意識障害と高次脳機能障害や片麻痺のある脳出血患者の発症時からの意識障害の回復に伴う自己の障害に対する認識の変化
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(2) 意識障害と高次脳機能障害や片麻痺のある脳出血患者の発症時からの意識障害の回復に伴う自己の障害に対する認識の変化. 田村,2016)。. 脳卒中患者は多くなっている (厚生労働省,2017)。脳 卒中患者に対する医療や看護の発展はわが国において. 本研究では、脳出血を発症して意識障害や高次脳機. 重点課題であり、2018 年には「健康寿命の延伸等を図. 能障害のある片麻痺患者に対して、発症直後から回復. るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策. 期リハビリテーション病院に転院するまでの期間、研. に関する基本法」 (脳卒中・循環器病対策基本法)が成. 究者が参加観察を行い、従来の患者自身が語られた面. 立した。脳卒中患者に対しては、できるだけ発症早期. 接データだけでは明らかにできなかった、意識障害と. から看護師を含むチームで積極的なリハビリテーショ. 高次脳機能障害や片麻痺のある重篤な障害をもった脳. ン(以下、リハビリ)を行うことで、廃用症候群を予. 出血患者の、発症直後からの意識障害や病態が回復す. 防し、日常生活動作を向上させ、早期に在宅復帰を図. る過程での自己の障害に対する認識の変化を時系列に. ることができる(日本脳卒中学会 , 脳卒中ガイドライ. 明らかにした。. ン委員会,2015)ことから、この時期にかかわる救急. Ⅱ.研究方法. 看護師の果たす役割は大きい。さらに、効果的なリハ ビリを期待するには、患者自身の意欲や主体性などが 1.研究デザイン. 重要である(秋山,大星,筒井,2016)が、患者の意 識がはっきりしないなかで援助が行われるため、早期. 本研究では、患者自身では十分に語ることができな. から効果的な看護支援を行うためには、看護師は、患. い自己の障害の認識を研究者が理解することが必要で. 者が意識障害や麻痺といった症状が強く現れている発. ある。患者自身が語ることのできない経験の意味をと. 症後まもない時期から自身の障害をどう認識していく. らえ理解するためには、研究者の参加観察によって得. のかを理解することが重要となる。. られたデータの文脈を解釈する必要がある。そこで本. 脳卒中を発症した患者の心理を理解するために用い. 研究では、患者の言動やその時の出来事から離れず、. られてきた理論として、上田(1980)が提唱していた、. ある出来事についてそうした出来事が生じている理由. 患者が障害を受容するまでの障害受容の心理プロセス. を日常の言葉で包括的に解釈し要約するものであるた. や、Fink(1967) な ど の 危 機 モ デ ル が あ る( 下 村,. め、質的記述的研究方法が適していると考えて採用し. 2015) 。脳卒中は突然に発症し,障害が残存しやすい病. た。. 態ではあるものの、意識障害や高次脳機能障害を合併 2.研究対象者. することも多く、実際にはこれらの理論では、急性期 の脳卒中患者の心理を十分に説明できないと考えられ. A氏、50代前半の男性。母親と弟の3人暮らしで、独. る。急性期の脳卒中患者の心理・体験・経験を理解す. 身、会社員であった。突然に左片麻痺を自覚して緊急. るための研究としては、自身の体験を語ることができ. 搬送され、頭部CT検査の結果、右被殻視床混合出血・. るようになった回復期以降にインタビューを行う質的. 脳室穿破と診断され、B病院のSCU(Stroke Care Unit). 帰納的研究が行われ (高山,1997;加根,古川,2007;. に入院して保存的治療を受けた。発症時の JCS(Japan. 北尾,鈴木,土井ら,2013;西田,日高,小浜,2012)、. Coma Scale)は20〜30、GCS(Glasgow Come Scale)は. 急性期にデータ収集が行われる前向き研究は少ない。. E2V4M6であった。重症度はNIHSS (National Institutes. 脳 卒 中 発 症 後 72 時 間 以 内 に デ ー タ 収 集 し た 研 究. of Health Stroke Scale)14 点で、左半側空間無視、構. (Doolittle,1991)は、ラクナ梗塞の患者に限定されて. 音障害、顔面を含む左半身の麻痺と感覚障害があった。. いた。発症 1 週間以内に面接を行った研究(百田,西. MMT(Manual Muscle Test、徒手筋力テスト)は左. 亀,2002:登喜,高田,2006)や、発症から 6 週間に. 上肢2/5、左下肢1/5で麻痺があった。発症18日目に回. 焦点を当てて参加観察した研究(山内,2007)もみら. 復期リハビリテーション病院に転院した。. れるが、コミュニケーションに障害がなく自身の体験. 意識障害は徐々に回復し、転院時には意識障害はな. を語ることができる患者に限定されていた。つまり、. かった。左半身の麻痺は、発症時から転院まで変化は. 現在までに発表された研究では、自身の体験や経験を. なかった。高次脳機能障害は、失語や記憶障害は認め. 語ることができる患者に限定され、患者自身の記憶の. られず、意識障害が回復してきた時期には軽度の注意. 追体験を記述しているにすぎなかった(日坂,南川,. 障害が認められたが転院時には回復していた。左半側. 2.
