小学生を対象とした簡易的な股関節屈曲筋群のパワー評価法の開発
Development of simple evaluation method for power of hip flexor musclesin elementary school children
村 山 凌 一:Ryoichi MURAYAMA 1
木 越 清 信:Kiyonobu KIGOSHI 2
尾 縣 貢:Mitsugi OGATA 2
1 筑波大学大学院人間総合科学研究科: University of Tsukuba, Graduate School of Comprehensive Human Sciences
1-1-1 Tennodai, Tsukuba City, Ibaraki, 305-8574, Japan 2 筑波大学体育系: University of Tsukuba, Faculty of Health and Sport Sciences
1-1-1 Tennodai, Tsukuba City, Ibaraki, 305-8574, Japan
Abstract
The purpose of this study was to examine the reliability and validity of the Hip Flexion Test (HFT). HFT is a test to kick away a weight hung on ankle to forward, and it was devised for evaluating hip flexion power easily. The participants were 24 upper grade children in elementary school (Age: 11.60 ± 0.53 years, Height: 1.47 ± 0.08 m, Body mass: 38.82 ± 7.72 kg). Time, step frequency, step length, and hip flexion torque during 50 m sprint were measured. Furthermore, flying distance of HTF, and jump height of CMJ were also tested. Result for t-test, there was no significant difference between 1st and 2nd measured values of HTF. Furthermore, intraclass correlation coefficient between 1st and 2nd value of HFT was a significant (ICC=0.767). From these results, the reliability of HTF was confirmed. Secondly, to show the validity of HTF, we calculated a correlation coefficient between measured values of HFT and a hip flexion torque during 50 m sprint. There was a significant correlation between them (r=0.573, p<0.01), so it could be found that HFT could evaluate a hip flexion torque during 50m sprint. From this research, the reliability and validity of HFT was proved, and we could find that HTF is effective test to evaluate hip flexion power.
1 .緒言 2017 年 7 月、日本学術会議は、「子どもの動き の健全な育成を目指して∼基本的動作が危ない∼」 との提言を示した。この提言では、近年の子ども の体力・運動能力低下の問題が、長期的に壮年 期・中年期での生活習慣病への罹患や、更年期に おける転倒・骨折による寝たきり状態を招くと警 鐘を鳴らしている。子どもの体力・運動能力低下 の原因は、身体活動量・運動量の減少に加え、基 本的な動きの未習得であることが挙げられてい る。このことから、日本学術会議では、子どもの 動きの健全な育成を目指して提言を行っている。
その提言では、「小学校教諭養成課程における体 育・スポーツ関連科目の単位数や講義内容の充実 に加え、小学校での体育授業の質の向上を目的と した研修の充実、小学校への体育専科教諭の配置 増加、小学校体育教科書の作成に取り組むこと」 (日本学術会議健康・生活科学委員会健康・スポー ツ科学分科会,2017,p.17)が提案された。さら に、これらを可能にするために、子どもの動きの 大規模調査の推進や、最新の研究手法を導入し、 基礎研究を推進する体制の整備を行う必要性につ いてまで言及している。この提言を受けて、子ど もの動きの質、さらにそれを支える体力に関して、 大規模調査を実施する必要があり、そのための準 備として、調査項目や調査方法を精査する必要が ある。 子どもの基本的な運動は多数存在するが、本研 究では走運動を取り上げ、走運動の中でも、とり わけこれまで多く研究が行われてきた短距離走に 着目する。先行研究を参考に短距離走における動 きにかかわる調査項目を挙げると、回復脚のタイ ミング、腿上げ角度および、遊脚の膝関節屈曲 角度を挙げることができる(斉藤・伊藤,1995; 加 藤 ほ か,2001; 末 松 ほ か,2008; 木 越 ほ か, 2012;関ほか,2016)。さらに、その動作を支え る体力の観点からは、大腿部後面の筋群(膝関節 伸展筋群および股関節伸展筋群)と大腿部前面の 筋群(股関節屈曲筋群)の筋力・パワー発揮能力 の調査が必要である。