• 検索結果がありません。

自動車と自転車の共存を目指した新しい都市交通システムの構築 -安全な自転車走行環境整備に向けた学際的研究- 平成24年度(中間報告)タカタ財団助成研究論文 ISSN 2185

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "自動車と自転車の共存を目指した新しい都市交通システムの構築 -安全な自転車走行環境整備に向けた学際的研究- 平成24年度(中間報告)タカタ財団助成研究論文 ISSN 2185"

Copied!
31
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

自動車と自転車の共存を

目指した新しい都市交通システムの構築

-安全な自転車走行環境整備に向けた学際的研究-

― 平成 25 年度(中間報告) タカタ財団助成研究論文 ―

研究代表者

松本 秀暢

ISSN 2185-

8950

(2)

研究実施メンバー

研究代表者

神戸大学大学院

海事科学研究科 准教授

(3)

1

報告書概要

現在,我が国では交通事故の約 2 割を自転車関連交通事故が占め,特に自転車対歩行者 の交通事故件数が急増し,大きな社会問題となっている.今後,運輸部門からの二酸化炭 素排出量削減に向けて,自動車に代わる主要な交通手段の1 つとして,自転車利用に対す る必要性が高まることは必至である.通常,自動車対自転車の交通事故件数は走行距離の 増大に伴って増加するはずであるが,自転車先進国であるオランダでは,1980 年以降, 自動車および自転車ともに年間走行距離が大幅に増大したにもかかわらず,両者とも年間 交通事故死亡者数は約半減した.国家間の比較によっても,自転車利用の増加が必然的に 交通事故の増加を意味しないことは実証的に証明されており,すなわち,自転車利用者が 交通事故にあう危険性は,オランダやデンマークをはじめとした自転車利用の多い国ほど 低い. 以上のような背景を踏まえた上で,本研究の最終目的は,先行する北ヨーロッパ自転車 先進国における事例の検証を通して,我が国において,いかに自転車関連交通事故を低減 させるかについて取り組むことである.特に,自動車対自転車の交通事故に焦点を当て, 低炭素社会の実現に向けて,今後一層増加すると予想される自転車利用に対応するために, どのような自転車交通安全政策を実施し,いかに自動車と自転車の共存を図りながら,環 境にやさしい新しい都市交通システムを構築すべきかについて,社会科学を基調とした学 際的アプローチから提言を行うことである.

(4)

2

目 次

自動車と自転車の共存を目指した新しい都市交通システムの構築 -安全な自転車走行環境整備に向けた学際的研究- 第1 章 はじめに 1.1 研究背景 1.2 研究目的 第2 章 日本とオランダにおける自転車関連交通事故の比較 2.1 日本 2.2 オランダ 第3 章 オランダにおける自転車通行/利用環境の検証 3.1 基礎的要因 3.1.1 自然条件 3.1.2 社会条件 3.2 政策的要因 3.2.1 安全で快適な自転車道の整備 3.2.2 自転車政策に向けた資金調達 3.2.3 自転車利用促進のための税制度 3.2.4 自転車利用に関する教育制度 3.2.5 自転車利用に関する保険/補償制度 3.2.6 自転車利用に関する交通安全規則 3.2.7 公共交通と自転車との連携 3.2.8 バイク・シェアリング/レンタ・サイクル 3.2.9 放置自転車/自転車駐輪施設対策 3.2.10 自転車盗難対策 3.2.11 道路空間の再配分 3.2.12 パートナー・シップ-市民,行政,専門家組織,NPO- 第4 章 おわりに-今後の展開- 参考文献

(5)

3

図表一覧

【図一覧】 図2.1 日本における交通事故件数の推移 図2.2 自転車利用と交通事故死亡者数の関係 図3.1 オランダの地形 図3.2 東京とアムステルダムにおける各月の日平均気温(2009 年) 図3.3 アムステルダムと東京における月間降水量とその平均(2009 年) 図3.4 自転車道 図3.5 自転車専用橋梁 図3.6 サイクル・ボックス 図3.7 アンダー・パス 図3.8 自転車専用信号機 図3.9 自転車専用道路標識 図3.10 自転車交通教育の実施風景 図3.11 自転車運転証明書 図3.12 自転車交通試験(実技試験)の実施風景 図3.13 オランダ鉄道との連携 図3.14 地下鉄との連携 図3.15 OV-fiets 図3.16 レンタル・バイク 図3.17 バイスクル・タワー 図3.18 一般的な自転車駐輪方法 図3.19 道路再配分 【表一覧】 表2.1 自転車と自動車の走行距離と交通事故死亡者数の推移 表3.1 地方自治体における自転車予算(単位:ユーロ) 表3.2 雇用者からの自転車貸与前後における従業員の自転車利用状況の変化 表3.3 自転車 100 台当たりの盗難台数の推移 表3.4 フローニンゲン市中心部における買物客の主要交通手段と売上高(2004 年)

(6)

4

1 章 はじめに

1.1 研究背景と最終目的 現在,我が国では交通事故の約 2 割を自転車関連交通事故が占め,特に自転車対歩行者 の交通事故件数が急増し,大きな社会問題となっている.今後,運輸部門からの二酸化炭 素排出量削減に向けて,自動車に代わる主要な交通手段の1 つとして,自転車利用に対す る必要性が高まることは必至である.通常,自動車対自転車の交通事故件数は走行距離の 増大に伴って増加するはずであるが,自転車先進国であるオランダでは,1980 年以降, 自動車および自転車ともに年間走行距離が大幅に増大したにもかかわらず,両者とも年間 交通事故死亡者数は約半減した.国家間の比較によっても,自転車利用の増加が必然的に 交通事故の増加を意味しないことは実証的に証明されており,すなわち,自転車利用者が 交通事故にあう危険性は,オランダやデンマークをはじめとした自転車利用の多い国ほど 低い. 以上のような背景を踏まえた上で,本研究の最終目的は,先行する北ヨーロッパ自転車 先進国における事例の検証を通して,我が国において,いかに自転車関連交通事故を低減 させるかについて取り組むことである.特に,自動車対自転車の交通事故に焦点を当て, 低炭素社会の実現に向けて,今後一層増加すると予想される自転車利用に対応するために, どのような自転車交通安全政策を実施し,いかに自動車と自転車の共存を図りながら,環 境にやさしい新しい都市交通システムを構築すべきかについて,社会科学を基調とした学 際的アプローチから提言を行うことである. 1.2 研究目標 上記の最終目標を達成するために,本研究は 2 年にわたって実施予定である.まず,平 成25 年度(1 年目)においては,本研究の準備段階として,主にオランダにおける自転車 交通政策の検証に取り組んだ.自転車保有率/利用率や自転車の交通機関分担率が極めて 高いオランダにおいては,都市内では自動車を抑制し,公共交通,自転車,そして徒歩中 心の交通体系を確立している.そして,自転車が都市内最速の交通機関として,市民の間 で認知されている.同国においても,1950 年代から 1960 年代にかけて自動車が急速に普 及し,自転車の役割が急速に後退した時期があった.しかしながら,1970 年代に入ってか ら環境意識が高まると同時に,オイル・ショックが起きたことも伴って,自動車依存を低 下させようとする社会的合意が形成された.このような紆余曲折を経て,交通手段として の自転車の役割が再注目されるようになったのである. 現在,オランダは,世界で唯一,人口よりも自転車保有台数が多い国である(1.09 台/ 人).また,世界の主要都市の中で,1 日に 1 人の市民が行う自転車トリップ数(0.74), および総トリップ数における自転車トリップ数の割合(34.3%)に関しても,アムステル ダム市が他都市を圧倒している.今年度は,このようなオランダにおける高い自転車利用 率の背景にある要因について,さまざまな観点から多角的に検証を行った.