(3) 日本救急看護学会雑誌:23. 空間無視は転院時にも回復はしていなかった(図 1) 。. の程度によって第 1〜4 期に分類した。分類は、中等度 の意識障害がある時期(JCS30〜10・GCS12〜13 点)を. 3.データ収集方法. 第 1 期、軽度の意識障害がある時期(JCS2〜1・GCS13. データ収集は、発症24時間以内から回復期リハビリ. 〜14 点)を第 2 期、意識障害が概ね改善してきた時期. テーション病院に転院するまでの急性期病院に入院し. (JCS1〜0・GCS15 点)を第 3 期、意識障害が完全に改. ていた 18 日間、研究者が参加観察法で行った。参加観. 善した時期(JCS0・GCS15 点)を第 4 期とした。さら. 察法は、研究者がベッドサイドで日常生活の援助や観. に、A氏の言動を、そのときの他者のかかわり方や状. 察などの看護実践を行いながら、A氏の言動や表情と. 況などの環境、身体症状や高次脳機能障害などの病状. その時の出来事、意識障害や身体麻痺などの神経徴候. も考慮しながら解釈し、特徴的な言動を抽出した。ま. や高次脳機能障害などの観察した内容をメモに取り、. た、A氏の自己の障害の認識の変化に着目して解釈を. 看護ケア終了後、その日のうちに記憶した内容とメモ. 行い、1 つの意味内容を表すデータのまとまりに、解. を基に、フィールドノートに記載した。さらに診療記. 釈した内容を表すタイトルをつけた。 発症83日目に回復期リハビリテーション病院に入院. 録に記載されていた病態や治療経過、A氏の言動の記. 中のA氏と面接し、発症18日目までの急性期病院に入. 述もデータとして採用した。. 院中の体験について、研究者の解釈の妥当性を確認し 4.データ収集時間. た。分析の過程において、複数の脳神経患者を対象と した質的研究に精通した研究者と精錬した。. 2016 年 2〜3 月で、入院当日から転院までの 18 日間 であった。総参加観察時間は 930 分で、1 日平均は 51.7. 6.倫理的配慮. ± 24.3 分であった。. 研究対象者である A氏には発症 12 日目に、A氏の家 5.分析方法. 族には発症 4 日目に口頭で研究の同意を得た。A氏へ. 本研究は、以下の手順で分析を行った。まず、参加. の研究の説明は、A氏が研究内容を理解できるまで意. 観察で得られた A氏のデータを時系列にエピソードご. 識障害が回復できていること、研究内容が理解できな. とに整理を行った。次に、記述したデータを繰り返し. い失語や記憶障害といった高次脳機能障害がないこ. 読み、データを発症からの時間経過と意識障害の回復. と、A氏の病態や精神状態が安定していることを脳神. 図 1 A氏の発症から 18 日間の経過 発症からの日数. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 20. GCS. E2~3V4M6. 左上肢 MMT. 2. 左下肢 MMT. 1. 高次脳機能 障害. 左半側空間無視. 有. 注意障害. 不明. 左半身感覚障害. 有. 構音障害. BI の点数 日常生活動作 (ADL) 加点された項目. 8. 9. 10. 11. 12. 13. 14. 15. 16. 17. 脳神経外科病棟. JCS. 左上下肢運動 麻痺の状態. その他の 神経症状. 1. SCU. 入院病棟 意識レベル. 0. 30. 20. 10. 2. 1. E3~4V4M6. 転院 0. E4M5V6. 有. 軽度 発語速度の低下 0. 5. 10. 15. 排便コン 車椅子から トロール ベッドへの移乗 5点 5点. 25. 排尿コン 食事 5 点 トロール トイレ動作 5点 5点. SCU: Stroke Care Unit JCS: Japan Coma Scale GCS: Glasgow Coma Scale MMT: Manual Muscle Test BI: Barthel Index. 3. 18.
