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「授業力」の獲得を目指した実践報告 ―「 生徒指導力」と「新たな教育課題への対応力」を生かした手立ての確立を通して ―

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(1)Title. 「授業力」の獲得を目指した実践報告 ―「 生徒指導力」と「新たな教 育課題への対応力」を生かした手立ての確立を通して ―. Author(s). 大澤, 征矢; 佐々木, 来望; 安田, 裕希; 森, 健一郎. Citation. 北海道教育大学大学院高度教職実践専攻研究紀要 : 教職大学院研究紀要 , 10: 97-110. Issue Date. 2020-02. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/11187. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学大学院高度教職実践専攻研究紀要 第10号. 自由投稿論文. 「授業力」の獲得を目指した実践報告 ― 「生徒指導力」と「新たな教育課題への対応力」を生かした手立ての確立を通して ― 大澤 征矢*1・佐々木来望*1・安田 裕希*1・森 健一郎*2. 概 要 本稿では、北海道教育委員会が示す、教師として「キーとなる資質能力」の獲得を目指した実践を 構想し、教師の資質能力の獲得や向上について成果と課題を省察した。実践では特に「授業力」の獲 得を目指し、 「生徒指導力」や「新たな教育課題への対応力」との関連を意識して授業の手立てを講じ、 授業を展開した。自律訓練法研究会での実践の考察や分析を通して、資質能力の獲得に至った成果を 報告する。. Ⅰ はじめに 1 北海道の教職大学院ストレートマスターに求められる資質能力 北海道教育委員会(2017)は「教員育成指標」にて、教員にとってキーとなる資質能力を、養成段 階・初任段階・中堅段階・ベテラン段階のキャリアステージごとに示した。各段階の経験年数は示さ れていないが、清水ら(2018)は、教職大学院のストレートマスターには即戦力として初任者研修を 終えた教員と同等の実践的指導力が求められるとしていることから、指標の初任段階の資質能力の獲 得が求められると推測される。指標では3つの観点における教員像が示され、そのうち「教育又は保 育の専門性に関連する観点」においては、 「教育の専門家として,実践的指導力や専門性の向上に, 主体的に取り組む教員」と記載されている。その教員像に必要な資質能力が、キーとなる資質能力と して示された(後述:表4) 。この指標は、2019年3月に新たに資質能力が追加され、先に示した観 点では新たな教育課題についての資質能力が追記されたことから、これまで不易の資質能力として求 められていたものだけでなく、新たな教育課題に対応する資質能力も重要視されていることがうかが える。 2 「自律訓練法研究会」―これまでの学びと本稿の方向性 北海道教育大学教職大学院釧路キャンパスには、独自の学びの場として「自律訓練法研究会」があ り、様々な研究会員(院生、学部生、現職教員、養護教諭、スクールカウンセラー(SC) 、スクー ルソーシャルワーカー(SSW) 、教育委員会指導主事、大学教員など)が参加している。そこでは 大学院の講義などで学んだ知識と実践を結びつける活動として、ストレスマネジメントや自律訓練法 などのスキルを修得し実践に繋げる活動が行われる。また、ストレートマスターにとって研究会は、 ───────────────────── *1. 北海道教育大学教職大学院(大学院教育学研究科高度教職実践専攻)専門職学位課程(ストレートマスター). *2. 北海道教育大学教職大学院(大学院教育学研究科高度教職実践専攻)釧路. 97.

(3) 大澤 征矢・佐々木来望・安田 裕希・森 健一郎. 理論と結びつけた実践を、研究会員で分析・改善し、自身の実践の成果と課題を多角的な視点から見 直す機会にもなる。例えば昨年度は、教師のキーとなる資質能力のうち、 「教育的愛情」と「子ども 理解力」を踏まえた「生徒指導力」の獲得を目指した実践を研究会で発表した。そして、そこから得 た多角的な分析をもとに実践を振り返り、教員に必要な資質能力との関連を考え、学びを深化させる ことができた。一方、課題として、他の資質能力の関連や相乗による効果についても、獲得や検討を 踏まえた実践・分析を行う必要性があると感じた。 以上を踏まえると、昨年度までに獲得を目指した「生徒指導力」などに加え、今年度は「授業力」 の獲得を目指す必要があると考える。 『生徒指導提要』では、 「学校における教育活動には,生徒指導 としての教育機能があると同時に,学習指導としての教育機能もある」と述べられている。そのため 教師は「生徒指導力」と「授業力」の相互の関連性を踏まえた「実践的指導力」の獲得が求められる と言えよう。さらに北海道教育委員会は、各資質能力に対して、学修に努めたいキャリアステージの 目安を示しており、特に「授業力」は初任段階において重点的に学修に努めたい資質能力だとしてい る。以上のことから、本稿では「授業力」に焦点を当て、 「生徒指導力」との関連性を生かした「実 践的指導力」の獲得を見据えた授業を実践し、多角的な分析をもとに実践を振り返り、教員に必要な 資質能力との関連を考えることをねらいとする。さらに先述したように 「新たな教育課題への対応力」 が求められる背景を鑑みて、それらを手立てとした授業実践の可能性についても考察することで、不 易と流行の両面からの教員の資質能力について考える。. Ⅱ 実 践 1 小学校理科におけるメタ認知を促すための対話的な活動の在り方 1)実践の目的 理科の学習では、新たな知識や視点を獲得することで、より妥当性の高い根拠や考えの構築をして いくことが求められる。2020年度から順次実施される新学習指導要領においても、理科の「見方・考 え方」を教師が明示的に示し、活用していくことが求められている。 猪口・宮村・和田(2018)は「メタ認知の機能がもたらす利益が,理科の見方・考え方を用いなが ら活動を活発化させ,自己に必要な情報に積極的にアクセスすることで見方・考え方が豊かで確かな ものになっていく過程(図1) 」を示している。メタ認知とは、三宮によると「見る,聞く,書く, 話す,理解する,覚える,考えるといった通 常の認知活動をもう一段高いレベルからとら えた認知」 (三宮,1998,p.46)である。こ れを踏まえると、メタ認知が機能するような 授業展開を工夫し、子供たちが理科の見方・ 考え方を身に付けることができれば、より妥 当性の高い根拠や考えの構築がなされ、科学 的概念の獲得につながると考えられる。 さらに、猪口ら(前出)は、Chiu, M.M. & Kuo, S.W.(2009) の定める 「個人内メタ認知」. 98. 図1 理科の見方・考え方とメタ認知の関連. と「社会的メタ認知」に基づいて、理科授業. 猪口・宮村・和田(2018). について考察している。ここで、 「個人内メ.

