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<判例研究> 著作物の保護期間の準拠法 : 最三小判平成19年12月18日民集61巻9号3460頁

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(1)

<判例研究> 著作物の保護期間の準拠法 : 最三小判

平成19年12月18日民集61巻9号3460頁

著者

山口 敦子

雑誌名

法と政治

62

4

ページ

197(1848)-211(1834)

発行年

2012-01-20

URL

http://hdl.handle.net/10236/8943

(2)

1. は じ め に

我が国の 「法の適用に関する通則法」 に知的財産関係を単位法律関係とする 法選択規則はないものの, 著作権関係については 「その領域について保護が要 求される国の法」 (以下, 「保護国法」。 具体的には, 利用行為地法, 侵害行為 地法と解されている (2) ) が当該準拠法として有力ないし一般的に主張されている (3) 。 もっとも, 保護国法の根拠を何処に求めるかということについては諸説あり (4) , その一つに, 「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約 (5) 」 の諸規定 (とりわけ5条後段) にある 「保護が要求される同盟国の法令」 という文言 を, 先述の 「その領域について保護が要求される国の法」 と読み替え, ここに 保護国法の根拠を求めるという見解 (以下, 保護国法説 (6) ) がある。 判 例 研 究

著作物の保護期間の準拠法

最三小判平成19年12月18日民集61巻9号3460頁

(1) 【判例研究】 (1) この他, 裁時1450号24頁, 判時1995号121頁, 判タ1262号76頁。 (2) 江口順一, 茶園茂樹 「国際取引と知的財産」 松岡博編 現代国際取引法講義 (法律 文化社, 2003年) 185頁, 高杉直 「判批」 ジュリスト1269号 (2004年6月) 287頁。 (3) 木棚照一 国際知的財産法 (日本評論社, 2009年) 244頁。 松岡博 「判批」 法律時報・ 別冊私法判例リマークス29 (2004〈下〉) (2004年) 138頁。 (4) 木棚・前掲注(3)244頁以下が詳しい。

(5) Berne Convention for the Protection of Literary and Artistic Works. 以下, 1971年パリ 改正条約を 「ベルヌ条約」 と呼ぶ。

1. はじめに 2. 事実の概要と判示内容 3. 検討 4. おわりに

(3)

他方, 我が国の裁判例によると, 最近, このベルヌ条約の諸規定を法選択規 則として適用した例が幾つか見られる。 例えば, (1) 著作権に基づく差止請 求を 「著作権を保全するための救済方法」 と性質決定し, ベルヌ条約5条後 段の 「保護が要求される国の法令」 を準拠法と解して我が国の法律を適用した 例 (7) , (2) 著作者の死後における人格的利益の保護のための差止請求及び謝罪 広告請求を 「著作者の権利を保全するための救済の方法」 と性質決定し, 同条 約6条の2の 「保護が要求される国の法令」 を準拠法と解して我が国の法律 を適用した例 (8) , (3) (2) の請求権を行使すべき者を, 同条約6条の2によ り, 「保護が要求される国」 である我が国の法律によって定められるとした例 (9) , (4) 映画の保護期間については, 同条約7条本文により, 「保護が要求され る同盟国」 である我が国の法律が適用されるとした例がある (10) 。 本稿では, 上記に該当する裁判例の中ではじめての最高裁判決である, 最三 小判平成19年12月18日 (11) を取り上げる。 本判決は, 映画の保護期間について, 日 本法を準拠法として適用した判決であるが, この準拠法決定の際, ベルヌ条約 7条を根拠にしたものと解されることから, 上記 (4) に分類されよう。 以 下では, この準拠法に関する判断について検討する。 ちなみに, 同判決は, 我が国の著作権法に関する次の争点を明らかにしたこ とから, 実質法上, 既に重要判決として位置付けられている。 すなわち, 平成 16年1月1日に施行した 「平成15年の著作権法の一部を改正する法律」 (平成 15年法律第85号) により, 我が国の著作権法における映画の著作物の保護期間 著 作 物 の 保 護 期 間 の 準 拠 法 (6) 詳しくは, 本稿 3.2 を参照されたい。 (7) これには, 例えば①東京高判平成16年12月9日 LEX / DB 28100095 (本判決の準拠法 に関する判断は, 第一審の東京地判平成16年5月31日判時1936号140頁, 判タ1175号265頁 を引用している), ②東京地決平成18年7月11日判時1933号68頁, 判タ1212号93頁, ③知 財高判平成20年2月28日判時2021号96頁 (本判決の準拠法に関する判断は, 第一審の東京 地判平成19年8月29日判時2021号108頁を引用している), ④知財高判平成20年12月24日 LEX / DB 25440215, LEX / DB 25440216, ⑤知財高判平成21年10月28日判時2061号75頁, 判タ1318号243頁 (本判決の準拠法に関する判断は, 第一審の東京地判平成21年4月30日 判時2061号83頁, 判タ1318号251頁を引用している) がある。 (8) これには, 例えば前掲注(7)①がある。 (9) これには, 例えば前掲注(7)①がある。 (10) これには, 例えば前掲注(7)②がある。 (11) 前掲注(1)参照。

