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石油技術協会誌 第 83 巻 第 6 号 (平成 30 年 11 月)450 ∼ 454 頁 Journal of the Japanese Association for Petroleum Technology
Vol. 83, No. 6(Nov., 2018)pp. 450∼454
講 演
Lecture
1.は じ め に
CO2 EOR(enhanced oil recovery)は米国の陸上油田に
おいて1970 年代から実施され,現在では十分実績のある EOR 技術として確立されている。図 1 に示すように 2014 年時点で米国陸上では136 の CO2 EOR プロジェクトが実 施されており,日量30 万 bbl の油が生産されている。ま た,天然のCO2源だけでなく,産業から排出される人工 のCO2源を起点にパイプラインが整備され,CO2が油田 まで移送されていることが分かる。 CO2 EOR の対象となりうる油田は数多く存在している ものの,天然由来のCO2の供給量には限界があり,同 CO2源を使用したCO2 EOR の実施には制約があると考え られる。このような状況の中で,温室効果ガスの主要因で ある人工由来のCO2を原料としてEOR に有効活用するこ とで生産末期を迎えた油田からの原油の増産を図る取り組 みが検討されている。 当社では,石炭火力発電所から排出されるCO2を回収し, 老朽油田に圧入するプロジェクトへの参入を検討するにあ たり,CO2 EOR を適用した際の増油効果の評価を行った。 評価において,CO2圧入により期待される増油量の算定に 影響する重要な要素の1 つとして,残存油飽和率が挙げら れる。そこで,さまざまな情報を基に残存油飽和率の評価 を行い,その結果を基に油田全体の生産プロファイルを作 成し,プロジェクトの経済性評価を行った。本報告では, CO2 EOR 評価の中でも特にサブサーフェスの評価に焦点 をあて,生産プロファイル作成のためのワークフローを紹 介する。
2. 油 田 概 要
CO2 EOR の対象となっている油田は 1930 年代に発見さ老朽化した米国陸上油田の再生
*−
CO
2EOR の評価ワークフローについて −
五十嵐 哲
**,†・下方 憲昭
**(Received July 9, 2018;accepted September 25, 2018)
Revival of mature onshore oil field in U.S.
– Evaluation work-flow of CO2 EOR
Akira Igarashi and Noriaki Shimokata
Abstract: During planning stage of CO2 EOR (enhanced oil recovery), evaluation of remaining oil volume is one
of the most important works because of its significant impact on field performance and project economics. However, the evaluation becomes very challenging when the concerned field is a legacy field where historical data are insufficient unless reliable data were later supplemented. We describe how to evaluate CO2 EOR project for a legacy field with
insufficient historical data.
To estimate the remaining oil volume in the field, the following multi-scale data were integrated. 1. SCAL (special core analysis) review
2. SWCTT (single well chemical tracer test) 3. Material balance calculation
Based on the result of remaining oil saturation evaluation, a type curve that represents production and injection performance of a target area was established and by superposing the type curve as per the pattern development schedule, total field production profile was predicted.
Keywords: CO2 flooding, EOR, remaining oil saturation, mature oil field, tertiary recovery
* 平成 30 年 6 月 14 日,平成 30 年度石油技術協会春季講演会開発生
産部門シンポジウム「貯留層の可能性を探る挑戦∼更なる油ガスの 回収を目指して」で講演 This paper was presented at the 2018 JAPT Development and Production Technology Symposium entitled Challenges to the reservoir potential / Seeking more oil and gas held in Niigata, Japan, June 14, 2018.