脚伸展筋群は、推進力を得 るために地面に大きな力を加える際の主動筋であ り、股関節屈曲筋群は、脚を回復させ、腿を高く 上げる際の主動筋となる。これら二つはこれまで の研究で、短距離走能力との関係が認められてい る(八木ほか,1987;加藤ほか,2001;星川ほか, 2006;吉本ほか,2012;Tottori et al.,2018)。そ れらの研究において、脚伸展筋群の能力は、筋力 測定装置を用いた測定や、現場で容易に実施でき る立ち幅跳びや垂直跳びなどを用いて評価され てきた。一方、股関節屈曲筋群に関しては、MRI を用いて筋の横断面積を測定する方法や、筋力測 定装置を用いて筋力測定を行った研究が存在する (加藤ほか,2001;星川ほか,2006;吉本ほか, 2012;Tottori et al.,2018)。しかしながら、脚伸 展筋群の能力を評価するために用いられるような 立ち幅跳びや、垂直跳びといった簡易的なフィー ルドテストは、股関節屈曲筋群においては見当た らない。これまでの先行研究で用いられてきた、 筋力測定装置や MRI などの測定機器は高価であ ることに加え、限られた研究施設にしか設置され ていないことを考えれば、大規模に調査を行う際 には不向きであるといわざるを得ない。大規模に 調査を行うためには、安価で持ち運びが便利で、 だれにでも簡便に測定ができる方法が採用される 必要がある。 そこで本研究では、短距離走において脚を回復 させ、腿を高く上げる際に主動筋となる股関節屈 曲筋群の能力を評価する方法として、脚を前後に 開き、重量物を後方に引いた脚の足関節に引っ掛 け、脚で正面前方に飛ばす運動を提案し、その調 査方法の信頼性および妥当性を検討することを目 的とした。これにより、立ち幅跳びや垂直跳びに よって評価が可能な脚伸展筋群の能力に加えて、 股関節屈曲筋群の能力が調査項目として採用さ れ、将来的に児童を対象とした短距離走運動の大 規模調査を実施することが可能になると考えられ る。 2 .方法 2.1 対象者 本研究の対象者は茨城県内の A 小学校並びに 地域スポーツクラブの B クラブの小学 5、6 年生 24 名(A 小学校男子 13 名、女子 7 名、B クラブ 男子 4 名)であった。対象者の年齢は 11.60 ± 0.53 歳、身長 1.47 ± 0.08 m、身体質量 38.82 ± 7.72 kg であった。A 小学校のデータは、A 小学校に依頼 された陸上競技記録会の練習会において実施した 測定の結果を用いた。測定に際して、責任者に対 して測定に関する内容や危険性、測定結果の研究 利用に関する説明を行い、同意を得た。測定デー タに関しては後日匿名化されたデータを受け取っ た。B クラブのデータについては、クラブの行事 として実施した任意の測定会において収集された データであった。測定会に際して、測定に関する 内容や危険性、測定結果の研究利用に関して、事 前に保護者に対して説明を行い、その後同意を得 た。
その提言では、「小学校教諭養成課程における体 育・スポーツ関連科目の単位数や講義内容の充実 に加え、小学校での体育授業の質の向上を目的と した研修の充実、小学校への体育専科教諭の配置 増加、小学校体育教科書の作成に取り組むこと」 (日本学術会議健康・生活科学委員会健康・スポー ツ科学分科会,2017,p.17)が提案された。さら に、これらを可能にするために、子どもの動きの 大規模調査の推進や、最新の研究手法を導入し、 基礎研究を推進する体制の整備を行う必要性につ いてまで言及している。この提言を受けて、子ど もの動きの質、さらにそれを支える体力に関して、 大規模調査を実施する必要があり、そのための準 備として、調査項目や調査方法を精査する必要が ある。 子どもの基本的な運動は多数存在するが、本研 究では走運動を取り上げ、走運動の中でも、とり わけこれまで多く研究が行われてきた短距離走に 着目する。先行研究を参考に短距離走における動 きにかかわる調査項目を挙げると、回復脚のタイ ミング、腿上げ角度および、遊脚の膝関節屈曲 角度を挙げることができる(斉藤・伊藤,1995; 加 藤 ほ か,2001; 末 松 ほ か,2008; 木 越 ほ か, 2012;関ほか,2016)。さらに、その動作を支え る体力の観点からは、大腿部後面の筋群(膝関節 伸展筋群および股関節伸展筋群)と大腿部前面の 筋群(股関節屈曲筋群)の筋力・パワー発揮能力 の調査が必要である。脚伸展筋群は、推進力を得 るために地面に大きな力を加える際の主動筋であ り、股関節屈曲筋群は、脚を回復させ、腿を高く 上げる際の主動筋となる。これら二つはこれまで の研究で、短距離走能力との関係が認められてい る(八木ほか,1987;加藤ほか,2001;星川ほか, 2006;吉本ほか,2012;Tottori et al.,2018)。そ れらの研究において、脚伸展筋群の能力は、筋力 測定装置を用いた測定や、現場で容易に実施でき る立ち幅跳びや垂直跳びなどを用いて評価され てきた。一方、股関節屈曲筋群に関しては、MRI を用いて筋の横断面積を測定する方法や、筋力測 定装置を用いて筋力測定を行った研究が存在する (加藤ほか,2001;星川ほか,2006;吉本ほか, 2012;Tottori et al.,2018)。しかしながら、脚伸 展筋群の能力を評価するために用いられるような 立ち幅跳びや、垂直跳びといった簡易的なフィー ルドテストは、股関節屈曲筋群においては見当た らない。これまでの先行研究で用いられてきた、 筋力測定装置や MRI などの測定機器は高価であ ることに加え、限られた研究施設にしか設置され ていないことを考えれば、大規模に調査を行う際 には不向きであるといわざるを得ない。大規模に 調査を行うためには、安価で持ち運びが便利で、 だれにでも簡便に測定ができる方法が採用される 必要がある。 