不確実性の下での工数を考慮したプロジェクトスケジューリング問題のモデル化と解法
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(2) 不確実性の下での工数を考慮した プロジェクトスケジューリング問題のモデル化と解法 北村 拓海 †1,椎名 孝之†1 プロジェクトの遂行において,作業の所要時間は作業の工数と作業へ投入される資源数によって決定される.資源の投 入数を増加することによって,所要時間は短縮される.さらに資源の投入数の増加に伴い,作業にかかる費用は増加す る.このような問題は,時間費用トレードオフ問題 (The Time/Cost Trade-off Problem) と呼ばれる.本研究では, 時間と費用の関係が反比例の関係にあると仮定する.作業の所要時間が確率変数によって定義されるような曲線型時間 費用トレードオフ問題に対して,確率計画法による定式化と解法および数値実験結果を示した.. キーワード: 確率計画法, 時間費用トレードオフ問題, プロジェクトスケジューリング. 1 は じ め に 製品開発プロジェクトをはじめとして,現在では東 京オリンピックに向けた大規模プロジェクトに注目が 集まっている.大規模プロジェクトの成功は,社会的 にも重要な課題といえる.ところが,特に複数の作業 で構成されたプロジェクトをスムーズに進めることは 困難である.作業を行うメンバーの能力偏差や突発的 に発生するアクシデントといった不確実性により,プ ロジェクトの納期を超過してしまう可能性があるため である.そのためプロジェクトが開始される前に,様々 な不確実性を考慮したプロジェクトスケジューリング 手法が必要となる. プロジェクトスケジューリング問題 (Project Schedul-. ing Problem, PSP) とは,プロジェクトを構成する作 業に対し,遂行順序や所要時間・開始時刻・完了時刻 を決定するスケジューリングである.主にメイクスパ ンの最小化が目的とされ,他には納期遅れ最小化やコ スト最小化等が目的関数となる.代表的な手法として. PERT や CPM がある. プロジェクトスケジューリング問題においては,各 作業で使用または消費する資源数を考慮する場合があ り,その資源数の考慮の手法として 2 つの方針が存在 する.1 つは資源制約付きプロジェクトスケジューリ ング問題 (Resource Constrained PSP) である.これ は同時刻に投入できる資源数に上限が存在するという 制約が加わった問題である. もう 1 つは時間費用トレードオフ問題 (Time/Cost. Trade-off Problem, TCTP) である.ある作業に対し て投入する資源数を増やすことで作業の所要時間は短 †1. 早稲田大学 創造理工学部 経営システム工学科 受付:2020 年 1 月 24 日 受理:2020 年 12 月 2 日. 38. くなり,プロジェクトも早く終わるがその分だけ費用 が増加してしまう.本研究はこのようなプロジェクト スケジューリング問題においての時間と費用のトレー ドオフとなる関係に着目する.プロジェクトの各作業 に対して工数を基に適切な資源投入数の決定を行うよ うな TCTP のモデルを作成し,作業時間の不確実性 を考慮に加えた確率計画モデルへの拡張を行う.これ によりプロジェクトにおける時間と費用の関係を制御 することで,適切な意思決定が可能となる.. 2 時間費用トレードオフ問題 (TCTP) 本研究においては,作業時間は工数と作業へ投入さ れる資源数により決定されるものと仮定する.工数と は作業を完了させるために必要となる総作業量である. 作業へ投入する資源数を増やすことで,作業の所要時 間は短縮できるがその分費用が増加する.逆に投入資 源数を減らすことで費用は減少するが,時間が長くな ることが考えられる.このようなトレードオフの関係 を考慮する問題において,作業への資源投入数を決定 するため,変数は整数値をとるものとする.決定変数を 離散値とするモデルは Discrete Time/Cost Trade-off. Problem(DTCTP) とよばれる.DTCTP の従来研究 は以下のように分類することができる. 納期問題 (DTCTP-D) 与えられた納期内でプロジェクトの総費用を最 小化するモデルであり, Hazir et al.[1] による. 予算問題 (DTCTP-B) 与えられた予算内でプロジェクトのメイクスパン を最小化させる.Hazir et al.[2] や Deˇ girmenci and Azizoˇ glu[3], Zhu et al.[4] により研究が行 われた. Time/Cost 曲線型問題 (DTCTP-C) 総費用とメイクスパンの関係が曲線で表された 日本経営工学会論文誌.