(7)

5

2 章 日本とオランダにおける自転車関連交通事故の比較

本章では,我が国とオランダにおける自転車関連交通事故について,その現状と両国間 の比較,さらには,ヨーロッパ諸国における自転車利用と交通事故死亡者数の関係につい て,各種報告書の統計やデータを引用しながら,詳細な考察を行う. 2.1 日本 図2.1 は,我が国における平成 10 年度と平成 20 年度の交通事故件数を比較したもので ある.全交通事故件数は約0.95 倍と僅かながら減少している中で,自転車対自動車の交通 事故件数は約1.04 倍に,特に自転車対歩行者の交通事故件数は約 4.5 倍に急増しているこ とが分かる. 図2.1 日本における交通事故件数の推移 出所)警察庁資料より,筆者引用. 自転車対歩行者の交通事故急増の背景には,モータリゼーションの進展に伴って自転車 対自動車の交通事故が増加したために,1978 年の道路交通法改正の中で,暫定措置として 自転車の一部歩道での走行を可能としたことがある.したがって,自転車通行の正常化を 図っていくためには,自転車と歩行者が混在する自転車歩行者道の見直しをはじめ,自転 車走行空間を分離する必要がある.また,自転車対歩行者の交通事故急増は,自転車を利 用する若年層のマナーやモラルの欠如に起因するところも大きいと考えられる.歩道を高 速で走行する自転車対策は行政だけで対処できるものではなく,また高齢化の進行に伴っ て,今後は車椅子や電動自転車等も増加すると予想されるため,マナーやモラル向上の方 策については,長期的視野に立って教育問題として捉える必要がある.

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

4.5

5.0

全交通事故件数

「自転車対自動車」

交通事故件数

「自転車対歩行者」

交通事故件数

平成

10年度

平成

20年度

(8)

6

2.2 オランダ オランダにおいては,自転車利用者の安全性は,これまでの数十年の間に確実に改善さ れている.表2.1 に示されているように,1980 年以降,両者とも年間走行距離は大幅に増 加したにもかかわらず,両者とも年間交通事故死亡者数は半分程度にまで減少した.通常, 走行距離の増加に伴い,自転車と自動車の間の交通事故は増加するはずであるが,例えば, 1980 年と比較して,2001 年における自転車と自動車の走行距離はともに 32%も増加した ものの,交通事故死亡者数は各々54%そして 48%減少しており,自転車利用者の安全性が 大幅に向上した結果となっている. 表2.1 自転車と自動車の走行距離と交通事故死亡者数の推移 出所)CBS および AVV より,筆者引用. さらに,国家間の比較,あるいはオランダ国内の市町村間の比較によっても,自転車利 用の増加が必然的に交通事故の増加を意味しないことは証明されている.図2.2 において, 自転車利用者が交通事故にあう危険性は,自転車利用の多い国ほど,より低いことが明確 に示されている.オランダ国内の市町村を比較した場合でも,同様の傾向が観察される. すなわち,自転車利用の多い市町村では,自転車利用の少ない市町村と比較して,自転車 利用者が交通事故で負傷する危険性は,平均して35%も低い結果となっている. 1980年 2001年 2005年 自転車走行距離(億km) 99 131 144 自動車走行距離(億km) 1,071 1,416 1,488 自転車交通事故死亡者数(人) 426 195 181 自動車交通事故死亡者数(人) 910 477 371

(9)

7

図2.2 自転車利用と交通事故死亡者数の関係 注)自転車の走行距離100 万 km 当たりの交通事故死亡者数.

出所)Ministry of Transport, Public Works and Water Management(2009)より,筆者 引用. 多くの研究においても,自転車利用が増加するほど自転車利用者の安全性は向上すると いう,同様の結論が得られている.これに対しては,道路利用者の行動や政策立案者によ る自転車への注目をはじめ,多くの観点から説明が行われている.それらの説明を要約す ると,以下のようになる.まず第 1 に,自転車利用が増加すれば,道路上で自転車利用者 が多数を占めるとともに,多くの交通参加者が自転車利用を経験する結果,全ての交通参 加者の行動を改めさせる.第 2 に,自転車利用が増加すれば,自動車利用の減少をもたら す結果,自動車との交通事故の可能性は低下する.第 3 に,ほぼ全ての自動車運転者は自 転車利用者でもあるため,自動車運転者は自転車利用者の行動を熟知している.オランダ においては,市民の約60%は週に最低 3 回は自転車を利用し,市民の約 80%は週に最低 1 回は自転車を利用している.そして第 4 に,政策的な観点からは,自転車利用が増加すれ ば,自転車政策が強化される結果,自転車関連社会資本への投資が増加し,安全な自転車 走行空間の整備が促進される.

(10)

8

3 章 オランダにおける自転車通行/利用環境の検証

本章では,オランダにおける自転車通行/利用環境について,地形や気候/気象,国民 性,風土をはじめとする基礎的(第 1 次的)要因,そして,国や地域による自転車交通政 策をはじめとする政策的(第2 次的)要因の 2 つに大別した上で,詳細な検証を行う. 3.1 基礎的要因 基礎的(第1 次的)要因については,さらに,地形や気候/気象に代表される自然条件, そして,国民性や風土,文化,歴史等に代表される社会条件に区分する. 3.1.1 自然条件 図3.1 オランダの地形

出所)The Dutch National Atlas of Public Health より,筆者引用.

