学地域研究所「ジュニア研究支援」の発表から−
Author(s)
盛口, 満
Citation
地域研究 = Regional Studies(6): 23-26
Issue Date
2009-10-01
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/5607
盛□ 満 :双方向性のある地域環境学習にむけて
双方向性のある地域環境学習 にむけて
- 2008
年度
沖縄 大 学 地域研 究所 「ジ ュニ ア研 究 支援 」 の発 表 か ら-盛 口 満*
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2(K)8年度 に沖縄大学内で行われた、沖縄大学地域研究所 「ジュニア研究支援」の発表の中か ら、特 に久米島の 「守れ ホ タル ・ジュニアーズ」の活動 ・発表 を取 り上げ、紹介する。 この研究 ・発表の総括か ら、「地域」に根 ざし、双方向的な関係性 を持つ 「研究支援」 をさぐる。 キーワ- ド :ジュニア研究支援、守れホ タル ・ジュニア-ズ、環境教育 1.はじめに 沖縄大学地域研究所 は、2002年度 より県内の小 中高 校生を対象として、「ジュニア研究支援」の活動 を行 っ ている。毎年、春に新たな研究 グループを応募 し、書 類審査の結果、研究助成を行 うとともに、翌2月に研究 の成果発表会を開 き、応募 グループ相互の交流 も目指 している。2008年度は、小学生 を主体 とした研究 グル ープが6団体、中学生 を主体 とした研究 グループが2団 体、高校生を主体 とした研究 グループが5団体、助成 を 受けた。 また、助成 を受けた仝 13団体の うち、離島か らの参加が8団体 (石垣島、南大東島、伊是名島、久米 島、宮古島) と、半数以上 を占めた。研究内容 は、社 会 ・人文系 を主体 とするものが3
、自然科学系 を主体 とするものが10であった。 2008年2月21日に、各団体による発表会が、沖縄大学 内で行われた。各団体の研究発表はそれぞれ個性的で あったが、本稿では、その中の 「守れホタル ・ジュニ ア-ズ」の研究発表に特に注 目して、報告 したい。 2.研究発表の概略 研究発表には社会 ・人文系 を主体 とする研究 も見 ら れたが、ここでは自然科学系 についての発表に関 して まとめてみる。 自然科学系の発表 をさらに分類 してみると、次の よ うになる。1
.実験科学系2.
環境調査系3.
生物相調査系4.
生物種調査系 各発表 は、これ らの分類の どれかの項 目に特化 した もの もあれば、い くつかの項 目にまたがるもの も見 ら れた。 た とえば開邦高校科学部の 「太陽電池の研究」 は1
に、また宮古高校 自然 クラブの 「学校の資源 ゴミ の調査」 は2
に、辺土名高校サイエ ンス部の 「大宜味 村の昆虫」 は3
に、八重山高校生物部の 「ヤシガ二の 研究」 は4の典型である。一方で、南大束島 ・島まるごと館 ・子供 スタッフによる研究 は、 2 (南大東島の 湖沼群 の塩分濃度調査)
、 3
(南大東 島の水 鳥調査)、 4(アダンの研究)の3分野 にまたが っていた。これは、 この団体の研究 目標の設定が、「南大東島の自然は どこ か ら来たのか?