(3) モデルである.Jeang [5] は作業の経験曲線効果 を考慮したモデルの研究を行った. 工数を考慮したプロジェクトスケジューリングの研究 はまだ少ないといえる.また人が行う作業の場合にお いては,スケジュールの作成時点では作業の進行度を 定量的に予測することは困難である.作業時間の変動 によっては,決定されたスケジュールに対して遅延や 予算超過が発生する可能性があるためである.したがっ て不確実性を考慮した DTCTP のモデルへの拡張を 行う.. 3 提 案 モ デ ル 3.1 問 題 概 要 本研究ではスケジューリングのためのパラメータと して工数を定義する.工数とは作業を完了させるため に必要な総作業量であり,(工数)=(投入資源数)×(所 要時間) のような関係が成り立つと仮定し,2 段階確率 計画問題として定式化を行う.第 1 段階では資源の投 入数を定める.その後変動シナリオが判明し,作業の 所要時間に確率変動が生じる.また変動に伴いクラッ シング (作業時間の短縮) の長さが第 2 段階に決定さ. 3.3 費 用 設 定 工数 Mi をもつ作業 i に対して,まず第 1 段階で xi の資源を投入する.次に第 2 段階としてシナリオ s に 応じて,作業時間は (Mi /xi )ξis となり,資源 yis の追 加投入を行う.資源投入にかかる費用は作業の単位コ スト c と作業の所要時間 d をかけた値となる.作業 の単位コストは,Brooks[6], Jørgensen and Wallace [7] に基づいて投入資源数 n に対し O(n2 ) で増加する ものとし,作業に依存しない.本研究では簡単のため c = n2 とした. シナリオ s での費用 シナリオ s において,工数 Mi をもつ作業 i に 対して資源 xi + yis が投入された場合,資源投 入にかかるシナリオ s での費用は. c · dsi = (xi + yis )2 ×. Mi ξs xi +yis i. = Mi ξis (xi + yis ). と計算することができる. 費用の期待値 全シナリオを考慮するために,資源投入にかか る費用の期待値を求めると以下のようになる.. S ∑. れる.. s=1. πs. |N | ∑ i=1. {Mi ξis (xi + yis )}. 3.2 記号の定義 パラメータ 先行関係が存在する作業の組合せの集合. P N |N | S Mi Li Ui πs q D. 作業ノードの集合 プロジェクト全体の終了を表すダミー作業番号 所要時間の変動を表すシナリオ集合 作業 i の工数 作業 i への投入資源数の下限 作業 i への投入資源数の上限 シナリオ s の発生確率. 納期超過による単位ペナルティ費用 プロジェクト全体の納期 確率変数. ξis. シナリオ s での作業 i の所要時間の変動比率 第 1 段階決定変数. 作業 i への資源投入数 第 2 段階決定変数 tsi シナリオ s での作業 i の開始時刻. xi. t¯i yis y¯i dsi d¯i. =. |N | ∑ i=1. ¯ i xi + M. S ∑ s=1. πs (. |N | ∑. Mi ξis yis ). (1). i=1. ¯ i = ∑S π s ξis Mi ) (ただしM s=1 式 (1) の第 1 項は,第 1 段階決定の資源投入数 に基づく費用であり,第 2 項は第 2 段階決定に 基づく費用を表す. 総費用 総費用は第 1 段階における決定から生じる費用 と,第 2 段階における費用との総和となる.第 1 項に加えて,第 2 項に w の重み係数 (w > 0) を 与え,第 2 段階決定が第 1 段階決定と比べて費 用が高くなるよう設定する.本研究では w = 1.5 とした.. 平均シナリオでの作業 i の開始時刻 シナリオ s での作業 i への追加資源投入数 平均シナリオでの作業 i への追加資源投入数 作業 i のシナリオ s での所要時間 作業 i の平均シナリオにおける所要時間. Vol. 72 No. 1(2021). 3.4 定 式 化 主問題として,第 1 段階決定変数による総費用最小 化を目的としたモデル化を行った.さらに,第 2 段階 費用には納期超過に対するペナルティを加えた. 39.