そこで本研究では、短距離走において脚を回復 させ、腿を高く上げる際に主動筋となる股関節屈 曲筋群の能力を評価する方法として、脚を前後に 開き、重量物を後方に引いた脚の足関節に引っ掛 け、脚で正面前方に飛ばす運動を提案し、その調 査方法の信頼性および妥当性を検討することを目 的とした。これにより、立ち幅跳びや垂直跳びに よって評価が可能な脚伸展筋群の能力に加えて、 股関節屈曲筋群の能力が調査項目として採用さ れ、将来的に児童を対象とした短距離走運動の大 規模調査を実施することが可能になると考えられ る。 2 .方法 2.1 対象者 本研究の対象者は茨城県内の A 小学校並びに 地域スポーツクラブの B クラブの小学 5、6 年生 24 名(A 小学校男子 13 名、女子 7 名、B クラブ 男子 4 名)であった。対象者の年齢は 11.60 ± 0.53 歳、身長 1.47 ± 0.08 m、身体質量 38.82 ± 7.72 kg であった。A 小学校のデータは、A 小学校に依頼 された陸上競技記録会の練習会において実施した 測定の結果を用いた。測定に際して、責任者に対 して測定に関する内容や危険性、測定結果の研究 利用に関する説明を行い、同意を得た。測定デー タに関しては後日匿名化されたデータを受け取っ た。B クラブのデータについては、クラブの行事 として実施した任意の測定会において収集された データであった。測定会に際して、測定に関する 内容や危険性、測定結果の研究利用に関して、事 前に保護者に対して説明を行い、その後同意を得 た。 2.2 実験方法および分析方法 対象者に十分なウォーミングアップを行わせたの ち、50m 走、垂直跳び(Counter Movement Jump: 以下 CMJ)、本研究で考案した股関節屈曲力を測 定するテスト(Hip Flexion Test;以下 HFT)をラ ンダムに行わせた。 1 )50m 走 50 m 走はスタンディングスタートの姿勢から 行わせ、その際 50 m のラインを通過するまで全 力疾走するように指示した。なお測定は、A 小学 校および B クラブともに全天候型陸上競技場の走 路で行い、対象者は普段から使用しているシュー ズを着用して行わせた。各対象者の疾走動作は、 図 1 のように 50 m 走路の中心 25 m 地点から側方 30 m の地点にデジタルビデオカメラ(Panasonic 社製、LumixDMC-FZ300)を設置し、スタート地 点からゴールまでを毎秒 240 コマでパンニング撮 影した。撮影した映像から疾走速度を算出するた めに、走路脇に 10 m 区間タイム算出用のコーン を設置し、最も高い速度を示した区間を最大疾走 速度区間とした。その後、最高疾走速度出現区間 の 1 サイクル(右足接地から次の右足が接地する まで)分の映像データを動作分析システム(DKH 社製、Frame-DIAS V)に取り込み、校正点並び に身体 23 点の座標値を算出した。その後実長換 算を行い、実座標を算出した。バターワースフィ ルタを用いて算出した実座標を 6Hz でフィルタ リングを行い、ウィンター(2011)の方法を用い て関節トルクの算出を行った。本研究の映像は左 から右に走る映像であったことから、すべての対 象者で手前側にある右足を対象に股関節屈曲トル クを採用した。なお、本研究では屈曲を正、伸展 を負の値として採用した(図 2)。また、関節ト ルクはピークトルクを採用し、本文中ではトルク と記載した。疾走中の代表的なトルク変化および ピークトルクの出現地点は図 2 に示した。 2 )CMJ CMJ の測定はマットスイッチ(DKH 社製、マ ルチジャンプテスタ)上で行わせ、滞空時間から 跳躍高を算出した。なお測定は 2 回行い、より 高い跳躍高を代表値として採用した。腕による振 り込みの影響を排除するため、両手を腰に当てた 状態で試技を行わせた。測定を行う前の準備運動 の際に腰に手を当てた状態での垂直方向のジャン プを数回練習した後、測定直前においてもマット スイッチの測定を正確に行うため真上に跳ぶこと を指示して練習を行った。測定およびデモンスト レーションは跳躍運動に精通した陸上競技跳躍専 門の競技者が行った。 3 )HFT 本研究では、簡易的に股関節屈曲筋群の能力 を評価するために、HFT を考案した。短距離走 に関わる股関節屈曲筋群の能力を評価するために は、股関節を伸展位にした状態から脚を前方に引 き出す股関節屈曲動作を実際に行わせることが必 要である。この動作を行った際に発揮しているパ 図 1 50 m 走測定時の実験設定
ワーを特殊な機材を用いずに評価することが叶え ば、股関節屈曲筋群の能力を簡易的に評価できる テストになりうると考えられる。したがって、脚 を前後に開き、後方に引いた脚の股関節を伸展位 にした状態から脚を前方に引き出す股関節屈曲動 作を行い、股関節が行った仕事を評価することが 必要である。考えられる方法として、股関節屈曲 動作中に身体の真下に設置したボールを蹴り飛ば し、ボールが飛んだ距離を算出する方法や、前後 に脚を開き、後方に引いた脚の足関節に重量物を 引っ掛け、股関節を屈曲させ重量物を前方に飛ば し、飛距離を算出する方法、などが挙げられる。 こうしたテストにおいては信頼性や妥当性の観点 から、技術的な要素をできるだけ省くことや、発 揮する股関節屈曲筋群以外の力発揮の影響を排除 する必要があることから、体幹部の捻転や腕の振 り込み等の動作を制限する必要がある。こうした 制約も踏まえたうえで、今回は可能な限り安価で、 可能な限り技術的影響が少ないと考えられる、重 量物を後方に引いた脚の足関節に引っ掛け、正面 前方に蹴り飛ばす運動により重量物が飛んだ距離 を評価するというテストを HFT として考案した。 HFT で用いる重量物は、安全面の観点から、 かたく、大きく重いメディシンボールではなく、 柔らかいメディシンボールを採用した。さらに足 関節に引っ掛けた状態で安定する形状であること を考慮し、メディシンボールを 2 つ連結するこ ととした。このことから安価で柔らかく、小さい 形状とする 0.5 kg のメディシンボール 2 つを外径 0.03 m、長さ 0.3m のホースの端に、ナイロン製 のひもを用いて括り付けた総重量 1.13 kg の用具 を重量物とした(図 3)。 