(4)

は 「公表後50年」 から 「公表後70年」 に延長すると規定された (54条1項)。 その際, 改正法施行時点である平成16年1月1日に著作権が消滅している場合, 改正法の適用はないという経過措置規定 (附則2条) が置かれた。 そこで, 改 正前の著作権法上, 平成15年12月31日に保護期間が満了することが予定されて いた 「昭和28年に団体の著作名義をもって公表された独創性を有する映画の著 作物」 について (12) , 現に改正前の著作権法による著作権が存するとして改正後の 著作権法が適用されるのか, それとも, 著作権は消滅していて改正後の著作権 法は適用されないのかということが問題になった。 この点, 本最高裁は, 同附 則2条の解釈に触れた上で, 先の映画の著作物は, 同改正法による保護期間の 延長の対象となるものではなく, その著作権は平成15年12月31日 (同改正法の 施行日は平成16年1月1日) の終了をもって存続期間が満了し消滅したという べきであると判示した。 この判断については既に多くの論考で批評されている (13) (本稿はこの点には触れない)。

2. 事実の概要と判示内容

2.1 事実の概要 本件は, 映画 「シェーン」 (以下, 本件映画) の著作権者である米国法人 X1 (原告, 控訴人, 上告人) が, 本件映画を収録したマスターフィルムを製造し 販売する Y1 (被告, 被控訴人, 被上告人) と, これを基に本件映画を複製し た DVD 商品を製造し販売する Y2 (被告, 被控訴人, 被上告人) に対し, 本件 映画の複製権および頒布権の侵害を理由に, 上記マスターフィルムと DVD 商 品のそれぞれの販売等の差止めおよび廃棄を求め, 我が国における本件映画の 判 例 研 究 (12) 我が国の旧著作権法 (明治32年法律第39号) は, 団体の著作名義をもって公表された 独創性を有する映画の著作物の保護期間を, 公表 (発行又は興行) 後33年としていたが (同法22条の3, 6条, 52条2項), 著作権法 (昭和45年法律第48号) による旧著作権法の 全部改正により, 上記のような映画の著作物の保護期間は公表後50年に改正された (54条 1項)。 これにより, 昭和28年に公表された上記映画の著作物の保護期間が, 平成15年12 月31日に満了 (予定) となった。 (13) 宮坂昌利 「判批」 ジュリスト1358号 (2008年6月) 162−163頁, 辰巳直彦 「判批」 判 例評論596号 (判時2011号) 193−206頁, 作花文雄 「 シェーン 事件最高裁判決の残した 課題」 コピライト47 (562号) (2008年2月) 40−48頁等。

(5)

独占的利用権を有する X2 (原告, 控訴人, 上告人) については, Y1, Y2 に対 し, 上記利用権の侵害を理由に, 不法行為に基づく損害賠償を求めたという事 案である。 第一審 (14) ・第二審 (15) は, 本件映画の著作権は, 平成15年12月31日が満了した時点 で消滅していると判断し, X1, X2 の請求にはいずれも理由がないとして棄却 したため, X1, X2 は上告受理の申し立てを行った。 2.2 判旨 最高裁は, 原審の上記判断は正当として是認することができるとし (但し, 論旨は採用することができないとしている), 上告を棄却した。 以下の判旨は, 本件映画は我が国の著作権法で保護されるということ, およ び, その保護期間は同国法によって決定されるということについて言及した箇 所である。 「本件映画は, アメリカ合衆国法人である上告人 X1 を著作者とし, その 著作名義をもって, 1953年 (昭和28年) に同国において最初に公表された ものであるが, 我が国及びアメリカ合衆国は, 文学的及び美術的著作物の 保護に関するベルヌ条約に加盟しているため, 本件映画は, 同条約3条 及び著作権法6条3号の規定により我が国の著作権法による保護を受け, その保護期間については我が国の法令に従うこととなる (同条約7条本 文 (16) )」 なお, X・Y らは, 本件映画の保護期間に日本法を適用することについて最 初から争っておらず, 下級審はこれに関する判断を示していない。 著 作 物 の 保 護 期 間 の 準 拠 法 (14) 東京地判平成18年10月6日民集61巻9号3500頁。 (15) 知財高判平成19年3月29日民集61巻9号3536頁, 判時1990号122頁。 (16) 判時1995号123頁, 判タ1262号78頁。

