X 年11月15日のC病院での診察の際に確認した が、外傷を負ったことや来院できないことに よってうつ病やHIV感染恐怖が再発すること は全くなかった。車の運転ができるようになっ たX年12月25日から図書館に行くHWを再開 した。週5日、1回5時間図書館にいられるよ うになったため、X+1年1月30日から復職プ ログラムを再度最初から開始してもらい、X+1 年2月28日復職プログラムが終了となった。 X+1年3月1日に職場復帰となった。 職場復帰後 現在、職場復帰から約2年9カ月が経過し、 維持療法のため通院を続けているが、仕事は問 題なくでき、うつ病やHIV感染恐怖の再発は 認めていない。 考 察 特定の恐怖症(HIV感染恐怖)を伴う遷延 したうつ病の症例であった。このPt.が回復に 至り、復職ができ、現在再発を認めていないの は、以下のように判断できることから、薬剤調 整とCBTの連携によるところが大きいと考え られる。 上述したように、このPt.のようにうつ病に 不安症が併存していることは多く、このような 場合は難治化しやすいことが指摘されている (Lamers et al., 2011)。うつ病にほかの精神疾 患が併存している場合、CBTによる治療を行 うなら、うつ病とほかの精神疾患のうちどちら の疾患がもう一方の疾患を維持させている要因 になっているかを検討したうえで(場合によっ ては、両疾患とももう一方の疾患を維持させて いる要因であることもある)、介入ポイントや 介入技法を検討する必要がある。このPt.の場 合も、この検討を行い、HIV感染恐怖がうつ 病を維持させている要因であることに気づい た。うつ病がHIV感染恐怖を維持させている 要因なら、いくらHIV感染恐怖に対して治療 をしても、うつ病がよくならないとHIV感染 恐怖はよくはならない。この関係の場合は、う つ病がよくなればHIV感染恐怖もよくなる可 能性は高く、HIV感染恐怖の治療はひとまず 棚上げにしてうつ病の治療に専念するという選 択肢もありえる。反対に、HIV感染恐怖がう つ病を維持させている要因なら、HIV感染恐 怖がよくならないと、いくらうつ病に対して治 療を行ってもうつ病はよくはならない。このた め、このPt.の場合、うつ病だけでなくHIV感 染恐怖に対しても、当初より治療をしなければ ならなかった。 こ のPt.のHIV感 染 恐 怖 は 上 述 の よ う に DSM-IV-TRでは特定の恐怖症に該当する。特 定の恐怖症に対する薬物療法については、SSRI

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やベンゾジアゼピン系抗不安薬などの症例報告 や少数例での研究報告はあるものの、有効性は 現在のところ確証されていない。特定の恐怖症 に対しては、曝露法の有効性が報告されており (Choy et al., 2007; Grös & Antony, 2006;

Wolitzky-Taylor et al., 2008)、曝露法が第一選 択の治療法となる。しかし、特定の恐怖症に対 して曝露法は確かに効果があるものの、苦痛を 伴う治療法であるため、受け入れることができ る 患 者 が 少 な く 脱 落 率 も 高 い(Choy et al., 2007)という問題点がある。このPt.のように うつ病を併存している場合ではなおさらこのこ とが該当する。 おもに薬剤調整により、具体的には、HPD の漸減・中止により、主治医が筆者に変更と なった早期に身体的不快感がなくなり、体が楽 になるということが起こった。このタイミング でERPを導入したが、体が楽になった理由と して、治療の仕方(ERP)が理解できたためで あることやPt.自身がHWに取り組んだためで あることを強調した。このため、ERPをすれ ばHIV感染恐怖がよくなるというルールは、 Pt.にとって確率の高い結果を記述したルール となり、従いやすくなったと推察される。また、 できたときに、生活が楽になるまたはうれしい と直ちに感じられるHWを設定することによ り、ERPをすることが行動内在的強化随伴性 を有することが期待できるようにもした。つま り、効果を教示されたのちにERPをすること は基本的にはルール支配行動だが、ERPをし た直後に、これで生活が楽になる、うれしいと 感じられることにより、ERPをすることが即 時強化を受けるという随伴性形成行動の一面も 有することが期待できるようにもした。このよ うな工夫により、本来苦痛を伴う治療法である ERPを容易に導入することができたためHIV 感染恐怖が回復し、そのことがうつ病の回復に も寄与したと推測する。また、alprazolamを漸 減・中止し認知機能障害が改善し、考えやすく なるタイミングで認知再構成法を開始すること ができたので、同療法の導入が容易であったこ ともこのPt.の回復につながったと考える。遷 延したうつ病で不安症が併存し不安症がうつ病 を維持・増悪させている症例では、うつ病だけ でなく不安症に対しても当初より治療をする必 要があると筆者は考える。このような場合、薬 剤調整の効果を認めだしたタイミングで不安症 に対する標準的な精神療法である曝露法あるい はERPを導入すれば、本来苦痛を伴うこれら の治療法も患者の受け入れが容易になり、不安 症が改善し、ひいては遷延したうつ病の改善も 期待できることが本症例により示唆された。し かしながら、このような治療方法により、結局 は薬剤調整と精神療法のどちらが効果を認めた のかが不明になったところが本研究の限界点で もある。 なお、ERPや認知再構成法の導入時には、 Pt.のこれらの治療に対する取り組みの効果を 強調し、副作用が出現している薬剤を漸減・中 止した効果については説明しなかったが、職場 復帰後に後者の効果についてもPt.に説明を 行った。 謝 辞 本稿の執筆に際してご指導していただきまし た青木省三先生(川崎医科大学精神科学教室主 任教授)に心より感謝申し上げます。本稿は、 認知・行動療法コロキウム ’15 in Kobeで筆者 が発表した内容をもとに作成しました。コメン テーターをしていただいた熊野宏昭先生(早稲 田大学人間科学学術院教授)をはじめコロキウ ムに参加された多くの先生に、たいへんサポー ティブで教育的なご助言をしていただきまし た。心より感謝申し上げます。また、なにより も、発表することをご快諾していただきました 患者さんに心より感謝申し上げます。 文 献 アメリカ精神医学会 高橋三郎・大野 裕・染矢俊 幸(訳)2002 DSM-IV-TR精神疾患の診断・統計

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Combined Cognitive Behavior Therapy and Medication Adjustment

for a Patient with Prolonged Depression and a Specific Phobia

HIV-Infection Phobia

:

Case Report

Tetsuji Miyazaki

Department of Psychiatry, Kawasaki Medical School

Abstract

The present article reports a case study of a patient who recovered from prolonged depression with HIV-infection phobia and returned to work. Combined exposure and response prevention and medication adjustment, and combined cognitive therapy and medication adjustment were used to treat this patient. HIV-infection phobia was identified as one of the factors that prolonged his depression. The patient’s physical symptoms were alleviated by making adjustments to his medication, and then exposure and response prevention was conducted for HIV-infection phobia. Exposure and response prevention was highly relevant and easily implemented for this patient. Although exposure and response prevention is rule-governed behavior, it was expected to have an intrinsic reinforcement value through the homework of being able to feel happy or to feel that the patient’s life would become easier immediately upon achievement. Recovery from HIV-infection phobia was achieved by efficiently introducing exposure and response prevention, which was emotionally painful in a normal situation. As a result, it was possible for the patient to recover from depression that was influenced by his HIV-infection phobia.

Key Words: cognitive behavior therapy, medication, depression, specific phobia, intrinsic

参照

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