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ポストコロナ未来社会に向けたシステム制御の役割

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Academic year: 2021

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(1)A-3-5. 第 11 回横幹連合コンファレンス 2020.10.8-9 統計数理研究所. ポストコロナ未来社会に向けたシステム制御の役割 ○永原 正章 (北九州市立大学) The Role of Systems and Control for the Post-Corona Future Society. ∗Masaaki Nagahara (The University of Kitakyushu) Abstract– In order to control the spread of corona viruses, it is necessary to employ a wide range of technologies, and interdisciplinary science and technology is important. In this presentation, we survey the research in the field of system control to suppress the spread of virus infection and present our views on the role of system control in the post-corona society. Index terms– COVID19, complex network, pandemic, optimal control. はじめに. 1. 2020 年初頭より世界的に大きく拡大しているコロナ ウィルス (COVID19) は,我々の生活を大きく変えた. ワクチンなどの医薬品が使用できない現時点では,社 会的距離戦略 (social distancing) が感染拡大を防ぐ最 も有効な手段と考えられている.すなわち,他人との 物理的な距離を一定以上に保つように人々の行動を制 約する方法である.これにより,感染者と非感染者の 接触の確率を下げることができ,感染拡大のスピード を抑え,重傷者の治療に専念することが可能となる. 社会的距離戦略は,人に対する行動指針であり,政 府による緊急事態宣言や学校・職場の閉鎖など半強制 的な行動抑制のほか,市民の自主的な行動抑制,たと えば自宅待機 (self-quarantine) などにより達成される. これは,感染者の数や人々の位置情報を観測しながら, 人々の行動を抑制するという「フィードバック制御問 題」と考えることが可能である.ただ,従来の制御工 学と大きく異ることは,人間行動の動的モデルが非常 に大きな不確かさを含み,また人間の行動に対するア クチュエーションが,例えばモータのように正確に行 えないことである.このような問題に対する制御理論 は,ポストコロナの未来社会において極めて重要であ り,今すぐ取り掛かるべき喫緊の課題であると言える. 本稿では,従来より研究されている感染症拡大の数 理モデルを紹介し,そのモデルにもとづいた感染症拡 大抑制のための制御について考察する.また,数理モ デルと現実の現象とのギャップを論じて,今後の研究 の方向性を示す.. 感染症拡大の数理モデル. 2 2.1. SI モデル. 感染症拡大の数理モデルとして最も基本的な SI モデ ルについて,まずは考える.ここで,S は”Susceptible” (未感染),I は”Infected”(感染)の略である.SI モ デルを導出するために以下の2つの仮定をおく 1) .. • 均一混合仮説: 感染者 (I) と接触する確率はすべ ての人で同じである. • 対称性の仮定: どの人も ⟨k⟩ 人と接触する.ただ し ⟨k⟩ は社会ネットワークの平均次数である.. 以上の仮定のもとで,全人口 N における感染者数 I(t) と未感染者数 S(t) の推移は以下の方程式で記述される.. dI SI = β⟨k⟩ dt N. (1). ただし,β は感染率である.また,総人口 N は不変で,. S(t) + I(t) = N. (2). が成り立つとする.この方程式は,未感染者が感染者 に接触すると β の確率で感染するというモデルである. 図 1 にこのモデルを示す.SI モデルでは,一度感染し たら未来永劫もとには戻らないことに注意する.. Fig. 1: SI モデル 微分方程式 (1) はロジスティック方程式と呼ばれ,そ の解は以下で与えられる.. i(t) =. I(t) I(0)eβ⟨k⟩t = N S(0) + I(0)eβ⟨k⟩t. (3). このモデルでは,特性時間 (characteristic time) と呼 ばれる以下の量が重要である.. τ=. 1 β⟨k⟩. (4). これは,制御工学における時定数に相当するものであ り,特性時間が短ければ短いほど感染は急速に全人口 に拡大する. SI モデルにおいて,感染の拡大を防ぐためには特性 時間を大きくすることが重要である.特性時間 (4) を 短くするためには,以下の方策が有効である.. • 感染率 β を小さくする • 平均接触人数 ⟨k⟩ を少なくする 感染率 β を小さくするためには,ワクチンが最も効果 的である.しかし,コロナウィルスには現時点でワク チンは存在せず,感染率を小さくするためにはマスク を着用したり社会的距離をとったりすることが重要と なる.また,平均接触人数 ⟨k⟩ を少なくするためには, 自宅待機や外出制限などが効果的である..

