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書評りぷらい 独居高齢者のセルフ・ネグレクト研究:当事者の語り

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Academic year: 2021

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社会福祉学 第 61 巻第 4 号 147‒149 2021

書評りぷらい

独居高齢者のセルフ・ネグレクト研究:

当事者の語り

同志社大学大学院社会学研究科   煕聖 1.はじめに このたびは拙書『独居高齢者のセルフ・ネグレ クト研究:当事者の語り』を取り上げていただ き,そして野村祥平先生に書評していただく運び となり,『社会福祉学』編集委員会,ならびに本書 に対する評価と今後のセルフ・ネグレクト研究の 検討すべき課題を簡潔にまとめてくださった野村 先生にお礼を申し上げる.とりわけ,津村智恵子 先生,岸恵美子先生とともに,日本のセルフ・ネ グレクト研究の開拓発展に貢献してこられた野村 先生に書評を書いていただき,とても嬉しく感じ ている. 本書は,高齢者が社会的存在として希望と尊厳 を保持しながら安全・安心に暮らせる地域社会の 実現を目指し,日本のセルフ・ネグレクトへの予 防・支援モデルの構築に資する基礎的知見を得る ことが目的である.この際に,セルフ・ネグレク ト状態にある当事者にはどのような思いと経緯 が,そして社会との関連性があり,それを知るこ とでどのように高齢者がセルフ・ネグレクト状態 に陥ったかという,この問題のメカニズムの解明 に迫ることが期待され,どの時点でどのように介 入すればよいかが鮮明になるのではないかと考 え,これまでに行われたことがない当事者研究に 着目した. 評者からご指摘いただいた本書の課題として, 「1.本書の調査対象は,独居で意思疎通が可能な 高齢者であり,認知症や精神障がいで心身の機能 が低下した者は含まれていない点から,対象を拡 大し検討する必要性」,「2.セルフ・ネグレクトの 概念に関する理論の明確化と測定指標に関する課 題」の2点があげられた.以下,いただいたご意 見について応答していきたい. 2.本書の調査対象 セルフ・ネグレクトの研究史をみると,最初の セルフ・ネグレクト研究はイギリスのマクミラン とショー(Macmillan & Shaw1966)によって始ま り,3年かけて不潔で不衛生状態と判断される事 例を分析した結果,精神障がいを抱えた一人を除 いた 71 名全員が高齢者であったことが明らかに された.これを機に,高齢者を中心としたセル フ・ネグレクト研究がなされるようになった.一 方,同居家族がいる高齢者のセルフ・ネグレクト については,自分自身によるネグレクトなのか第 三者によるネグレクトなのかが不明確であるた め,世界的にも独居高齢者への調査が主流となっ ているように考えられる.しかしながら,近年で は,独居高齢者に限らない,高齢者夫婦世帯およ び 8050 世帯などの家族機能の弱体化に伴うセル フ・ネグレクトも顕在化しているように思われ る. 本書では,当事者の視点に着目して,セルフ・ ネグレクト状態にある 65 歳以上の在宅独居高齢 者を対象とした質的研究に取り組んだ.この際, 調査対象者の語りに対する信憑性およびデータの 信用性を確保するため,質問に回答が可能な高齢 者のみを対象とした.評者のご指摘のとおり,認 知症や精神障がいで認知機能や心身の機能が低下 したことがセルフ・ネグレクトの要因となる事例 も数多くある.本書でも示されているが,セル フ・ネグレクトの危険因子(Risk Factors)を類 型化した結果からも,認知症や精神障がいなどを 含む「精神・神経・感情・認知機能的要因」が20 因子と最も多く,「社会的・環境的要因」および 「身体的要因」ではそれぞれ6因子のみが抽出され た(p. 72).このような傾向は,「精神・神経・感 情・認知機能的要因」とセルフ・ネグレクトが密 接な関連を有することを意味するとともに,これ までのセルフ・ネグレクト研究が医学モデルを中