測定は脚を前後に開き、重量物を後方に引いた 脚の足関節に引っ掛け、前脚のつま先を 0 m ライ ンに固定させた状態で両手を腰に当て、正面前方 に向かってできるだけ遠くに蹴り飛ばすよう指示 して行わせた(図 4)。事前に数回の練習を行わ せたのち 2 回の測定を行った。安定した記録を評 価するために 2 回の飛距離の平均値を記録として 採用した。測定は、0 m ラインと平行にひかれた 到達距離ラインを用いて、0.1 m 単位で記録した。 なお、蹴り飛ばす前に足部から外れてうまく前方 に飛ばなかった場合や、正面に飛ばなかった場合、 さらにはリリースが遅れて上方向もしくは後ろ方 向に飛んでしまった場合には、測定者の判断で、 無効試技とし、正面前方に飛ぶまで行った。 図 2 疾走中の代表的なトルクの変化 図 3 本研究において作成した股関節屈曲能 力テスト(HFT)用重量物
ワーを特殊な機材を用いずに評価することが叶え ば、股関節屈曲筋群の能力を簡易的に評価できる テストになりうると考えられる。したがって、脚 を前後に開き、後方に引いた脚の股関節を伸展位 にした状態から脚を前方に引き出す股関節屈曲動 作を行い、股関節が行った仕事を評価することが 必要である。考えられる方法として、股関節屈曲 動作中に身体の真下に設置したボールを蹴り飛ば し、ボールが飛んだ距離を算出する方法や、前後 に脚を開き、後方に引いた脚の足関節に重量物を 引っ掛け、股関節を屈曲させ重量物を前方に飛ば し、飛距離を算出する方法、などが挙げられる。 こうしたテストにおいては信頼性や妥当性の観点 から、技術的な要素をできるだけ省くことや、発 揮する股関節屈曲筋群以外の力発揮の影響を排除 する必要があることから、体幹部の捻転や腕の振 り込み等の動作を制限する必要がある。こうした 制約も踏まえたうえで、今回は可能な限り安価で、 可能な限り技術的影響が少ないと考えられる、重 量物を後方に引いた脚の足関節に引っ掛け、正面 前方に蹴り飛ばす運動により重量物が飛んだ距離 を評価するというテストを HFT として考案した。 HFT で用いる重量物は、安全面の観点から、 かたく、大きく重いメディシンボールではなく、 柔らかいメディシンボールを採用した。さらに足 関節に引っ掛けた状態で安定する形状であること を考慮し、メディシンボールを 2 つ連結するこ ととした。このことから安価で柔らかく、小さい 形状とする 0.5 kg のメディシンボール 2 つを外径 0.03 m、長さ 0.3m のホースの端に、ナイロン製 のひもを用いて括り付けた総重量 1.13 kg の用具 を重量物とした(図 3)。 測定は脚を前後に開き、重量物を後方に引いた 脚の足関節に引っ掛け、前脚のつま先を 0 m ライ ンに固定させた状態で両手を腰に当て、正面前方 に向かってできるだけ遠くに蹴り飛ばすよう指示 して行わせた(図 4)。事前に数回の練習を行わ せたのち 2 回の測定を行った。安定した記録を評 価するために 2 回の飛距離の平均値を記録として 採用した。測定は、0 m ラインと平行にひかれた 到達距離ラインを用いて、0.1 m 単位で記録した。 なお、蹴り飛ばす前に足部から外れてうまく前方 に飛ばなかった場合や、正面に飛ばなかった場合、 さらにはリリースが遅れて上方向もしくは後ろ方 向に飛んでしまった場合には、測定者の判断で、 無効試技とし、正面前方に飛ぶまで行った。 図 2 疾走中の代表的なトルクの変化 図 3 本研究において作成した股関節屈曲能 力テスト(HFT)用重量物 2.3 測定法採択に関する検討 測定法を開発する際に検討されるべき項目と しては、信頼性と妥当性が挙げられる(出村, 2007)。このことから、信頼性および妥当性に関 して以下の通り検討した。 1 )信頼性 本研究において提案する HFT の信頼性を確保 するために、HFT は 2 回測定を行い、1 回目と 2 回目の測定値に統計的に有意な差がないことを、 t 検定を用いて検討した。測定値の一致度を検討 すべく級内相関係数の有意性の検討を行った。 2 )妥当性 本研究において提案する HFT の妥当性を確 保するために、HFT の測定値と、股関節屈曲筋 の筋量を反映する股関節屈曲トルク(阿江ほか, 1986)との間に有意な相関関係が認められるかを 検討した。さらに、HFT の測定値と、短距離走 能力である 50 m 走タイム、並びにその構成要素 であるピッチとストライドとの間に相関関係が認 められるか検討した。 2.4 統計処理 本研究で得られた測定値はすべて平均値±標 準偏差で示した。差の検定には対応のある t 検定 を、一致度の検定には級内相関係数を、相関関係 の検討にはピアソンの相関係数をそれぞれ用いて 検討した。いずれも統計ソフト(IBM 社、SPSS statistic24.0)を用いて検定した。有意水準は 5% 未満とした。 3 .結果 表 1 は、50 m 走タイムおよび CMJ の跳躍高の 結果を示したものである。50 m 走タイムの平均 値および標準偏差は 8.74 ± 0.74 秒であり、CMJ の跳躍高は、0.251 ± 0.052 m であった。 図 5 は、HFT の距離を 1 回目と 2 回目に分けて 図示したものである。HFT の距離は 1 回目が 8.18 ± 2.28m、2 回 目 が 8.46 ± 2.42m で あ り、 両 者 の間に有意な差は認められなかった。また、HFT の距離の 1 回目と 2 回目との級内相関係数は 0.767 であった。 図 4 HFT の様子 表 1 50 m 走タイムと CMJ 跳躍高 50m(s) CMJ(m) 8.74±0.74 0.251±0.052 n=24 n.s. 図 5 HFT における 1 回目と 2 回目の測定値の差