」 とい うきわめて総合的な追及 を必要 とするものであったか らである。 「現在、 自然科学系の クラブの予算 は、無 きに等 し いので、ぜ ひ今後 も研究助成 をお願い したい」 発表後 に開かれた懇親会では、高校 の 自然科学系 の クラブの顧問か ら、 この ような主 旨の発言がなされた。 この クラブの発表内容 は、 きわめて徴密 な調査 と、デ ー タ解析 、及 び学問的に も新発 見 を含 む重厚 な もので あった。それだけに、 この発言 は重 く受 け止める必要 があろう。 しか し、沖縄大学の地域研究所 の 「ジュニ ア研究支援」が、 どこに重点 をお くべ きなのかは、あ らたに考 えてみる必要があるように も思 える。発表全 体 を見渡 した とき、「ジュニア研 究支援」 な らでは と、 いえる発表 は、高校 の 自然科学系の クラブの発表では な く、小学生 を中心 に した、それ も地域 に根 ざした研 究の発表 にあるように思 えたか らである。 例 えば、先 にとりあげた南大東島の研究団体の発表 では、他 団体がすべ てパ ワーポイ ン トを使用 していた のに、あえてポス ターを貼 り変 えつつ、発表 を行 って いた。 これは 「パ ワーポイ ン トな どを使 うと、つい、 大人が うま くまとめて しまうか ら」である と、引率 を していた、島 まるごと館 の職員が、懇親会時 に打 ち明 けて くれた。 また、研究内容のひ とつ には、島に存在 す るい くつ もの湖沼の塩分濃度調査結果が紹介 されて いたのだが、 この調査結果 も 「まった く予想で きない 結果だった し、なぜ そんな結果 になるのか も、 まだわ か らない。ただ、子供 たちがお もしろそ うと思 ってや りは じめた ら、 こんな結果 になった」 とい うことであ った。 この ような姿勢 は 「研究発表」 とい うことだけ を見 る と、不十分 な結果 を生みかねないのだが、地域 を受け継 ぐ子供たちの基盤づ くりとい う点か らすると、 やが て大 きな実 を結ぶ活動 で はないか と考 え られ る。 同様 に、次 に取 り上 げる久米島の 「守れホ タル ・ジュ ニア-ズ」の研究発表 も、 この地域 に根 ざす活動 とは どうい うものか とい うことを知 らしめて くれる大変い い例ではないか と思 える。3.
守れホタル ・ジュニア-ズの発表 沖縄 島の西方、焼 く100キロの海上に浮かぶ久米島に は、1994年 に新種記載 されたクメジマボ タルが生息 し ている。 このホ タルは 日本産のホタルの中で、ゲ ンジ ボタル、ヘ イケボ タル と並 んで、例外的に幼虫が水棲 のホ タルであ り、ゲ ンジボ タル との関係性が注 目され ている (大場 2008)。久米島にはクメジマボタルの保 護活動の拠点 として、久米島ホ タル館が設立 され、ま たこの館 内に事務局 を置 く、久米島ホタルの会が、ホ タルを含めた久米島の 自然の保全 ・保護 ・再生 にむけ て活動 をしている。 「ジュニア研究」 に応募 した 「守れホタル ・ジュニ ア-ズ」 は、 この久米島ホ タル館 と久米島ホ タルの会 と、連携 しなが ら研究活動 をおこなっている。 研究助成の報告書 によれば、1年間の研究活動の記録 は以下のようである。 4-6月 久米島ホ タレンジャー結成式、川の生 き物 調査、川の清掃活動や植栽活動 7-9月
キ ャンプ、 カタツム リ調査、その他の生 き 物調査 10-12月 川の生 き物調査 、ラムサール条約登録地 の調査、キクザ トサワヘ ビの保護 1-2月 お年寄 りか らの聞 き取 り調査 本団体の活動の主軸 はクメジマボ タルの保護 なので あるが、今 回、発表 された内容 はクマジマボ タルを取 り巻 く自然の調査結果であった。 これは、 クメジマボ タルを保護す る といって も、それだけ単体で保護 をす る とい うことは、実際、不可能であるか らだ。ある生 物種 を保護す る場合、その生物種の生息する環境の保 全 とあわせて考 える必要があることは、言 うまで もな盛□ 満 :双方向性のある地域環境学習にむけて い。 クメジマ ボ タルの場 合 、幼 虫が水棲 であ るため、 水系の環境保全 に視野 を広 げる必 要があろ う し、それ は水系周辺の森林環境 や土地利用 、 さらには人間の生 産活動 との関連 も考 えざるをえな くなる。 本団体が今 回 と りあげた主 な研 究 テーマは、 クメジ マボ タル以外 の陸棲 のホ タル類 に関 してであ った。陸 棲 ホ タルの幼 虫の主 な餌 は カタツム リ類 であ るため、 そのカタツム リ類の調査 をまずお こなっている。 