** JX 石油開発株式会社 JX Nippon Oil & Gas Exploration Corporation † Corresponding author:E-Mail:[email protected]
れ,1970 年代前半には日量 40,000 bbl を超える油生産を 行っていたが,プロジェクト参入検討時には日量300 bbl 程度まで減退していた。同油田は,これまで数百本の坑井 が掘削され,約350 MMbbl の原油を生産している米国で も有数の巨大陸上油田である。油田は複数の砂岩層で形成 され,この中の5 油層が CO2 EOR の対象となっている。 対象油層の主な性状を表1 に示す。 開発対象の5 油層のうち,最下部に位置する油層から開 発し,その後順次上部の油層の開発に移行する方式を採用 している。これにより,各坑井は各層における圧入,生産 終了後に再仕上げを繰り返すことで1 本の坑井で複数の層 の開発が可能となり,油田開発に必要な坑井数を削減する ことができるというメリットがある。
3. 残存油飽和率の評価
CO2 EOR の評価に当たっては,現時点で油田に残って いる油の量,すなわち残存油飽和率の評価が重要となる。 プロジェクト参入前であり,できるだけ費用を掛けずに評 価するという観点から,(1)special core analysis(SCAL) の再評価,(2)single well chemical tracer test (SWCTT)の 実施,(3)マテリアルバランス計算,の 3 通りの方法で評 価を行った。以下に各種方法の概要を示す。 (1) SCAL の再評価 老朽化した油田であるため近年の新規掘削は行われ ておらず,検層解析から現在の油飽和率を評価する ことは不可能であった。一方,本油田の含水率は 99%に近い数値となっており,残存油飽和率は残留 油飽和率にほぼ等しい状態と考えられる。よって, 過去に実施されたSCAL のクオリティチェックを行 表1 CO2 EOR 対象油層の性状 深 度 ft 5,000 ∼ 6,200 層 厚 ft 10 ∼ 40 浸透率 mD 400 ∼ 1,200 初期油層圧力 psi 2,400 ∼ 2,800 油層温度 ℉ 160 ∼ 180 油比重 ºAPI 25 ∼ 40 油粘度 cP 0.30 ∼ 1.50 図2 3 通りの方法による各レイヤーの残存油飽和率 の評価結果 図1 米国陸上における CO2 EOR プロジェクトと CO2インフラ(NETL, 2015)老朽化した米国陸上油田の再生− CO2 EOR の評価ワークフローについて − 452 ったうえで結果を整理し,残留油飽和率の評価を実 施した。 (2) SWCTT 残存油飽和率を評価する方法としてSWCTT があ る。これはケミカルトレーサを使ってHuff n Puff を行い,再生産されたトレーサの濃度から油飽和率 を評価する方法である。SWCTT は既存坑井を使っ て実施することができ,検層解析やコア分析に比べ てより大きなエリアの評価ができることから,EOR 実施の前後などに広く行われている。本油田では過 去に複数回SWCTT を実施している他,今回の CO2 EOR 実施前にも追加で実施された。 (3) マテリアルバランス計算 原始埋蔵量から累計生産量を差し引いて残存油量を 求め,油層の孔隙率から油飽和率を求めることも可 能である。ただし,原始埋蔵量には不確実性がある こと,本油田のような米国陸上油田では過去のオペ レータのデータ管理が不十分で,生産履歴が一部欠 落しているような状況もあり累計生産量にも不確実 性が含まれていることに留意する必要がある。 本評価では,地質モデルを作成して原始埋蔵量評価 を行う際にモンテカルロシミュレーションにより不 確実性の評価を行った他,累計生産量についても可 能な限りのクオリティチェックを行って使用した。 これら3 通りの方法はそれぞれに長所・短所がある。特 に評価している油飽和率の対象スケールが異なることに留 意する必要がある(Teklu,2013)。すなわち,SCAL はコ アスケール,SWCTT は坑井近傍の数十フィートスケール, マテリアルバランスは油田スケールで油飽和率を評価して いる。コアスケールの油飽和率がフィールドスケールと異 なることは起こりえるため,小さいスケールほど多くの場 所でデータを取得したうえでより大きなスケールの評価と 比較することが望ましいと考えられるが,本フィールドに おいてはデータの制約から比較が困難の部分があった。 図2 に本油田で行った評価の結果を示す。評価によって 残存油飽和率には不確実性があるが,複数の方法により, 不確実性の範囲を特定することができたと考える。 本評価ではこれらの評価から得られた油飽和率の不確実 性を,生産プロファイルを作成する段階で考慮することと した。
4. パイロットテストによる評価