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心に展開されてきたことを裏付けるものとして本 書では取り上げている.ここで,著者が注目した のは,日本のセルフ・ネグレクト研究に大きな影 響を与えてきたアメリカ合衆国では,セルフ・ネ グレクト研究の調査対象者として,あらゆる障が いや精神的・認知機能的に困難を抱える高齢者が 多い点,そしてセルフ・ネグレクトの原因を解明 する際に当事者の視点より研究者などの第三者に よる診断および見立てが主な判断基準とみなされ ていた点である.またセルフ・ネグレクトを個人 の障がいや病気として捉える見方が研究の大きな 流れとなっていた.そこで,本書では,個人と社 会・環境との関連,個人が生きていく間に経験す るさまざまなライフイベントなどに注目し,当事 者の視点を取り入れた研究の必要性を指摘したの である. なお,認知症や精神障がいを,本書で示されて いる「セルフ・ネグレクトを引き起こすメカニズ ム」(p. 129)と関連づけて少し補足したい.この メカニズムは,【素因(個人的要因)】+【危機的 ライフイベント】 {【社会・環境要因】 【無気 力・生活機能低下】}という一連のプロセスの中 でセルフ・ネグレクト状態に陥ることを示すもの である.とりわけ,3つの経路のうち,経路1は一 連のプロセスなしで障がいや認知症等の【素因 (個人的要因)】あるいは【危機的ライフイベント】 によってセルフ・ネグレクトに陥る場合である. 医学・看護学の分野が中心となって解明されてき た精神的・認知機能的要因の多くが【素因(個人 的要因)】に該当する.素因を抱える人には,いつ でもセルフ・ネグレクトに至る可能性があると思 われるが,その人を取り巻くフォーマル・イン フォーマルの資源が有効に機能すれば,セルフ・ ネグレクトに陥るリスクを大幅に低減できる.し かし,その人に死別,事故,離婚などの衝撃的な 危機的ライフイベントが発生すると,セルフ・ネ グレクトに至る(経路2)リスクは非常に高まる. 一方,精神障がいや認知機能の低下により,自 分自身の健康や安全を放任・放棄する場合,セル フ・ネグレクトではなく,国からのネグレクトで はないかと考えている.その理由は,憲法にも定 められているとおり,国は,すべての国民が健康 で文化的な最低限度の生活を営む権利を保障しな ければならないからである.ゆえに,事理弁別能 力が低下した人々も社会保障を利用できる基本的 な権利を有する.しかし,判断能力のある人がセ ルフ・ネグレクトに陥った場合,これらの人々は 制度の狭間に漏れ落ちるリスクが極めて高くな る.つまり,判断能力のある人が意図的かつ非意 図的にセルフ・ネグレクトに至った場合は「セル フ・ネグレクト」あるいは「社会的ネグレクト」 となるが,精神障がいや認知症などによって無意 図的にセルフ・ネグレクトに至った場合,(結果 的にはセルフ・ネグレクトとみられるものの)そ れは「社会的ネグレクト」,あるいは「国からのネ グレクト」となるのではないだろうか. 今後は,評者のご指摘のように,高齢者との同 居世帯や多様な年齢層の事例も収集・検討し,セ ルフ・ネグレクトに至るプロセスを多次元的かつ 緻密に検討していくことも重要な課題であろう. 3.セルフ・ネグレクトの概念に関する理論の明 確化と測定指標 セルフ・ネグレクトの構成概念については各国 の研究機関だけでなく,国内の研究者によっても 相違がみられ,著者は先行研究で提示されたセル フ・ネグレクトの構成概念を整理し,類型化を試 みた.その結果,セルフ・ネグレクトに対して, 個人衛生,健康行動,居住環境の3つの上位概念 に再構成することができた(p. 76).一方,不適 切な財産管理と孤立はセルフ・ネグレクトの構成 概念から除外し危険因子として位置付けたが,こ こで不適切な財産管理と孤立をセルフ・ネグレク トの構成概念の中に含むべきかどうかについての ご質問をいただいた.この点については著者自身 も明快に回答することが現段階では難しいと思わ れるが,可能な範囲で述べたい. 不適切な財産管理や孤立をセルフ・ネグレクト の範疇に含める際に,議論を深めなければならな い点がいくつか存在する.とりわけ,「これまで報