(4) [主問題] min. |N | ∑. ¯ i xi + Q(x) M. (2). Li ≤ xi ≤ Ui , i ∈ N. (3). π s v s (x). (4). i=1. s.t.. Q(x) =. S ∑ s=1. |N |. x ∈ Z+. (5). 主問題において決定された第 1 段階決定変数 x を用い て第 2 段階変数を決定する.目的関数に含まれる v s (x) は,第 2 段階問題の最適目的関数値を表す.さらに, 第 2 段階問題の目的関数には,プロジェクト全体の締 切に対するペナルティを加えた.. [第 2 段階問題] v s (x) = min q(ts|N | − D)+ + w tsj. dsi , (i, j). Mi ξis yis (6). i=1. ≥ ∈P (7) Mi dsi = ξis , i = 1, . . . , |N | (8) xi + yis Li ≤ xi + yis ≤ Ui , i = 1, . . . , |N | (9). s. t.. −. tsi. |N | ∑. |N |. ds ≥ 0, y s , ts ∈ Z+. (10). 目的関数 (6) の第 1 項における |N | はプロジェクト全 体の終了を表すダミー作業であり,プロジェクトが納 期 D までに終了しない場合のペナルティとなる.制約 式 (7)(8) を考慮すると非線形の制約式となるが,一般 的なモデリング言語では記述が行えない.よって (8) を線形制約式に変換するため,各作業 i に対して図 1 に示される以下の Mi − 1 本の妥当不等式を用いる.. Mi ξis 2Mi ξis k + Mi ξis (xi + yis ) + , k(k + 1) k(k + 1) k = 1, 2, · · · , Mi − 1 (11). dsi ≥ −. 3.5 変動の与え方 プロジェクトスケジューリングでは,最頻値と楽観 値, 悲観値を用いた 3 点見積もり手法が多く用いられ る.確率計画法では,起こり得る実現値とその確率を 用いて変動を表す.本研究での実験において確率変動 は β 分布に従うと仮定する.β 分布の確率密度関数は 以下のように表せる.. xα−1 (1 − x)β−1 B(α, β) ∫ 1 tα−1 (1 − t)β−1 dt B(α, β) = f (x) =. (12) (13). 図 1 制約式 (8) に対する妥当不等式. 本研究では α = 2, β = 5 とした.この場合での最頻値 は x = 0.2 となり,この値を最頻値として標準所要時 間を意味するものとする.この基準から楽観値として. x = 0.1(所要時間が半分),悲観値として x = 0.6(所要 時間 3 倍) と設定する.所要時間が半分になる確率を p1 , 変動が起きない確率を p2 ,3 倍になる確率を p3 とする ∫ 0.15 と,積分計算により p1 = 0 f (x)dx = 0.2233, p2 = ∫ 0.4 ∫1 f (x)dx = 0.5430, p3 = 0.4 f (x)dx = 0.2337 と 0.15. 求められた.これらの値をベンチマーク問題に用いる.. 4 確率計画法の評価方法 4.1 VSS 確率計画法の解を評価する指標として VSS(value. of the stochastic solution) が用いられる (Birge and Louveaux[8], 椎名 [9]).問題に含まれる確率変数 ξ が ξ となるとき,以下のように確率変数の値を固定した 確定的最適化問題を定義する.ここで,c, q はそれぞ れ第 1 段階決定 x および第 2 段階決定 y に対する費 用であり,W, T は定数行列,h(ξ) は確率変数の実現 値 ξ に依存するベクトルである. minx z(x, ξ) = ct x+miny {q t y|W y = h(ξ)−T x, y ≥ 0} (14) s.t. Ax = b, x ≥ 0 (15) 確率計画問題の最適目的関数値 RP(recourse problem) は以下のように求められる.. RP = min Eξ (z(x, ξ)) x. (16). 確率変数 ξ を,その平均値 ξ¯ に置き換えて得られる確定 的な問題の最適目的関数値 EV(expected value prob-. ¯ とする. lem) を次のように定め,その最適解を x ¯(ξ) ¯ EV = min z(x, ξ) x. (17). 0. 40. 日本経営工学会論文誌.