本油田ではCO2 EOR の効果を確認するためにパイロッ トテストを実施している。パイロットテストは逆5 スポッ トパターンを想定し,1 本の圧入井に対して 4 本の生産 井を配置して実施された(図3)。また,既存井を観測井 として活用し,CO2圧入前後にRST (reservoir saturation tool)検層を実施し,CO2による油の掃攻状況について確 認した。 パイロットテストの結果,4 本の生産井のうち 2 坑井に おいてCO2圧入による明確な増油効果が確認できたが, 残りの2 坑井では顕著な原油の増産は確認できなかった。 このような差が生じた要因の1 つとして,油層の不均質性 がCO2の油層内での広がりに影響し,一部の坑井におい て十分な原油の増産が確認できなかったと考えられる。 観測井におけるRST 検層は CO2圧入前に1 回,圧入直 後に1 回,さらに水で掃攻した後に 1 回実施された。結果 を模式的に図4 に示す。RST 検層で測定されるシグマ値 は油層内の水の飽和率を示しており,シグマ値が高い区間 は水飽和率が相対的に高いことを,シグマ値が低い区間は 水飽和率が相対的に低いことを示している。図4 で赤い矢 印で示した区間においてCO2圧入直後のシグマ値(青点 線)がCO2圧入前のシグマ値(赤線)と比較して低くなっ ており,水飽和率の一時的な低下が確認できる。これは, 図3 パイロットテストにおける坑井配置 図4 観測井で実施した RST の結果CO2圧入によってオイルバンクが形成されたことでシグマ 値が低下したと考えられる。またCO2圧入後,水で掃攻 した後に測定したシグマ値(緑線)は,CO2圧入前に測定 したシグマ値と重なるような結果を示しており,CO2圧入 によって形成されたオイルバンクが水で掃攻されたためと 解釈できる。 以上のようにパイロットテストによってCO2 EOR の効 果が確認された他,RST 検層を実施することで CO2によっ て油が掃攻されたサブレイヤーを把握することができた。 また,4 本の生産井の生産挙動の違いから油層の不均質性 が改めて認識された。
5. 生産プロファイルの作成
CO2 EOR による原油増産の経済性評価を行うに当たっ ては,生産プロファイルを作成する必要がある。一般に米 国陸上油田で実施されているCO2 EORプロジェクトでは, パイロットテストの項で上述したように20 ∼ 40 acre 程 度のパターンを1 パターンとして対象エリア内に複数のパ ターンを配置し,各パターンに対してCO2を順次圧入し ながら開発を展開していくのだが,全てのパターン展開を カバーしたフル・フィールドスケールでの油層シミュレー ションを行うことは時間的制約などから困難である。そこ で油田の平均的な性状のセクターモデルを用いて,代表す る1 つのパターンにおける圧入・生産挙動(type curve) を作成し,これを積み重ねて油田全体の生産プロファイル を作成することで,プロジェクトの経済性評価を行った。 具体的な手順を以下に示す。 [1] 油田全体の地質モデルから平均的な性状のパターン を切り出してセクターモデルを作成 [2] セクターモデルにおいて多成分系シミュレータを用いてCO2と水のWAG (water alternating gas)をシ
ミュレートし,WAG サイクル・WAG 比率の最適化 を行う。 [3] 開発対象の層ごとに生産・圧入挙動を type curve として作成 [4] 展開するパターンスケジュールに合わせて type curve を積み重ね,油田全体の生産プロファイル を作成(図5) このような手順で生産プロファイルを作成するが,特に 重要となるのが展開するパターンスケジュールの作成であ る。パターンスケジュールを決めるに当たっては,以下を 考慮する必要がある。 ・ 開発可能パターン 開発対象の 5 油層を下部から上部に順次開発するため, 下部油層のパターンの開発が終了し,かつパターンを構 成する坑井の掘削または改修が完了しているパターンが 開発可能パターンとなる。 ・ CO2バランス 展開するパターンの数は石炭火力発電所において回収し たCO2と圧入後に再生産されたCO2(リサイクルCO2) の和である圧入可能なCO2量の制約を受ける。
6. お わ り に
限られた情報の中でCO2 EOR 適用による増油効果の評 価を行った。まず残存油飽和率の評価においては,異なる スケールをもつ複数のデータを使い,不確実性を考慮しな がら総合的に評価を行った。この結果を踏まえ,セクター モデルから油田全体の生産プロファイルを作成し,プロ ジェクトの経済性評価を行うことができた。このワークフ ローはCO2 EOR の評価に有用と考える。 図5 生産プロファイル作成の概念図老朽化した米国陸上油田の再生− CO2 EOR の評価ワークフローについて − 454
SI 単位系換算係数
ft × 3.048 E − 01 = m ft3 × 2.831685 E −02 = m3 bbl × 1.589874 E −01 = m3 psi × 6.894757 E + 03 = Pa md × 9.86923 E − 16 = m2 cP × 1.0* E − 03 = Pa・s (℉−32)/1.8 =℃ acre × 4.046873 E + 03 = m2 141.5/(131.5 + ºAPI) =g/cm3 参 考 文 献NETL, 2015:A Review of the CO2 Pipeline Infrastructure in
the U.S.
Teklu, T.W. et al. 2013:A Critical Literature Review of Laboratory and Field Scale Determination of Residual Oil Saturation. SPE-164483-MS.