病院図書館2014;34(1):1
一ヲ巻/頭/言
歴史を「読む」ということ
歴 史 小 説 が 好 き で あ る 。 歴 史 書 を 読 む の も 好
き で あ る 。 学 生 時 代 か ら 時 間 が た つ の も 忘 れ て
歴 史 小 説 を 読 み ふ け っ て い た 。 最 初 に は ま っ た
のは、当時流行の司馬遼太郎。“国盗り物語”
"竜馬が行く”“夏草の賦,,“播磨灘物語”“潮ぶ
が如く”といった長編は40年たった今に至るま
で 繰 り 返 し 読 ん で い る 。 一 番 の お 気 に 入 り は
"坂の上の雲"・数年前にテレビドラマ化された
が、やはり期待はずれであった。
“坂の上の雲”で司馬遼太郎はロシアという国
の本能について、あたかも国家が意思を持った
生き物であるかのように描写している。この描
写がきっかけとなり、世界各地の歴史に興味を
持つようになった。今年2014年から遡ってお気
に入りの歴史ものをあげてみたい。
25年前の1989年。まさに現代史の転換点で
あり、戦争の世紀である20世紀が実質的に終
わった年である。1989年のベルリンの壁崩壊と
冷戦終結を活写した2冊、.‘東欧革命l989-ソ
連 帝 国 の 崩 壊 , , ヴ イ ク タ ー ・ セ ベ ス チ ェ ン 、
"1989世界を変えた年',マイケル・マイヤー。
またソ連崩壊前後のソ連社会については、“レー
ニ ン の 墓 ソ 連 帝 国 最 期 の 日 々 ” デ イ ビ ッ ド ・ レ
ムニック、“自壊する帝国”佐藤優の2冊。ソ連
の あ る 右 翼 政 治 家 に 対 す る 評 価 が 著 者 に よ り
1 8 0 度 異 な る の は 興 味 深 い 。 冷 戦 時 代 の ヨ ー
ロッパ通史は、.‘ヨーロッパ戦後史”トニー・
ジャット。
75年前の1939年。第二次世界大戦勃発の年。
み き し ん じ
1
三 菱 京 都 病 院 院 長 三 木 真 司
歴 史 小 説 の 範 躍 か ら は 外 れ る が 、 欧 州 戦 線 の 転
換点となった、バトル・オブ・ブリテン、スター
リングラード攻防戦を取り上げた、..戦略の本質”
野中郁次郎。
100年前の1914年。第一次世界大戦勃発の年、
戦争の世紀である20世紀が実質的に始まった年
で あ る 。 こ の 世 界 戦 争 で ア ラ ブ 世 界 の 大 国 で
あ っ た オ ス マ ン 帝 国 は 消 滅 、 現 代 に 至 る ア ラ ブ
世界の混沌の端緒となった。“アラブ500年史,,
ユ ー ジ ン ・ ロ ー ガ ン 。
150年前の1864年。アメリカでは南北戦争が
峠 を 越 え 、 北 軍 有 利 に 展 開 し て い た 。 リ ン カ ー
ン大統領の戦争指揮を詳述した、“リンカーン
一TeamofRivals-”ドリス・カーンズ・グッ
ドウイン。スピルバーグ製作の映画のほうが劇
的ではあるが、150年前から言論とマスコミに
よる政策決定がなされていた民主主義の伝統と
厚みには驚嘆する。
最後に番外編をいくつか。お定まりの塩野七
生の地中海三部作、“コンスタンティノープルの
陥落”“ロードス島攻防記',“レパントの海戦"。
そ し て 現 代 の 崩 壊 国 家 ソ マ リ ア と ソ マ リ ラ ン ド
を描く、“謎の独立国家ソマリランド”高野秀行。
このスピード感は癖になりそう。ジヤレド・ダ
イアモンドの文明ものからは、“文明崩壊"。深
く考えさせられる一冊だ。