(5) ¯ を確率計画問題に適用したときの その最適解 x ¯(ξ) 目的関数値 EEV(expected result of using the EV solution) は次のように求められる.. ¯ x + min w EEV = M. S ∑. πs. s=1. ¯ ξ)) EEV = Eξ (z(¯ x(ξ),. (18) s.t. (19). EEV を求める問題で得られる最適解は,RP を求め る問題の実行可能解となるので,次の関係が成立する.. RP ≤ EEV. (20). つまり,VSS ≥ 0 となる.RP を求める問題は通常の. 2 段階確率計画モデルである.一方で,EEV を求める 問題は,確率変数を平均値に固定して考慮した確定的 モデルになる.本研究における EV を求める問題の定 式化は,次節 4.2 の式 (21)–(25) である. EV を求め る問題は確率変数を平均値に固定させた確定問題であ り,EEV を求める問題は EV によって作成されたス ケジュールに,変動シナリオをあてはめた場合の費用 の期待値を求める問題である.EEV を求める数理モデ ルは 4.2 の (26)–(30) で示されている.. 4.2 等価確定問題の定式化 EV を求める定式化が以下に示される.ただし, ¯ ξi (i = 1, · · · , |N |) は作業 i における変動比率の期待 値である.確率変数 ξi が期待値 ξ¯i をとるときの最適 目的関数値 EV を,以下のように求める. ¯x+w EV = min M. |N | ∑. Mi ξis yis. i=1. π s q(ts|N | − D)+. (26). tsj − tsi ≥ dsi , (i, j) ∈ P, s ∈ S. (27). +. s=1. VSS は,次のように定義される. VSS = EEV − RP. S ∑. |N | ∑. L i ≤ xi +. yis. ≤ Ui ,. i = 1, . . . , |N |, s ∈ S (28) s M ξ i i (xi + yis ) dsi ≥ − k(k + 1) 2Mi ξis k + Mi ξis + , k = 1, 2, · · · , Mi − 1, k(k + 1) i = 1, . . . , |N |, s ∈ S (29) |N |. ds ≥ 0, y s , ts ∈ Z+ , s ∈ S. (30). 5 導 入 実 験 5.1 問 題 設 定 初めに,確率変動が所要時間は変わらない場合 (50%) と 3 倍に伸びる場合 (50%) の 2 パターンのみとして実 験を行う.プロジェクトの構成は Activity-on-Node(Ao-N) として図 2 のように与えた.ノード内の番号が作 業の番号であり,各工数の値はノードの上に示されて いる.ノード 7 は完了を表すダミー作業である.変動 は作業 3 と作業 4 で独立に発生するものとしたため, 変動は 4 シナリオ存在する.. Mi ξ¯i y¯i. i=1. s.t.. +q(t¯|N | − D)+ t¯j − t¯i ≥ d¯i , (i, j) ∈ P. (21) (22). Li ≤ xi + y¯i ≤ Ui , i = 1, · · · , |N | (23) Mi ξ¯i d¯i ≥ − (xi + y¯i ) k(k + 1) 2Mi ξ¯i k + Mi ξ¯i + , k = 1, 2, · · · , Mi − 1, k(k + 1) i = 1, . . . , |N | (24) |N | d¯ ≥ 0, x, y, ¯ t¯ ∈ Z+. (25). この問題で得られた解 x を固定値として用いて以下 の問題に当てはめ,EEV を求める.EV を求める問題 では,平均値に相当するシナリオを 1 つのみ考えてい るのに対して,EEV を求める場合は全てのシナリオ s ∈ S を考慮していることに注意されたい. Vol. 72 No. 1(2021). 図 2 A-o-N ネットワーク. 5.2 実 験 結 果 全ての作業に対して,投入資源数の下限を 1,上限 を 10 とした.納期を超過した場合の単位罰金費用 q は 100, 200 の 2 通りを考慮した. 図 3 は,数値実験 における確率計画問題の結果 (RP) と等価確定計画問 題の結果 (EEV) を比較したグラフである.このモデ ルは各作業それぞれにコストと時間のトレードオフの 関係を想定したものであったが,加えて図 3 では納期 と総費用の関係にもトレードオフの関係が表れている ことがわかる. この実験では,時間が 1 倍または 3 倍の 2 通りの 41.