図 6 は、50 m 走疾走中の股関節屈曲トルクと HFT の距離との相関関係を示したものである。 両者の間には有意な正の相関関係が認められた (r=0.573, p<0.01)。 図 7 は、HFT の距離と 50m 走タイム、ストライ ドおよびピッチとの関係、加えて CMJ の跳躍高と 50m 走タイム、ストライドおよびピッチとの関係を それぞれ示したものである。HFT の距離と 50m 走 タイム (r=0.666, p<0.01)、ストライド (r=0.435, p<0.05) およびピッチ (r=0.490, p<0.05) との間に 有意な正の相関関係が認められた。CMJ の跳躍高 と 50m 走タイム (r=0.749, p<0.01) およびストラ イド (r=0.690, p<0.01) との間に有意な正の相関 関係が認められた。しかし、CMJ の跳躍高とピッ チとの間には有意な相関関係は認められなかった (r=0.293, n.s.)。 4 .考察 本研究は、短距離走において脚を回復させ、腿 を高く上げる際に主動筋となる股関節屈曲筋群の 能力を評価する方法として、重量物を後方に引い た脚の足関節に引っ掛け、脚で正面前方に飛ばす テストを考案し、その調査方法の信頼性および妥 当性を検討することを目的とした。本研究で考案 した HFT に使用する重量物は、2 つのメディシ ンボールをひもでホースにつなぎ、固定したもの で、容易に作成でき、非常に安価で簡便な用具で あった。HFT の実施方法は作成した重量物を後 図6 疾走中の股関節屈曲トルクとHFTとの関係 y = 4.2515x + 27.575 R² = 0.3282 r=0.573 p<0.01 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 0 5 10 15 股関 節屈 曲ト ルク (N ・m ) HFT距離(m) 図 6 疾走中の股関節屈曲トルクと HFT との関係 方に引いた脚の足関節に引っ掛けて正面前方へ飛 ばす簡易的なものであり、評価方法も飛距離を測 定するといった非常に容易なものであった。日本 学術会議の提言にあるように子どもの動きの大規 模調査を実施するためには、安価で持ち運びが便 利で、だれにでも簡便に測定ができる方法を用い る必要がある。本研究において提案した HFT は これらの条件を満たす方法であるといえる。 加えて、本研究では、考案された HFT の信頼 性と妥当性を検討した。HFT の信頼性について は、1 回目の HFT の距離と 2 回目の HFT の距離 との間に有意な差は認められなかった。このこと から 2 回目に記録が向上するような、学習効果は 少ないと考えられる。また、1 回目と 2 回目の測 定値が一致しているか級内相関係数を用いて検討 したところ、両者の間の級内相関係数は 0.767 で あり、良好な信頼性であると判断された。なお、 級内相関係数は一般的に 0.7 以上で良好な信頼性 であると判断されている(出村,2007)。これら のことから、本研究において考案した HFT は信 頼性の高いテストであることが認められた。次に、 HFT の妥当性については、脚を回復させ、腿を 高く上げる際に主動筋となる股関節屈曲筋群の機 能のバイオメカニクス的な指標である股関節屈曲 トルクと HFT の距離との関係を検討することで 判断することとした。その結果、疾走中の股関節 屈曲トルクと HFT の距離との間に有意な正の相 関関係が認められた。したがって、股関節屈曲筋 群の能力を評価する方法として HFT は妥当であ ると判断された。これまで疾走中の股関節屈曲ト ルクと等速性の股関節屈曲筋力との関係を検討し た研究(渡邉ほか,2003)では、両者の間には有 意な相関関係が認められておらず(r=0.43)、筋 力測定のような疾走動作とは異なる条件下では股 関節屈曲筋群の能力を評価できない可能性が示唆 されている(渡邉,2012)。一方、本研究で考案 した HFT は股関節屈曲トルクとの間には有意な 相関関係が認められた(r=0.573)ことから、比 較的疾走動作に近く、実際に疾走中に発揮されて いる股関節屈曲筋群のパワーを評価できる可能性 が高い結果となったことは評価されるべき点であ ると考えられる。しかしながら、股関節屈曲筋群 の能力をより的確に評価するために、本研究の限
図 6 は、50 m 走疾走中の股関節屈曲トルクと HFT の距離との相関関係を示したものである。 両者の間には有意な正の相関関係が認められた (r=0.573, p<0.01)。 図 7 は、HFT の距離と 50m 走タイム、ストライ ドおよびピッチとの関係、加えて CMJ の跳躍高と 50m 走タイム、ストライドおよびピッチとの関係を それぞれ示したものである。HFT の距離と 50m 走 タイム (r=0.666, p<0.01)、ストライド (r=0.435, p<0.05) およびピッチ (r=0.490, p<0.05) との間に 有意な正の相関関係が認められた。CMJ の跳躍高 と 50m 走タイム (r=0.749, p<0.01) およびストラ イド (r=0.690, p<0.01) との間に有意な正の相関 関係が認められた。しかし、CMJ の跳躍高とピッ チとの間には有意な相関関係は認められなかった (r=0.293, n.s.)。 4 .考察 本研究は、短距離走において脚を回復させ、腿 を高く上げる際に主動筋となる股関節屈曲筋群の 能力を評価する方法として、重量物を後方に引い た脚の足関節に引っ掛け、脚で正面前方に飛ばす テストを考案し、その調査方法の信頼性および妥 当性を検討することを目的とした。本研究で考案 した HFT に使用する重量物は、2 つのメディシ ンボールをひもでホースにつなぎ、固定したもの で、容易に作成でき、非常に安価で簡便な用具で あった。HFT の実施方法は作成した重量物を後 図6 疾走中の股関節屈曲トルクとHFTとの関係 y = 4.2515x + 27.575 R² = 0.3282 r=0.573 p<0.01 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 0 5 10 15 股関 節屈 曲ト ルク (N ・m ) HFT距離(m) 図 6 疾走中の股関節屈曲トルクと HFT との関係 方に引いた脚の足関節に引っ掛けて正面前方へ飛 ばす簡易的なものであり、評価方法も飛距離を測 定するといった非常に容易なものであった。