(6)

3. 検

3.1 ベルヌ条約の適用と我が国の著作権法による保護:内国民待遇 まず, ベルヌ条約は, その1条において, 「この条約が適用される国は, 文 学的及び美術的著作物に関する著作者の権利の保護のための同盟を形成する」 と定めている。 我が国及び米国はベルヌ条約の加盟国であることから (17) , 共にベ ルヌ同盟の一員であると言えよう。 次に, この条約による保護を受けるためには, 同条約3, 4条に該当する著 作者であり, なおかつ, その者の著作物が同2条 (保護を受ける著作物に関す る規定) に準じていなければならない。 本件映画の著作者が X1 であることに争いはなく, その X1 はベルヌ同盟国 である米国の法人であることから, 判旨のとおり, X1 は同条約3条の 「いずれかの同盟国の国民である著作者」 に当たると解せよう (18) 。 また, 判決に は示されていないが, 同映画はベルヌ条約2条の 「文学的及び美術的著作物」 に該当する。 したがって, 本件映画は, ベルヌ条約で保護される著作者の著作 物であると言え, 同条約による保護が受けられよう。 この著作物の保護につい て, ベルヌ条約は内国民待遇の原則を採用していることから (同5条。 我が 国の著作権法6条3号は同規定の確認規定), 日本は, 著作物の保護につき, 他の同盟国の著作者 (X1) にも自国の著作者に与えている保護と同じものを 与えなければならず (19) , よって, 本件映画は, 判旨のとおり, 我が国の著作権法 による保護を受けるということになろう。 もっとも, このことが 「当該渉外的著作権関係の準拠法は日本法である」 と いう結論を必然的に導くということにはならない。 なぜなら, 内国民待遇と準 拠法決定の問題とは別個の問題であり, 内外人平等に準拠法を決定すれば内国 民待遇違反にはならないからである (20) 。 したがって, 本件映画の保護期間の準拠 判 例 研 究 (17) 1971年パリ改正条約は, 我が国では1975年4月24日に, 米国では1989年5月1日に発 効している。 (18) もっとも, ベルヌ条約中の 「著作者」 とは 「著作物を創作した自然人」 を意味すると いう見解もある (山口敦子 「著作権の原始的所有者を特定するための準拠法」 法と政治61 巻4号 (2011年1月) 210頁以下参照)。 (19) 斉藤博 著作権法 [第3版] (有斐閣, 2007年) 23頁参照。

(7)

法は, それに関する法選択規則に従って決定する必要があると言えよう (21) 。 本判決の場合, ベルヌ条約3条及び著作権法6条3号により, 本件映画 は我が国の著作権法による保護を受け, その保護期間については日本法が準拠 法になるとした後, 続けて, 著作物の保護期間に関する 「ベルヌ条約7条」 が記されている。 つまり, 本判決は, 本件映画が我が国で保護されるか否かを まずは確認し, その後, 同条同項を根拠に, 当該著作物の保護期間の準拠法を 決定したと見ることができるのではないだろうか。 もし, 既述のような内国民 待遇からではなく (22) , 同条同項を当該法選択規則として解釈・適用し, その結果, 日本法を準拠法としたというのであれば, 同判決は内国民待遇と準拠法決定を 区別していると評価し得ることから, このような判断は適切であったと言うこ とができよう。 ちなみに, 例えば, 本判決以前の東京地判平成10年3月20日 (23) , 本判決以後の 知財高判平成20年2月28日 (24) では, ベルヌ条約3条及び著作権法6条3号か ら, すなわち, 内国民待遇から直ちに日本法を準拠法とし, 著作物の保護期間 の問題に適用している。 これに対して, 東京地決平成18年7月11日 (25) では, 本稿 で検討している最高裁判決よりも, より明確な文言で, ベルヌ条約7条本文 著 作 物 の 保 護 期 間 の 準 拠 法 (20) 道垣内正人 「判批」 ジュリスト1395号 (2010年3月) 173頁。 (21) ベルヌ条約による保護の有無の判断や内国民待遇と準拠法決定の区別について, 東京 高判平成16年12月9日 (但し, 原判決を引用。 前掲注(7)①参照) は非常に明確に示して いるので, 以下に記しておきたい。 「我が国及び中国は, 文学的及び美術的著作物の保護 に関するベルヌ条約 (昭和50年条約第4号。 以下 「ベルヌ条約」 という。) の同盟国であ るところ, 本件詩は, 中国人である A が著作者であり, 中国において最初に発行された 著作物であるから, 中国を本国とし, 中国の法令の定めるところにより保護されるととも に (ベルヌ条約2条, 3条, 5条), 我が国においても, 我が国の著作権法によ る保護を受ける (著作権法6条3号, ベルヌ条約5条)。 そこで, 本件各請求がいずれ の国の法律を準拠法とするのかについて検討する」。 (22) ベルヌ条約等に規定されている内国民待遇の原則から抵触規定を導くという見解もあ るが, 我が国では有力に否定されている (金彦叔 知的財産権と国際私法 知的財産研究 叢書7 (信山社, 2006年) 57−59, 65−67頁が詳しい。 木棚・前掲注(3)244−245頁, 申 美穂 「国際的な知的財産侵害事件における抵触理論について (一)」 法学論叢第154巻第2 号 (2003年11月) 75頁参照)。 (23) LEX / DB 28032934. (24) 前掲注(7)③参照。 (25) 前掲注(7)②, 後掲注(39)参照。