(6) 表1. 数値実験結果 (q = 100). 納期. RP. EEV. 15. 4851.25. 4915. 1.29. 20. 4351.25. 4415. 1.44. 25. 3851.25. 3915. 1.62. 30. 3366.25. 3490. 3.54. 35. 2976.25. 3370. 11.7. 40. 2658.5. 3001. 11.4. 45. 2398.75. 2997. 19.9. 表2. VSS(%). 数値実験結果 (q = 200). 納期. RP. EEV. 15. 6307. 6507. 3.17. 20. 5307. 5527. 4.15. 25. 4354.4. 4877. 12.0. VSS(%). 30. 3572. 4199. 17.6. 35. 3048.75. 4045. 32.7. 40. 2658.5. 3651. 37.3. 45. 2404. 3897. 62.1. 図4. 納期を 30 とした場合のガントチャート. たものであり,横軸が時間で縦軸が投入資源数を表し ている.なお,色付けされた作業 3 および 4 は,作業 時間が変動することを表す.シナリオ 2 では作業 2 へ 資源の追加投入が 4 だけ行われている.シナリオ 3 で は作業 5 に 5 単位の資源が追加投入されている.シナ リオ 4 では作業 2 および 5 にそれぞれ 2,3 の資源の 追加投入が行われている. 等価確定問題では,平均シナリオとなる条件の下で 意思決定を行っているため,平均シナリオに合わせて. (21) の目的関数値が最適になるように,完了時刻を決 めている.確率計画法では,複数のシナリオを同時に 考慮しているため,ジョブの遂行時間が長くなるシナ リオ 4 においては,納期を超過するリスクも考慮して 意思決定を行っているといえる. また図 3 から,本研究の提案モデルによる確率計画 問題と等価確定計画問題の最適値の差分は納期によっ て変動することがわかる.納期が小さければ総費用の 差は小さいが,納期が大きくなるにつれて VSS が大き くなっていく傾向がみられる.EEV を求める問題にお いては,RP を最小化する解を求めているわけではな いため,RP との差が生じるといえる.RP の代わり に,計算の容易さから EEV を求めたとしても,差が 大きい可能性がある.さらに規模の大きい問題を扱う 場合には,RP を求めるためにシナリオ数を削減して 規模を小さくするような手法が必要になると思われる.. 6 ベンチマーク問題を用いた実験と解法. 図 3 総費用の推移 (Time/Cost Trade-off curve). 変動パターンが与えられているため,等価確定問題. (DTCTP) では変動が平均の 2 倍になるものと設定し た.図 4 は納期が 30 である場合の RP を求める問題 のスケジューリング結果をガントチャートとして示し 42. 6.1 Project Scheduling Problem Library Kolish and Sprecher[10] が作成したプロジェクトス ケジューリングのデータファイル集合である Project Scheduling Problem Library(PSPLIB) から,作業数 60, NC(Network Complexity) が 1.5 のデータ (j6011.sm) をベンチマーク問題とする.Davis[11] による と,NC は以下のように定義される. 日本経営工学会論文誌.