日本 学術会議の提言にあるように子どもの動きの大規 模調査を実施するためには、安価で持ち運びが便 利で、だれにでも簡便に測定ができる方法を用い る必要がある。本研究において提案した HFT は これらの条件を満たす方法であるといえる。 加えて、本研究では、考案された HFT の信頼 性と妥当性を検討した。HFT の信頼性について は、1 回目の HFT の距離と 2 回目の HFT の距離 との間に有意な差は認められなかった。このこと から 2 回目に記録が向上するような、学習効果は 少ないと考えられる。また、1 回目と 2 回目の測 定値が一致しているか級内相関係数を用いて検討 したところ、両者の間の級内相関係数は 0.767 で あり、良好な信頼性であると判断された。なお、 級内相関係数は一般的に 0.7 以上で良好な信頼性 であると判断されている(出村,2007)。これら のことから、本研究において考案した HFT は信 頼性の高いテストであることが認められた。次に、 HFT の妥当性については、脚を回復させ、腿を 高く上げる際に主動筋となる股関節屈曲筋群の機 能のバイオメカニクス的な指標である股関節屈曲 トルクと HFT の距離との関係を検討することで 判断することとした。その結果、疾走中の股関節 屈曲トルクと HFT の距離との間に有意な正の相 関関係が認められた。したがって、股関節屈曲筋 群の能力を評価する方法として HFT は妥当であ ると判断された。これまで疾走中の股関節屈曲ト ルクと等速性の股関節屈曲筋力との関係を検討し た研究(渡邉ほか,2003)では、両者の間には有 意な相関関係が認められておらず(r=0.43)、筋 力測定のような疾走動作とは異なる条件下では股 関節屈曲筋群の能力を評価できない可能性が示唆 されている(渡邉,2012)。一方、本研究で考案 した HFT は股関節屈曲トルクとの間には有意な 相関関係が認められた(r=0.573)ことから、比 較的疾走動作に近く、実際に疾走中に発揮されて いる股関節屈曲筋群のパワーを評価できる可能性 が高い結果となったことは評価されるべき点であ ると考えられる。しかしながら、股関節屈曲筋群 の能力をより的確に評価するために、本研究の限 図7 HFTおよびCMJにおける50m走タイム,ストライド,ピッチとの関係 y = -0.2042x + 10.466 R² = 0.4436 r=-0.666 p<0.01 6 7 8 9 10 11 0 5 10 15 50 mタ イム (s ) y = -10.83x + 11.452 R² = 0.5613 r=-0.749 p<0.01 6 7 8 9 10 11 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 y = 0.0209x + 1.4077 R² = 0.1889 r=0.435 p<0.05 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 1.8 1.9 0 5 10 15 ス ト ラ イド (m ) y = 1.5686x + 1.1919 R² = 0.4765 r=0.690 p<0.01 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 1.8 1.9 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 y = 0.0522x + 3.6029 R² = 0.2404 r=0.490 p<0.05 3.5 3.7 3.9 4.1 4.3 4.5 4.7 0 5 10 15 ピッ チ( Hz ) HFT距離(m) y = 1.4697x + 3.6762 R² = 0.0857 r=0.293 n.s. 3.5 3.7 3.9 4.1 4.3 4.5 4.7 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 CMJ高(m) 図 7 HFT および CMJ における 50 m 走タイム,ストライド,ピッチとの関係
界も含めて HFT の改善に関して検討する。 本研究で考案した HFT は、実際に股関節を伸 展位から屈曲位に変位させる動作を用いてその際 に発揮されたパワーを簡易的な方法で測定するこ とを念頭に考案した。このことからまず可能な限 り技術的な要因や他の身体部位の影響を排除する よう心掛けた。しかしながら、腕の振り込みをな くすため両手を腰に当てただけでは、体幹部の捻 転の影響を排除しきれなかったことが考えられ る。次に、本研究で考案した HFT は対象者全員 が同一の重量物に対して発揮したパワーを評価し たことや、的確なインストラクションができずに 重量物の飛び出し角度が統一できなかったことが 課題として挙げられる。発揮できる力は、筋量や 四肢の長さなどの形態的特徴によって変化し、加 える負荷によっても異なる事が考えられる。加え て、重量物の飛び出し角度によって飛距離が異な り、十分に能力を反映した結果とならない可能性 も考えられる。本研究においても著しく飛び出し 角度が高いものに関しては無効試技としたが、適 正な角度を把握しきれていなかった。一方で、新 体力テストで用いられているソフトボール投げに おいて(文科省,online)は、同一の重さや大き さのボールを使用していることや、投射角度に よって飛距離は大きく異なるにもかかわらず、投 射角度についてのインストラクションは見当たら ない。学校現場で大規模に測定を行う際には、現 実的に実施可能な方法として、同一の重量物を用 いることが望ましく、投射角度を規定することは 困難であるといわざるを得ない。