オランダをはじめとする北西ヨーロッパ諸国の自転車利用率が高い背景としては,まず, 地形が平坦である上に,年間を通して比較的温暖であり,かつ降水量も少ない地理的理由 を挙げることができる.図 3.1 に示すように,九州ほどの面積であるオランダは,その国 土のほぼ全域が海抜100m 以下である.しかも,その約 4 分の 1 は海面下であり,国内の 標高が最も高い地点でも 321m しかない.このように,国土が平坦であるために,地球温

(11)

9

暖化による海面上昇が直ちに国土保全の脅威となる地形条件が,環境問題に対する意識の 高まりとともに,自転車利用に積極的に取り組む契機となった. 2009 年における東京の月別日平均気温については,最高平均気温の最高は 8 月の 30.1℃, 最低は1 月の 10.2℃,最低平均気温の最高は 8 月の 23.8℃,最低は 1 月の 3.5℃,そして, 最高平均気温の年平均は20.2℃,最低平均気温の年平均は 13.6℃であった.それに対して, 同年におけるアムステルダムの月別日平均気温については,最高平均気温の最高は8 月の 23.8℃,最低は 1 月の 4.0℃,最低平均気温の最高は 7 月の 14.0℃,最低は 1 月の-1.7℃, そして,最高平均気温の年平均は 14.4℃,最低平均気温の年平均は 6.7℃であった.夏季 には高温多湿となる我が国と比較して,オランダは年間を通して気温の高低差が小さく, 比較的夏は涼しく冬は温暖であるといえる(図3.2 参照). 図3.2 東京とアムステルダムにおける各月の日平均気温(2009 年)

出所)Royal Netherlands Meteorological Institute および気象庁資料より,筆者作成.

また,2009 年における東京の月間降水量については,最高が 10 月の 276.5mm,最低が 2 月の 46.5mm,月平均では 150.1mm であった.それに対して,同年におけるアムステル ダムの月間降水量については,最高が5 月の 125.5mm,最低が 4 月の 14.7 mm,月平均 では 59.7mm であった.梅雨や台風による変動が激しい我が国と比較して,オランダは年 間を通して降水量が比較的一定であり,年間降水量も我が国の5 分の 2 程度でしかない(図 3.3 参照). しかも,オランダの雨は一般的に激しく降る訳ではなく,1 日を通して天気が変わりや すく突然降り出すことが多いものの,小雨程度である場合が多い.そして,我が国では傘 をさす程度の雨であっても,オランダ人は傘を利用せず,彼等にとっての実用的な雨具で あるフードで覆いで雨を凌ぐ,あるいは,軒先で雨が通り過ぎるのを待つのが一般的であ

-5

0

5

10

15

20

25

30

35

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

日最高平均気温(東京) 日最低平均気温(東京) 日最高平均気温(アムステルダム) 日最低平均気温(アムステルダム)

(12)

10

る.したがって,オランダ人にとっては,雨は自転車利用にあまり障害とはなっていない と考えられる.

図3.3 東京とアムステルダムにおける月間降水量とその平均(2009 年) 出所)Royal Netherlands Meteorological Institute および気象庁資料より,筆者作成. 3.1.2 社会条件 このような自転車利用に適した自然条件に加えて,オランダ人の華美を嫌い質実を好む 国民性,および自動車と対等な自転車の歴史的/社会的地位をはじめとする社会条件が, 同国における自転車利用を一層高めていると考えられる.さらに,国民の日常生活に定着 した自転車文化もまた,大きな社会条件の1 つである.すなわち,オランダ人は自転車を 楽しむライフ・スタイルを構築しており,自らの日常生活の中に自転車を取り入れている. 例えば,それは4 歳頃の誕生日に最初の自転車をプレゼントされる習慣にも表れている. 3.2 政策的要因 上記で述べた基礎的(第 1 次的)要因だけでは,アムステルダムをはじめとするオラン ダ諸都市の高い自転車利用を完全に説明することは困難である.特に最近では,環境や健 康等の側面からも,オランダは自転車利用に対してかなり高い意識を持って取り組んでお り,自転車通行/利用環境の整備に加えて,法制度の整備も積極的に行っている. 充実した自転車通行/利用環境や高い市民意識が備わっている背景には,都市の重要な 交通手段としての自転車の位置付けが明確であり,その下で策定された行政による緻密な 自転車政策がある.そこでは,自転車利用を促進する条件として,安全性,迅速性,そし て快適性を重視しており,利用者の視点を重視した目標が設定されている.そして,市民 や専門家等で組織された団体が存在し,彼らの情報やアドバイスが政策に反映され,行政

0

50

100

150

200

250

300

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 平均

mm

月間降水量(東京) 月間降水量(アムステルダム)

(13)

11

と協力しながら現実に基づいた計画を策定している. 以下では,オランダの高い自転車利用に大きな影響を与えていると考えられる,あるい はオランダ独特の自転車利用促進政策であると考えられる12 項目に焦点を当てながら,考 察および分析を行う. 3.2.1 安全で快適な自転車道の整備 オランダでは,九州ほどの面積の国土に自転車道が約 18,000km も整備されており,総 道路延長の約9%が自転車道であり,しかも,その約 1/4 は自動車や歩行者等の他の交通 手段から完全に区分された自転車専用道路や自転車専用車線である.自転車先進国である オランダが,現在まで自転車道を継続的に整備してきた実績が反映されているといえるだ ろう.同国では,1930 年頃に自転車道整備が開始され,1980 年頃からは,以下の点を踏 まえながら本格的に推進している. ①自転車利用を一層促進するためには,自転車道のネットワーク化が必要. ②安全性を向上させるためには,自動車交通との分離が必要. ③短距離移動における自動車と公共交通機関利用者の代替交通手段として,5km 以内は 自転車へ転換. ④長距離移動に対しては,鉄道の端末交通手段として位置付け. また,道路も自転車を中心に考えられているため,自転車が安全に走行できるさまざま な工夫が行われている.同国における自転車道の現状を整理すると,以下のような特徴を 挙げることができる. (1)安全で快適な自転車走行空間 自転車利用を促進するためには,安全で快適な走行空間が必要である.オランダでは, 交通事故対策として,自動車や歩行者等の他の交通手段から完全に区分された自転車道の 整備が積極的に推進されている(図3.4 参照).そして,郊外部の自転車道やツーリング用 の自転車道と都市部の自転車ネットワークを連結することで,快適な自転車走行空間を確 保している. 図3.4 自転車道 出所)筆者撮影.