(8)

に基づき日本法を準拠法とした上で, 同問題を規律している。 3.2 準拠法の決定 ベルヌ条約7条の法選択規則性に関して, そもそも, 同条約に法選択規則 は存在しないという見解もあるが (26) , 反対に, 存在するという見解もある (27) 。 例え ば, 本稿1. で述べた, ベルヌ条約の諸規定に保護国法の根拠を求めるという 保護国法説は, その規定を法選択規則と解している点で, 後者の見解に位置付 けられよう。 ベルヌ条約の法選択規則の有無については, とりわけ同条約5条後段を中 心に論じられている。 そこで, 以下では (1) 5条後段, (2) 7条の順 に検討する。 (1) ベルヌ条約5条後段 次の条文は, ベルヌ条約5条後段である。 「したがつて, 保護の範囲及び著作者の権利を保全するため著作者に保障 される救済の方法は, この条約の規定によるほか, 専ら, 保護が要求され る同盟国の法令の定めるところによる。」

“Consequently, apart from the provisions of this Convention, the extent of pro-tection, as well as the means of redress afforded to the author to protect his rights, shall be governed exclusively by the laws of the country where protec-tion is claimed.” ベルヌ条約 (とりわけ5条) に法選択規則が存在するという見解について は, 先述の保護国法説のほか, 法廷地法説がある。 判 例 研 究 (26) このことを歴史的観点から検討するものとして, 駒田泰土 「判批」 判時1962号198− 199頁。 See, Mireille van Eechoud, Choice of Law in Copyright and Related Rights : Alternative to the Lex Protectionis, Information Law Series-12 (Kluwer Law International, 2003), pp. 9293. なお, 後掲注(29)も参照されたい。

(9)

まず, 保護国法説は, 同項の 「保護が要求される同盟国の法令 (the laws of the country where protection is claimed)」 を 「その領域について保護が要求さ れる国の法 (the laws of the country for which protection is claimed)」 (保護国 法 (28) ) と読み替えた上で, この規定を, 著作権の成立及び効力又は少なくとも著 作権侵害については保護国法によるという内容の法選択規則として解する説で ある (29) 。 なお, 本説は, さらに, ベルヌ条約5条後段を自己完結的な抵触規定 であるとする説 (30) と, 同条約5条の内国民待遇の原則に抵触規定 (保護国法) が含まれているとし, その根拠を同5条後段の 「保護が要求される同盟国の 法令」 に求め, これを保護国法と解することで完全な抵触規定と解釈するとい う説 (31) に分けることもできる。 他方, 法廷地法説は, 本条の歴史的経緯等を加味し, 「保護が要求される同 盟国の法令」 を素直に 「法廷地国の実質法」 と読む説である (32) 。 我が国の裁判例には, 前述のとおり, 同条同項が法選択規則として適用され たと解される判決があるが (33) , 規定中の 「保護が要求される同盟国の法令」 の解 釈が明示されないまま, 我が国の法がそれにあたるとして同国実質法が適用さ れている。 つまり, 保護国 (利用行為地国・侵害行為地国) が我が国であった から同国法を適用したのか, あるいは, 法廷地国が我が国であったから同国法 著 作 物 の 保 護 期 間 の 準 拠 法 (28) 「保護国法」 は, 既述のとおり, 学説上は 「利用行為地法, 侵害行為地法」 と解釈さ れるのが一般的であるとされる (前掲注(2)参照)。 (29) 駒田・前掲注(26)198頁。 同書では, この説を今日の通説と位置付けている。 但し, 駒田准教授は, ベルヌ条約5条後段を 「著作者の権利の成否, 存続及び内容に関する問 題から, 侵害に対する法的救済, 制裁及び司法手続に関する問題まで, ひとまず法廷地同 盟国の国際私法を含む全法秩序に送致し, 当該国が適切にこれらの問題を解決することを 要求するものと解する」 という説 (以下, 法廷地国際私法説) を主張している (駒田泰土 「ベルヌ条約と著作者の権利に関する国際私法上の原則」 国際法外交雑誌第98巻第4号 (1999年10月) 58, 62頁)。 本説は, 上述の 「ベルヌ条約に法選択規則は存在しないという 見解」 に分類されよう。 (30) 道垣内・前掲注(20)173−174頁。