(4) 「授業力」の獲得を目指した実践報告. タ認知」とは、自己の認知を対象化し、. 表1 社会的メタ認知による5つの利益. モニタリングとコントロールの過程を通. 猪口・宮村・和田(2018). じて、有意味な情報を精査することとさ れている。また、 「社会的メタ認知」 とは、. 要素 (ⅰ). メタ認知の分散. 拠を示しながら,多様な証拠をもとに問題解決を目指. 「多様な外部の情報を対象化する」 こと、 すなわち、メタ認知のモニタリング範囲. す。 (ⅱ). メタ認知の可視化. 自らの認知過程やメタ認知の過程を多様な表現によっ て 可 視 化 す る こ と で ,示 し た 証 拠 の 妥 当 性 を 吟 味 し や す. を自己から他者の認知やメタ認知に拡大 し、対話を通じて協働的に認知の調整を. 理科における社会的メタ認知による5つの利益 同 じ 問 題 に 対 し て 同 等 の 責 任 を 分 配 し ,お 互 い 適 切 な 証. くなる。 (ⅲ). 相互の足場づくり. お 互 い の 考 え や そ の 証 拠 の 類 似 点 や 差 異 点 ,矛 盾 点 を 共 有し,考えの妥当性を吟味しやすくすることができる。. 行うこと、であるとした。. ま た ,他 者 の 評 価 を 通 じ て ,理 解 を 拡 張 し た り ,他 者 の. 猪口らは、これら「個人内メタ認知」. 視点と統合しながら新しい考えを構築することができ. と「社会的メタ認知」に基づいて、「社 会的メタ認知による5つの利益 (表1) 」. る。 (ⅳ). 動機付け. 考 え の 差 異 点 や 矛 盾 点 を 解 消 し よ う と ,そ れ ぞ れ の 証 拠. を示し、その関連から個人内メタ認知の 機能も促進されることを示した。ここで. 他 者 と の 異 な る 視 点 や 考 え を 自 覚 す る こ と で ,お 互 い の. を吟味するように動機付けられる。 (ⅴ). 個人の認知の変容. は、他者の認知へのモニタリング対象の. 必 要 な 情 報 を 再 度 モ ニ タ リ ン グ し た り ,重 要 か つ 有 意 味 な 情 報 を 他 者 か ら 取 り 込 み ,よ り 妥 当 な 考 え へ と 発 展 さ せることができる。. 拡張を通じて、より適切な自己の既有情 報を再検索したり、有意味な情報を取捨選択したりし、有機的に関連付けるといった個人内の情報処 理機能が高まることや、問題解決活動に関わるメタ認知の活性化は、教師による多様な表現方法や実 験結果を多視点で関連付けるといった足場づくりが必要であることなどが述べられている。 猪口らの研究では、当該の理論を小学校理科で検討していた。それによると、社会的メタ認知の機 能によってもたらされる5つの利益から、問題解決活動の質の向上を捉えることが可能となったこと や、社会的メタ認知を通じた個人内メタ認知の活性化が、科学概念の構築に寄与することなどが明ら かとなっていた。 そこで、これらの先行研究を参考に、 「メタ認知を活性化させるための対話的な活動を設定し,新 たな知識や視点の獲得を促し,妥当性の高い根拠や考えの構築につなげること」を目的とした。授業 実践は、小学校第3学年理科「風とゴムのはたらき」でおこなった。 2)実践で用いた手立て 本単元において働かせたい「理科の見方・考え方」は、生活科の学習との関連を考慮しながら、風 の強さやゴムの伸びなどと物の動きとの関係を表に整理するなど、風とゴムの力の働きについて考え たり、説明したりすることである。さらに、風やゴムの力で動く物の動きや動く距離を変えるなど、 活動の目的によって風やゴムの力を調整することである。そこで、本実践では、 「個人内メタ認知」 と「社会的メタ認知」を促すための2つの視点で手立てを講じた。 まず、個人内メタ認知を促すために2つの手立てをおこなった。 手立て①として、生活科で活動していた時の写真を用いたり、うちわやゴムを自由に使ったりする ことができるようにした。生活科で学習したものづくりと関連付けることによって、過去の経験を根 拠に自己の予想・仮説を立てることが容易になる。 手立て②として、自己の考えを表現する方法について、ワークシートを作成し、図や文章など自分 に合った方法を選択させた。多様な表現のものを提示することで、自己の考えの整理が容易になり、 可視化できると考えた。 99.