(14)

12

市内における自転車道ネットワークの大部分は,郊外を除いて,主要道路や時速 30km に制限された道路から適度に離れた自転車道で構成されており,市中心部では,すでに多 くの高水準な自転車道が整備されている.高度な自動車循環システムは,自動車流動を適 度に配置された道路に誘導すると同時に,多くの道路が自動車進入禁止であり,自転車専 用橋梁をはじめ自転車専用の近道が整備されている(図3.5 参照). 図3.5 自転車専用橋梁 出所)筆者撮影. (2)交差点 交差点における自転車利用者の安全性を確保するために,自動車用の停止線は後方に, 自転車用の停止線はその前方に配置することによって,自転車の安全な停止場所を確保す るサイクル・ボックスという路面表示が行われている(図3.6 参照). 図3.6 サイクル・ボックス 出所)筆者撮影. また,郊外部においては,自転車道を幹線道路や鉄道と地下通路で立体交差させること によって,安全性を確保している(アンダー・パス).この場合,自転車道を1m 下げ,幹 線道路や鉄道の高さを 2m 上げて地下通路を整備するため,自転車の上下移動が少なくて

(15)

13

すむように工夫されている(図3.7 参照). 図3.7 アンダー・パス 出所)筆者撮影. (3)信号機 交差点には,自動車用と歩行者用に加えて,自転車専用信号機が設置されている.自動 車用と同様に,自転車専用信号機は青,赤,そして黄の3 色となっている(図 3.8 参照). 図3.8 自転車専用信号機 出所)筆者撮影. (4)道路標識 オランダには,白地に赤色で縁取られた道路標識と,白地に緑色で縁取られた道路標識 の2 種類の自転車専用道路標識がある.前者は市内の比較的短距離の目的地を,後者はツ ーリスト用の長距離の目的地を案内している.道路標識には,目的地名とそこまでの距離 が示されており,道路標識の向きや矢印によって,目的地の方向を示す工夫も行われてい る(図 3.9 参照).

(16)

14

図3.9 自転車専用道路標識 出所)筆者撮影. 3.2.2 自転車政策に向けた資金調達 自転車政策には,資金が必要である.自転車政策に資金を供給するために,ほとんどの 地方自治体では,自転車政策に対して特別予算を計上している.これらの予算は,継続的 な自転車政策の実施を確実にするために利用される.外部からも,資金調達を行っている 地方自治体もある.大規模社会資本整備事業,建設事業,交通安全事業,あるいは,空間 開発事業とともに,自転車事業が実施されることもある.地方自治体は,州や市に対して 補助金を求めることもできる.ビジネス・パークの社会資本として,自転車関連施設が個 人的に整備されることもある.最近では,EU からの資金が自転車事業に活用される機会 が増加してきた.駐車場収入から自転車駐輪場整備の資金調達が行われる地方自治体があ る一方,民間企業や官民協力事業(Public-Private Ventures)によって資金調達が行われ ることもある. 自転車政策を最も強力に推進している地方自治体では,自転車関連社会資本整備のため の政策に対して,年間に十分な予算を配分している.同時に,地方自治体間には予算措置 上の大きな相違もあるが,必ずしも低予算の地方自治体が自転車政策を十分に行っていな い訳ではない.これらの地方自治体では,他の政策に便乗する形で,自転車施策の資金調 達を行っていることも多い(表3.1 参照).

(17)

15

表3.1 地方自治体における自転車予算(単位:ユーロ)

出所)Ministry of Transport, Public Works and Water Management(2009)より,筆者 引用. 3.2.3 自転車利用促進のための税制度 オランダでは,交通渋滞緩和政策の一環として自動車から自転車への転換を奨励するた めに,1995 年に「企業の自転車(Company Bicycle)」が導入された.これは,雇用者に 対する税法上の優遇制度であり,従業員が自転車を購入する時に雇用者が補助した費用, あるいは雇用者が自ら自転車を購入して従業員に貸与した費用を,雇用者の経費として認 める内容である.具体的には,以下に示す 2 つの選択肢がある. (1)雇用者が自転車購入費用を支払い,従業員の所得からその購入費用を差し引く.この 場合,従業員は749 ユーロまで所得税を支払う必要がなく,従業員に対する利益供与 となる. (2)雇用者が自転車購入費用を支払い,その所有権を保持したまま,従業員に貸与する. この場合,自転車購入費用が749 ユーロ以下であれば,課税されない. 対象となる従業員は,往復 15km 以上,かつ年間勤務日数の半数以上を自転車で通勤す ることが条件となっている.また,従業員が職務で自らの自転車を利用する場合,雇用者 は従業員に0.19 ユーロ/km を払い戻すことになっている.このような税制によって自転 車利用を促進している結果,オランダにおける自転車通勤は50%近くにもなる. 上記の(2)のような単純な施策にも,すでに自転車保有率が非常に高いオランダにおい てですら,一定の効果があるように思われる.表 3.2 に示すように,雇用者から無料で自 転車を借り受けた時,従業員は自転車をより利用することを道徳的に奨励されていると感 じるようである.企業所有の自転車を従業員に貸与するという,雇用者による効果的な施 策の一例といえるだろう. 都市名 人口 予算(単独+補助) 年度 年間1人当たり予算 Amsterdam 742,000 100,000,000 2006-2010 26.95 Raalte 28,000 10,436,945 1990-2004 24.41 Nijmegen 159,000 10,000,000 2002-2005 15.66 Tilburg 200,000 11,200,000 2006-2009 13.98 s Gravenhage 475,000 24,000,000 2002-2005 12.62 Groningen 181,000 22,800,000 1989-1999 12.60 s Hertogenbosch 135,000 8,976,000 2000-2005 11.09 Zwolle 113,000 4,500,000 1995-1998 9.95 Deventer 69,000 1,361,341 1989-1994 3.29

(18)

16

表3.2 雇用者からの自転車貸与前後における従業員の自転車利用状況の変化

出所)Van de Ven & Partners「Nationale Fiets Projecten(2002)」より,筆者引用.