しかしながらこ うした事項に考慮し、重さによる影響や、的確な 飛び出し角度について検討したうえで、重さを複 数用意することや、適正角度となりうる目安を 設置するなどの改善策を打ち出すことができれ ば HFT が股関節屈曲の能力をより的確に評価で きるテストとなると考えられる。さらに本研究で は同一日に行った測定値に対して級内相関係数を 用いて検討を行った。出村(2007)は疲労や学習 効果などのバイアスがなければ同一日の測定値で も問題ないことを述べているが、本研究で考案し た HFT は疲労や学習効果の影響がないとは言い 切れない。このことから、異なる日にも測定を行 い、信頼性の検討を行うことで信頼性の確立がで きると考えられる。したがって、これらのことを、 HFT がより精度の高い股関節屈曲テストとなる ための今後の課題としたい。 次に、考案した HFT が短距離走能力を広く評 価する方法としても活用できるかについて検討し た。短距離走のタイムと最大疾走速度との間には 非常に強い相関関係が認められており(伊藤ほか, 2010)、疾走速度はストライドとピッチの積によっ て求めることが可能である。発育期の児童は、成 人した大人のプロポーションとは異なり、身長に 対する下肢長が増加していく時期でもある(髙 石,2012)。このことから、短距離走能力も形態 的な変化の影響を受けやすく、身長の増加に伴っ てストライドは増加しやすい。一方ピッチは、長 さ、重さともに増大した脚をそれまで通り回転さ せる必要があり、相対的に筋力や神経筋の機能的 な発達が必要不可欠である。ストライド獲得のた めに地面をキックする脚伸展能力の評価は、立ち 幅跳びや、垂直跳びで比較的簡便に行える(八木 ほか,1987)が、ピッチ獲得のために脚を素早く 回す股関節屈曲能力の評価はこれまで簡易的に測 定することができなかった。そのため今回測定し た CMJ 並びに HFT を用いて、短距離走能力を複 合的に評価できるかを検討した。その結果、CMJ は 50 m 走タイムおよび、ストライドとの間に有 意な相関関係が認められたが、ピッチとの間には 有意な相関関係は認められなかった。一方で考案 した HFT は 50 m 走タイム、ストライドだけでな く、ピッチと強い相関関係が認められた。ストラ イドにかかわる脚伸展能力を CMJ で評価できる ことは、これまでの研究でも認められている(八 木ほか,1987)。このことから、本研究において も同様な傾向が認められたと考えられる。一方 で HFT では、すべての項目と相関関係が認めら れた。短距離走において離地後まもなく発揮され る股関節屈曲トルクとピッチとの間には有意な相 関関係があることがこれまでにも報告されている (豊嶋ほか,2018)。本研究において、HFT は股 関節屈曲筋群の機能を反映していることが示唆さ れたことから、股関節屈曲筋群とかかわりの深い ピッチと HFT の間にも有意な相関関係が認めら れたと考えられる。このことから、HFT はピッ チにかかわる能力を評価できる指標になることが
界も含めて HFT の改善に関して検討する。 本研究で考案した HFT は、実際に股関節を伸 展位から屈曲位に変位させる動作を用いてその際 に発揮されたパワーを簡易的な方法で測定するこ とを念頭に考案した。このことからまず可能な限 り技術的な要因や他の身体部位の影響を排除する よう心掛けた。しかしながら、腕の振り込みをな くすため両手を腰に当てただけでは、体幹部の捻 転の影響を排除しきれなかったことが考えられ る。次に、本研究で考案した HFT は対象者全員 が同一の重量物に対して発揮したパワーを評価し たことや、的確なインストラクションができずに 重量物の飛び出し角度が統一できなかったことが 課題として挙げられる。発揮できる力は、筋量や 四肢の長さなどの形態的特徴によって変化し、加 える負荷によっても異なる事が考えられる。加え て、重量物の飛び出し角度によって飛距離が異な り、十分に能力を反映した結果とならない可能性 も考えられる。本研究においても著しく飛び出し 角度が高いものに関しては無効試技としたが、適 正な角度を把握しきれていなかった。一方で、新 体力テストで用いられているソフトボール投げに おいて(文科省,online)は、同一の重さや大き さのボールを使用していることや、投射角度に よって飛距離は大きく異なるにもかかわらず、投 射角度についてのインストラクションは見当たら ない。学校現場で大規模に測定を行う際には、現 実的に実施可能な方法として、同一の重量物を用 いることが望ましく、投射角度を規定することは 困難であるといわざるを得ない。しかしながらこ うした事項に考慮し、重さによる影響や、的確な 飛び出し角度について検討したうえで、重さを複 数用意することや、適正角度となりうる目安を 設置するなどの改善策を打ち出すことができれ ば HFT が股関節屈曲の能力をより的確に評価で きるテストとなると考えられる。さらに本研究で は同一日に行った測定値に対して級内相関係数を 用いて検討を行った。出村(2007)は疲労や学習 効果などのバイアスがなければ同一日の測定値で も問題ないことを述べているが、本研究で考案し た HFT は疲労や学習効果の影響がないとは言い 切れない。このことから、異なる日にも測定を行 い、信頼性の検討を行うことで信頼性の確立がで きると考えられる。したがって、これらのことを、 HFT がより精度の高い股関節屈曲テストとなる ための今後の課題としたい。 次に、考案した HFT が短距離走能力を広く評 価する方法としても活用できるかについて検討し た。短距離走のタイムと最大疾走速度との間には 非常に強い相関関係が認められており(伊藤ほか, 2010)、疾走速度はストライドとピッチの積によっ て求めることが可能である。発育期の児童は、成 人した大人のプロポーションとは異なり、身長に 対する下肢長が増加していく時期でもある(髙 石,2012)。このことから、短距離走能力も形態 的な変化の影響を受けやすく、身長の増加に伴っ てストライドは増加しやすい。