(31) Eugen Ulmer, Intellectual Property Rights and the Conflict of Laws, (Kluwer, 1978), pp. 9 10. 本説に対する批判として, 木棚・前掲注(3)228, 386頁等以下参照。

(32) この説については, 駒田・前掲注(29)51頁, 金・前掲注(22)60−61頁で紹介されてい る。 また, 本条の歴史的経緯から見ると, これは法廷地法と解さざるを得ないとも言われ ている (木棚・前掲注(3)110−111, 386頁参照)。

(10)

を適用したのかは不明であるため, 判例がいずれの立場に立つかは未だ明らか でないと言えよう。 (2) ベルヌ条約7条 この5条後段の 「保護が要求される同盟国の法令」 という文言は, ベルヌ 条約の他の規定, すなわち, 6条の2, 7条, 10条の2, 14条の2号にもある (34) 。 これらの規定も法選択規則と解釈しうるのかという議論は, 5条に関する議論と比べると十分にはなされていないように思われるが (35) , 本 稿1. で述べたように, 我が国の裁判例には, 著作者人格権に関する6条の や著作物の保護期間に関する7条を法選択規則として適用したものがある。 考察中の最高裁判決も, 既述のとおり, 後者に含まれる一例である。 以下は, その7条である。 「いずれの場合にも, 保護期間は, 保護が要求される同盟国の法令の定め るところによる。 ただし, その国の法令に別段の定めがない限り, 保護期 間は, 著作物の本国において定められる保護期間を超えることはない。」 “In any case, the term shall be governed by the legislation of the country where protection is claimed ; however, unless the legislation of that country otherwise provides, the term shall not exceed the term fixed in the country of origin of the work.”

同条同項本文は, 5条後段の 「保護の範囲……は保護が要求される同盟国 の法令の定めるところによる」 という一般原則の確認規定であり (36) , 同項但書は, 判 例 研 究 (34) ちなみに, 追求権について定めるベルヌ条約14条の3項の日本語訳には 「保護が要 求される同盟国の法令 (が認める範囲内でのみ)」 という語があるが, 本条の原文では “to the extent permitted by the country where this protection is claimed” とし, 「法令」 に 該当する語がない。

(35) 道垣内教授は, 5条以外の規定についても見解を示している。 道垣内・前掲注(20) 174頁以下参照。

(36) See, Mihaly Ficsor, Guide to the Copyright and related Rights Treaties Administered by WIPO and Glossary of Copyright and Related Rights Terms (WIPO, 2004), p. 52. 日本語訳版

(11)