また,2001 年には,自転車通勤者に対して自転車通勤控除制度が導入された.これは, 片道 10km 以上,かつ総通勤時間の 70%以上を自転車で通勤する場合,年間所得の一定割 合(最高 362 ユーロ)を課税前に控除する制度であったが,この税金控除は 2003 年に税 制簡素化のため廃止された.現在は,少なくとも週に 1 日か年に 40 日,片道 10km 以上 を公共交通機関で通勤した場合に,税金控除を受けることができる.上記の 2 ケースいず れにおいても,どの程度の控除を受けることができる(できた)かは,通勤日数,雇用者 からの交通費支給額(非課税),および通勤距離によって決まる.ちなみに,片道10km 以 上とは,自宅と勤務先との間の平均的な通勤距離を想定している. 3.2.4 自転車利用に関する教育制度 オランダでは,小学校のほぼ全児童が自転車交通教育を受ける(図 3.10 参照).オラン ダの小学校における就学期間は 5 歳から 12 歳までの 8 年間であるが,毎年,第 7 学年と 第8 学年の児童に対して,筆記試験(Theoretical Exam)と実技試験(Practical Exam) からなる自転車交通試験が実施される.自転車交通試験に合格すれば,図3.11 に示すよう な証明書が発行される.児童はオンラインで筆記試験の準備をすることが可能であり,児 童の両親に対しては,実技試験のために交通ルールを教えることが奨励されている.しか しながら,これは自転車運転免許証ではないため,誰でも自転車に乗ることが許可されて いる.すなわち,自転車に乗るために,自転車交通試験に合格する必要はないし,この証 明書も必要ではない. 提供前 提供後 差 いつも利用する 42.2% 47.3% 5.1% 頻繁に利用する 11.3% 17.5% 6.2% (規則的に)利用する 18.3% 24.2% 5.9% 時々利用する 13.2% 7.5% -5.7% 全く利用しない 15.0% 3.5% -11.5%

(19)

17

(1)教材による授業 (2)校庭での実技練習 図3.10 自転車交通教育の実施風景 出所)VVN(オランダ交通安全協会)より,筆者引用. 図3.11 自転車運転証明書 出所)VVN(オランダ交通安全協会)より,筆者引用. しかしながら,国の財政が逼迫している中で,自転車交通教育に関する予算も削減され ている.その結果,小学校における自転車交通教育の実施率は低下傾向にある.小学校に おけるこの自転車交通教育や自転車交通試験の実施は強制ではなく,各小学校の判断で実 施するかどうか,実施する場合には授業内容等が決められる.すなわち,各地域の事情に 合わせて,教える内容は取捨選択し,例えば,大都市と地方都市では自転車交通の事情が

(20)

18

異なるために,地方都市では教えない内容もある.あるいは,大都市では,実技試験は危 険であるために,実施しないケースが多い(図 3.12 参照).大都市ほど,自転車交通試験 の実施に消極的な傾向にあり,逆に移民の多い地域では,実施に積極的であるといえる. ちなみに,全国の平均的な自転車交通試験の実施率は,筆記試験が80~90%程度,実技試 験が 65~70%程度であり,自転車交通試験の合格率については,筆記試験がほぼ 100%, 実技試験が70~80%程度である.

自転車教育に関しては,オランダ交通安全協会(Veilig Verkeer Nederland:VVN)が 教材や筆記試験問題の作成/販売を行っている.VVN は,必要な費用に対して半分程度の 補助金を国から支給されているが,基本的には教材販売等からの収入で運営されている.

図3.12 自転車交通試験(実技試験)の実施風景 出所)VVN(オランダ交通安全協会)より,筆者引用.

3.2.5 自転車利用に関する保険/補償制度

オランダ道路交通法(Dutch Road Traffic Act, 1994)第 185 条(Article 185)によって, 動力系交通(自動車,バス,モペッド/オートバイ,トラム等)に対して,非動力系交通 (自転車利用者および歩行者)は保護されている.2 台の自動車 A と B が交通事故を起こ した場合,その事故を起こした自動車A の所有者は自動車 B の所有者に対して,損害を補 償しなければならない.オランダでは,このような損害に対しては,自動車所有者には法 律によって保険が掛けられている. しかしながら,185 条によって,非動力系交通が事故に巻き込まれた場合には,損害に 対する賠償責任は変化すると決められている.例えば,自動車と自転車の交通事故の場合, 自転車利用者は事故が自動車によって引き起こされたことを証明する必要はない.自動車 運転者が予見できないような極めて悪質な交通ルール違反を自転車利用者が犯したと証明 できない限り,少なくとも自転車利用者の損害の一定割合に対しては,自動車の所有者に

(21)

19

賠償責任がある.しかしながら,例えば,それは夜間に高速道路を自転車で横切るような 極めて稀なケースであり,証明されることは稀である.したがって,多くの場合,自動車 運転者に損害に対する賠償責任が発生する. 自転車利用者が14 歳未満の場合には,たとえ交通事故が自転車利用者によって引き起こ された場合であっても,自動車運転者に対して,自転車利用者の損害の 100%を賠償する 責任が発生する.これは,子供は交通の被害者になりやすく,衝動的に反応する場合があ るという考えに基づく.自動車運転者は,子供のそのような行動を考慮に入れながら運転 する義務がある. 自転車利用者が14 歳以上の場合には,たとえ自転車利用者が交通事故を引き起こした場 合であっても,自動車運転者に対して,依然,自転車利用者の損害の少なくとも50%を賠 償する責任が発生する.当然,自動車運転者の損害賠償責任の方が大きい可能性が高いが, これは自動車運転者の事故に対する責任の大きさによって決まり,弁護士が認定する.自 動車運転者に大きな責任を負わせる理由の1 つは,交通弱者を保護するためである.そし て,事故相手の損害に対しては法律で保険が掛けられている結果,自動車運転者に発生す る費用は限定的であることが,自動車運転者が大きな責任を負うもう1 つの理由である. このようにオランダでは自転車利用者を保護する法的整備が進んでいる結果,市民は安 心して自転車を利用できる.すなわち,自動車と自転車の走行空間を分離して自転車通行 環境整備を強力に推進する一方で,万が一,自転車利用者が交通事故に遭遇した場合でも, 法律で完全に保護する法的環境も整備されており,これが同国における自転車利用をさら に促進しているといえる.オランダにおける基本的な考え方は,自転車利用者が危険なの ではなく,自動車や自動車運転者が危険であるということである.したがって,自転車利 用者との衝突を避ける責任は,自動車運転者が持つべきであると考えられている.これは, 自転車利用者と道路を共有する場合には,自動車運転者は速度を調整する必要があること を意味する. 3.2.6 自転車利用に関する交通安全規則 オランダにおいては,夜間に無灯火で自転車を利用しているところを警察に発見される と,現時点で40 ユーロの罰金が科される.ライトに関する交通安全規則については, (1)前方には白色のライト,後方には赤色のライトを着装すること. (2)ライトの着装場所は,自転車,衣服,鞄,バックパック,胸,あるいは背中のいずれ かとすること. (3)自動車運転者が容易に認識できるように,ライトは見やすく着装し,正しい方向に点 灯させること. (4)ライトは常時点灯していなければならず,電池節約のために点滅させてはならない. さらに,自転車の後方に赤い反射器を着装しなければならず,これを怠れば20 ユーロの 罰金が科される.そして,罰金規則はないが,ペダルには黄色の反射器,タイヤか車輪に は白色か黄色の反射器を着装しなければならない. このように,オランダでは,安全な自転車通行環境を整備すると同時に,自転車利用者