(4) 意識障害と高次脳機能障害や片麻痺のある脳出血患者の発症時からの意識障害の回復に伴う自己の障害に対する認識の変化. 経外科病棟師長と担当看護師に確認できた発症12日目. 第1〜4期にデータを分類して分析した結果、抽出され. に実施した。A氏の家族への研究の説明は、発症後数. た A氏の特徴的な言動を以下に記述した。さらに、第. 日間は家族も突然の発症に精神的に動揺している時期. 1〜4 期での【自己の障害の認識】について、解釈した. にあり、研究の依頼を行うことはかえって家族への精. データの意味ごとのタイトルを記述した(表 1) 。. 神的負担となると判断し、SCU病棟師長と担当看護師 1.第 1 期:中等度の意識障害がある時期. に家族が精神的に安定していることを確認して、発症 4 日目に研究の同意を得た。. 発症当日から 2 日目にかけては、JCS が 30〜20 で、. 研究の趣旨、研究参加の任意性と中断の自由と不利. 医療者が繰り返し何度も刺激をしながら質問すること. 益の回避、個人情報の守秘、データの保管と管理、結. で返答できることもあった。自発的な訴えは生理的な. 果の公表を説明した。さらに、研究の同意を得る前か. ニーズである「暑い」や「おしっこ」などの単語であっ. ら、看護ケアを行いながら参加観察によるデータ収集. た。危険回避の説明を何度も行っているにもかかわら. を行いフィールドノートに記述していたこと、本研究. ず一人で突然に起き上がろうとすることや、抑制具の. のデータ収集を研究者が行っても A氏への看護ケアは. ミトンを噛んで外そうとしていた。発症3日目にJCS20. 通 常 と ま っ た く 変わりはなかったこと、記述 し た. 〜10 となり、「甘いもの、飲みたい」や「頭、冷たい. フィールドノートのデータは研究の同意が得られなけ. のがいい(発熱していた)」など、欲求の伝え方が具体. ればその場で破棄することを説明した。以上を書面と. 的になってきた。見当識の質問には答えないときでも、. 口頭で説明し、A氏および A氏の家族より署名にて同. 自分自身の仕事のことや関心のある質問には単語で答. 意を得た。. えることもあった。A氏からの、なぜ入院や点滴治療. 本研究は研究対象者が入院していた大学病院の倫理. を受けているのかの質問はなく、自身に起こっている. 審査委員会の承認を得て実施した。. 状況に疑問を感じたりはしていなかった。また、片麻 痺があることなどの自己の障害について認識している. Ⅲ.結果. 言動はなく、訴えは身体的に苦痛となっていることな ど、生理的な欲求のみであった。 これらの結果から第 1 期の【自己の障害の認識】は、. 発症からの意識障害の回復の程度と時間経過を基に. 表 1 意識障害の回復経過と自己の障害の認識の変化. 意識レベル 発症からの日数. 第1期. 第2期. 第3期. 第4期. 中等度の意識障害. 軽度の意識障害. 意識障害が概ね改善. 意識障害が完全に改善. JCS:30~10. JCS:2~1. JCS:1~0. JCS:0. GCS:E2~3V4M6. GCS:E3~4V4M6. GCS:E4V5M6. GCS:E4V5M6. 当日~3 日目. 4~7 日目. 8~13 日目. 14~18 日目. 「左は動かない」 などの発 言. 車椅子への移乗動作の難 しさを話す. 麻痺側を持ち上げて落と す、叩く. 看護師に冗談を言う. 病室で天井を見つめてい る. ミトンを噛む 突然起き上がる. 特徴的な言動. 「暑い」「甘いもの、飲み たい」などの発言. 左手をつねる. 入院は長くても 1 カ月と 導尿しないと尿が出ない 「母親 ことなど自分の状態を看 「障害者になった」 考えている発言 を悲しませる」との発言 護師に話す 発症時の状況を話す 自分なりに発症した理由 を語る. 自己の障害の 認識. 自己の障害を認識してい ない. 自己の障害の認識はある が障害が一時的なものと 考えている. JCS: Japan Coma Scale GCS: Glasgow Coma Scale. 4. 自己の障害による日常生 活動作の困難さを認識す る. 自己の障害が完全には治 らないことを認識する.