5条の内国民待遇に対する例外, すなわち, 相互主義について定めた規定で あると言われている (37) 。 そして, この規定によると, 著作物の本国ではないベル ヌ同盟国では (38) , 保護国の法に別段の定めがない限り, 保護国法の適用結果 (す なわち, 保護期間) と本国法の適用結果を比較し, 短い方がその著作物の保護 期間になる。 ところで, 最高裁は, 判旨のとおり, 「その保護期間については我が国の法 令に従うこととなる (同条約7条本文)」 と判示していることから, 法選択 規則としてこの規定に依拠したのであれば, 同項本文の 「保護が要求される同 盟国の法令」 を 「我が国の法令」 と解したと推測することができよう (39) 。 しかし ながら, 本判決も従来の裁判例と同様, 「保護が要求される同盟国」 をどのよ うに解釈し, 何故それが 「我が国」 であるのかということについては明らかに していない。 また, 本事案の場合, この文言を 「その領域について保護が要求 される国 (利用行為地国)」 もしくは 「法廷地国」 のいずれに解したとしても, それは日本国を指すと考えられることから, この観点から上記文言の解釈を推 測することも難しいであろう (40) 。 したがって, 著作物の保護期間の準拠法を法選 択規則に依拠して決定するという姿勢は適切であったと思われるが, 7条を そのように解釈する以上は, これまでの判決と同様, 「保護が要求される同盟 国の法令」 の解釈を明らかにした上で適用する必要があったのではないかと思 考する。 ちなみに, 著作物の最低限の保護期間に関する規定の一つである7条は, 著 作 物 の 保 護 期 間 の 準 拠 法 では, ミハイリ・フィチョール著, 大山幸房, 山本薫, 大楽光江他訳 WIPO が管理する 著作権及び隣接権諸条約の解説並びに著作権及び隣接権用語解説 (著作権情報センター (CRIC), 2007年) 60頁参照。 (37) 半田正夫 著作権法概説 [第13版] (法学書院, 2007年) 46−47頁参照。 (38) ベルヌ条約5条前段に 「著作物の本国における保護は, その国の法令の定めるとこ ろによる」 との規定がある。 (39) ちなみに, 東京地決平成18年7月11日 (前掲注(7)②参照) では, 「本件映画の保護 期間については, ベルヌ条約7条本文により, 保護が要求される同盟国 である我が 国の法律が適用される」 としており, 考察中の最高裁判決よりも明確に示されている。 (40) 本最高裁判決は, 本件映画の保護期間を検討するにあたり, 直ちに我が国の著作権法 を適用しており, 同国国際私法には触れていないことから, 法廷地国際私法説 (前掲注 (29)参照) には立っていないと考えられよう (道垣内・前掲注(20)174頁参照)。

(12)

この条約によって許与される保護期間を著作者の死後50年までとするが, 同条 により, 同盟国は, これよりも長い保護期間を許与する権能を有する。 つま り, 著作権は著作者の死後50年まで存続するという内容で, ベルヌ同盟が統一 されているわけではなく, 実際, それよりも長い保護期間を定める同盟国もあ る (41) 。 (3) 私見 本稿筆者は, ベルヌ条約の 「保護が要求される同盟国の法令」 という文言を 有する諸規定を, 保護国法を準拠法とする自己完結的な法選択規則と解すると いう立場 (保護国法説) を支持したい (42) 。 確かに, 同条約は, 国際的に著作物の保護水準を引き上げることを目的とし た統一私法条約であって, ベルヌ同盟国を国際私法で統一することを目的とし て創設された条約ではない。 また, 本説による場合, 条文中の文言の読みかえ をしなければならず, その点の指摘もあり得よう。 しかしながら, ベルヌ条約5条後段の 「保護の範囲」 や7条本文の 「保 護期間」 といった法律関係, すなわち, 著作権の存在, 範囲, 有効性, 存続期 間等の問題 (以下, 「著作権自体の問題」) については, 保護国法を準拠法とす ることに一般的なコンセンサスがあると言われている (43) 。 例えば, その妥当性に 判 例 研 究 (41) 例えば, 著作物の保護期間を著作者の死後70年とする欧州指令 (Directive 93 / 98 / EEC of 29 October 1993 harmonising the term of protection of copyright and certain related rights, codified version : Directive 2006 / 116 / EC of the European Parliament and of the Council of 12 December 2006 on the term of protection of copyright and certain related rights) があ る。 斉藤・前掲注(19)287頁参照。 (42) 3.2 (1) で述べたように, 保護国法説にはもう一つの考え方, すなわち, 同条約5 条の内国民待遇の原則に抵触規定が含まれているとし, その根拠を同5条後段の 「保 護が要求される同盟国の法令」 に求め, これを保護国法と解することで完全な抵触規定と 解釈するという説もある。 しかし, 内国民待遇の原則は外人法上の原則であり, その外人 法とは 「民商法と同じ実質法の平面にあるものであって, 内外私法の適用範囲を定めるこ とを目的とする抵触法とは全くその性質を異にする」 ものであることから (山田鐐一 国 際私法 [第3版] (有斐閣, 2004年) 177頁), 内国民待遇の原則から抵触法を導き出し得 ないのではないかと思考する。 内国民待遇の原則から準拠法 (保護国法) を見出せないと いう考え方は, 我が国においては有力な立場であるとされており (前掲注(22)参照), 本 稿筆者もこの見解に異論はない。

(13)