(22)

20

に対しても,厳しい交通安全規則を課している. 3.2.7 公共交通と自転車との連携 オランダでは,自動車を利用せずに長距離移動が可能な仕組み,すなわちサイクル&ト レインが整備されている.ほぼ全ての電車に,自転車をそのまま持ち込むことが可能な空 間がある(図 3.13 参照).自転車持ち込み料金は,乗車距離に関わらず 6 ユーロと一定で あるが,ラッシュ・アワー時間帯(朝:9:00 まで,夕方:16:30~18:30)は利用できない. このようなサイクル&トレインは,自転車と鉄道を組み合わせて利便性を高めるシステム であり,オランダをはじめヨーロッパにおいては,電車内へ自転車を持ち込むことは一般 的である.また,オランダ鉄道(NS)では,歩行者,自転車利用者,バス利用者,タクシ ー利用者,自動車による送迎者,駅に駐車する自動車所有者の順で優先権を考え,駅のレ イアウトを行っている. 図3.13 オランダ鉄道との連携 出所)筆者撮影. アムステルダム市内においては,1.5 ユーロの自転車専用切符を購入すれば,地下鉄や トラムに自転車をそのまま持ち込むことができる(図 3.14 参照).ただし,トラムに関し ては,市の中心部と郊外にある新居住地域を結ぶ 26 号線(Central Station-IJburglijn) のみが,その対象となっている.

(23)

21

図3.14 地下鉄との連携 出所)筆者撮影. 3.2.8 バイク・シェアリング/レンタ・サイクル アムステルダムは最も早く公共自転車プロジェクトに取り組んだ都市であるが,現在, 多くのヨーロッパやアメリカの諸都市で成功を収めているバイク・シェアリング(コミュ ニティ・サイクル)の原型となったホワイト・バイク(White Bikes)は,結局は失敗に 終わった.ホワイト・バイクの起源は 1965 年にまで遡り,これは施錠なしの自転車を利 用可能な無料/無人の制度であったが,この公共自転車プロジェクトに対して市政府は積 極的ではなかったため,ホワイト・バイクは導入されることなく廃止された.2000 年には, ホワイト・バイクに代わる新しい公共自転車プロジェクト(DEPO)が開始され,自転車 利用には一定の料金が必要となった.これは,適当な間隔でネット化されたラック完備の ステーションを基地として,銀行カードによる利用料金の支払方式を採用し,盗難防止措 置も組み込まれているものであった.しかしながら,駐輪施設があまりにも脆弱であった ために,多くの自転車が盗難にあった上,駐輪スポット数も非常に少なかったこともあり, この新しい公共自転車プロジェクトも成功しなかった. しかしながら,オランダにおいても,他の都市内で移動する上で,簡単に自転車を利用 したいというニーズはあり,2003 年に OV-fiets(=Public Transport-bicycle)が登場し た(図3.15 参照).そして,多くの公共交通機関の結節点において,この OV-fiets を借り ることが可能となっており,オランダにおける公共交通の一部となっている.これは,公 共交通乗車券がスキャンされた後に,利用者は自転車を借り受け,自転車の返却時には, 自転車の鍵がスキャンされるシステムである.レンタル料金は,20 時間ごとに 2.85 ユー ロであり,自動的に引き落とされ,年会費は9.50 ユーロである.これは,主にオランダ人 によって利用されており,利用者は,その便利さ,早さ,および低料金に満足している. 現在では,OV-fiets は年間 35 万台レンタルされており,156 ヶ所のレンタル場所や鉄道駅 に設置されている.OV-fiets によって,35%の定期利用者は電車による移動を増加させ, 12%の定期利用者は時々もしくは恒常的に自動車利用を止めている.さらに,市中心部や ビジネス・パーク,フェリー埠頭,あるいはバス・ステーションをはじめ,鉄道駅以外で

(24)

22

OV-fiets を利用できる機会を増加させており,都市内におけるレンタ・サイクルとして利 用されている.しかしながら,OV-fiets を借りるためには,オランダ鉄道の年間シーズン・ カードかOV-fiets 会員カードが必要である上,年会費を払う必要があるために,観光客向 けというよりは定期利用者向けであり,その約 50%がビジネス目的で利用されている. OV-fiets は,オランダ鉄道,サイクリスト・ユニオン,および幾つかの公的機関と連携し ながら,オランダ鉄道のインフラ部門を所有する国有会社である ProRail が,そのサービ スを提供している. 図3.15 OV-fiets 出所)筆者撮影. また,アムステルダムにおいては,特に観光客向けの商業レンタ・サイクルが,大きな 成功を収めている.主に観光客を対象として,20 社を超えるレンタ・サイクル業者が存在 し,路上では数千台のレンタル・バイクが走行している(図3.16 参照). 図3.16 レンタル・バイク 出所)筆者撮影. 3.2.9 放置自転車/自転車駐輪施設対策 オランダにおいては,放置自転車はかなり大きな問題であるといえる.例えば,アムス

(25)