(5) 日本救急看護学会雑誌:23. た。実際の車椅子への移乗の介助量は日に日に少なく. 〈自己の障害を認識していない〉とした。. なっており、介助者が A氏の腰を軽く支える程度でで 2.第 2 期:軽度の意識障害がある時期. きるようになっていた。また、内服薬を渡すと、 「下剤. 発症から 4 日目には、JCS2〜1 まで改善した。補助. はいらない(実際には下剤ではない)」や、尿意を訴え. 具を使って端坐位訓練を行うとしっかりと開眼し、母. たときに尿器を当てようとすると「管を入れないと出. 親と家のことや仕事のことを話していた。母親に職場. ない(実際には出る場合もあった)」と、誤りはあるが. への入院期間の連絡は 1 週間(A氏は 1 週間で退院でき. 自身の状況を理解した内容を看護師に伝える発言がみ. ると思っている)ではなく 1 カ月と長めに言っておく. られた。この時期は病態も安定してきており、経口摂. ように指示したことから、入院が 1 週間程度で元の生. 取や車椅子移乗の訓練が積極的に行われ、日常生活動. 活に戻れると考えていた。看護師に「よろしくお願い. 作や行動範囲は拡大していった。訓練や日常生活動作. します」や「ありがとう」などと言い、他人を思いや. の拡大に伴い、A氏からは車椅子など新しい道具を用. る感謝の発言が聞かれるようになってきた。発症 6〜7. いた学習や麻痺のある身体の動かし方など日常生活動. 日目にはJCS1にまで改善した。看護師の麻痺の観察時. 作の難しさを実感した発言があった。しかし、看護師. に「こっち(左側のこと)は動かん」や「手は動かな. に冗談を言うことや笑顔も多くあり、時折暗い表情は. いです」と麻痺を自覚している発言や、左手をつねる. あるものの、明らかに落胆している様子ではなかった. 動作があった。質問に対して単文での返事はあるが自. と解釈した。 これらの結果から第 3 期の【自己の障害の認識】は、. 分からの発語は少なく、 閉眼していることが多かった。. 〈自己の障害による日常生活動作の困難さを認識する〉. 自己の障害について認識し始めている言動を認めた. とした。. が、医療者に麻痺について質問することはなく、早期 に回復すると考えている内容の発言があった。 つまり、. 4.第 4 期:意識障害が完全に改善した時期. 麻痺があることは認識しているが、その障害が完全に は治らない可能性があることや、障害が今後の自分の. 発症14日目から転院までは意識障害はなかった。研. 生活にどのように影響してくるかまでは考えていない. 究者が訪室したときに、「リハビリをずっと待ってい. と解釈した。. る。トイレに行く練習をすると言っていた」と話し、 リハビリに意欲的に取り組んでいた。研究者がリハビ. これらの結果から第 2 期の【自己の障害の認識】は、. リはどうか尋ねると、 「難しい。左手が動かん。感覚が. 〈自己の障害の認識はあるが障害が一時的なものと考. おかしい」と言いながら、右手で左手をさすったり叩. えている〉とした。. いたり、右手で左手を持ち上げては落とす動作を繰り 3.第 3 期:意識障害が概ね改善してきた時期. 返しながら、 「おもちゃみたいや。もう障害者や。おか ん(母親のこと)泣いてしまうな」と語った。研究者. 発症8〜13日目には、明らかな意識障害はないが、昼 食後に時間を聞かれて答えると「夜の 1 時?」と言う. が病名を尋ねると「脳梗塞」と誤って理解しており、. などはっきりしないこともあった。嚥下訓練用ゼリー. 脳出血であることやなぜ左麻痺があるのかを説明した. の経口摂取が開始となり、 「おいしい」 と入院後初めて. ところ、うなずきながら聞いていた。さらに A氏は、. 笑顔を見せた。SCU から脳神経外科病棟に転棟し、病. 両親も自身も糖尿病であったことや、父親は突然死し. 棟内のデイルームで車椅子に座り食事をとることや、. たが自分はすぐに救急車を呼んでもらえたこと、車の. 車椅子トイレでの排泄、リフトでの入浴を介助の下で. 運転中でなかったことは幸運であったとも話した。 「障. できるようになった。看護師に笑顔で 「 (グーサインを. 害者になった」との言葉から、自身の麻痺が完全には. しながら)調子はバッチグーです」や「よろしこ(よ. 治らないことをはっきりと自覚していたと解釈した。. ろしくのこと) 」などの冗談も話せるようになったが、. さらに、 「自分は何もできない。何のために生きている. 面会はなく、一人で病室にいるときは暗い表情のとき. のか」と語り、生きている意味すら見失っていた。リ. もあった。発症 12 日目に研究者が「リハビリはどうで. ハビリなどを受けている以外の時間は病室のベッドの. すか」と尋ねると「難しい。どこに(手を)置いてい. 上で過ごすことが多く、ずっと天井を見ていたと後日. いのか。 (手順が)覚えられない」と厳しい表情で語っ. 話しており、病室でのその時間をどのように過ごした. 5.