(5) 大澤 征矢・佐々木来望・安田 裕希・森 健一郎. 次に、社会的メタ認知を促すための手立て③として、 個人思考(手立て①・②)→ペア交流→グルー プ交流→全体交流の流れを設定した。交流する際は共通点や差違点をまとめられる枠をワークシート に入れた。手立て①・②を行ったあとで他者の多様な考えと自己の考えについて共通点や差違点で比 較しながら対話することで、新たな視点の獲得や課題の明確化につながると考える。 これら3つの手立てによってメタ認知が活性化したかどうかは、木下・松浦・角屋(2005)が作成 したメタ認知尺度を活用して検討した。 その他、ワークシートの記述と授業内での発言をもとに評価をおこなった。その規準を次に述べる。 3)実践の評価規準 ワークシートの記述と授業内での発言の評価をするために、以下の評価規準を設定した。設定にあ たっては、国立教育政策研究所の資料を参考にした。 「知識及び技能」については、次の3つを評価の規準とした。1)風の力は、物を動かすことがで きることや、風の力の大きさを変えると、物が動く様子も変わることを理解している。2)ゴムの力 は、物を動かすことができることや、ゴムの力の大きさを変えると、物が動く様子も変わることを理 解している。3)風を受けたときやゴムを働かせたときの現象の違いについて、手ごたえなどの体感 をもとにしながら調べ、その過程や結果を記録している。 「思考力,判断力,表現力等」については、 「風とゴムの力で物が動く様子について追究する中で, 差異点や共通点を基に,風とゴムの力の働きについての問題を見いだし,表現しようとしている。」 を評価の規準とした。 「主体的に学習に取り組む態度」については、次の2つを評価の規準とした。1)風やゴムの力を 働かせた時の現象に興味・関心を持ち、進んで風やゴムの働きを調べようとしている。2)風やゴム の力の働きを活用してものづくりをしたり、 その働きを利用したものを見つけたりしようとしている。 これらの規準により、ワークシートの記述と授業内での発言を評価する。 4)実践の概要 本単元のねらいは、児童が、風とゴムの力と物の動く様子に着目して、それらを比較しながら、風 とゴムの力の働きを調べる活動を通して、それらについての理解を図り、観察、実験などに関する技 能を身に付けるとともに、主に差異点や共通点を基に、問題を見いだす力や主体的に問題解決しよう とする態度を育成することである。 「課題発見→予想・仮説→実験計画→実験→結果・考察→結論」の全9時間の過程のうち、2)で 述べた手だては「課題発見,予想・仮説」の場面でおこなった。 単元実践前と実践後でメタ認知尺度の調査を行った結果は表2のようになった。 5)実践の成果と課題 メタ認知尺度調査の結果から、自分自身によるメタ認知の平均値が上昇傾向にあり、他者とのかか わりによるメタ認知が下降傾向にあった。 手立て①については、尺度調査によって検討をおこなった。調査結果を t-検定によって分析した ところ、尺度調査の項目2「今までに習ったことを思い出しながら,予想を立てるようにしている」 において有意な差が見られた(t=2.23,df=33,p<0.05)。要因として「2年生のときに生活科で活 動している写真」 を学習の冒頭で提示したことがあげられる。この手立てをおこなったことにより「風 100.

(6) 「授業力」の獲得を目指した実践報告. が強く当たると,強く押されるのを感じたこ. 表2 尺度調査の単元実践前後での結果. とがある」など、より妥当性の高い根拠を用 いて、予想を立てることができていた。 手立て②については、ワークシートによっ て検討をおこなった。ワークシートは、自分 が表現しやすい方法で考えを書くことを指示 して作成させた。 書かれた内容を見てみると、 風の強さを絵の大小で表したり、進む距離を 矢印の長さで表現したりしていた。文章で表 現しているものについては、風の強弱に注目 して物体が移動する距離を予想することがで きていた。しかし、予想・仮説の両方をしっ かりと記述できている児童は少なかった。 「風 の強さが変化すると車の進む距離も変化する だろう」という予想は立てられているが、仮 説をたてることが難しい、もしくは予想・仮 説が区別できていなかったと考えられる。 手立て③については、尺度調査によって検 討をおこなった。平均値の変化が顕著であっ た項目12「グループの話し合いをしている と,自分の考えがまとまることがある」を t-検定で分析した結果、有意な差は見られな かった(t=1.60,df=33,n.s.)。授業内の振り返りやノートの記述に「みんなの意見をまとめること が難しかった」 「どのようにまとめたら良いのか分からなかった」などが見られたことから、自分に 必要のある情報を取捨選択することができなかったこと、そのために、自分の考えがまとまることが できなかったことが推察された。 45分の授業時間の中で、個人思考、ペア交流、グループ交流、全体交流をおこない、さらに自分の 意見を再構成することは、時間的に難しかったようである。今後、円滑な意見交流の方法を工夫して いきたい。 2 中学校英語科におけるピア・レスポンス活動の在り方 1)本実践の目的 本実践は、中学校英語科の授業に、ピア・レスポンスを取り入れたものである。ピア・レスポンス とは、原田(2015)によると、 「作文教育において,従来からの教師によるフィードバックではなく, 学習者自身がお互いの作文について「読み手」と「書き手」の立場を交替しながら検討しあう活動」 (p.139)のことである。ピア・レスポンスにおいて学習者は、作文をよくするという共通の目的を もち、対話を進めていきながら、作文という創造物を発展させていくことになる。こうした点におい てピア・レスポンスは協働的フィードバックとしての学習活動だと言える。中学校英語科の授業にピ ア・レスポンスを取り入れる目的は次の2点である。 1つは、平成29年告示の中学校学習指導要領解説総則編による「これからの学校教育には,他者と 101.