23

テルダムでは,アムステルダム中央駅前に3 層構造で 2,500 台収容可能な巨大屋外自転車 駐輪施設があるが,自転車を収容しきれずに,駐輪施設の外まで溢れ出している状況であ る(図3.17 参照). 図3.17 バイスクル・タワー 出所)筆者撮影. 3.2.10 自転車盗難対策 ヨーロッパの他の国々と比較して,オランダは自転車保有率/利用率が最も高い水準に あるだけではなく,自転車盗難についても,ヨーロッパで最も高い水準にある.同国では, 年間に約 75 万台の自転車が盗難被害にあっている.10 年前には,年に 3 回も自転車盗難 にあうケースも少なくはなかった.このため,自転車を利用する際には頑丈なチェーンを 携行し,駐輪時にはそのチェーンでロックする方法が一般的である(図3.18 参照).1990 年代半ば以降,国は自転車盗難問題に取り組み,一定の成果を収めてきたが,現在でも大 きな問題であり続けている(表3.3 参照). また,自転車盗難にあった約45%の被害者だけしか,平均して警察に盗難届けを提出し ていない結果,ほとんどの盗難自転車は,元の所有者の手元には戻っていない.通常,オ ランダ人は,日常生活で利用する自転車には保険を掛けない.しかし,2 台目の趣味に利 用する高価な自転車には,保険を掛けるのが一般的である.保険料は,例えば,2,500 ユ

(26)

24

ーロの自転車の場合で,およそ年間100 ユーロである. 図3.18 一般的な自転車駐輪方法 出所)筆者撮影. 表3.3 自転車 100 台当たりの盗難台数の推移 注)2004 年までは警察によるモニター,2005 年以降は安全協会によるモニター. 出所)Ministry of Transport, Public Works and Water Management(2009)より,筆者 引用. 3.2.11 道路空間の再配分 我が国とヨーロッパにおいては,ともに狭い街に歩行者と自転車と自動車が共存する状 況は基本的に共通しており,どのように道路を3 者間で配分するかに相違があるといえる. その分配の優先順位は,ヨーロッパでは,まず歩行者,次に自転車,そして最後に自動車 の順となっている一方,我が国では,まず自動車,次に歩行者,そして最後に自転車の順 になっているといえるだろう.例えば,交差点においては,我が国では歩道橋が設置され 歩行者や自転車利用者は階段を上がらなければならない.一方,オランダにおける街中の 信号の無い小さな交差点では,車道にハンプと呼ばれる構造が施されており,自動車は交 差点に入る時にスピードを落とす工夫が行われている. 都市計画の観点からは,移動者1 人当たりの都市専有面積の大きさから,「自動車<自転 年 自転車盗難台数 年 自転車盗難台数 1993年 7.3 2001年 5.5 1994年 -2002年 - 1995年 7.7 2003年 5.3 1996年 -2004年 5.0 1997年 6.6 2005年 5.9 1998年 -2006年 5.6 1999年 6.4 2007年 4.8 2000年 -

(27)

25

車<公共交通<徒歩」の順番で,重視すべき交通手段を検討する必要がある.このような 移動者 1 人当たりの都市専有面積と,その結果としての交通手段上の優先順位は,道路空 間の再配分に対して,明確な指針を与える.すなわち,都市内の道路においては,徒歩空 間を確保した上で,可能な限り自動車車線を削減し,公共交通と自転車のために,その空 間を活用していくことが明確化される. オランダにおいても,自転車に対してより多くの道路空間を再配分するために,自動車 車線を完全に廃止することはない.しかしながら,自転車道路が改善されれば,自らにも メリットがあるため,ほとんどのオランダ人は自動車車線の削減に対しては協力的である (図 3.19 参照).例えば,商店主に対して,商工会議所やサイクリスト・ユニオン,市等 の関係者が,表3.4 で実証されているように,「自転車利用者が増加すれば,売上高も増加 する」と説得を試みるが,道路の再配分に対して理解を得るのに時間がかかることは,オ ランダにおいても共通している. 図3.19 道路再配分 出所)筆者撮影. 表3.4 フローニンゲン市中心部における買物客の主要交通手段と売上高(2004 年) (1)買物客の割合 (2)売上高の割合

出所)Ministry of Transport, Public Works and Water Management(2009)より,筆者 引用. 徒歩 自転車 公共交通 自動車 地元の買物客 32% 46% 13% 9% 隣接地域からの買物客 1% 22% 41% 36% 遠方からの買物客 5% 7% 48% 39% 合計 20% 31% 27% 21% 徒歩 自転車 公共交通 自動車 地元の買物客 19% 56% 14% 25% 隣接地域からの買物客 0% 21% 32% 40% 遠方からの買物客 4% 5% 39% 37% 合計 11% 34% 25% 35%

(28)

26

3.2.12 パートナー・シップ-市民,行政,専門家組織,NPO- オランダでは,全国規模で活動を行っている少なくとも 6 つの組織が,自転車政策の推 進において重要な役割を果たしている.それら代表的な 6 組織の概要を整理すると,以下 のように要約できる. (1)Fietsberaad(自転車協議会) Fietsberaad に対しては,オランダ運輸・公共事業・水管理省が出資しており,主に地 方自治体から出向している約20 人の専門家から構成されている.Fietsberaad は,主に季 刊誌とウェブ・サイトを通して多くの情報を収集/配信し,分権化された地方自治体の自 転車政策を支援している.その目的は,道路政策における自転車交通の位置付けを強化す ることである. (2)KpVV(交通/交通知識のプラット・フォーム) KpVV は,実用的知識を提供することによって,分権化された地方自治体を支援してい る.KpVV は,政策,モビリティー,安全性,社会資本,および公共交通の 5 つのテーマ に関して活動を行っている. (3)CROW(社会資本/交通/公共空間に係わる全国的な知識のプラット・フォーム) CROW は,多くの出版物において確立された提案や指針,規制を通して,実務的な知識 を提供している.また,自転車駐輪指針や自転車交通設計手引をはじめ,自転車交通のた めの多くのガイドラインの出版も行っている. (4)Fietsersbond(サイクリスト・ユニオン) Fietsersbond は,オランダにおける自転車利用者のための利益団体であり,本部と約 120 の地方支部から構成されている.オランダ運輸・公共事業・水管理省から資金提供を受け, 地方自治体の自転車政策の推進を目的として,Fietsbalans(自転車利用環境評価)ベンチ マーキング・プロジェクトを実施している.この Fietsbalans は,地方自治体における自 転車利用環境を実際に評価するものであり,2000 年から 2004 年にかけて,125 の地方自 治体に対して行われた.調査対象の各自治体は,10 基準に基づいて,自転車利用環境を相 対的に評価した詳細な報告書を受け取り,Fietsersbond の地方支部は,この調査結果に基 づきながら,地方自治体の責任者に対して,自転車利用者のための具体的な改善策を求め る.また,Fietsersbond は自転車道ボトル・ネックの報告とその改善策を提案し,そのウ ェブ・サイト上には,解決済みボトル・ネックと未解決ボトル・ネックの情報が掲載され ている. このように,Fietsersbond は自転車政策における道路上の具体的な問題に焦点を当てる 役割を果たしている.特に,アムステルダム支部はFietsersbond の発祥地であり,現在ま でFietsersbond の専門性向上に貢献してきた.地方政府からの資金援助にも依存している が,専属スタッフ 3 人を擁し,約 4,500 人の会員が加盟する最大の支部となっている.会 費は35 ユーロ/年(あるいは 2.17 ユーロ/月)であり,ユトレヒトには,非常勤も含め て約30 人のスタッフ数を擁する全国本部がある.