(6) 意識障害と高次脳機能障害や片麻痺のある脳出血患者の発症時からの意識障害の回復に伴う自己の障害に対する認識の変化. 第 2 期の軽度の意識障害のある時期は、医療者の繰. らいいのかわからず、 落胆を強めていったと解釈した。 しかし、自分なりに脳出血になった理由を考えること. り返しの麻痺や感覚障害の観察、発症前とは違う身体. や、自分はほかの人より幸運であることを見つけるこ. の動きなどにより自己の障害を認識していた。しかし、. とで現状を納得しようとする言葉も聞かれた。. そのことを深く考えることはできず、現在の障害が一 時的であると考えていたため、ショックを受けて落ち. これらの結果から第 4 期の【自己の障害の認識】は、. 込むことや今後の不安は認めなかったと考えられる。. 『自己の障害が完全には治らないことを認識する』とし. 患者は発症前と同等の生活ができると考えているが、. た。. 看護師は否定も肯定もせずに事実のみを伝えるかかわ. Ⅳ.考察. りを行いながら、患者自身が障害のある身体経験を実 感するかかわりを継続することが重要であると考え る。. 脳出血は、頭蓋内の血腫により脳実質が圧迫されて. 第 3 期の意識障害が概ね改善される時期は、病態の. 損傷し、 その損傷部位によって身体の麻痺や感覚障害、 高次脳機能障害などのさまざまな障害を引き起こす疾. 安定に伴い積極的にリハビリを行い、日常生活動作が. 患である。さらに脳出血の急性期は、血腫周囲の脳実. 拡大することで、発症前とは同じようにはできないこ. 質の圧迫による脳浮腫を起こし、意識障害をきたしや. とを日々実感していた。医療者の麻痺や感覚障害の観. すいが、時間経過とともに血腫が吸収されて脳浮腫が. 察によって実感する劇的な回復の変化のない身体経. 軽減すると、意識障害が回復することが多い。A氏の. 験、日常生活動作の訓練や拡大の困難さの経験、日常. 脳出血は被殻だけでなく視床にまで及んでおり、運動. 生活の介助を受けることの経験を通して、自己の障害. 障害だけでなく感覚障害が強く現れており、また、脳. による日常生活動作の困難さを認識していったと考え. 室穿破していることにより意識障害が強く現れてい. られる。日常生活動作の困難さを実感することは落ち. た。さらに、A氏は右大脳半球に出血があり、半側空. 込みや落胆につながるが、障害と共に生きる今後の生. 間無視や半側身体失認、注意障害などの高次脳機能障. 活を考えるうえで必要なプロセスであると考えるた. 害を合併していた。このような A氏が、意識障害が回. め、できない経験も患者にとっては重要である。看護. 復する過程でどのように自己の障害を認識していた. 師は日常生活の困難感を実感させないように援助する. か、また、看護師はどのような看護を行ったらよいの. のではなく、積極的に患者自身に日常生活動作を行っ. かについて考察する。. てもらい、自分は何ができて何ができないのか経験で きるように支援するべきであると考える。. 第 1 期の中等度の意識障害のある時期は、覚醒して. 第 4 期の意識障害が完全に回復した時期には、障害. いる時間も短く、自身に起こっていることの理解や、 他者から言われたことを記憶し保持することや解釈し. が完全には治らないことに対する認識に加えて、将来. て理解することはできなかった。そのため、自己の障. への不安が強くなり、落ち込みや落胆をしていたと考. 害を認識することができなかったと考えられる。さら. えられる。しかし A氏は落胆しながらもリハビリに積. に、自己の障害が認識できないだけでなく、起きてい. 極的に取り組み、難しさを感じながらも努力を続けて. る状況も理解できていないにもかかわらず、頭痛や吐. いた。さらに、障害をもつ自分に価値を見出そうとす. き気や動けないことなどの身体的苦痛に加えて、治療. る言動もあり、落胆しながらも今後のことを考えて取. のための点滴や日常生活動作が制限され、A氏は理由. り組もうとしているとも考えられる。看護師は落胆す. もわからずに自由に動けない状態にあった。そのため. る気持ちに寄り添いながらも、さらに日常生活動作の. A氏は、苦痛の軽減と生理的欲求の充足を訴え続けた. 