(7) 大澤 征矢・佐々木来望・安田 裕希・森 健一郎. 協働して課題を解決していく力の育成が求められている」という点である。そのためには教師が知識 や技能を子どもに伝達するだけの授業ではなく、子どもの学びの過程を重視し、総合的な知識、世界 の多様な人々とのコミュニケーション能力、創造的な思考力、問題の発見と解決能力を様々な他者と の関わりの中で育成することが必要であると考える。 2つめは、生徒のライティング能力の向上が求められている点である。文部科学省(2016)がまと めた、『中学校等における英語教育の改善について 参考資料』によると、 「エッセイなど,ある程度 まとまりのある文章を書くことがほぼできている,どちらかと言えばできている」と答えた中学生の 割合は3割程度であり、まとまりのある文章を書くことに課題が見られた。 以上を踏まえ、他者との協働的な学びを通して、生徒のライティング能力、特にまとまりのある文 章を書く力の育成を図ることを目的として、中学校英語科の授業にピア・レスポンスを取り入れた実 践をした。 2)本単元における評価規準 評価規準は、 「知識及び技能」 「思考力,判断力,表現力等」 「主体的に学習に取り組む態度」の3 つの観点からおこなった。 「知識及び技能」は「文と文の順序や相互の関連に注意を払い,簡単な語句や文を用いて,まとま りのある文章を書くことができる」 、 「思考力,判断力,表現力等」は「友達にインタビューをして得 られた情報を選択したり抽出するなどして活用し,場面や状況にふさわしい表現を用いて書くことが できる」、「主体的に学習に取り組む態度」は「読み手に配慮して書いたり書き直したりすることがで きる」とした。 3)手立て ピア・レスポンスに関する先行研究を見てみると、ピア・レスポンスの効果が認められた実践はど れも高校生や大学生、成人などの上級学習者を対象としたものばかりで、今のところ中学生を対象に ピア・レスポンスを行った先行研究が一例も見当たらない。これは、レスポンス活動における学習者 同士の話合いは基本的に目標言語(target language)で行うことや、内容面に関する推敲の話合い には一定の認知レベルが必要なことなどが理由であると考える。したがって中学生を対象にピア・レ スポンスを行う場合には、発達段階を考慮した手立てが必要になると考える。そこで本実践では、協 働学習における生徒の負担感を軽減し、グループでより良い話合いができるようにするため、以下の 3つの手立てをとった。  手立て①「目的意識・相手意識の明確化」 本実践を含む単元においては、「ALTの先生に友達のよさが伝わる他己紹介の英文を書こう」とい う課題を設定した。ピア・レスポンスで文章を推敲する前に、 クラス全体で「何のために書くのか(目 的意識)」と「誰に向けて書くのか(相手意識) 」の2つを共有した。目的意識・相手意識を明確にす ることで、「友達のよさが伝わるためにはどのような工夫が必要か」や「ALTの先生に伝わるように 書くにはどんなことに気をつけて書くと良いか」といった文章推敲の際の話合いの視点を共有するこ とができると考えた。  手立て②「文章の内容面に関する推敲方法の共有」 本実践の対象学級では、ライティングの推敲活動に関して、これまでに文法や語法、スペリングな ど文章の表記面に関する推敲を中心に行ってきた。しかしながら本実践において、内容としてまとま 102.

(8) 「授業力」の獲得を目指した実践報告. りのある文章に推敲するために、文章の内容面に関する話合いを行うことは初めて学習することで あった。そこでピア・レスポンスを行う前に、集団思考の場で文章の内容面に関する推敲の方法につ いて共有することにした。初めに文章の内容面に関する推敲として6つの推敲方法(加筆・削除・書 き換え・記述順変更・分割・結合)を紹介した。次に授業者が作成した「友達を紹介する文章」を提 示し、6つの推敲方法をもとにしながら、授業者の文章を集団思考の場で推敲する活動を行った。こ の手立てをとることで、その後のレスポンス活動において、具体的な推敲の方法に基づいて話し合う ことができるのではないかと考えた。  手立て③「レスポンス手順の明示」 ピア・レスポンスに慣れていない生徒の場合、話合いの目的が示され、どのような視点で推敲すれ ばよいかが分かっていても、いざ活動を開始すると何をどう発言していいのかわからないと訴える生 徒もいることが予想された。そこでそういう生徒への配慮として、以下のレスポンスの手順を示すこ とにした。  ①よかったところ(印象的なところ・興味関心のあるところ)を話し合う ②もっと説明がほしいところ、わかりにくいところを話し合う ③単語のスペルや冠詞の付け忘れ、文法に関するアドバイスを話し合う ④内容に関するアドバイスを話し合う この手順では、読み手がまず相手を受け入れるために、書き手への肯定的なレスポンスを行うよう になっており、その後に、互いの質問や意見交換へ進み、最後に批判的視点から情報提供へと展開す るように工夫した。こうした手順をあらかじめ提示しておくことで、ピア・レスポンスの進め方に不 安を感じることなく、取り組めると考えた。 検証の方法としては、まとまりのある文章を書くことができたかを評価するため、田中(2008)が 用いた作文評価表をもとに、授業者が文章の「構成・結束性」に関してルーブリック評価表(表3) を作成した。この表3をもとに、生徒が下書きとして書いた第1原稿の文章と清書として書いた第2 原稿の文章をそれぞれ点数化し比較した。また、生徒のライティング能力が向上したのがピア・レス ポンスによるものなのかを検証するために、①第1原稿と第2原稿およびワークシートを比較、②生 徒への質問紙調査の2つの方法を行った。 表3 文章の構成・結束性に関するルーブリック評価表 5点. 4点. 文章の構成がしっか 文章の構成ができて りとできており、文 おり、文と文のつな と文のつながりも適 がりもできている。 切である。. 3点. 2点. 1点. 文章の構成はできて いるが、文と文のつ ながりに不自然なと ころが見られたりす る。. 文章の構成が不適切 なところが見られ、 文と文のつながりも 不自然なところが見 られる。. 文章の構成が不適切 である。文と文のつ ながりも不自然なと ころが多く見られる。. 4)概 要 (1)授業内容の概要 中学1年生を対象に、ピア・レスポンスを取り入れた授業を行った。本単元では「ALTの先生に 友達のよさが伝わる他己紹介の英文を書こう」という課題を設定し、 ピア・レスポンス活動は単元(全 4時間)の3時間目に行った。ピア・レスポンスの時間は20分から30分程度で、最終的に第2原稿を 103.