研究助成の報告 に興味深い記述がある。 「新 メンバーは、低学年や幼稚 園生が多 く、上手 に 字 を書 けない、長時 間一つの事 に集 中 して取 り組 めな いことも多か った。 しか し、子供 たち同士が工夫 して 生 き物探 し、発見 ごっこを して もらった り、 カタツム リの絵や イラス トを じっ くりと措 いて もらった り、昨 年 とは違 った新たな取 り組みがで きま した」 本団体 は、 こう した 「研究」 には難 しい側面 を抱 え つつ も、 きわめてユニー クな研 究成果 を発表 して くれ た。それはカタツム リの調査 時 に、壊 れたカタツム リ の殻があることに気づ き、その原 因 を考察 し、その考 察 に もとづ きデー タを取 った ことであ る。つ ま り、 カ タツム リの殻 の壊 れ方か ら、 カ タツム リの捕食者 を想 定 し、 どの捕食者 に よる死 因が多いのか とい う研 究 を お こなったのである。 この ような研究 は、 これ まで ほ とん ど行 われていない と思 われ る。 また、 カ タツム リ の殻 を拾 い集 めて分類 をす る とい った研 究 な ら、低学 年のメンバー も含めた研究が可能であろ うと、感心 さ せ られた。 さらに、団員が 島のお年寄 りに聞 き取 り調査 をお こ なった点 も、大変、興味深 か った。 この聞 き取 り調査 が興味深 いのは、それが 「双方向性 の発見」 を もた ら す ものになっていたことである。 発表時の資料 によれば、お年寄 りへのア ンケー トは、 次の ような設問であった。 質問1 ホタルは昔 どこで見 ま したか 質問
2
どれ くらいの数で したか (中略) 質問8 ホ タルがいな くなったのはいつ ごろか らです か 質問9
ホ タルが いな くなったのは、 どう してだ と 思い ますか (中略) 質問11 ホ タルが カタツム リを食べ る ことを知 って い ますか 質問12 カタツム リが、た くさんいた ところは、 ど んな ところで したか 質問13 そ こには、ホ タルがい ま したか (中略) 質問17 カタツム リを食べ たことはあ りますか 質問18 アフリカマ イマイを しってい ますか 質問19 カタツム リの ことをどう思い ますか (以下、略) この聞 き取 り調査 の結果 、団員 であ る子供 た ち と、 お年寄 りの双方が驚 くことになる。 お年寄 りが驚いたのは、子供 たちに、陸棲 のホ タル がいて、その幼 虫が カタツム リを食べ てい る とい うこ とを教 わ った こ とだ った (本土 のゲ ンジ、ヘ イケがあ ま りに も有名であるためか、 これ らのホ タルがい ない 沖縄 で も、ホ タルの幼虫 は川 に棲 んでいる とい うイメ ージが広 く流布 している)。そのため、お年寄 りたちが カタツム リに対 して抱 く一般 的 なイメー ジ も、「害虫」
とい うものであ った。 しか し、子供 たち とのや りと り か ら、ホ タルに とって、 カ タツム リの存在 は大事 であ る とい うことに気づいてい く。 団員 の子供 たちに とって、一番 の驚 きは、お年寄 り たちか ら、かつて カ タツム リを食べ た こ とがあ る とい う話 を聞いた こ とだった。 ホ タルや鳥が カ タツム リを 捕食す ることは、調査 を通 じて知 っていて も、 まさか 人間が カタツム リの捕食者 になっていた ことがあ る と は思 って もいなかったのだ。 ここに見 られ る ように、同 じ 「地域」 に暮 ら してい て も、 さまざまな断絶が隠 されてい る。 それ は世代 間 の断絶であ った り、 自然 に興味 を持 っている人 と、特別な興味 を持 っていない人 との間の断絶であった りす る。本団体の聞 き取 り調査 は、 ささやかではあるもの の、この断絶 に気づ くとともに、その断絶 を、断絶の 両側 にいる双方か ら埋める試みであったように思 える。 この小 さな試みは、今後、地域の 自然 を継承 してい く 上で、大 きな示唆 を与えて くれるものではなかろうか。 発表の最後は、久米島の森の中の食物連鎖の図に続 いて、地球全体の環境問題の相互関系 を描いた図が示 された。 この図か らは、措いた子供たちの リアリズム が感 じられた。それは、聞 き取 り調査や、先のカタツ ム リと捕食者の調査があったためだろう。 この ような リアリズムの形成 こそが、環境学習の 目指す地点では ないだろうか。