再獲得に向けての訓練を積極的に行うことが重要な看. と考えられる。この時期に患者が少しでも自身の状況. 護であると考える。. を認識するために、看護師は患者が理解できていなく. これまで、突然に脳卒中を発症して障害者となった. てもできるかぎり患者が理解できる方法で繰り返し状. 患者の心理を理解するためには、障害受容や危機モデ. 況を説明することが必要である。さらに、精神的な安. ルの理論が多く用いられてきた(下村,2015)。発症直. 定を図るために身体的な安楽を提供することが重要で. 後の心理には、「ショック期」や「衝撃」などの段階が. あると考えられる。. あると考えられてきたが、A氏のように意識障害があ. 6.
(7) 日本救急看護学会雑誌:23. る脳出血患者では、そのような段階はないこともある. え方を工夫し、さらに、患者が十分に他者に伝えるこ. ことが本事例より明らかとなった。さらに、急性期の. とができない欲求を理解するようにかかわることが必. 脳卒中患者の心理に着目した研究では、百田、西亀. 要である。結果として、患者は急性期の苦痛が強い時. (2002)が脳卒中患者の急性期から発症後約 6 カ月まで. 期を乗り越え、安定した精神状態で日常生活動作の拡. の回復過程における主観的体験の変化について、 「了解. 大に向けた訓練に取り組むことができ、自己の障害の. 不能」 「障害の実感」 「障害の直面による落胆」 「回復の. 認識を促し、障害をもったうえでの今後の生活を考え. 喜び」 という変化の局面があることを述べている。「了. ていくことができると考えられる。. 解不能」とは、突然の発症により混乱し自身の身体に. 本研究は 1 事例の短い参加観察時間のなかで得られ. 何が起こったのかを理解できない状態で、自身の身に. た研究結果であり、意識障害と片麻痺のある脳出血患. 起きたことを事実として受け止められないことであ. 者すべての自己の障害の認識とは言えない。また、脳. る。A氏の場合も発症直後は何が起こったか理解はで. 卒中患者の心理を理解しようとした既存の理論とは心. きていなかったが、 その理由は、 意識障害のためであっ. 理プロセスが必ずしも異なるとも言い切れない。今後. たと考えられる。次の「障害の実感」とは、現在の自. さらに症例数を拡大していくことで、意識障害と片麻. 分の置かれている身体の障害を抱えた状況を把握した. 痺のある脳卒中患者の自己の障害の認識のプロセスも. 体験である。A氏の場合は、第 2 期に自己の障害の認. 明らかにすることができると考える。. 識があり、第 3 期の自己の障害による日常生活動作の 付記. 困難さを認識することが「障害の実感」であると考え. 本稿は第25回日本意識障害学会にて発表したものに. られる。さらに百田、西亀(2002)は、 「障害の実感」. 加筆・修正を加えたものである。. から「回復の喜び」に至るには、 「落胆体験」という回 復過程において一時的に落ち込む現象があると述べて. 本研究は、2016〜2021 年度文部科学省科学研究費補. いる。A氏の場合も、第 4 期に自己の障害が完全には. 助金基盤研究 C(研究代表者:日坂ゆかり、課題番号:. 治らないことを認識し、将来の展望が途絶えたと感じ. 16K12026)の助成を用いて行った研究の一部である。. られる発言などから落胆している様子がうかがえたこ. 文 献. とから、 「落胆体験」があったと考えられる。また A氏 の場合は、まだ「回復の喜び」と言えるまでの言動は. 秋山恭延,大星有美,筒井祥博(2016) .回復期リハビリテーショ ン病棟における患者のやる気スコアと FIM回復との関連.常 葉大学保健医療学部紀要,7(1) ,29-34. Doolittle, N. D.(1991) . Clinical ethnography of lacunar stroke: implications for acute care. J Neurosci Nurs, 23(4) , 235-240. Fink, S. L.(1967) . Crisis and motivation : a theoretical model. Arch Phys Med Rehabil, 48(11) , 592-597. 