(7) NC =. |P | |N |. 表 3 作業数 60, N C = 1.5 の数値実験結果. (31). また工数を,データ内の各作業から (所要時間)×(使用 資源数) として決定した.確率変動は,最大工数上位 の 5 作業に 3 通りずつ発生するものとしたため,総シ ナリオ数は 35 = 243 本となった. 数値実験では,データのサイズや問題の複雑さから 実用的な時間で解が得られない場合がある.このよ うな問題を解決するために,モーメントマッチング法. (moment matching method [12],[13]) を用いてシナ リオの削減を行い,計算できる問題のサイズの拡張を考 える.実験環境は CPU:Intel(R) Core(TM)i7-3770S. 3.10GHz, メモリ:8.0GB である.. 従来シナリオ 納期. 総費用. 80 90 100 110. 9716.5 8994.54 8316.52 7810.91. を与えなおす手法である.各段階のシナリオに相当す るノードに与える確率が 0 になる場合があるため,そ のノードの子ノードの発生確率もすべて 0 になり,シ ナリオ数の削減を行うことができる.まず,以下の表 3 に作業数 60, N C = 1.5 の場合の厳密解 RP を求め る問題に対する目的関数値を示す.. 3090.5 2531.54 2512.52 2250.91. 2254.03 2794.78 1662.89 1241.97. モーメントマッチング法の定式化のため,以下のよ うに記号を定義する. パラメータ N′ 確率変動が発生するノード集合 bi 作業 i がとりうる変動数. Bi. シナリオツリーに対してモーメントマッチング法を用 いる.シナリオがツリー型で与えられている場合にお いて,元の確率分布の期待値や分散,歪度,尖度等の 統計的性質を保つように,各段階毎のシナリオの確率. 6626 6463 5804 5560. 6.3 記号の定義. 6.2 モーメントマッチング法の概要 本節では,モーメントマッチング法を用いてシナリ オ数の削減を図る.本研究では確率変動は 5 つの作業 に起きるものとしているため,図 5 のような 5 段階の. 第 1 段階 第 2 段階 計算時間 (s). ¯i M Σi , S i , Ki Xit λi ωi1 , ωi2 , ωi3. (i = 1, · · · , |N ′ |) 作業 1 から i までに相当するシナリオ ∏i ツリーのノードの総数,Bi = t=1 bt 作業 i の工数の期待値 ∑¯ s s Mi = S s=1 π ξi Mi 作業 i の工数の変動の分散,歪度,尖度 作業 i の工数の変動のシナリオツリーに おける第 t 実現値,X i ∈ RBi 作業 i の重み係数 作業 i の工数の分散,歪度,尖度に対する 重み係数. 変数. pti − Σ+ i , Σi + − Si , S i Ki+ , Ki−. 作業 i の工数の変動のシナリオツリーに おける第 t 実現値の発生確率,pti ∈ RBi 作業 i の工数の分散の理論値との差分 作業 i の工数の歪度の理論値との差分. 作業 i の工数の尖度の理論値との差分 これより,(t mod bt ) を t を bt で除した剰余とす ると,作業 i の工数のシナリオツリーにおける t 番目 (t mod bt ) の実現値は Xit = Mi ξi と表すことができる. ただし,(t mod bt ) = 0 の場合は,Xit = Mi ξibt と する.. 6.4 数理モデル 目的関数式 (32) は,決定変数 pti による分散,歪度, 尖度とそれぞれの理論値との差を最小化している.. min. |N ′ |. ∑ i=1. − 2 + − λi {ωi1 (Σ+ i + Σi ) + ωi (Si + Si ). +ωi3 (Ki+ + Ki− )} 図5. (32). 5 個の作業の工数の変動を表すシナリオツリー. Vol. 72 No. 1(2021). 43.