関して, 「著作権の存在, 範囲, 存続期間に関して, 各国は, 経済効率の観点 からだけでなく, 言論の自由や知識・文化の発展のほか, その地の利益の観点 からも, 創作者の (経済的及び人格的) 利益と情報商品・情報サービスの最上 の生産と普及といった公共の利益間のバランスをとり, それを知的財産法は強 く反映している。 その知的財産法が保護する対象 (subject-matter) の性質を 考慮すると, 著作権及び著作隣接権法は, 例えば有体財産法よりも, 公共の利 益的側面が強いと言いうるかもしれない。 そういうわけで, 存在, 範囲, 存続 期間の問題は保護国法 (lex protectionis) が規律すべきである」 という見解が ある (44) 。 また, 現在, 知的財産関係に関する国際私法の立法提案ないし国際私法 原則が幾つかの研究グループから公表されているが, それらにおいても, この 問題の準拠法については保護国法が提案されている (45) 。 これに対して, 法廷地法は著作権に限らず, 法廷地漁りや法律回避の点から 否定されており (46) , 本法律関係においても適切でないと思われる。 したがって, 著作権自体の問題について, 実質法上の統一が為されていない という状況において, 当該法律問題の準拠法として保護国法の妥当性を言うこ とができ, なおかつ, その準拠法が一般的に承認されているのであれば, その 問題を適用の対象とするベルヌ条約5条後段および7条本文を法選択規則 著 作 物 の 保 護 期 間 の 準 拠 法 (43) 駒田泰土 「職務著作の準拠法」 知的財産法政策学研究第5号 (2005年1月) 29−30頁。 高杉・前掲注(2)同頁参照。 また, 「知的財産権の成立, 効力, 消滅などについては, 保 護国法, つまり, その国の領域について保護が求められている国の法によることは広く認 められている」 と言われている (木棚・前掲注(3)453頁)。

(44) van Eechoud, supra note 26, p. 210 and pp. 177178.

(45) すなわち, 特定領域研究 「日本法の透明化」 産業財産権・著作権・国際民事訴訟法研 究グループによる立法提案 (河野俊行編 知的財産権渉外民事訴訟 (弘文堂, 2010年)), 早稲田大学グローバル COE《企業法制と法創造》総合研究所の国際取引法と知財法制グ ループによる 「知的財産権に関する国際私法原則 (日韓共同提案) 2010年10月14日版」 (「企業と法創造 特集・金融制度改革 」 (第7巻3号) (商事法務, 2011年1月)), アメ リ カ 法 律 協 会 に よ る 国 際 私 法 原 則 (The American Law Institute, Intellectual Property : Principles Governing Jurisdiction, Choice of Law, and Judgments in Transnational Disputes, (American Law Institute Publishers, 2008)), 欧州マックス・プランク・グループの国際私 法原則 (European Max Planck Group on Conflicts of Laws in Intellectual Property,” Principles for Conflict of Laws in Intellectual Property : The Draft”〈http : // www.cl-ip.eu / 〉(opened Sep. 28, 2010)) においてである。 詳しくは, 山口・前掲注(18)238−239頁を参照されたい。 (46) 駒田・前掲注(29)55頁, 道垣内・前掲注(20)173頁。

(14)

と解し, その準拠法は保護国法と解釈するというのも, 方法としてありうるの ではないだろうか。 勿論, このような解釈によるのではなく, ベルヌ条約を改正するという方途 も考えられるが, これには全会一致の賛成が必要なため (47) , 164の加盟国 (48) を有す る現在においては, それは非常に難しく, 現に1886年の条約創設から約20年毎 になされてきた改正も, 今では1971年のパリ改正が最新という状況である。 ち なみに, 2002年に発効された 「著作権に関する世界知的所有権機関条約 (WCT)」 も, ベルヌ条約20条の定める特別の取極めであって, ベルヌ条約の 改正条約ではない。 したがって, ベルヌ条約の諸規定を上記のように解釈すれば, 条約を改正す ることなく, ベルヌ同盟国内の国際私法を国際的に統一することができるとい うことになろう。 また, ベルヌ同盟国以外の 「知的所有権の貿易関係の側面に 関する協定 (TRIPs 協定)」 もしくは WCT に加盟している国々も, ベルヌ (パリ改正) 条約1条から21条及び付属書の規定の遵守が求められており (49) , す なわち, 世界の大半の国々が潜在的に, ベルヌ条約の主たる規定を適用する必 要性を有していることから, 上記解釈によれば, このことも相俟って, 国際私 法上の正義の一つとされる判決の国際的調和をより広く達成することができる のではないかと思われる。 そして, ベルヌ条約の諸規定に対する上記解釈と同 条約の本来の立法趣旨との関係については, 「実体法統一条約である同条約 【ベルヌ条約:本稿筆者注】により法統一が達成されなかった点を少なくとも 準拠法決定ルールを置くことで補い, 法秩序を安定させようとしていると解す るのが合理的であり, 条約の趣旨と整合的であると考えられる (50) 」 という道垣内 教授の見解に賛同したい。 最後に, ベルヌ条約7条を保護国法説に依拠して本事案に適用すると, 本 件映画の利用行為がなされたのは我が国であるから, 保護国法は日本法となろ 判 例 研 究 (47) ベルヌ条約27条。