一方ピッチは、長 さ、重さともに増大した脚をそれまで通り回転さ せる必要があり、相対的に筋力や神経筋の機能的 な発達が必要不可欠である。ストライド獲得のた めに地面をキックする脚伸展能力の評価は、立ち 幅跳びや、垂直跳びで比較的簡便に行える(八木 ほか,1987)が、ピッチ獲得のために脚を素早く 回す股関節屈曲能力の評価はこれまで簡易的に測 定することができなかった。そのため今回測定し た CMJ 並びに HFT を用いて、短距離走能力を複 合的に評価できるかを検討した。その結果、CMJ は 50 m 走タイムおよび、ストライドとの間に有 意な相関関係が認められたが、ピッチとの間には 有意な相関関係は認められなかった。一方で考案 した HFT は 50 m 走タイム、ストライドだけでな く、ピッチと強い相関関係が認められた。ストラ イドにかかわる脚伸展能力を CMJ で評価できる ことは、これまでの研究でも認められている(八 木ほか,1987)。このことから、本研究において も同様な傾向が認められたと考えられる。一方 で HFT では、すべての項目と相関関係が認めら れた。短距離走において離地後まもなく発揮され る股関節屈曲トルクとピッチとの間には有意な相 関関係があることがこれまでにも報告されている (豊嶋ほか,2018)。本研究において、HFT は股 関節屈曲筋群の機能を反映していることが示唆さ れたことから、股関節屈曲筋群とかかわりの深い ピッチと HFT の間にも有意な相関関係が認めら れたと考えられる。このことから、HFT はピッ チにかかわる能力を評価できる指標になることが 示唆される。 一方、本研究において、大腿部前面の筋群の筋 力・パワー発揮能力の指標として開発した HFT とストライドとの間にも有意な相関関係が認めら れた。ストライドを向上させる要因として、短い 時間で鉛直方向の地面反力を高めることが推奨さ れており、そのために、接地時に遊脚を前方に回 復させ、遊脚大腿部に働く股関節間力の鉛直成分 を大きくすることが推奨されている(豊嶋ほか, 2015)。したがって、大腿部前面の筋群の筋力・ パワー発揮に優れることによって遊脚大腿部に働 く股関節間力の鉛直成分を大きくすることができ たことにより、ストライドとの間にも有意な相関 関係が認められたものと推察される。しかしなが らストライドは、前述したとおり CMJ を用いて 評価することができ、決定係数も HFT よりも高 い。このことから、現段階ではストライドにかか わる脚伸展筋群を評価するためには、CMJ を用 いることが適切であると考えられる。 しかしながら本研究では、地面反力を測定する ことができなかったことから、実際に関節間力が 支持脚に働いているかを検討することはできな かった。そのため今後は地面反力を測定し、支持 脚に作用する力を割り出すことで疾走にかかわる 体力要因の検討をより詳細に行うことが求められ る。 以上のことから、本研究で考案した HFT は、 さらなる改善の余地はあるものの、現時点におい て疾走中の股関節屈曲トルクの評価ならびに、短 距離走能力を広く評価できることが認められた。 このテストの信頼性および妥当性が認められたこ とは、今後の短距離走能力を大規模かつ包括的に 評価するための第 1 歩である。脚伸展筋の能力と 股関節屈曲筋の能力の両方を複合的に評価するこ とができれば今後の子どもの短距離走能力向上に 向けた手立てを立てやすくなるだろう。しかし前 述したように HFT のさらなる改良によって、よ り確かな股関節屈曲筋群の能力を簡易的に評価す る方法の検討を行っていく必要があるだろう。 5 .結論 本研究の目的は、短距離走に深く関係している とされる股関節屈曲筋群の能力を評価する方法と して、重量物を足部に引っ掛け、脚で前方に飛ば す運動を提案し、その調査方法の信頼性および妥 当性を検討することであった。本研究において考 案した HFT は簡易的に作成できる重量物を用い、 評価も簡便であった。また HFT は信頼性の検討 の結果、良好な信頼性が確保されていた。加えて、 HFT は 50m 走疾走中の股関節屈曲トルクを十分 に評価できることが認められ、妥当性に関しても 確保された。このことから、HFT は、短距離走 に深くかかわる股関節屈曲筋群の能力を評価する 方法として、信頼性および妥当性に優れているテ ストであることが示された。 文献 阿江通良・宮下憲・横井孝志・大木昭一郎・渋川 侃二(1986)機械的パワーからみた疾走にお ける下肢筋群の機能および貢献度.筑波大学 体育科学系紀要 9:229-239. 出村愼一(2007)健康・スポーツのための研究方 法―研究計画の立て方とデータ処理の方法―. 杏林書院:東京,pp.243-266. 星川佳広・飯田朝美・村松正隆・内山亜希子・中 嶋由晴(2006)高校生スポーツ選手の競技種 目別の大腰筋断面積.体力科学 55:217-228. 伊藤知之・金子憲一・袴田智子・柏木悠・船渡和 男(2012)レーザー速度測定器を用いた小学 生男子児童の 50 m 疾走能力の評価.日本体 育大学紀要 41:161-170. 加藤謙一・宮丸凱史・松元剛(2001)優れた小学 生スプリンターにおける疾走動作の特徴.体 育学研究 46:179-194. 木越清信・加藤彰浩・筒井清次郎(2012)小学生 における合理的な疾走動作習得のための補助 具の開発.体育学研究 57:215-224. 文部科学省(online)新体力テスト実施要項(6 ∼ 11 歳対象)https://www.mext.go.jp/a_menu/ sports/stamina/05030101/001.pdf(参照日: 2020 年 3 月 16 日) 日本学術会議健康・生活科学委員会健康・スポー ツ科学分科会(2017)提言子どもの動きの 健全な育成をめざして∼基本的動作が危な い∼ . 日本学術会議提言 2017,pp.1-26. 斉藤昌久・伊藤章(1995)2 歳児から世界一流短
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