(8) 表 4 作業数 60, N C = 1.5 へのモーメントマッチング法適用結果 方針 (i) 納期. 総費用. 80. 9805.52. 6810. 90. 8973.84. 100 110. s.t.. 方針 (ii) 計算時間 (s). 誤差 (%). 総費用. 2995.52. 115.92. 0.92. 9685.47. 6859. 2826.47. 246.64. -0.32. 6265. 2708.84. 289.33. -0.23. 8772.01. 6477. 2295.01. 70.51. -2.47. 8288.28. 5710. 2578.95. 221.53. -0.33. 8047.68. 6062. 1985.68. 100.55. -3.23. 7657.57. 5280. 2377.47. 236.61. -1.96. 7396.65. 5540. 1856.65. 227.8. -5.30. Bi ∑ t=1. 第 1 段階 第 2 段階. ¯ i , i = 1, . . . , |N ′ | Xit pti = M pti = pji−1 ,. t=jbi +1. i = 1, . . . , |N ′ |, j = 1, · · · , Bi−1. Bi ∑. − ¯ i )2 pti − Σ+ (Xit − M i + Σi = Σ i ,. Bi ∑. ¯ i )3 pti − Si+ + Si− = Si , (Xit − M. Bi ∑. ¯ i )4 pti − Ki+ + Ki− = Ki , (Xit − M. t=1. i = 1, . . . , |N ′ |. t=1. i = 1, . . . , |N ′ |. t=1. 計算時間 (s). 誤差 (%). ンにおいても従来シナリオ数をそのまま用いた場合と. (33). (j+1)bi. ∑. 第 1 段階 第 2 段階. (34). (35). (36). 比べ,誤差を抑えながら計算時間をおおよそ 10 ∼ 20. 分の 1 程度の削減に成功した.重み λ の決定に関する 方針については,方針 (ii) の方が誤差が大きくなった. これは作業の工数に対して重みの与え方が適切でない と考えられる.方針 (ii) では工数の差が非常に小さい 場合にも明確に順序を付けてしまうため,差が小さい 場合は重みの差も比較的小さくすべきであると考えら れる.よって手法として方針 (i) が有効であると考え られる. さらにモーメントマッチング法適用後のシナリオ数 を表 5 に示す.これによってシナリオ数が大幅に減少 することがわかる. 表 5 モーメントマッチング法適用後のシナリオの本数 元のシナリオ数 243. i = 1, . . . , |N ′ |. (37). i = 1, . . . , |N ′ |. (38). i = 1, . . . , |N ′ |, t = 1, · · · , Bi. (39). − + − + − Σ+ i , Σi , Si , Si , Ki , Ki ≥ 0,. pti ≥ 0, p10 = 1,. 式 (33) は,実現値と確率の積が期待値の理論値と一 致するという制約を表している.制約式 (34) では,シ ナリオツリーにおいて子ノードの確率の総和が親ノー ドの確率と一致させている.式 (35),(36),(37) はそれ ぞれ分散,歪度,尖度の期待値との差分を与えている. 目的関数 (32) の λi , ωi1 , ωi2 , ωi3 の値の与え方が重要 である.本研究では ωi1 = ωi2 = ωi3 = 4 と等しくし, λi の与え方について 2 通りの方針に基づいて実験を 行った. 方針 (i) 確率変動が起こる作業の工数の比をとって. λi の値とした. 方針 (ii) 確率変動が起こる最も小さい工数をもつ作 業から順に 1, 2, 3, · · · と与えた. 6.5 モーメントマッチング法適用結果. 方針 (i) 方針 (ii) 6. 5. 7 お わ り に プロジェクトは不確実な状況で実行される場合も多 く,不確実性を考慮した事前の決定が必要になる. そのなかで初期計画によるスケジュールと不確実性 の判明に対応する追加決定の計画は重要となる.本研 究では,プロジェクトスケジューリングにおいて重要で ある時間と費用のトレードオフとクラッシングを考慮 した 2 段階確率計画問題の数理モデルを初めて示した. そして確率変動を伴う DTCTP-C に対して,妥当不等 式とモーメントマッチング法を用いた効果的な解法を 開発した.現実の問題への応用が今後は望まれる.ま た,複数の資源を必要とする作業をもつプロジェクト についての拡張が今後検討できる.1 種類だけでなく複 数の資源を必要とする場合の数理モデルの研究が必要 となる.今後の展望としては各時刻においての使用可 能な資源量を考慮に加えたモデルの作成を行い,最大 使用資源数と最小使用資源数の差を抑えることで,よ り現実的なスケジューリングを行うことが可能となる.. モーメントマッチング法を適用して得られた結果を 表 4 に示す. また,表 3 の結果と比較すると,どの納期のパター 44. 日本経営工学会論文誌.