日坂ゆかり,南川貴子,田村綾子(2016) .急性期脳卒中患者の 心理・経験・体験に関する研究の現状と今後の課題.日本ニュー ロサイエンス看護学会誌,3(2) ,85-92. 百田武司,西亀正之(2002) .脳卒中患者の回復過程における主 観的体験,急性期から回復期にかけて.広島大学保健学ジャー ナル,2(1) ,41-50. 加根千賀子,古川文子(2007) .急性期における脳血管障害患者の 病気体験に関する認識.The Journal of Nursing Investigation, 6(1) ,2-10 北尾良太,鈴木純恵,土井香,清水安子(2013) .回復期リハビ リテーション脳卒中者が語る病い経験に関する研究.日本看護 研究学会雑誌,36(1) ,123-133. 厚生労働省(2015) .平成 26 年(2014)患者調査の概況 . https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/14/index. html(2019-06-07 閲覧) 厚生労働省(2017) .平成 28 年 国民生活基礎調査の概況 . https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/ k-tyosa16/dl/16.pdf(2019-06-07 閲覧) 西田有里,日高艶子,小浜さつき(2012) .脳卒中患者がたどる. みられなかったが、今後に向けた前向きな言動は落胆 と同時に現れていた。 脳出血患者の急性期にかかわる看護師は、患者の意 識障害の程度を見極め、患者の意識障害の回復に合わ せて、苦痛の軽減や生理的欲求の充足を行いながら、 適切な時期に患者に伝わる方法で繰り返し病状や障害 の説明を行う必要がある。脳出血患者の意識障害の特 徴として、意識障害の程度が一定ではなく、脳浮腫や 脳損傷の程度と治療による頭蓋内圧の変化などが関連 して、意識レベルが変動しながら回復していくため、 常に意識障害の程度の理解は重要である。また、急性 期の意識障害のある時期は、失語や記憶障害、半側空 間無視などの高次脳機能障害があることが、意識障害 により発見されにくい。したがって看護師は、脳実質 の損傷部位からどのような高次脳機能障害が隠されて いるか推測することが必要である。その隠されている 高次脳機能障害を考慮し、高次脳機能障害や意識障害 があるなかでも、看護師は患者が理解できるように伝. 7.
(8) 意識障害と高次脳機能障害や片麻痺のある脳出血患者の発症時からの意識障害の回復に伴う自己の障害に対する認識の変化. 心理.日本リハビリテーション看護学会学術大会集録,24, 116-118. 日本脳卒中学会,脳卒中ガイドライン委員会(編) (2015) .脳卒 中治療ガイドライン 2015,277,協和企画 . 下村晃子(2015) .患者・家族の理解のための諸理論.田村綾子, 坂井信幸,橋本洋一郎(編) .脳神経ナース必携 新版 脳卒中 看護実践マニュアル(pp.158-163) .メディカ出版 . 高山成子(1997) .脳疾患患者の障害認識変容過程の研究─グラ ンデッドセオリーアプローチを用いて.日本看護科学会誌,17. (1) ,1-7. 登喜和江,高田早苗(2006) .壮年期脳卒中患者の障害引き受け に向けての歩み.日本看護学会誌,15(2) ,2-14,. 上田敏(1980) .障害の受容―その本質と諸段階について.総合 リハビリテーション,8(7) ,515-521. 山内典子(2007) .看護を通してみえる片麻痺を伴う脳血管障害 患者の身体経験―発症から 6 週間の期間に焦点を当てて.日本 看護科学会誌,27(1) ,14-22.. 8.
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在宅の病児や 自宅など病院・療育施設以 通年 病児や障 在宅の病児や 障害児に遊び 外で療養している病児や障 (月2回程度) 害児の自
市民的その他のあらゆる分野において、他の 者との平等を基礎として全ての人権及び基本
一般社団法人 美栄 日中サービス支援型 グループホーム セレッソ 1 グループホーム セ レッソ 札幌市西区 新築 その他 複合施設