(9) 大澤 征矢・佐々木来望・安田 裕希・森 健一郎. 提出するまでの流れは以下のとおりである。 ①他己紹介文を書くのに必要な文法・表現の復習を行う。 ②他己紹介文のアイディアを出すための活動として、ペアでインタビュー活動を行う。 ③インタビュー活動をもとに、友達を紹介する文を書く。 (第1原稿) ④他己紹介文を書く目的意識や相手意識を再度共有する。 【手立て1】 ⑤ピア・レスポンスの練習として、授業者が作成した他己紹介文をより良くするために、クラス全体 で推敲を行う。 【手立て2】 ⑥提示した「レスポンスの手順」を参考に母語でピア・レスポンスを行い、 話合いの内容をワークシー トに記入する。 【手立て3】 ⑦ピア・レスポンスの話合いをもとに自己推敲をする。 (第2原稿) ⑧ピア・レスポンスに関する質問紙調査に回答する。 (2)実践の結果 表3の評価表を用いて、33名分の第1原稿と第2原稿を点数化した。その結果、第1原稿と比べ第 2原稿で点数が上がった生徒が27名、点数が変わらなかった生徒が6名で、点数が下がった生徒はい なかった。この結果から、8割を超える生徒がピア・レスポンスによってまとまりのある文章を書く ことができたことがわかった。 5)成果と課題 (1)第1原稿と第2原稿およびワークシートの比較 生徒には、グループでの話合いの中で出てきた意見などをワークシートに記入しておくように指示 を出していたので、ワークシートからは、生徒同士の話合いの内容を分析することができた。あるグ ループでは、 「もっと友達のよさが伝わるような工夫を入れた方がよいのではないか」という意見か ら話合いが始まり、 「友達の得意なことや性格を入れると良さが伝わるのではないか」というところ まで話合いが発展していったことがわかった。また別のグループでは、ALTの先生により伝わるた めの工夫として、 「紹介する人と自分の関係を説明した方が良いのではないか」という話合いが行わ れていた。このように中学生という発達段階においても、作文の内容面に関する話合いが行われてい たことが分かる。また内容面に関する話合いのほとんどが、何のために書くのかという目的意識と誰 に向けて書くのかという相手意識を踏まえた内容であったことから、手立て①「目的意識・相手意識 の明確化」によって話合いの際の視点を共有したことが、生徒が内容面にまで踏み込んだ話合いがで きた要因ではないかと考える。 次に第1原稿と第2原稿を比較し、生徒が内容面に関する推敲を具体的にどのように行ったかを分 析した。多くの生徒が行った推敲の方法は「加筆」であり、グループでの話合いを受けて「He plays the piano very well.」や「She is kind to everyone.」などの友達のよさや性格を伝える英文を追加し ていた。また「加筆」以外にも、第1原稿では「He is smart.」と「He is kind.」の2文を書いてい た生徒が第2原稿では、 「He is smart and kind.」のように文と文を結合させるという形で推敲を行っ ていたり、読み手のことを考えて記述順を変更したりするなど様々な手法を用いて推敲を行っていた ことがわかった。作文の内容面の推敲は、上級学習者であっても難しいと感じる学習であるが、中学 1年生の発達段階でここまでの推敲が可能であることを踏まえれば、手立て②「文章の内容面に関す る推敲方法の共有」としてクラス全体で推敲方法を共有したことがプラスの要因に働いたことは間違 104.

(10) 「授業力」の獲得を目指した実践報告. いないだろう。 (2)生徒への質問紙調査の検証 ピア・レスポンス実施後に、生徒がピア・レスポンスをどのように捉えたかを把握するために本実 践を受けた33人の生徒に質問紙調査を行った。 「友達からのアドバイスは文法などの間違いを直すの に役に立ちましたか」 という質問に肯定的に答えた生徒は29人、 否定的に捉えた生徒は4人であった。 「友達からのアドバイスは原稿の内容面を推敲するのに役に立ちましたか」という質問には、26人の 生徒が肯定的に捉え、7人の生徒が否定的に捉えていた。 「ピア・レスポンスをすることで,英語の 書く力が身についたと思いますか」という質問には、28人の生徒が肯定的に回答し、4人の生徒が否 定的に回答した。このように多くの生徒が、ピア・レスポンスが作文の表記面と内容面のどちらの推 敲にも有効であると捉えているとともに、ピア・レスポンスによってライティングの力が向上したと 実感していることが分かった。 一方で、質問紙調査における生徒の自由記述では、ピア・レスポンスの難しかったところで「スペ ルミスばかり指摘をされて残念だった。 」や「文法の間違いについてはアドバイスがもらえたが,内 容面のアドバイスはもらえなかった。 」などの意見があった。これらの意見は比較的L層の生徒に多 かったことがわかった。手立て③においてレスポンスの手順を示し、作文の表記面だけでなく内容面 に関する話合いもできるような手立てをとったが、L層の生徒が書いた作文を推敲する際には、表記 面の話合いに終始してしまい、深い話合いが行われていないことがわかった。今後は、L層の生徒で あっても、表記面の推敲に終始するのではなく、内容面にまで踏み込んだ深い話合いが行えるような 手立てを構築していかなければならないと考えている。. Ⅲ 考 察 先の2つの実践と「北海道における教員育成指標」の小学校・中学校・義務教育学校版との比較か ら、教師としての資質能力の関連をまとめたものが次の表4である。これらを踏まえ、 「授業力」を 根底に据えた資質能力の獲得・向上について考察をする。 1 「実践的指導力」の獲得と向上 1)「授業力」の獲得 教員育成指標において、初任段階にて求められる「授業力」は「学習指導要領を踏まえ,ねらいを 明確にした指導案を作成し,子どもの考えを生かしながら意図的・計画的に授業を展開している」こ とである。本稿での実践は、検証段階にあることから、検証課題に対する実証がまだ十分に得られて いないことを鑑みて、そこから現時点における「授業力」の獲得のための具体的な要素について、以 下の2点とした。  ① 学習指導要領を踏まえ、単元のねらいの達成に向けて、学習計画を立てている。 ② 子どもの実態を踏まえ、単元のねらいの達成のための手立てを、意図的・計画的に授業に位置 付けて授業を展開している。 以下、それぞれの実践の内容が、 「授業力」獲得のための2つの要素を満たすかどうかを考察する。. 105.