(48) 2011年9月11日現在。 World Intellectual Property Organization〈http : // www.wipo.int / treaties / en / ShowResults.jsp?lang=en&treaty_id=15〉(opened Sep. 11, 2011).

(49) TRIPs 協定9条1項本文, WCT1条4項及び3条。 但し, TRIPs 協定の場合, ベル ヌ条約6条の2の著作者人格権については保護の義務を負わない (同協定同条同項但書)。 (50) 道垣内・前掲注(20)174頁。

(15)

う。 したがって, 本判決が日本法を準拠法としたことについては異論がない。 3.3 著作物の保護期間と著作権侵害の関係 ところで, 本事案では, X1, X2 が Y1, Y2 による著作権侵害を主張し, そ れに基づき差止め及び廃棄, 損害賠償を求めたが, 最高裁は, 当該著作権は著 作物の保護期間の満了時に消滅したと判断したため, これらの請求については 検討していない。 著作権に基づく差止請求については, ベルヌ条約5条後段により (51) , 著作権 侵害に基づく損害賠償請求については, 不法行為と法性決定して (事件当時の) 法例11条1項により準拠法を決定した判決があるが (52) , 本判決では, 著作権侵害 の前提となる 「著作権が消滅しているか否か」 という問題について (53) , 同条約5 条後段や我が国の不法行為に関する法選択規則ではなく, 同条約7条本文 を適用した。 すなわち, 本判決は, 著作物の保護期間の問題は著作権侵害の一 部ではなく, 異なる単位法律関係に含まれる問題として位置付けたのであろう。 著作物の保護期間の問題は, 本事案のように著作権侵害の成立の前提にもな るが, 著作権侵害が生じなくとも成り立ちうる問題でもある (54) 。 したがって, こ れを別の問題として位置付けた最高裁の判断は適切であったと思われる。

4. お わ り に

本稿で考察した最高裁判決は, 米国法人を著作者とする本件映画が我が国で 保護されるか否かをまずは確認し, その後, ベルヌ条約7条を根拠に, 当該 著 作 物 の 保 護 期 間 の 準 拠 法 (51) 本稿1. 参照。 これには, 例えば前掲注(7)①②③④⑤がある。 (52) これには, 例えば前掲注(7)①②④⑤がある。 (53) 国際私法上, 問題となっている法律関係に先だつ法律関係があり, その先の法律関係 が有効に成立していなければ, 後の法律関係が成立しないという場合がある (溜池良夫 国際私法講義 [第3版] (有斐閣, 2005年) 227頁)。 本事案もこれに該当し, この文脈 において, 著作権侵害は本問題, 著作物の保護期間が先決問題ということになろう。 (54) 「先決問題であっても, 異なる単位法律関係に含まれる問題であれば, その問題が独 立に登場してくる場合と同じく, 別の問題として準拠法を定めることを明らかにした最判 平成12・1・27民集54巻1号1頁を持ち出すまでもなく, 著作者の特定や保護期間の問題 は侵害事件が起きなくても存在する問題であり, 侵害問題とは別の問題である」 と言われ ている (道垣内・前掲注(20)173頁)。

(16)

著作物の保護期間の準拠法を決定したものと思われる。 このことから, 内国民 待遇と準拠法決定を区別し, 後者については, ベルヌ条約の同条同項を著作物 の保護期間に関する法選択規則として適用したと解せよう。 その場合, 同項の 「保護が要求される同盟国の法令」 を保護国法あるいは法廷地法のいずれに解 するのかということについて明らかにする必要があったが, これまでの下級審 判決と同様, それが為されなかった。 この点に関しては不満が残るものの, 準 拠法を日本法としたことについては妥当であったと思われる。 この他, 著作物 の保護期間の問題と著作権侵害を別個の問題と位置付けた点も, 適切であった と思考する。 したがって, 本判決を概ね支持したい。 判 例 研 究

参照

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