(9) 参. 考 文 献. ¨ Erel, E. and G¨ [ 1 ] Hazir, O., unalay, Y.: “Robust Optimization Models for the Discrete Time/Cost Trade-off Problem,” Int. J. Prod. Econ., Vol. 130, No. 1, pp. 87-95 (2011) ¨ Haouari, M. and Erel, E.: “Discrete [ 2 ] Hazir, O., Time/Cost Trade-off Problem: A Decompositionbased Solution Algorithm for the Budget Version,” Comp. & Oper. Res., Vol. 37, No. 4, pp. 649-655 (2010) [ 3 ] Deˇ girmenci, G. and Azizoˇ glu, M.: “Branch and Bound Based Solution Algorithms for the Budget Constrained Discrete Time/Cost Trade-off Problem,” J. Oper. Res. Soc., Vol. 64, pp. 1474-1484 (2013) [ 4 ] Zhu, G., Bard, J. F. and Yu, G.: “A Two-stage Stochastic Programming Approach for Project Planning with Uncertain Activity Durations,” J. Scheduling, Vol. 10, pp. 167-180 (2007) [ 5 ] Jeang, A.: “Project Management for Uncertainty with Multiple Objectives Optimisation of Time, Cost and Reliability,” Int. J. Prod. Res., Vol. 53, No. 5, pp. 1503-1526 (2015). Vol. 72 No. 1(2021). [ 6 ] Brooks Jr, F. P.: The Mythical Man-Month, Essays on Software Engineering, Anniversary Edition, 2nd Edition, Addison-Wesley Professional (1995) [ 7 ] Jørgensen, T. and Wallace, S. W.: “Improving Project Cost Estimation by Taking into Account Managerial Flexibility,” Eur. J. Oper. Res., Vol. 127, No. 2, pp. 239-251 (2000) [ 8 ] Birge, J. R. and Louveaux, F.: “Introduction to Stochastic Programming,” Springer (1997) [ 9 ] 椎名孝之: 「確率計画法」, 朝倉書店 (2015) [10] Kolish, R. and Sprecher, A.: “PSPLIB-A Project Scheduling Library,” Eur. J. Oper. Res., Vol. 96, No. 1, pp. 205-216 (1997) [11] Davis, E. W.: “Project Network Summary Measures Constrained-resource Scheduling,” AIIE Trans., Vol. 7, No. 2, pp. 132-142 (1975) [12] Høyland, K. and Wallace, S. W.: “Generating Scenario Trees for Multistage Decision Problems,” Manage. Sci., Vol. 47, No. 2, pp. 295-307 (2001) [13] Xu, D., Chen, Z. and Yang, L.: “Scenario Tree Generation Approaches using K-means and LP Moment Matching Methods,” J. Comput. Appl. Math., Vol. 236, No. 17, pp. 4561-4579 (2012). 45.
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