(11) 大澤 征矢・佐々木来望・安田 裕希・森 健一郎. 表4 北海道における教員育成指標(抜粋)と本実践との関連. (◎=特に意識して獲得しようとしたもの ○=◎と関連させることで獲得が期待できるもの) 小学校・中学校・義務教育学校版教員育成指標. 求める 教員像. キャリアステ-ジ. 初任段階. キ-となる資質能力. 子ども理解力. 実践 1. 子ども一人一人のよさや可能性をはじめ、家庭環. 2 ○. 境などを理解して子どもと向き合っている。 教職の意義や教員の役割、職務内容等に関する知. 教科等や教職に関する. 教科等の内容に関する専門的な知識・技能を身に 付け、授業に生かしている。. ◎. 自らの課題解決に向け、 自律的に研修を進めている。. ◎ ○. 学習指導要領を踏まえ、ねらいを明確にした指導 授業力 実践的指導力. 案を作成し、子どもの考えを生かしながら意図的・. ◎. ◎. 〇. 〇. ◎. ◎. 計画的に授業を展開している。 子どもの発するサインを見逃すことなく予防的な 生徒指導力・進路指導力. 対応を行っている。 子どもの個性や能力の伸長と健全な心身の育成を 通して、 子どもの自己実現を図る指導を行っている。. 学級経営力 「主体的・対話的で深い 学びの実現に向けた授業 改善」への対応力 新たな教育課題への対応力. 教育の専門家として、実践的指導力や専門性の向上に、主体的に取り組む教員. 専門的な知識・技能. 識・技能を身に付け、職務に生かしている。. 「カリキュラム・. 子ども理解に基づく学級経営を計画的に行い、よ りよい学びの環境をつくっている。 「主体的・対話的で深い学び」が求められる背景 や重要性について理解し、実践に生かしている。 「カリキュラム・マネジメント」が求められる背. マネジメント」への対応力 景や重要性について理解し、実践に生かしている。 「ICTを活用した指導」 「ICTを活用した指導」が求められる背景や重 への対応力 「道徳教育の充実」への 対応力. 要性について理解し、実践に生かしている。 「道徳教育の充実」が求められる背景や重要性に ついて理解し、実践に生かしている。. 「外国語教育の充実」への 「外国語教育の充実」が求められる背景や重要性 対応力. ◎. について理解し、実践に生かしている。. 「特別支援教育の充実」. 特別支援教育の動向や具体的な支援内容、支援体. への対応力. 制等について理解し、特別な支援を必要とする子. 〇. どもの教育的ニーズに対応している。. (1)実践1  ① 学習指導要領において、学校教育で求められていることを踏まえ、ねらいの達成に向けて、メ タ認知を促すことに関する理論を実践に活かした学習計画を立てている。 授業者は、平成29年告示の学習指導要領において、他者との協働による課題解決や新たな価値や目 106.