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社会福祉学 第 61 巻第 4 号 2021 告されてきたセルフ・ネグレクトの定義では,結 果的にセルフ・ネグレクト行為により自分自身の 生命と安全および健康が脅かされる状態に陥った ことに関してはほぼ一致している」(p. 77)こと に注目する必要がある.すなわち,不適切な財産 管理および孤立と,「心身の安全と健康が脅かさ れる状態」の関係が理論的かつ実証的に検証され なければならない点である. まず,不適切な財産管理と「心身の安全と健康 が脅かされる状態」の関係である.不適切な財産 管理は,栄養問題や治療の放任,さらにはライフ ラインなどの住居問題にも影響し,セルフ・ネグ レクトを引き起こす重要な要因とされている.し かし,不適切な財産管理が直接心身の安全と健康 を損なわせるのではなく,あくまでもセルフ・ネ グレクトに影響する二次的な要因であるのではな いだろうか.不適切な財産管理は認知症とも密接 に関連する.認知症によって,財産管理のみなら ず,徘徊,幻覚,妄想,抑うつなど,いわゆる BPSDと思われる要因などを通じてセルフ・ネグ レクト状態に陥ることもあるが,何を根拠にどこ までを二次的要因とするのかを明確にする必要が あると考える. 次に,孤立と「心身の安全と健康が脅かされる 状態」の関係である.イギリスのタウンゼント (Townsend 1957)は,社会的孤立を「家族やコ ミュニティとの関わりがないこと」とし,1週間 当たりの親族,友人,隣人などとの接触の程度に よって社会的孤立を客観的に評価できる指標を開 発した.孤立傾向にある高齢者の多くが,低所得 や住環境の劣悪さ,不健康などほかの生活課題を 同時に抱え,強い孤独感や生活上の不安を抱えて いることから(斉藤 2013),孤立は人のメンタル ヘルスにも大きな影響を与えるものと考えられ る.一方,どの程度の孤立期間(タウンゼントは 最少1週間を孤立状態とした)を孤立状態とみな し,これらが心身の安全と健康にどのように関連 するかなどについても検討する必要があるかもし れない. 4.おわりに 本質にかかわる問いを投げかけてくださった野 村先生と,応答の機会を与えてくださった本誌編 集委員会にあらためて感謝申し上げる.とりわ け,不適切な財産管理や孤立をセルフ・ネグレク トの範疇に含めるべきかどうかなどの論点につい て,考えさせられた貴重な時間をいただいたと考 えている.今後とも,野村先生にいただいたご意 見・ご指摘を真摯に受け止め,セルフ・ネグレク トの概念に対する共通認識の基盤形成,ならびに セルフ・ネグレクトへの予防・支援モデルについ て慎重に検討していきたい.今後とも,微力なが ら,セルフ・ネグレクト研究に寄与できるよう努 めていきたい. 文 献

Macmillan, D. and Shaw, P. (1966) Senile Breakdown in Standards of Personal and Environmental Cleanliness,

British Medical Journal, 2(5521), 1032.

Townsend,P.(1957)The Family Life of Old People:An Inquiry in East London,Routledge.(=1974,山室周平 監訳『居宅老人の生活と親族網―戦後東ロンドンにお ける実証的研究』垣内出版.)

斉藤雅茂(2013)「高齢期の社会的孤立に関連する諸問題と 今後の課題」『老年社会科学』35(1),60‒6.

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