(5)Stichting Landelijl Fietsplatform(全国自転車利用プラット・フォーム)

(29)

27

のための独立した調整機関であり,国や地域の機関,および利益団体の代表者から構成さ れている.Stichting Landelijl Fietsplatform は,オランダ農業・自然管理・食糧品質省か ら資金提供を受け,全国的にレクリエーション用自転車道路を整備/管理すると同時に, レクリエーションの自転車利用のための機会を促進している. (6)SenterNovem(環境と持続可能性を目的とした国との連携組織/機関) SenterNovem は,多くのプログラムと助成に関する調整権限を持っており,持続可能な 自転車関連プロジェクトを支援している.例えば,個人移動におけるCO2削減規制に対し て300 万ユーロ,モビリティー・マネジメント・プログラムに対して 200 万ユーロをはじ め,相当な予算が計上されており,特に,自転車駐輪とレンタ・サイクルに関する多くの 自転車利用プロジェクトが支援を受けている.

(30)

28

4 章 おわりに-今後の展開-

平成25 年度(1 年目)は,本研究の準備段階として,主にオランダにおける自転車交通 政策について,さまざまな観点から多角的に検証を行った.同国における高い自転車利用 率の背景にある要因としては,まず第1 に,地形が平坦で起伏が少ない上に,年間を通し て比較的温暖であり,かつ降水量も少ないため,自転車走行に極めて適しているからであ る.第2 に,コンパクトにまとまったオランダの諸都市では,多くの移動が短距離であり, 自転車が最も便利で速い移動手段となっているからである.第 3 に,自転車はガソリンを 消費しないため環境に負荷を与えず,環境意識の高いオランダ人の思考様式と合致してい るからである.さらに,費用がかからない上に,健康増進にも貢献するため,オランダ人 の合理精神とも合っているからである.第4 に,オランダ人は 4 歳頃の誕生日に最初の自 転車をプレゼントされて以降,趣味やレクリエーションとしても自転車を楽しみながら成 長するなど,自転車がオランダ社会に深く浸透しているからである.そして第 5 に,オラ ンダ人は体格が大きく体力があるため,中長距離自転車走行に適した実用的自転車の利用 における負担が小さい上,オランダ人は多少の雨に濡れることを厭わないため,自転車利 用が天候に左右されないからである. この 5 つの理由が,何故オランダ人が自転車をよく利用するのかという疑問に対する, 最も説得力のある極めて明快な回答であるだろう.これらの要因に加えて,国や地方自治 体による強力な自転車利用促進政策(プル要因)と自動車利用抑制政策(プッシュ要因) が,さらにオランダにおける自転車利用を押し上げているといえる. 平成 26 年度(2 年目)は,前年度の研究成果を踏まえながら,我が国のおける自転車交 通施策と交通事故死傷者数に関する定量的分析(実証研究),および本研究の集大成である 「環境にやさしい新しい都市交通システムの構築」に向けた政策提言に取り組む予定であ る(政策提言).具体的には,本研究の最終目的として,以下の2 点を中心に取り組む. ①開発したモデルによる自転車交通安全施策の効果に関する定量的分析 北ヨーロッパ自転車先進国の自転車交通安全施策を踏まえながら,我が国で実施/計画 されている自転車交通安全施策を定量的に評価する.そして,国土交通省や警察庁等の関 係機関によるこれまでの自転車交通施策の効果と問題点,およびその限界について明らか にする. ②自動車と自転車の共存を目指した環境にやさしい新しい都市交通システムの構築に向け た政策提言 安全な自転車走行環境整備を通して,特に過去10 年間で急増している自転車対歩行者の 交通事故を減少させる方策についても検討する.そして,我が国において,いかに自動車 と自転車の共存を目指した環境にやさしい新しい都市交通システムを構築するかについて 明らかにする.

(31)

29

参考文献

1) Ministry of Transport, Public Works and Water Management [1999], “The Dutch Bicycle Master Plan. Description and Evaluation in an Historical Context”, Ministry of Transport, Public Works and Water Management, 131 pages.

2) Ministry of Transport, Public Works and Water Management [2009], “Road Safety Strategic Plan 2008-2020. From, for and by everyone”, Ministry of Transport, Public Works and Water Management, 88 pages.

3) Ministry of Transport, Public Works and Water Management [2009], “Road Traffic Signs and Regulations in the Netherlands 2009”, Ministry of Transport, Public Works and Water Management, 75 pages.

4) Ministry of Transport, Public Works and Water Management / Fietsberaad (Expertise Centre for Cycling Policy) [2009], “Cycling in the Netherlands”, Ministry of Transport, Public Works and Water Management / Fietsberaad (Expertise Centre for Cycling Policy), 74 pages.

図 2.2 自転車利用と交通事故死亡者数の関係 注)自転車の走行距離 100 万 km 当たりの交通事故死亡者数.
図 3.3 東京とアムステルダムにおける月間降水量とその平均( 2009 年)
表 3.1 地方自治体における自転車予算(単位:ユーロ)
図 3.12 自転車交通試験(実技試験)の実施風景 出所) VVN (オランダ交通安全協会)より,筆者引用.

参照

関連したドキュメント

交通事故死者数の推移

1.総論 1-1.計画の位置付けと目的

本報告書は、日本財団の 2016

Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism.

本報告書は、日本財団の 2015

11  特定路外駐車場  駐車場法第 2 条第 2 号に規定する路外駐車場(道路法第 2 条第 2 項第 6 号に規 定する自動車駐車場、都市公園法(昭和 31 年法律第 79 号)第

 The purpose of this study was to ascertain the results of and issues with talks and exibition organized by Kokushikan University and the City of Tama and approved by the Tokyo

~自動車の環境・エネルギー対策として~.. 【ハイブリッド】 トランスミッション等に