(12) 「授業力」の獲得を目指した実践報告. 的の再構築が求められている点に着目している。また、様々な調査における学習者の実態から、小学 校理科の学習を通じて、資質・能力の獲得の過程で働かせる、理科の見方・考え方の重要性を再確認 したうえで、本単元のねらいを設定している。そのねらいの達成に向けて、授業者はメタ認知を促す ことに関する理論をもとに、科学概念の構築に至るまでの過程を対話的な学びとして、小学校理科の 学習過程に位置付け、単元の学習計画を作成した。 ② 児童の既習内容や生活経験などを踏まえ、メタ認知の活性化に向かうための3つの手立てを確 立し(意図的)、それを学習活動に適切に位置付けて、授業を展開している(計画的) 。 授業者は、学習課題に対する答えを予想する際に個人内メタ認知を働かせ、実験などの予想から考 察における社会的メタ認知を機能させるための手立てを意図的に講じている。そのために、児童の実 態として、風やゴムの働きについて、生活科での学習活動や日常の体験の中での感覚的に得られた概 念があることに着目している。それを踏まえ、具体物の活用やワークシートの形式を工夫し、予想に 必要な概念を想起させ、自己の考えを表現しやすくさせることで、個人内メタ認知を働かせようとし ている。それをもとに他者と交流する学習活動においては、授業における交流の形式を工夫するのみ ならず、交流の観点を提示し、個人の思考を再構築できるためのワークシートの工夫を行い、社会的 メタ認知を機能させようとした。そして、児童の学習活動におけるねらいを踏まえ、以上の手立てが 効果的に働くように学習活動に適切に位置付けて計画的に授業を行った。 (2)実践2 ① 学習指導要領において、学校教育で求められていることを踏まえ、ねらいの達成に向けて、ピ ア・レスポンスの実用性を見込んだ学習計画を立てている。 授業者は、平成29年告示の学習指導要領において、他者との協働による課題解決のための学習過程 が求められている点に着目し、そのために必要な能力の育成を見据えた学習の過程を確立している。 また、文部科学省の資料から、まとまりのある文章を書くことに中学生が課題を感じている点に注目 したうえで、生徒のライティング能力の育成を目指し、本単元のねらいを設定している。そのねらい の達成に向けて、授業者はピア・レスポンスの活動を授業に位置付けた単元の計画を作成し、その効 果を取り入れるための学習計画を立てている。 ② 生徒の発達段階を踏まえ、ピア・レスポンスを効果的に活用するための3つの手立てを確立し 、 それらを踏まえて単元における学習活動全体を構成し、 授業を展開している (計画的) 。 (意図的) 授業者は、授業にピア・レスポンスを位置付けるに当たり、それを効果的に機能させるための手立 てを意図的に講じている。その際に、ピア・レスポンスの先行実践における対象が上級学習者である のに対して、本実践の学習者が中学生であることに着目している。学習者の発達段階を踏まえ、内容 面の推敲のための視点を共有するために、目的意識や相手意識を明確にした課題を提示した。また、 ねらいとする文章の内容面に関する6つの推敲方法と、それらの方法を生かした推敲を行えるための 紹介文の具体を示し、ピア・レスポンス本来の活動による効果を期待した。さらに、話合い活動にお ける手立てとして、日常の生徒の見取りを踏まえレスポンスの手順を提示した。以上の手立てを、単 元として生徒の学習活動に位置付け、授業を展開していた。その他にも、文章を書くに際し必要な文 法や表現などを確認したり、 他者の情報を得るためのインタビュー活動を設けたりすることで、 ピア・ レスポンスを機能させたりするための教師の働きを計画的に位置付けた。 いずれの実践においても、 授業者の学習計画の立案や意図的・計画的な授業展開は、 先に示した「授 業力」を獲得する①と②の要素を満たしている。以上より、実践を行う過程は「授業力」の獲得の一 107.

(13) 大澤 征矢・佐々木来望・安田 裕希・森 健一郎. 助となると言える。 2)「生徒指導力」の向上 昨年度の教職大学院のストレートマスターの実践では、教師の「生徒指導力」の獲得のために、 『生 徒指導提要』における自己指導能力育成のための3つの留意点―①児童生徒に自己存在感を与えるこ と、②共感的な人間関係を育成すること、③自己決定の場を与え自己の可能性の開発を援助すること ―を取り入れた実践を行った。その際、教師の資質能力間の関係性や相互効果を意識し、特に「教育 的愛情」と「子ども理解力」を踏まえた手立ての工夫をした。今年度も、先に示した3つの留意点を 踏まえ、授業実践の手立てを構築した。それにより、 「生徒指導力」の向上のみならず、資質能力間 の関連を図った。いずれの実践も、他者との協働による問題解決を学習活動に取り入れており、その 手立ての工夫の観点から考察する。 実践1では、個人内メタ認知を働かせるため、他者の意見を聞いて自分の考えを考え直す機会を設 けている。そのような個人内メタ認知自体を確立する過程は、自己存在感を与える前提に該当する。 また、他者との交流をもって自身の考えが明確にまとまる体験を通して、それが自己存在感を与える 場になり得ることが、メタ認知の活性化を測る調査結果からも分かる。一方、社会的メタ認知を機能 させるためのモニタリングの過程は共感的な人間関係の土台となる。話合い活動における他者の意見 との比較を行う「相互の足場づくり」により自他の共通点を見いだし、それが共感的な人間関係の育 成につながるだろう。つまり、実践1では3つの留意点のうちの特に2つに着目し、教師がそれを児 童に与え得るための手立てをスモールステップのように積み上げながら、それを授業における手立て として適切に位置付けていることが分かる。 実践2は、ピア・レスポンスがよく機能する背景として、書き手と読み手という立場を認識し、自 己の役割を理解したうえで、それを全うしようとする意識を必要とする。そこから生まれる互恵的な 学びに貢献できる場が、自己存在感を育成する機会を生み出していると言える。また、ピア・レスポ ンスで得られた助言の中から、課題を達成できるものを選択しつつ推敲作文に生かすことができる場 があり、それが自己決定の場にもなる。さらに実践の手立てに関わっては、 レスポンスの手順の中に、 よかったところを話し合う活動を取り入れることで、共感的な人間関係の育成を土台とした自己存在 感を与えることにつながる手立てになり得ている。つまり、実践2では、3つの留意点の全てに着目 し、相互の関連を意識した手立てを確立し、それを授業における手立てとして適切に位置付けている ことが分かる。 2 「新しい教育課題への対応力」の獲得―「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けて 教員育成指標において、初任段階にて求められる「主体的・対話的で深い学び」への対応力は、そ れが求められる背景や重要性について理解したうえで、それを実践に生かすことを求めていることが 分かる。文部科学省(2017)は、 「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善について、 それぞれの学びの視点を述べている。指標における「主体的・対話的で深い学び」が求められる背景 や重要性を理解するためには、授業改善の視点をもとに行われた実践の結果として、それらの視点が 具体化された児童生徒の姿が表れるはずである。つまり、それを示すことにより、対応力の獲得がな されたのかが見えてくると考える。以下に示す表5は、それぞれの学びの授業改善の視点と、各実践 における児童生徒の姿を表したものである。. 108.