(2) 2.2. • SIR モデル. その他のモデル. 上で述べた SI モデルは,一度感染すると治らない. しかし,実際には感染後に一定時間経てば感染者では なくなる.SIS モデルは,一度感染した後に一定の確 率(治癒率 µ)で未感染者に戻る(図 2 を参照).均一. τSIR =. ⟨k⟩ β(⟨k 2 ⟩ − (β + µ)⟨k⟩). ここで,⟨k 2 ⟩ は次数の 2 次モーメントであり, ∑ ⟨k 2 ⟩ ≜ k 2 p(k). (10). (11). k. Fig. 2: SIS モデル 混合仮説と対称性の仮定のもとで,SIS モデルの微分 方程式は以下で与えられる.. dS SI = −β⟨k⟩ + µI dt N dI SI = β⟨k⟩ − µI dt N. (5). また,一度感染したら免疫ができて,もう S には戻 らないモデルも考えられる.これが SIR モデルである. R は”Recovered”(回復した)の略で,感染から治癒し た者(または死亡者)を意味する.図 3 に SIR モデル の状態遷移図を示す.SIR モデルの微分方程式は以下. で定義される.スケールフリーネットワークで重要なの は,指数が γ < 3 のネットワークである.指数が γ < 3 を満たすとき,2 次モーメント ⟨k 2 ⟩ はサイズ N → ∞ で無限大に発散する.すなわち,指数 γ < 3 のスケール フリーネットワークでは,どのモデルであっても特性時 間が 0 に漸近し,サイズの大きなネットワークではあっ という間に感染が爆発する.これは,次数が極めて大き いハブと呼ばれるノードがスケールフリーネットワー ク上の感染拡大に大きな影響を与えるからである.こ のようなハブをスーパースプレッダー (super spreader) と呼ぶ.. 3. 感染症拡大抑制のための制御. 特性時間を長くすることを制御目標と考えれば,感 染症拡大の抑制は制御工学の問題となる.例えば,以 下のような戦略が有効であると考えられる.. • ⟨k⟩(平均次数)を小さくする:接触を少なくする, 社会的距離を保つ Fig. 3: SIR モデル. • β (感染率)を小さくする:ワクチンを開発する, 健康を保つ. となる.. SI dS = −β⟨k⟩ dt N dI SI = β⟨k⟩ − µI dt N dR = µI dt 2.3. • µ(治癒率)を大きくする:治療を施す • 基本再生産数 R0 = β⟨k⟩/µ を小さくする (6). 不均一ネットワーク. 現実の社会ネットワークは,複雑ネットワークであ り,均一混合仮説や対称性の仮定は成り立たない.そ こで,これらの仮定を取り去り,社会ネットワークをス ケールフリーネットワークにしたとき,感染の拡大は どのようになるかを考えよう.ここでスケールフリー ネットワークとは,次数分布がべき分布. p(k) ∝ k −γ. (7). となるネットワーク(グラフ)のことである.このネッ トワークにおいて,SI, SIS, および SIR モデルのそれ ぞれの特性時間は以下で与えられる 1) .. • SI モデル τSI =. ただし,通常の制御工学との大きな違いは,アクチュ エーションが難しいことである.制御工学では,モー タなどのように正確に動作するアクチュエータを想定 しており,人間や社会に対するアクチュエーションは これまで考察の対象外であった.人間行動や社会のモ デルとして,例えば行動経済学やデータサイエンスな どの知識が重要になると考えられる.. 4. まとめ. 本稿では,感染の数理モデルを示し,感染症拡大を 抑えるための方策について,数理モデルから考察した. 数理モデルがあれば最適制御により,最適化の計算は 可能であり,理論的な考察も容易である 4, 2, 3) .しか し,得られた最適方策をいかに社会に実装するかにつ いては,未解決の問題が多く存在し,経済学やデータサ イエンスなどとの共同研究が重要になると考えられる.. 参考文献. ⟨k⟩ β(⟨k 2 ⟩ − ⟨k⟩). (8). ⟨k⟩ β(⟨k 2 ⟩ − µ⟨k⟩). (9). • SIS モデル τSIS =. • ⟨k 2 ⟩(分布の偏り)を小さくする:スーパースプ レッダーを隔離する. 1) A.-L. Barabasi, ネットワーク科学,共立出版 (2019) 2) 永原,スパースモデリング,コロナ社 (2018) 3) M. Nagahara, Sparsity Methods for Systems and Control, Now Publishers (2020) 4) 永原(編著),岡野,小蔵,若生(共著),ネットワー ク化制御,コロナ社 (2019).

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