(14) 「授業力」の獲得を目指した実践報告. 表5 授業改善の視点と児童生徒の姿 授業改善の視点 主体的な学び. 学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しを持って粘 り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って次につなげる「主体的な学び」が実現できているか。 実践1. 実践2. 風やゴムの力と物体が移動する距離の関係を確 活動に対する目的意識や相手意識が明確で、学 かめる活動において、課題に対する結論を明確. ぶ必要感のある課題の達成に向けて、そのため. にするために、それに対する自分の考えの妥当. に必要な情報をもとに、紹介文の内容を推敲し、. 性に立ち返りながら、次の課題につなげる姿。. 推敲の視点などを次につなげようとする姿。. 授業改善の視点 対話的な学び. 子供同士の協働、教職員や地域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに考えることなどを通じ、 自己の考えを広げ深める「対話的な学び」が実現できているか。 実践1. 実践2. 課題を明らかにするための自分の考えを確立し、 生徒同士のピア・レスポンスにおいて、課題に 児童同士の対話的な活動を通じ、他者の考えと. 向かうために、内容面における文章のよさや改. の共通点や差違点をもとに、自分の考えを深め. 善点を話し合う活動を通じ、自分の紹介文の推. たり、そこに取り入れたりする姿。. 敲の要点を見いだしている姿。 授業改善の視点. 習得・活用・探究という学びの過程の中で、各教科などの特質に応じた「見方・考え方」を働かせ ながら、知識を相互に関連付けてより深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を 見だして解決策を考えたり、思いや考えをもとに創造したりすることに向かう「深い学び」が実現 深い学び. できているか。 実践1. 実践2. 風やゴムの力と物体が移動する距離の関係を探 外国語によるコミュニケーションにおける見 究する過程の中で、対話的な活動により理科の. 方・考え方を働かせながら、班員の紹介文につ. 見方・考え方を働かせながら、既習の知識を関 いて助言などを行い、文章の改善策を考えたり、 連付けて風やゴムの働きについて深く考えたり、 ピア・レスポンスにおけるフィードバックの情 課題を明らかにするための実験方法などを考え 報を生かして紹介文を推敲したりして再構築す たりして、新たに科学的概念を再構築する姿。. る姿。. Ⅳ おわりに 本稿では、北海道における教員育成指標の「授業力」と「生徒指導力」の関連性を生かした「実践 的指導力」の獲得をねらいとした授業を実践した。昨年度の成果として、複数の資質能力の相互関係 を踏まえた実践ができたことが挙げられる。しかし、その他の資質能力にも着目し関連を図る必要が あった。今年度は、新たに挙げられた「授業力」の獲得を根底としつつも、 「生徒指導力」や「新た な教育課題への対応力」とのつながりを意識して、 授業における手立てを確立することができた。「実 践的指導力」のうちの2つを関連させることができた一方で、 「学級経営力」など関連性に着目でき ていない資質能力も依然として存在する。今後の展望として、他の資質能力の関連を踏まえた獲得に 努めるとともに、学びを深化させる場として自律訓練法研究会で学び続けていく。 〔附 記〕本稿の作成においては、佐々木が「Ⅰ はじめに」 「Ⅲ 考察」 「Ⅳ おわりに」を、大澤が「Ⅱ 109.

(15) 大澤 征矢・佐々木来望・安田 裕希・森 健一郎. 実践」の1を、安田が「Ⅱ 実践」の2を、森が実践に際しての指導や原稿全体の調整を担当した。 引用・参考文献 Chiu,M.M., & Kuo,S.W., (2009),“From metacognition to social metacognition: Similarities, differences, and, learning”,Journal of Education Research, 3⑷,1-19. 原田三千代(2015) 「第5章 協働的フィードバックとしてのピア・レスポンス」大関浩美(編・著)・名部井敏代・ , 森博英・田中真理・原田三千代(著) 『フィードバック研究への招待』,139-179,くろしお出版. 北海道教育委員会(2017), 「北海道における教員育成指標」http://www.dokyoi.pref.hokkaido.lg.jp/index.htm(参照 日 2019.9.19) 猪口達也・後藤大二郎・和田一郎(2018) , 「理科学習における主体的な問題解決活動の推進に関わる社会的メタ認 知の機能についての事例的研究」 『理科教育学研究』第59巻 第2号,229-242. 猪口達也・宮村連理・和田一郎(2018) ,「理科における資質・能力の育成を目指す授業デザインに関する研究 ― メタ認知機能と理科の見方・考え方の関連」 『日本科学教育学会研究会研究報告』 第32巻 第7号,55-60. 木下博義・松浦拓也・角屋重樹(2005) , 「観察・実験活動における生徒のメタ認知の実態に関する研究―質問紙に よる調査を通して」 『理科教育学研究』第46巻 第1号,25-33. 文部科学省(2010) , 『生徒指導提要』教育図書出版. 文部科学省(2016) , 「中学校等における英語教育の改善について 参考資料」文部科学省HP, http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/058/siryo/__icsFiles/afieldfile/2016/01/15/1366027_9. pdf(参照日 2017.12.31) . 文部科学省(2017) , 『中学校学習指導要領解説 総則編』東山書房. 文部科学省(2017) , 『小学校学習指導要領解説 理科編』東洋館出版. 文部科学省(2017) , 「主体的・対話的で深い学びの実現」文部科学省HP, http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2017/10/24/1397727_001. pdf(参照日 2019.9.23) . 三宮真智子(1998) , 「メタ認知能力を伸ばす」 『日本科学教育学会研究会報告』 第13巻 第2号,45-48. 清水将・紀修・森本晋也(2018) 「教職大学院における科目『リフレクション』に関する検討:ストレート・マスター , に対する教師教育の充実の観点から」 『岩手大学大学院教育学研究科研究年報』第2巻,105-116. 田中信之(2008) . 「ピア・レスポンスの効果:作文プロダクトの観点から」『応用言語学研究論集』第2輯, 1-10.. 110.

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参照

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